2023年、運動方針

2023年04月28日

2023年度運動方針

はじめに

2022年2月にロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始し、世界中でロシアに対する非難と即時停戦の声が挙がりましたが、戦闘は激しさを増し、原発の軍事利用や核兵器使用の懸念が継続しており、犠牲者も増え続けています。ロシアの蛮行は明確に国連憲章、国際法違反であり、私たちは一貫して即時停戦を訴え続けてきました。戦争への制裁措置が様ざまな形で発動され、戦争そのものの影響と合わせて、エネルギーや食糧を中心にあらゆる物資の供給不足と、これに伴う価格の高騰が発生しました。ウクライナ戦争の勃発は、世界的な新型コロナウイルス感染症の流行から2年が経過したところで、多くの国や地域においてはコロナ禍からの回復によるインフレ基調にあたり、戦争開始から1年が経過した現在も経済の過熱や急激なインフレの進行、物価の上昇が生じています。日本でもこれらの影響を強く受けながら記録的な円安が進行し、物価の高騰、実質賃金の低下が続き、コロナ禍による疲弊も十分に回復していない中、市民の生活は苦しさを増しています。

このような情勢の中で岸田政権は、ウクライナ戦争および中国・朝鮮との安全保障上の緊張の高まりを理由に、改憲に向けた動きと安全保障政策の見直しを加速してきました。自民党をはじめとする改憲勢力は改憲議論の実績作りのために憲法審査会の開催を強行し、衆議院においては昨年の通常国会で16回、臨時国会では7回開催され、今国会においても定期的な開催が継続しています。議論は「改憲ありき」の稚拙かつ杜撰なもので、直接第9条や第24条に踏み込む事態にはいたっていませんが、改憲勢力は緊急事態条項などを皮切りに改憲発議をめざしており、この動きは今後も強まることが想定されます。改憲勢力が衆参において3分の2以上を占める中、改憲発議をさせないたたかいに全力を傾けていく必要があります。

昨年は中国との国交回復50年、朝鮮とのピョンヤン宣言20年の節目の年でしたが、岸田政権はこれらを平和・友好の機会とすることなく、アメリカ追従の外交に終始し、東アジアの安全保障上の緊張を緩和する努力を全くしないまま、九州から南西諸島を中心に自衛隊基地機能強化および米軍との連携強化を進め、軍事的緊張を高めています。昨年12月には敵基地攻撃能力や、今後5年間で43兆円を超える防衛費の確保をめざすとする安保3文書の改訂を閣議決定しました。専守防衛はないがしろにされ、財源として増税が検討され始めています。辺野古新基地建設の強行、重要土地調査規制法や経済安全保障推進法など憲法改正を伴うことなく実質的に戦争をできる体制整備が政権の独断で進められています。軍備、軍事費の拡大を止めるたたかいは私たちにとって喫緊かつ最重要の課題です。

昨年は核兵器禁止条約(TPNW)締約国会議、NPT(核拡散防止条約)再検討会議が開催されましたが、十分な成果を出せませんでした。被爆国であり憲法9条を有する日本政府のとるべき立場は明らかです。私たちは世界的な軍縮と安全保障の構築に向けた日本政府の積極的な外交を求めるとともに、世界各地の市民と連携した市民レベルのとりくみを強めていく必要があります。

昨年8月に岸田政権はGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を立ち上げ、ウクライナ戦争と気候変動危機への対応を理由に、原発への「依存度を低減する」政策から、最大限活用する方向へと政策転換を図りました。既存原発の運転期間の延長、原発の新設などが含まれており、原子力発電を将来にわたってベースロード電源と位置付けたものですが、廃棄物処理問題解決の見通しすらついていない中で、新政策のほとんどについて実現性がありません。福島第一原発事故が突き付けた多くの課題も何ら解決されておらず、GX実行会議の狙いは既存の老朽原発の再稼働および運転期間の延長であり、重要かつ喫緊の課題を将来へ先送りするためのものと言わざるを得ません。原発をめぐる国の基本政策は、私たちのくらしと安全および未来の環境にかかわる重要な課題です。安直な政策転換は断じて許されず、気候変動対策と合わせて、原発のない社会に向けたとりくみを強めていく必要があります。

2022年は憲法が定める国民主権、基本的人権の尊重についても多くの課題を残した年でした。安倍晋三元首相の殺害は、いかなる理由があろうとも暴力は絶対に許されませんが、これに続く岸田政権による国葬の強行や、政治と統一教会の癒着の露呈など様ざまな課題を生起しました。

統一教会の教義や思想は、自民党の改憲の考え方にも関連すること、その関係は長きにわたり、地方も含めて広がっていることが明らかにされてきました。ジェンダー平等や性的マイノリティーの権利確立、個人の尊厳と夫婦・家族の在り方、日本でともに暮らす外国人、移民、少数民族の方たちの人権尊重などを攻撃する勢力が政治的な権力と結びついてきた実態を私たちは強く非難し、これを許さないたたかいを強めていく必要があります。

岸田政権は、長きにわたり民主主義を破壊してきた安倍・菅政治と同様のものと断じざるを得ません。防衛政策やエネルギー政策の進め方は、アメリカ追従、与党内の権力構造優先であり、閣議決定で重要なことを決める手法は、国会軽視、国民軽視、政治の私物化以外の何物でもありません。「森・加計・桜」問題、安倍元首相や細田博之衆院議長の統一教会との癒着問題などは何ら説明がされず、閣僚や政権スタッフの不祥事や更迭が相次いでいます。このような状況の中で、私たちは戦争法の廃止と立憲主義の回復、憲法改悪を阻止するための多数派形成が求められています。そのためにも市民の共闘、市民と立憲野党の共闘を強める中で今春の統一自治体選挙において一人でも多くの立憲野党派議員を当選させることが極めて重要であり、またそのことが来るべき総選挙につながっていきます。立憲主義、民主主義を立て直すとりくみを進めていきましょう。

 

 

1.憲法理念を実現するとりくみ

 

(1)憲法理念の実現にむけて

日本国憲法は、前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」し、第9条で「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」を、第3章「基本的人権」や第10章「最高法規」で「基本的人権の本質、普遍性、永久不可侵性」を定めています。平和フォーラムの基本的立場は、これらに示された憲法理念の擁護と実現をめざすとともに、人権や民主主義の国際的なとりくみの到達点に立って、さらに発展させることです。平和フォーラムはこの間、東北アジアの平和に向けたとりくみや、人びとの生命の尊厳を最重視した「人間の安全保障」の具体化をめざしてきました。

しかし、安倍内閣による集団的自衛権行使容認と戦争法の制定により、日本は米国の思惑に追従し、防衛装備品の爆買いや特定秘密保護法や共謀罪法、重要土地調査法など軍事優先の法制度の創設、米軍との軍事演習強化を進め、日米統合軍構想へと軍拡と同盟強化の路線を歩み続けてきました。

武力及び軍事同盟に依存しない姿勢を日本政府は内外に示し、憲法前文と第9条が掲げている理念を実現していくことがなによりも重要です。

 

 

(2)岸田政権の暴走を許さないとりくみ

岸田政権は昨年9月、安倍元首相の国葬を強行しました。

私たちは、主権在民や思想・良心の自由を規定した日本国憲法の理念と、国葬は相容れないものであり、市民に対して弔意の表明を強要し、権力の意思への服従を強いるものだとし、国葬に反対する姿勢を明らかにしてきました。

岸田政権は、多くの市民の反対の声を無視し国葬の法的根拠もしっかり示すことなく、①憲政史上最長の政権だった、②外交が国際的に評価された、③海外から弔意が示されている、ことなどを理由に国会で議論することなく国葬を行いました。

また、12月16日には国の外交・防衛政策の基本方針である、「国家安全保障戦略」をはじめ、「国家防衛戦略」、「防衛力装備計画」のいわゆる安保3文書の改訂についても、同様に閣議決定のみで決定しました。

これまでの平和主義、専守防衛の在りかたを変える重要課題であるにも関わらず、国会での議論も避け、民主主義をないがしろにする政治手法は、安倍・菅政権となんら変わりなく容認することはできません。

加えて岸田政権は、「台湾有事」を名目に、南西諸島への自衛隊配備強化、軍事費GDP2%への増大を打ち出すなど、安倍・菅政権以上に改憲・軍拡路線を鮮明にしています。また、防衛予算を安易に増税により賄おうとする姿勢は、物価高への対応などに追われている国民感情から大きくかけ離れています。

軍拡に走り日本の安全保障政策を変容させるのではなく、まずは徹底した外交努力を行うべきであり、粘り強い対話を通して近隣諸国との関係改善をはかることが先決です。そのためにも私たちは、岸田政権に対峙し暴走を許さないとりくみの強化が求められています。

 

(3)憲法審査会をめぐる状況と改憲を許さないとりくみ

昨年の第210回臨時国会衆議院憲法審査会で自民・公明の政権与党に加え、日本維新の会・国民民主・有志の会が主張していた、緊急事態条項に関し、災害時などの国会議員の任期延長の必要性について衆議院の法制局作成による、論点整理メモが出されました。

今通常国会初となる衆議院憲法審査会が3月2日に開催され、木曜日を基本に定例開催されています。改憲勢力は、緊急事態条項に関し、災害時などの国会議員の任期延長の必要性について、国会機能の維持(立法機能、行政監視機能)のためとして、緊急時の国会議員の任期延長の憲法改正について、あたかも審査会として一定の整理が終わっているかのごとく進められています。

この間の審査会で、自民党は論点整理の議論の加速を訴え、日本維新の会・国民民主・有志の会においては、条文案作成を主張するなど、改憲ありきの拙速な議論が行われています。

参議院では、4月5日に今国会初めて憲法審査会が開かれました。衆議院憲法審査会での国会議員任期延長議論を踏まえ、緊急時に参議院が国会機能を代行する緊急集会をテーマに討議がされ、自民党など改憲政党は、緊急事態条項新設の必要性を主張、立憲民主党などは、憲法が緊急時の対応を緊急集会に委ねているとし、議員の任期を延長するための改憲に反対する姿勢を鮮明にしました。

参議院憲法審査会においても、定例的に開催するのかどうかが今日時点の攻防点となっています。改憲派政党・派が緊急事態条項にかかわる議論などをテコに、改憲発議に向けた具体的なステップをすすめようとしている状況があることから、衆参の憲法審査会の審議動向を注視する必要があります。

憲法とは、そもそも権力の濫用や暴走に歯止めをかけるものです。時の政権が憲法を都合の良いように解釈し、憲法の理念が生かされているのかの検証もすることなく、改憲議論を押しすすめる改憲勢力の姿勢は断じて容認することはできません。

平和フォーラムは、改憲発議阻止、軍拡反対を基本に立憲民主党をはじめ改憲・軍拡に反対する政党、国会議員、法律家団体などと連携しながら、衆参の憲法審査会の傍聴行動など必要な国会対策をはかることとします。

憲法審査会の議論経過や論点などをまとめた、「憲法審査会レポート」の作成を継続していきます。あわせて、情宣チラシ「どうかんがえる?敵基地攻撃・改憲」(1月下旬)、「どうかんがえる?自公政治と統一自治体選挙」(2月下旬)などを活用し、国会の審議動向や問題点を市民団体や労働組合を通じ広く発信し、改憲・軍拡を許さない機運を高めていきます。

また、岸田首相は、就任以来2024年9月末までの自民党総裁任期中に改憲をめざすと明言していることから、憲法審査会の動向に加え自民党内の動向にも注視する必要があります。

 

(4)広範な市民の結集に向けたとりくみ

2015年9月19日の戦争法強行採決以降、私たちは「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」(総がかり行動実行委員会)、 「9条改憲NO!全国市民アクション」(市民アクション) による全国的大衆行動を通じ、自公政権による改憲を許さない運動を推進してきました。とりわけ毎月19日の国会議員会館前での「月例行動(19日行動)」では、立憲野党、労働組合、市民団体、法学者などとともに、改憲を許さないという共通目標のもと、継続的な運動をすすめてきました。

そうした広範な市民と立憲野党との連携した大衆運動の積み重ねにより、安倍・菅政権のもとでの改憲を阻止してきました。私たちは、より広範な市民との連携をはかり国民世論を背景に「改憲・軍拡阻止」の機運をこれまで以上に高めていかなければなりません。

平和フォーラムは、昨年9月の①「安倍元首相国葬反対!改憲発議と大軍拡やめろ!さようなら戦争さようなら原発9.19大集会」、②「安倍元首相『国葬』反対!9・27国会正門前大行動」などに企画・準備段階から積極的に参画し、19日行動では「さようなら原発1000万人アクション」(さようなら原発)との共催とし、代々木公園に1万3000人もの参加者を得ました。

また、①「武力で平和はつくれない つなごう憲法をいかす未来へ11・3憲法大行動」、②「軍事費増やして生活壊すな!改憲反対!カルト癒着の政治をただせ11・30㏌日比谷野音行動」、③「安保関連3文書閣議決定反対12・15国会議員会館前緊急行動」を配置し、米国と一体となって中国、朝鮮、ロシアへの敵視政策をとり、軍事力強化を推進することは、憲法9条の理念を放棄することに繋がると訴えてきました。

1月16日には総がかり行動実行委員会が、「くらし・平和をこわす軍拡・改憲NO!全国連鎖学習会開始オンライン集会」を開催し、戦争する国に進ませない対話と外交の道を市民の運動でどう構築すべきかを、飯島滋明さん(名古屋学院大学/憲法学・平和学)の講演を通して探りました。そのうえで、「軍拡、改憲よりくらし、平和」を主テーマにブロック別行動を展開し、改憲・軍拡反対の草の根の運動をすすめてきました。各県の平和フォーラム加盟組織は、準備段階から主体的にこの行動に参画し、地域の実情を考慮した多種多様なとりくみを展開してきました。

私たちは、これまで全国的なネットワークを持つ「戦争をさせない1000人委員会」の運動をとおして、憲法破壊・人権破壊・生活破壊をすすめる安倍・菅政権と対決する多くの人びととのつながりを構築してきました。加えて、沖縄・辺野古新基地建設に反対するたたかいや、原発再稼働に反対し脱原発を求めるたたかいなど、さまざまなとりくみを各地の平和運動センターとも連携し進めてきました。引き続き、重層的な展開を推進しながら、全国各地での改憲阻止・軍拡反対の「声」をあげ続けなければなりません。

平和フォーラムは、5月3日に東京・有明防災公園で開催される「あらたな戦前にさせない!守ろう平和といのちとくらし2023憲法大集会」の成功をめざすとともに、改憲・軍拡阻止の機運を広く訴えるとりくみを進めます。

 

(5)護憲大会のとりくみ

3年ぶりに従来形式の形での開催となった「憲法理念の実現をめざす大会」(第59回護憲大会)は、昨年11月12~14日の日程で開催地愛媛のみなさんのご尽力もあり、開会総会、シンポジウム、分科会、ひろば、まとめ総会について終了することができました。

大会は、「憲法を 変えることより 活かすこと」をスローガンに、メイン企画については、「国交正常化50年 対話の扉を大きく開きアジアの緊張緩和と世界平和への貢献を!」をテーマにシンポジウムを行いました。また、分科会やひろばを通じ、①平和主義②主権在民③基本的人権の尊重、という日本国憲法のもつ平和理念を広く訴えました。とりわけ、憲法理念がますます軽視され、憲法改悪が現実的な動きになっていることから、「改憲発議阻止、軍備増強を許さない」たたかいを中心に据え、全国で運動の広がりと盛り上がりをつくっていくことの重要性を共有しました。

第60回を数える「憲法理念の実現をめざす大会」(護憲大会)については、11月11日から13日にかけて、新潟県・新潟市で開催を予定しています。今後、開催地との具体的な協議をすすめ、護憲大会実行委員会において、大会の骨子案をまとめていくことになっています。

 

【とりくみ】

① 「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「9条改憲NO!全国市民アクション」主催の共同行動にとりくむとともに、「戦争をさせない1000人委員会」独自の集会・行動、宣伝活動を展開します。

 

② 戦争法の廃止・憲法改悪の阻止のとりくみをすすめます。また「安保3文書」の閣議決定撤回を求めます。

 

③ 自民党をはじめとする改憲勢力に対抗するため、立憲フォーラムと協力し、院内外での学習会などを行います。中央での学習会開催に加え、ブロック段階での開催を奨励し協力します。

 

④ 機関紙「ニュースペーパー」はじめ、情宣チラシ「どうかんがえる?」シリーズを適宜発行し、情報の発信に努めます。あわせて引き続き、ホームページの活用を推進します。

 

⑤ 軍拡路線の流れを止めるための、安全保障のあり方や、アメリカや東アジア諸国との新たな友好関係を追求するための大衆的議論をまきおこすとりくみを引き続きすすめます。

 

⑥ 5月3日に開催される「あらたな戦前にさせない!守ろう平和といのちとくらし2023憲法大集会」をとおして、現行憲法の持つ平和理念を広くアピールします。あわせて、全国各地で開催される憲法集会のとりくみを推進します。

 

⑦ 衆参の憲法審査会の審議動向を注視するとともに、改憲勢力による改憲・軍拡の流れに警戒を強めます。そのための国会対策を立憲フォーラムと連携してすすめます。

 

⑧ 「憲法理念の実現をめざす第60回大会」(護憲大会)については、11月11~13日に新潟市で開催します。今後、具体的な準備を地元実行委員会、護憲大会実行委員会ですすめます。

 

⑨ 安保法制違憲訴訟を支える会と連携し、安保法制の違憲判決を求める諸行動にとりくみます。

 

 

2.日本の防衛政策に対するとりくみ

 

(1)日本を取り巻く安全保障環境

岸田政権は2022年12月16日、これまでの安全保障政策を大転換させる安保3文書(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」)を閣議決定しました。

安保3文書のうちの一つである「国家安全保障戦略」では、日本を取り巻く状況について「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」と述べ、「普遍的価値を共有しない一部の国家は、経済と科学技術を独自の手法で急速に発展させ、一部の分野では、学問の自由や市場経済原理を擁護してきた国家よりも優位に立つようになってきている」と、中国に対して一方的な評価を行っています。

日本にとって中国は主要貿易相手国であり、経済や文化交流を緊密にすべきです。にもかかわらず、トマホーク巡航ミサイルやオスプレイなどの兵器をアメリカから爆買いし、事実上先制攻撃を許容する方針まで示すなど、アメリカの対中国戦略を補完する役割を果たす軍事拡大路線に突き進むことは論外だと言わざるを得ません。

