イラク情勢Watch vol.46 06年11月19日 発行:フォーラム平和・人権・環境 編集:志葉 玲 Topics 1)週間イラク報道Pick up 2)イラク・イスラム法学者協会トップに逮捕状〜宗派間抗争、激化か〜 3)「バグダッドをスンニ派武装勢力が包囲」英インディペンデント紙が報じる 4)イラク人ジャーナリスト、バグダッド市民の苦境を訴える 5)米軍、市民7人を殺害、数十人を負傷させる〜イラク西部ヒート市〜 1)週間イラク報道Pick up 【06.11.18 朝日】イラク戦争は「大惨事」、英首相認める 【06.11.18 読売】イラク人捕虜、オランダ軍も拷問か…総選挙に波紋も 【06.11.17 共同】ベトナム戦争との比較嫌う ブッシュ、イラク泥沼化で 【06.11.17 共同】米国人ら5人拉致 イラク南部 【06.11.17 CNN】イラク一家殺害・少女暴行で米兵に終身刑 軍法会議 【06.11.16 産経】イラクに米軍2万人増派検討か 「最後の積極策」 英紙報道 2)イラク・イスラム法学者協会トップに逮捕状〜宗派間抗争、激化か〜 イラク内務省は、16日、「テロ支援」の容疑で、イスラム法学者協会のトップ、ハリース・アル=ダリ師に対する逮捕状を出した。04年4月の日本人人質事件解決の立役者として、日本でも知られるイスラム法学者協会は、スンニ派による宗教指導者による組織で、同派の政治家や武装勢力に強い影響力があるだけに、今回の逮捕状発令で、シーア派との宗派間抗争がますます激化する恐れがある。 内務省の発表に対し、イスラム法学者協会はそのホームページなどで声明を発表。「バランスを失って崩壊したイラク政府は、もはや正当性を持たない」としてマリキ首相に総辞職を求める一方、国民に対して自制を求め、報復行動などを起こさないよう呼び掛けいる。 スンニ派政党による連合会派「国民協調同盟」のリーダーであるアドナン・ドレイミ議員も、「イラク政府はこの逮捕状を撤回し、アル=ダリ師に謝罪するべきだ」と主張した。 今回、なぜアル=ダリ師に対して逮捕状が出されたのか。スンニ派地区での掃討作戦を激しく批判するアル=ダリ師に対して、シーア派の宗教指導者達からは「アルカイダの活動を正当化している」と批難の声があがっていた。一方、イスラム法学者協会のスポークスマンのアブドルサラーム・アル=クバイシ師は、14日に高等教育省で150人近くの職員が拘束されたことに触れ、「大量拘束事件の直後、というタイミングに注目すべきだ」として、治安の混乱に対するイラク政府の責任から目をそらさせるための逮捕状、という見解を示した。 宗派間衝突の犠牲者 14日の大量拘束事件もまた、スンニ派勢力へのシーア派勢力の攻撃の可能性という見方もある。現場となった高等教育省は、スンニ派連合会派の国民協調同盟の管理下にあった。クバイシ師はアルジャジーラ放送のインタビューに対し、「あれだけ多くの人々が白昼に誘拐された時、警察や軍は何をしていたのか。イラク政府こそ、あの犯罪の背後にいる当事者だ」と語っている。事件に先立つ8日、国民協調同盟はイラク政府が民兵組織による拉致・虐殺に対しての対策をとっていないことを批難し、「このままでは政治プロセスを捨て、武器を取らざるを得ない」と声明を発表。イラク政府とスンニ派勢力との緊張が高まっていた。 3)「バグダッドをスンニ派武装勢力が包囲」英インディペンデント紙が報じる バグダッドでのシーア派民兵による凄まじい暴力の猛威が伝えられる一方、バグダッド郊外では、むしろスンニ派武装勢力が支配している、との情報もある。今月1日付けのインディペンデント紙(電子版)は、「スンニ派武装勢力はバグダッドの南北の道路を封鎖した」「シーア派民兵を撃退しながら、包囲網を狭めている」と報じた。 同様の話は、イラク支援を行うNPO法人PEACE ON代表の相澤恭行さんのブログでも現地スタッフの話として紹介されている。以下、相澤さんのブログより。 --------------------------------------------------- 陸路バグダードまであと30~40分あたりのスンナ派地域で、ある武装グループの検問があり、彼らはタクシーの乗客全員にアザーン(イスラームにおける礼拝への呼びかけ)を唱えてみよと言う。父は即座にこれはある種のテストだと悟った。なぜならスンナ派とシーア派ではアザーンの唱句に若干の違いがあり、それでどちらの宗派かがわかるからだ。父親はスンナ派なのでそこは問題なく通過できたが、もしシーア派だったら殺されていたかもしれないという。その辺りにはイラク国外からも多く戦士が入ってきているらしい。また、バグダードからもう5分という地域に入ると、今度は警察による検問が。しかしよく見ると全員がシーア派民兵のマハディ軍だったようで、さらにはタクシーがモースルのナンバーだということでスンナ派の人間が乗っていると断定され即座に殺されそうになったという。