【解説06】米軍によるファルージャ攻撃

 

米軍がファルージャを包囲攻撃
 米軍とイラク政府軍は10月末から11月中旬にかけ、イラク中部の都市ファルージャを攻撃しました。この攻撃には米軍1万5000人・イラク政府軍2000人が参加しました。昨年5月のブッシュ米大統領の戦闘終結宣言以来、最大規模の戦闘です。イラク暫定政府はこの攻撃で占領抵抗勢力側の1600人を殺害、1052人を拘束したと発表しています。
 イラク暫定政府は、「ファルージャには市民は残っていない」と主張していますが、CNNなどは人口30万人のうち5万人が市内に残っていると報道しています。米軍の攻撃による民間人の犠牲者数は不明です。これは赤新月社などの救援団体がファルージャに入ることを米軍が拒否しているため、市内の実情が分からないからです。

ファルージャとは?
 イラク戦争で米軍がフセイン政権を倒した直後、ファルージャにも米軍が進行してきました。ファルージャを守っていたイラク軍幹部と、町の宗教指導者は、「政権が倒れたのだから米軍には抵抗しない」ことを決め、米軍にもファルージャに進行しないことを求めました。ところが米軍はファルージャを占領し、町の小学校を接収して基地を置きました。
 ファルージャの人びとは小学校の解放と米軍の撤退を求めて平和的なデモ行進を行いましたが、このデモ行進に米軍が発砲し死傷者が発生しました。以来、ファルージャでは反米活動が活発になっていきます。
 今年3月、米軍に雇用された米国の警備会社「ブラック・ウォーター社」の社員4人(元米軍特殊部隊隊員)が、ファルージャで活動中に襲撃されて死亡、死体が橋につるされました。米軍は報復として、1ヶ月にわたってファルージャを包囲攻撃しました。この攻撃で700人以上の市民が犠牲になったと言われています。米軍が攻撃を続ける間、イラク各地でファルージャを救う闘争が発生しました。ファルージャは、米軍の占領に反対する「抵抗闘争のシンボル」の町となったのです。
 今回のファルージャ攻撃は、イスラム原理主義武装組織「アルカイダ」と関係がある、ザルカウイ氏の率いる武装グループが、ファルージャに潜入しているということが理由でした。しかし米軍の攻撃は、武装グループだけを選別して行うのではなく、ファルージャの町全体を、爆撃し、砲撃し、侵攻するというものでした

