イラク情勢Watch vol.29 06年3月16日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)イラク派遣の自衛隊員、5人自殺
3)【宗派間衝突】問われるイラク当局の責任
4)【アスカリ聖廟爆破】犯行を否定?スンニ派武装組織がイラク政府を批難
5)イラクで拘束された米平和運動家、遺体で発見



1)週間イラク報道Pick up

【3.16.共同】米軍が一家11人殺害か イラクでの摘発作戦

【3.14.時事】陸自撤収、イラク新政権見極め判断=麻生外相

【3.14.読売】イラク駐留英軍、5月に800人撤収…サマワも対象か

【3.14.産経】「イランが爆弾テロ支援」 米大統領 孤立深めると警告 イラク問題

【3.13.時事】「自衛隊撤収の状況にない」=谷内外務次官が明言

【3.11.共同】陸自の貢献継続「確信」 イラク復興で米高官



イラク派遣の自衛隊員、5人自殺 

 イラクに派遣された自衛隊員(陸自約5000人、空自約1000人)のうち、5人が帰国後に自殺していることがわかった。朝日、時事、共同などが伝えた。自殺したのは陸自隊員4人、空自隊員1人。防衛庁は「イラク派遣との因果関係は不明」としているが、10日付け朝日新聞によると、この他にも自殺未遂での入院や、体調不良を訴え職場復帰できないケースがあるのだという。

 イラクでの体験が元でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するケースは特に米軍兵士の例が数多く報告されている。今月1日に米医療誌「米国医療協会ジャーナル」が掲載したウォルターリード米陸軍研究所の報告によると、イラクから帰還した陸軍と海兵隊の兵士の3人に1人が精神的なケアを必要とし、10人に1人以上がPTSDと診断されたという。

 自衛隊員は米軍兵士と異なり、激しい戦闘に従事することはなかったが、相次ぐ宿営地へのロケット砲弾等の攻撃が強いストレスになっていた可能性はある。イラクに派遣された自衛隊員のメンタルケアも改めて問われることになりそうだ。また、イラクに派遣された自衛隊員に自殺者が出ていながら、これまで政府は報告しなかったことも問題視されるべきだろう。

【解説】PTSD(心的外傷後ストレス障害):戦争や災害、犯罪被害等、強い精神的ショックを受けた後に生じる心身の障害。「原因となった体験がフラッシュバックとしてよみがえってくる」「無気力」「孤独感」「眠れない」「イライラする」などの症状が典型的で、日常生活に重大な支障をきたす場合も多い。発症後は長期間に渡って苦しみ、最悪の場合、心労で自殺してしまうこともある。



3)【宗派間衝突】問われるイラク当局の責任

 先月22日のアスカリ聖廟爆破事件を発端にイスラム・シーア派とスンニ派の衝突が各地で起きた問題で、イラク内務省の関与が疑われている。現地人権団体「イラク人権監視ネット」が今月6日付けで出したプレスリリースによると、4日にバグダッドのアル・ヌーアモスクが治安部隊に攻撃を受け、破壊されたのだという。イラク内務省は以前から「オオカミ旅団」などの管轄の治安部隊がスンニ派住民を拉致・拷問・殺害しているとして、批判されていた。さらに今回においても、内務大臣のバヤーン・ジャブル氏が所属する有力政党「イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)」の民兵組織がスンニ派モスクへの攻撃を行ったことが指摘されている。

 また、現場にイラク軍や米軍がいながら、モスク破壊を止めないという批判も寄せられている。バグダッド在住の援助団体職員(匿名希望)は「スンニもシーアも、イラク政府や米軍は何をやっているのだと、とても憤っている」と訴えた。



4)【アスカリ聖廟爆破】犯行を否定?スンニ派武装組織がイラク政府を批難

 
アスカリ聖廟爆破に関して、イラク移行政府の安全保障顧問ムワファク・ルバイエ氏から「実行犯」と名指しされたスンニ派武装組織「アンサール・スンナ軍」は「混乱を作り出した責任があるのはシーア派の政府の方だ」との声明を発表していた。声明は先月28日付け。

