2006年6月21日

陸上自衛隊のイラクからの撤退に関しての見解


フォーラム平和・人権・環境


 小泉内閣は6月20日に安全保障会議を開き、イラクに派遣している陸上自衛隊の撤退を決定しました。報道によれば、7月中には全部隊がイラクからクウェートに移動し、8月中には帰国するとの事です。
 小泉内閣は同時に、航空自衛隊は今後もイラクに留まり、これまでよりも拡大した地域で国連や多国籍軍を支援する輸送活動を継続することを発表しました。またテロ特措法に基づく、海上自衛隊の補給艦による米軍艦船への燃料補給活動は、現在も続いています。
 
 平和フォーラムは市民団体と協力し、03年3月20日の開戦から今日まで、米国のイラク戦争・占領反対、日本の戦争・占領協力反対、自衛隊の即時撤退を求めて、集会やデモ、国会や政府への要請などに取り組んできました。自衛隊が戦闘に参加せず、イラク人を殺傷することも自衛隊員が犠牲者になることもなかったのは幸いであり、それは日本政府に対して圧力をかけ続けた私たちの平和運動の成果であると確信します。
 しかし陸上自衛隊の撤退が平和運動の力ではなく、政府主導で実施されたことで、イラク派遣が「成功例」となり、今後も自衛隊が米国の求めに応じて世界中に派遣される可能性があることを危惧します。平和フォーラムは航空自衛隊と海上自衛隊の撤退を求め、新たな海外派兵を許さないために、今後も取り組みを強めていきます。

 小泉首相は記者会見で、「私は国連の決議に基づいて、このイラクに対して行った様々な措置、正しかったと思っています」と語りました。米国の先制攻撃によるイラク侵攻が、国連憲章や国際法に違反していたことは明確です。また米国が開戦の理由とした、イラクによる大量破壊兵器や弾道ミサイルの保持は、米国の情報機関が捏造したものであることも明らかになりました。
 捏造した情報による国際法違反の戦争が正しいはずはなく、それを支持した日本は責任を免れることはできません。平和フォーラムは、小泉首相が責任を取らないままに9月で退陣することを許さず、イラク戦争・占領への協力が間違いであったことを認め、イラク国民に謝罪することを求めます。

 小泉内閣は先の国会に、防衛庁設置法等改正案を提出しました。この法案は、防衛庁の「省」昇格と、海外派兵を自衛隊の本来任務にしようとするものです。与党内には、海外派兵の恒久法を制定しようという動きもあります。平和フォーラムは、自衛隊の海外派遣、自衛隊を米軍と一体化させる在日米軍再編、そのための国内法の改正に強く反対します。
 また日本政府に対して、憲法前文と第9条の理念を実現する外交を行うこと、そのためには対米追従・軍事協力を改め、平和的な国際貢献の道を進むことを求めます。


【解説資料】 米国のイラク戦争・占領と、自衛隊派兵の問題点

陸上自衛隊は何をしたのか

イラクに派遣された陸上自衛隊は、復興に当たる「イラク復興支援群(約500人)」と、多国籍軍やイラク政府との調整に当たる「イラク復興業務支援隊(約100人)」の2つの部隊から成っています。「イラク復興支援群」は第1次隊から第10次隊まで計約5,000人、「イラク復興業務支援隊」は第1次隊から第5次隊まで計約500人、総計で5,500人の隊員を派遣しました。陸上自衛隊の活動は主に、給水活動、医療支援活動、公共施設の復旧・整備活動の3つでした。防衛庁の発表では、給水活動は04年3月26日から05年2月4日まで実施し給水量は53,500トン、医療支援活動はムサンナー県内の4つの病院で実施、公共施設の復旧整備は131ヶ所で実施したとしています。

しかし陸上自衛隊の給水量は、日本のODA予算で活動するフランスNGO・アクテッドの給水量の3分の1以下でした。医療活動は日本が寄付した機材の説明や、医師・看護士への助言が中心で、自衛隊の医務官が直接イラク人を診察したわけではありません。公共施設の復旧整備も作業を行ったのはイラクの建設業者で、自衛隊の役割は作業状況の確認や、竣工・完成式典への出席などでした。給水事情が改善し乳幼児死亡が低下する、建設工事の発注によって雇用が創出される(防衛庁の発表によれば最大で1日1,100人)など、自衛隊の活動がイラク復興の助けになったことは確かです。しかしそれは「自衛隊でなければできない」ものではありませんでした。

防衛庁は「自衛隊でなければ行えない分野」として@自衛隊には自己完結能力があり、水道や電気が未整備な地域でも活動できる、A危険が伴う地域でも安全を確保しながら活動できる、B経験と実績がある――の3点をあげています。@の自己完結能力については、反対側から見れば自己完結できない場合は活動できないということです。陸上自衛隊員600人の任務別の人員数は公表されていませんが、給水、医療、復旧・整備に当たる隊員は120人程度、警備に従事する隊員は150人程度、他の300人以上は、米軍や現地機関との調整、宿営地の維持・管理に当たっていたようです。つまり120人の活動を480人で支えていたのです。Aの危険が伴う地域の活動については、そもそもイラク特措法は自衛隊の活動を「非戦闘地域」に限定しており、危険が伴う地域で活動すること自体が法律に反しているのです。Bの経験と実績について言えば、1970年代から活動している日本のNGOが多数存在する中で、自衛隊の経験と実績がNGOに勝っているとは考えられません。

