2021年、運動方針
2021年04月23日
2021年度運動方針
2021年度運動方針
はじめに
2021年の世界は、いまだ新型コロナウイルス感染症の渦中にあります。全世界の感染者数はいまだに増加を続けており、特に、アメリカ、インド、ブラジル、イギリス、ロシアにおける状況は深刻です。ワクチンの開発を含めた治療法の確立には、まだ時間がかかるものと思われ、当面の間、私たちはこのパンデミックと向き合いながら、社会・経済活動を継続していくしかありません。
この感染症がもたらすであろう「アフター・コロナ」と言われる時代の世界秩序や、人々の生活の変化などについては、いまだ不透明な部分が多くあります。ただ、この間、これまでもあった経済格差が、全世界的に拡大していること、また、貧困の問題が深刻になっていることは明らかです。急速に格差と貧困と、それによる差別が進めば、社会が不安定となり、ひいては紛争を引き起こす原因ともなりかねません。この状況を踏まえて、私たちは、今後の世界情勢を見続けていく必要があります。
このようななか、アメリカではトランプ前大統領に替わり、民主党のジョー・バイデン新大統領となりました。バイデン政権を支える幹部にはカマラ・ハリス副大統領を筆頭に、女性や黒人などが並んでおり、トランプ前大統領が深めた米国社会の分断を修復することが期待されています。また、その外交姿勢は、同盟関係の重視と民主主義や人権の確立をめざすとする道義的責任を伴った外交政策への復帰を予感させるものです。
しかし、同時に、「アーミテージ・ナイレポート」の第5版にみられるように、トランプ政権下で蚊帳の外に置かれていた「軍産複合体」のブレーンたちが、バイデン政権下では一定の影響力を持つことが想定されます。このレポートでは中国と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が名指しされ、「最大の安全保障上の課題」とされています。軍事情報や諜報情報を共有する「ファイブ・アイズ」(米国・英国・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド)に日本を含めることも提起されており、日米の軍事一体化が急速に進むことに対して、最大限の警戒が必要です。
また、東アジアでは、金正恩委員長(総書記)が、韓国や米国との対話への道は残すこととしたものの、強硬な対米政策を標榜しており、また、南北関係についても、「完全な膠着状態」にあり、任期があと1年となった文在寅大統領が、南北対話に向けて、どこまで政治手腕を発揮できるか、不透明な状態です。さらには、日韓関係も徴用工問題やホワイト国外し、元慰安婦の女性らへの賠償を命じたソウル中央地裁判決など、日韓の緊張関係は改善の見通しが立っていません。
一方では、人権をめぐって、香港国家安全維持法による民主派活動家に対する大量逮捕・拘束や、ミャンマーにおける軍事クーデターなど、見過ごすことのできない人権弾圧が相次いでいます。私たちは、東アジアの平和の確立に逆行するこれらの課題について、東アジア各国の平和と連携、そして、民主主義の確立という価値観をもって、常に民間レベルでの働きかけをしていく必要があります。
このような情勢の下、安倍前政権を引き継いだ菅政権は、新型コロナウイルス感染症の対策において、有効な対策を打てないことにより、支持率を大幅に低下させています。冬を迎えれば感染拡大が進むことは明らかであったにもかかわらず、PCR検査の拡充や病床の確保など、問題が指摘されてきた様々な感染症対策を怠ってきたこと、社会的・経済的格差が急速に拡大している現状を見ずに、有効な対策を打てていないことなど、「官邸主導」の政治を進めてきた現政権には、すでに政権担当能力がないと言わざるを得ません。
日本学術会議会員の任命拒否問題も重大です。安倍前政権は、「森友・加計学園」問題、「桜を見る会」問題にみられたように、「お友達」には手厚く、自分と考えの違う人間は更迭する「権力の私物化」を進めてきました。結果として、常に官邸を守る中央省庁を作り上げ、あろうことか公文書の改ざんまで行ってきました。安倍前政権を引き継いだ菅政権が、日本学術会議会員の任命拒否問題を引き起こしたことは、ある意味必然です。このことは、憲法に定められた「学問の自由」への攻撃であり、立憲主義をないがしろにするものです。
また、菅総理の肝いりで推進されている「デジタル庁創設」に関連して、5法案からなる「デジタル改革関連法案」が、国会で審議されています。法案は、①個人情報保護の仕組みが担保されていないこと、②国の自治体への関与が強く地方自治を損ないかねないことなど問題が多く、結果として、民族、性別などに対する、新たな差別を生み出しかねないものです。法案の要綱等に、計45カ所の誤りがあったことは、本来、「自己情報コントロール権」を確保し、基本的人権を損なわない仕組みとして慎重に設計すべき制度が、政治的な思惑によって、付け焼刃の制度となっていることの現れです。また、「出入国管理及び難民認定法」の改定案や、「重要土地等調査法案」など、基本的人権を侵害する法案についても国会審議が進められており、廃案をめざした取り組みが必要です。
以上のように、無策であるだけでなく、民主主義を破壊する危険性をもった菅政権には、一刻も早く退陣してもらわねばなりません。今後、4月25日の衆議院北海道2区、参議院長野選挙区、広島選挙区の補欠選挙、7月の都議選、そして衆議院の解散総選挙が予定されており、「暮らしといのち」を守る政治の確立、立憲主義の回復などに向けた、大きな転換点となります。平和フォーラムは、この機会を最大限に生かしながら、今年のとりくみを進めていきます。
1.憲法理念を実現するとりくみ
(1)憲法理念の実現にむけて
日本国憲法は、前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」し、第9条で「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」を、第3章「基本的人権」や第10章「最高法規」で「基本的人権の本質、普遍性、永久不可侵性」を定めています。平和フォーラムの基本的立場は、これらに示された憲法理念の擁護と実現をめざすとともに、人権や民主主義の国際的な確立にむけた世界の到達点に立って、さらに発展させることです。そしてこの間、東北アジアの平和に向けたとりくみや、人々の生命の尊厳を最重視した「人間の安全保障」の具体化をめざしてきました。
安倍政権は2012年12月の第2次政権成立以来、特定秘密保護法の強行採決、「防衛装備移転三原則」閣議決定(武器輸出の実質的解禁)や、集団的自衛権行使容認の閣議決定、戦争法強行採決とその実体化としての南スーダンPKOへの新任務付与、軍学共同推進、そして2017年には「共謀罪」強行採決と着々と憲法破壊に踏み込んできました。
平和フォーラムは、2014年3月の「戦争をさせない1000人委員会」発足と「集団的自衛権」行使容認反対のたたかいのなかで、東京―全国を貫いての広範かつ大衆的な共同行動を推進してきました。そのことは「総がかり行動実行委員会」や「市民連合」として結実し、とりわけ議会内においては自民党に対抗しうる野党共闘を実現すべく奮闘してきました。
その結果、2016年・2019年の参議院選挙、2017年の衆議院選挙での候補者調整をすすめることができ、とりわけ参議院での改憲勢力の3分の2割れを実現することになりました。
2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大は、こうして積み上げてきた私たちのとりくみに大きな影響を及ぼしてきました。しかし、それぞれが手探りし工夫しつつ、この困難と向き合いながら、憲法軽視の政権と対峙してきた1年でもありました。
(2)憲法軽視の菅政権の退陣を求めるとりくみ
昨年、安倍前首相が自らの健康問題を理由として辞任しました。新型コロナウイルス感染症に対する無為無策はだれの目にも明らかで、一方「持続化給付金」中抜き問題の発覚や「GoToキャンペーン」の強行などへの批判は集中し、内閣支持率が大きく下落するなかの出来事でした。
あれほどまでに執着してきた改憲発議の実現をみることなく、安倍前首相は政権を投げ出すこととなりました。一貫して自民党が大多数を握る国会構成にもかかわらず、改憲に実際に着手させず押しとどめたのは、第一に「総がかり行動実行委員会」「市民アクション」を中心とした全国的な市民のねばり強いたたかいであり、そしてこれに結合した立憲野党の奮闘であることを確認しなくてはなりません。
しかしながら、安倍政権の7年8か月が日本社会に残した傷跡はあまりに大きいと言わざるを得ません。「森友・加計学園」問題、「桜を見る会」問題の究明・追及はまだ続いていますが、身内への利益誘導の横行にみられる極まった政治腐敗や、官僚組織を支配下に置いて公文書の破棄・偽造や国会での偽証などを行わせるなど、議会制民主主義を空洞化させてきた実態はすでに明らかになっています。
政権を継いだ菅首相にしても、日本学術会議会員任命拒否問題を引き起こし、なお居直っているほか、長男の総務省違法接待問題の発覚などからしても、その本質が安倍前首相同様の憲法軽視、法律軽視、民主主義軽視の政治姿勢にあるのは、疑う余地がありません。したがって、憲法に基づいたまっとうな民主主義を取り戻すためにも、私たちは安倍前首相ならびに菅首相の疑惑追及を野党各党とも連携しながら、国会内外を貫くとりくみを引き続き行っていく必要があります。
この間、「総がかり行動実行委員会」「市民アクション」の呼びかけによる国会周辺での抗議行動や街頭情宣行動を行ってきましたが、とりわけ検察庁法改正問題に対するtwitterなどSNSでの意思表明やオンライン署名の飛躍的拡大など、これまでみられなかった形態での活動を経験したことを今後に活かしていくことが重要です。
そして、国会解散などによって時期の前後はあるにせよ、2021年中には衆議院議員総選挙が必ず行われます。この間私たちが築いてきた全国各地での運動と共闘の内実が問われることになります。市民連合が尽力してきた野党共闘による選挙協力体制は、今や全国的にとりくまれています。菅政権を退陣させ、政治を大きく変えていく岐路にあることを確認しながら、引き続き努力を積み重ねていきましょう。
(3)憲法審査会を中心とした国会動向に対するとりくみ
昨年来の憲法課題をめぐる最大の攻防点は、改憲発議の前提となる「改憲手続法」(国民投票法)改正でした。現状は衆議院憲法審査会で審議入りした状態にあり、今通常国会においては予算成立以降、憲法審査会開催を積み重ねて採決に持ち込むことが狙われています。
実際、自民党の森山裕国対委員長は1月18日、今国会中に「必ず通したい」などと述べています。私たちとしても今通常国会での国民投票法改正案をめぐる攻防が、改憲を最終的に断念させる上でも重要な意味を持っていることを認識し、警戒を強め、対策をすすめなくてはなりません。
この間の憲法審査会での自由討論などにおいても、自民党・公明党の理事は憲法審査会の定例的開催を主張しているほか、維新の会が即時採決を主張するなど右からの後押し役を行っていることなどを踏まえ、今後の動向に注視し、法律家団体と協力しながら憲法審査会の傍聴行動や情報分析を行っていきます。
(4)護憲大会のとりくみ
「憲法理念の実現をめざす大会」(護憲大会)については、第58回を数える本年は10月30日から11月1日にかけて、宮城県・仙台市での開催を予定しています。
しかし昨年の滋賀県・大津市での第57回大会と同様、新型コロナウイルス感染症問題の状況によっては、従前の3日間(開会総会・分科会・閉会総会)の形式にこだわらず、そのときに可能な開催形態での開催をできるかぎり追求していくことが必要です。
地元実行委員会としっかり協議しながら、インターネット配信の活用など昨年の経験を生かした大会づくりをすすめていきます。
(5)広範な市民の結集に向けたとりくみ
ア.安倍改憲を許さない総がかり行動実行委員会、全国市民アクション・戦争をさせない1000人委員会、市民連合のとりくみ
安倍政権が退陣したとは言え、改憲策動が止まったわけではありません。とくに本年は衆議院議員選挙が行われることから、自民党の有力な支持母体というべき改憲勢力をつなぎとめるために、今後も様々なかたちでの改憲キャンペーンの展開が予想されます。
平和フォーラムとしても、改憲阻止に向けてたたかう体制構築を継続し、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」による全国的大衆行動を推進していく必要があります。
「総がかり行動実行委員会」は、2015年9月19日の戦争法強行採決以来、毎月19日の共同行動を継続するとともに、政治上の重要課題に対しては国会周辺での諸行動をすすめてきました。改憲発議を最終的に断念させるまで、引き続き、情勢に合わせ、諸行動や全国キャンペーンを強力に推進していきます。
この間、5月3日の憲法(施行)記念日集会については、2015年以来大集会を実現してきましたが、2020年については新型コロナウイルス感染症問題によって東京・有明防災公園での開催を取りやめ、国会正門前ステージのインターネット中継に切り替えて行いました。本年についても同様の形式での実施に向け準備がすすめられています。
当面、大規模集会開催は困難な状況が続くことが予想されます。私たち自身もいのちや健康を第一に置きながら、そのうえでどのような運動展開が可能なのか検討し試行を重ねていかなくてはなりません。地域ごとに分散しての同時行動を設定するなどの工夫を検討していきます。また、すでに部分的に導入・実施しているインターネットでの動画配信やSNS、オンラインミーティングの活用などをいっそうすすめる必要があります。
改憲発議阻止にあたっては、反対派にも、そして賛成派としても組織されていない大多数の市民に対し、改憲の危険性について知ってもらうことが必要です。そうした意味においても、これまで憲法に関心を持っていなかった人びとに対して訴えかけるツールとしてインターネットの重要性は明らかです。ウェブサイトやSNS、動画配信などを活用した情報発信能力の強化をめざします。これらをとおして、よりいっそう改憲反対の世論醸成にとりくんでいきます。
「総がかり行動実行委員会」をはじめとしたこれまでの運動について、昨年平和フォーラムとしての総括を集中的に行いました。引き続き、捉え返しの作業を行いながら運動構築をすすめます。またこの間培った諸団体・個人のネットワークを再点検し、結びなおしていくことも重要です。
平和フォーラムは「戦争をさせない1000人委員会」運動をとおして、憲法破壊・人権破壊・生活破壊をすすめる安倍政権、そして菅政権と対決する多くの人びととの共同をつくりだすべく奮闘してきました。「総がかり行動実行委員会」「市民アクション」による改憲阻止のたたかいが継続的にとりくまれていますが、沖縄・辺野古新基地建設に反対するたたかいや、原発再稼働に反対し脱原発を求めるたたかいなど、さまざまなとりくみが並行してすすめられています。そして「市民連合」は、野党共闘の実現に向けて、各野党に対する働きかけを行い、一定の成果を出しています。衆議院の総選挙に向けて、15項目にわたる「立憲野党の政策に対する市民連合の要望書」を基本とし、重層的な展開を結びあいながら、国会内外・全国各地での運動拡大を実現します。
そのために、全国的なネットワークを持つ「戦争をさせない1000人委員会」が果たすべき役割は、大きいものがあります。安倍前首相を中心とした改憲については阻むことができたとは言え、改憲勢力はいまなおあきらめることなく着実に改憲キャンペーンをすすめていることを踏まえ、これに対抗するためにさらに細やかに地域レベルでの運動形成を推し進め、市民との連携を強化していきます。