安保3文書で示された、軍事拡大と軍事費の増大など日本の防衛政策の大転換は、北東アジアに軍拡競争を引き起こしかねないばかりか、人びとの命とくらしにかかわる社会保障費の抑制、教育や子育て支援もおざなりになり、さらに貧困と格差が広がりかねない問題をはらみます。

 

(2)米軍と共に戦争をする体制を許さないとりくみ

ⅰ)敵基地攻撃能力の保有、事実上の先制攻撃を可能とすることを許さない

安保3文書は、「政策判断として敵基地攻撃能力の保有はしない」としてきた歴代政権の従来方針を大転換し、敵基地攻撃(反撃能力)の保有に踏み切りました。この日本の防衛政策の大転換をアメリカのバイデン大統領は「歴史的だ」と手放しで絶賛しています。

岸田首相は1月30日の衆議院予算委員会で、日本が侵攻を受ける「武力攻撃事態」だけでなく、アメリカなどの同盟国が武力攻撃を受けて集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」の場合であっても、「反撃能力」の発動は可能であるとしました

在日米軍が「矛」、日本は基地の提供と専守防衛という「盾」の役割分担であった日米同盟は、敵国に対して日本が「矛」となる日米同盟へと変質したのです。

 

ⅱ)今後の日米ガイドラインの改定を注視し、日米軍事一体強化に反対する

2015年に改定された「日米防衛協力指針」(日米ガイドライン)では、「周辺事態」、「後方地域支援」という限定された概念から、地理的な制約がなくなり米軍を後方支援することが了解されていましたが、今後の日米ガイドラインの改訂では、さらに踏み込んだ戦争協力が求められる危険性があります。

 

ⅲ)南西諸島を捨て石にするミサイル基地建設を許さない

アメリカ海兵隊は、対中国の軍事作戦で「遠征前進基地作戦」を採用し、機動性・即応力のある「海兵沿岸連隊」をあらたに沖縄に配備することにしています。中国の力の及ぶ領域に分散配置して、対艦攻撃・対空防御能力を確保するというものです。同盟国である日本は、この作戦の一端を担い、奄美大島、宮古、石垣島、与那国にミサイル部隊の配備を展開することにしていますが、射程1000kmにも及ぶ改良型12式地対艦誘導弾の開発・装備は、敵基地攻撃のための軍事基地にするとの疑念を抱かせるものです。

有事となれば、これら基地が攻撃の対象になることは明白です。アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所」が中国の台湾侵攻を想定した報告書では、日米そして中国双方で艦艇や航空機に甚大な損失があり、在日米軍基地も多大な被害が出ることを予想しています。米軍基地が集中する沖縄において、民間人の犠牲者が多数出ることを示しています。沖縄をはじめとする地域を捨て石にし、再び沖縄を戦場にするような日米軍事一体化の動きを許してはなりません。

 

ⅳ)軍事費の拡大と増税、民主主義をないがしろにする政治を許さない

2023年度政府予算が成立し、防衛費の当初予算は、6兆8219億円と2022年度当初予算から1兆4千億円増(2022年度当初予算5兆4005億円)、126%の大幅増となりました。また、軍事ローンである後年度負担(新規分と既定分の合計)は、10兆7174億円にものぼり、昨年度の5兆8千億円から大幅に増加させました。

2023年からの5年間で総額43兆円を超す額の確保を岸田政権はめざしています。その財源について、特別措置法を成立させ、税外収入や決算剰余金などからねん出した「防衛力強化資金」を創設し、年度ごとの防衛費に補てんするほか、法人税やたばこ税の増税、東日本大震災からの復興費を賄うための復興特別所得税の転用、さらに戦前の反省を踏まえて公共事業に使い道を限っていた建設国債を活用する方針を示しています防衛費を2027年度にはGDP比2%にするとしており、このままではアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国となってしまいます。

この間の諸物価高騰で、私たちのくらしは圧迫を受けており、とりわけ社会的弱者の生活はより困窮しています。市民のいのちとくらしを犠牲にしてまで押し進める軍事拡大は許せません。平和フォーラムは、今国会で審議される軍拡のための法案について、国会内の議論を注視し、議員と連携したとりくみをすすめていきます。

2014年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定、2015年9月の安保法制(戦争法)の強行採決、そして今回の安保3文書は、歴代の自民党政権が進めてきた専守防衛を柱とする日本の防衛政策を大転換させました。そして、これら重要な政策の転換を、強行採決、国会での議論すらない閣議決定という手段で決定したことは、「戦後民主主義」をもないがしろにする独断・専制政治と言わざるを得ません。

平和フォーラムは、沖縄平和運動センターに協力して、「復帰50年 講和70年 第45回5.15平和行進」(沖縄平和行進)にとりくみ、辺野古新基地建設をはじめとする米軍基地の機新設、機能強化反対のたたかいをすすめてきました。また、戦争をさせない1000人委員会と連携して、安保法制(戦争法)反対運動を契機として結成された総がかり行動実行委員会に参加・協力してきました。この間も、同実行委員会が開催した「大軍拡とめろ!官邸前月曜連続行動」(5月16、23、30日、6月6、13日)や「「復帰」50年 辺野古新基地建設を許さず 憲法が生きる沖縄と日本をin東京」(5月26日・日比谷野音)にとりくんできました。また、平和フォーラムの構成組織で1997年に結成した「全国基地問題ネットワーク」にオブザーバー団体から参加団体となり、たたかいの強化をすすめることになりました。そして、「第2回全国基地問題ネットワーク活動交流会」(6月10日・WEB)や第59回護憲大会での「ひろば」の企画にとりくんできました。

引き続き、戦争をさせない1000人委員会と連携し、全国基地問題ネットワークとともに反戦平和のとりくみを進め、九州・南西諸島をはじめ全国で拡大する日米の軍事強化に対抗する各都道府県組織のたたかいに協力していきます。

 

(3)市民社会の軍事化を許さないとりくみ

ⅰ)港湾・空港などの軍事利用を許さず、市民生活を守るとりくみを

安保3文書では、九州及び南西諸島での軍事強化を示し、「国民保護」を名目にして民間の空港や港湾施設など公共インフラの利用や軍事輸送強化のために民間船舶の利用拡大にも言及しています。さらに軍事物資の備蓄のため施設の整備強化も盛り込んだほか、火薬庫など兵站にかかわる施設の日米共同使用を行うとしています。宮古島で新設された自衛隊基地の火薬庫は、住民の集落(保良地域)と近接しており、住民生活を脅かす存在になっています。にもかかわらず防衛省は、運用上の理由をたてに、火薬取締法上の規定である火薬量などを明らかにすることはありません。沖縄市においても火薬庫の新設もあり、今後同様な課題が全国で展開する危険性があります。

 

ⅱ)海上保安庁を軍事機関にするな

また、自衛隊と海上保安庁との連携強化をめざし、有事で防衛相が海保を指揮下に置く「統制要領」やこれに基づく共同訓練を実施するとしています。これは、海上保安庁法25条で非軍事性を定めている警察機関としての海上保安庁を軍事機関へと変質させることになります。

 

ⅲ)米軍機等の飛行訓練に反対、環境汚染を許すな、日米地協定の抜本的改定を

日米同盟の変質により、さらに日米共同軍事演習や在日米軍等の訓練が増加してくることが考えられます。これまでにも、米軍機が市街地上空での空中給油や低空飛行など危険な飛行を繰り返しています。また、米軍の廃棄物(ダイオキシンを含むドラム缶など)が返還跡地で問題になった沖縄での事例、沖縄や東京、神奈川などの米軍基地周辺地域で有害な有機フッ素化合物(PFAS)が高濃度で検出される問題など、住民の生活に重大な影響を及ぼす環境にかかわる問題が後をたちません。しかし対策はおろか十分な調査すらできていない実態があります。日米安全保障条約に基づく日米地位協定の見直しが必要です。

 

ⅳ)秘密保護の強化と監視社会化に反対 日本が死の商人になることを許さない

軍事基地の新設・機能強化が進められている一方で、岸田政権は、基地に反対する運動などを規制、監視する「重要土地調査規制法」(土地等監視及び利用規制法)を成立させました。基地や原発など重要施設約1km内や国境等離島の住民を監視し、重要施設の機能を阻害する「おそれ」がある行為を規制、禁止させることができる法律となっています。

また、先端技術研究・開発を軍事研究・開発へと向かわせ、秘密の保護の強化と個人のプライバシー侵害を進める危険性をはらむ「経済安全保障推進法」は現代版の国家総動員法ともいえ、「軍事目的のための科学研究を行わない」とする声明を出していた日本学術会議に対する政府の介入などの動きと共に、今後の動向を注視していく必要があります。また、武器輸出を拡大する動きにも注意しなければいけません。

防衛省が、米軍や自衛隊の活動などを積極的に広報する方針が打ち出しおり、また人工知能(AI)を活用した世論操作を検討しているとの新聞報道もあったこともふまえ、平和フォーラムとして、反戦平和を訴えるとりくみの強化が求められます。

平和フォーラムは、自衛隊内のいじめ等人権にかかわる、護衛艦「たちかぜ」裁判や防衛大学校人権裁判など、都道府県運動組織とともに裁判支援にとりくんできました。こんにちも自衛隊内で、女性自衛官に対するセクハラやパワハラ、いじめを苦にした自殺などの問題があとをたちません。自衛隊の任務拡大のなかで増大していることから、これら問題に引き続き関心を寄せていきます。

平和フォーラムはこの間、重要土地調査規制について、リーフレット「とっても危険な 重要土地調査規制法」を発行し、パブリックコメントへの意見集中のよびかけを行ってきたほか、原発・原発施設立地県全国連絡会および全国基地問題ネットワークの共催で7月14日に、「重要土地調査規制法の学習会」(連合会館・WEB)で開催してきました。原水禁広島大会・ひろば(8月5日)においても、「原発や基地に反対する運動の現状と今後の課題」(広島市)で重要土地調査規制法の問題点について学習を重ねました。また日米地位協定にかかわる課題では、4月28日に、オスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会と共同して、米軍機の飛行問題にかんして外務省・防衛省に質問書を出し回答を求めたほか、「オスプレイの相次ぐ重大事故に係る声明」を6月20日付で発出、9月8日にはオスプレイの不具合の問題で防衛省への申入れ行動、9月29日付で「米軍機オスプレイの超低空飛行訓練を許さない」との声明を発出するなどとりくみを積み重ねてきました。また、「オスプレイはどの空も飛ぶな―オスプレイ政府交渉から見えてきたこと―」(10月下旬発行)などのパンフレット発行や、10月15日には、オスプレイはどの空も飛ぶな!政府交渉報告会(連合会10月15日、連合会館・WEB)で開催してきました。

これら2022年度に実施してきたとりくみを踏まえ、たたかい前進させるために、戦争をさせない1000人委員会、全国基地問題ネットワークとの連携を重視したとりくみをすすめていきます。

 

【とりくみ】

① 安保3文書に基づく軍事予算の増額、九州および南西諸島をはじめ全国で展開される日米軍事一体強化の動きに対して、各都道府県組織が行うとりくみ等の情報を全国で共有できるようにし、反対運動の強化に努めます。

  • 自衛隊と米軍等との共同軍事訓練の動きを監視し、情報発信します。
  • 情報が得られた各都道府県組織のとりくみをまとめ、運動すすめるための資料として活用できるようにします。

 

② 米軍基地や自衛隊基地の機能強化、日米軍事一体化に反対する各都道府県運動組織および全国基地問題ネットワークのとりくみを支援していきます。また「専守防衛」から逸脱する装備や技術開発の動きを監視、検証し、攻撃型兵器や技術の導入に反対するととともに、軍事研究や武器輸出の動向を注視していきます。

 

③ 日米安保条約に基づく日米地位協定や日米合同委員会にかかわる課題、とりわけ米軍機の飛行問題、基地由来の環境汚染や爆音問題について、全国基地問題ネットワークおよびオスプレイと低空飛行に反対する東日本連絡会と連携して、学習会、教宣用資料の発行、対政府要請行動にとりくみます。

 

④ 「重要土地等監視及び利用規制法」(重要土地調査規制法)や「経済安全保障推進法」および「特定秘密保護法」の適用拡大による市民生活や経済活動への影響について、原水禁や全国基地問題ネットワークと連携し、学習会、教宣用資料の発行を追及します。

 

⑤ 普天間基地の即時運用停止および辺野古新基地建設反対など、沖縄のたたかいにかかわる課題については、沖縄平和運動センターと連携してとりくみをすすめます。また、2023年5月12~14日に行われる「復帰51年 第46回 5.15平和行進」のとりくみに協力します。

 

⑥ 超党派の国会議員で構成されている沖縄等米軍基地問題議員懇談会の政府ヒアリング等の活動を注視していくとともに、政府要請の窓口として協力関係を保持していきます。

 

⑦ 憲法前文理念および憲法9条に反する集団的自衛権の行使の閣議決定、安保法制(戦争法)の撤回および廃止を求めるために、戦争をさせない1000人委員会とともに戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会のとりくみに協力していきます。

 

 

3.東アジアの非核・平和のとりくみ

 

(1)バイデン政権の対中政策と日本

2022年5月23日、初めて訪日したアメリカのバイデン大統領は岸田首相との首脳会談に臨み、台頭する中国への対抗姿勢を露わに台湾有事に際しては軍事介入も辞さないとの意思を表明しました。反発する中国に対して、アメリカ政府は「一つの中国を含めこれまでの政策に変更はない」と改めて表明しています。翌24日には、オーストラリアのアルバニーズ首相、インドのモディ首相、日本の岸田首相とバイデン大統領がそろって日米豪印(クアッド)首脳会談を行い、「力による一方的な現状変更をいかなる地域においても、とりわけインド太平洋地域で許してはならない」などとする共同宣言を発表し、対中国を強く意識した「自由で開かれたインド太平洋」への確固たる関与を確認しました。また、訪日中にバイデン大統領は、新たな経済圏構想である

「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)(参加国は、日・米・韓国・オーストラリア・インドなど13か国)の発足を宣言しました。アジア太平洋地域においては、アメリカが脱退したもののイギリスや中国などが加盟を要求している「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)や中国主導の「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)などの枠組みもあり、東アジア経済への影響は不透明なままです。中国は、一帯一路政策を展開しアフリカ諸国や南米諸国との関係強化を図ってきました。また、南シナ海を挟んで対立するかに見えたフィリピンとも経済連携を図るなど積極的な外交を進めています。米中対立は、世界各国・地域の対立や分岐を引き起こしています。

バイデン政権は、2022年10月、米国製のソフトや部品を使った先端半導体とその製造装置の輸出を制限し、米国人による技術協力も禁止するきびしい対中規制を決定しました。2023年1月27日には、中国への輸出規制に日本とオランダが合意したとの情報が流れ、1月31日には、バイデン大統領自身が半導体や人工知能(AI)、宇

宙、防衛などの分野でインドと戦略的パートナーシップ関係を強化することで合意したと述べています。中国の反発は必至で、米中対立は周辺諸国を巻き込んで深刻化しています。

一方で、2022年8月2日の、ナンシー・ペロシ米下院議長を中心とした米議員団による台湾訪問は、アメリカの中華人民共和国が中国を代表するという「一つの中国」政策を否定するものと捉えられ、中国は強く反発し、4日から7日にかけて台湾海峡を中心に大規模な軍事演習を開始し、台湾沖にミサイル11発を発射しました。そのうち5発は日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下しています。アメリカは、ペロシ訪台後の9月2日、11億ドルにのぼる台湾への武器売却を承認しています。台湾総督府は、「中国が軍事演習以降も、台湾海峡の平和と安定を揺さぶる中、これらの武器は台湾の防衛力を高めるに役立つ」と述べています。

2022年10月16日、5年に一度の中国共産党大会(第20回)が開催され、3期目の習近平体制が発足しました。習総書記は、大会中の政治報告で「台湾問題の解決は中国人自身のこと」「武力行使放棄の約束はしない」とのきびしい姿勢を示しました。ブリンケン米国務長官が「場合によっては武力行使するだろう」との見解を示すなど、習体制5年間の中で、台湾問題へは何らかの行動を取るとの憶測が流れ、先行きの不透明感はさらに深まっています。

平和フォーラムは、「一衣帯水の隣国」である中国とは、対話を基本としてその関係性の確保を重要と捉え、この間原水禁運動を中心に「中国人民平和軍縮協会」と交流を重ねてきました。中国共産党結成100周年や共産党大会へのメッセージ送付・式典への参加、軍縮協会が開催するオンライン集会への参加(2022年1月25日、2023年9月21日)などを通じて意見交換を行っています。

日本の農林水産業GDPは世界第9位で、世界第1位の農産物の純輸入国となっています。これに対し隣国中国は圧倒的な農林水産業GDP世界第1位であり、そのGDPは日本約16倍となっています。日本の食料自給率がカロリーベースで40%を切る中にあって、アメリカから約25%、中国から約16%という食料輸入率は、米中対立のなかで食料の安全保障という問題を突きつけています。

また、現在日本の貿易額において対中貿易は、輸出入ともにトップとなっていま

す。アメリカが発表している先端半導体技術の輸出制限は、輸出額の3割を中国とする日本企業にとってはきびしい選択であることは間違いありません。様ざまな重要品目を中国に依存する日本社会にとって、生活の安全保障という視点から現在の政治状況はきわめて問題の多いものとなっています。日米同盟の強化と、中国との対立という政治路線が、今後どのような状況を招くかをしっかりと検証しなくてはなりません。

アメリカのブリンケン国務長官は、2023年2月4日には、中国を訪問し秦剛外相などと会談を予定していましたが、アメリカ上空を飛行した目的不明の「中国の気球」問題で取りやめになりました。日本もこの間中国との首脳外交は途絶えたままで、日米ともに中国との外交関係の構築が求められています。

ウクライナ戦争勃発から1年を迎えての3月21日、習近平中国国家主席はロシアを訪問し、プーチンロシア大統領と公式の首脳会談を行いました。両首脳とも両国の協力関係を強調し中ロ連携の拡大を唱えています。中国政府は、米欧による対ロ制裁には反対を表明しつつ、ウクライナ問題に関しては、対話による解決を呼びかけ、プーチン大統領も入念に検討しているとしました。しかし、プーチンロシア大統領は、一方的に併合を宣言したウクライナ東部の4州について「交渉の対象とはしない」としており、ウクライナや米国との隔たりは大きいものと言えます。習近平主席のロシア訪問は、米国と対立しているという一致点における政治的プロパガンダであり、ウクライナ問題の解決にはなお時間がかかることが予想されます。

