半田滋さん(東京新聞・編集委員)の講演(要旨)
テーマ:文民統制を軽視したソマリア沖派遣
●講演日時:2009年2月24日


(はじめに)
平和フォーラムは2月24日に憲政記念会館で、東京新聞・編集委員の半田滋さんを講師に招き、海上自衛隊のソマリア沖派遣についての学習会を開催しました。以下は、半田さんの講演内容の要旨を平和フォーラムの事務局でまとめたものです。文責は平和フォーラムにあります。


 昨年12月から、ふってわいたように、ソマリア沖派遣が出てきました。整理されていない問題点が、たくさん出ています。政府と自衛隊は、自衛隊法の中にある海上警備行動を運用して、海上自衛隊を派遣しようとしています。
 海上警備行動は、過去に2回発動されました。最初は1999年です。能登半島沖に北朝鮮の工作船2隻が出没し、海上保安庁の巡視船が出ましたが振り切られてしまいました。足の速い護衛艦でなければだめだということで、海上保安庁の代替措置として、海上警備行動が発令されました。
 2回目は2001年です。このときには沖縄の南方で、中国の原子力潜水艦が領海を侵犯しました。なぜわかったかといえば、米国の潜水艦が追跡していたからといわれています。日本の領海に入るところで米国から日本にバトンタッチされました。潜水艦の追跡は、海上保安庁ではできませんから、このときには最初から海上自衛隊の護衛艦、P3C哨戒機、ヘリコプターで追跡しました。
 2回ともに、海上保安庁に対処能力がないこと、また自衛隊法の精神に則り、日本近海で発生した日本の防衛にかかわる事態に対する措置として、海上警備行動が発令されたのです。
 今回は、遥か彼方のアフリカ沖合です。海上警備行動の発令には、非常に違和感があります。1月28日に浜田防衛大臣が海上警備行動のための準備命令と準備指示を出しましたが、その際には「緊急措置として」といっています。本来であれば海上警備行動ではなく、根拠法がしっかりできた中で活動するべきであろうということは、防衛大臣にも、防衛省の中にも共通認識としてあるのです。
 ではなぜ、海上警備行動が発令されてしまうのか。自衛隊法には海上警備行動の対象地域としては「海上」としか書かれていません。「日本近海」という但し書きはありません。「海上」であれば、理屈の上では世界中どこでも行けてしまうのです。だから違法ではない。しかし、自衛隊法の海上警備行動は、海賊対策を想定した法律ではありません。妥当ではないということは指摘できるでしょう。

 自衛隊が初めて海外に出て行ったのは、湾岸戦争後の1991年、ペルシャ湾地域の機雷の掃海です。海上自衛隊の掃海艇が派遣されました。自衛隊法の中にある、「機雷等の除去」を根拠にしていました。このときの派遣理由は、大きいものとしては米国からの要請があったこと。もう一つは、日本船舶の航行の安全上必要であるということです。それが大義名分として掲げられました。自衛隊法の「機雷等の除去」の対象地域も、「海上」としかありません。地理的概念が含まれていないことが、抜け道になったのです。
 それから18年経ちました。18年ぶりに今回、自衛隊法だけを根拠に部隊が海外に行くことになったのです。
 1991年の掃海艇派遣では、「自衛隊法を根拠に海外に行っていいのか」、「自衛隊の活用には慎重になるべきではないか」という声が、与党の中にもありました。
 1992年には、自衛隊がカンボジアPKOに参加するため、国連平和協力法が制定されました。以降の自衛隊の海外活動は、PKO法または国際緊急援助隊法に基づく派遣です。21世紀に入ってからは、2001年にテロ特措法が、2003年にはイラク特措法が成立して派遣されています。両方とも時限立法です。
 いずれにしろ、1992年のPKO法以降の海外派遣では、海外派遣のための法律を作り、その法律を根拠にしてきました。しかし今回の自海上警備行動による派遣で、過去の積み重ねがリセットされてしまいました。それは今回の特徴でしょう。

