イラク情勢Watch vol.76 09年9月30日 発行:フォーラム平和・人権・環境 編集:志葉 玲 Topics 1)イラク報道ピックアップ 2)『冬の兵士』イラク帰還米兵が来日、全国で講演 3)イラク戦争支持・自衛隊イラク派遣の見直しを―NGO、平和運動関係者らが準備会合 4)国連のイラク難民への支援、資金難で来年から削減される見通し―ニーズは高まる一方 5)イラクの油田に群がる日本企業と、戦争支持を肯定する保守論調 1)イラク報道ピックアップ ・10月に4000人追加撤退 イラク駐留米軍司令官が表明へ(CNN) ・放射能被害、実態訴え 松山で映画監督が講演(愛媛新聞) ・ ・米軍同行取材:現状と課題 被害兵士の写真制限、市民描写はOK(毎日) ・イラクのクルド自治政府が北欧企業の油田操業停止(産経) ・イラク駐留米軍兵士に「靴」投げた男、銃撃され重体(ロイター) ・バグダッド中心部で迫撃弾 米副大統領・イラク首相会談後に(日経) 2)『冬の兵士』イラク帰還米兵が来日、全国で講演 院内集会で自らの体験を語る、アダム・コケシュ氏とアフガン帰還兵リック・レイズ氏 映画『冬の兵士・良心の告発』や、岩波書店から先月に出版されたばかりの『冬の兵士 イラク・アフガン 帰還米兵が語る戦場の真実』の中で、イラクでの米軍の振る舞いを証言していた元米海兵隊員のアダム・コケッシュ氏が今月来日し、東京、沖縄、大阪、京都、名古屋で講演した。同氏は「イラク復興に役立ちたい」と2004年に米軍に志願入隊するものの、市民が無差別に虐殺されたファルージャへの総攻撃を目の当たりにして、米軍に幻滅。「反戦イラク帰還兵の会」(IVAW)に参加する。イラク占領への抗議の中で何度も逮捕されながらも活動を続け、昨年3月に開かれた公聴会『冬の兵士』でイラクでの体験を証言した。 コケッシュ氏や他の帰還米兵達の公聴会での証言は、『冬の兵士 イラク・アフガン 帰還米兵が語る戦場の真実』に収められている。これはジャーナリストのアーロン・グランツ氏らがまとめたもので、翻訳は岡真理氏と共に『ガザ通信』を訳したTUP(平和をめざす翻訳者たち)。この本では、ほとんどの兵士達が実名・顔出しで自らの壮絶な体験や犯してしまった罪や告白している。 http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-024651-4 同書では、「自衛の場合を除き、民間人や民間施設、文化遺産などを攻撃してはならない」という米軍の交戦規程が、米兵達の極度の緊張や上官の指揮により、なし崩しになり、何も武器らしいものを持っていなかろうが、白旗を掲げていようが、接近してくるイラク人は全員撃ち殺すようになっていく様が語られている。イラク人の死体と一緒に面白半分に写真に撮る。トラックの荷台に山積みのイラク人の死体、生首を掲げて気勢をあげるなど、米兵達は「怪物」と化してしまう。また、米軍内にイラク人を蔑み人間扱いしない、暴力的に扱い、拷問ともいえるような肉体的・精神的嫌がらせを繰り返すといった風潮が蔓延していたことも描かれている。コケッシュ氏らは後に自らや仲間の行為の異常さに気づき、激しく後悔、本書でも悔恨の思いを語っている。 その他にも、貧しい若者や移民が奨学金など軍からの支援欲しさにイラクに送られていく様子や、現地で心や身体に深い傷を負い帰国したものの、見捨てられ治療も満足に受けられないまま、さらなる貧困に落ちていくことや、女性兵士がセクハラや強姦も含む性暴力を同僚から受けていることなども告発している。 本書や映画『冬の兵士』は、イラク戦争の実態を改めて確認する上で、必見・必聴だと言えるだろう。 3)イラク戦争支持・自衛隊イラク派遣の見直しを―NGO、平和運動関係者らが準備会合 今月29日、イラクへの人道支援やイラク反戦運動に関わってきた日本のNGOスタッフや平和運動家たちが都内で会合を開き、自公政権によるイラク戦争支持・支援の検証を、新政権に求める動きをつくっていくことを確認した。 空爆されたバグダッドの市街地(2003年3月撮影) 英国では、今年7月にイラク戦争参戦の経緯や軍事攻撃の合法性について検証する独立調査委員会が設置され、米国でもイラクの復興の検証が議会の設立した監察長官オフィスに委託され、報告書が議会に提出されている。そこで、日本でも政権交代を機に、イラク戦争支持の政府見解や、自衛隊イラク派遣の違憲性について、独立調査委員会を設け、情報開示を行わせた上で、新たな政府見解を出させようというのだ。 