一方、岸田文雄首相は、訪問先のインドから3月21日、電撃的なウクライナキーウ訪問を行いました。5月19日から予定される広島でのG7サミット前に、G7各国首脳で唯一キーウ訪問を行っていなかったことから、今回の電撃訪問となっています。岸田首相は、ゼレンスキーウクライナ大統領と会談し、両国の関係強化と約40億円の装備品支援を約束しました。両国大統領によるロシア非難は、日本に対するロシアの反発を大きく呼び込むものと言えます。このような日本の姿勢は、欧米諸国と足並みをそろえることを約束するもので、日本・韓国と米国やNATO諸国、中国とロシアおよびイランや朝鮮など、そしてそれに与することを良しとしない諸国と、世界を3分割するような状況を生んでいます。平和フォーラムは、一般市民の犠牲者、両国兵士の犠牲が大きいことからウクライナ戦争を早期に停止・終わらせることを基本に、G7サミットにおいては、米中、米露の対立をこえて対話の方向性を議論しなくてはならないと考えま

す。

 

(2)バイデン政権の朝鮮半島政策と日本

2021年1月5日から12日に、5年ぶりに開催された朝鮮労働党大会では、キム・ジョンウン(金正恩)最高指導者は、総書記の立場を継承し指導体制を固めるとともに、米国が敵視政策を放棄しない限り対話に応じないとして、「自力更生」の経済政策と

「核戦力強化」の方針を確認しています。この方針は、2018年6月(シンガポール)、2019年2月(ハノイ)の2度の米朝首脳会談で成果を得ることができなかったことに起因するものと考えられます。

大会直後の1月20日に就任したバイデン米大統領は、発足当初は「キャリブレーテッド(調整された)・プラクティカル(現実的)・アプローチ」の対朝鮮政策を立案したとしていましたが、その後は消極的なアプローチに終始しました。自身が副大統領を務めたオバマ政権下の朝鮮政策であった「戦略的忍耐」と同様に、アメリカ側からのアプローチはなく、米朝関係は進展がありませんでした。

平和フォーラムは、朝鮮が対話への条件として、敵視政策の廃止と米韓合同軍事演習の中止を求めていることから、韓国の平和団体「コリア国際平和フォーラム」や

「韓国進歩連帯」等と協力して、2021年8月、2022年4月に、朝鮮半島での米国及び米軍の関与に反対し、米韓軍事演習の停止、朝鮮戦争終結と平和条約の締結を求め、地方フォーラム組織の協力も得ながら、米国大使館、領事館など5施設に米韓合同軍事演習を中止して米朝対話を進めるよう要請行動をとりくんできました。2022年は、7月末から8月上旬にかけても、各県平和センターの協力の下、国内14か所(米国及び韓国の大使館・領事館)に対してとりくみました。韓国内103か所、海外38か所で抗議のとりくみが行われたと報告されています。

ユン・ソギョル(尹錫悦)韓国大統領は、バイデン大統領との首脳会談で、「核戦力を含む『拡大抑止』に責任を果たすことを確認し、米国の抑止態勢を強化していく」としています。2022年は、これまで自粛してきた実働演習も含めて、日本の海上自衛隊も参加するなど、米空母ロナルド・レーガンを日本海に展開した大規模な米韓、米韓日の合同軍事演習を8月から9月にかけて行いました。このような状況に反発した朝鮮政府は、9月25日以降12回にわたってミサイル発射訓練を実施しました。また、米韓両軍は対抗上4発のミサイルを発射するなど、朝鮮半島を巡って軍事的緊張が非常に高まっています。

このような情勢の中、今年当初から頻繁に地上演習や軍事訓練を繰り返し、3月13日からは11日間にもおよぶ米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」が実施されました。野外機動訓練「ウォリアーシールド」や核施設などを精密打撃する部隊訓練「チークナイフ」などの上陸作戦や斬首作戦も加えられ、明らかに朝鮮を標的にして実践的訓練が行われています

韓国内では、2023年が朝鮮戦争の停戦協定締結から70年の節目となることから、平和団体が結集して7月22日のソウル市内での集会をメインに朝鮮戦争の終結宣言など朝鮮半島の平和実現へのとりくみをすすめるとしています。平和フォーラムは、

「東アジア市民連帯」に結集する仲間とともに、連帯の行動を計画します。

日本政府は、朝鮮のミサイル発射訓練に際し、全国でJアラートを鳴らし、意味のない避難措置を求めました。朝鮮を脅威とすることで「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の必要性などを訴えています。平和フォーラムは、そのような軍備拡張の路線で市民の安全を守ることはできず、対話による協調と友好の関係の強化が重要と考えます。一方で、10月5日、衆・参両院は朝鮮非難の決議を全会一致で挙げています。一方的な決議の背景には「植民地主義」アジア蔑視の思想的背景があります。政府のこのような姿勢が、朝鮮学校への「ミサイル発射を止めさせろ」などの嫌がらせの電話、赤羽駅構内での「朝鮮人コロス会」などの落書きに見られるヘイトクライムを許しています。 平和フォーラムは、「多民族・多文化共生社会」の立場から、「東アジア市民連帯」や「朝鮮学園を支援する全国連絡会」などと共に、ヘイトに反対し差別を許さないとりくみをすすめます。

(3)日朝ピョンヤン宣言から20年、国交正常化へのとりくみ

2022年は、2002年の「日朝平壌宣言」から20年の節目の年でした。安部政権の拉致三原則(拉致問題は①最優先課題、②解決が国交正常化の前提、③被害者全員の帰還)によって、日朝の国交正常化は解決の端緒にもつけずに来ました。平和フォーラムは、総がかり行動実行委員会に結集して「 9・17日朝ピョンヤン宣言20周年集会-今こそ日朝国交正常化交渉の再開を!」(9月17日、文京区民センター)、また、東アジア市民連帯に結集する仲間とともに、韓国の市民を招いて「―日朝平壌宣言

20周年―朝鮮半島と東アジアの平和をめざす国際シンポジウム」(9月20日、連合会館)を開催し、これまでのとりくみを総括しつつ日朝国交正常化への道筋を考えてきました。朝鮮を脅威として安保3文書が閣議決定された今日、平壌宣言の下で国交回復が実現していたらどうだったのか、国交回復が東アジアの平和にとって重要であることが見えてきます。今後とも、日朝国交回復へのとりくみが重要です。

 

(4)日韓関係の改善へ

2021年4月27日、菅内閣は、日本維新の会の馬場伸幸幹事長の質問主意書をうけて、朝鮮人労働者の半島からの移入者に関して、「強制連行」や「連行」は使用せず

「徴用」とすると閣議決定しました。植民地と本国を同一視する考えは、ある意味ヘイトに他ならず、戦後の日本の課題である過去精算の問題解決を遅らせることに繋がっています。

韓国内の元徴用工が起こした裁判は、韓国大法院が、個人請求権は消滅していないとして日本企業に対して損害賠償を求める判決を2018年に出しました。しかし、日本企業及び日本政府は、徴用工の問題は、1965年の日韓請求権協定で解決済みとの姿勢を崩さず、いまだ解決にいたっていません。韓国ユン政権は、2023年3月6日、日本企業に命じられた賠償支払いを韓国政府傘下の財団が肩代わりするという解決策を公表しました。発表に際して韓国政府は「日本がすでに表明している痛切な反省と謝罪を誠実に維持し、継承することが重要」と求め、岸田首相は「1998年に発表された『日韓共同宣言』」を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として継承している」と述べました。今回のユン政権の決断は、米韓の朝鮮に対する強行姿勢を背景に、日米間の連携強化を優先したものと考えられます。原告の一部からは反発の声も出ており今後の推移が懸念されます。平和フォーラムは、個人請求権も解決済みとする日本政府や企業の姿勢では、植民地支配から引き起こされている「戦後責任、戦後補償」の問題は解決されないと考えます。

ユネスコやイコモスによって指摘された「明治日本の産業革命遺産」の徴用された朝鮮人労働者をめぐる説明などが十分ではないとする問題をめぐって、韓国政府は、日本が提出した佐渡金山の世界遺産登録に対しても、強制連行による過酷な労働があったとして問題にしています。現在、書類の不備が指摘され登録事務は滞っています。世界遺産は、歴史の負の側面を否定するものではありません。日本のようにその事実をなかったことに書き換えようとする歴史修正が許されるわけはありません。

平和フォーラムは、「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」とともに、日本政府に対してユネスコ・イコモスの決議に従い、国際基準に準拠した歴史認識に基づいた展示・説明を求めてきました。また、徴用工問題では、日本企業への申し入れにもとりくんできました。日本政府の植民地主義に拘泥する姿勢は、日本軍慰安婦問題、産業遺産の展示問題、徴用工問題など、解決すべき問題の解決を遅らせることとなっています。

平和フォーラムは、日本国内にはびこる植民地主義を排し、将来を想像する新しい日韓関係の構築のために、様ざまな課題に対してとりくみを強化していきます。

 

(5)関東大震災朝鮮人虐殺事件から100年、植民地主義の払拭へ

1923年9月1日の関東大震災朝鮮人虐殺事件から2023年で100年になります。朝鮮半島が日本の植民地であった状況下で起きた植民地出身者に対するジェノサイドに、日本政府は、事件当時からこれまで真相解明はおろか犠牲者および犠牲者数の正確な調査も、謝罪すらも行わずに来ました。また近年は、小池百合子東京都知事の追悼集会へのメッセージ送付拒否に象徴されるように、事件をなかったものにしようとする歴史歪曲の動きも見られます。

2001年に南アフリカのダーバンで開催された「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容に反対する世界会議」(反人種主義世界会議)における宣言(ダーバン宣言)では「植民地主義によってもたらされた苦痛を認め、いつ、どこで起ころうとも、それは非難され、その再発は防止しなければならないことを確認する。さらに、これら構造と慣行の影響と存続が、今日の世界の多くの地における永続的な社会

的、経済的不平等を助長する要因となってきたことを遺憾とする」とされ、植民地支配は非難されるべきものとされました。しかし日本政府は、朝鮮高校の授業料無償化不適用に象徴される植民地主義に基づく差別をいまだに繰り返し行っています。韓国徴用工問題や日本軍慰安婦問題においても、植民地支配の反省に立つことはありません。そのような植民地支配への反省を欠いた日本政府の姿勢は、安保3文書に示される中国・朝鮮・ロシアを安全保障上の脅威としてアメリカとの同盟強化を図る施策決定に影響を与えていると言わざるを得ません。

平和フォーラムは、関東大震災朝鮮人虐殺事件の、犠牲者数などの調査と犠牲者への謝罪を日本政府に求めるとともに、私たち日本社会にとって植民地・植民地主義とは何なのかを考えていきたいと思います。現在「関東大震災朝鮮人虐殺100年-虐殺犠牲者の追悼と責任追及の行動」のための実行委員会への参加・賛同を呼びかけています。学習会やフィールドワークを連続して開催(3/28、6/28:いずれも連合会

館、6/3:フィールドワーク[千葉県])するとともに、今年9月1日、2日の両日に追悼と責任追及の行動を提起していきます。

 

【とりくみ】

① 日中関係の重要性を考え、「中国人民平和軍縮協会」との関係を強化します。

 

② 東アジア市民連帯として参加する国際平和機構「コリア国際平和フォーラム」との国際的な連携の強化に努めます。今年は、朝鮮戦争の停戦協定から70年の節目にあたることから、韓国平和団体が結集して開催する7月22日を中心とした「朝鮮戦争停戦協定70周年記念イベント」(ソウル市内)および7月14日に予定する東アジア市民連帯を中心とする関連イベント(連合会館)の成功に向けてとりくみます。

 

③ 韓国平和NGO「アジアの平和と歴史教育連帯」と連携し、歴史認識の一致をめざしてとりくみます。また、歴史教科書の採択や記述に関する問題にとりくみます。

 

④ 植民地支配責任・戦後責任問題の解決のために、日韓連帯を基本に、「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」とともにとりくみます。また、正しい歴史認識のもと、「明治日本の産業革命遺産」や「佐渡金山」などの世界遺産、韓国徴用工などの課題にとりくみます。

 

⑤ 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会に結集するとりくみの一環として、「朝鮮半島と日本に非核・平和の確立を!」市民連帯行動実行委員会とともに日朝・日韓の市民連帯を基本にとりくみをすすめます。

 

⑥ 東アジア市民連帯を中心に、日韓・日朝問題にとりくんでいる様ざまな組織とともに、朝鮮半島との連携強化を基本に、課題の解決にとりくみます。

 

⑦ 2023年が関東大震災朝鮮人虐殺事件から100年を迎えることから、「関東大震災朝鮮人虐殺100年-虐殺犠牲者の追悼と責任追及の行動」の成功にとりくみ、植民地主義の払拭をめざします。

 

 

4.様ざまな人権課題へのとりくみ

 

(1)朝鮮学園をめぐる課題へのとりくみ

2010年度から実施された高校授業料無償化措置(2014年から「高等学校等就学支援金制度」)においては、外国人学校の中で朝鮮学校だけが適用されないまま、第2次安倍政権成立直後に文部科学省令が改正され、朝鮮高校は適用の申請すらできないようにされました。2019年10月1日からの幼保無償化においては、朝鮮幼稚園だけの排除でなく、ブラジル学校などの各種学校である外国人幼稚園がまとめて排除されました。また、コロナ対策の一環である「学生支援緊急給付金」の制度からも朝鮮大学校が排除されました。この間、平和フォーラムでは署名や集会によって不当な差別を止めるよう訴えてきました。2022年12月には福岡朝鮮初級学校で「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」総会を開催し、不当な差別を許さないことを確認しました。幼保無償化については、様ざまな批判と要求から、2021年度、文科省が「地域における小学校就学前の子どもを対象とした多様な集団活動事業の利用支援」の制度を設けました。これは幼保無償化制度において、本来子どもたちに保障されるべき幼稚園・認可保育所・認定こども園が十分でなく、厚労省関連では様ざまな認可外保育施設が無償化の対象となったため、文科省関連の幼児教育施設も対象にしようというものです。しかし、市区町村が必要と認めなければ支給対象とならないことから同じ施設(例えば同じ朝鮮幼稚園)に通う子どもでも居住地により支援の対象にならないという不平等で問題の多い制度となっています。

日本政府の朝鮮学園に対する不当な差別は、朝鮮学校への「ミサイル発射を止めさせろ」などの嫌がらせの電話、赤羽駅構内での「朝鮮人コロス会」などの落書きに見られるヘイトスピーチ、ヘイトクライムを引き起こす要因となっています。そのことは日本社会に求められる「多文化・多民族共生社会」構築に大きな障害となっています。東北アジアの平和にむけて、日朝国交正常化にむけても、国内における差別撤廃と植民地支配から引き起こされてきた差別意識の払拭が求められます。

 

【とりくみ】

① 「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」、「日朝学術教育交流協会」、「朝鮮学校「無償化」排除に反対する連絡会」や当事者団体などと連帯し、幼保無償化、高校就学支援金制度、また、コロナウイルス対策を目的とした様ざまな支援制度からの在日朝鮮人社会の除外を許さず、すべての制度の適用を求めてとりくみを強化します。

 

② 実効あるヘイトスピーチ解消のための条例を求めて、とりくみを強化します。

 

(2)部落差別解消に向けたとりくみ

2022年は全国水平社創立100周年という大きな節目の年でした。全国水平社は、1922年3月3日に「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と高らかに人間の尊厳と平等をうたい上げ、創立されました。その歴史の中で部落差別をはじめ、あらゆる差別を許さないとりくみをすすめていきました。

「寝た子をおこすな」というように「このまま放っておけば、自然におさまる」という考え方が、まだ根強く残っています。「部落差別解消推進法」などの人権課題にかかわる法的措置は実現しているものの、人権侵害からの救済や人権保障を促進するための国内人権機関は設置されていません。この問題があらゆる差別を助長させているひとつの原因となっています。

1998年に大阪で発覚した大手調査会社による差別身分調査事件をきっかけに東京都では2000年から毎年6月に「就職差別解消促進月間」として啓発事業にとりくんでいます。

このようなとりくみを行ってもなお、採用選考時のエントリーシートや面接の際、本籍や出生地などの個人情報を違法に収集している企業が未だにあり、東京都だけでも毎年、100件をこえる通報があります。この事例が部落差別につながることは明確であり、断じて許すべきではありません。

2021年9月27日には「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の判決が出ました。その概要として「復刻版全国部落調査」について掲載された41都道府県のうち25都道府県の記載部分の出版およびネット上での情報開示の禁止と「部落解放同盟関係人物一覧」について差止は否定したものの違法性を認め、判決時の原告236人のうち219人に対しての損害賠償を認めました。

この判決は「復刻版全国部落調査」について除外されてしまった都道府県で出版や販売、頒布をしても許されるのかという点と「部落解放同盟関係人物一覧」について差止を認めていないという点に問題があるとして部落解放同盟と原告団は控訴し、2022年3月24日に控訴理由書を東京高裁に提出しました。さらに同日には鳥取ループ・示現舎の悪質な扇動を糾弾し、控訴審で全面的に勝利する目的のために東京で集会も開かれました。

1963年5月1日に起きた狭山事件で石川一雄さんが不当に逮捕されて60年、狭山第3次再審を請求してから17年が経ちました。弁護団は、これまで出た新証拠を提出し、有罪判決に合理的疑いが生じていることを明らかにしたうえで再審を開始するように求めています。そのために鑑定人尋問は必要不可欠であるとしています。

平和フォーラムは、あらゆる差別を払拭し、みなが平等に暮らせる社会をめざしたとりくみをすすめていきます。

 

【とりくみ】

① 人権侵害からの救済や人権保障を促進するための国内人権機関の設置の実現に向けたとりくみを求めます。

 

② 狭山事件の再審勝利をめざしたとりくみをすすめていきます。

 

③ 「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の控訴審闘争の勝利を求め、そのためのとりくみをすすめていきます。

 

(3)水俣病問題の早期解決に向けたとりくみ

1956年5月1日に熊本水俣病の発生が公式に確認され、1965年6月12日には第二の水俣病である新潟水俣病が公表されました。

以来、被害者の救済を求め加害企業、国、県に対する裁判闘争をはじめとした様ざまなとりくみが熊本、新潟両平和運動センターなどを中心に進められてきました。ノーモア・ミナマタ第2次訴訟の新潟裁判は、2023年9月に1~4陣の原告47人について分離して結審し、2024年3月に判決となる見通しです。近畿訴訟は2022年12月に結審し、2023年6~7月ごろ判決の予定、熊本訴訟(1~2陣149人)は2023年秋に結審し、2024年春ごろに判決の見通しです。新型コロナウイルス感染症の影響などにより、弁論期日が取りやめになるなど裁判は大きな遅れをみせてきましたが、提訴から9年が過ぎ各地裁の裁判はいよいよ結審、判決を見通せる段階を迎えつつあります。