改憲情勢に抗し発足した超党派の議員連盟「立憲フォーラム」(代表・近藤昭一衆議院議員)は「戦争をさせない1000人委員会」と連携しながら、市民の行動への連帯に積極的にとりくむとともに、野党各党の協力関係を牽引してきました。平和フォーラムもこれらの動きと連動しながら、国会での攻防も含め、大きな動きをつくりだしていきます。
イ.安保法制違憲訴訟のとりくみ
法曹・学者・市民の協力のもと、戦争法の違憲性を問う「安保法制違憲訴訟」が、現在全国25か所でとりくまれています。これらの各地の訴訟原告は「安保法制違憲訴訟の会」として、全国の弁護団とのネットワークが形成されています。訴訟の内容は国家賠償法請求訴訟と自衛隊の出動の差し止めを求める行政訴訟です。
これまでに7つの判決が出され、いずれも違憲性を認めない不当なものでしたが、違憲判決を勝ちとるために全国で原告・弁護団・支援者が一丸となった奮闘が続けられています。また、「安保法制違憲訴訟女の会」が訴えているように、この裁判を通じて、軍隊による性暴力に対する責任を訴え、あらゆる場面における貧困と暴力、差別の根絶に向けてとりくんでいくことが必要です。
この違憲訴訟を支援するために結成された「安保法制違憲訴訟を支える会」への協力を中心に、平和フォーラムとしてもとりくみをすすめていきます。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 戦争国家づくりを推し進めた安倍政権やそれを継承した菅政権の動きに対抗する全国的運動として「戦争をさせない1000人委員会」のとりくみをすすめます。人々の「生命」(平和・人権・環境)を重視する「人間の安全保障」の政策実現を広げていく「武力で平和はつくれない!9条キャンペーン」、「9の日行動」などを各地で行います。「持続可能で平和な社会(脱原発社会)」を求める「さようなら原発1000万人アクション」のとりくみと連携します。
② 「総がかり行動実行委員会」「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」主催の共同行動にとりくむとともに、「戦争をさせない1000人委員会」独自の諸集会・行動、宣伝活動を展開します。
③ 戦争法の廃止・憲法改悪の阻止のとりくみを引き続き全力でとりくみます。米軍再編、自衛隊増強などを許さないとりくみと連携して、日米軍事同盟・自衛隊縮小、「平和基本法」の確立、日米安保条約を平和友好条約に変えるとりくみをすすめます。
④ 自民党による改憲攻撃に対抗するとりくみを強め、立憲フォーラムと協力し、院内外での学習会などを行います。中央・東京での開催とともに、ブロックでの開催を奨励し協力します。また、機関紙「ニュースペーパー」での連載企画や冊子発行、論点整理のホームページなどを適宜、情報発信します。
⑤ 新しい時代の安全保障のあり方や、アメリカや東アジア諸国との新たな友好関係についての大衆的議論を巻きおこすとりくみを引き続きすすめます。
⑥ 5.3憲法集会を、2015年以来の共同のとりくみの枠組みである「平和といのちと人権を!5.3憲法集会」として継続しながら、感染症の状況を踏まえ、その実施の可否を含め検討していきます。あわせて、全国各地での多様なとりくみを推進します。
⑦ 「憲法理念の実現をめざす第58回大会」(護憲大会)は、宮城県・仙台市にて開催します。なお、下記日程は現時点での予定であり、今後地元実行委員会と協議しながら開催可能な形式を追求していきます。
10月30日(土)午後 開会総会
10月31日(日)午前 分科会
11月1日(月)午前 閉会総会
2.専守防衛の枠を超えて拡大する日本の防衛政策に対するとりくみ
(1)日本の防衛政策に対するとりくみ
ア.「アーミテージ・ナイレポート」の第5版について
日本の安全保障政策に影響があるとされる「アーミテージ・ナイレポート」の第5版が2020年12月に公表されました。
「アーミテージ・ナイレポート」はこれまで、第3版(2012年8月)で集団的自衛権の行使、武器輸出三原則の撤廃が提案され、ほどなく安倍政権下で実現されてきたほか、第4版(2018年10月)では、日米同盟の強化と対中国を鮮明に打ち出し、基地の共同使用、日米合同部隊の創設、防衛装備品の共同開発、宇宙・サイバー分野での共同対処などが提案されていました。2018年当時、トランプ政権下で蚊帳の外に置かれていたリチャード・アーミテージやジョセフ・ナイらジャパンハンドラーが、日米同盟の重要性をプロパガンダとして日米両政府に示したものでしたが、結果として米海兵隊と陸上自衛隊の水陸機動団(日本版海兵隊)、B2戦略爆撃機と自衛隊機の共同訓練、岩国基地所属の米海兵隊が自衛隊の岡山県日本原演習場を単独使用して軍事訓練をするなど、日米両軍の共同運用が拡大していきました。また敵基地を事前に攻撃することを作戦戦術とする「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」に自衛隊を組み込み、「日米共同統合防空・ミサイル防衛訓練」が行われ、宇宙分野での日米共同の動きも、放物線を描く弾道ミサイルではない極超音速滑空ミサイル攻撃に対応するとされる「衛星コンステレーション」や「宇宙状況監視(SSA)システム」への自衛隊の参加がめざされるようになりました。
今回の第5版では、トランプから代わったバイデン政権下での日米同盟強化の方向性を示したものであり、中国と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)を名指しして最大の安全保障上の課題だとしています。そして、軍事情報や諜報情報を共有する「ファイブ・アイズ」(米国・英国・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド)に日本を含めることを提起し、さらに日米の指揮統制や役割、任務などを議論し、反撃能力やミサイル防衛を構築していく重要性を訴えています。明言は避けているものの、米軍の指揮権の下、日米統合軍として自衛隊を組み込み、対中国、朝鮮への攻撃能力を強化していくことを提言したものに他なりません。
イ.防衛予算の拡大に反対するとりくみ
2021年度の防衛費は9年連続増となる5兆3422億円(当初予算)で、前年の当初予算額5兆3133億円より0.5%の伸びを示しています。社会保障関連費が対前年比0.4%増、文教・科学振興費が0.1%増にとどまっていることから見れば、青天井の防衛費の伸びは問題です。ましてや、防衛費拡大の要となっているのが、敵基地攻撃能力の実質的な保有にかかわる装備・技術開発であり、宇宙・サイバー関連の予算を強化したことは許されません。
アーミテージレポートでは「日本はGDPのわずか1%しか防衛に費やしていない」とさらなる防衛費の増額を要求しており、今後も日米軍事一体化の中で、ミサイル防衛や宇宙分野の開発費や高額の米国製装備品の購入を求められていくものと思われます。
ウ.自衛隊の海外派兵に反対し、安保法制の廃止を求めるとりくみ
2014年7月、集団的自衛権の行使容認閣議決定、2015年4月、「日米防衛協力のための指針」(日米ガイドライン)、2015年9月の安保法制(戦争法)の強行採決をへて、日米軍事一体化が拡大し、日本と米国が一体となって「戦争ができる国」へと突き進んでいます。
中東情勢が緊迫する原因となった米国のイランの核合意からの一方的な離脱ののち、米国は「有志連合」を組織して、中東海域に軍隊を派遣しました。日本は、「有志連合」に参加はしなかったものの、防衛省設置法の「調査・研究」を根拠として護衛艦および対潜哨戒機を派遣しています。すでに2020年1月に第1次派遣が行われてから、2020年12月に派遣期間を1年延長する閣議決定が行われ、4次にわたる自衛隊艦船の派遣が実施されていますが、どのような活動をしているのか防衛省は詳細を明らかにすることはありません。調査研究が目的であるとしながら、その結果報告が不明であることは許されません。
また、これまで防衛大学校人権裁判や自衛隊内でのいじめについてとりくみをすすめてきましたが、自衛官の自殺やパワハラ問題が、自衛隊の任務拡大のなかで増大していることから、これら問題に引き続き関心を寄せていきます。
エ.軍事研究や武器輸出を許さないとりくみ
陸上自衛隊の「水陸機動団」を辺野古新基地に常駐させることを、自衛隊の制服組と米海兵隊が極秘合意していたことが明らかになりました。このことは軍隊の制度や運用で規制を図るシビリアンコントロールが形骸化していることを如実に物語っています。防衛官僚(文官)が制服組より優位に立つ「文官統制」のシステムが2015年の防衛省設置法改正で撤廃され、また部隊の管理や訓練などの運用を計画していた内局の「運用企画局」が廃止されたことにより、「統合幕僚監部」が一元的に関与するようになったことが、今回の辺野古極秘合意の問題につながります。加えて議事録などを一切残さない日本版NSC「国家安全保障会議」が、軍事にかかわる情報を市井から隔絶させていることも問題です。情報公開や公文書管理などで全く不十分な日本の行政の実態から鑑みるに、かつての帝国日本軍のように暴走する危険性があるものと言わざるを得ない状況になりつつあります。
2015年に新設された「安全保障技術研究推進制度」を活用した大学、研究機関、企業等への助成は、2020年度の応募件数が120件と過去最高になりました。大学からの応募は少ないものの、公的研究機関や企業からの応募が増加しており、注目すべきは大学からのベンチャー企業が多数応募し採用されていることです。戦後2度にわたって「戦争目的の軍事研究はしない」と声明を発出している日本学術会議に対する委員任命拒否の問題であきらかなように、政府にとって都合の悪い組織に対して圧力を加え、文教・科学振興予算をおさえておきながら、軍事予算の枠組みで助成をちらつかせる政府の姿勢が浸透している気配にあります。
一方武器輸出については、昨年8月に日本からフィリピンへ警戒管制レーダー4基(約100億円・三菱電機製)を輸出する契約が結ばれ、「国産の完成装備品」の武器輸出としては、2014年の「防衛装備移転三原則」の策定以降初めてとなったほか、今後もC2大型輸送機をアラブ首長国連邦へ、護衛艦をインドネシアへ輸出する動きがあります。
平和フォーラムは、日本学術会議の声明を支持するとともに、軍事研究や武器輸出の動向を注視し、市民社会に軍事が浸透していくことに監視の目を光らせていきます。
オ.日米軍事一体化、日米統合軍に反対するとりくみ
米国の対アジア戦略は、アーミテージ・ナイレポートが示す通り、対中国、朝鮮を意識したうえで、中国の海洋進出を阻止し、ミサイル防衛システムを構築することにあります。そして、兵力を大規模な基地に集中することなく、分散配備することに重点を置く方針を示しています。日本はその軍事戦略を補完する役割を担わされ、宇宙空間を含め、ミサイル防衛システムに欠かせない情報の共有、指揮系統の米軍との統合が進むことになりそうです。
こうした日米軍事一体化と統合軍化の動きは、2018年から始まった「インド太平洋方面派遣訓練」や、米軍B2戦略爆撃機と航空自衛隊機の合同軍事訓練、九州地方でたびたび実施される海兵隊と水陸機動団との共同演習など、各地で行われる共同軍事訓練の回数が格段に増加していることからもわかります。与那国・石垣・宮古・奄美大島・馬毛島など南西諸島で進む自衛隊の新基地建設もこの米国の対中国戦略と連動した自衛隊の強化といえます。さらに米国は沖縄からフィリピンを結ぶ「第1次列島線」に地上発射型長距離ミサイル網の構築を目論んでおり、沖縄の米軍基地にミサイルの配備される危険性が高まっています。決して専守防衛に基づく「防衛の空白地」を埋めるものではありません。
南西諸島での軍事強化は、偶発的な衝突を招きやすくなるばかりでなく、際限のない軍拡と軍事費の増大にならざるを得ません。
日米軍事一体化をすすめ、専守防衛を逸脱する技術・装備を保有することは、日本の安全保障環境をより悪化させるだけです。軍事による抑止力ではなく、経済・文化・環境など多角的な外交を基軸とした対話に基づく外交・安全保障政策に転換していくことが必要です。
カ.日本の主権をないがしろにする日米地位協定を見直すとりくみ
沖縄の米軍基地、東京・横田基地、青森・三沢基地などでの有機フッ素化合物による環境汚染、沖縄北部の米軍返還跡地での米軍が放射性物質を遺棄した問題、住宅密集地の近接したところでのパラシュート降下訓練、夜間飛行訓練の増大、普天間基地での外来機飛来の増加、沖縄東村高江の集落の新たに建設されたヘリパッドを使用するオスプレイ等の騒音被害が飛躍的に拡大しています。そのほか米軍機が増強され騒音問題が懸念される岩国基地など、在日米軍による被害が米軍基地所在都道府県で広がっています。新型コロナウイルスを巡っても、沖縄や青森、神奈川等の米軍基地で集団感染が確認され、米兵の民間施設利用や民間航空機利用などで、感染拡大の可能性が指摘されるなど、米軍の検疫体制の問題が表面化しました。
日米軍事一体化が進むなかで米軍の動きがより活発になることは明らかで、騒音や部品落下などの事故により、基地周辺住民のみならず私たちすべてにとって、ますますいのちや生活にかかわる問題を抱えこまざるを得ない状況になっています。しかし、米軍機等を規制する法的枠組みはありません。
戦後の占領期と同じように自由に行動することを望んだ米国は、1951年の旧安保条約と行政協定、1960年に日米間で調印した新安保条約と日米地位協定を通じて米軍の特権を維持しつづけました。日米地位協定3条で合同委員会での日米両政府の協議が明文化され、一見日米対等であるかのように装っていますが、「秘密協定」ともいえる『日米地位協定合意議事録』で、かつての行政協定と変わらない米軍の特権的権利が保障されるようになっています。
私たちのいのちとくらしを守るためには、平和憲法の理念に立ち返って日米安全保障条約のあり方を問い直し、日米地位協定を見直すとともに、日米間の「秘密協定」や議事録も公開されない日米合同委員会への批判を強めていかなくてはいけません。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 専守防衛から逸脱する装備や技術などを検証し、機関紙やホームページ等で情報発信するとともに、防衛費の拡大に反対するために政府要請行動にとりくみます。
② 自衛隊の海外派兵の動きを注視し、「戦争させない1000人委員会」とともに、「総がかり行動実行委員会」主催の共同行動にとりくみながら、集団的自衛権の行使容認の撤回、安保法制(戦争法)の廃止を求めるとりくみを行っていきます。また、海外派兵、専守防衛からの逸脱など自衛隊の任務も過剰となりまた変化していく中で、自衛官の任務や人権にかかわる実態について調査するとりくみも進めていきます。
③ 軍事研究や武器輸出の動向を注視し、市民社会に軍事が浸透していくことに監視の目を光らせていきます。
④ 日本の領域外での軍事訓練は、集団的自衛権の行使の予行演習ととらえて抗議するとりくみを行い、機関紙やホームページ、SNS等を利用し世論に訴えていきます。また、全国基地問題ネットワークおよび全国の運動組織と連携して、米軍基地のみならず自衛隊基地での米軍との共同訓練の動きを監視し、抗議するとりくみをすすめていきます。
⑤ 全国基地問題ネットワークと連携して全国の基地被害の実態や基地機能の強化の課題について情報共有していくほか、日米地位協定や日米合同委員会にかかわる課題について、学習会の開催や情宣活動に資するビラやパンフレットの発行、ホームページへの掲載など情報発信に努めていきます。またオスプレイと低空飛行に反対する東日本連絡会と共同してすすめている外務省・防衛省への要請行動を昨年に引き続いてとりくみ、情報発信も行っていきます。
(2)辺野古新基地建設を許さない沖縄のたたかい
日米両政府が1996年12月、SACO(日米特別行動委員会)最終合意報告を取りまとめてから、今年で25年を迎えます。沖縄県内の米軍専用施設の返還などが取り決められましたが、沖縄の基地負担は軽減するどころかますます負担が増加している状況です。
