イラク情勢Watch vol.49 07年1月31日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲


お詫び本コーナー編集人が今月20日から25日まで、ケニア・ナイロビで開催されていた世界社会フォーラムに参加していた関係で、更新が滞っておりました。

Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)サダム処刑から一ヶ月 現地に聞く
3)イラク空自活動実績、墨塗りばかり・・・米軍支援の疑い
4)イラクのいま 二人のイラク人・女性医師に聞く


1)週間イラク報道Pick up 

【07.1.31 時事】イラン工作員が関与か=イラク中部の襲撃事件−米TV

【07.1.30 沖縄タイムス】嘉手納の600人イラク派遣

【07.1.29 JanJan】米上院委でイラク増派反対決議

【07.1.29 朝鮮日報】「イラク開戦判断は誤り」 久間防衛相発言に米政府が抗議


【07.1.28 IBTimes】イラク石油法案受け入れで意見分裂

【07.1.28 信濃毎日】松本市でイラクとベラルーシの子どもの絵画展

【07.1.27 共同/北海道】数万人がイラク撤退訴え ワシントンで反戦集会 



2)サダム処刑から一ヶ月 現地に聞く


 サダム・フセイン元大統領の処刑から一ヶ月経つ。当初から批判されていた通り、処刑は治安回復にはつながっておらず、むしろ宗派間対立をますます鮮明なものとしたと言える。果たして、サダム処刑をイラク人はどう観たのか、本コーナー編集人と連絡が通じるイラク人達に問い合わせてみた。彼らのセキュリティに配慮し、名前や詳しい所属等は伏せた。
      

Mさん(人道支援団体職員):
 サダムはアル・イード(犠牲祭。イスラム教での重要な祭日)に死刑執行されたのが、
「神聖な日を汚された」と憤るイラク人達は多い。しかも、アル・イードがいつ始まるか、暦をどう数えるか、という点でイスラム・シーア派とスンニ派で異なることもあるのだが、今回は、スンニ派がアル・イードの初日と決めた日に死刑が執行された。イランやそれに従うイラクのシーア派宗教指導者達はこの日をアル・イードの初日と見なしておらず、そのためシーア派が牛耳るイラク政府は死刑を執行したのだろうが、スンニ派の人々は強い不快感を感じている。
 シーア派の人々にはサダム処刑を喜ぶ人も多く、パーティーを行っている。一方でスンニ派の人々は、ある者は怒り、ある者は悲しみ、またある者はあまり気にしていないが、これから起こるであろう、更なる混乱に怯えている。
 また、サダムを「英雄」「殉教者」と観る人々もたくさんいる。それは彼がイラク占領に抵抗し、聖なるアル・イードの初日に殺されたからだ。
 

Q:なぜ、米国やイラク政府はサダムを処刑したのか?

Mさん:

 マリキ首相は「私は4年以上、イラクの首相として留まるつもりはない」と発言しているが、恐らくその後はかつての亡命先であるイランに戻るつもりなのではないか。イランにとってサダムはイラン・イラク戦争で戦った仇敵。サダムを処刑すれば、イランに戻る時の手土産になるのだろう。   
 ハリルザード大使や、ライス国務長官など、米国の政府関係者は、表向きはサダム処刑に批判的なコメントをしているが、本当に米国がサダム処刑を好まなかったのであれば、処刑は行われなかったと思う。なぜなら、イラク政府は米国の意向を抜きには何も決められないからだ。 

Q:サダム処刑がイラク安定につながると思うか。

Mさん:

 思わない。まず、スンニ派のアル・イードの初日に死刑を執行したことで、スンニ派とシーア派の関係はさらに悪化している。また、サダムは処刑によって、むしろ「米国に最後まで抵抗したヒーロー」となっていて、近隣諸国からサダムの仇討ちとばかりに、これまで以上に反米・反イラク政府の戦士たちが流入することになるだろう。 



Kさん(技術者):
 サダム処刑は悲しいことだ。多くのイラク人が、彼の死を悲しんでいる。なぜなら、今よりもサダム時代の方が、ずっと安全だった。サダムは、イラクが安全だった日々の省庁で、その彼が殺されたことは、まるで希望が失われたかのように感じるからだ。
イラク政府が現在行っている非人道的な行為は、サダム時代の時よりも、もっと酷いものだ。サダムが処刑された次の日も、40以上の遺体がバグダッドの道端に転がっていた。今、「死の部隊」はより強く、より自由になっていると思う。米軍は、「死の部隊」(シーア派民兵達のこと)にサダムを引き渡したが、これは今、イラクの法が「死の部隊」の手にある、ということを意味するのだろう。
 
 
Q:なぜ、米国やイラク政府はサダムを処刑したのか?