この間平和フォーラムは、「ノーモア・ミナマタ第2次訴訟公正な判決を求める要請署名」をはじめ「すべての水俣病被害者救済を求める電子署名」にとりくんできました。昨年来、全国から寄せられた41万5千筆を超える要請署名を、各地裁の審理状況を見据えながら随時各地裁に提出してきました。

最高裁は2004年と2013年に、二度にわたって国の認定基準で棄却された被害者を水俣病と認める判決を言いわたしていますが、政府・環境省は、「司法の判断と行政の判断は違っていい」と居直り、認定基準を見直そうとしていません。認定をめぐる裁判では、2018年3月の新潟水俣病第3次訴訟高裁判決は原告の上告棄却、2020年3月の熊本互助会第2世代訴訟福岡高裁判決も原告の上告棄却、2022年3月の熊本互助会同認定義務付け訴訟熊本地裁判決は原告敗訴と、きびしい結果が続いています。原告の高齢化が進み、解決を見ずに亡くなる方も増えており、たたかいは正念場を迎えています。

平和フォーラムは、引き続き熊本、新潟両平和運動センターと連携し、補償を受けられずに取り残されている被害者救済のとりくみを進めます。

 

(4)外国人の人権確立に向けたとりくみ

2023年1月31日、国連人権理事会による日本の人権についての定期審査で、技能実習制度、難民・移民の処遇改善、入管施設での医療体制の改善、長期収容の回避の措置などが求められたように、日本における外国人の人権問題は深刻です。難民受け入れにも極めて消極的で、ウクライナからの避難者も難民とは異なる「避難民」とし基本的に短期滞在の処遇とされています。

外国人技能実習制度は技能の習得と国際貢献を名目に、実際には低賃金で重労働を担う労働力として人手不足の業界や地方が依存している状況です。さらにこの制度は労働基準法も適用されず低賃金、賃金不払い、紹介業者への手数料支払いによる債務、転職不可、携帯電話や妊娠の禁止など私生活での制約、暴力などの問題が絶えず報告されています。厚生労働省によると、受け入れ事業場の70%以上で労働基準関連法令違反が認められたとしています。

2022年5月22日から6月13日、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)はこの制度の廃止を求めて全国を巡る制度廃止キャラバンを組織、平和フォーラムもこのキャラバンに協力し、政府に対し制度廃止を訴えました。政府内でも見直しの声があがり、人手不足の12分野で外国人が働く「特定技能制度」とあわせて見直しを検討すべく2022年12月に第一回有識者会議を開催、2023年秋までに最終報告をまとめる方向です。制度の廃止への動きを止めず、外国人が日本社会で人権を尊重され共生できる制度が実現するよう、引き続き徹底してとりくまなければなりません。

入国管理及び難民認定法(入管法)に関して、政府は入管法改定案を2023年3月7日に閣議決定しました。2021年に改定案が提出された際には、名古屋入管の収容施設でのスリランカ人・ウィシュマさんの死亡事件の真相究明が不十分であることなどから反対の声が強まり、さらには移住連が呼びかけた入管法改定反対署名では10万筆余りが集まり、廃案へと追い込みました。にもかかわらず今回の改定案では難民申請を2回に制限、退去命令に違反したら罰則を課すなど前回の改定案から更に人権を軽視した内容が含まれています。これはわずか0.3%前後という極めて低い難民認定率への改善策もとらないなかで、帰国すれば政治や情勢により命の危険に晒され帰りたくても帰れない人たちの命を無視した人権侵害です。2023年1月、政府が改定案を今国会で再提出すると報じられて以来、移住連など7団体が入管法改定案再提出反対の声明を発表、同25日には入管法改悪反対署名を開始、3月15日には改悪反対を訴える院内集会を開催しました。平和フォーラムも協力し入管法の改悪に反対し、命を脅かさない、真に人権が尊重される社会の実現のためにとりくんでいます。

また入管法にある仮放免措置は就業もできず社会保険も対象外とされ生活の糧もなく生存権すら奪うものです。2022年10月6日には移住連などが主催し劣悪な入管法の内容を見直す院内集会を開催、11月2日には仮放免とされた外国人の生存権を求める院内集会と省庁交渉を実施、平和フォーラムも連携し早急な改善を訴えました。

収容施設における悲惨な問題もいまだに相次いで報告されています。2022年11月3日、国連は日本に対して、長期にわたる監禁を控え移民を虐待しない適切な措置を講じること、国際基準に準拠した人権教育機関を設立すること、拘束された人が弁護士と連絡を取り適切な医療を受けられることを要求する勧告を出したにもかかわらず日本政府はなんら対応を取らず、その後も収容されていたイタリア人の自死が報じられるなど痛ましい報告は続いています。2021年に名古屋入管の施設で亡くなったウィシュマさんの事件では、真相究明が進まない中、上述の10月6日の院内集会でも真相究明を強く呼びかけました。その後、録画の一部が公開され、公開法廷での上映が決定されるなど動きが出始めました。2022年12月26日、名古屋第一検察審査会は、当時の名古屋入管局長らに対し救命することが可能だったと業務上過失致死の成否の再検討が相当としました。しかし解決されていない問題はまだ多くありさらなる究明を求めなければなりません。平和フォーラムでは2022年12月10日、総がかり行動実行委員会が主催した牛久の入国管理局収容施設の実態を描いたドキュメンタリー映画「牛久」の上映会に協力し、入管施設の収容の実態を共有しました。引き続き移住連や支援団体らと連携し日本政府への抗議と各事件の真相究明、日本に滞在するすべての外国人の人権の尊重を求めなければなりません。

 

【とりくみ】

① 外国人技能実習制度の即時廃止、また日本社会が外国人労働者を求めている実態に即し、国際人権基準と労働基準法にのっとった外国人受入れ制度の創設を求め、移住連などと連携してとりくみます。

 

② 政府による入管法改定案の改悪を阻止すべくオンライン署名など、即時に目に見えて動きが分かるとりくみを積極的におこないます。また収容施設の実態解明と改善、就業もできず保険も適用されない仮放免措置における処遇の改善を求めると同時に、在留資格がない外国人の人権を侵さない制度の確立を求め、移住連や関連組織と連携し署名や集会などのとりくみを行います。

 

③日本に在留資格をもって滞在する外国人への差別、偏見を排除すべく集会や学習会など多文化共生と人権確立のためのとりくみを行います。

 

(5)ミャンマー民主化支援のとりくみ

ミャンマーでは2021年2月、クーデターによって国軍が権力を握って以来、国軍は抵抗する市民に対し発砲、虐殺、逮捕、拷問、さらには空爆など非人道的行為を続けています。2022年7月25日、国軍は4人の民主活動家に対し反テロ法違反罪の疑いで死刑を執行、8月17日には国連のヘイザー事務総長特使が国軍に対し全政治犯の解放を訴えましたが、国軍は受け入れていません。

国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると2022年12月現在、ミャンマー国内避難民は147万人以上、隣国に避難した難民は7万2千人以上とされています。さらにはバングラディシュにはミャンマーを追放されたロヒンギャ族が2022年9月の時点で94万人以上いるとされています。日本が行ってきた資金援助は混乱するミャンマーでは困窮する人びとの支援にはつながっていません。平和フォーラムはクーデターから約1年を迎えた2023年1月14日、在日ビルマ人コミュニティや支援団体と協力して集会を開催し、現地の市民の生活や弾圧、拘束の実態の報告を行い、現状の把握とミャンマーの市民に届く支援の拡大を訴えました。

日本政府は、クーデター後もODAの一環として橋梁建設への支援を継続していますが、東南アジアの監視組織などが、国軍と関係する企業がこの建設工事にかかわっていると指摘、軍への支援につながっているとの懸念を示しましたが、外務省からは詳しい説明もなされないまま支援は継続されています。また防衛省はクーデター後も軍の幹部や幹部候補生を留学生として招き入れ、国際人権団体からも批判を受けていました。2023年度からは招聘を停止するとしていますが、受け入れ済の留学生は継続して教育、訓練するとしています。明らかに国軍への支援であり非人道的行為への加担で即刻停止するよう求めなければなりません。

ミャンマーの憲法ではクーデター後に発せられた緊急事態宣言の期限は2年とされ、2023年1月31日に期限を迎えました。しかし国軍は半年の延長を発表、国軍主体の統治が続くことになりました。また国軍は緊急事態宣言解除後に総選挙を実施するとしています。しかしこれまでも国軍は形式だけの不正選挙と不当な支配を重ねてきました。総選挙は再び同様の手段で国軍が支配を補強する手段でしかありません。

林芳正外務大臣が2月1日に発表した談話で、緊急事態宣言延長に深刻な懸念、今なお続く暴力により死傷者を発生させていることを非難、暴力の即時停止と解放を求めること、民主的な政治体制の早期回復とASEANによる支援・解決案の履行および平和的な問題解決を求めること、実効性のある人道支援の確保のためミャンマー側に人道アクセスを認めさせ具体的な人道支援策を検討し積極的に行うこと、と述べています。日本政府はこの談話の通り、早急に実効性ある人道支援を行い、平和的解決に向け具体的な外交的働きかけを開始すべきです。

支援を必要とする人たちに支援が届き、平和に暮らせる日が早く戻るよう、ミャンマー市民を支援する組織や支援者の方たちとともに集会やカンパ活動を実施するとともに、日本政府に対しても積極的な行動を求めていかねばなりません。

 

 

【とりくみ】

① 在日ビルマ人コミュニティなど、ミャンマー市民の支援組織につながる組織と協力し、集会、カンパ活動などを行いミャンマーの支援にとりくみます。

 

② 日本政府に対し、国軍支援につながる支援を即刻停止すること、平和的解決のために具体的な行動をとることを求めていきます。

 

(6)アイヌ遺骨などの返還問題へのとりくみ

2007年に国連総会において「先住民族の権利に関する国連宣言」が採択されました。その第 12 条1項は「先住民族は、その精神的及び宗教的な伝統、慣習及び儀式を表現し、実践し、発展させ、及び教育する権利、その宗教的及び文化的な場所を維持し、保護し及び干渉を受けることなく立ち入る権利、儀式用具の使用及び管理の権利並びにその遺体及び遺骨の返還に対する権利を有する」と規定し、2項では「国は、関係する先住民族と協力して設けた公正で透明かつ効果的な措置によって、国が保有する儀式用具並びにその遺体及び遺骨へのアクセス並びに返還を可能にするよう努めなければならない」とされています。

日本においては、研究目的と称して1930年代を中心にアイヌ民族や琉球民族の墳墓より遺骨が収集され現在大学に保管されていますが、その多くが盗掘によるものです。アイヌ民族及び琉球民族は、長きにわたって盗掘された遺骨の返還を国と研究機関に要求してきました。2022年4月21日、昭和初期に沖縄県名護市今帰仁の百按司(むむじゃな)墓から京都大学(旧京都帝大)が持ち去った琉球人26体の遺骨の返還を求める訴訟で、京都地裁(増森珠美裁判長)は、遺骨と原告の関係が明らかではないとして、原告敗訴の判決を下しました。原告は、琉球民族の慣習によって供養できず、信教の自由や民族的自己決定権が侵害されたと主張し、琉球民族のアイデンティティーの問題と訴えていました。研究目的での先住民族の遺骨使用をも認めた京都地裁の判決は、国際的潮流に反するものとして認められません。大阪高裁での控訴審を注視することとします。

平和フォーラムは、北海道函館での憲法理念の実現をめざす大会で提起して以来、「先住民族アイヌの声実現!実行委員会」(以下実行委員会)に参加し、アイヌ民族とともに日本各地の大学に置かれている盗掘されたアイヌ人遺骨返還などアイヌ民族の権利回復のため、学習会を重ねると共に、政府交渉(チャランケ:2022/1/10、4/14、12/22、2023/2/16、すべて院内)にとりくんできました。2022年9月7日には 、文科省や国土交通省なども参加し、日本学術会議地域研究委員会歴史的遺物返還に関する検討分科会委員長の窪田幸子神戸大学国際文化学研究科教授より、主にオーストラリアの先住民アボリジニーに関する政府の対応の報告を受けました。2007年に国連が「先住民族の権利に関する国連宣言」を採択した際オーストラリアは反対をした4か国の一つでしたが、現在は遺骨返還や文化の尊重など先住民の権利尊重の視点でとりくみがすすめられているとの指摘からは、「旧土人保護法」が廃止され「アイヌ施策推進法」(アイヌ新法)が制定されてもなおアイヌ民族の先住権が否定されている日本の現状が、いかに遅れているかを知らされました。明治以降のアイヌ民族への日本政府の施策が「植民地政策」であったとの観念が学者の中にも少ないとの窪田さんの指摘は、日本社会の様ざまな場面で植民地主義を基本にした差別が残存していることの要因ではないかと考えられます。

昨年8月の岸田首相による内閣改造によって、杉田水脈自民党衆議院議員が総務政務官に就任しました。杉田議員は、これまでLGBTや女性の性被害などへの差別発言を繰り返し、2016年には国連女性差別撤廃委員会に出席したアイヌ民族や在日朝鮮人に対して、「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」との発言と無許可で写した写真をブログに掲載することでヘイトを拡散し、その発言や行為を謝罪もせず撤回もしませんでした。実行委員会は昨年12月22日、政務官就任は問題が多いととらえ、杉田水脈政務官の罷免を要求し、政府交渉を行いました。内閣府アイヌ施策推進室は、差別と認定するには訴訟による司法判断が必要との認識を示すなど、ブログによる差別状況を認めようとしませんでした。差別解消を求める「アイヌ施策推進法」とその実現のための組織が、杉田発言を批判することができない政治が、差別の再生産を生んでいます。杉田水脈政務官自身は、国会内外の批判によって12月27日に自ら政務官を辞任しました。しかし、このようなヘイトを繰り返す人物を「職責を果たすだけの能力を持った人物」と評した岸田首相の責任や差別解消をめざす部署が政治家の差別発言を許容してしまう政治のあり方に追及の手を緩めてはなりません。

2019年に施行された「アイヌ施策推進法」(アイヌ新法)は、2024年が見直しの年とされています。アイヌ新法は、施策推進にアイヌ民族自身が参加することとなっていません。それによって様ざまな問題が発生しています。また、アイヌ民族の先住権が否定され、言語も含めてその文化が失われていく現状にあります。今後、平和フォーラムにおいても先住民族の問題を学び、先住権など権利規定を盛り込むなど改定への議論を進めていきます。

平和フォーラムは、民族のアイデンティティーの問題は重要な課題であると考えます。「旧土人保護法」が廃止され「アイヌ新法」が制定されてもなおアイヌ民族の先住権が否定されている現状、琉球処分や戦後の米軍施政下で困苦を極め、復帰してなお基地の現状におびえなくてはならない沖縄県民、植民地支配の歴史を負ってなお高校や幼稚園の無償化からも外される在日朝鮮人の民族的権利剥奪など、日本政府が率先して差別を行っている現状は、日本社会の人権意識の低さを物語っています。平和フォーラムは、アイヌ民族など様ざまなマイノリティーと共に、差別撤廃のとりくみをすすめていきます。

 

【とりくみ】

① 「先住民族の権利に関する国際連合宣言」に基づき、アイヌ民族など先住民の権利確立にとりくみます。

 

② 2024年に予定される「アイヌ施策推進法」の見直しに向けて、全国的な議論を進めていきます。

 

(7)性差別を許さず、女性の社会進出、地位向上をはかるとりくみ

2022年8月の世界経済フォーラムが発表した経済、教育、健康、政治の4分野で評価したジェンダーギャップ報告書で日本は146か国中116位、今年3月に世界銀行が発表した法整備の進行具合から男女格差を評価した報告書では190か国中104位(先進国では最下位)という数字が示す通り、日本における男女格差の改善はみられず深刻な状態です。

政府は男女格差の解消をめざすとして2022年から常時雇用300人以上の企業に対し男女の賃金格差の開示を義務付けました。また金融庁は上場企業4000社に対し2023年6月公表の3月期有価証券報告書から男性育休取得率、女性管理職比率とあわせて記載を義務付ける方針を示しました。しかし対象は大企業のみで中小企業や非正規雇用者は含まれず政府が男女格差の解消に本腰でとりくんでいるとはいえません。岸田首相の2023年年頭の記者会見における「仕事と育児を両立する女性の働き方改革」という発言そのものが差別意識を表すものです。子育てや家事における女性への依存度が高い日本で、男女格差を根本的に解消するためには賃金格差の開示を求めるだけではなく実質的な男女差別賃金構造ともいえる制度の改正と、女性を低賃金に押しとどめている税制や社会保障制度の改正を政府に求めていかなければなりません。

2022年の選択的夫婦別姓制度に関する世論調査の質問作成にあたり、法務省が制度への賛成を抑える方向に誘導しかねない内容への大幅な変更を提案し、内閣府が修正を求めるも法務省は「保守派との関係がもたない」と拒否したことも明らかになっています。

性犯罪、性暴力に関して、2017年に改定された性犯罪規定は性犯罪、性暴力問題を解決しうるものではない、と当事者はじめ専門家らからも多くの指摘がされてきました。法制審査会の部会はこの見直しを検討してきましたが2023年2月3日、刑法などの改正に向け大幅な見直しの要綱案をまとめました。「性交同意年齢」の13歳から16歳への引き上げ、公訴時効の延長、「性的グルーミング罪」の追加などが含まれます。性暴力被害者らからは前進を歓迎しつつも、時効撤廃などさらに改正を求める訴えがあがっており、引き続き法改正を促す必要があります。

様ざまな差別的雇用があっても司法で解決されない日本ですが、女性差別撤廃条約における選択議定書を批准すれば、選択的夫婦別姓の最高裁判決や、昇給・昇格・賃金差別を合憲とする判決も「世界水準のジェンダー平等」から外れていると国際的に訴えることができます。選択議定書の批准を求める運動を労働組合や女性運動団体と進めます。

2022年11月の護憲大会ではi女性会議と連携し、ジェンダー平等をテーマに分科会を開催しました。安倍氏銃撃事件を契機に旧統一教会の家族観・男女観などが自民党の家父長制的家族観や性別役割分業意識に基づく女性差別意識と一致し、LGBTQ差別撤廃や選択的夫婦別姓制度や同性婚合法化の動きを自民党が後退させてきた背景が明らかになりました。私たちは憲法9条改憲に目が奪われがちですが、この分科会によって、家制度から女性を解放した憲法24条を自民党や右派宗教が狙っていることに多くの人に気づいてもらう契機となりました。引き続き日本社会における重要な課題としてとりくみを行っていきます。