憲法に違反した自衛隊派兵

小泉総理は米国のイラク侵攻に対して、いち早く支持を表明しました。また米国からの「show the flag」(旗を見せろ)、「2000boots on the ground」(2000足のブーツ=1000人の兵士を派遣しろ)と迫られ、8月1日にイラク特措法を成立させ、12月9日には自衛隊派遣の基本計画を閣議決定し、04年1月19日には陸上自衛隊の本隊がイラクに出発しました。

小泉総理は自衛隊の派遣が復興支援目的であること、派遣されるサマワが「非戦闘地域」であることを強調しました。結果的に、陸上自衛隊は戦闘行為には加担しませんでしたが、航空自衛隊の主な任務は米軍の軍需物資の輸送です。サマワはイラクの中では比較的に安定した地域でしたが、それでも自衛隊の駐留に反対する住民のデモが行われ、自衛隊の宿営地を狙って迫撃砲やロケット砲の攻撃、自衛隊の車両に対する爆弾攻撃も行われました。

また派遣当初自衛隊は、米国が主導する占領暫定当局(CPA)との間で派遣協定を結んでいましたが、イラク人暫定政府への主権移譲に伴い、自衛隊は米軍が指揮権を持つ多国籍軍に編入することになりました。日本政府はそれまで、戦闘行為を伴う多国籍軍への参加は集団的自衛権の行使にあたり憲法上禁じられているとしていましたが、その憲法解釈を大きく変更したのです。

イラク戦争・占領は国際法違反

私たちは米軍によるイラク戦争・占領と自衛隊の戦争協力を考えるに際して、この戦争と占領が、国際法に違反するものであることを忘れてはいけません。03年3月20日、米国は同盟軍とともに、イラク侵攻を開始しました。侵攻の理由は、イラクが大量破壊兵器や弾道ミサイルを保有しているということと、それが湾岸戦争(1991年)の停戦条件である国連決議687号の「大量破壊兵器の放棄」に違反しているということでした。

 国連憲章と国際法は自国への攻撃に対する自衛権の行使を除いて、全ての武力行使や武力による威嚇を禁じています。従って、イラクから攻撃を受けていないにもかかわらず、米国の先制攻撃で開始されたイラク侵攻は、明らかに国連憲章と国際法に違反しています。また大量破壊兵器に関しては、パウエル国務長官が04年9月13日の上院公聴会で、大量破壊兵器の備蓄は見つかっておらず、将来も見つかりそうにないと証言しています。ラムズフェルド国防長官も同年10月4日の講演で、フセイン元政権とアルカイダを関連付ける証拠はないこと、大量破壊兵器を発見していないことを認めました。米国は自国が主張した開戦理由は、米国の情報機関による捏造だったのです。

 また米軍は「テロリスト」の容疑をかけたイラク人をアブグレイブ刑務所に収容し、その中で拷問や虐待を行っていました。海兵隊員が昨年の11月、民間人20人を理由なく殺害したことも明らかになりました。

 国際法に違反したイラク侵攻、開戦理由の捏造、占領中の虐待・虐殺と、米国は数々の罪を犯しているのです。それにも関わらずブッシュ米大統領は6月15日、イラクやアフガニスタンでの戦費704億ドルを含む06会計年度補正予算にサインしました。16日には米下院が、イラク駐留米軍について「撤退時期の設定は米国の国益に反する」との決議案を賛成多数で採択しています。また対イラク支援を表明しながら実施していない国々に高官を送り、援助の「督促」に乗り出すことになりました。米国は今後もイラク占領し、占領抵抗勢力との戦いを継続するとしているのです。

これからの取り組み

陸上自衛隊の撤退は決定しましたが、航空自衛隊のC130輸送機部隊はイラクに残り、これまでよりも拡大した地域で、米軍支援の輸送活動を行うことになりました。テロ特措法に基づき、海上自衛隊の補給艦はアフリカ大陸東岸からインド洋までの広範な地域で、米軍艦船への燃料補給活動を続けています。国際法に違反する戦争・占領への加担を中止し、一刻も早く航空自衛隊と海上自衛隊の撤退を実現しなければなりません。

日米政府は在日米軍再編に合意しました。今後日本は、米軍の出撃基地として強化されます。また自衛隊と米軍の一体化もの進みます。小泉政府は国会に防衛庁設置法改正案や自衛隊法改正案を提出し、防衛庁の「省」昇格と、海外派兵の本来任務化を行おうとしています。与党の内部には海外派兵の恒久法を策定しようとする動きもあります。自衛隊を米軍の後方支援部隊とし、自衛隊の海外派兵を恒常化させようとする自公政権の動きに反対しなければなりません。

平和フォーラムは、米国の核攻撃を含む先制攻撃戦略と、それに追従する日本政府に強く反対します。日本の対米従属外交からの自立と、平和的な手段による国際社会への貢献を求めます。





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