「世界一危険な米軍基地」と称される普天間基地については、5年以内の運用停止の約束を政府は反故にして、「普天間を閉鎖できないのは県が辺野古移設に反対しているからだ」と沖縄県に責任転嫁する始末です。
また、那覇軍港の浦添移設問題についても、那覇軍港の利用はほとんどなく遊休化している状況にもかかわらず、移設して新たな軍港をつくることは問題です。1974年の日米安全保障協議委員会で、移設条件付き返還で合意されたものですが、半世紀前の移設条件付きの合意を見直すべきです。
集落を取り囲むように新たなヘリパッドが建設された東村高江では、オスプレイ等米軍機の離着陸等の飛行訓練により、建設前に比べて60デシベル以上の騒音発生が5倍以上に増大しています。
軟弱地盤の存在が明らかになり、当初計画していた辺野古新基地建設は破綻していることが明白であるにもかかわらず、防衛省は、設計概要変更の申請を行い、沖縄県が指摘した200を超える質問に対しても事実に照らして回答することを避けるゼロ回答で、基地建設に邁進しています。沖縄県知事の玉城デニー知事は、当然この申請を不承認にしましたが、国と県の争訟の行方は、これまでの国に寄り添った裁判結果を見ると全く予断を許しません。
こうした沖縄の現状は、あまたの県民の犠牲が強いられた沖縄戦、天皇メッセージに示されている沖縄切り捨てと米軍下での戦後「植民地化」、そして「沖縄返還」後の米軍基地の集中といった、凄惨であり苦渋に満ちた歴史のなかにあります。県民の心情や歴史事実に誠実に向き合いながら、政府は基地対策にかかわるべきです。とくに2021年度は沖縄振興特別措置法に基づく沖縄振興計画10年の最終年度であり、次年度からの新しい振興計画に向けた策定作業が進められるところです。この振興計画を選挙対策や基地問題の駆け引き材料にしてはならず、広大な米軍基地が地域社会を分断し、生活やインフラも含め、経済発展の阻害要因となっていることをしっかりと受け止めなければなりません。
この間、辺野古新基地建設を巡っては、かつて普天間返還合意やアジアを重視するリバランス政策を主導したカート・キャンベルが米国のバイデン新政権でアジア政策を統括する立場に就任したことから、米国が辺野古建設の立場をより強固にするであろうこと、また対中国のアジア戦略が議論されるなかで、米海兵隊の分散配置の拠点の一つとして普天間基地より辺野古の軍事的利用価値が重視されることが予想され、米国のアジア政策の動向に関心を向けていく必要もあります。
また、辺野古新基地建設での埋め立て用の土砂については、沖縄南部地域から遺骨を含む土砂を採取する問題や、規制のない海砂採取による採取地での自然環境の破壊、県外からの土砂搬入に伴う外来生物の混入など、凄惨な沖縄戦を経験した県民の心情を逆なでにして、自然環境豊かな大浦湾を埋め立てることであり、政府の基本政策である「生物多様性国家戦略」にも反するものです。
繰り返される県と国の争訟では、これまで沖縄防衛局が私人に成りすまして行政不服審査制度を悪用したこと、法令に基づく知事の権限をないがしろにする国の違法な関与の問題があり、地方自治にかかわる観点からも辺野古建設に反対するたたかいは極めて重要なたたかいになります。
平和フォーラムは、辺野古新基地建設反対のたたかいを、日米軍事一体化に抗する最大の反基地闘争と位置付けると同時に、自然環境の保護、地方自治を取り戻すたたかいとして、引き続きとりくみを強化していきます。とりくみにあたっては、沖縄平和運動センターと緊密な連携を図っていきます。またオール沖縄会議および総がかり行動実行委員会や国会包囲実行委員会との共同行動も検討していきます。
また、普天間基地の即時運用停止を求め、新基地建設や基地の機能強化にむかう動きについて、沖縄平和運動センターや全国基地問題ネットワークの協力を得ながら、随時情報発信ができるよう体制を整えていきます。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 普天間基地の即時運用停止および辺野古新基地建設反対のとりくみを、戦争をさせない1000人委員会と協力して「総がかり行動実行委員会」や「国会包囲実行委員会」等との共同行動を追求します。
② 超党派の国会議員で構成されている沖縄等米軍基地問題議員懇談会の政府ヒアリング等の活動を注視していくとともに、政府要請の窓口として協力関係を引き続き保持していきます。
③ 沖縄県外での共同行動に協力していくとともに、沖縄平和運動センターの呼びかけに連携したとりくみを進めていきます。
④ 2021年度の沖縄平和行進は県外からの参加は中止の予定ですが、2021年、2022年は所謂「沖縄返還協定」の調印、「返還」からそれぞれ50年という節目の年にあたることから、沖縄平和運動センターと協議した上で、全国にアピールするとりくみを模索していきます。
3.東アジアの非核・平和のとりくみ
(1)バイデン政権の東アジア外交
2021年1月、トランプ前大統領との接戦を制し、また、選挙結果に不満を持つトランプ支持者の米議会占拠といった分断される米国を象徴するような混乱の中で、バイデン大統領が誕生しました。バイデン大統領は、外交方針演説において、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対しては、日米韓の同盟を重視しながら、これまでのトランプ政権による対朝鮮外交を全面的に見直すと発表しています。朝鮮においては、5年ぶりに朝鮮労働党大会が開催され、金正恩国務委員長が父金正日の「総書記」を継承することとしました。金正恩委員長は、これまでの経済政策の失敗を認めるとともに、強硬な対米政策を標榜し、米国が朝鮮敵視政策を放棄しない限り対話に応じない姿勢を示しています。「自力更生」の経済政策と「核戦力強化」を掲げ新たな国家建設に向かうとしていますが、韓国や米国との対話への道は残すこととしています。
米日韓による軍事演習を中止し、経済制裁の緩和などを通じて米朝、南北間での対話を開始していくとりくみをすすめなくてはなりません。オバマ政権下における「戦略的忍耐」というような、朝鮮をさらに追い込み朝鮮国民生活の崩壊をもたらすような政策を、バイデン大統領はとるべきではありません。
日朝ピョンヤン宣言から2022年で20年が経過します。この間、日朝間に横たわる様々な課題は、解決への緒にもつけませんでした。制裁措置の強化によって朝鮮を屈服させようとするこれまでの政策では、解決に至らないことは明らかです。日本国内では、過去の植民地政策から続く朝鮮民族蔑視の国民感情を払拭することができず、日本政府は、朝鮮高校無償化措置排除、朝鮮大学校への学生支援緊急給付金からの排除など、在日朝鮮人社会への様々な差別政策を実施してきました。日本政府は、朝鮮半島にルーツを持つ在日朝鮮人社会への差別的政策を止め、朝鮮との国交正常化への対話を早急に開始すべきです。一方で、「開かれたインド太平洋構想」に象徴される日本の対中政策は、米中の貿易摩擦や軍拡競争の中にあって、自衛隊の軍事力強化と日米一体となった南シナ海などにおける軍事演習の展開と、緊迫する朝鮮半島情勢を含めてこれまでにない、きびしい状況となっています。安全保障法制の改悪後、財政が逼迫する中、聖域のように膨張する軍事費(防衛費)など自衛隊のあり方そのものを議論しなくてはなりません。
平和フォーラムは、在日朝鮮人との連帯と平和を求め在韓米軍に反対し南北融和への道をさぐる韓国市民団体などと連携し、強化される米軍と自衛隊の軍事演習に反対して、東北アジアの非核化・平和、日朝国交正常化へのとりくみをすすめます。
(2)悪化する日韓関係の正常化を
元徴用工裁判の日本企業に賠償を命じた韓国大審院判決に端を発した日韓の対立は、2021年1月の「慰安婦」問題に対するソウル中央地裁の日本政府が主張する「主権免除」を排除した判決によって、さらに深刻化しています。日本政府は国際司法裁判所(ICJ)提訴も辞さないとしていますが、今般の「主権免除」という考え方への国際的状況を見ると、日本の主張が正当化されるかは不透明といえます。日本軍慰安婦問題に関しては、村山内閣、安倍内閣において、解決への方策が検討・実施されてきましたが、慰安婦とされた方々や韓国社会の納得を得るに至りませんでした。そこには、金銭解決を中心として、日本政府による公式の謝罪が不十分であったこと、日本軍慰安婦や韓国併合条約の正当性、植民地支配の歴史事実をめぐる日本社会の歴史認識と韓国社会の歴史認識の隔絶があげられます。日本の保守勢力がこれまで行ってきたアジア・太平洋戦争や植民地支配の美化、正当化のプロパガンダの不当性をしっかりと確認し、日本社会が歴史事実を認め、向き合うことが求められています。平和フォーラムは、歴史教科書問題や在日朝鮮人社会への差別に抗し、正しい歴史認識の下で日本と朝鮮半島の間に横たわる歴史課題の解決にとりくみます。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 東アジアの平和体制・非核化実現のため、板門店宣言・米朝共同声明での合意事項を支持し、一方で米韓軍事演習など軍事的恫喝や制裁措置の強化などに反対する運動を進め、日米韓の政府への要請にとりくみます。
② 国際平和機構「コリア国際平和フォーラム(korea international peace forum、略称KIPF)」に「東アジア市民連帯」の枠で参加し、国際的な連携の強化に努めます。当面、コロナ禍の中にあって交流・会合がかなわないため、情報交換を目的にZoom会議の開催にとりくみます。
③ 韓国平和NGO「アジアの平和と歴史教育連帯」と連携し、歴史認識の一致をめざしてとりくみます。
④ 日朝国交正常化連絡会のとりくみを強化し、日朝平壌宣言に基づく日朝国交正常化実現を求めます。
⑤ 植民地支配責任・戦後責任問題の解決のために、日韓連帯を基本に、「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」とともにとりくみます。
⑥ 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会に結集するとりくみの一環として、「朝鮮半島と日本に非核・平和の確立を!」市民連帯行動実行委員会とともに日朝日韓の市民連帯を基本にとりくみをすすめます。
4.さまざまな人権課題へのとりくみ
(1)朝鮮学園をめぐる課題へのとりくみ
2010年度から実施された高校授業料無償化措置(2014年改正され「高等学校等就学支援金制度」)は、第2次安倍政権が成立した直後に文部科学省令が改正され、適用への申請がなされていた朝鮮高校を、制度から除外しました。その後、今日まで10年以上にわたって朝鮮高校生には適用されることなく、全国で適用を求める訴訟が行われてきました。平和フォーラムは、2013年3月に、朝鮮学園関係者や支援団体、在日朝鮮人社会とともに、日比谷野外音楽堂において適用を求める集会を開催し、以来「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」を中心に差別撤廃にとりくんできました。各地の訴訟は東京、大阪については最高裁において、差別を当然とするきわめて不当な決定がなされ、愛知についても、上告棄却となっています。一方、広島は2020年6月12日に結審し、10月16日に判決が下されました。2020年7月10日には福岡でも結審し、10月30日に判決が出されました。両判決とも不適用とした文科大臣の決定を支持し、文科省令の改正の是非には触れないこととなっています。
このような中で、2019年10月1日からの幼保無償化からも朝鮮幼稚園やブラジル人学校などの外国人幼稚園が排除されました。また、コロナ対策の一環である「学生支援緊急給付金」の制度からも朝鮮大学校が排除されました。平和フォーラムは、「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」に結集して、適用を求める署名活動や省庁交渉にとりくんできましたが、現在適用をかちとるに至っていません。
幼保無償化は、様々な批判と要求から、文科省が「地域における小学校就学前の子どもを対象とした多様な集団活動事業の利用支援」の制度を設けましたが、適用の可否の決定や支援内容に問題があり、再考が求められます。
過去の植民地支配から、日本社会には朝鮮人社会に対する根強い差別意識がはびこり、日韓・日朝の関係に大きな影を落としています。また、そのことが日本社会に求められる「多文化・多民族共生社会」構築に大きな障害となっています。東北アジアの平和にむけて、日朝国交正常化にむけても、国内における差別撤廃と植民地支配から引き起こされてきた差別意識の払拭が求められます。
(2)外国人の人権確立に向けたとりくみ
日本国内では少子化の影響によって、労働力不足が深刻化し、多くの産業において外国人労働者に頼らざるを得ない状況が続いています。しかし、日本政府には、現代の奴隷労働と非難される「外国人実習生制度」に象徴されるように、外国人労働者の人権を無視した、単に労働力としか見ない政策が横行しています。また、出入国管理業務をめぐっては、長期にわたる入管の収容に抗議するハンストの結果、外国人男性が死亡するなど、入管職員による人権侵害の事件も多発しています。
このような現状には、「送還の見込みが立たない者であっても収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能になるまで収容を継続する」という入管庁の方針があります。2004年には、1万3239人あった在留外国人に対する特別永住許可は、2018年に在留特別許可を認められた外国人は1371人に留まっています。2018年度中の難民申請件数10,493件のうち難民認定された件数もわずか42件に留まっています。このような、外国人を排斥しながら労働力として安価に使用する日本政府の姿勢を正さなくてはなりません。朝鮮人社会に向けられた差別は、外国人全般への差別となって、日本社会は「多文化・多民族共生社会」から大きく遠のくものとなっています。
また、「出入国管理及び難民認定法」の改定案については、引き続き、政府案の撤回・見直しを求めて、とりくんでいく必要があります。
(3)正しい歴史認識の下、ヘイトを許さないとりくみ
2016年に制定された国の「ヘイトスピーチ解消法」の実効性を求め、2019年12月、川崎市において、全国で初めて「ヘイトスピーチ」に刑事罰を科す「差別のない人権尊重のまちづくり条例」が制定されました。相模原市においても、市民の要求に基づいて、本村賢太郎市長が「市人権施策審議会」に諮問し2020年度内には答申が出る予定です。市長は、市民との懇談において「私としては罰則を設けた条例制定をめざしたい」と述べています。
コロナ禍の中で、マスク警察に象徴されるように市民社会の分断が助長され、武漢ウイルスなどと呼びながら根拠なく中国を非難するような状況もあり、ヘイトを許さないとりくみは、ますます重要性を深めています。平和フォーラムは、この間市民とともにヘイト条例の制定やレイシズム団体への抗議行動にとりくんできました。今後も、実効性のあるヘイト条例の全国への拡大を求め、また、ヘイトを行うレイシズム団体の行動を許さないとりくみを続けていきます。
(4)盗掘されたアイヌ遺骨の返還を求めるとりくみ
2019年、函館で開催した「憲法理念を実現する大会」で取り上げて以来、日本の先住民族であるアイヌ民族の差別に、平和フォーラムとしてとりくんできました。明治期の「旧土人保護法」下において行われてきた、「学術研究」としてアイヌの墳墓から盗掘された遺骨の返還についても、国土交通省や文科省に対して要求してきました。しかし、未だきちんとした返還に至っていません。アイヌ新法に基づいて、アイヌ文化の復興・創造・発展のための拠点として北海道白老町に整備された「民族共生象徴空間」(ウポポイ)も、蝦夷地から北海道に至る経過と、その中でのアイヌ民族が経験した文化剥奪と人権侵害の歴史にしっかりと触れるものではありません。そこには、国連が求める先住民族の権利をしっかりと確保していくとする政府の姿勢は見られません。平和フォーラムは、先住民族の権利と文化を守る視点から、今後もとりくみをすすめます。