Kさん:

サダム時代、副首相をしていたタリク・アジズは、「ハラブシャ村での毒ガスによるクルド人虐殺に関してサダムは無実だ」と主張していた。そして、人々もあれは実はイランがやったという証拠をアジズ副首相が持っているのでは、と思っていた。だが、これは米国やイランにとっては都合が悪い。だから、米国やイランはサダム処刑を急いだのだろう。


Q:サダム処刑がイラク安定につながると思うか。

Kさん:
おそらく、サダム処刑で得をするのは、アルカイダだけで、米国にとってはますます困難な状況になると思う。サダム支持層が、復讐のためにアルカイダに加わることになるだろうから。



3)イラク空自活動実績、墨塗りばかり・・・米軍支援の疑い

 「自衛隊イラク派兵差止訴訟」全国弁護団連絡会議は、11日、緊急に記者会見を行い、同連絡会議が開示要求を行っていた、航空自衛隊のイラクでの活動実績についての資料の内容を明かした。



 資料は、そのほとんどが墨塗りで消されており、外務省や国連関連の輸送実績がわずかに公開されたのみだった。しかも、活動実績の中で、国連の要請の活動はたった一回にすぎないことも明らかになり、政府の「空自は国連等の人道物資の輸送活動をしている」という説明が極めて疑わしいものであることを示している。連絡会議は、その声明で「2006年7月の陸自撤兵以降に空自が輸送しているのは、多国籍軍兵士(そのほとんどが米軍兵)とその関連物資であるばかりか、米軍が大規模な掃討作戦を展開しているバグダッドにまで武装した米兵を空輸している事実も明らか」と批判。その上で、防衛庁の省昇格による、自衛隊の海外任務の「本来任務」化にからみ「現実にはイラクでの空自の活動実態を国民に対して覆い隠し、シビリアンコントロールの基礎を欠いたまま、なし崩し的に米軍との共同軍事活動を進め、改憲を先取りする事実を進行させている」との懸念を表明した。



4)イラクのいま 二人のイラク人・女性医師に聞く

 日本のイラク支援関係のNGO・NPOによる「イラクホープネットワーク」や日本イラク医療支援ネットワーク、劣化ウラン廃絶キャンペーン、NPO法人PEACE ONは、2月4日、共催で、イラク人女性医師二人に現地の最新状況について聞く催しを東京・文京区民会館で行う。演者のガフラン・サバ医師、アンサム・サリ医師は共にイラク第二の都市バスラから、研修のため来日中。詳細は以下、参照。転送・転載歓迎とのこと。

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   ◆ イ ラ ク の い ま ◆
   
  〜 二人のイラク人・女性医師に聞く 〜

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 イラク戦争開戦から4年―――
 治安回復のきざしがいっこうに見えない中、
 構図の見えない対立は激しい暴力の応酬を繰り返し、
 市民の暮らしと安全は悪化の一途をたどるばかりです。

 日本の市民のイラクへの関心も次第に薄れ、
 メディアも犠牲者の数を機械的に伝えるだけに
 なってしまった今こそ、イラクで暮らす人々の声を
 聞かなければなりません。

 イラク第2の都市バスラから、研修のため来日中の
 二人の医師に、メディアが伝えないイラク国内の
 人々の暮らしや医療の現状について伺います。
 ぜひ多くの方のご参加をお待ちしています。


≪お話≫ ガフラン・サバ医師(35歳)
     アンサム・サリ医師(35歳)
 共にバスラ母子保健病院の小児科医。専門は新生児。

「私たちは、イラク南部・バスラ市の医師です。
 私たちの国は、長い間あらゆる種類の戦争に苦しめ
 られています。人々は、理由もなく殺されています。
 侵略者たちは“人間”に何の関心もありません。
 子どもたちは、侵略者の強欲を満たすためだけに、
 その生命を奪われています。彼らは、私たちの
 精神と肉体を抹殺しようとしています。
 しかし、私たちの意志は、彼らよりもはるかに
 大きなものです。期待と希望を、そして皆さんの
 ような暖かい友人を持っている限り……」


≪聞き手≫ 国井 真波(JIM-NET/JCF看護師)

●日 時:2007年2月4日(日)
      午後5時30分 開場/午後6時 開演
●場 所:文京区民センター(文京区本郷4-15-14)
     2階2A会議室/都営地下鉄 春日駅A2
     出口すぐ上/営団地下鉄 後楽園駅徒歩
     3分/JR水道橋駅 徒歩13分)
●参加費:500円

≪共催≫
  イラクホープネットワーク
          < http://www.iraq-hope.net >
  NPO法人PEACE ON
          < http://npopeaceon.org >
  JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)
          <http://www.jim-net.net/ >
  CADU-JP(劣化ウラン廃絶キャンペーン)
          < http://www.cadu-jp.org >
≪協力≫
  セイブイラクチルドレン札幌・
  市立札幌病院未熟児センター、他

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        ◆お問い合わせ◆
     TEL/FAX:03-3823-5508(PEACE ON)
     Eメール:iraq_hope_net@yahoo.co.jp

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