イラク情勢Watch vol.26 06年2月15日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)ジャファリ移行政権首相、「正式政権」でも続投
3)イラク現地人権団体、拘束された欧米人平和運動家たちの解放を呼びかけ
4)ムハンマド風刺画問題〜イラクでも数十万人が抗議〜
5)鳥インフルエンザ、イラクでも発生か?


1)週間イラク報道Pick up

【06.2.14 共同】デンマーク軍の撤退求める 風刺画でバスラ州議会

【06.2.14 読売】イランの核施設攻撃で死者は数千人規模、英が公表

【06.2.14 毎日】<スロベニア議会>イラクに兵員4人派遣へ

【06.2.14 CNN】イラク人暴行映像で1人逮捕 英国防省

【06. 2.13 NNA】【オーストラリア】豪軍、イラク駐留継続へ:首相が言及

【06.2.7 共同】連立協議「治安」で難航 イラク、陸自撤退に影響も



2)ジャファリ移行政権首相、「正式政権」でも続投

 
昨年12月15日に実施された選挙に基づき、新たに発足する「正式政権」の首相候補にイブラヒム・ジャファリ氏(現移行政権首相)が選出された。これにより「正式政権」においてジャファリ氏が首相として続投することが、ほぼ確実となった。

 先の選挙で第一の勢力となったシーア派連合会派「統一イラク同盟(UIA)」(128議席/
定数275議席)は12日、の所属する議員の中から首相候補を選ぶ投票を実施。同会派での有力政党ダワ党の党首であるジャファリ氏が、やはり有力政党であるイラク・イスラム最高革命評議会
(SCIRI)のアディル・アブドルマハディ氏(現副大統領)を一票差で破った。

 「正式政権」は今後4年間、イラクの政治を主導していくことになるが、宗派・民族の違いを超えてイラクに安定をもたらし、荒廃しきった市民生活を回復させることができるか、が重要な課題だ。だが、異なる主張を持ち対立しあう各政党をまとめていくことは大変な困難が予想される。UIAと連立を組むことが決まっているクルド人政党の連合会派「クルド同盟」(53議席)は世俗派であり、イラク政治の宗教色が濃くなることに対しての警戒感が強い。同会派のタラバニ議長は「『イラク国民リスト』(アラウィ元首相率いる世俗派政党。25議席)が政権に参加しない限り、連立政権に協力しない」とけん制している。一方で、UIAの中でも、特にSCIRIやサドル派はイラク国民リストとは反目しており、ジャファリ首相は党内調整に苦労しそうだ。また、イラク国民リストは最近スンニ派の2大連合会派「イラク合意戦線」(44議席)「イラク対話戦線」(11議席)との連携を決めたばかり。野党連合からあっさりと政権側に寝返りづらいという事情もある。

 イラク憲法の規定では、昨年末の選挙で当選した議員達が今月25日までに議会を開き、その15日以内に首相候補を指名。首相候補は30日以内に組閣名簿を提出して議会の承認を求める、という流れになっているが、組閣人事が難航するのは必至だと言われている。そのため、「正式政権」の発足は、遅ければ5月までずれ込む可能性がある。



3)イラク現地人権団体、拘束された欧米人平和運動家たちの解放を呼びかけ

今月13日付けのカナディアン・プレスによると、イラク現地の人権団体が昨年11月末以来拘束されているクリスチャン・ピースメイカーズ・チーム(CPT)のメンバー4人の解放を訴えるデモを行うという。デモは今週金曜日、バグダッド中心部のフィルドス広場* で行われる予定。
* サダム像が倒された場所)

      
       アルジャジーラが放送した犯行グループによるビデオ。フォックスさんら4人は
       まだ殺されていなかった。


 CPTはパレスチナ自治区や、コロンビア、アフリカ等の紛争地で活動する平和/人道支援団体で、イラクではイラク戦争開戦前から現地で支援活動を行っていた。拘束されたメンバーは、トム・フォックスさん(米/54歳)、ノーマン・ケンバーさん(英/74歳)、ジェイムズ・ロニーさん(カナダ/41歳)、ハーミート・スーデンさん(カナダ/32歳)。フォックスさんら4人は11月26日、バグダッドで武装勢力に拘束された。「正義の剣団」と名乗る犯行グループは同27日付けのビデオで「全てのイラク人囚人を解放せよ」と要求。4人の安否が気遣われていた。

 先月28日には、犯行グループによる新たなビデオがアルジャジーラで放送され、4人がまだ生存していることがわかった。しかし、犯行グループは「米軍に拘束されている全てのイラク人囚人を解放しろ。これが最後通告だ」と主張、事態は危機的な状況になりつつある。

 また、現在バグダッドにいるCPTのメンバー、アラン・スレーターさんは、デンマーク紙「ユランズ・ポステン」が、イスラム教の開祖であるムハンマドの風刺画を掲載したことが、フォックスさん達の状況に悪影響を与えるのでは、と危惧しているという(13日付けカナディアン・プレス)。CPTは5日、「最大のテロリストである我々の国(米国)の政府に言及せず、イスラム教徒だけをテロリスト扱いするのは間違っている」としてムハンマド風刺画を批難する声明を出している。



4)ムハンマド風刺画問題〜イラクでも数十万人が抗議〜

 ムハンマド風刺画はイスラム諸国で多くの人々の怒りを買ったが、イラクでも数十万人がデモに参加するなど大規模な抗議運動が展開された。独立系オンラインメディア「インステュート・フォー・ウォー・アンド・ピース・リポーティング(IWPR)」は、今月10日付けの記事で風刺画に憤るイラクの人々の様子を伝えた。

 IWPRが伝えるところによれば、スンニ派、シーア派、そしてクルド人と、宗派や民族に関わりなく、イスラム教徒のイラク人数十万人が、ムハンマド風刺画に抗議するデモに参加した。デモはバグダッドの他、カルバラ、クート、サマラ、スレイマニアなど各地で行われ、その多くは平和的なものだったという。
 だが、人々の怒りはかなり激しいもののようである。ある学生(25)は、IWPRの記者に対し「我々は偉大なイスラムのシンボルが攻撃されることを許すことはできない。必要なら命をも捨てて抗議する」と語った。また27歳のビジネスマンは、「米軍よりもデンマーク軍を攻撃するべきだ」とまで言った。

 現在、デンマーク軍は約530人が南部バスラ市近くに駐留しているが、先週にはデンマーク軍を狙ったと思われる攻撃も起きている。



5)鳥インフルエンザ、イラクでも発生か?

 イラクの医療関係者によるNGO、ドクターズ・フォー・イラクは先月末29日、イラクでも鳥インフルエンザが発生している恐れがあるとして、対策を求める声明をだした。

 イラク当局も、先月下旬に病死した若者の症状が鳥インフルエンザの兆候があると報告しており、その後も南部イラクで疑わしい症例が報告されている。

 ドクターズ〜は感染経路がイラク北部に国境を接し、既に鳥インフルエンザによる死亡者が出ているトルコに由来するのでは、と指摘。また、ドクターズ〜は

・国境管理の甘さ・トルコから家禽が輸入されている
・医薬品の不足や、医療設備の不備
・公衆衛生についての教育の遅れ

 以上の理由から、鳥インフルエンザが最も猛威を振るう可能性のある国の一つだとして危惧している。

 ドクターズ〜は、イラク保険省やWHOに感染経路を究明し、ウイルスの進入経路の究明や、感染を防ぐための対策、診断用の備品の支援をイラク保険省とWHOに求めた。またドクターズ〜は、鳥インフルエンザについて情報共有のため、イラクの医療関係者を集めワークショップを企画しているという。



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