(5)水俣病問題の早期解決にむけたとりくみ
1956年5月1日に熊本水俣病の発生が公式に確認され、1965年6月12日には第二の水俣病である新潟水俣病が公表されました。
以来、被害者の救済を求め加害企業、国、県に対する裁判闘争をはじめとしたさまざまなとりくみが熊本、新潟両平和運動センターなどを中心に進められてきました。
熊本では、加害企業チッソ、国、熊本県に対して補償を求め、熊本地方裁判所(原告1,529名)、東京地方裁判所(原告82名)、大阪地方裁判所(原告133名)において訴訟を提起し、現在審理が係属中です。また、新潟においても被害者が加害企業昭和電工と国に対して補償を求め新潟地方裁判所(原告150名)において訴訟の審理中です。
平和フォーラムは、公正な裁判や早期結審判決を求める署名にとりくんできましたが、新型コロナの感染を理由に裁判は大きな遅れをみせており、早期解決を求めて、熊本、新潟両平和運動センターと連携しとりくみを進めていかなければなりません。
(6)性差別を許さず、女性の社会進出、地位向上をはかるとりくみ
女性に対するDV被害の増加や、若年女性の自殺者数の増加など、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、すでにあった女性の貧困率の増大、格差の拡大が急速に進んでいます。全ての年代の女性の貧困の背景にもなっている非正規雇用の問題への対応、「ジェンダー」平等の観点にたって「世帯」単位ではなく「個人」単位で生きやすい社会を実現すること、DV被害者の民間シェルターなどへの財政的支援などはすべて喫緊の課題です。
そのようななか、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の「女性がたくさんいる理事会は時間がかかる」発言は、単なる失言として片づけられる問題ではなく、日本社会における女性差別、女性蔑視の根深さを、改めて認識させられる出来事でした。森会長はすでに辞任しましたが、やめて許される問題ではありません。このような人事を行った、自公政権自体の見識のなさであり、厳しく糾弾し続けるべきです。
女性差別撤廃条約にともない、1999年に「女性差別撤廃条約選択議定書」ができています。国内の司法で解決できなかった課題をCEDAWに通報して救済してもらえる「個人通報制度」や、組織的な侵害がある場合に調査・勧告できる「調査制度」があります。日本の司法制度の限界を救済するために必要な制度です。平和フォーラムは引き続き「選択議定書」の批准を求めてとりくんでいきます。
また、2020年12月25日、「第五次男女共同参画基本計画」が閣議決定されました。グローバル・ジェンダー・ギャップ指数2020で日本が過去最低の121位(153国中)となるなかで、とりわけ順位が低い「経済」「政治」の分野での女性の社会的地位向上を進めることは喫緊の課題です。「第五次男女共同参画基本計画」の着実な履行を求めてとりくみます。
性暴力犯罪を規定する刑法改正について被害者が抵抗困難であることの判断基準が厳しすぎることなど、現行刑法に問題があることは明らかであり、引き続き、不同意性交罪の導入などの実現に向け、さらなる意見反映が必要です。
選択的夫婦別姓制度については、予定されている最高裁大法廷での審議を注視し、従来の判例の見直しなど、選択的夫婦別姓制度の実現が進むよう、さらなる世論喚起をすすめます。
同時に多様な性のあり方が受け止められる社会の実現も大きな課題です。特に同性婚については、2015年に東京都渋谷区と世田谷区で始まった「パートナーシップ制度」と同様の制度の導入を求めるとともに、札幌地裁の判決を踏まえ、国として、同趣旨の法制度の整備を行うことを求めていきます。
以上の課題について、平和フォーラムは、I女性会議や性差別とたたかう様々な組織と連帯してとりくんでいきます。
(7)死刑制度廃止へのとりくみ
「死刑廃止」が世界の潮流となっているなかで、日本の世論は「死刑もやむを得ない」との容認派が8割を超えています。安倍政権下では8年連続で死刑が執行されています。平和フォーラムは、「死刑をなくそう市民会議」に連帯し、意見交換と世論喚起にとりくんできました。2020年8月17日には、弁護士会館をZoomで繋いで、「死刑廃止に関する意見交換会」にとりくみました。また、「日弁連死刑廃止実現本部」および「死刑をなくそう市民会議」と連携しセミナーの開催や外国人アンケートなどのとりくみをすすめてきました。2021年3月7日から12日にかけて開催された「第14回国連犯罪防止刑事司法会議」(京都コングレス)においては、コロナ禍の中でオンライン併用の開催となり、ロビー活動や意見反映は困難なこととなりましたが、市民会議にも参加するアムネスティー日本のサイドイベント「THE DEATH PENALTY:A GLOBAL PERSPECTIVE」(3月12日)や日弁連が主催した「国際シンポジウム-刑事司法の未来を展望する」などに参加してきました。今後も「死刑をなくそう市民会議」に結集し、法務大臣要請やセミナーなどを開催し世論形成につとめるとりくみをすすめます。
(8)働く者の権利破壊を許さないとりくみ
2府2県の警察・検察による全日建関西生コン支部に対する不当弾圧はやむことがありません。裁判維持も困難に思われる不当な逮捕・起訴は、そのことに意味があるのではなく、むしろ組合潰しそのものを意図したものであり、警察・検察権力は、正当な労働組合活動を威力業務妨害、恐喝、強要にすり替え、耳を疑うような不法な人権侵害や働く者の基本権の侵害が当たり前のように繰り返されてきています。
こうした中、生コン業者団体が主導した様々な不当労働行為事件では、労働委員会で16件中10件において各業者の不当労働行為が認定されてきましたが、刑事事件では、8つの裁判に分けられ、大阪ストライキ第二次事件や加茂生コン第一事件で組合員らに対し懲役8月から2年という不当判決が下されています。
平和フォーラムは「関西生コンを支援する会」の中心を担い、労働委員会闘争や裁判闘争の支援を強化していくとともに、2020年3月、関生支部と組合員が提訴した国賠訴訟の勝利を求めるとりくみを進めていきます。
また、コロナの感染拡大の中で縮小せざるを得なかった平和フォーラム各県組織や加盟単産を中心とした「支援する会」の拡大運動や、関西生コン事件を知るための学習会や職場オルグにもとりくんでいきます。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」や「日朝学術教育交流協会」「朝鮮学校「無償化」排除に反対する連絡会」「朝鮮幼稚園幼保無償化中央対策委員会」「朝鮮幼稚園保護者全国連絡会」「朝鮮学校オモニ会全国連絡会」「朝鮮学園理事会全国連絡会」「朝鮮大学国際交流委員会」などと連帯し、幼保無償化、高校就学支援金制度、また、コロナウイルス対策を目的としたさまざまな支援制度からの在日朝鮮人社会の除外を許さず、すべての制度の適用を求めてとりくみを強化します。
② 実効あるヘイトスピーチ解消のための条例を求めて、とりくみを強化します。
③ 外国人労働者の人権侵害、入出国管理業務における人権侵害に抗して、真の「多文化・多民族共生社会」の実現にとりくみます。
④ 「先住民族の権利に関する国際連合宣言」に基づき、アイヌ民族など先住民の権利確立にとりくみます。
⑤ 裁判支援など、水俣病問題の早期解決にむけてとりくみます。
⑥ 性差別の撤廃にむけて、I女性会議や性差別とたたかう様々な組織と連帯してとりくみます。
⑦ 死刑制度の問題点を共有し、世論喚起にとりくみます。
⑧ 関西生コン事件の状況と課題について、広く世論喚起を行います。
5.民主教育を進めるとりくみ
子どもをとりまく課題は複合的に絡みあい、一層厳しい状況になっています。2019年度に文部科学省が行った調査では、「小中学校・高等学校におけるいじめの認知件数」が約61万件、「長期欠席者の数」が約33万件あり、そのうち「不登校数」が約23万件と、児童・生徒数が減少しているにもかかわらず、いずれも2018年度より増加しました。また、2019年度に厚生労働省が行った調査では、児童相談所による「児童虐待相談対応件数」が約19万件となり、過去最多を更新しました。2020年1月から7月までの「同件数」は、2019年度を上回るペースで増加しており、新型コロナウイルス感染症の影響が懸念されます。2018年、政府は、「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」を決定し、児童福祉士等の増員を進めていますが、さらなる支援体制の強化が求められます。また、児童虐待の背景の一つに貧困があることも指摘されています。2019年6月に成立した改正「子どもの貧困対策推進法」の規定にあるように、子どもの意見を尊重し、子どもの最善の利益を踏まえ、包括的な子どもの貧困対策にとりくむ必要があります。
高等学校では、2022年度入学生から、領土問題など現代の諸課題を形づくった近現代史を学ぶ「歴史総合」、法律や政治制度を理解したうえで模擬裁判や模擬選挙などにとりくむ「公共」など、「改訂学習指導要領」に沿った教育内容が順次実施されます。「公共」は、道徳教育の中核的な役割を担うことが、「改訂学習指導要領」に明記されました。そもそも高校の「学習指導要領」では、道徳は学校の教育活動全体を通じて行うことになっていて、特定の科目を役割の中心に据えるといった記述はありませんでした。しかし、今回の「改訂学習指導要領」では、①個別に道徳の時間がある小中学校に置かれている「道徳教育推進教師」を高校にも設置すること、②公民の「公共」「倫理」それに特別活動が道徳活動の中核的な指導の場面であること、が明記されました。小中学校での道徳教育強化の流れを高校にも広げる形になっています。小中学校では、2019年4月から「道徳」が教科に格上げされ、子どもたちの内面を評価することができるのかと議論になりました。加えて、戦前の教育勅語下の「修身」の復活につながるという根強い批判もあります。「公共」という全員が履修する必修科目を道徳の中心に据えるとなると、評価の問題に加え、入試への影響も気がかりです。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 育鵬社や教育再生機構が大阪府岸和田市の企業と結託した、教科書展示会での不正アンケート問題では、大阪の運動団体と連携し、大阪市議会での追及にとりくむとともに、公正取引委員会への資料提供などを通じて不当採択の問題として排除勧告などを引き出すようとりくみをすすめます。
② 政権の意図に偏った恣意的な教科書検定の実態を明確にし、全国の市民団体および韓国のNGO「アジアの平和と歴史教育連帯」とともに、バランスのとれた教科書の記述内容を求めてとりくみをすすめます。当面、2021年夏に予定されている高等学校教科書採択に向けては、各学校からの具申が尊重されるよう、各教育委員会にはたらきかけるなどのとりくみをすすめます。
③ 憲法改悪反対のとりくみと連動し、「修身」などの復活を許さず、復古的家族主義、国家主義的教育を許さないとりくみを展開します。
④ 人に優しい社会へのとりくみを様々な方向から強化し、貧困格差を許さない方向からも、教育の無償化へのとりくみを強化します。
⑤ 歴史教育課題・道徳教育課題に対応するため、問題・課題を共有し授業実践の還流を目的としたホームページを市民等の協力のもと、人権を大切にする道徳教育研究会として「道徳教科書/もうひとつの指導案―ここが問題・こうしてみたら?」(https://www.doutoku.info)を運営していきます。
6.核兵器廃絶にむけたとりくみ
(1)核廃絶の実現に向けたとりくみ
ア.核兵器禁止条約とNPT再検討会議
2017年7月に国連で採択された核兵器禁止条約は、2020年に発効に必要な批准・署名50か国という要件を満たし、2021年1月22日に発効しました。条約は、「核兵器そのものを非人道的で絶対悪」とみなし、核兵器についてあらゆる関与を全面的に禁じる内容となっています。条約成立の過程では、被爆者や核兵器廃絶にとりくむNGOなどを中心に、核兵器が人道的立場、道義的な立場から許されないことは自明の理であり、「核兵器は絶対悪」であることが繰り返し訴え続けられました。このような動きは、核保有国が核軍縮義務を履行しないことに不満を募らせていた非核保有国の大きな支持を得ていきました。核兵器禁止条約は、多数決を採用する国連総会の採決方法を最大限に活用し、核兵器廃絶を求める多くの声によって採択されたものであり、被爆者や国際世論の訴えが形になったことは、歴史的な一歩であるといえます。また、条約の発効を見越した段階から、核兵器の製造に対して投資は行わないとする経済の動きが見られるなど、一定の効果をもたらしています。
しかし、核保有国や日本を含むその同盟国は、「非現実的な条約」であるとして、批准を否定する姿勢をいまだに崩していません。日本は唯一の戦争被爆国であり、核兵器保有国と非保有国との橋渡し役を自任するなら、核兵器禁止条約への署名・批准をすべきです。安全保障環境を理由に条約への参加を否定するのではなく、最低でもオブザーバー参加し、核兵器廃絶に向けた議論の枠組みに参加すべきです。
一方では、1970年に発効したNPTは、米ロ英仏中の5カ国に核兵器の保有を認めており、核兵器の保有を全面的に否定する核兵器禁止条約とは、条約の発想自体が根本的に違うものです。核兵器を保有するインド、パキスタン、イスラエルがNPTには加盟していないことや、朝鮮が脱退していると主張していることなど、NPT体制の問題点はありますが、NPTの第6条で、核保有国に核軍縮交渉義務を負わせていることは、現実の核軍縮を進めていくためには、一定の意義があります。
日本政府はNPT再検討会議を主たる議論の場であるとしていますが、コロナ禍の影響で2020年4月の開催予定から、2021年8月に延期となりました。日本では、2017年より賢人会議を開催して核軍縮を進展させるための議論を行い、2020年に開催予定であったNPTに向けた提言を得ています。2021年8月のNPT再検討会議では、さらに核兵器禁止条約の発効を踏まえ、議論を進めるべきです。NPT再検討会議での議論の進展を求めて、原水禁は、連合、KAKKINとともに、核保有国への大使館訪問などを通して、三団体による働きかけを行います。
これまでも原水禁は、「核と人類は共存できない」ことを基本理念として、核兵器廃絶に向けたとりくみを行ってきました。国内では、核兵器廃絶NGO連絡会の事務局の一翼を担い、節目ごとに、政府や議員への申し入れを行ってきました。引き続き、国会議員の核兵器廃絶の意識を高めるための意見交換会の実施などにとりくみます。そのほか、国内外のNGOやNPOなどとも、引き続き協力し、核兵器廃絶へ向けたとりくみを強化していきます。
イ.核軍縮をめぐる世界の動き
世界を混乱に招いた米国トランプ前政権下、2018年5月にイラン核合意から、アメリカが一方的に離脱しました。アメリカが経済制裁を強化し続けたことでイランが反発し、核合意の義務履行を停止し、中東情勢の不安定さが増し続けています。さらに、2021年1月には、イランが濃縮度20%のウラン製造に着手し、核兵器転用も懸念されるウランの研究開発が開始されたことが明らかとなりました。米国バイデン政権が誕生したものの、米国のイラン核合意への復帰の条件は、「イランが義務を履行することである」と主張しています。その一方で、イラン最高指導者のハメネイ氏は、「米国の制裁解除が先である」とし、両首脳が主張を譲らない姿勢を示していること、米国の復帰に対するイスラエルの反対もあり、膠着した状態が続いています。さらに3月27日には、イランと中国の両政府が、25年間にわたる包括的戦略パートナーシップ協定に署名し、イラン核合意を焦点に、中国がイランなど米国と対立する国々を取り込む構図が鮮明になったといえます。