 

【とりくみ】

① 男女の格差解消のために、政府に差別賃金の解消を求めます。また、女性の低賃金構造を生んでいる税制・社会保障を「家族単位」ではなく個人単位の制度に変え、性に平等な制度に改正するよう求めます。刑法における性犯罪に関する規定を被害者の救済につながる内容に改正するよう求め、関連組織などと連携しとりくみます。

 

② 選択的夫婦別姓制度の一刻も早い法制化を求めます。

 

③ ジェンダー平等社会を実現するため、選択議定書の批准を求め、司法における国際基準のジェンダー平等を実現します。

 

(8)多様な性のありかたを受け入れられる社会の実現にむけたとりくみ

同性婚に関して、同性どうしの結婚を認めない民法などの規定は憲法に違反する、と当事者らが各地で訴え裁判となっています。2022年6月、大阪地裁は同性婚を認めないのは合憲としつつも同性カップルが法的承認を受けられないのは問題、将来は違憲となる可能性があると言及しました。また同11月、東京地裁は同性カップルが家族になる制度がないのは違憲状態であるが具体的な制度づくりは立法にゆだねられるとの判断を下しました。いずれも国会に対応を促す判決でありながら国会は動こうとしていません。

2023年2月12日時点で259の自治体がパートナーシップ宣誓制度を導入し、家族向け公営住宅への申し込み、同一世帯対象の生活保護の申請、公立病院での面会や手術の同意、住宅ローンでの収入の合算、生命保険の受取人となることができるようになりました。しかし、婚姻による法的手続きが必要となっている相続、共同親権、税の配偶者控除など多くの事項は認められていません。2022年末の時点で33の国や地域が同性婚を認めその傾向が拡大する中、国際的な婚姻や同居のためのビザ取得にも支障が出ており、国としての制度を整えることは喫緊の課題です。与党内からも憲法において同性婚は排除しないとの声があがっています。国会の早急な対応を強く求めていかなければなりません。

LGBTQに関しては、身分証明書等に記載された性別と見た目の違いから企業からの内定の取り消しを受けたりや公的サービスの利用ができないという報告もあり組織的な偏見や差別、認識不足がいまだに改善されていません。偏見や差別をなくし支障のない生活の実現のために、他のG7国同様に性自認や性的傾向への差別を禁止する法律が必要です。

岸田内閣ではLGBTQや同性婚に関する閣僚や首相側近らの差別的発言が相次ぎ、さらには岸田首相も2023年2月1日の予算委員会で同性婚の法制化は社会が変わってしまう問題と発言しました。発言者らには反省の姿勢は見られず、自民党内ではLGBTQ問題の改善に逆行する動きがいまだに根強いことを表しています。批判の高まりを背景に、岸田首相は「LGBT理解増進法案」を国会に提出する意向を示しています。しかし性的志向や性自認に対する差別を禁じる法律の制定は自民党内の反対意見への配慮から一向に進んでいません。一方、性的志向や性自認に対する差別を禁止する条例を定めている自治体は69にのぼり(2023年2月8日現在)、国の対応の遅さが際立っています。引き続き、情報発信を重ね、政府に対しても改善を強く求めなければなりません。

 

【とりくみ】

① 政府が同性婚の法制化を早急に進めること、LGBTQへの差別や偏見に対し厳格な処分を行うための実効性のある制度を整えるよう、関連組織などと連携しとりくみます。

 

② LGBTQへの差別と偏見解消のために集会などを重ねて世論を喚起していきます。

 

(9)働く者の権利破壊を許さないとりくみ

平和フォーラムはこの間、「関西生コン事件」が国家権力による労働組合つぶしだとして、関西生コンを支援する会(支援する会)と連携し、①大阪広域生コンクリート協同組合(大阪広域協組)の責任の明確化の追求、②組合員を不当逮捕・起訴した刑事裁判における無罪判決の獲得、などを求めて5年間余り活動してきました。

しかし、2府2県(大阪、京都、和歌山、滋賀)の警察・検察による全日建関西生コン支部に対する不当弾圧はやむことがなく、警察・検察権力は、正当な労働組合活動を威力業務妨害、恐喝、強要にすり替え、耳を疑うような不法な人権侵害や働く者の労働基本権の侵害をあたり前のように、今なお繰り返しています。

3月に入り、①コンプライアンス第1事件一審判決(2日)、②和歌山広域協組事件控訴審判決(6日)、③武前委員長3事件控訴審判決(13日)の3つの刑事裁判の判決が出されました。コンプライアンス第1事件で大津地裁刑事部は、関西生コン支部湯川委員長に懲役4年の実刑を、また元執行委員ら5人に対しても懲役3年~1年の執行猶予つきの重罰判決を言い渡しました。湯川委員長ら組合側は即日控訴するとともに、この不当判決に対し、当該組合、弁護団、関西生コンを支援する会、平和フォーラムは、「産業別労働運動を否定する暴挙、憲法や労働組合法を踏みにじる正当な労働運動に対する司法の弾圧を許さない」との抗議声明を発出しました。

和歌山広域協組事件控訴審判決で大阪高裁は、組合側の主張をほぼ全面的に認め、原判決を破棄して組合員3人に逆転無罪判決を言い渡し、検察は上告を断念し3人の無罪が確定しました。この大阪高裁判決は、産業別労働組合の労働基本権保障と刑事免責について、正当な判断を示したものです。

また、武前委員長3事件控訴審判決において大阪高裁は、大阪ストライキ事件、フジタ事件については引き続き有罪としたものの、タイヨー生コン事件については、無罪判決を維持し、その後検察が上告を断念したことからタイヨー生コン事件についても、無罪が確定しました。

これで無罪判決は4つになり、有罪率99.9%の日本でこれだけ無罪判決が出されたことで、「関西生コン事件」の本質が業界・警察・検察が一体となった組合つぶし事件であったことがさらに明らかになりました。

コロナ禍の影響により審理が遅れていた国賠訴訟(東京地裁)の第3回口頭弁論が3月10日に行われ、支援する会・平和フォーラムは、中央組織や関東ブロックの協力のもと傍聴行動にとりくみました。また、傍聴行動前段には緊急集会を開き、2日の大津地裁判決での許しがたい実刑判決に対し、湯川委員長からの決意、弁護団からは「関西生コン事件の本質を見極め、裁判所は憲法の番人としての姿勢をしっかり示すべきだ」との訴えがありました。

そうした状況を踏まえ支援する会は、3月23日に連合会館で「判決報告集会」を開催し、連続して出された刑事裁判の判決や今後の国賠訴訟の状況などを含めた問題点について弁護団から報告を受けました。

現在17件の再審査事件が係争中の中央労働委員会(中労委)に対し、関西生コン支部・全日本建設運輸連帯労働組合(全日建)は、初審命令である解雇の取り消し、団体交渉の再開など、団結権の侵害による不利益の早期回復を求め、署名行動にとりくみ、2022年9月8日に中労委に1,377団体分を提出してきました。しかし、中労委は結審から1年以上が経過した事件においても、自ら立てた審査計画書に反して命令を出してきませんでした。中労委の姿勢は許されるものではありません。

中労委は、今後いくつかの事件について命令を出す姿勢を示していますが、各々の事件について、まとめて出そうとする恣意的な思惑があることがうかがえることから、支援する会と連携して引き続き、中労委対策をすすめます。

昨年7月に明らかになった、ナニワ生コン株式会社(ナニワ生コン)による、「労働委員会命令を守れ」とアピールする街宣活動が「名誉棄損」で刑事告訴されるという前例のない新たな弾圧事件は、1月11日に大阪地検があらためて「不起訴処分」を決定したことから事件としては終結しました。この弾圧事件は、本来労働委員会命令を守らないナニワ生コンこそ批難されるべきです。正当な組合活動である街宣行動に対するこの弾圧は、労働組合の権利を侵害するものであり、今後も同様の手法による攻撃がしかけられる可能性があることから、事件そのものの問題点を明らかにし、労働組合全体の問題として共通認識をもつ必要があります。

この間、全日建は、警察によるマスコミへの圧力やフェイク動画の影響で事件の真相が理解されていない現状があることから、映像を通し事件の真実を広く訴えようと、ドキュメンタリー映画の制作にとりくみ、昨年秋に『ここから「関西生コン事件」と私たち』を完成させました。

「ここから」は、昨年11月に松山市で開催した「憲法理念の実現をめざす大会」(第59回護憲大会)の「ひろば」での上映をはじめ、支援する会第4回総会(12月16日)に併せての東京での上映など、昨年末から全国各地で上映会が開催されています。引き続き、関西生コン事件の真実が多くの方がたに理解されるよう、各地の支援する会などが開催する上映会のとりくみに協力していきます。

平和フォーラムは、引き続き支援する会と連携し、労働委員会闘争や裁判闘争の支援をするとともに、関西生コン事件の真相を明らかにするための「ここから」の上映活動と連動させた、各地で開催される学習会やオルグ活動にも協力していきます。

 

【とりくみ】

① 関西生コン事件の真相があきらかになるよう、支援する会と連携し権力による不当弾圧を許さないとりくみをすすめます。

 

② 裁判闘争や労働委員会闘争の動向を注視するとともに、支援する会と連携し情宣物の作成、シンポジウムの開催、署名活動など必要な対策にとりくみます。

 

③ 各県組織や加盟単産がとりくむ、映画 『ここから「関西生コン事件」と私たち』の上映会を通して、権力による不当弾圧の実態を広範な人びとに伝えるとりくみを推進します。

 

 

5.民主教育を進めるとりくみ

 

(1)教科書に対するとりくみ

高等学校では、2022年度入学生から、領土問題など現代の諸課題を形づくった近現代史を学ぶ「歴史総合」、法律や政治制度を理解したうえで模擬裁判や模擬選挙などにとりくむ「公共」など、「改訂学習指導要領」に沿った教育内容が実施されています。「公共」は、道徳教育の中核的な役割を担うことが、「改訂学習指導要領」に明記されています、全員が履修する必修科目を道徳の中心に据えるとなると、評価の問題に加え、入試への影響も気がかりです。

文科省は8月26日、デジタル教科書について2024年度に小学校5年生から中学3年生の「英語」で先行導入する方針を決めました。その後は学校現場からニーズが高いとされる「算数・数学」について検討するとしています。デジタル教科書については、急速な普及による学校現場の混乱と教員の新たな負担という点、読解力向上にはデジタル教科書は疑問が残るという点などから、導入に向けては慎重な議論と十分な準備期間が必要です。

平和教育を中心に、これまで使用してきた教材や表現を見直し、修正しようとする記述変更や資料記載変更がさまざまな場面で行われています。子どもたちが豊かに学ぶ教材として、重要な位置づけにある教科書や副読本等については、学校現場の意見を反映させながら、幅広く議論を積み重ねてきた内容が多くあります。

今後も子どもの学びの実態に即した教科書として、適切な導入が図られるよう、動向を注視する必要があります。

 

(2)道徳教育課題に対するとりくみ

平和フォーラムは道徳研究会と協力して、人権を大切にした教育実践例を紹介する「道徳教科書/もうひとつの指導案―ここが問題・こうしてみたら?」とするホームページを運営しています。年間数回にわたる研究会を開催し、教科書を一面的につかうだけではない「もうひとつの指導案」の例示を中心に、内面を評価することや道徳的価値を押し付けることにならないよう配慮した実践を紹介しています。「道徳教科書」の次回改訂に向け、学校現場の実践に活かせる内容の充実に努めてきましたが、閲覧者数の伸び悩みが大きな課題となっています。

今後も、多忙に拍車がかかる教育現場の一助となるよう、実態を基にした実践紹介などを中心に一層の充実に努めていきます。

 

【とりくみ】

① 政権の意図に偏った恣意的な教科書検定の実態を明確にし、全国の市民団体および韓国のNGO「アジアの平和と歴史教育連帯」とともに、バランスのとれた教科書の記述内容を求めてとりくみをすすめます。

 

② 憲法改悪反対のとりくみと連動し、「修身」などの復活を許さず、復古的家族主義、国家主義的教育を許さないとりくみを展開します。

 

③ 人に優しい社会へのとりくみを様ざまな方向から強化し、貧困格差を許さない方向からも、教育の無償化へのとりくみを強化します。

 

④ 歴史教育課題・道徳教育課題に対応するため、問題・課題を共有し授業実践の還流を目的としたホームページを市民等の協力のもと、人権を大切にする道徳教育研究会に協力して「道徳教科書/もうひとつの指導案―ここが問題・こうしてみたら?」(https://www.doutoku.info)を運営していきます。

 

 

6.核兵器廃絶にむけたとりくみ

 

(1)核廃絶の実現に向けて

ⅰ)原水禁運動の基本に

原水禁は広島・長崎での被爆の実相を出発点として、「核と人類は共存できない」を基本理念に据え、加害と被害の歴史とそれぞれ向き合いながら、国内外の市民、諸団体と連帯し核廃絶に向けたとりくみをすすめてきました。

広島・長崎に次ぐ三度目の核兵器使用には至っていませんが、これまで何度も人類は核戦争直前の危機に直面してきました。また、繰り返されてきた核開発と核実験によって世界各地に多くの核被害を生み出しました。核廃絶と世界平和の実現は世界の人びとにとって切実な願いであり、20世紀中期以降、国際的反核運動のうねりとして現れ、原水禁もその一翼を担ってきました。

しかしながら、いまなお核廃絶は実現しておらず、日本においても核抑止論の壁を打ち崩すことはできていません。被爆から78年目を迎え、被爆者もいっそう高齢化しつつあるいま、あらためて原水禁として核廃絶に向けた決意を打ち固め、いかに運動をすすめていくのかが問われています。

冷戦期をピークとして核兵器の保有数自体は減少してはいますが、この間、保有国においては兵器の小型化と技術の向上がさかんに行われていることから、核軍縮に向かっているとは到底言うことができません。また、インド・パキスタン・朝鮮がすでに公然と核兵器保有に至り、イスラエルも核兵器保有が確実視されています。さらにイランの核開発に向けた動きが注視されています。

こうしたなかで核兵器禁止条約(TPNW)と核拡散防止条約(NPT)が、核軍縮・廃絶をめぐる国際的な動向の中心的な軸となっています。

 

ⅱ)核廃絶に向けた世界の動き

2017年7月に採択された核兵器禁止条約(TPNW)は、人道的立場からNPTを補完するものとして2021年1月に発効しました。2023年4月現在、署名国は92か国(地域)、批准国は68か国(地域)となり、この1年間でさらに拡大しています。

条約では発効から1年以内に今後の運用を話し合う締約国会議を招集することが定められていますが、新型コロナウイルス感染症の度重なるまん延により延期を繰り返した結果、2022年6月21日から23日、オーストリア・ウィーンで第1回締約国会議が開催されました。これに対し原水禁は8人の派遣を行い、日程の都合上会議そのものへの参加は見送りましたが「ワーキングペーパ―」を提出したほか、前段に行われた「ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)」主催の「市民社会フォーラム」やオーストリア政府主催の「核兵器の非人道性に関する会議」へ参加しました。また、原水禁として独自に現地からの動画配信にとりくみました。

締約国会議をはじめ一連のイベントのなかでは一貫して「核兵器の非人道性」が主題にされており、日本の被爆者のほか核被害の当事者の訴えが全体で共有されました。また、この会議で注目された点のひとつが、「核抑止」の下にある北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるドイツ・オランダ・ノルウェーもオブザーバー参加したことでした。しかし、戦争被爆国である日本は、参加を求める多くの声を無視し、結局オブザーバー参加すらしませんでした(「核兵器の非人道性に関する会議」にのみ出席)。

いっぽう、NPT再検討会議は、もともと2020年開催予定であったものの、こちらも新型コロナウイルス感染症の拡大により延期を余儀なくされてきましたが、2022年8月、ようやく開催が実現しました。

ロシアのウクライナ侵攻が2月以来継続しているという情勢下、その議論の内容に注目が集まったものの、ザポリージャ原発占拠への懸念やウクライナの核放棄と引き換えに安全を保障した「ブダペスト覚書」の遵守などの表明などをめぐってロシアが態度を硬化し、最終文書が採択されないという残念な結果となりました。

また、岸田首相が日本の首相としてはじめて出席したものの、「NPTこそが『核なき世界』への現実的アプローチ」などと述べ、TPNWへの参加を否定する従来どおりの立場に固執し続けています。

今回は通常の4月開催ではなく8月の開催となったため、原水禁として派遣団を送るなどのとりくみは見合わせることになりましたが、川野浩一共同議長のメッセージを現地の市民集会に送付したほか、8月29日には閉会を受けての原水禁声明を発表しました。

以上のように、コロナ禍によって国際的会合のスケジュールは大きく乱れ、先行きがしっかりと見通せる状況にはなっていません。核軍縮に向けた議論全体の停滞も危惧される状況が続いていますが、そのいっぽうでTPNWの前進に期待を寄せる声も高まってきています。

とくにTPNWをめぐっては、1月22日に発効2周年を迎えたことから、原水禁としてあらためて日本政府へ1日も早い署名・批准を求める声明を発表しています。戦争被爆国である日本が、しかも被爆地・広島選出の岸田首相が、アメリカとの関係を重視するあまり、TPNWに前向きな姿勢さえ示さないのは言語道断と言わざるを得ません。

原水禁としては世界の市民と連帯しながら核廃絶への動きを前進させるため、引き続きとりくんでいきます。内容的には不十分であったにせよ、ようやく開催できた再検討会議の議論を無駄にすることなく、あらゆる機会を活かしながら、対話の環境をつくるために日本政府が尽力することを訴えかけていきます。

TPNWの発効などにみられるように、核廃絶・軍縮を求める世界の市民・NGOなどの弛まぬとりくみは一定の成果を得ていますが、核保有国がこうした努力に対し誠実な態度をとっているとは言えません。米中ロの対立などを背景に、むしろ核兵器の増強へ向けた動きが続いてきました。

2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻は、平和を願う多くの人びとにたいへんな衝撃を与えました。とりわけ、そのなかで行われている核兵器使用の威嚇や原発への攻撃・占拠は、この間、核軍縮に向けた積み重ねを踏みにじる暴挙です。

軍事同盟であるNATOの拡大や、ウクライナ東部のロシア系住民に対する迫害を口実にしていますが、いかなる理由があろうとも、断じて許すことができない蛮行であり、抗議の声をあげ続けていかなくてはなりません。