命乞いの結果、乗客同士で500ドルをかき集め彼らに渡すことによって何とか解放されたそうだ。これは現在イラク、特にバグダードの治安悪化の大きな原因になっている民兵が、結局は金目当ての強盗に過ぎないという例でもあるが、バグダード市内はシーア派民兵が猛威を振るっているものの、その周囲はスンナ派の戦士たちが包囲しているという最近耳にした噂にも一致する。 ---------------------------------------------------- 米軍はイラク軍に治安維持能力を持たせるべく訓練してきたが、士気は低く戦闘能力も充分でないとされる。そのため、米軍が撤退すればイラク政府は武装抵抗勢力によって倒されるという見方もある。 4)イラク人ジャーナリスト、バグダッド市民の苦境を訴える バグダッド在住のイラク人ジャーナリストR氏は、彼の友人達に向け、バグダッドの市民の苦境を訴えた。以下、R氏からのメールからの引用。 「宗派間抗争や占領軍の暴力によって、イラクで暮らすことは、もはや不可能になりつつなっています。毎日のように民兵に殺された犠牲者の遺体を近所で見かけます。米軍兵士達は、1、2日、遺体を放置していますが、彼らはただ見ているだけで、暴力を止めようとしません。私の二人の兄弟は、彼らの家から離れ、別のところへ移りました。なぜなら、彼らが住んでいるのはシーア派の多い地域であり、彼らはスンニ派だからです。 米軍は毎日のように家々を襲撃します。そして、多くの罪の無い人々が米軍に拘束されていきます。しかし、民兵達は米軍に拘束されても、次の日には釈放されています。あなたには想像もできないでしょう、犬たちが犠牲者の遺体を貪り喰っているのを。私はそうした光景を写真に撮りました。 米軍やイラク軍は、道端に転がる遺体を放置しています。おそらく彼らは人々が遺体を目にすることを望んでいるのでしょう。子ども達さえも遺体を見てしまいます。3日ほど前、私の息子も、民兵が罪の無い人々を殺害するのを目撃してしまいました。それも、彼の学校のすぐ近くで。 あまりに酷い状況なので、私達は皆、いっそのこと自爆したいような気分になってしまっています。今では、笑顔を見かけることはありません。誰もが悲しそうな顔をしています。それが何故か、私にはわかります。私のカメラは全てを見てきたのですから・・・」 5)米軍、市民7人を殺害、数十人を負傷させる〜イラク西部ヒート市〜 現地人権団体イラク人権監視ネットは、今月5日、イラク西部ヒート市カシディヤ地区で、米軍が住民7人を殺害、数十人を負傷させた、と報告した。住民の話によると、夜中、家宅捜索で民家に押し入った米軍兵士達は、その家の住人を押さえつけ、その場で銃殺したのだという。イラク人権監視ネットは、ファルージャで消防士4人が殺害された事件にも言及、これらの米軍兵士の行動は戦争犯罪であると批難、米国の納税者たちに、米軍による人権侵害を止めるよう、働きかけることを求めている。 ●バックナンバー 第45号 2006年11月07日 第44号 2006年10月28日 第43号 2006年10月13日 第42号 2006年09月30日 第41号 2006年08月29日 第40号 2006年07月25日 第39号 2006年07月13日 第38号 2006年06月30日 第37号 2006年06月12日 第36号 2006年06月01日 第35号 2006年05月20日 第34号 2006年05月09日 第33号 2006年04月28日 第32号 2006年04月18日 第31号 2006年04月07日 第30号 2006年03月28日 第29号 2006年03月16日 第28号 2006年03月07日 第27号 2006年02月28日 第26号 2006年02月15日 第25号 2006年02月06日 第24号 2006年01月27日 第23号 2006年01月20日 第22号 2006年01月07日 第21号 2005年12月24日 第20号 2005年11月30日 第19号 2005年11月24日 第18号 2005年11月15日 第17号 2005年11月07日 第16号 2005年10月31日 第15号 2005年10月24日 第14号 2005年10月15日 第13号 2005年10月09日 第12号 2005年09月30日 第11号 2005年09月21日 第10号 2005年09月12日 第09号 2005年08月30日 第08号 2005年08月22日 第07号 2005年08月14日 第06号 2005年08月05日 第05号 2005年07月30日 第04号 2005年07月22日 第03号 2005年07月12日 第02号 2005年07月05日 第01号 2005年06月29日 |