イギリスは3月16日、外交と安全保障政策の中長期計画見直しの中で、保有する「核弾頭の上限を180発から260発に引き上げる」と発表し、核軍縮から増強へと転換する方針を示しました。冷戦の終結後、最も大きな変更であり、ジョンソン首相は影響力を増す中国などの脅威に対抗するためと説明していますが、軍拡競争を加速させかねません。
2019年8月に中距離核戦力(INF)全廃条約が失効し、世界の9割の核兵器を保有する米ロに残された核兵器の軍縮枠組みは新戦略兵器削減条約(新START)のみとなっています。2021年2月5日の期限失効直前の2月3日に、米ロで5年間延長することが正式合意に至ったと発表されました。しかし、条約の延長は、配備済みの戦略核が対象であり、そのほかの核弾頭や中距離核などは含まれていません。米国が新たな核戦略指針「核態勢の見直し(NPR)」の策定に取り掛かると明らかにした一方、核戦力を増強する中国や、戦術核兵器の開発を掲げる朝鮮の問題もあり、米ロ2カ国のみならず、さらなる核軍縮に向けた広い枠組みの構築が必要です。
日本の国是である「非核三原則」を確認し、日本が米国の核の傘に固執することなく、米国追従の姿勢を改めるように、政府に働きかけることが必要です。また、政府は中国や朝鮮の軍備拡大など、アジアを取り巻く環境の悪化を理由とすることなく、信頼を対話の中で醸成し、日本と朝鮮半島の非核化の実現に向けてとりくむべきです。あわせて、米中ロに先制不使用宣言を求め、東北アジア非核地帯化構想の実現に向けてとりくむべきです。核兵器禁止条約の発効で、世論の注目を浴びる今こそ、日本が東北アジア非核化のリーダーシップをとるべきです。
(2)高校生平和大使の活動
コロナ禍において、活動の制限がなされた高校生平和大使ですが、若者の活動として注目されていることには変わりありません。また、ノーベル平和賞へのノミネートは、2018年より、4度目となります。
2020年は欧州訪問がかなわなかった分、地域に根差した活動を行ったのみならず、これまで以上にインターネットを活用した活動に力を入れています。若者の活動だからこそ、同世代を中心とした若い世代へのアピールが可能であり、これまでとは違う方法での核兵器廃絶へ向けた運動が展開されることが期待できます。
高校生平和大使のみならず、「高校生1万人署名活動」にとりくむ高校生の存在も、重要です。被爆者の高齢化は大きな問題であり、被爆実相の継承という課題もあります。その中で、高校生平和大使を中心に高校生が、「被爆者の生の声を聞ける最後の世代」として継承運動にとりくむ姿勢は、運動全体を盛り上げるものにもなります。
「高校生平和大使を支援する全国連絡会」を通して、平和運動の担い手として大いに期待される高校生平和大使、高校生1万人署名活動を支援していきます。同時に、高校生という枠にとらわれることなく、OBOGに活躍の場を提供し、ともに平和運動にとりくんでいきます。
(3)被爆76周年原水爆禁止世界大会、3.1ビキニデーの開催に向けて
ア.被爆76周年原水爆禁止世界大会
下記の日程で開催します。
7月下旬 福島大会
8月5日~6日 広島大会
8月8日~9日 長崎大会
イ.被災68周年3.1ビキニデー集会
下記の日程で開催します。
2022年3月に静岡で開催します。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 核兵器廃絶にとりくむ国内外のNGO・市民団体との国際的な連携強化をはかり、日本国内の核兵器廃絶にむけた機運を高めるため、核兵器廃絶にむけたとりくみを進めます。
② 米国の中距離核ミサイル再配備に反対し、「非核三原則」の法制化を含めたとりくみを強化します。
③ 原水禁・連合・KAKKIN3団体での核兵器廃絶にむけた運動の強化をはかります。2021年NPT再検討会議をはじめ、核保有国大使館への要請行動などに協力してとりくみます。
④ 東北アジア非核地帯化構想の実現のために、日本政府やNGOへの働きかけを強化し、具体的な行動にとりくみます。さらにアメリカや中国、韓国などのNGOとの協議を深めます。
⑤ 非核自治体決議を促進します。自治体の非核政策の充実を求めます。さらに非核宣言自治体協議会や平和首長会議への加盟・参加の拡大を促進させます。
⑥ 政府・政党への核軍縮にむけた働きかけを強化します。そのためにも核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)や国会議員と連携したとりくみをすすめます。
⑦ 日本政府に対し、「核兵器禁止条約」への署名・批准を求め、被爆国として核兵器廃絶にむけた積極的な役割を果たすよう追求します。
⑧ 日本のプルトニウム増産への国際的警戒感が高まる中、再処理問題は核拡散・核兵器課題として、プルトニウム削減へのとりくみをすすめます。
⑨ 「高校生平和大使を支援する全国連絡会」を通して、高校生平和大使、高校生1万人署名活動のサポートなど、運動の強化をはかります。また、SNSなどを使い若者へむけた情報発信を強めます。
⑩ 核軍縮具体策としての核役割低減、先制不使用、警戒態勢解除、核物質最小化等の内容を広く情報発信します。
7.原発再稼働を許さず、脱原発を実現するとりくみ
(1)原子力規制委員会の限界と規制基準の問題
原子力規制委員会(規制委)は、2011年3月に発生した福島原発事故を契機に、これまで縦割りで原子力推進側の中にあった規制行政を一本化して独立させ2012年に設置されました。事故から10年が経ち、その間、組織の独立性、審査、管理体制など様々な問題点が明らかになってきました。また規制委が設けた新規制基準について田中俊一元委員長は、「これで安全を保証したわけではない」と述べ、審査基準を満たしていても安全が確認されたものではありませんでした。実際には安全審査が通っても、裁判で基準そのものが問題と指摘されています。
昨年12月4日、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の耐震性を巡り、安全審査基準に適合するとした規制委の判断は誤りだとして、大阪地裁は、設置許可を取り消しました。判決では、耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)の評価を基に設置を許可した規制委の判断の妥当性が問題とされ、規制委が、基準地震動を算出する地震規模の想定で必要な検討をせず、「審査すべき点を審査していないので違法だ」と指摘しました。原発の安全性をチェックする規制委の耐震設計の手法が根本から否定されました。
また、日本原子力発電の東海第二原発(茨城県東海村)は、3月18日に水戸地裁によって防災体制・避難計画が十分に整えられていないことを理由に、運転を差止める判決が下されました。このことは他の原発でも同様の措置が求められることを意味します。避難の実効性の問題は、原子力規制委員会の規制の枠外に置かれています。原発事故を拡大させないためにIAEA(国際原子力機関)が定めている「深層防護」の最後の砦である避難・防災(第5層=異常に対応できなくても人を守る)の責任を自治体に全て丸投げしています。推進派は、「世界一厳しい基準」と豪語して原発の安全性を確保したかのように語っています。しかし、避難の実効性が何ら検証もないまま進められる原発の再稼働は、あらたな「安全神話」を生み出し、無責任といえます。1月8日に東京電力柏崎刈羽原発所員が原発中央制御室に不正入室した問題が明らかになりました。複数回も不正入室を繰り返し、さらにこのことを原子力規制委員会が4カ月も公表せずにいたことが判明しました。不正入室は昨年9月20日にあり、東京電力は翌21日に原子力規制庁に報告をしていましたが、原子力規制委員長にこの報告があがったのは今年に入ってからといいます。その間、規制委員会は、東京電力の報告後の9月23日に、柏崎刈羽原発6,7号機の再稼働に必要な原発の管理の手順などをまとめた「保安規定」を了承し、10月には認可するなどしていました。東京電力の核物質防護体制や規制委員会の管理体制のずさんさが浮き彫りになりました。
その後、3月24日に原子力規制委員会は、安全重要度を最悪レベルの「赤」と評価し、東電に対して核燃料の原子炉装填など、燃料の移動を禁じる是正措置命令を出す方針を決めました。それは事実上の運転停止命令で、禁止期間は「自律的な改善が見込める状態」になるまでとし、今後1年半は、再稼働が進まない見通しと言われています。しかし、同原発の再稼働の前提となる審査手続きのやり直しは求めませんでした。
また、六ヶ所再処理工場では、規制委の審査書案に対するパブリックコメントの中で、変動地形学の見地から存在が指摘されている六ヶ所断層の活動性や一般家屋が対応している耐震性に比べても極めて脆弱なこと、降下火山灰の層厚に耐えられないこと、大型航空機の意図的な墜落に建屋が耐えられないことなど多くの指摘がなされましたが、結局まともに取り上げられませんでした。
原子力規制委員会は、現実には原子力推進を補完する役割と化し、規制委員会の管理体制も緩み、安全規制の信頼を失墜させています。体制の刷新と新規制基準の見直しを求めていくことが必要です。
(2)山積する福島第一原発をめぐる課題へのとりくみ
ア.困難な廃炉作業と巨額な廃炉費用
東日本大震災・福島原発事故から10年が過ぎましたが、依然として事故の収束作業は難航しています。廃炉にむけて最も難関といわれる溶融核燃料(デブリ)の取り出し作業は極端に高い放射線に阻まれ、現在までデブリの全容を把握するには至っておらず、取り出しの技術の確立の目処も立っていません。2019年に政府・東京電力は、5回目の改訂となる廃炉工程(ロードマップ)を明らかにし、その中で事故から30~40年後に廃止措置を終えるとの目標は変えず、今後の手順を示しました。しかし使用済み核燃料の取り出しはすでに遅れ、最難関のデブリの取り出しなど具体スケジュールを書き込めませんでした。工程表通りにいかないことは、これまでの作業をみれば明らかで、さらに長期化することが予想されます。
また、廃炉費用も21.5兆円と見積もられていますが、すでにこの10年間で13.3兆円を使ったと報じられています。さらに工事の長期化、人材確保、廃炉にむけた研究開発など様々なコストが膨らむ可能性があり、廃炉費用も巨額に上ることが予想されています。
トリチウム汚染水(汚染水)の問題は喫緊の課題です。昨年、政府は関係閣僚会議で海洋放出を決定しようとしましたが、県民や生産者などの強い反対で見送りました。しかし、菅政権下でこの方針決定がなされる危険性があります。陸上保管など長期保管の選択肢はなく、はじめから放出ありきで進められてきたことは問題です。復興に向けての努力が、汚染水の海洋放出で水泡に帰してしまいかねません。環境破壊をさらに拡大しかねない汚染水問題について、現地や生産者そして国内外の人々との連携が重要です。
イ.避難生活と政府支援の打ち切り
被災地福島では、原発事故から9年6カ月にあたる2020年7月現在で、県内に7,580人、県外に29,706人、不明13人の合計37,299人の方々が、今なお長期の避難生活を余儀なくされています。さらに自主避難者などこの数字に含まれない被害者も多数おり、福島県・復興庁の調査では十分に避難の実態が反映されていないのが現状です。
復興庁が発表した、2020年8月5日現在の震災関連死と認定された人の数は、福島県内で2,312人と、昨年よりも35人増え、その多くは高齢者で占められています。福島原発事故の影響によるふるさとの喪失や、生業を奪われたこと、長期にわたる避難生活や将来への不安など様々な要因があげられています。原発震災から10年目を迎えた現在でも、避難などに伴う心労が被害者を苦しめている現状があり、自主避難した人たちのなかには、家庭崩壊した家族も少なからずいます。このような現状をこれ以上放置しておくわけにはいきません。
一方、帰還困難区域を除いた居住制限区域・避難指示解除準備区域では、除染作業によって年間被曝量20mSvを基準にそれを下回る地域から避難指示解除が行われています。しかし、20mSv/年とは、国際放射能防護委員会(ICRP)が緊急時の基準として示しているもので、これまでの国内基準(1mSv/年)の20倍もあります。早急に国内基準に戻すべきで、住民に無用な被曝を強いることは許されるものではありません。
また、避難指示解除に合わせて、帰還を強要するかのように住宅支援などの補償が打ち切られ(県内の災害公営住宅からの退去など)、避難者は補償が打ち切られても避難し続けるのかの厳しい選択を迫られています。
政府や行政には被害者に寄り添う姿勢が全くないばかりか、原発事故の早期幕引きと被害の矮小化をはかろうとすることは、被害者の切り捨てと言わざるを得ません。
ウ.国や東電の加害者としての責任を明確化するとりくみ
福島原発事故の刑事責任を求めて被害者らが訴えた「福島原発刑事訴訟」は、2019年9月19日に東電経営陣を無罪とする判決が下りましたが、現在、控訴し高裁で新たな裁判がはじまろうとしています。引き続き裁判支援をし、東電の経営責任を厳しく追及していくことが必要です。
また、東電に対し求めた裁判外紛争解決手続き(ADR)を、事故責任の当事者である東電が拒否する事案が各地で裁判となって争われています。被災から10年が経つ中で幾つもの裁判が続いている背景に、国の原子力損害賠償紛争解決センターの和解案を東電が拒否し、センターが手続きを打ち切るケースが急増したことにあります。東電は拒否の理由として、和解案が国の指針を超える賠償を提示していることなどを挙げています。センターは、指針に明記されていない損害でも個別事情に応じて認められるとして受諾を勧告してきましたが、東電は拒否を続け、裁判になっています。東電は賠償への姿勢を2014年に示した「三つの誓い」で「和解案を尊重する」と表明したにもかかわらず、誓いを実行していないことは問題です。国や東電が、被災者を切り捨てようとしていることに対して、当事者や支援者と協力しながら補償の充実を求める必要があります。
これまでの裁判の中で、国や東電が「事故の原因は予想を超えた津波による自然災害にある」として、事故の責任から逃げていることが、被害者に対する不誠実な態度となって補償問題を複雑にする一因となっています。しかし、昨年9月30日、仙台高裁の国、東電に対する損害賠償訴訟で、高裁判決として初めて国の責任を明確にしました。国や東電の加害者としての責任について、裁判闘争などを通じて明らかにし、その責任を追及していかなければなりません。
エ.子どもや住民の「いのち」を守れ
福島県は「県民健康調査」において、福島原発事故当時、概ね18歳以下であった子どもたちに甲状腺(超音波)検査を実施してきました。2020年3月末現在、245人が甲状腺がんまたはがんの疑いと診断されました。県民健康調査検討委員会は、甲状腺がんへの影響について「放射能の影響があったとの証拠はない」としています。
しかし、原発事故によって放射性ヨウ素が放出され、福島県をはじめ広範囲の住民が放射性プルーム(放射性雲)の正確な情報も知らされずに甲状腺被曝し、甲状腺がんを始めとする健康リスクに曝されました。そもそも事故がなければ約30万人もの福島県の子どもたちがこのような甲状腺検査を受ける必要もありませんでした。国は事故を起こし人々を被曝させた責任を認め、少なくとも「県民健康調査」で甲状腺がん・疑いと診断された全ての人々を「事故による健康被害者」として認め、生涯にわたる医療支援、精神的ケア、生活・経済支援等を行うべきです。