実は、民主党は空自イラク派遣の違憲判決を受けて、以下のような談話を発表している。 「…戦争の大義とされた大量破壊兵器の存否等、恣意的で不正確な情報に基づいて、イラク戦争支持を表明した当時の政府判断が誤りであったことも認めず、その検証も放置している…」 http://www.dpj.or.jp/news/?num=13115 また、空自のイラク撤退の決定の際にも、以下のような談話を発表している。 「…政府は、航空自衛隊の派遣を直ちに終了させるとともに、恣意的で不正確な情報に基づいて、米国に追従してイラク戦争支持を表明した当時の政府判断について検証を行い、早急に責任を総括すべきである。あわせて、4年以上に及んだ航空自衛隊の活動を総括し、その内容と実績についての説明責任を果たすべきである…」 http://www.dpj.or.jp/news/?num=14035 これらの談話は、民主党が野党の時に発表されたものであるが、政権をとった今、有言実行で早急に取り組まれるべき課題だろう。日本の報道や社会の雰囲気として、イラク戦争はもう終わったことのようにされているが、実際にはイラク国民の5〜6人に一人が国内・国外で難民化しており、状況はますます厳しくなっている。また、開戦当時、世論調査で8割の人々がイラク戦争に反対したのにも関わらず、当時の小泉首相は、勝手に米国を支持してしまった上、開戦の最大の根拠であった「イラクの所有する大量破壊兵器」という情報誤った情報であったことは当のブッシュ前大統領も認めているところであるのに、日本の外務省見解では、今なお修正されていない。これはイラクの問題のみならず、民主主義国家としての日本あり方が問われている問題であり、今後日本がまた誤った戦争を支持し参戦していかないための歯止めともなる。 29日の会合では、今後、イラク戦争支持・支援の検証を求めるネットワークを形成し、ロビイングや署名活動、著名人への賛同呼びかけ、イベントや記者会見などを行うことが話し合われた。この動きについては、今後も本コーナーで取り上げていくつもりである。 4)国連のイラク難民への支援、資金難で来年から削減される見通し―ニーズは高まる一方 日本を服務国際社会のイラク情勢の関心低下と反比例するように、イラクでの人道支援の必要性は高まっている。だが、UNHCR(国連難民高等弁務官室)ですら、イラク難民支援のための資金を集めきれず、来年から支援を縮小せざる得ない状況に陥っている。 イラク中部スレイマニアの国内避難民 今年7月のIRIN(統合地域情報ネットワーク)の報道によれば、UNHCRのシリア支部の広報官は「イラク国内外の難民への支援に必要な資金3億9700万ドルの38%としか確保できていない」と危機感をつのらせた。「実際、我々はサービスをカットせざるを得ず、それは最も弱い立場の人々の状況に重大な悪影響を及ぼすでしょう」(同報道官)。シリアやヨルダンのイラク難民が依存しているUNHCRによる生活費支給も、来年1月以降は続けられなくなる見通しだ。 駐在先のイラク隣国ヨルダンから一時帰国中の原文次郎さん(日本国際ボランティアセンター)はこう嘆く。「銃撃戦や爆破など各勢力の民兵が抗争を続け、治安は未だ安定しません。つい先日もイラクへ帰還した難民一家が民兵に皆殺しにされるという事件がありました。ですから、イラク人口の5〜6人に一人に相当する400万人以上が帰るに帰れず、現在も国内外で避難生活を送っているのです。近隣諸国では就労が禁じられており、イラク国内においても、働き盛りの男性が、妻や子どもを残して亡くなっているため、非常に貧しく困窮しているケースが少なくない。せまい一部屋に何人もがぎゅうぎゅう詰めとなって暮らしていたり、重病であっても医療を受けられなかったり。こうした状況にも関わらず、在イラク日本大使館は、『緊急支援を行う段階は終わった』というスタンスなのです」(原さん)。 避難民の子ども達い文房具を配る高遠さん(今年4月イラク西部ラマディにて) イラク支援ボランティアの高遠菜穂子さんも、彼女のブログで上記IRINの記事を紹介、イラク難民の状況の厳しさを憂いつつ、「世界中の軍事費を確か1%削るだけで、世界中の子どもたちが教育を受けられるって国連事務総長が言ってたじゃない。もう1%削って世界中の難民に食料をお願いできないかしら?さらにもう1%削って、貧困撲滅を目指すのに使ってくれないかしら?さらにもう1%削って、地球温暖化対策に充ててくれないかしら?」と訴えている。 ☆イラク難民支援の募金振込み先はこちら。 ********************************************** 日本国際ボランティアセンター 口座番号: 00190−9−27495 加入者名: JVC東京事務所 寄付先の指定をご希望の場合は、その旨通信欄にご明記ください。 (例:「イラク支援」など) クレジットカードやインターネット等からに振込みはこちら↓ http://www.ngo-jvc.net/jp/support/fundraise.html ********************************************** ********************************************* 高遠菜穂子さんのイラク支援基金口座 郵便振替口座番号:02750-3-62668 加入者名:イラク支援ボランティア 高遠菜穂子 ********************************************* 5)イラクの油田に群がる日本企業と、戦争支持を肯定する保守論調 ロイター通信、共同通信などの報道によれば、新日本石油とイラク政府がイラク南部のナシリヤ油田開発で、契約締結にむけて最終調整を行っているという。同油田開発をめぐっては、新日石と国際石油開発帝石、日揮の3社による企業連合で進められており、約1兆円の事業費は、日本政府が国際協力銀行を通じて支援するという。この開発が順調に進めば日量60万バレルと、日本の原油消費量の12%が見込まれる。 イラク最大の油田地帯キルクーク。石油利権をめぐる各勢力の衝突やテロに巻き込まれる 住民は「石油があっても厄介ごとばかりで、我々は貧しいまま。何もいいことはない」と話す。 この開発をめぐり、保守系メディアやコメンテーター達からは「イラク戦争への批判は強かったが、いち早く米国を支持して良かった」「自衛隊イラク派遣のおかげ」と主張している。だが、イラク石油法や米軍との地位協定をめぐる紛糾ぶりを見ていると、イラク政府も一般市民のみならず国民議会議員での反米感情に配慮せざるを得ないのは確かで、むしろ、かつて日本企業がイラクのインフラ整備で貢献した「貯金」であるのではないか。 いずれにしても、困窮するイラク難民や貧困層の苦境を思えば、単純に「石油権益獲得」とはしゃぎ、イラク戦争やこれに対する日本政府の姿勢の、余りに大きすぎる負の部分から目をそむけようとするのは、甚だしく不謹慎であり許されることではない。民間のプロジェクトとは言え、政府がこれを後押しする以上、単に原油を売買するだけではなく、原油利権をめぐる現地勢力の衝突を増長させないようにすることや、原油売買利益が一部の権力者に集中するのではなく、イラク市民に等しく還元され、真の意味でのイラク復興に役立てられるように、日本として細心の注意を払わなくてはならないし、また日本の有権者もこれを監視するべきであろう。 ●バックナンバー 第75号 2009年07月31日 第74号 2009年06月30日 第73号 2009年05月06日 第72号 2009年04月10日 第71号 2009年01月31日 第70号 2008年12月30日 第69号 2008年11月17日 第68号 2008年09月17日 第67号 2008年07月31日 第66号 2008年06月30日 第65号 2008年05月31日 第64号 2008年04月30日 第63号 2008年03月31日 第62号 2008年02月07日 第61号 2007年12月28日 第60号 2007年11月15日 第59号 2007年10月30日 第58号 2007年09月30日 第57号 2007年08月20日 第56号 2007年07月31日 第55号 2007年07月17日 第54号 2007年06月30日 第53号 2007年06月06日 第52号 2007年05月11日 第51号 2007年04月16日 第50号 2007年04月02日 第49号 2007年01月31日 第48号 2006年12月31日 第47号 2006年11月30日 第46号 2006年11月19日 第45号 2006年11月07日 第44号 2006年10月28日 第43号 2006年10月13日 第42号 2006年09月30日 第41号 2006年08月29日 第40号 2006年07月25日 第39号 2006年07月13日 第38号 2006年06月30日 第37号 2006年06月12日 第36号 2006年06月01日 第35号 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