 海上警備行動による派遣が、何故だめなのか。自衛隊法は、日本防衛を目的にした法律であるということが理由のひとつです。また、文民統制のかかわりが緩いという問題があります。PKO法の場合には、どの部隊が、いつまで、どのような活動を行うのかなどを、実施計画として策定し閣議決定しなければなりません。またテロ特措法やイラク特措法も、基本計画を閣議決定することになっています。どの法律にも、内閣の関与が定められています。また国会も関与します。法律によって異なりますが、活動が始まった時点での国会報告や、基本計画が策定された時点での国会承認を求めることになっています。法律の制定時に国会で議論が行われ、また実施計画なり基本計画が閣議決定された時点で国会報告や国会承認が必要です。国会は2度関与するのです。
 しかし海上警備行動の場合は、内閣総理大臣の承認を受けて、防衛大臣が発動することになっています。2人の大臣のYESがあればいいのです。内閣法によって、総理の承認には閣議決定が必要ですが、国会の関与はありません。国会の関与が限りなく薄いのが、今回の特徴です。
 派遣時期に関して、浜田防衛大臣の発言が変わってきました。これまでは3月上旬といっていましたが、いまは3月上旬から中旬と後ろに伸ばしています。おそらく、3月10日ぐらいに派遣命令がでるのでしょう。基本計画や実施計画を作る義務はありませんが、作るかもしれません。ただ、基本計画や実施計画が作られなくても、派遣命令の命令書には、どの部隊がいつから派遣されるのかは書かれるでしょう。命令では、誰に対して、何をやらせるのかははっきりさせますから。それは公開されると思います。
 問題は、「いつまで」という区切りがないことです。海上警備行動の性質上、行動の終了する日を見通せないのです。極端なことを言えば、年内に終わるかもしれないし、5年、10年かかるのかもしれません。糸に切れた凧のように、自衛隊を海外に放してしまうのです。

 なぜこのような状況が生まれたのでしょうか。昨年10月に国会で、民主党の議員が麻生総理に対して、「護衛艦の護衛があれば民間の船舶は安全ではないか」と質問しました。それに対して総理が、「大変建設的な意見であり検討したい」と回答します。検討指示が防衛省におりましたが、当時も海上警備行動しか想定することができずに、検討作業は進みませんでした。
 ところが12月に入って、中国が海賊対策としてフリゲート艦2隻と補給艦1隻を派遣すると発表しました。そうすると、外務省の目の色が変わりました。「中国に後れをとるな」と考えたのでしょうか。途端にざわつき始めて、麻生総理は防衛省に、「検討を促進するよう」に指示します。そのために、海上自衛隊は出ざるを得なくなったのです。
 また、これはあまり表になっていませんが、米国が海賊対策に本腰を入れ始めたことがあります。ブッシュ政権からオバマ政権に代わることが確実になっていた昨年12月16日に、米国が国連安保理に決議1851を提案します。12月2日に採択された決議1846では、各国の軍隊が海賊制圧のためにソマリア領海に進入すること、領海内であらゆる措置をとることを認めています。米国が提案した1851は、1846を12か月間延長すると共に、海賊制圧のためにあらゆる必要な措置をとることができるとするものです。これは、領海の中だけではなく、地上での海賊対処を可能にしたものです。地上戦も可能にする安保理決議が米国によって提出され、全会一致で採択されました。
 『ブラックホーク・ダウン』という映画をご存知の方もいると思いますが、米国は1992年にソマリアの内戦に介入して、ヘリコプターが撃墜され、18人の兵士が虐殺され、70人以上の兵士が負傷し、その結果として米国が地域紛争に介入することは好ましくないというトラウマになりました。その後に、アフガニスタンやイラクがあるのですが、米国にとってはソマリアへの介入は消極的でした。それが、国連決議1851によって、米国の考えが変わったことが世界に知らされます。特に、対米追従を続ける日本にとっては、米国の方向転換は無視することができません。これが昨年の12月です。日本政府は海上自衛隊の派遣を決めるにあてって、中国の動きも大きな要因ですが、それ以上に米国の積極関与があると思います。

