【解説】在日米軍再編関係予算の問題点について
●日米政府は06年5月1日、日米安全保障協議委員会(2+2)を開催し、「再編実施のための日米のロードマップ」を発表しました。この文書は在日米軍再編の「最終取りまとめ」で、個々の基地別に具体的な再編・強化の内容が書かれています。
●在日米軍再編は、07年度から実施されます。日本政府は07年度予算案に、初年度分の米軍再編関連予算として72億円を盛り込みました。また予算の支出根拠として米軍再編関連法案を、今国会に提出します。
●米軍再編関係予算には、様々な問題点があります。ここでは、その問題点を指摘します。
(※)ドル―円は全て、1ドル=115円で計算
問題点1 3兆円? それ以上! 不明な総額
■内容
在日米軍再編に関係する費用は、大きく3つに分けることができます。
@在沖縄海兵隊のグアムへの移転費用
A基地周辺自治体への再編交付金
B基地建設・部隊移転・訓練移転の費用
@は、日本が7000億円を支払うことで米国と合意しました。Aは、総額1000億円を10年間で支出する方針です。Bについては、政府は明確な金額を示していません。
■問題点
@とAについては支出の総額が示されていますが、Bについては07年度予算分が示されているだけです。米国のローレンス国防副次官は、米軍再編に関連する日本の負担総額を「3兆円」としました。また防衛省の守屋事務次官も、グアム移転を除いた費用は2兆円といっています。しかし日本政府はこうした発言を否定しています.
Bの中には、普天間基地に代わる新基地の建設費用、キャンプ座間への陸軍司令部移転に関連する費用、空母艦載機部隊の厚木基地から岩国基地への移転に関連する費用、返還された基地を更地に戻す費用など建設・土木関連の多額の費用が含まれています。また、戦闘機の訓練移転に関する費用も毎年支払われます。このうち07年度予算には、各事業の調査費が計上されているだけです。
普天間基地の名護移設費用だけで1兆円といわれていることを考えれば、@ABの総額は、3兆円を超えるかもしれません。これほどの事業が、総額も示されないまま開始されることには、大きな問題があります。
■資料
米軍再編関連費用
●米側発言 :総額約3兆円(260億ドル)1ドル=115円
ローレンス米国防副次官が06年4月25日の国防省会見で表明
●日本側発言:総額約2.7兆円
守屋防衛次官は06年4月24日、米軍再編費用はグアム移転費を除き2兆円と表明
グアム移転費は約7000億円
問題点2 日本のお金でグアムに基地建設
■内容
日米政府は沖縄に駐留する海兵隊員約8000名と家族9000名を、2014年までにグアムに移転させることで合意しました。米国政府は、移転にともなうグアムの新基地建設や家族住宅建設の費用を総額1兆1800億円(102.7億ドル)と算出しています。海兵隊のグアム移転は、沖縄の基地負担を軽減することが目的であることから、日本は59パーセントにあたる7000億円(60.9億ドル)を、支出することになりました。日本の支出項目は、3つに分かれています。
@司令部庁舎・教場・隊舎、学校など生活関連施設・・・3220億円(28.0億ドル)
A家族住宅 ・・・2930億円(25.5億ドル)
B基地内インフラ ・・・ 850億円( 7.4億ドル)
このうち@については、全額日本の予算で支払われます。ABについては、国際協力銀行(JBIC)の融資などで行われます。
ABについては、国際協力銀行が融資を行うことを可能にするための法律改正が、米軍再編関連法案に盛り込まれます。しかし@については、既存の防衛費の枠内で費用が支出されるので、新たな法律は作られません。
■問題点
グアムは米国の準州であり米国の一部です。米軍が米国内に建設する基地の費用を、日本が負担する必要があるでしょうか。日米安保条約や地位協定は、在日米軍への基地提供については定めています。しかし米国内の米軍にお金を払う条約や協定は、日米間に存在しません。
@については、全額を防衛予算から支出します。しかし新しい法律は作られません。これを前例として認めてしまえば、日本に駐留する米軍が本土に戻るたびに、日本の予算で米国内に基地を作らなければならなくなります。
Aの米軍家族住宅は、日本政府と民間で事業主体を作り、国際協力銀行の融資で、民間業者に発注することになります。日本政府は、家族住宅や基地内インフラは米軍から家賃や使用料を取るため、将来的には回収できると説明しています。国際協力銀行が米軍住宅建設に融資するには新しい法律が必要であり、米軍再編関連法案の一部として今国会に提出されます。しかし国際協力銀行の主な業務は発展途上国へのODAであり、世界1の大国である米国に融資をするのは問題があります。しかも融資の主体である国際協力銀行は行革の一環として、08年には国際金融等業務は政府系金融機関が統合される新機関の一部に、海外経済協力業務は国際協力機構に統合することとになっているのです。
米国は「グアム統合軍事開発計画」を発表しています。その内容はグアム島を、太平洋地域における空軍・海軍・海兵隊の一大拠点とするものです。米国には在日米軍再編の協議が始まる前から、沖縄の海兵隊をグアムに移転する計画があったのかもしれません。
■資料
グアム移転費 約7000億円(60.9億ドル)
●項目 司令部・兵舎・学校など 約3220億円(28.0億ドル)/財政支出
家族住宅 約2930億円(25.5億ドル)/国際協力銀行
基地内インフラ 約 850億円( 7.4億ドル)/融資
●総額は約1兆1800億円(102.7億ドル)。日本負担は59パーセント