今回の戦争で明らかなことは、武力による抑止力、軍事同盟に加わることでの地域の安全保障を得ることが、いかに危ういものであるかという点と、意図的、偶発的であろうと原子力発電所に対する攻撃は、大規模な惨禍をもたらし、さながら核戦争の様相ともなる危険性をはらむことがあらためて認識されたことです。

まずは即時撤退と対話への復帰が求められることは言うまでもありませんが、ロシア自身も参加し公表したはずの核保有国による「共同声明」(1月)の内容の遵守が当然行われるべきです。

アメリカの「核態勢の見直し(NPR)」をめぐっては、バイデン大統領は核兵器の“唯一目的化論者”、「米国の核兵器使用は、核攻撃の抑止と、米国や同盟国への核攻撃に対する報復に限られるべき」という立場だとされていますが、この間トーンダウンしているのは同盟国、つまり日本政府が抑止力の低下を懸念して働きかけを行っているからとみられます。

いっぽう、中国はアメリカとの対抗関係が強まっていることから、核弾頭を現有の300から2035年までに約900発へと増強する方向で検討していると報道されています。また、朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験などを繰り返し、核による攻撃能力保持をアピールしています。

核戦争の危険性が現実性を帯びる緊迫した情勢にありますが、だからこそ核保有国を正当化するような核抑止の論理がつくりだした現状として捉え、今回の対立軸のひとつとなった北大西洋条約機構(NATO)も含めて、全面的な批判・検証が必要です。そして、これらに対抗する国際的な世論形成をもって核軍拡への道を阻みつつ、「核なき世界」へと踏み出す人類史的な契機とすべきです。

 

ⅲ)日本政府の動向について

こうした状況にあって大きく問われなくてはならないのは、戦争被爆国である日本の役割です。岸田文雄首相は広島県選出であり、これまで「核軍縮はライフワーク」と語ってきた人物であることもあり、とくにTPNWへの日本政府の姿勢の変化を期待する向きもありましたが、前述のように、TPNWに対する態度に変化はみられません。

日本はこの間、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自称しながら、一貫してTPNWへの不参加の態度を変えることがありませんでした。しかしすでに発効し締結国会議も開催されているいま、早急に方針転換することが必須です。まずはTPNWへの積極的な関与の表明など、日本政府として具体的なステップをすすめるべきです。

岸田首相が2022年1月立ち上げを表明し、核兵器廃絶に向け核兵器保有国と非核兵器保有国の橋渡しの役割を担うことを目的に掲げた「『核兵器のない世界』に向けた国際賢人会議第1回会合」が、12月10日・11日、広島市で開催されました。その中の一つのセッションとして国内NGO団体と「賢人」との意見交換会が設定され、原水禁も「核兵器廃絶日本NGO連絡会」の一員として参加しました。

岸田首相や政府、外務省に対しては引き続き、これまでの日本政府のTPNWへの消極的かつ硬直的な態度をあらためるよう働きかけを行っていきます。この間、原水禁はピースデポなどとともに「北東アジア非核地帯構想」実現に向け、日本政府が真剣に検討することを求めてきました。朝鮮半島情勢がふたたび硬直化している現状だからこそ、戦争被爆国として具体的な行動が必要になっています。

そのいっぽうで、ロシアのウクライナ侵攻をむしろ奇貨として軍拡や改憲の機運へとつなげようとする勢力が跋扈しています。とくに昨年には故・安倍元首相が、アメリカの核兵器を国内に配備し共同運用する「核シェアリング」の導入を検討すべきなどと発言し、自民党や維新の会などの国会議員が呼応する事態がありました。

これに対し岸田首相は政府として検討は否定したものの、「国民的議論があるべきだ。我が国の安全保障に資する議論は行われるべきだと一般論として考えている」などと答弁し、自民党内での議論を容認しています。非核三原則を「国是」と言いながら、実質的にこれを破壊する動きを制御できない政府は戦争被爆国として果たすべき役割と努力を放棄していると言わざるを得ません。

岸田首相の肝いりで、本年5月、広島でのG7サミット開催に向け準備がすすめられていますが、このような状況を鑑みれば、被爆地・被爆者の核廃絶への思いを利用しながら踏みにじるものと言わざるをえません。2月14日には原水禁顧問の秋葉忠利さん(元広島市長)を中心に岸田首相に向けた要請行動にとりくみました。核抑止論は被爆者否定であると批判、G7の場で核先制不使用の宣言をするよう働きかけることを求めるとともに、G7各国首脳あてにも書簡を送付しています。さらにG7開催直前の5月17日に広島において、原水禁として「ヒロシマ」の意味を確認する集会を開催する予定です。

 

(2)高校生平和大使の活動

2020年度の第23代、2021年度の第24代と、欧州訪問など海外での集団活動は、新型コロナウイルス感染症の状況から断念せざるを得ず、それぞれの選出地域でのとりくみ中心に転換し、また、オンライン会議やSNSを活用しながら活動を行ってきました。

TPNW締約国会議の開催に対しては、広島・長崎選出の第24代平和大使が1人ずつ原水禁派遣団に同行し、核廃絶に向けたメッセージ発信にとりくみました。各国からの参加者への積極的な交流にとりくんだほか、若者イベントでの発言や現地からのオンライン報告会などを行いました。

また、第25代の高校生平和大使があらたに選出され、6月11・12日には広島での結団式と研修が行われました。しかし、例年8月に行ってきた国連欧州本部訪問については感染症の状況や国連窓口の対応がいまだ元通りに機能していないことなどから、断念せざるを得ませんでした。その代替として12月、「東京行動」が実施され、各国大使館訪問・外務省要請・国会議員への報告会・フィールドワークなどを行いました。

そして2022年は、25周年記念シンポジウムの開催と長崎原爆資料館前への「希望の碑」建立が行われ、あらためて高校生平和大使のとりくみが生み出してきたものの大きさを再確認したところです。

原水禁は、「高校生平和大使を支援する全国連絡会」を通じ、若者のとりくみ、被爆体験の継承課題にかかわるとりくみをすすめていきます。とくに、OPのネットワークづくりについて検討していきます。

 

(3)「原水爆禁止世界大会」と「3.1ビキニデー」の開催について

原水禁世界大会はこの間、福島・広島・長崎の各開催地に、全国から結集するかたちで行われてきました。開会・閉会総会や分科会、フィールドワークを通して被爆の実相を学び、議論するなかで反核平和に向けた思いを共有し、次代へと継承するうえで大きな役割を果たしてきました。

しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大が繰り返されるなか、2020年はそれぞれ現地での開催を断念せざるを得ず、オンライン配信のみでの開催となりました。2021年についても感染症の拡大するきびしい状況ではありましたが、現地のご尽力もあり、参加人数制限などの対策を講じながら、大会を「現地への代表参加」と「オンライン配信」を併用する形式で実施することができました。

2022年の「被爆77周年原水爆禁止世界大会」は、現地との協議を重ねたうえで、「従来の参加規模・日程の大会を開催する」「分科会は数を減らす」「子どもを参加対象とした企画は行わない(高校生平和大使の企画は実施)」という形式で、福島大会を7月30・31日、広島大会を8月4・5・6日、長崎大会を8月7・8・9日の日程で行いました。

また、国際会議は8月5日・広島で行い、約50人の参加でした。カロ・アクニャ・オルベラさん(アメリカ・ピースアクション共同議長)、デイブ・ウエブさん(イギリス・核軍縮キャンペーン前議長、オンライン参加)、そして秋葉忠利さん(原水禁顧問)をパネリストとして「否定される『核抑止』 廃絶への道程は?」と題し、現下のロシア・ウクライナ戦争などの世界情勢を踏まえた議論が行われました(コーディネータは藤本泰成・原水禁共同議長)。

結果として、福島大会は約400人、広島大会は約1200人、長崎大会は約800人の参加でした(いずれも開会行事の参加人数)。コロナ以前の規模に比べれば小規模ですが、現地結集のかたちで大きなトラブルなくやりきったことは、今後の原水禁運動の再前進をかちとるうえで大きな第一歩となりました。

被爆者の高齢化がすすむなか、「被爆の実相」を継承していくことは喫緊の課題です。また、核廃絶に向けた決意を共有していくうえで、原水禁大会の果たすべき役割は重要なものとなっています。

このことをあらためて確認しながら、被爆78周年となる2023年の大会開催に向け、準備をすすめていきます。この間とりくんできた映像配信やSNSなども活用しながら、とくに若い世代の参加をいっそう拡大していくことをめざしていきます。

1954年3月1日、ビキニ環礁でのアメリカによる水爆実験によって、「第五福竜丸」をはじめとする日本の漁船が被爆しました。このことをきっかけに日本における原水爆禁止運動が大きく拡がりました。私たちはこの被害の実相を継承し、核廃絶の決意を確認するため、毎年3月1日に静岡での集会を行ってきました。

新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえ、一昨年・昨年はオンライン開催としましたが、本年は全国からの現地結集での開催とし、約160人の参加がありました。市田真理さん(東京都立第五福竜丸展示館学芸員)から「ビキニ事件70年をまえに 被爆の実相をみつめなおす」をテーマに講演を受けました。また、翌2日には故・久保山愛吉さんの墓前祭を開催しました。

 

【とりくみ】

① 核兵器廃絶にとりくむ国内外のNGO・市民団体との国際的な連携強化をはかり、日本国内の核兵器廃絶にむけた機運を高めるため、核兵器廃絶にむけたとりくみを進めます。

 

② 米国の中距離核ミサイル再配備に反対し、「非核三原則」の法制化を含めたとりくみを強化します。

 

③ 原水禁・連合・KAKKIN3団体での核兵器廃絶にむけた運動の強化をはかります。NPT再検討会議をはじめ、核保有国大使館への要請行動などに協力してとりくみます。

④ 東北アジア非核地帯化構想の実現のために、日本政府やNGOへの働きかけを強化し、具体的な行動にとりくみます。さらにアメリカや中国、韓国などのNGOとの協議を深めます。

 

⑤ 非核自治体決議を促進します。自治体の非核政策の充実を求めます。さらに非核宣言自治体協議会や平和首長会議への加盟・参加の拡大を促進させます。

 

⑥ 政府・政党への核軍縮にむけた働きかけを強化します。そのためにも核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)や国会議員と連携したとりくみをすすめます。

 

⑦ 日本政府に対し、「核兵器禁止条約」への署名・批准を求め、被爆国として核兵器廃絶にむけた積極的な役割を果たすよう追求します。

 

⑧ 日本のプルトニウム増産への国際的警戒感が高まる中、再処理問題は核拡散・核兵器課題として、プルトニウム削減へのとりくみをすすめます。

 

⑨ 「高校生平和大使を支援する全国連絡会」を通して、高校生平和大使、高校生1万人署名活動のサポートなど、運動の強化をはかります。また、SNSなどを使い若者へむけた情報発信を強めます。

 

⑩ 核軍縮具体策としての核役割低減、先制不使用、警戒態勢解除、核物質最小化等の内容を広く情報発信します。

 

 

 

7.原発再稼働を許さず、脱原発を実現するとりくみ

 

(1)山積する福島第一原発をめぐる課題へのとりくみ

ⅰ)困難な廃炉作業とトリチウム汚染水の海洋放出

政府と東電は2041~51年までにデブリを取り出し、廃炉を完成させる計画ですが、現状は取り出し方法や機材の開発を行っている状態で、大幅に遅れることが予想されます。

政府は、関係閣僚会議でトリチウム汚染水(以下「汚染水」)の海洋放出を決定しました。放出時期は当初2023年春としていましたが、その後「夏以降」と報道されています。東電は、「関係者の了解なしでは放出しない」としていますが、その一方で放出に向けた設備の設置工事を進めています。また安全を訴える宣伝をテレビCMや新聞広告などで大量に流し、小中学校や高校へは「放射線副読本」の配布を行い、「理解促進・県民合意」の既成事実化を進めようとしています。

東電は、汚染水について「トリチウムは体内に取り込んでも排出される」、「基準以下に薄めて流すから安全」と安全性を強調していますが、放出は数十年にわたるもので、長期的な影響は不確実です。またトリチウム以外の様ざまな放射性物質をALPS(多核種除去設備)で除去するとしていますが、完全に除去できていないことも明らかになっています。そもそも海洋放出ありきの決定で、地上保管案など代替案の検討が十分にされていません。廃炉作業に伴い大量の放射性物質が放出されることも間違いなく、環境や生態系に対する影響が懸念されます。

この間、原水禁は、福島県平和フォーラムがとりくむ「トリチウム等を含むALPS処理水の海洋放出方針の再検討を求める署名」に協力し、署名提出行動、関係省庁との交渉に参加するほか、市民団体10団体と共に政府交渉を重ねてきました。地元福島のとりくみと連携し、国内外の世論への訴えを強め、政府や東電、自治体に対して交渉などを重ねていきます。

また原水禁は、福島第一原発の実態を知るために1月に現地視察を2回実施し、延べ33人が参加しました。12年経ったいまでも事故炉の中心部は放射線量が依然として高く、容易に作業ができない状況や、建屋の解体、デブリの取り出しの困難さなど収束作業の困難性を再確認しました。また「廃炉」イメージ(何をもって廃炉とするか)が定まっていないことを知り、あらためて廃炉計画の杜撰さを痛感しました。

また政府は福島原発事故によって出た「除染土」の「再生利用」に向けた実証事業を進めようとしています。新宿区や所沢市などで実施しようとしていますが、各地で反対の声が上がっています。汚染土の全国への拡散は問題であり、そのような動きに対しても、地元と連携し対応していきます。

 

ⅱ)避難生活に対する政府支援の打ち切りを許さないとりくみ

2022年12月現在で、福島県内に6,392人、県外に21,392人、避難先不明5人の合計27,789人が、今なお避難生活を余儀なくされています。さらにこの数字に含まれない自主避難者なども多数おり、福島県・復興庁の調査では十分に実態が把握されていないのが現状です。

避難解除された地域では、復興拠点を中心に町の再生が進められていますが、商店街や医療施設などのインフラの整備が進まず、就労する産業も進んでおらず、帰還者は、元の人口の1~2割程度に留まっています。長期に渡る避難で、生活の場が移ったことも大きく、復興・再生には多くの課題が残っています。

一方で、避難指示解除に合わせて住宅支援などの補償が打ち切られ(県内の災害公営住宅からの退去など)、避難者は生活の基盤が失われる状況に追い込まれています。また自主避難した被害者に対する住宅支援打ち切りと追い出しが強制的に行われ、この問題については裁判も行われています。被害者に寄り添う保障の実現に向けてとりくみを進めていきます。

 

ⅲ)国や東電の加害者としての責任を明確化するとりくみ

福島原発事故に対する東京電力旧経営陣3人に対する刑事責任を訴えた「福島原発刑事訴訟」について東京高裁は、1月18日に旧経営陣を「無罪」とする判決を出しました。裁判では、政府の地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」の信頼性と、巨大津波が原発を襲う可能性が争点となりましたが、高裁は東京地裁に続きこれを認めませんでした。

しかし「福島原発刑事訴訟」結審後に判決が示された東京地裁での旧経営陣に賠償を求める「東電株主代表訴訟」の民事裁判では、上記「長期評価」の信頼性を認め、旧経営陣4人が対応を怠ったとして、過去最高額の13兆円余りの賠償を命じました。刑事訴訟も民事訴訟も重要な証拠や論点はほぼ同じでしたが、結果は逆のものとなりました。

「刑事訴訟」では、東京高裁に対して原告側が、裁判長の現場検証とあらたな証人尋問および結審後に出た「東電株主代表訴訟判決」の証拠採用と弁論再開を求めてきました。しかしこれらはことごとく採用されなかったことから、刑事訴訟の「無罪」判決は、とうてい納得できるものではありません。

刑事訴訟は原発事故の最終的な責任を「誰が」取るのかを問うものでしたが、そのことに対する判断は示されず、「想定外」の災害であれば、国も事業者も免罪され、市民に被害だけが押し付けられるということになります。原発が存在するかぎり、政府・事業者のありかた、責任の所在について引き続き追及をしていくことが重要です。

この間原水禁は、「さようなら原発1000万人アクション」とともに福島原発刑事告訴団に協力、支援を行ってきました。今後指定弁護人が上告し、最高裁での争いとなり、引き続き支援を継続していきます。

 

ⅳ)子どもや住民の「いのち」を守るとりくみ

福島県内での甲状腺がんを発症した子どもの数は、昨年12月時点で新たに12人増えて338人になりました。発症者数は、増え続けている現状にありますが、政府や東電は、過剰検査などを理由として原発事故との因果関係を頑に認めていません。しかし、原発事故によって大量の放射性物質が広範囲に降り注ぎ、多くの住民が放射能に晒されたことは確実であり、不安を抱える住民も少なくありません。政府や県は被曝した住民が多数いるという事実に基づいて、住民の命を守るとりくみを進めるべきです。

甲状腺がんを発症した事故当時6~16歳の6人(その後1人が追加提訴)が、東京電力を相手に東京地裁で損害賠償請求訴訟を提訴し、裁判が2022年5月26日に始まり、その後5回の口頭弁論が開かれてきました。政府や東電は事故によって肉体的にも、精神的にも追い詰められている被害者の健康被害を認め、その補償に責任を果たすべきです。

原水禁は、「さようなら原発1000万人アクション」とともに裁判支援を進めていきます。

 

(2)核燃料サイクルに対するとりくみ

日本原燃は、昨年8月に、遅れている六ケ所再処理工場の完工が、26回目の延期となることを発表し、12月26日には「2024年度のできるだけ早期」に完工をすると発表しました。

この間の延期の主な原因は、原子力規制委員会が求める安全対策工事などの詳細設計に関わる設計・工事計画の認可(設工認)の申請に多くの時間を要していることです。日本原燃は、電力会社、ゼネコンなどの協力会社から協力を得て、設工認の申請作業に当たっています。

3月28日の審査会合で、日本原燃が設工認の2回目の総ページ約6万ページ資料の中で、約3,100ページ分が不十分であったことが判明しました。あまりにも杜撰な作業に、審査を進めている原子力規制委員会が杜撰さを指摘しています。早くも一年後の審査終了は、厳しいとの声が出ています。

完工延期が繰り返される再処理工場建設が象徴するように、核燃料サイクルの破綻は明らかであり、計画そのものの断念を求めるとりくみを強めていくことが必要です。6月24日には、3年振りに「4.9反核燃の日行動」を青森で開催します。全国から多くの人が集い地元の運動を支えるとともに、計画断念の訴えを広めていきます。

 