 声明は「シーア派が牛耳る政府は、彼らにのみ米国が権限を与え、スンニ派を追いやるように仕組んでいる」とイラク政府を批難。さらに、スンニ派に対して、武器を持ってシーア派と戦えとけしかけている。さらにシーア派国家であるイランが、同国の核開発で米国の譲歩を引き出すために、イラクのシーア派を利用していると批難した。

 アンサール・スンナ軍は、スンニ派クルド人武装勢力にサダム政権の残党が合流した組織だとされ、イラクで活動する武装勢力の中でも、最も攻撃性が強いものの一つ。昨年5月には日本人傭兵斉藤昭彦さん達を襲撃、殺害している。



5)イラクで拘束された米平和運動家、遺体で発見

 昨年11月にイラクで拘束されたCPT(クリスチャン・ピースメイカーズ・チーム)の活動家4人の内、トム・フォックスさん(米/54歳)が、今月11日にバグダッド中心部マンスール地区で、遺体で発見された。8日にアルジャジーラで放映された犯行グループ「正義の剣団」からのビデオでは、フォックスさんの姿がなく、その安否が心配されていた。

       
        
トム・フォックスさんとイラク人の子ども達 CPTのHPより

 アルジャジーラやBBC等の報道によると、フォックスさんの遺体はビニールの遺体袋に入れられてマンスール地区のゴミ集積場に放置されていたという。両手は縛られており、頭に銃創があった。背中には殴打された痕もあり、フォックスさんが犯行グループから拷問を受けていたことをうかがわせる。
 
 故フォックスさんはヴァージニア州出身で、二人の娘がいる。過去2年、CPTの活動家として、イラクでの人道支援に尽力した。

 以下、昨年6月にフックスさんによって書かれた文章。「Falluja, April 2004 - the book」で掲載された日本語訳の転載(翻訳は益岡賢さん)。

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子どもたちのために
トム・フォックス

2005年6月29日

私は同僚の一人と、注文したものを取りに店に行った。店主は、イラクで治安とインフラ危機が続いており、とても落ち込んでいると語った。彼女は、多くのイラク人と同様、事態はよい方向にではなく悪い方向に向かっていると感じている。
自分の生活には一日9時間週6日間働く以上の意味はないかのように感じ始めていると彼女は語った。

一緒に働いている人は、状況をめぐる彼女の判断に反対はしなかったが、よりよい未来への期待を諦めないよう熱心に説いた。さらに、よりよい未来が実現するための一助となるよう働くのを決して諦めないことがさらに重要である、と。

一緒に働いている人は、最後に次のように語った。「おそらく私が生きている間には事態は改善されないでしょう。けれども、私は、私たちの子どもたちのために、事態をよりよくするために働き続けます」。

私たちのアパートは、公園から通りを挟んだ逆側にある。夕方、夕食のために集まっている頃、頻繁に、一人の母親と3人の子どもが私たちのリビング・ルームの窓の外を歩いて通る。
西日が、母親と3人の子どもの顔を照らす。彼女は疲れて見える。

たくさんの、とてもたくさんの人が、ここイラクでは、とてもとても疲れている。彼女はまた、少し恐れているようでもある。今日という日が、ゲリラが公園の近くで自動車爆弾を爆発させる日になるのだろうか? 

あるいは、イラク国家警備隊の若い男たちが、ピックアップ・トラックの後ろにカウボーイよろしく乗って、発砲する気分になり、彼女と子どもたちを撃ち始める日になるのだろうか? 

けれども、毎日毎日、私は彼女が子どもたちを公園に連れていくのを目にする。疲労と恐れの下に、私は、彼女の心にある希望と勇気を感じる。その希望と勇気は、沈みゆく夕日がそばを流れるチグリス河を照らすように、子どもたちを照らし出している。

この破壊された地で、生活の圧倒的な困難に立ち向かう勇気を、彼女は私に与えてくれる。彼女は、いまこのとき、危険と見通しのなさを完全に知りながら生きており、それでも希望を捨てず、絶望に屈さず、銃や爆弾を持った男たちにより身を隠すことを選ばない。

彼女は私の教師である。私に、今日の恐怖を全面的に意識して行きながらもなお約束される平和ですばらしい将来を想像する方法を教えてくれる。私は、どこにいようと我々全員が「子どもたちのために」生きるよう祈る。

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