イラク情勢Watch vol.47 06年11月30日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)「イラクでの軍事的勝利は不可能」キッシンジャー元米国務長官が発言
3)「10月の死亡者3709人」国連が発表〜イラク占領開始以来、最多〜
4)シーア派地区でイラク占領開始から最大のテロ発生
5)米軍女性兵士、イラク人への拷問への参加強要で自殺?



1)週間イラク報道Pick up 

【06.11.30. 産経】「イラクは内戦」パウエル前長官、ブッシュ政権対応を批判

【06.11.30. 日経】イラク首相、米大統領との会談キャンセル

【06.11.30. 朝鮮日報】韓国、イラク派遣部隊を来年末撤退へ

【06.11.30. 日経】イラク米軍の配置情報流出、空自隊員のパソコンから

【06.11.27. 産経】空自のイラク活動継続 現地治安情勢は「予断許さず」

【06.11.26. 日経】イラン大統領「核容認ならイラク安定支援」

【06.11.21. CNN】シリアとイラクが国交回復で合意、四半世紀ぶりに



2)「イラクでの軍事的勝利は不可能」キッシンジャー元米国務長官が発言

 
ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は、19日放送の英BBC放送の番組の中で、「イラクでの軍事的勝利は不可能」と語った。その上で、国連安保理やインド、パキスタンなどの国々による問題の解決を促した。歴代大統領に仕え、米政界に大きな影響力を持つキッシンジャー氏の発言は、米メディアが一斉に報道するなど、ブッシュ政権へイラク政策の変更を求める声に大きな後押しとなりそうだ。

    
     
バグダッドでの掃討作戦中の米軍兵士たち

 キッシンジャー氏は「イラクでの軍事的勝利は可能か?」とのBBC記者の質問に対し、「完全な軍事的勝利」「内戦を収め、民主的な国家をつくること」は、「可能だとは思わない」と断言。同氏はイラク内戦を「ユーゴスラビアでのそれを上回る暴力」と評した上で、内戦終結のためのイラク近隣諸国や、国連安保理、そしてインド、パキスタンといった国々による国際会議が開かれるべきだと主張した。

 ただ、キッシンジャー氏は、ブッシュ政権の対イラク政策が成功しなかったことは認めるものの、その惨憺たる大失敗の責任については、言及しなかった。仮に米国が国際社会の協力を得ようとするにしても、まず、米国が間違いを認め、傲慢な姿勢を改めることが必要だろう。




3)「10月の死亡者3709人」国連が発表〜イラク占領開始以来、最多〜

 先週22日、国連イラク支援ミッション(UNAMI)は「先月の月別イラク人犠牲者数が3709人」「03年4月のイラク占領開始から最も多い」と発表した。
 9、10月の人権状況についてのUNAMIの最新の報告書は、犠牲者増加の原因として、「イラク政府の約束にも関わらず、民兵組織が激烈な拷問を人々に対して行っている」と指摘。
 「多くの遺体に激しい拷問の痕があり、何百もの遺体が手錠をかけられた状態で発見された」と報告している。さらに、「拉致・殺害の犯人達は民兵組織や警察、軍の制服を着ている」との目撃者の話も紹介した。
 UNAMIは、報告書の結論として、「民兵組織の解体」「汚職や組織犯罪との戦い」「治安組織や軍での規律・法律の厳守」をイラク政府は徹底して取り組むべきだと主張している。




4)シーア派地区でイラク占領開始から最大のテロ発生

 
先週23日、バグダッド北東部のシーア派地区「サドルシティー」とその周辺で6ヶ所同時の爆破と迫撃砲弾によるテロ攻撃が発生、215人が死亡、257人が負傷する、イラク占領開始以来、最大規模の惨事となった。内務省によれば、犠牲者の大半は女性や子ども、高齢者などの一般市民で、スンニ派を含めたイラク各勢力の指導者達は、一斉にテロを批難、市民たちに対して冷静になるよう訴えた。

   
   
サドルシティーのサドル派事務所前

 テロの現場となった、サドルシティーは、ムクタダ・サドル師率いるサドル派の拠点とされ、同派の民兵組織マハディ軍の牙城ともなっている。マハディ軍は、今やその数100万人規模とも言われるイラク最大の民兵組織で、特にスンニ派を狙った、拉致・拷問・殺害に直接関わっているとされる。したがって、今回のテロはマハディ軍への恨みを持つスンニ派武装勢力が行った可能性が高い。またテロの背景には、マリキ首相率いるイラク政府やムクタダ・サドル師自身も、マハディ軍の暴走を止める気が無い、もしくは止められなくなっていることがある。先月末31日には、サドルシティー周辺の厳戒態勢がマリキ首相の指示で解除されたりするなど、マリキ首相の「サドル派寄り」と見られる振る舞いが、マハディ軍の脅威にさらされていたスンニ派住民の不満を高めていた。




5)米軍女性兵士、イラク人への拷問への参加強要で自殺?

 
2003年9月に「イラクで事故死した」とされる米兵は、実はイラク人への拷問に参加するように強要された末の自殺していた・・・アリゾナラジオ局KNAUのリポーター、ケビン・エルストン氏は、米独立系メディア「デモクラシー・ナウ」のラジオ番組で明かした。

 アリッサ・ピーターソンさん(享年27)は03年9月15日、イラク北東部タルアファルの基地で死亡した。当初、「武器の誤作動で事故死」したとされていたが、最近になって公開された内部文書で、ピーターソンさんは自分自身をライフルで撃っていたことが明らかになった。
また、ピーターソンさんは、上官からイラク人捕虜への拷問を行うよう命令され、これを拒否したが再度命令を受けていた。そして、その2週間後にピーターソンさんは自らの命を絶っている。さらに軍の調査の中で、「彼女はイラク人捕虜に対して攻撃的であることを残酷と考えていた」との記述もあり、アラビア語を理解するピーターソンさんが精神的に追い詰められ、自殺にいたった可能性をうかがわせる。

 エルストン氏は「ピーターソンさんは、自殺の前に遺書を残していたという情報もあるが、残念ながらまだ入手できていない」という。軍が関係する情報の多くを処分してしまったが、エルストン氏は引き続きこの問題への調査を続けるそうだ。




バックナンバー
第46号 2006年11月19日
第45号 2006年11月07日
第44号 2006年10月28日
第43号 2006年10月13日
第42号 2006年09月30日
第41号 2006年08月29日
第40号 2006年07月25日
第39号 2006年07月13日
第38号 2006年06月30日
第37号 2006年06月12日
第36号 2006年06月01日
第35号 2006年05月20日
第34号 2006年05月09日
第33号 2006年04月28日
第32号 2006年04月18日
第31号 2006年04月07日
第30号 2006年03月28日
第29号 2006年03月16日
第28号 2006年03月07日
第27号 2006年02月28日
第26号 2006年02月15日
第25号 2006年02月06日
第24号 2006年01月27日
第23号 2006年01月20日
第22号 2006年01月07日
第21号 2005年12月24日
第20号 2005年11月30日
第19号 2005年11月24日
第18号 2005年11月15日
第17号 2005年11月07日
第16号 2005年10月31日
第15号 2005年10月24日
第14号 2005年10月15日
第13号 2005年10月09日
第12号 2005年09月30日
第11号 2005年09月21日
第10号 2005年09月12日
第09号 2005年08月30日
第08号 2005年08月22日
第07号 2005年08月14日
第06号 2005年08月05日
第05号 2005年07月30日
第04号 2005年07月22日
第03号 2005年07月12日
第02号 2005年07月05日
第01号 2005年06月29日