(3)原発再稼働に反対するとりくみ

岸田政権は、脱炭素の加速化やロシアのウクライナ侵攻によって生じたエネルギー問題を理由に、2022年にGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を立ち上げました。会議は福島第一原発事故以来、「原発の依存度を低減」とするこれまでの方針を転換し、原子力の最大限の活用、原発再稼働の推進と新増設、運転期間制限(現行原則40年、特別に60年まで)の撤廃、高速炉や小型原発、核融合炉の開発推進などを掲げ、岸田政権は原発積極推進に大きく舵を切りました。国会や市民にはかることなく、原発推進派の有識者を集めて、4か月ほどの議論で重要な基本方針を転換しました。その後のパブリックコメントに寄せられた多数の反対意見も尊重することなく、GX方針を閣議決定しました。

現在国会では、それに対応した「GX脱炭素電源法案」が審議されています。この法案は、原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の5つの改正案を束ねたものです。中でも規制委員会の所管する原子炉等規制法から原発の運転期間に関わる規定を削除し、経済産業省の管轄する電気事業法に移行し、原発の停止期間を除外し、60年超の原発の稼働を可能にしようとする法改正は、原子力規制委員会の委員から「安全側への改変とはいえない」と反対意見がでるなど問題の多い内容です。

そもそもGX方針は、原発の新増設やリプレース、小型原発の建設など、いまの電力業界の要望ですらないものが含まれ、核融合にいたっては実現できる見通しがなく、多くの項目に具体性や実現可能性がありません。GX会議の真の目的は既存原発の再稼働と運転期間の延長です。一方で廃炉や廃棄物処理、核燃料サイクル、避難計画といった積み残した重要課題を先送りするものに他ならず、無責任といわざるを得ません。

岸田首相は、2024年夏以降に最大で17基の原発の再稼働や再稼働認可をさせるとしていますが、実現には地元合意のとりつけや実効性ある避難計画の作成、耐震性の基準クリアなど多くの課題が山積しています。さらに、事業者の不手際やデータ改ざん、コンプライアンスの欠如などが目立っています。事業者としての適格性が問題となっています。

直近では、日本原子力発電(日本原電)敦賀原発2号機の審査において、審査資料に1千件以上の誤り(2019年)、審査資料の書き換え(2020年)、157件の審査資料の誤り(2021年)、同じく8件の誤り(2022年)と、事業者の資質も問題視され、異例の行政指導を受けることになりました。そのため敦賀原発2号機は、廃炉の可能性も出ています。さらに日本原電東海第二原発では、水戸地裁判決で、実効性ある避難計画が立てられないことで、運転差止が命じられています。

2023年3月の女川原発の避難訓練でも、車の渋滞、スクリーニングの体制の欠陥が明らかになるなど、原発再稼働には、大きな課題が残されています。

原発再稼働に対しては、原発立地地域の運動と連携を図り、再稼働の阻止や稼働中の原発の停止に向けた運動を進めていきます。そのことを通じてGX基本方針の政策見直しを求めていきます。

現在原水禁は、「さようなら原発1000万人アクション」に協力して、「原発回帰を許さず、再生可能エネルギーの促進を求める全国署名」にとりくんでいます。国会においては立憲野党と協力しながら問題点を追及します。さらに原水禁としてGX基本方針の問題点を明らかにしたパンフレットを作成し、問題の理解を広めるとりくみを進めます。

 

(4)高レベル放射性廃棄物の処分場誘致問題に対するとりくみ

処分場の候補地に名乗りを上げた北海道寿都町と神恵内村では文献調査が行われており、予定の2年が経過しました。原子力発電環境整備機構(NUMO)は、文献調査に並行して地元説明会を繰り返しながら次の段階である「概要調査」へ移行するための下地づくりを行っています。今後「概要調査」へ移行をさせないためのとりくみを進めなければなりません。また寿都町・神恵内村に続いて処分場の候補地に手をあげる自治体を作らせないとりくみもあわせて進めていくことが必要です。

政府は高レベル放射性廃棄物の最終処分を「政府の責任で取り組んでいく」との方針を明確にしたうえで、「原子力と関係が深い自治体との協議の場を設定し、課題の議論・検討を進める」、「複数の地域での(協議の)実施を目指す」とし、政府が主導して全国100以上の自治体を訪問するとしています。現在、長崎県対馬市、宮崎県木城町などで誘致に向けた動きがでていると言われ、今後、各地で同様の動きが出てくる可能性があります。このような動きに対しては早い段階で現地の運動と連携し、課題の全国化を図ることが重要です。5月27日~28日にかけて「どうする?原発のごみ全国交流集会」を札幌で開催し、全国的な運動経験の交流と今後の運動連携を確認していきます。

 

(5)エネルギー政策の転換を求めるとりくみ

原水禁は、福島第一原発事故以降のエネルギーを取り巻く環境の変化に対応したエネルギー政策の「提言」をまとめた「2021年原水禁エネルギー・シナリオ」を2021年3月に発表しました。概要版を全国会議員へ配布するとともに、提言全文を経済産業委員や関係議員、調査会委員に配布したほか、書籍として刊行しています。

これまで続いてきた人類の経済活動の結果、地球環境については様ざまなかたちで破壊や汚染が進行してきました。そのなかでも温室効果ガスの排出がもたらした気候変動は、もはや「気候危機」というべき状況です。この日本においてもすでに影響は現れており、他人事ではすまされません。このまま気候変動が進行するならば、生活する場所を破壊し多くの「気候難民」を生み出すことになります。

異常気象や海面上昇などがもたらす壊滅的事態を食い止めるために平均気温上昇を1.5度以内に抑えるという「パリ協定」で合意された目標の達成には、2030年までに温室効果ガスを2010年比で半減させることが最低限必要とされ、とりわけ世界第5位の排出国である日本については2013年比で60%以上の削減が必要と指摘されています。

日本が化石燃料への多額の公的投資を続けていることから、この間、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)のたび、NGOのネットワークから「化石賞」を授与されていますが、2022年11月のCOP27で3年連続の受賞となりました。

気候変動に対して不十分なとりくみしか行おうとしない日本政府に対し、環境NGOや市民が様ざまなキャンペーンを行い、削減目標の引き上げを訴えています。

温室効果ガス排出削減対策が講じられていない石炭火力について、2021年のCOP26で「段階的廃止」から「段階的に減らす」へと表現が後退し、多くの批判が上がりましたが、2022年11月のCOP27においても維持されました。

また、EU欧州委員会において、原発及び天然ガスを気候変動対策に寄与するものとして投資を促進する「EUタクソノミー」に盛り込む方針をめぐり紛糾したものの、7月12日に確定し、2023年より適用となりました。

このような原子力回帰をめぐる国際的動向を奇貨として、日本国内においても原発をクリーンなエネルギーとして再度拡大しようとする動きが強まっています。ロシア・ウクライナ戦争による世界的なエネルギー価格高騰の状況なども利用しながら、「原子力」や「火力」の再稼働や新増設の必要性をここぞとばかりに喧伝しています。

とくに、岸田政権は「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」で、原子炉の運転期間の延長や原発のリプレース(建て替え)、新型原発の開発・建設など原発の積極的活用路線をまとめ、閣議決定しています。こうした政府の原発回帰路線は許されるものではありません。

原子力ではなく、省エネや再生可能エネルギー技術の進展を見据えたエネルギー戦略に舵を切り、一刻も早く再生可能エネルギー100%の電源構成計画を実現すべきです。その際、メガソーラーや風力発電等で環境に影響を及ぼさないような規制とともに、原発温存を念頭にした旧大手電力に有利な電力市場構造が再生可能エネルギーの普及を阻害していることをふまえた制度整備が必要です。

私たちは脱炭素だけではなく脱原発を同時に推進することを以てのみ持続可能で公平な社会がつくられるのだということを基本において、原子力回帰を目論む反動的な動きに対抗し、運動を展開しなくてはなりません。こうした立場を共有する市民団体・NGO・市民と連携しとりくみをすすめていきます。

 

(6)重要性を増す「さようなら原発1000万人アクション」のとりくみ

「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」は、2011年6月15日に「さようなら原発『1000万人署名』市民の会」とともに、運動をすすめる実行主体として結成されました。原水禁は、多くの市民と運動の中心を担い、「脱原発」の世論形成を進めてきました。この間、「さようなら原発1000万署名」(8,827,760筆/2022年11月11日)や「岸田政権の新・原発推進政策に反対する緊急全国署名」(140,468筆/2022年12月2日)を提出してきました。また、2022年9月19日には、総がかり行動実行委員会と共催で「さようなら戦争 さようなら原発9・19大集会」(13,000人)を開催したほか、トリチウム汚染水の放出反対行動を呼びかけるなど運動の高揚をはかってきました。

また、「東電刑事訴訟」や「子ども甲状腺がん訴訟」、「東海第2原発差止訴訟」などの裁判支援にもとりくんできました。さらに毎月オンライン学習会を開催し、福島原発事故をめぐる諸課題や原発・エネルギーについての学習を深めてきました。

さらにロシアのウクライナ侵攻および原発・原子力施設への武力攻撃や占拠という事態を受けて、原発攻撃・占拠に抗議する集会を開催し、反戦と脱原発の運動を結び付けるとりくみを進めてきました。これ以上原発を戦火の中に置いておくことはできません。現在、国際原子力機関(IAEA)が現地に入り、調査が進められており、その動向を注視していかなければなりません。原発周辺の非武装化と職員の人権の確保とともに、一刻も早い停戦と速やかな軍隊の撤退を求めていきます。

「さようなら原発1000万人アクション」は今年2月から新たな署名「原発回帰を許さず、再生可能エネルギーの促進を求める全国署名」を立ち上げ、岸田政権の進める新たな原子力政策(GX基本政策)の撤回を求めていきます。さらに9月18日にはさようなら原発と気候危機や地球温暖化問題、再生可能エネルギーにとりくむ市民やNGOと共同で大規模なイベントを開催します。

 

【とりくみ】

① 福島原発事故に関する様ざまな課題について、現地と協力しながら運動を進め、政府や行政への要請や交渉を進めます。特に、汚染水の海洋放出に反対していきます。

 

② 原発の再稼働阻止にむけて、現地と協力しながら、課題を全国化していきます。合わせて自治体や政府への交渉を進めます。

 

③ 老朽原発の危険性を訴え、廃炉に向けた運動を進めます。

 

④ 関西電力の「原発マネーの不正還流問題」について「告発する会」に協力していきます。

 

⑤ 核燃料サイクル政策の破綻を明らかにし、計画の断念と六ヶ所再処理工場などの建設中止を求めます。

 

⑥ 大間原発や上関原発などの新規原発の建設中止を求めていきます。

 

⑦ 高レベル放射性廃棄物の地層処分に反対し、北海道平和運動フォーラムと協力しながら寿都町や神恵内村の文献調査の白紙撤回を求めていきます。さらに全国に広がる高レベル放射性廃棄物処分場誘致の動き対して、地元の運動との連携を強化していきます。

 

⑧ 原水禁エネルギープロジェクトがとりくんできたエネルギーの提言を活用し、再生可能エネルギー100%を実現させるようなとりくみを行います。

 

⑨ 「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の運動に協力し、事務局の中心を担い、とりくみの強化をはかります。また、ウクライナ問題についても引き続き原発問題を課題として、運動を進めます。

 

 

8.ヒバクシャ援護・連帯にむけてのとりくみ

 

(1)急がれる被爆者課題の解決

広島・長崎への原爆の投下から77年が過ぎ、被爆者健康手帳を持つ全国の被爆者は2022年3月末で11万8,935人となり、その平均年齢は84.53歳となりました。年々確実に高齢化が進み、医療や介護の支援拡充が喫緊の課題となっています。原爆症認定訴訟、被爆体験者、在外被爆者、被爆二世・三世など課題の解決も急がれています。被爆77年を超えて、今もなお被爆者のたたかいは続いています。原水禁・平和フォーラムは、被爆者との連帯を基本に、課題解決へとりくんでいきます。

 

(2)在外被爆者への差別を許さず援護を実現するとりくみ

戦後、祖国へ帰還した在外被爆者への援護は、日本の戦争責任・戦後責任と重なる重要な課題です。これまで在外被爆者の援護の水準は、国内に居住する被爆者の水準と比べて大きな格差がありました。原水禁・平和フォーラムは、在外被爆者自身の裁判闘争を支援し、「被爆者はどこにいても被爆者」であるとして、差別のない援護の実現にむけてとりくんできました。在外被爆者の権利を制限していた厚生労働省公衆衛生局長の402号通達(被爆者手帳を交付されていても、外国に出国や居住した場合は、健康管理手当の受給権が失効する)は、その違法性が最高裁でも認められ、制度上の不平等は大幅に改善しました。

しかし、年月の経過の中で、在外被爆者が本人の被爆を証明する証人を見つけることが困難となり、被爆者援護を受けられないケースが出ています。また、在朝被爆者は国同士の協議段階で個人としての救援が受けられず、被爆者援護の外に置かれているなど、いまだ多くの課題が残されています。

在朝被爆者を個人として補償しない状況が続くことは、人道的にも、日本の戦争責任・戦後責任の視点からも問題です。在朝被爆者の実態把握と人道的援護などを求め、政府・厚労省との交渉や国会で議論を促進することが必要です。

 

(3)「被爆体験者」に援護法の適用を求めるとりくみ

長崎では、爆心地から12キロ圏内において、放射能を含んだ雨(黒い雨)や粉塵を浴びたり、放射能汚染された空気や水、食物を体内に摂取したりした結果、被爆した人たちが多数存在しますが、旧長崎市内ではないことを理由に、被爆者援護法の枠外に置かれ、「被爆体験者」と位置づけられています。

2021年7月14日、広島の「黒い雨」訴訟では、広島高裁が、原告全員を被爆者と認定した一審判決を支持し、被爆者健康手帳の交付を命じました。判決では、「放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りる」と指摘し、これまでの「影響が分からないから予防的に広く救うのではなく、分からないから救わない」とする国の論理を覆すもので、画期的な判断でした。その後国は、原告全員を救済することとなり、黒い雨地域の見直しをすすめることとなりました。判決では、内部被曝の評価が大きな争点となり、そのことは長崎の被爆体験者訴訟にもつながるものです。長崎県と市が、「黒い雨」について調査検証を行った報告書を国に提出してもなお、国は「客観的な記録がない」とする認識を変えていないことは、広島と長崎で対応を分ける極めて不合理な対応です。

岸田首相は8月9日の平和祈念式典出席のため訪れていた長崎で、国が定める被爆地域外にいたとされる「被爆体験者」に対する医療費の支給対象に、がんの一部を追加する方針を示しました。9月22日、全国被爆体験者協議会や被爆体験者訴訟を支援する会など長崎から7人が上京し、被爆体験者問題の根本解決を求めた要望書を厚労省に提出し、岸田首相の「医療費の支給対象にがんの一部を追加する」と発言した具体的な内容の確認と交渉に臨みました。厚労省は、この段階ではまだ予算措置等を含めて検討中であるとしていましたが、同じく12月15日に再度説明を求めた際には、「被爆体験者」としての枠内で対応する旨の説明を行いました。具体的に厚労省が示した方針は、精神疾患に伴って発症し、医療費補助の対象になっている「合併症」と「発がん性」の関連を研究する事業の一環であり、研究協力への対価として医療費を支払うというものです。あくまでも「被爆体験者」は被爆者ではないという線引きを行うもので、同じ法律が適用される広島と長崎における差別につながるものです。

今後も「被爆体験者」は被爆者だと認めさせる根本解決に向け、裁判支援と共に行政への働きかけをさらに強化していくことが必要です。

 

(4)被爆二世・三世の人権確立を求めるとりくみ

父母や祖父母の被爆体験を家族として身近に受け継ぎ、自ら核被害者としての権利を求め、核廃絶を訴えている被爆二世協の運動は、今後の原水禁運動の継承・発展にとっても重要です。

被爆二世・三世は、被爆者援護法の枠外に置かれています。原爆被爆による放射線の遺伝的影響を否定できないなか、健康不安や健康被害、社会的偏見や差別などの人権侵害の状態に置かれてきました。被爆二世の全国組織である「全国被爆二世団体連絡協議会(全国被爆二世協)」は、国家補償と被爆二世への適用を明記した「被爆者援護法」の改正を国(厚生労働省)や国会に対して要求してきました。

2017年2月の提訴以来、5年10か月の審理を経て、12月22日、長崎地裁は原告らの請求を棄却するとの判決を示しました。国は「放射線被害があるという科学的根拠は示されていない」という主張を一貫して続け、被爆二世の健康不安に寄り添う姿勢を見せていません。

2月7日には広島地裁においても、「健康被害の可能性を明確に否定することはできない」「被爆二世が健康不安を抱くことは当然」と指摘しながら、「不当な差別とは言えない」として、原告の請求を棄却する判決を示しました。

これまで、科学的知見を確立するための被爆二世の課題に沿った研究促進を怠ってきた国にこそ瑕疵があるのにも関わらず、被爆二世の課題を先送りにしてきた国の責任は明確です。

それぞれ控訴し、今後も続く被爆二世裁判の支援と被爆二世の課題解決に向け全国被爆二世協の運動と連携していくことが重要です。

 

(5)被曝労働者の権利確立を求めるとりくみ

原発労働は、従来から工事の下請け企業による雇用が中心で、雇用や労働環境の問題はなおざりにされてきました。被曝問題だけでなく、幾重にも重なる下請け企業構造の中で、危険手当てのピンはね、パワハラ等、労働者の基本的な権利が侵害される事例が日常的に起きていることが危惧されます。原発事故を起こした深い反省と謝罪を繰り返す東京電力は、こういった実態については請負企業側の問題であるとし把握もしていないことを明言しています。

この間、被ばく労働者ネットワークや全国労働安全センタ―、さようなら原発1000万人アクション、ヒバク反対キャンペーンなどと政府交渉などを行ってきました。引き続き運動の連携を深め、被曝労働者の命と権利を守るとりくみを強化していきます。

 

(6)世界の核被害者との連帯を

原水禁運動は、国内の核被害者の支援・連帯はもとより、世界の核被害者との連帯を重要な課題として受け止めとりくんできました。核の「軍事利用」や「商業利用」では、とりわけ核のレイシズムともいわれる差別と人種的偏見による人権抑圧の下で、先住民に核被害が押しつけられ続けてきました。原子力利用は、ウラン採掘の最初から放射性廃棄物処分の最後まで、放射能汚染と被曝をもたらします。原水禁は、米・仏などの核実験による被害者、特に近年では、ビキニの被災者、ウラン採掘現場での被害者、チェルノブイリの原発事故での被害者など、これまで多くの核被害者との連帯を深めてきました。