 それでは現在、ソマリア沖では、どのような活動が行われているのでしょうか。米国はインド洋のアデン湾・ペルシャ湾の入り口・ソマリア南部の海域では、バーレーンに司令部がある第5艦隊の下に、CTF150という多国籍艦隊を置いて警戒に当たっています。海上自衛隊の補給艦が派遣されているのも、この海域です。米国はこの同じ海域に、今年の1月からCTF151という海賊対処に特化した部隊を新設しました。活動海域は同じですが、司令部も参加する国も異なります。CTF151の活動内容は、いまのところあまり明らかにされていません。
先日、与党調査団が現地調査に行った際にも、自民党の中谷議員などは疑問に思ったらしく米国に質問しています。米国の回答によると、米国海軍は海賊の逮捕権は持っていない、持っているのは沿岸警備隊、CTF150に参加している各国も同じ、どの国も警察権の執行として対処している、CTF150の任務はテロとの戦いであり海賊対策は役割が異なる、海賊対処には仕切りを変える必要がある――ということで、米国は同じ海域に2人の司令官と2つの部隊を置いたようです。
 EUは、ロンドン郊外のノースウッドという町にある対外作戦司令部に司令塔を置いて、昨年12月からアトランタ作戦を始めています。これは、WFP(世界食糧機構)がソマリアの難民に向けて食料を運ぶ船を護衛することが目的です。もうひとつ、ソマリアの対岸であるイエメン側に航路を作って、希望する商船は、その航路に集まってもらう。その上で、集まった船に関しては、EUの船が護衛するということです。船のほかにも、EUはP3C哨戒機なども派遣して、上空からの警護も行っています。
そのほかにも、ロシア・中国・マレーシア・インドなどが、多国籍軍には入らずに自国の船舶を護衛しています。

 では海上自衛隊はどうするのか。いまのところ派遣が決まっているのは、広島県呉基地に所属する護衛艦の「さざなみ」と「さみだれ」の2隻です。アトランタ作戦と同じように、船舶を集合させて、A地点からB地点までの護衛をすることが想定されています。補給基地については、ジブチを計画しています。またスペインがP3C哨戒機を派遣しているのですが、日本もP3C哨戒機の派遣を計画しています。ジブチの空軍基地に2〜3機のP3Cを派遣して、上空から情報を収集して各国に提供するという計画です。情報の共有は常に、「集団的自衛権の行使」との兼ね合いで問題になってきました。しかし内閣法制局は、一般的な情報提供であれば許されるとしています。米国もP3Cは出していません。ですから日本がP3Cを出せば、上空からの情報については日本が主導権を握ることができます。防衛省の中には、護衛艦の派遣よりも積極的にP3Cを出そうという意見もあります。どちらも、いずれは派遣されるのでしょう。そうすると、護衛艦が2隻、P3Cが2〜3機。あとになって振り返れば、どの国よりも多くの部隊を出すことになるかもしれません。

 ところで自衛隊の派遣に際して、武器使用がどのようになるのかが議論されています。新聞などでは、自衛隊は正当防衛と緊急避難しか武器が使えない、だから不自由であると論じられています。しかし、いままでの海外派遣でも自衛隊は同じルールで行ってきました。そこは、それほど問題ではないのです。むしろ問題は海外船籍の船の護衛です。自衛隊法を根拠にして派遣しますから、日本に関係したものしか守れません。日本船籍の船、日本人の船員、日本向けの物資を積んだ船舶など、日本というキーワードがないと守れないのです。近くにいる中国の船が襲われていても、助けることができない。しかし、それでいいのか、シーマン・シップに悖るのではないかという議論もあります。
 また、いままでは、相手が国や国に準じる組織、軍隊や軍隊に近いものに対して武器使用した場合は、憲法の禁じる武力行使に当たるとして禁止してきました。今回は、その部分が、比較的簡単にクリアーされています。それは海賊の定義があるからです。日本が批准している国連海洋法条約では、「海賊」とは私有の船舶または航空機の乗員が私的利益のために違法行為を働くことと定義されています。つまり、民間であることが前提になっています。ソマリアの海賊の実態がどうであれ、「海賊」という言葉を使えば相手は民間であり、国や国に準じるものにはなりえず、武器使用は武力行使に当たらないという議論がされています。それでは、「ソマリアの海賊とはなにか」ということが問われなければなりませんが、そのことに関する情報があまりにも少ないのです。
 ソマリアは、「アフリカの角」と呼ばれていて、アラビア半島に向かい合うように突き出た辺境の地です。植民地時代には西北部をフランスが、東北部をイギリスが、南部をイタリアが領有していました。肝心のソマリア人は、自分の国が住みにくくなり、エチオピアやジブチ、ケニアに逃げたり、または我慢してソマリアに住んだりして、ずっと抑圧されてきました。第2次世界大戦後には米ソの間で領有権の争いがあり、1991年からは内戦が激化します。そこにイスラム原理主義勢力が入り込んで、話を複雑にしています。今年1月にエチオピア軍が撤退し、その後に米国から「過激派」と認定されているアル・シャバブが、暫定政府が首都を制圧してしまいました。暫定政府は劣勢です。国土を誰が支配しているのかは、はっきりしません。

