【フィリピン・ミンダナオからの報告】
オクタビオ・アビラニ・ディナンポさん(ミンダナオ州立大学政治学教授)
「ミンダナオとスールーにおける合衆国の介入」
1. アメリカにとっての重大関心事
1946年7月4日のフィリピンの独立後60年を経過して、ミンダナオとスールーに対して合衆国が再び重大な感心を寄せていることが顕著になってきた。旧宗主国のスペインは、現在のミンダナオとスールーを征服しようとしたが、モロ・スペイン戦争から3世紀以上にわたって失敗し続けた。それにもかかわらず、1898年12月にスペインは、アメリカに「フィリピン諸島」を売りつけた。この点で最近の合衆国の行動は、詐欺である。他方でその行動は、血にまみれてもいる。なぜなら、モロ民族が合衆国による強制的な統合に抗議してたたかっているからである。
当時も現在も、ミンダナオ問題は、モロ民族の持続的な抵抗という観点から理解され、歴史的不正義を正す意味を有している。いまアメリカは、これまでとはまったく異なる理由で戻ってきている。しかしモロ民族は、いまだに癒されていない過去の記憶にもとづいて、合衆国の復帰を捉えることであろう。バリカタン演習がどれだけ自分たちの利益になるかの説明を受けても、人びとはこの演習を合衆国の宝探しと石油探しではないかと疑って見ている。
2. 二度目の来訪
なぜアメリカがミンダナオとスールーに戻ってきたかに関しては、たくさんの説明があるが、前代未聞の9・11事件後に合衆国が推し進めた「対テロ戦争」を取り上げるのは、論理的な説明であると言えよう。特にミンダナオとスールーに関して言えば、1000人以上の合衆国の軍隊、エリート、宣伝グループが、ザンボアンガ市、バシラン州、スールー州に配置された。
合衆国の標的になっているアブ・サヤフ・グループは、アフガニスタンのロシア占領を挫折させるため、CIAが徴兵や財政を支援したグループの残党である。その関係はのちに悪化し、タリバンによる合衆国追放は9・11事件の原因となった。そして、現在の合衆国の「対テロ戦争」は、以前の同盟者を敵に変えている。合衆国は、証拠を示すことなく、アブ・サヤフ・グループをアルカイダとジェマ・イスラミヤに結びつけている。加えて、FBIが高額の報酬を投下することによって、アブ・サヤフ・グループの最高指導者が拘束されたり、死んだりしている。
3. 合衆国復帰による利益
合衆国は、フィリピン軍にトレーニングを施し、ミンダナオとタウスグの人びとに医療を提供するという人道的な気持ちから戻ってきたのではない。軍事演習と医療訓練は明らかに、合衆国の軍事行動をグローバルに実践するための代理軍を作り出す企図からなされている。フィリピン軍は、合衆国の軍資金を手にして、近代化を企てている。このことから、なぜフィリピン軍が米軍と一体となることの不利益を我慢しているのかを説明できる。たとえばスールーでは、インフラ建設に際しては、軍事基地とその他の前方展開戦力を支えるための、巨大な波止場、広い道路、給水施設、発電施設などを優先している。
さらに、スールーの合衆国基地では、その地域と東南アジア向けの合衆国の経済投資を保護することも、簡単にできる。こうして合衆国の多国籍企業UNOCALは、スールー諸島での石油探査を進めている。
4. 正義のための駐留
「バリカタン」と呼ばれる軍事演習に限定せずに米軍の動向を見てみよう。合衆国高官が「米軍は2002年以降も軍事行動をおこなうであろう」と語っていたことに、米軍の長期滞在の意思を確認できる。訪問協定では、駐留は一時的なものと規定されているにもかかわらず、米軍はアブ・サヤフ・グループをビンラディンのアルカイダと結びつけることで、協定を避けて、ミンダナオとスールーでの永続的な駐留に向けた軍事行動を加速させることができた。
こうして、90年代初頭の他の「脅威」と同じように、イスラムを悪魔にすることで、合衆国政府は、暗黙の合意でイスラム原理主義を新しい脅威として定めた。今日、そうした捏造は、モロ民族解放戦線、モロイスラム解放戦線、アブ・サヤフ・グループなど、あらゆる解放運動をテロ組織と名づけることによって成り立っている。
5. 実際の戦闘行動
もし正義のために駐留するならば、米軍は管轄領域を超えて、実際の戦闘行動に巻き込まれることになる。合衆国の特殊部隊が完全装備して、戦場でアブ・サヤフ・グループを追跡して捕えるとは、考えられない。それならば米軍駐留はファッションショーなのかといえば、決してそうではなく、ミンダナオとスールーでの合衆国の介入は、単なる演習行動から本格的な反乱掃討へと変わりつつある。
たとえば、2005年11月にモロ解放戦線とフィリピン軍との間で全面戦争が展開された。その時のパタ、パラング、マイムバング、サイアシでのインフラ整備は、当局は否定しているものの、米軍が実際に戦闘に参加したことを示している。2006年8月、アブ・サヤフ・グループの奇襲で米兵が負傷したことは、かれらが最前線にいることの何よりの証拠である。
6. アブ・サヤフ・グループ:抵抗、山賊、テロリスト?
今年はじめの調査で、私たちは、アブ・サヤフ・グループがモロ解放戦線の残党を獲得して、抵抗運動を始めていることを発見した。同グループは、山賊行為をするようになった。今なおその行為は、武器、物資、戦闘員の生活費のために、十分な資金を蓄えるという名目でなされている。アブ・サヤフ・グループの大衆的な支持基盤が衰弱したのは、この時であった。
アメリカの宣伝機関は、ミンダナオとスールーにおけるアブ・サヤフ・グループのネットワークの広がりを描きだすだけでなく、同グループとアルカイダの結びつきを強調することにも成功している。こうしてその機関は、アブ・サヤフ・グループ、アルカイダ、ジェマ・イスラミヤが存在している場所に米軍が駐留することを正当化している。
7. 結論
現在、米軍の介入は、ミンダナオとスールーの全土に及んでいる。米軍は訓練だけでなく、戦闘もしている。米軍はそこで正義のために駐留することが自らの利益になるから撤退しないのであって、決してアル・サヤフ・グループとジェマ・イスラミヤが存在しているからではない。
いま私たちを憂慮させるのは、中国、北朝鮮、その他の人びとのように、合衆国と権力争いをする者たちによる反発と報復の動きである。それはやってもいない犯罪の標的になっていることから生まれる感情である。他方で、私たちを元気づけてくれるのは、モロ民族が必死になってたたかっていることである。合衆国が戻ってきて、おそらく再びモロ民族を大量殺戮しようとするであろう。だがモロ民族は、もうどう猛ではない。そしてモロ民族は、生き抜いて、合衆国に昔の恨みをはらすことであろう。