原子力規制委員会は「線量に大きな変動がなく安定しているため、継続的な測定の必要性は低いと判断した」として、福島県内にあるモニタリングポストの削減が進んでいます。しかし、2月13日、2011年以来の震度6強の地震に東京電力福島第1、第2原発、女川原発が襲われ、新たな被害と放射能漏れが心配されました。今後も地震などで新たな事態が起きる可能性もあり、モニタリングポストは、住民の命を守るうえでも必要なものです。削減ではなく強化を求めていくことが必要です。
さらにトリチウムなどを含む放射能汚染水の海洋放出を行おうとしており、被害者の不安が拡大しています。被害者に寄り添う姿勢が求められています。
(3)核燃料サイクルに対するとりくみ
日本原燃の六ヶ所再処理工場(青森県)は、原子力規制委員会による新規制基準に適合しているとして審査に「合格」しましたが、2021年上期としていた完工時期を、2022年上期へと1年延期しました。今後は、工事計画についての認可、運転に際しての地元同意、避難計画の策定などが求められていきます。
六ヶ所再処理工場は、高速増殖炉の実用化が前提ですが、高速増殖炉開発は、原型炉「もんじゅ」の廃炉により頓挫し、フランスと共同で研究開発するとした高速炉開発計画(アストリッド計画)も2019年8月にフランス政府が計画を放棄するなど、本来の前提が次々と崩れています。
また、六ヶ所再処理工場の設計上の使用済み燃料の処理能力は年間800トンで、毎年、約9700兆Bqのトリチウムを海洋中に、約1000兆Bqのトリチウムを大気中に放出するとしています。毎年、福島第一原発の汚染水に含まれるトリチウムの総量以上の量が大気に、そしてその10倍ものトリチウムが海に放出されることも問題です。
軽水炉でプルトニウムを利用するプルサーマル計画は、当初16~18基の原発で実施する計画のところ、「2030年までに少なくとも12基の原子炉」で実施すると目標を切り下げました。現在再稼働した9基の原発のうちプルサーマル発電をした原発は4基(関西電力高浜3,4号機、四国電力伊方3号機、九州電力玄海3号機)にとどまっています。福島原発事故以降、原発の廃炉が続き、原発の再稼働や新規原発の建設が厳しい状況下では、新たな計画数値を達成することも困難といえます。原発の再稼働が計画通り進まず、作り出されたプルトニウムの使い道がないことになれば、「余剰プルトニウムを持たない」ことを国際公約としている日本は、これ以上のプルトニウム保有(現在約46トン)を増やすわけにはいきません。また、今後、多くの原発が廃炉を迎え、さらにプルトニウムの行き先が失われていけば、再処理する意味すら失われることは明らかです。
プルサーマル計画を支えるMOX燃料加工工場もその存在意義が問われています。昨年10月7日原子力規制委員会の新規制基準の適合審査を通りました。しかし、工場の完成時期も延期が繰り返され、これまで2022年上半期としていたものを2020年12月16日に2024年度上期まで延期としました。また、MOX燃料加工工場の建設費も当初の約1,200億円から約3,900億円と3倍以上に跳ね上がっています。六ヶ所再処理工場も当初約7,600億円だった建設費が約2兆9,000億円と4倍近くに膨れ上がっており、杜撰な建設計画で、核燃料サイクル計画にかかる費用は、歯止めなく膨らんでいます。
まさに核燃料サイクルは、杜撰な計画の上に、巨額の費用をかけ続けています。破綻は明らかです。にもかかわらず菅政権は、核燃料サイクルの推進を止めようとはしていません。このまま突き進めば、破綻の負債を膨らませるだけで、そのツケは私たちに跳ね返ってきます。核燃料サイクルからの撤退は喫緊の課題です。
現在、原水禁や青森県反核実行委員会などが「再処理工場の建設中止を求める100万人署名」を提起し、展開しています。多くの声を集め、政府や事業者に提出・交渉を行います。さらに「4・9反核燃の日行動」や裁判など様々なとりくみを行い、核燃料サイクルの根本的転換をはかっていきます。
(4)原発再稼働・新規建設に反対するとりくみ
福島原発事故以降、これまで再稼働をした原発は9基にとどまっています。政府が掲げる2030年度の電源構成に占める原発割合20~22%の目標を達成するには、30基程度の再稼働が必要とされています。国内の原発33基(建設中を除く)のうち、30年までに11基の原発が原則40年の運転期間を満了します。多くの老朽化した原発が運転期間を延長しない限り、政府の目標を達成することは不可能です。しかし、菅首相が昨年10月、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすると表明したことで、温暖化対策の一つとしてさらなる原発の再稼働や新規増設をすすめようとする動きが、業界や自民党内に出始めており、警戒が必要です。
現在、九州電力川内原発1号機、2号機、玄海3号機、関西電力大飯原発4号機の4基が再稼働しています。
運転開始から40年を超える関西電力の美浜原発3号機(福井県美浜町)と高浜原発1、2号機(同県高浜町)の再稼働に向け、地元の同意プロセスが進み、2021年2月1日には高浜町町長が、2月15日には美浜町長が、「40年超」の老朽原発の再稼働を認めました。一方、福井県知事の同意については、使用済み核燃料の「県外」での中間貯蔵先の提示を条件としました。それに対して現在、電気事業連合会(電事連)と国は、関西電力の救済が主な目的で、青森県むつ市にある東京電力と日本原子力発電(日本原電)の共同出資の中間貯蔵施設に、東京電力と日本原子力発電以外の電力会社の使用済み核燃料を受け入れるよう要請しています。しかし、地元のむつ市長、青森県知事は反対の姿勢を現時点では崩していません。しかし、関西電力の森本社長が「共用化」案を明言したことで、杉本達治福井県知事は、「前提条件をクリアした」として、老朽原発の再稼働議論への着手を容認しました。
さらに関西電力に対しては、「原発マネーの不正還流問題」で「告発する会」が結成され、告発状が大阪地検に受理され、今後の行方が注視されます。「告発する会」の運動とも連携し、引き続き関電の不正を追及していくことが必要です。
引き続き関西電力の老朽原発の再稼働について、事故の危険性や労働者被曝の増大などからも即時廃炉を求める運動が必要です。現地や関西圏での運動と連携し、関西電力の老朽原発廃炉の運動をすすめます。
また関西電力大飯原発3、4号機の耐震性を巡り、2020年12月、大阪地裁は、設置許可を取り消しました。その後大飯4号機は再稼働をしました。現在、大阪高裁に控訴されましたが、引き続き審議の行方を注視しながら、地裁で出された新規制基準の問題点を他の原発でも追及し、停止ないし廃炉を求めていきます。
東海第二原発をめぐっては、30キロ圏内に94万人もの人々が暮らす中で実効性ある避難計画の不備を理由に水戸地裁が運転の差し止めを認めました。しかし、東京高裁に控訴され、引き続き裁判で争われます。また、周辺自治体の多くも再稼働に強い反対を示しており、今後、議会や地方自治体への働きかけや裁判闘争の支援が重要となっています。9月のJCO臨界事故集会などでも東海第二原発廃炉を求めていきます。
同じく、日本原電の敦賀原発2号機では、原子炉建屋直下の活断層のデータを数十か所も書き換えたことが明らかになりました。悪質なデータ改ざんは許せません。敦賀原発2号機の再稼働をさせず、廃炉を求めていくことが必要です。
女川原発は、東日本大震災の震源に最も近い被災原発です。2019年に宮城県議会は、「原発の再稼働に係る県民投票条例」の直接請求を否決しましたが、県民の不安は根強くあります。その中で昨年11月11日、女川原発2号機の再稼働について、宮城県、石巻市、女川町の地元三自治体の首長が「再稼働の同意」を表明し、再稼働へ動きだしましたが、再稼働へはまだまだハードルがあり、県民へ問題を訴え続ける必要があります。さらに、2月13日に福島沖地震(震度6強の地震)が発生しました。今後も同様の地震が続くと言われており、原発震災を再び考えなければなりません。引き続き地元の運動と連携してとりくみを進めることが必要です。
柏崎刈羽原発は、6,7号機の再稼働にむけて県や地元柏崎市、刈羽村の首長が動き出しています。特に新潟県知事や議会は、中越沖地震や福島原発事故の検証を進める技術検証委員会の幕引きをはかり、2年後の県知事選挙前には、再稼働の同意をはかろうとしています(県知事選に争点として持ち込みたくないとのこと)。今後再稼働への動きが一段と強まってくるものと思われます。一方で、1月8日に東京電力柏崎刈羽原発所員が原発中央制御室に不正な方法で入室した問題が明らかになり、東電に原発を再稼働させる資格があるのかが厳しく問われています。それらも踏まえ「中越沖地震14周年の集会」など、これまで積み上げてきた地元の集会などと連携し、運動を展開していくことが必要です。
四国電力の伊方原発1、2号機が廃炉となりましたが、3号機は2020年1月17日の広島高裁での運転禁止を求めた仮処分の即時抗告審において、四国電力の地震と火山の評価の「過誤や欠落」を批判し運転を認めないとする決定をしました。しかし、2021年3月18日に行われた広島高裁の異議審において、それらの可能性を退けた判決が出され、運転禁止の仮処分は取り消されました。「自然災害のリスク」を過小評価した今回の判決は受け入れることはできません。四国電力は、再稼働に向けて再び動きだしていますが、引き続き地元や四国ブロックを中心に再稼働を許さないたたかいをつくりあげていきます。
さらに九州電力の川内原発や玄海原発や停止中の北海道電力泊原発、東北電力東通原発、北陸電力志賀原発、中国電力島根原発など、稼働中・停止中の原発に対して、各地の原発立地地域のとりくみと協力し、再稼働を許さないとりくみを強化していくことが重要です。
(5)高レベル放射性廃棄物の誘致問題に対するとりくみ
昨年、北海道寿都町と神恵内村は、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査を受け入れ、実施主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)は文献調査をスタートさせました。
両町村周辺の自治体で、受け入れ拒否条例の制定の動きがでています。すでに寿都町の隣の島牧村では昨年12月15日に高レベル放射性廃棄物の持ち込みを禁じる「核抜き条例」を制定しました。地元の北海道平和運動フォーラムは、条例制定の動きを支援し、両町村を反対の声で包囲し、これ以上北海道から応募をさせない動きをつくろうとしています。
NHK札幌放送局が行ったアンケート調査では、国から文献調査の「申し入れ」があった場合に乙部町、奥尻町、積丹町、遠軽町、別海町の5町が検討するとの回答があったことが報じられています。道内での動きは、予断を許しません。また、今回の動きに触発され、道外の財政事情が厳しい自治体の誘致の動きにも警戒しなければなりません。
引き続き北海道平和運動フォーラムと協力し、文献調査の白紙撤回と幌延深地層研究センターの撤去の運動をすすめ、各地の誘致の動きに素早く反応し、動きを封じることが大切です。さらに運動を立地地域の問題にしないことが重要です。特に原発立地県との協力が必要です。
(6)エネルギー政策の転換を求めるとりくみ
2020年のコロナ禍により延期された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が、2021年11月に英国で開催されます。2019年にポーランドで開催されたCOP25において、欧州が2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする(カーボンニュートラル)目標を表明する中、日本は第5次エネルギー基本計画で石炭火力発電を重要な電源として維持することを掲げており、大きく世界の潮流から遅れていました。安倍政権下では、段階的に石炭火力発電所を休廃止するとした発表や火力発電技術の輸出に制限をかけることで、温暖化対策を行ったかのように見せかけていました。
2020年10月、菅政権へと変わり、「パリ協定」の温室効果ガス削減目標に対し、所信表明演説で「2050年に温室効果ガスを実質ゼロとする」と発表されました。その後、12月には、「グリーン成長戦略」が公表され、14の重点分野を設け、目標数値などが定められました。京都議定書に始まる日本の温暖化対策はこれまで、目先を変えることでしかなかった点から考えれば、はっきりとした宣言が出されたことは歓迎すべきことです。しかし、宣言から2カ月でまとめられた方針内容は、結論ありきで議論された面も否定できず、「脱炭素」に向けた戦略の実効性には疑問が残ります。
2020年10月より経済産業省の資源エネルギーに関する調査会では、夏に策定予定の第6次エネルギー基本計画について議論が進められています。カーボンニュートラルが宣言されたことを受け、脱炭素の技術が議論されていますが、そもそも石炭火力発電が存在する限り、二酸化炭素は排出され続けます。石炭火力発電を温存するために、確立されていない脱炭素技術を解決策とすることは、決して現実的ではありません。また、日本では、原子力発電のバックアップ電源として火力発電をセットで考える産業構造が存在しています。調査会では、原子力発電を「脱炭素の確立した技術」と位置づけ、火力発電を減らした枠を原子力発電で補おうとしており、問題です。
2013年に閣議決定された電力システム改革が、2020年4月実施の送配電分離まで、三段階を経て、実施されてきました。改革の一環として、4年後の発電設備容量を確保する目的で導入された容量市場システムは、2020年の入札価格が高騰し、将来の国民負担の懸念がなされました。また、電気の小売り全面自由化にともなって創設された電力市場(JEPX)では、2021年1月に、電力価格の異常な価格高騰が続きました。改革を主導したはずの経産省は想定外の事態だとしていますが、制度設計の甘さが指摘されています。何より、再生可能エネルギーを主力電源と位置付けながらも、既存の大手電力に有利な構造であること、再生可能エネルギーを扱う新電力会社の参入を阻む不利な制度設計がなされていることが大きな問題です。制度設計やシステム管理をする経産省の原子力発電を温存しようとする姿勢こそが、制度のゆがみを引き起こした原因といえます。
国の方針として、原子力発電によるエネルギーからの脱却を決めることで、初めてその後の道筋を描くことができます。まずは「原発ゼロ基本法案」を一刻も早く法律として制定し、脱原発を実現すべきです。
日本のエネルギー政策に原子力発電は不要であるということを明らかにするためにも、原水禁として2021年3月にエネルギーの提言書をまとめました。福島原発事故から10周年の節目とも重なることから、2020年より「原水禁エネルギープロジェクト」にとりくみ、第6次エネルギー基本計画の策定に向けて、国会議員や調査会に対し、引き続き働きかけを行っていきます。また、2020年12月より環境NPOとともに開始したエネルギー基本計画に向けたキャンペーンでは、これまでの脱原発という概念だけにとどまらず、原発に頼ることなく温室効果ガス削減目標を高めるよう働きかけていきます。
日本は少資源国であるからこそ、純国産のエネルギーである再生可能エネルギー100%を目指して、エネルギープランを検討すべきです。原水禁は、引き続き、再生可能エネルギー100%を実現するためのとりくみを強めていきます。
(7)重要性を増す「さようなら原発1000万人アクション」のとりくみ
「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」は、2011年6月15日に大江健三郎さん、鎌田慧さんらの呼びかけで「さようなら原発『1000万人署名』市民の会」とともに、運動をすすめる実行主体として結成され、多くの市民とともに参加し、運動の中心を担ってきました。昨年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、屋内外の集会などの運動展開が困難となる中で運動を展開しました。現在も新型コロナウイルス感染症の拡大は続いていますが、運動はそのことに細心の注意を払いながら進めていくことが必要です。