米軍によるファルージャ攻撃の経緯

10月
29日
米軍がファルージャを空爆。
31日
アラウィ首相が記者会見し、ファルージャでの大規模掃討作戦を示唆。また外国人武装勢力167人、旧バース党支持者2000人〜3000人を拘束したと発表。
11月
3日
米軍が武装勢力を攻撃。
4日
米軍航空機がファルージャを5回空爆。
5日
米軍は陸と空からファルージャを攻撃。
米軍はファルージャに通じる道路すべてを遮断。拡声器やビラを通じて女性・子ども・老人らに退避を呼びかける一方、町を出入りする45歳以下の男性は全員拘束。
6日
米軍がファルージャ北東部を20回以上爆撃。
7日
イラク暫定政府は、北部クルド人自治区を除く全土に、60日間の非常事態を宣言。
米軍は、ファルージャを完全に封鎖。
米軍は、市西部の2つの橋と病院を制圧。
8日
米軍はファルージャへの総攻撃を開始。4000人以上の米軍部隊がファルージャ北東部に進撃。アラウィ首相はファルージャとラマディに非常事態宣言し、夜間外出禁止令を発令、バグダッド国際空港を48時間閉鎖し、シリア・ヨルダンとの国境も閉鎖した。
9日
米軍6500人とイラク軍2000人が、ファルージャ北東部のアスカリ地区と北西部のジョラン地区に進撃。
米軍による発電所などへの空爆により、電気や水道などライフラインが切断。
米軍がファルージャ中心部に到達。
10日
赤十字国際委員会(ICRC)が、ファルージャからの避難民数千人に対して水・食料・医療品が不足し、退避場所確保も困難と訴える。
アラウィ首相の親族3人が誘拐される。
11日
米軍はファルージャへの空爆を継続する一方、南部への砲撃を行う。
海兵隊の少佐は「今回の総攻撃は(作戦開始から)108時間で市内全域を制圧する」と述べる。
米軍は、市南部に向けて本格的な進撃を開始。
13日
イラク暫定政府は、バグダッド国際空港の閉鎖措置を無期限に延長。
暫定政府ダウード国務相が会見し、武装勢力1000人を殺害、2000人を拘束し、制圧作戦はほぼ終了と伝える。
イラク赤新月社が、ファルージャで救援活動を開始。餓死する住民も出ていると伝える。
14日
アラウィ首相がテレビインタビューで、「ファルージャ制圧は最終段階」と語る。
15日
米軍がファルージャに空爆と砲撃を行う。
米国NBCテレビが、「米海兵隊員が無抵抗のイラク人を、モスク内で射殺した」と報じる。
米海兵隊大佐、「同市を100%制圧」と電話会見で語る。通信社が伝えるファルージャの状況
榴弾砲による砲撃や攻撃機による爆撃の中で、ファルージャの市民はどうなったのでしょうか。朝日新聞や毎日新聞のホームページを検索すると、外国通信社電として、市民の様子を伝える以下のような情報が掲載されています。
●ファドリル・アルバドラニさん(ファルージャ中心部在住)
「何百発もの爆弾や砲弾がずっと爆発し続けている。市の北部は炎に包まれている。火と煙が見える。街は地獄のようになってしまった」。(AP通信)
●サミ・アルジュマイリさん(医師)
「13歳の子供が、私の手の中で息を引き取ったばかりだ」「市内ではいくつかの診療所が開いているだけで、医療品が足りない」(ロイター)
●アリ・アッバスさん(医師)
「何百もの遺体が街に横たわっているが、だれも手を出せない。水も食料も電気もなく治療もできない。助けを求めたい」(アルジャジーラ)
●ファディル・バドラニさん(ファルージャ在住イラク人記者)
「通りに転がる死体が増え続け、悪臭は耐え難い。人々は飢えに苦しんでいる。多くの負傷者は治療を受けられず、死につつある」(英BBC)
●ビラル・フセインさん(AP通信のイラク人カメラマン)
「町の至る所が破壊され、道には遺体が横たわっていた。市民は怖がって外へ出られず、血を流している人がいても、誰も助けなかった。薬も水も、電気も食料もなかった」「川を渡ろうとしていた5人家族が射殺されたのを見て、ぞっとした。この手で1人の男性を土手に埋めるのを手伝った」(AP通信)
また、戦闘終了に被害状況を調査するために市内に入った海兵隊の兵士は、以下のように語りました。
●米海兵隊のトッド・ボーワー軍曹
「なんてこった。とんでもない破壊だ」(AP通信)
宗教勢力が米軍に抗議
イラク国内で影響力を持つ宗教各派は、米軍のファルージャへ攻撃に対して、以下のように抗議しました。
●シーア派「サドル師派」スポークスマン
「ファルージャへの攻撃は全イラク国民に対する攻撃だ」と表明。イラク軍兵士に対して「占領軍を支援するな」と呼びかける。
●スンニ派「イラク・イスラム聖職者協会」
「米軍の攻撃に加わることはイスラムに反する」との宗教令を出す。
来年1月に実施予定の移行国民会議選挙のボイコットを呼びかける。
●スンニ派「イラク・イスラム党」
ファルージャ攻撃に抗議し暫定政権から一時離脱。
米軍によるファルージャ攻撃以降、占領抵抗勢力による米軍への攻撃も激化しています。
6日 サーマッラ:4件の自爆攻撃・警察署3か所を襲撃。
9日 ラマディ・モスル・バグダッド:占領抵抗勢力による米軍への攻撃。
11日 モスルで:警察署9カ所を襲撃を受ける。
ハウィジャ:抵抗勢力と米軍が衝突。米軍が同市を包囲し外出禁止令。
13日 モスル:武装勢力が蜂起して市南部と西部を支配。
バグダッド:武装勢力とイラク警察が衝突。
15日 バクバ:抵抗勢力と米軍が衝突。
16日 モスル:米軍とイラク政府軍が奪還。
19日 バクダッド:警察官を狙い自動車が爆発
サーマッラ:爆発事件
ティクリート:警察署襲撃
バグダッド:イラク治安部隊がモスクに突入し、信者らと銃撃
23日 米軍は、バグダッド南西のスンニ派地域一帯に約5000人の兵員を投入。
反米武装勢力に対する大規模な掃討作戦を開始。
米軍兵士がモスクで負傷者射殺
モスクに侵入した米軍兵士が、負傷者に銃を向けて「こいつ、死んだふりをしている」と言い射殺したニュース映像が、米NBCを通じて報道されました。
この負傷者は占領抵抗勢力に加わっていましたが、モスクに運ばれ治療を待っているところでした。武器を持たず無抵抗の負傷者を殺害することは、国際法に違反します。
またイスラム教では殺人は禁じられているモスクでの虐殺行為は、イスラム社会に大きな反発を生んでいます。

バグダッド南西部に5000人投入
 米軍は11月23日から、バグダッドの南西のスンニ派地域一帯に約5000人の兵員を投入し、大規模な掃討作戦を開始しました。
 大規模作戦は今月に入り中部ファルージャ、北部モスルに次いで3カ所目です。米軍はこの作戦で、バグダッド・首都西方・首都南方の3地域で活動する占領抵抗勢力の連絡網の寸断を目指しているとのことです。
 今後、米軍と占領抵抗勢力側は、本格的に全土化する可能性があります。



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