 ではこの海賊は何者か。一部の報道では漁民とされています。日本政府も漁民として片付けようとしています。でも、本当にそうなのでしょうか。海賊の出撃拠点は、東北部の海岸にあるプントランドです。そこは、暫定政府のユスフ大統領の地盤です。
漁民という割には、大型船を改造して長距離を移動しています。アデン湾の先、1,000キロくらいまで出ていきます。海賊船が獲物に近付くと大型船の観音開きのドアが開いて、そこから高速船が出ていく。高速船からRPG7というロケット砲や機関銃を撃って、船を乗っ取って人質にし、身代金を取っています。今現在、9隻の船が捕まっています。身代金を取るわけですから、抵抗しなければ攻撃しません。そうした本格的な海賊行為が、本当に漁民ができるのか。大型船は、トロール船を改造して工作船に改造したものです。高速船は、海上自衛隊の特別警備隊が保有しているような、特別な軍事用のものです。
 1999年から2000年まで、英国の民間軍事会社である「ハート・セキュリティー社」が、ソマリア暫定政府に対して海軍を作るための指導を行っていました。いま海賊が行っている行為は、この英国の軍事会社が指導した可能性があるのです。そうすると暫定政府と海賊に関係はないのか、そこがはっきりしません。はっきりしていませんが、海賊という言葉でひとくくりにして、海賊だから武力行使に当たらないというのです。


 昨年の2月に海上自衛隊のイージス艦「あたご」が、漁船の「清徳丸」と衝突しました。2人が死亡する重大な事故でした。その前から、海上自衛隊では不祥事が続いていました。インド洋補給活動での補給記録の取り違えや、イージス艦情報の漏えい、あるいは守屋次官の汚職事件です。その結果、防衛省改革会議が、防衛省の改革を打ち出しました。海上自衛隊も、内部の抜本対策会議を開いて、昨年12月に報告を出しました。その中で、任務は増えるのに、隊員の余力がない、人が足りないことを指摘しています。海上幕僚長は、船を減らしても定員を増やして、まともな組織にしなければならないといっています。任務と隊員とのバランスのとれた組織に変えていこうということです。そうした中で護衛艦を派遣しなければならないのが、今回の問題です。P3Cを2機から3機出すことになれば、200人ぐらいの地上要員を派遣しなければなりません。イラクとインド洋を足したくらいの、大規模な派遣になるのです。余力がないのに海外に人を出すには、どこかにしわ寄せが出ます。それは日本の防衛かもしれないし、現地での活動に失敗が出るかもしれない。そうした状態で行くことになるのです。
 一部の報道で、新テロ特措法に基づいてインド洋で活動を行っている補給艦から、海賊対策で派遣される護衛艦が、洋上で補給を受けるのではないかとされています。昨日、増田事務次官の定例会見がありました。増田次官も、自衛隊の補給艦は自衛隊の護衛艦に補給するために作られていると発言していました。やらせるつもりかもしれません。現在の補給新法(新テロ特措法)は、以前のテロ特措法とは異なり、洋上補給に特化した法律です。そのために国会承認もありません。文民統制の軽い法律です。
 そうした法律を使って、海上警備行動の護衛艦に補給をすること、同じ自衛隊だからいいではないかとの声もありますが、それでは以前に問題となった用途外補給、アフガニスタンではなく、イラク戦争に参加する米軍艦に補給した問題などの教訓が、まったく生かされていないことになります。なし崩し的に「まあいいか」、「同じ自衛隊だから」となっていく可能性もあります。また、インド洋に派遣している補給艦に、海上警備行動を発令する可能性もあります。しかし、そうなると予算区分が理屈に合わなくなります。インド洋の補給艦が保有している燃料は、補給新法に基づくものです。その燃料を海上警備行動の船に提供することは、会計法上はできない話です。そこをどのようにのりこえるのでしょうか。