事故から10年を超し、海洋放出など様々なフクシマ課題を訴えていきます。さらに原発ゼロ基本法案を提出した立憲野党との共闘を深め、様々な原子力課題を国会内で議論するよう要請していくことが重要です。特に今年8月には、新エネルギー基本計画が策定されようとしています。原発・核燃料サイクル推進を推し進めようとする菅政権の動きに対峙していくことが必要です。
今年度は秋と2022年3月に集会の開催を予定し、また立憲野党と共同し、「原発ゼロ基本法案」や様々な原子力課題の国会での議論を求める行動などを進めていきます。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 福島原発事故に関する様々な課題について、現地と協力しながら運動を進めます。被災者問題や被曝問題等について、政府や行政への要請や交渉を進めます。特に、汚染水の海洋放出に反対していきます。
② 福島原発事故にかかわる各種裁判を支援します。
③ 原水禁世界大会、「さようなら原発」の運動を通じ、福島原発課題を明らかにしていきます。
④ フクシマ連帯キャラバンを、労働組合の若い組合員を中心にとりくみます。
⑤ 原発の再稼働阻止にむけて、現地と協力しながら、課題を全国化していきます。合わせて自治体や政府への交渉を進めます。
⑥ 老朽原発の危険性を訴え、廃炉に向けた運動を進めます。
⑦ 関西電力の「原発マネーの不正還流問題」について「告発する会」に協力していきます。
⑧ 「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の運動に協力し、事務局の中心を担い、とりくみの強化をはかります。
⑨ 核燃料サイクル政策の破綻を明らかにし、六ヶ所再処理工場の建設中止を求めます。また、「4.9反核燃の日」全国集会や全国交流会を開催します。現地のとりくみを支援するとともに、国・事業者などへも要請や提言を行います。
⑩ フルMOX燃料の大間原発や上関原発などの新規原発の建設中止を求めていきます。
⑪ 中越沖地震の集会、JCO 臨界事故の集会など各地の集会に協力します。
⑫ 高レベル放射性廃棄物の地層処分に反対し、北海道寿都町や神恵内村の文献調査の白紙撤回を求め、北海道平和運動フォーラムと協力します。また、高レベル放射性廃棄物の問題点を明らかにし、各地でのとりくみの支援とネットワークの強化を図ります。
⑬ 原水禁エネルギープロジェクトとして取り組んできたエネルギーの提言を活用し、第6次エネルギー基本計画策定へ向けて、関係省庁などへ働きかけます。
⑭ 電力システム改革に伴う弊害を点検し、再生可能エネルギー100%を実現させるような取り組みを行います。
⑮ eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)キャンペーンの運営団体として、リーフレットなどを活用し、再生可能エネルギーへの転換を進めます。併せて、容量市場の問題点を広めます。
⑯ パワーシフトキャンペーン運営団体として、大手電力から、消費者の側から購入電力を選ぶことを推進し、再生可能エネルギー中心の新電力への切り替えをすすめる取り組みを強化します。また、JEPXの市場制度による弊害を検討し、制度の欠陥を改めるように関係省庁に働きかけます。
⑰ 各地の自然エネルギー利用のとりくみに協力します。また、各地の再生可能エネルギーを知るためのフィールドワークを企画します。地域から再生可能エネルギーのとりくみをつくり上げることに協力します。
⑱ 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)の対象期間終了後の代替案について、市民団体とともに考え、関係機関へ働きかけます。
⑲ 「あと4年 未来を守れるのは今」キャンペーンの運営団体として、気候危機を解決するエネルギーが原発によらないことを周知し、世論喚起を行います。
8.ヒバクシャ援護・連帯にむけてのとりくみ
(1)急がれる被爆者課題の解決
広島・長崎への原爆の投下から75年。被爆者健康手帳を持つ全国の被爆者は2019年度末で13万6682人となり、旧原爆医療法の施行で手帳交付が始まった1957年度以降の最少を更新しました。平均年齢は83.31歳となりました。高齢化が一段と進み、医療や介護の支援拡充が喫緊の課題となっています。原水禁としてもこの間支援してきました被爆体験者、在外被爆者(特に在朝被爆者)、被爆二世・三世など課題の解決が求められています。
原爆被爆者に対する原爆症認定は、粘り強い被爆者のとりくみや原水禁運動を通じ、裁判闘争を中心にとりくまれ前進がはかられ、その結果、2008年に採択された新しい原爆症認定に関する方針がだされました。しかし、その後も認定却下処分が相次ぎ、裁判所の判決により取り消され続けてきました。現在も名古屋、広島、福岡の各高裁などで争われていますが、行政の頑なな姿勢によって被爆者の人権がいまも侵され続けていることは問題です。
また、行政の頑なな姿勢は、これまでの在外被爆者、被爆体験者、「黒い雨」被爆者、被爆二世・三世に対しても同じです。原爆の被害を過少に評価し続け、被爆者の立場に立とうとしない姿勢が核兵器の容認につながっていきます。
被爆75年を超えて、今もなお被爆者のたたかいは続いています。私たちは被爆者のたたかいを支援し、政府の姿勢を正していかなければなりません。
(2)在外被爆者への差別を許さず援護を実現するとりくみ
戦後、祖国へ帰還した在外被爆者への援護は、日本の戦争責任・戦後責任と重なり、戦後75年を過ぎても重要な課題です。これまで在外被爆者の援護の水準は、国内に居住する被爆者の水準と比べて大きな格差がありました。原水禁は、在外被爆者自身の裁判闘争を支援し、「被爆者はどこにいても被爆者」であるとして、差別のない援護の実現にむけてとりくんできました。また、在外被爆者の権利を制限していた厚生労働省公衆衛生局長の402号通達(被爆者手帳を交付されていても、外国に出国や居住した場合は、健康管理手当の受給権が失効する)は、その違法性が最高裁でも認められました。2015年9月8日には最高裁で「在外被爆者にも医療給付がなされるべき」との判決が下され、制度上の不平等は大幅に改善しました。しかし、長い年月の経過の中で、国外移住によって被爆を証明する証人が見つけられない、国交がないことで在朝被爆者には実質的に適用されていないなど、被爆者健康手帳の交付について多くの課題が残されています。
在朝被爆者は、2007年段階で384人が確認され、原水禁は、幾度となく訪問・協議を重ね、被爆者支援の道を探ってきましたが、緊迫する日朝関係の中で困難な状況が続いています。この間、米朝首脳会談の実現、南北間での対話などがありました。米国は共和党・トランプ政権から民主党・バイデン政権へと政権がかわり、新たな米朝関係の進展を期待したいと思います。一方日本の菅政権は、何ら具体的な外交方針を示していませんが、東北アジアの平和と安定に向けて日朝国交正常化が必要です。外交ルートがないことを理由に在朝被爆者を放置しておくことは、人道的にも、日本の戦争責任・戦後責任においても問題です。在朝被爆者の実態把握と人道的援護などを求め、政府・厚労省との交渉や国会で議論を促進することが必要です。高齢化する在朝被爆者の課題前進にむけたとりくみを急ぎます。
(3)「被爆体験者」に援護法の適用を
被爆者認定の地域である爆心地より12km圏内で被爆したにもかかわらず、長崎市域外(長崎市は東西約7km)であったことを理由に「被爆体験者」と呼ばれ、被爆者援護法の枠外に置かれている被爆者は、自ら課題の解決を司法の場に求め、裁判闘争を続けていましたが、第一次訴訟、第二次訴訟と敗訴してきました。
とくに第二次訴訟の長崎地裁で、「自然放射線による年間積算線量の平均2.4mSvの10倍を超える25mSv」前後の被曝での「健康被害の報告、研究に照らすと、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性」があったとし、米軍による空間線量率測定値に基づいて推定した放射性降下物による外部被曝線量が25mSv(原爆投下後1年間)を超えた原告10人のみについて「被爆者健康手帳」を交付すべきとしましたが、その後の高裁判決で覆されました。その中で裁判所は100mSv以下の健康影響を全面否定し、内部被曝については何ら問題としませんでした。被曝の健康影響を軽視した判決で許すことはできません。現在、第一次訴訟のうち28人、第二次訴訟のうち26人が長崎県や長崎市を相手取り、あらためて被爆者健康手帳と、第一種健康診断受診者証(被爆者に準じた健康診断を受けることができるもの)の両方の交付を求め、長崎地裁に再提訴し、裁判が続いています。
一方、昨年7月29日の「黒い雨」訴訟の判決で、広島地裁は、「被爆者援護区域より広範囲に降雨があったことを認め、病気の発症が放射性物質に起因する可能性がある」として、被爆者援護法の「放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」(3号被爆者)と認めました。この判決は、長崎における被爆体験者(爆心地から12km圏内で被爆したにもかかわらず長崎市外として援護法の適用から除外された者)訴訟にも影響を与えるものです。内部被曝の評価も大きな争点で、被爆体験者につながるものでした。引き続き「被爆体験者」を支援し、被爆地域の拡大と被爆者認定、被害の実態に見合った援護を勝ち取っていく必要があります。
(4)被爆二世・三世の人権確立を求める運動を支援しよう
父母や祖父母の被爆体験を家族として身近に受け継ぎ、自ら核被害者としての権利を求め、核廃絶を訴えている被爆二世協の運動は、今後の原水禁運動の継承・発展にとっても重要です。
現在まで被爆者援護法の枠外に置かれている被爆二世・三世は、父母や祖父母の原爆被爆による放射線の遺伝的影響を否定できないなか、健康不安や健康被害、社会的偏見や差別などの人権侵害の状態に置かれてきました。被爆二世の全国組織である「全国被爆二世団体連絡協議会(全国被爆二世協)」は、このような被爆二世問題の解決のために、①国家補償と被爆二世への適用(「5号被爆者」として被爆者援護法に位置づける)を明記した「被爆者援護法」の改正を国(厚生労働省)や国会に対して要求してきました。
全国被爆二世協は、国内での課題解決の進展が全く見られない中にあって、国連人権理事会の場で被爆二世の人権保障を日本政府に求める運動をスタートさせるとともに、国家賠償を求め、2017年2月17日に広島地裁、2月20日には長崎地裁に「原爆被爆二世の援護を求める集団訴訟」を起こしました。このとりくみを通じ被爆二世協は問題の所在を社会的に明らかにし、被爆二世を援護の対象とする国による立法的措置の契機とすることをめざしています。
昨年はコロナ禍の影響で裁判も延期となっていました。今年1月に広島地裁、4月長崎地裁と再開され、議論が続いています。引き続き被爆二世訴訟を支援していきます。また、被爆二世の課題について原水禁世界大会や全国被爆二世協の運動と連携していきます。
(5)被曝労働者の権利確立を求める運動と連帯しよう
福島原発事故の収束作業や除染作業にあたる労働者の被曝問題が大きな課題となっています。高線量の中での作業や劣悪な労働環境がもたらす被曝は、労働者の健康に多くの有害な影響を与えるもので、福島原発事故の収束作業にかかわらず、原発労働者が「安心・安全」に働くための労働者の権利の確立は、全ての原子力施設での労働の基本に据えなければなりません。
原発労働は、従来から工事の下請け企業による雇用が中心で、雇用や労働環境の問題はなおざりにされてきました。被曝問題だけでなく、危険手当てのピン撥ね、パワハラ等、労働者の基本的な権利が侵害される事例が日常的に起きています。
この間、被ばく労働者ネットワークや「さようなら原発」の運動、ヒバク反対キャンペーンなど8団体により政府交渉や裁判支援などを行ってきました。引き続き運動の連携を深め、被曝労働者の命と権利を守るとりくみを強化していきます。
(6)世界の核被害者との連帯を
原水禁運動は、国内の核被害者の支援・連帯はもとより、世界の核被害者との連帯を重要な課題として受け止めとりくんできました。核の「軍事利用」や「商業利用」では、とりわけ核のレイシズムともいわれる差別と人種的偏見による人権抑圧の下で、先住民に核被害が押しつけられ続けてきました。原子力利用は、ウラン採掘の最初から放射性廃棄物処分の最後まで、放射能汚染と被曝をもたらします。原水禁は、米・仏などの核実験による被害者、特に近年では、ビキニの被災者、ウラン採掘現場での被害者、チェルノブイリの原発事故での被害者など、これまで多くの核被害者との連帯を深めてきました。
原水禁は、今後とも、差別と抑圧の厳しい現実の中でたたかっている世界中のヒバクシャ=核被害者と連帯し、ヒバクシャの人権と補償を確立し、核時代を終わらせるために運動の強化が求められています。原水禁世界大会などを通して、核被害者との連帯をはかっていきます。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 原爆症認定制度の改善を求めます。被爆者の実態に則した制度と審査体制の構築に向けて、運動をすすめます。
② 在外被爆者の支援や交流、制度・政策の改善・強化にとりくみます。
③ 在朝被爆者支援連絡会などと協力し、在朝被爆者問題の解決に向けてとりくみます。
④ 被爆体験者の再提訴を支援します。
⑤ 健康不安の解消として現在実施されている健康診断に、ガン検診の追加など二世対策の充実をはかり、被爆二世を援護法の対象とするよう法制化に向けたとりくみを強化します。さらに健康診断などを被爆三世へ拡大するよう求めていきます。また、被爆者二世裁判を支援します。
⑥ 被爆認定地域の拡大と被爆者行政の充実・拡大をめざし、国への働きかけを強化します。
⑦ 被曝線量の規制強化を求めます。被曝労働者の被曝線量の引き上げに反対し、労働者への援護連帯を強化します。
⑧ 被爆の実相を継承するとりくみをすすめます。「メッセージ from ヒロシマ」や「高校生1万人署名」、高校生平和大使などの若者による運動のとりくみに協力します。またDVD「君たちはゲンバクを見たか」のリニューアル版の普及をはかります。
⑨ 世界のあらゆる核開発で生み出される核被害者との連携・連帯を強化します。
9.食・水・みどりをめぐるとりくみ
(1)日米貿易交渉など通商交渉に対するとりくみ
昨年1月1日に発効した日米貿易協定は、本来ならば、4ヶ月以内に次の交渉課題を決めて、再交渉が行われることになっていました。しかし、コロナ禍やアメリカの大統領選挙、日本での安倍首相の退陣などもあり、実質的な協議は行われませんでした。今後、バイデン新大統領のもとで、第2段階の本格的な貿易交渉を進めることになるか、あるいは米国のTPP復帰も模索されています。いずれにしても、農畜産物などの物品だけでなく、食の安全や医療・医薬品、投資、政府調達などの本格的な交渉が行われる可能性が高くなっています。
一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国など15か国で合意署名が行われた「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」については、インドが離脱していますが、それでも、RCEPは国内総生産(GDP)、人口ともに世界の3割を占める巨大な協定となります。日本は今年の通常国会での承認をめざしています。
農産物では米・牛肉・乳製品など日本の重要品目は関税撤廃・削減の対象外となりましたが、今後、再協議が行われれば、これらも対象になる可能性が高くなっています。また、中国・韓国と初めて結ぶ貿易協定となり、今後は日中韓3か国の貿易交渉につながることも考えられます。