問題点3 行政の公平を欠く再編交付金
■内容
政府は米軍再編に関係する自治体を対象にして、新たな「再編交付金」制度を作ります。10年間で総額1000億円の支出を予定しており、米軍再編関連法案に盛り込まれます。
再編交付金は、市町村の対応を@首長の受け入れ表明、A環境影響評価の実施、B着工、C部隊の移転――の4段階で判断して支出されます。
またこれまでの交付金が「箱モノ」が対象だったのにたいして、今回は講演会などのソフト事業にも使えるようになります。
■問題点
米軍基地の周辺自治体が「再編交付金」を要求するには、首長による米軍再編の受け入れ表明が必要です。再編に反対している自治体には交付されません。「再編交付金」は、米軍基地という「迷惑施設」の「迷惑料」です。同じ迷惑をうけながら、賛成か反対かによって交付金の交付が決まるのは、行政の公平を損なうものです。
★岩国市の新市庁舎建設問題
岩国市は、新市庁舎を建設しています。81億5000万円のうち49億円を政府の補助でまかなう予定で、既に2年間交付されています。
最終年度の07年度は35億円を見込んでいました。
政府から岩国市への補助は、SACO関係費が当てられていました。SACO(沖縄問題に関する日米特別行動委員会)は1996年、沖縄の基地負担軽減のため、普天間基地の返還や、海兵隊実弾砲撃演習の訓練移転などで合意しました。その中で、普天間基地のKC130空中給油機を岩国基地に移転することになり、岩国市も同意。その見返りとして、新市庁舎建設への補助金交付が決まったのです。
SACOで岩国基地へ移転とされたKC130空中給油機が、米軍再編で再度検討され、岩国基地移転を基本に鹿屋基地(鹿児島県)・グアムにローテーション展開へと変わりました。そこで政府は岩国市への補助金を、SACO関係費から米軍再編関係費に移したのです。岩国市は米軍再編による厚木基地からの空母艦載機移転に反対しています。政府は、移転を受け入れない限り、補助金交付は困難としているのです。岩国市が拒否をしても空母艦載機の移転は行われるのでしょう。移転が行われた後に、周辺自治体は交付金を受け取りながら、最も負担の大きい岩国市は交付金を受けられないということにもなりかねません。
★大分県・日出生台演習場の地元3自治体への補助金問題
日出生台演習場の地元3自治体は、SACO合意に基づく沖縄海兵隊の実弾砲撃演習の移転を受け入れました。その見返りとして、97年から06年までに総額36億の補助金を受けてきました。
実弾砲撃演習は本土5ヶ所の自衛隊演習場に移転されましたが、演習は年4回のため実施されない年があります。日出生台では02年に演習が行われませんでしたが、補助金は1億円が交付されていました。07年度も演習が実施されない年です。しかし地元3自治体は前例どおり、補助金は交付されると考えていました。ところが国は、07年度は補助金を払わないと通告してきました。
米海兵隊は昨年、実弾砲撃演習に加えて機関銃演習を実施する演習拡大を要求していきました。大分県と地元3自治体は、当初は反対していましたが、最終的には合意しました。合意の背景には、地域振興策としてのSACO関係補助金への期待もあったようです。国からは機関銃演習の要請に際して、07年度は補助金を払わないとの事前の通告はなかったようです。
■資料
再編交付金 約1000億円(10年間で支出)
問題点4 そもそも、米軍再編はどこで決めたのか
1.在日米軍再編は、日米安全保障協議委員会(2+2)で合意した、以下の3つの文書が基本になっています。
@「共同発表」 共通の戦略目標を定める(05年2月19日)
A「日米同盟:未来のための変革と再編」 日米の役割・任務・能力を定める(05年10月29日)
B「再編実施のためのロードマップ」 再編の具体的な実施計画を定める(06年5月1日)
3つの文書に書かれている内容は、対テロ戦争・弾道ミサイル防衛・大量破壊兵器拡散防止に日米が共同で取り組む、米軍は在日米軍基地や空港・港湾などの民間施設を自由に使用する、在日米軍基地と自衛隊基地を一体化して使用する、米軍と自衛隊が一体となって活動する――ということです。
2.歴代の自民党政府は現行憲法下で許される武力行使を、個別的自衛権に限定し、専守防衛を国是としてきました。しかし米軍再編の合意によって日本は、核攻撃を含む先制攻撃戦略(自国が攻撃を受ける前にこちらから攻撃する)をとる米国とともに、対テロ戦争や大量破壊兵器拡散防止の戦争に参加することになりました。
日米安保条約では、米軍が在日米軍基地を使用できる要件を、日本の防衛と極東の安全維持に限定してきました。しかし在日米軍再編によって、米軍は日本国内の基地から世界中へ出撃できるようになりました。
3.在日米軍再編は、日本国憲法・自衛隊法・日米安保条約を、大きく踏み越える内容を含んでいます。本来であれば憲法改正・自衛隊法改正・日米安保条約改正が必要です。しかしそうした内容を含む合意が、日米安全保障協議委員会に参加した4者(外務大臣・防衛庁長官、国務長官・国防長官)によって決められてしまい、国会での承認すら行われていません。
通常国会で審議される米軍再編関連法案に含まれているのは、グアムでの米軍家族住宅建設費用の支出制度と、関係自治体への新しい再編交付金制度の2つだけです。米軍再編関連予算に計上される項目もこの2つであり、国内での新基地建設でさえ特別な議論はされません。
4.国会では、再編関連法案や再編関連予算を審議する前に、米軍再編に関する日米合意の是非、日米安保条約や国内法との関係、米軍再編全体の予算が議論されるべきです。