原水禁は、今後とも、差別と抑圧のきびしい現実の中でたたかっている世界中のヒバクシャ=核被害者と連帯し、ヒバクシャの人権と補償を確立し、核時代を終わらせるために運動の強化が求められています。原水禁世界大会などを通して、核被害者との連帯をはかっていきます。

 

【とりくみ】

① 原爆症認定制度の改善を求めます。被爆者の実態に則した制度と審査体制の構築に向けて、運動をすすめます。

 

② 在外被爆者の支援や交流、制度・政策の改善・強化にとりくみます。

 

③ 在朝被爆者支援連絡会などと協力し、在朝被爆者問題の解決に向けてとりくみます。

 

④ 被爆体験者の再提訴裁判を支援します。

 

⑤ 健康不安の解消として現在実施されている健康診断に、ガン検診の追加など二世対策の充実をはかり、被爆二世を援護法の対象とするよう法制化に向けたとりくみを強化します。さらに健康診断などを被爆三世へ拡大するよう求めていきます。また、被爆者二世裁判を支援します。

 

⑥ 被爆認定地域の拡大と被爆者行政の充実・拡大をめざし、国への働きかけを強化します。

 

⑦ 被曝線量の規制強化を求めます。被曝労働者への援護連帯を強化します。

 

⑧ 被爆の実相を継承するとりくみをすすめます。「高校生1万人署名」、高校生平和大使などの若者による運動のとりくみに協力します。またDVD「君たちはゲンバクを見たか」のリニューアル版「核と人類は共存できない」の普及をはかります。

 

⑨ 世界のあらゆる核開発過程で生み出される核被害者との連携・連帯を強化します。

 

 

9.食・水・みどりをめぐるとりくみ

 

(1)食料・農業政策のとりくみ

長引くコロナ禍による生産・流通の停滞、世界的な異常気象による干ばつなどに加え、昨年からのロシアとウクライナの戦争により、世界的な食料価格の高騰や供給不足を招いています。世界の小麦やトウモロコシ貿易の多くを占め、さらに肥料の原料供給でも重要なロシアおよびウクライナからの輸入に頼ってきた国々では、危機的状況に直面しています。国連食料農業機関は全世界で8億人以上が深刻な食料不足状況にあると警告しています。

ウクライナ戦争による影響が、結果として日常的な貧困状態にあるアフリカ諸国などの食料難を加速させています。あわせて、貧困や飢餓をなくすという、2030年までのSDGs(国連の持続可能な開発目標)の達成についても危惧されています。

日本でも、食品価格の値上げが相次ぎ、今後も続くことは必至な状況です。農業生産でも生産資材の高騰が止まらず、農業経営の継続が困難となっています。昨年の肥料価格は前年比3割、飼料も2割上昇し、過去最高になりました。その一方、農産物価格は前年比0・6%の上昇にとどまっています。

近年、農業経営体や農業従事者は急速に減少し、農作物の作付面積は毎年、過去最低を更新しています。耕作放棄地も増加し、農業生産の基盤が崩壊しつつあります。また、食料自給率は38%(21年度・カロリーベース)と、依然として先進国中で最低水準にあり、さらに、近年は中国の食料輸入が急増する中で、必要量が確保できない「買い負け」状況にもなっています。円安や生産・輸送コストの上昇で輸入農畜産物価格が大幅に上がる中、安定的な食の確保に向けた食料・農業政策の転換が必至です。

農水省は、食料安全保障のあり方を焦点に、現在「食料・農業・農村基本法」を見直し進めています。6月には方向性を示し、来年の通常国会で新たな基本法を成立することとしています。また、昨年から施行された、2050年を目標に、農薬や化学肥料を削減し、有機農業の拡大をめざす「みどりの食料システム法」も含め、今後の農林漁業および食品産業の持続的な発展にどうつながるかも注目していかなければなりません。

これまでの食料輸入を前提とした、規模拡大・効率化一辺倒の農政ではなく、食の安全や環境問題などに配慮した政策への転換が重要となっています。農民・消費者団体と協力し、食料自給率向上や所得補償制度の拡充、食品の安全性向上などの法制度確立と着実な実施を求めていく必要があります。また、食の安全や農林水産業の振興にむけた自治体の条例作りや、各地域での学校給食等を通じた食育も重要となっています。

 

(2)通商交渉に対するとりくみ

2012年の第二次安倍政権以降、環太平洋経済連携協定(TPP11、2018年12月発効)、日本とヨーロッパ連合(EU)との経済連携協定(2019年2月発効)、日米二国間の貿易協定(2021年1月発効)、東アジアを中心とした地域的な包括的経済連携協定(RCEP、2022年1月発効)と、日本は次々と巨大な経済圏との通商協定を結んできました。

「メガFTA」と呼ばれるこうした協定により、日本は一挙に総自由化時代に突入しました。牛・豚肉をはじめ、輸入農畜産物の増加は国内農業に深刻な打撃を与えています。政府は、国内対策によって生産は減少せず、自給率も維持されるとしてきましたが、自給率の低下や離農の拡大を見れば、これは実態を無視した詭弁だったと言うしかありません。

メガFTAによる市場開放政策は、「農業を成長産業にする」「農産物の輸出を拡大して攻めの農業を推進する」などと言いながら、実態は、自動車等の輸出促進、日本企業の対外進出を図るために、農業を犠牲にする政策であったことは明白です。

さらに今、米国が主導し、日本や東南アジア諸国、韓国、インドなど14か国が参加する新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の交渉も開始されました。これは、中国に対抗する戦略目的を持つもので、中国に貿易の多くを依存している日本の姿勢が問われています。

また、アメリカと日本との2か国間の本格的な貿易交渉によって、コメを含む農産品についての交渉が再燃する可能性があります。TPPの参加国も拡大しようとしており、多くの国は日本の農産物市場の拡大を狙っています。

これまでの通商交渉では、野党や市民の追及にもかかわらず、交渉経過や内容が明らかにされてきませんでした。今後、徹底した情報公開や市民との意見交換を求めていく必要があります。世界的にも行き過ぎたグローバリズムによる格差の拡大に対する声も広がっていることから、こうした問題も検討していく必要があります。

平和フォーラムは、「TPP プラスを許さない!全国共同行動」など、関係団体と連携をはかり学習会・集会、シンポジウムの開催や政府交渉などを進めます。

 

(3)食の安全などをめぐるとりくみ

通商交渉の動きは食に関しても大きな影響を与えるものです。今年度から遺伝子組換え(GM)食品の表示制度が改定されます。また、新しい遺伝子操作であるゲノム編集技術を用いた食品の流通も行われています。消費者団体ではゲノム編集食品の表示を求める活動を行っています。

一方、農薬の残留基準値も徐々に緩和され、輸入農産物の検査体制にも影響を与えています。アメリカなどでは、収穫直前に農薬を散布して作業の効率化を図る方法もとられ、農薬の残留が問題になっています。一方、日本は単位面積当たりの農薬の使用量が世界的にも多く、発がん性や環境への影響も指摘されています。消費者団体などから有機農産物の拡大や学校給食への導入を求める運動が広がりつつあります。

また、いわゆる「健康食品」については、不確実な宣伝・広告があふれています。平和フォーラムも参加する「食の安全・監視市民委員会」では、広告の規制などを求めています。さらに、産地偽装も後を絶たない中、昨年度から全ての加工食品の重量割合1位の原材料の原産地表示が義務化されました。しかし、原料の原産地が分からないまま「国内製造」と表示されていることや、3か国以上の外国産原材料使用の場合は単に「輸入」というおおくり表示であるなど、消費者が望んでいた表示とはかけ離れています。消費者の権利として正しくわかりやすい表示が求められています。

 

(4)水・森林・化学物質などのとりくみ

水問題については、合成洗剤などの化学物質の排出・移動量届出制度(PRTR 制度)を活用した規制・削減や、化学的香料による健康被害の「香害」問題への早急な対策など、化学物質の総合的な管理・規制にむけた法制度や、有害物質に対する国際的な共通絵表示制度(GHS)の合成洗剤への適用などを求めて運動を展開していく必要があります。

特に1昨年、PRTR制度の指定物質に石けん成分が含まれようとしたことに対し、反対運動の結果、その方針を撤回させました。長年の運動の成果であり、改めて制度の意義を問い直すとともに、再度、同様の問題が起きないようとりくむ必要があります。

また、米軍基地などを発生源とする有機フッ素化合物による水汚染問題は、沖縄をはじめ全国に広がっています。早急に全国の実態調査と規制の強化を求めてとりくみを進めていく必要があります。

水の公共性と安全確保のため、今後も水循環基本法の理念の具体化や、「水道法改正」による水道事業民営化の動きを注視し、水道・下水道事業の公共・公営原則を守り発展させることが、引き続き重要な課題となっていることから、昨年10月の「第36回きれいな水といのちを守る全国集会」、12月の「第54回食とみどり、水を守る全国活動者会議」 の議論経過を踏まえ必要な対策をすすめます。

世界的な森林の減少と劣化が進み、砂漠化や温暖化を加速させています。日本は世界有数の森林国でありながら、大量の木材輸入により、国内の木材自給率は低迷してきましたが、最近は、国産材の使用拡大施策などが図られています。

政府は2040年を見通した新たな「森林・林業基本計画」で、木材供給量を4割増とすることや、森林の二酸化炭素の吸収機能強化、公共建築物への木材活用促進などをめざすとしています。また、本格化している「森林環境譲与税」を活用した森林整備、担い手育成なども重要になっています。一方、様ざまな通商協定による木材貿易への影響を注視する必要があります。

今後も、温暖化防止の森林吸収源対策を含めた、森林・林業政策の推進にむけて、「森林・林業基本計画」の推進、林業労働力確保、地域材の利用対策、山村における定住の促進などを求めていくことが必要です。

 

【とりくみ】

① 農林業政策に対し、食料自給率向上対策、直接所得補償制度の確立、地産地消の推進、環境保全対策、再生可能エネルギーを含む地域産業支援策などの政策実現を求めます。

 

② 各地域で食品安全条例や食育(食農教育)推進条例づくり、学校給食に地場の農産物や米を使う運動、子どもや市民を中心としたアフリカ支援米作付け運動や森林・林業の視察・体験、農林産品フェスティバルなどを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくっていきます。

 

③ 様ざまな通商交渉に対し、その情報開示を求め、問題点を明らかにするとともに、幅広い団体と連携を図り、集会や学習会などを開催していきます。

 

④ 輸入食品の安全性対策の徹底とともに、食品の安全規制緩和の動きに反対して、消費者団体などと運動を進めます。

 

⑤ 「食品表示制度」に対し、消費者のためになる表示のあり方を求めていきます。

 

⑥ 「きれいな水といのちを守る全国連絡会」の事務局団体として活動を推進します。また、水汚染問題や「水循環基本法」にむけたとりくみを進めます。

 

⑦ 関係団体と協力して、「森林・林業基本計画」で定めた森林整備の確実な推進、地産地消による国産材の利用拡大、木質バイオマスの推進などにとりくみます。

⑧ 温暖化防止の国内対策の推進を求め、企業などへの排出削減の義務づけや森林の整備など、削減効果のある具体的な政策を求めます。

 

⑨ 「第55回食とみどり、水を守る全国活動者会議」の実行委員会に参画して、開催にむけてとりくみます。

 

 

10.平和フォーラムの運動と組織の強化にむけたとりくみ

 

(1)平和フォーラムの運動の到達点と今後の課題

平和フォーラムの運動は、総評労働運動の歴史を継承し、共闘の基礎を担う産別中央組織と運動組織の中央団体、および各都道府県組織の活動によって支えられてきました。また、戦争法の廃止を求める運動の過程で、「戦争をさせない1000人委員会」、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」などの運動にとりくみ、運動の幅を広げてきました。これらの運動は、広範な市民と連携し社会の多数派形成を展望するうえで、従来の枠組みを超えた展開を可能とし、大きな役割を果たしています。

しかし、この間のとりくみの中でも、中央・地方間のとりくみの温度差があることが明らかになっています。「総がかり行動実行委員会」のとりくみが中心となっている地域から、平和フォーラムの運動の枠内で活動している地域まで様ざまありますが、このことは、各県の地域事情、すなわち連合との関係性、立憲民主党や社民党との関係性や、さらには日本共産党やその影響下の運動組織との共闘のあり方に規定されているのが実情です。

一昨年の衆議院選挙、昨年の参議院選挙の結果から、改憲勢力が両院で大きく3分の2を超えている現状を踏まえれば、大きく改憲発議へと進むことは明らかであり、平和フォーラムの運動にとっても、その帰趨がもたらす意味は重大です。平和や人権、環境をめぐる諸政策の実現を可能とする政治を実現していくためには、具体的で効果的な運動の再構築と、それを支える組織の強化が必要です。

このため、以下の課題について、組織強化の具体化について中央・地方の機関会議などで討論を進めていきます。

 

 

(2)運動と組織の強化にむけたとりくみ

ⅰ)より広範な運動展開と社会の多数派をめざす活動

平和フォーラムのとりくんできた諸運動の到達点を踏まえ、政策実現のとりくみを進めるために政府との対抗関係を構築する必要があり、ナショナルセンターとしての連合にその役割を果たすことを期待しつつ、広範な運動の連携構築をめざします。

中央では、政府との対抗関係を構築するために、この間とりくみを進めてきた、「戦争をさせない1000人委員会」、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」について、引き続き、とりくみを進めます。また、立憲民主党、社民党などと連携し、よりきめ細かな政府・各省・自治体等への対策を強化します。また、こうしたとりくみ全体を促進するため、研究者・研究団体、NPO・NGO、青年や女性団体などとの連携も強化します。 一方、平和フォーラムの地方組織においては、地域事情や様ざまな歴史が存在することを踏まえながらより広範な運動展開をめざしつつ、自らの基礎を固めるとりくみも重要です。このため、地方組織においては、それぞれの現在のとりくみを基礎として、地域事情に合った運動の展開をはかるとともに、ブロックごとのとりくみを重視し、運動を展開します。

 

ⅱ)平和フォーラム組織の強化・拡大

運動の継承を可能とするために、大きな課題として浮上している、次代を担う人材の育成については、平和フォーラムの課題を若い世代に丁寧に伝えるなかで、意識的に若い世代の活動家づくりを進めます。このため、共闘の基礎を担う産別中央組織と中央団体とともに、次代を担う人材の育成にむけて、10年後を展望して対応を議論していきます。また、平和フォーラムの運動を担う、新たな仲間の獲得も重要です。運動でのつながりの中から、さらなる組織拡大を追求していきます。

新型コロナウイルス感染症の対応が求められ続けた中で、Zoomやユーチューブなどの様ざまな情報通信技術を活用するノウハウが蓄積されてきました。またSNS活用の重要性はさらに高まっており、さらに積極的に活用していきます。しかしその際にも、新しい運動の担い手の結集の機会となるよう、意識しながらとりくみをすすめなければなりません。このために、運動の情報発信をより広く行い、とりくみの意義と目的が明確なものとなるよう努めます。昨年は3年ぶりに「ピーススクール」を開催し、40人を超える参加者が、7つの課題とディベートに熱心にとりくみました。またこの3月には福島・茨城・東京で連続的なアピール行動を行う「福島連帯キャラバン」も再開し、青年女性部を中心に若い世代の参加が期待されます。今年については、これら次代を担う人材の育成を意識的に進めていきます。

 

【とりくみ】

① 機関運営について

ア. 平和フォーラムの運動の課題と目標を具現化するために、Zoom等も活用しながら、常任幹事会、運営委員会、原水禁常任執行委員会を開催します。また、各地方組織の課題、平和フォーラムの活動の共通目標の確認のため、各都道府県・中央団体責任者会議、全国活動者会議を開催し、討議を進めます。組織体制や運動づくりを進める際に、男女共同参画の視点は必須です。女性や若年層などが参画しやすい運営と環境づくりに工夫を重ね、常にジェンダーバランスに意識した運営を心がけます。

イ. 首都圏における会議、イベントだけでなく、平和フォーラムの各都道府県組織との連携をはかるため、可能な限り平和フォーラムから、各地方ブロック会議に参加し情報交換を進めます。

 

② 運動の拡大をめざすとりくみ

ア. 「戦争をさせない1000人委員会」、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」、「さようなら原発1000万人アクション」などを軸として、平和団体、市民団体、人権団体との連携を強化します。研究者、文化人との連携も強化します。

イ. 制度・政策活動の充実にむけて、他団体、政党・議員との連携を強化し、政府・各省・地方自治体・関係企業などとの交渉力を強めます。また、政策課題に対応した立憲フォーラムをはじめとする議員団会議、議員懇談会との連携を強化します。

ウ. 国際的平和団体、反核団体、市民団体、労働団体などと連帯し、国連や関係政府に働きかけると同時に国際連帯活動を強化します。とりわけ東アジアを重点とした関係強化を図ります。

エ. 若い世代の活動家づくりを重点的に進めます。そのため、11月を目途に「ピーススクール」を開催します。

 

③ 情報の発信と集中、共有化について

ア. インターネットやその他の通信手段で平和フォーラム・原水禁のとりくみに接する市民が増えており、インターネット等による発信力の強化が求められています。今後は、それぞれの機能を有効に活用し、一方的な情報発信にならないような工夫、情報の整理と蓄積などを行います。

イ. 政策提言の発信や、パンフレットやブックレット、記録集の発行などをすすめます。

ウ.機関誌「ニュースペーパー」の定期発行を継続し、誌面の充実をはかるとともに、購読者の増加と活用機会の拡大に努めます。

 

④ 集会の開催、声明などの発信

中央、地方の大衆的な集会の開催、署名活動、社会状況や政治的動向に対する見解や声明などの発信などは、平和フォーラムの運動目標を具現化し、社会的な役割を拡大するために重要なとりくみです。政治情勢の変化によって起きるもろもろの事態に対応するため、適切なタイミングで声明等の発出に努めるとともに、運動の重点化、年中行事型運動の見直し、運動スタイルの見直しなどが必要です。参加しやすい環境づくりを念頭に置いて、見直しにとりくみます。

 

⑤ 財政基盤の確立と事務局体制の強化

運動の前進と継続のため、引き続き財政基盤の確立と効率的な執行に努めます。また事務局を支える役職員の確保やスキルの向上を計画的に進めます。

 

⑥ 課題と期間を特化した闘争交付金の活用

地方組織を対象に、改憲阻止、軍拡反対に特化した闘争交付金のとりくみは2023年3月末までとしてきました。しかし国会をめぐる情勢や世論の動向をふまえ、2023年6月末までに実施する事業を対象とするものに期間を延長します。

以上

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