こうした通商交渉は、国会での野党の追及にもかかわらず、交渉経過や内容が明らかにされてきませんでした。特に今後、どのように再協議がなされるのかなどは明確ではありません。こうしたことから、今後、徹底した情報公開や市民との意見交換を求めていく必要があります。また、世界的にも行き過ぎたグローバリズムによる格差の拡大、新自由主義経済に対する市民の反対の声も広がっていることから、グローバリズムの問題も検討していく必要があります。
平和フォーラムは「TPP プラスを許さない!全国共同行動」など、関係団体と連携を取って学習・集会、シンポジウムの開催や政府交渉などを進めます。
(2)食をめぐるとりくみ
通商交渉の動きは食に関しても大きな影響を与えるものです。特にアメリカからの要望が強かった遺伝子組み換え(GM)食品の表示制度の改定、新しい遺伝子操作であるゲノム編集技術を用いた食品の流通も可能になりました。すでにアメリカではゲノム編集された大豆が出回り、日本への輸入も予想されます。日本でも新たにトマトでの開発が行われ、流通しようとしています。消費者団体ではゲノム編集食品の表示を求める活動を行っています。
一方、農薬の残留基準値も徐々に緩和され、輸入農産物の検査体制にも影響を与えています。日本は単位面積当たりの農薬の使用量が世界的にも多く、発がん性や環境への影響も指摘されています。消費者団体などからは有機農産物の拡大や学校給食への導入を求める運動も起きています。
また、いわゆる「健康食品」については、誇大・虚偽・「ほのめかし」などの不確実な宣伝・広告があふれています。テレビや新聞に加え、最近はネットでの拡散も増えています。平和フォーラムも参加する「食の安全・監視市民委員会」では、広告の規制などを求めてとりくむことにしています。
(3)水・森林・化学物質などのとりくみ
水問題については、合成洗剤などの化学物質の排出・移動量届出制度(PRTR 制度)を活用した規制・削減や、化学的香料による健康被害の「香害」問題への早急な対策など、化学物質の総合的な管理・規制にむけた法制度や、有害物質に対する国際的な共通絵表示制度(GHS)の合成洗剤への適用などを求めて運動を展開していく必要があります。特に、PRTRの指定物質に石けん成分が含まれたことは大きな問題であることから、その取り消しを求めていく必要があります。また、沖縄等の米軍基地を発生源とする有機フッ素化合物による水汚染問題もとりくみを進めていく必要があります。
水の公共性と安全確保のため、今後も水循環基本法の理念の具体化や、「水道法改正」による水道事業民営化の動きを注視し、水道・下水道事業の公共・公営原則を守り発展させることが、引き続き重要な課題となっています。
世界的な森林の減少と劣化が進み、砂漠化や温暖化を加速させています。日本は世界有数の森林国でありながら、大量の木材輸入により、国内の木材自給率は低迷してきましたが、最近は、国産材の使用拡大施策などが図られています。また、「森林環境譲与税」を活用した森林整備、担い手育成なども重要になっています。一方、違法伐採やTPP等様々な通商協定による木材製品の貿易への影響を注視する必要があります。今後も、温暖化防止の森林吸収源対策を含めた、森林・林業政策の推進にむけて、「森林・林業基本計画」の推進、林業労働力確保、地域材の利用対策、山村における定住の促進などを求めていくことが必要です。
(4)食料・農業政策のとりくみ
2020年の農林業センサスによると、農業経営体や農業従事者は、5年前に比べて2割以上も減少し、65歳以上の割合は69.8%になりました。農作物の作付面積、耕地利用率とも過去最低を更新し、耕作放棄地も増加し、急速に農業生産の基盤が崩壊しつつあります。
菅政権は安倍農政を継承するとし、「規制改革の推進」を政策の柱に掲げ、企業の農地取得、農業参入の自由化、経営規模の拡大、中山間地農業の解体を進めようとしています。
さらにコロナ禍で外食や学校給食などの需要が減少し、農畜産業にも大きな影響をもたらしました。世界的にも、農業労働力の減少や物流の混乱、各国の輸出規制、国際的な食料価格上昇により、発展途上国を中心に食料危機が深刻になっています。
こうした中で、昨年3月に今後の中期的目標を示す「食料・農業・農村基本計画」が改定され、中小農家や地域政策の重視も掲げられています。また、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)や、2019年から始まった国連の「家族農業の10年」でも、食料安全保障、生物多様性、環境持続可能性の実現のために、持続可能な農業推進がすべての国の目標とされました。
しかし、日本では、世界的な趨勢になっているアニマルウェルフェア(動物福祉)の国際基準作りをめぐって、農水大臣(当時)や官僚が養鶏業界から現金や接待を受け、行政を歪めたのではないかと疑惑を持たれるなど、不透明な事態も起きています。
農民・消費者団体と協力し、食料自給率向上や所得補償制度の拡充、食品の安全性向上などの法制度確立と着実な実施を求めていく必要があります。また、各地域でも、食の安全や農林水産業の振興にむけた自治体の条例作りや、学校給食等を通じた食育も重要です。
【2021年度の具体的とりくみ】
① 様々な通商交渉に対し、その情報開示を求め、問題点を明らかにするとともに、幅広い団体と連携を図り、集会や学習会などを開催していきます。
② 輸入食品の安全性対策の徹底とともに、日米二国間交渉等にともなう食品規制緩和の動きに反対して、消費者団体などと必要な運動を進めます。
③ 「食品表示制度」に対し、消費者のためになる表示のあり方を求めていきます。
④ 「きれいな水といのちを守る全国連絡会」の事務局団体として活動を推進します。特に、10月に開かれる予定の「きれいな水といのちを守る全国集会」(於・岐阜県内)に協力します。また、「水循環基本法」の具体化にむけたとりくみを求めます。
⑤ 関係団体と協力して、「森林・林業基本計画」で定めた森林整備の確実な推進、地産地消による国産材の利用拡大、木質バイオマスの推進などにとりくみます。
⑥ 温暖化防止の国内対策の推進を求め、企業などへの排出削減の義務づけや森林の整備など、削減効果のある具体的な政策を求めます。
⑦ 農林業政策に対し、食料自給率向上対策、直接所得補償制度の確立、地産地消の推進、環境保全対策、再生可能エネルギーを含む地域産業支援策などの政策実現を求めます。
⑧ 各地域で食品安全条例や食育(食農教育)推進条例づくり、学校給食に地場の農産物や米を使う運動、子どもや市民を中心としたアフリカ支援米作付け運動や森林・林業の視察・体験、農林産品フェスティバルなどを通じ、食料問題や農林水産業の多面的機能を訴える機会をつくっていきます。
⑨ 「第53回食とみどり、水を守る全国活動者会議」の実行委員会に参画して、開催にむけてとりくみます。
10. 平和フォーラムの運動と組織の強化にむけたとりくみ
(1)平和フォーラムの運動の到達点と今後の課題
平和フォーラムの運動は、総評労働運動の歴史的な運動方針を継承し、共闘の基礎を担う産別中央組織と中央団体、そして、各都道府県組織の活動によって支えられてきました。また、戦争法の廃止を求める運動の過程で、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「さようなら原発1000万人アクション」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」、「戦争をさせない1000人委員会」などの運動にとりくみ、運動の幅を広げてきました。これらの運動は、広範な運動展開と社会の多数派形成を展望するうえで、従来の枠組みを超えた運動の展開を可能とし、大きな役割を果たしています。
しかし、この間のとりくみの中でも、中央・地方間のとりくみの温度差があることが明らかになっています。「総がかり行動実行委員会」のとりくみが中心となっている地域から、平和フォーラムの運動の枠内で活動している地域まで様々ありますが、このことは、各県の地域事情、すなわち連合との関係性、立憲民主党や社民党との関係性や、さらには日本共産党やその影響下の運動組織との共闘のあり方に規定されているのが実情です。
このような中で、社民党は昨年11月14日の臨時党大会で、社民党を存続させつつ、国会議員や地方組織が立憲民主党に合流することを容認する議案を可決しています。結果として、社民党は、立憲民主党へ合流する人たちと新たな社民党に残留する人たちに分かれることとなりました。平和フォーラムとしてはこの判断を尊重するとともに、この新たな状況に対応し、運動の継続と強化・発展をめざしていかなければなりません。
さらに、全国共通した課題として、次代を担う人材の育成が大きな課題として浮上しています。平和フォーラムを構成する中央団体・各都道府県組織を担う人材は、総じて高齢化が進んでおり、平和フォーラムの運動の継承を可能とするために、とりくんできた諸課題について、若い世代に丁寧に伝えながら、意識的に若い世代の活動家づくりを進めていくことが必要です。
以上のような状況の中で、今年は秋までには衆議院総選挙があり、来年は参議院選挙が行われる予定です。この二つの選挙は、今後の日本の政治の方向性を大きく規定するものとなる可能性が高く、平和フォーラムの運動にとっても、その帰趨がもたらす意味は重大です。新型コロナウイルス感染症に対する対応でとりくみが制約される中でも、この2年間を、平和や人権、環境をめぐる諸政策の実現を可能とする政治の実現に向け、実りあるものとしなければなりません。これを可能とするためには、平和フォーラムとして、具体的で効果的な運動の再構築と、それを支える平和フォーラム組織の強化が必要です。
このため、以下の課題について、組織検討委員会や同作業委員会での討議をはじめとして、組織強化の具体化について中央・地方の機関会議などで討論を進めていきます。
(2)運動と組織の強化にむけたとりくみ
ア.より広範な運動展開と社会の多数派をめざす活動
平和フォーラムのとりくんできた諸課題の運動の到達点を踏まえ、政策実現のとりくみを進めるためには、新しい政策実現への展望を切り開きつつある運動体との連携を進めるなかで、政府との対抗関係を構築する必要があります。とりわけ、ナショナルセンターとしての連合にその役割を果たすことを期待し連携を強化するとともに、広範な運動の構築をめざします。
そのうえで、中央では、政府との対抗関係を構築するために、この間とりくみを進めてきた、「戦争をさせない1000人委員会」、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」について、引き続き、とりくみを進めます。また、立憲民主党、社民党などと連携し、よりきめ細かな政府・各省・自治体等への対策を強化します。
また、こうしたとりくみ全体を促進するため、研究者・研究団体、NPO・NGO、青年や女性団体などとの連携も強化します。一方、平和フォーラムの地方組織においては、地域事情や様々な歴史が存在します。より広範な運動展開をめざすなかでも、自らの基礎を固めるとりくみも重要です。このため、地方組織においては、それぞれの現在のとりくみを基礎として、地域事情に合った運動の展開をはかるとともに、ブロックごとのとりくみを重視し、より広範な運動展開を展望します。
イ.平和フォーラム組織の強化・拡大
運動の継承を可能とするために、大きな課題として浮上している、次代を担う人材の育成については、平和フォーラムの課題を若い世代に丁寧に伝えるなかで、意識的に若い世代の活動家づくりを進めます。このため、共闘の基礎を担う産別中央組織と中央団体とともに、次代を担う人材の育成にむけて、10年後を展望して対応を議論していきます。また、平和フォーラムの運動を担う、新たな仲間の獲得も重要です。運動でのつながりの中から、さらなる組織拡大を追求していきます。
新型コロナウイルス感染症に対する対応が引き続き求められる中で、これまでのように集会等への参加を通じて、運動への新たな参加者を確保することが困難となっています。当面は、Zoomやユーチューブなどの情報通信技術を併用する形でのとりくみとならざるを得ませんが、その際にも、新しい運動の担い手の結集の機会となるよう、意識しながらとりくみをすすめなければなりません。このために、運動の情報発信をより広く行い、とりくみの意義と目的が明確なものとなるよう努めます。
また、地域によっては、「人を集める」ことが可能な地域もあります。このため、この間2回にわたってとりくんできた「ピーススクール」のとりくみなどについても、ブロック単位、あるいは都道府県単位での開催は可能です。今年については、これら、次代を担う人材の育成を意識的に進めていきます。
さらに、社民党の決定にともない、各都道府県組織には様々な影響が生じていることが考えられます。総評労働運動の歴史的な運動方針を継承する平和フォーラムとしては、各都道府県組織の対応を尊重しつつ、この新たな事態が運動の後退を招くことのないよう、対応していかなければなりません。このため、各都道府県組織へのオルグ体制をこれまで以上に充実させ、情報の共有化など、対応を進めていきます。
【2021年度の具体的とりくみ】
①機関運営について
ア.平和フォーラムの運動の課題と目標を具現化するために、Zoom等も活用しながら、常任幹事会、運営委員会、原水禁常任執行委員会を開催します。また、各地方組織の課題、平和フォーラムの活動の共通目標の確認のため、各都道府県・中央団体責任者会議、全国活動者会議を開催し、討議を進めます。組織体制や運動づくりを進める際に、男女共同参画の視点は必須です。常にジェンダーバランスに意識した運営を心がけます。
イ.首都圏における対面での会議の開催が困難ななかで、平和フォーラムの各都道府県組織との連携をはかるため、可能な限り平和フォーラムから、各地方ブロック会議に参加し情報交換を進めます。
ウ.社民党の決定にともなう新たな事態に対応するため、オルグ体制を強化します。
②運動の拡大をめざすとりくみ
ア.「戦争をさせない1000人委員会」、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」、「さようなら原発1000万人アクション」などを軸として、平和団体、市民団体、人権団体との連携を強化します。研究者、文化人との連携も強化します。
イ.制度・政策活動の充実にむけて、他団体、政党・議員との連携を強化し、政府・各省・地方自治体・関係企業などとの交渉力を強めます。また政策課題に対応した立憲フォーラムをはじめとする議員団会議、議員懇談会との連携を強化します。
ウ.国際的平和団体、反核団体、市民団体、労働団体などと連帯し、国連や関係政府に働きかけると同時に運動の国際連帯を強化します。とりわけ東アジアを重点とした関係強化を図ります。
エ.若い世代の活動家づくりを重点的に進めます。また、組織拡大を追求します。
③情報の発信と集中、共有化について
ア.コロナウイルス感染症による活動の制約が続く中で、インターネットやその他の通信手段で平和フォーラム・原水禁のとりくみに参加する市民が増えており、インターネット等による発信力の強化が求められています。今後は、それぞれの機能を有効に活用し、一方的な情報発信にならないような工夫、情報の整理と蓄積などを行います。
イ.政策提言の発信や、パンフレットやブックレット、記録集の発行などをすすめます。
④集会の開催、声明などの発信
中央、地方の大衆的な集会の開催、署名活動、社会状況や政治的動向に対する見解や声明などの発信などは、平和フォーラムの運動目標を具現化し、社会的な役割を拡大するために重要なとりくみです。政治情勢の変化によって起きるもろもろの事態に対応するため、運動の重点化、年中行事型運動の見直し、運動スタイルの見直しなどが必要です。参加しやすい環境づくりを念頭に置いて、見直しにとりくみます。
⑤財政基盤の確立・強化
運動の前進と継続のため、財政基盤の確立と効率的な執行に努めます。
以上