 浜田大臣が派遣命令の発動を、3月中旬と先延ばしに表明しているのは、海賊新法の国会提出が遅くなるからでしょう。では、海上警備行動と海賊新法では、何が違ってくるのでしょうか。一番大きな違いは、「日本」という縛りがなくなることです。海賊新法が成立すれば、日本の船舶ではなくても、助けを求めている船に対しては、海上自衛隊が対処できるようになります。また海賊は民間組織だから、どのような対処を行ってもいいとなります。SOSを受信すれば、見たことも聞いたこともないような国の船でも、海上自衛隊が駆けつけて、軍事力を使って海賊を撃退することができるのです。
 助けを求めている船舶のもとに駆けつけて警護するということは、安倍総理のときに検討された「駆けつけ警護」が実現することになります。「駆けつけ警護」のパターンを、海賊新法の中で実現することになるのです。そうすると、やがて自衛隊派兵恒久法が提案されたときに、「駆けつけ警護はすでに行っている」としてクリアーされてしまう可能性があります。そこが1つの問題です。
 武器使用は、海上警備行動の範囲でも、場合によっては危害射撃も可能という武器使用基準を作っているようです。しかしそれは最後の手段で、基本的には警告射撃です。2月20日に呉沖で、海上保安庁と海上自衛隊の共同訓練が行われました。海賊役の船が商船に接近し、商船から海上自衛隊の護衛艦にSOSが送られる。すると、海賊船と商船の間に、護衛艦が割って入るという訓練です。同時に、哨戒ヘリコプターが海賊船の舳先に回りこんで、護衛艦とヘリコプターで海賊船を挟み撃ちにするのです。かなりインパクトがありました。弱気な海賊なら、逃げるかもしれません。しかし相手が撃ってくる可能性もあります。実際にNATO海軍も海賊からの反撃を受けています。銃撃戦になったら、危害射撃も行われるかもしれません。そのために特別警備隊も乗船することになっています。特別警備隊は、他の部隊に比べて狙撃の名手がそろっています。しかしそれでも海賊船が商船に接近して乗っ取られてしまった場合には、海上自衛隊は対処を終了します。いま9隻の船が人質になっていますが、どの国の海軍も、乗っ取られた後は対処していません。例外は、インド海軍が乗っ取られた船を撃沈してしまった例くらいです。
 あとは政府間の、あるいは船主と海賊との交渉です。商船が海賊船に乗っ取られ、その商船に対して海上自衛隊が発砲し、商船に被害が出た場合には、日本政府に損害賠償の責任が発生するかれです。

 海賊対策は、もともとは警察活動です。各国の軍艦も、沿岸警備隊の隊員を同乗させて、警察権を行使しています。本来であれば日本も、海上保安庁が派遣される案件です。しかし今回の問題で、海上保安庁の話はでてきません。
 日本と欧州や中東との交易船は、インドネシアの南側、マラッカ海峡を通ります。そのマラッカ海峡は海賊のメッカでした。2000年には262件の海賊が発生しています。この海賊に対処するために日本が中心になって、アジア海賊対策地域協定を作りました。2001年には海賊情報共有センターを設立し、海賊情報を加盟する国で共有し、それぞれが巡視艇を出したり、海賊を捕まえたりしました。その結果、昨年の海賊発生件数は、54件まで減少しています。日本の海上保安庁や各国の沿岸警備隊が協力して、マラッカ海峡では成果をあげたのです。
 そうした実績があるにもかかわらず、アデン湾では各国ともに軍隊を派遣して、日本もいきなり自衛隊です。話が三段飛びぐらい飛躍しています。その結果として、米国もCTF150と同じ海域に、CTF151を作ることになり、使い勝手が悪くなっています。

 海賊新法が3月に国会に上程されたとしても、今国会で成立すると考えている防衛省の職員はいません。そうすると、海上警備行動のままで、ずるずると派遣が長引くことになります。さらにP3Cも出て行きますから、海上警備行動という日本を守るべき自衛隊法の規定によって、大部隊が海外で活動するという、非常に不健全な形が生まれてしまいます。

 報道各社も、今回の問題については迷っています。「海賊対策はいいではないか」とシンプルに考えている社もあります。「海賊新法が間に合わなければ、海上警備行動でもいいではないか」という論調もあります。一方で、「自衛隊の海外派遣はそう簡単に行うべきではない」、「海上保安庁を活用するべき」という意見もあります。東京新聞は後者です。
 いま世論調査を行うと、海上警備行動の派遣に賛成の人が半分位います。新法が必要だという人も半分くらいです。そうすると海上自衛隊は、悩ましい立場で出て行くことになります。
 海賊は民間組織だというお墨付きを、日本政府が与えてしまいました。ですから自衛隊が海外で銃を撃つ可能性が、非常に高まりました。相手を死なせないまでも、船体射撃・威嚇射撃を行う。戦後守り続けてきた、海外では武器を使用しないという基準が、今回の派遣で終わりになると思うのです。
以上で、私からの話を終わりにします。


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