イラク情勢Watch vol.57 07年8月20日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick up
2)「あえて巻き込まれて応戦」元陸自イラク復興支援隊長が問題発言
3)「イラク戦争犠牲者は100万人」?米シンクタンクが発表
4)国連がイラクでの国民融和の会議を主導、現地紙伝える
5)イラク北部での大規模テロに中東各国のイスラム指導者が抗議


1)イラク関連報道Pick up


【07.8.20 時事】米英両軍撤退なら国連と協力=イラクの反米指導者サドル師

【07.8.20 日経】イラン大統領がイラク訪問へ、イラン革命後初・米の反発必至

【07.8.20 共同/神奈川】「イラク戦争」書き換え? ネット百科事典でCIA

【07.8.20 読売】イラク戦争開戦賛成、ヒラリー・クリントン氏が「後悔」

【07.8.19 共同/山陰中央新報】恒久法案の提出凍結 政府、自衛隊海外派遣で

【07.8.19 共同/中日】石油法案などで依然対立 イラク指導者会議、不調



2)「あえて巻き込まれて応戦」元陸自イラク復興支援隊長が問題発言

 元陸自イラク復興支援隊長で、今夏の参院選で国会議員となった佐藤正久氏は、10日、JNNの取材に対し、「(サマワで活動していたオランダ軍が攻撃された際に)情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれる」「巻き込まれない限りは正当防衛・緊急避難の状況は作れませんから」と発言。違憲とされる「駆けつけ警護」をサマワでの駐留中に行うつもりだったと発言した。

      
      2004年秋都内で講演する佐藤正久氏

 「駆けつけ警護」とは、同じ地域で活動する他国の軍が攻撃された場合、現場を駆けつけて援護するというもので、集団的自衛権の行使にあたる。ただ、佐藤氏がサマワでの任務についていた2004年1月から8月まで、オランダ軍とサドル師派の民兵組織マハディ軍との衝突は度々起こり、オランダ兵2名が死亡しているが、この間、佐藤氏が実際に「駆けつけ警護」を行ったことはない。佐藤氏の「あえて巻き込まれて」発言と同日、集団的自衛権に関する政府の有識者会議で、「駆けつけ警護」容認の声が相次いだことから、佐藤氏の発言はこの会議へのリップサービスである可能性もある。

佐藤氏の発言が真意であれ、リップサービスとであれ、現場の自衛隊の指揮官の勝手な判断で違憲行為を独断で行おうとすれば許されないことであり、あるいは、そのような指示を政府が出していたとならば、やはり大問題である。16日には、佐藤氏の発言を憂慮する弁護士や市民が佐藤氏や小泉前首相への公開質問状、安倍首相宛に佐藤氏に辞職を促すよう要望書をそれぞれ提出、今月中に回答を示すよう求めている。



3)「イラク戦争犠牲者は100万人」?米シンクタンクが発表

 米独立系シンクタンク「ジャスト・フォーリン・ポリシー」は、10日、「現在、イラクの死者数の推計は100万人に達しようとしている」と発表した。

 同シンクタンクのアナリスト、ロバート・ナイマン氏は「我々は、英医学雑誌ランセットに掲載された米・イラク共同研究や、イラク・ボディー・カウントの統計を下敷きにして、今回の推計を出しました。」と語る。ランセット誌は、昨年10月「イラク開戦以降の犠牲者は65万5000人」という調査報告を掲載、世界に衝撃を与えたものだが、既に発表から一年近く経っており、新たな情報のアップデートが待ち望まれていた。

 ナイマン氏によれば、今月10日の時点で犠牲者数は99万9987人で、100万人に達するのも間近だという。ジャスト・フォーリン・ポリシーによるイラク戦争犠牲者数の推計は、同シンクタンクのウェブサイトで見られる。
http://www.justforeignpolicy.org/iraq/iraqdeaths.html



4)国連がイラクでの国民融和の会議を主導、現地紙伝える

 14日付けのイラクの独立系紙「アザマン」(ウェブ版)は、「国連はイラクのすべての党と派閥を集め、国民融和のための会議を開催する予定」と報じた。この会議には米軍と戦闘を続ける勢力も参加する予定だが、アルカイダ系の組織も参加するかは不明だという。

 国連安全保障理事会でも、10日、国連のイラクにおける役割を拡大する決議が採決され、イラクの部族や宗派と、国境警備やエネルギー政策、難民などの問題について、イラク政府の依頼で、国連が主導しての会合が行われることが決まっていた。

 イラクでの宗派間対立は、今なお深刻で、米軍もイラク政府も有効な対策を全く取れてこなかった。これに対して、国連が国民融和への調停を果たすことを明言したことは、状況を改善する上で、大きな前進だろう。



5)イラク北部での大規模テロに中東各国のイスラム指導者が抗議

 14日、イラク北部ニネベ州で起きた、アルカイダ系武装勢力によるとされる連続爆破テロの犠牲者は、現地当局者におると500人以上にも及ぶと、CNNなどが報じた。テロの標的となったのは、イスラム教以前からある土着宗教、ヤジディ教の信者達。今年4月、結婚に伴いイスラム教に改宗したヤジディ教徒の女性が群集の投石によって殺害されたことで、ヤジディ教徒への攻撃が頻発。アルカイダ系武装勢力も、ヤジディ教徒への脅迫を行っていた。
 
 これに対し、アラブ各国のイスラム教各派の宗教指導者40人が、16日、連名で声明を発表。「それがイスラム教徒であれ、キリスト教徒であれ、罪無き人々を殺すことを、神は禁じている」「宗教的な指示の元での流血は、全て犯罪的な殺人行為である」と厳しく非難。イスラム教への信仰を殺人の口実にすることを許さない、という姿勢をアピールした。



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