イラク情勢Watch vol.21 05年12月24日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)更新再開お知らせ
2)週間イラク報道Pick up
3)イラクで正式政権樹立のための総選挙実施〜開票の中間発表をめぐり「選挙不正」の批難も〜
4)イラク選挙監視NGO、総選挙の状況報告
5)【論説】もはや「復興支援活動」などしていない自衛隊〜イラク派遣延長の愚〜



1)更新再開のお知らせ

 本コーナー担当の志葉がインドネシア・アチェ取材に行っていたことで、更新をお休みしていましたが、本日より更新を再開させていただきます。


2)週間イラク報道Pick up

【12.24 読売】イラク電撃訪問の国防長官、駐留米軍の縮小を発表

【12.23 時事】英軍の活動中止求め座り込み=サドル派、機関銃で武装−サマワ

【12.21 共同】サマワで英軍車列に攻撃 手りゅう弾2個

【12.21 産経】イラク国民議会選 「宗派・民族に忠実」不変

【12.21 時事】「重要な局面での支援は誇り」=イラク派遣延長に陸自群長

【12.19 毎日】<イラク>誘拐・拘束の女性考古学者、23日ぶりに解放



3)イラクで正式政権樹立のための総選挙実施〜開票の中間発表をめぐり「選挙不正」の批難も〜

 今月15日、イラクではフセイン政権後の新政権樹立のための総選挙が実施された。これは10月、国民投票を経て承認されたイラク新憲法に基づくもので、投票率は69.97%。今回行われた選挙は、比例代表制に基づくもので、総議席は275席。州ごとの人口比率に対応した議席が配分されている。開票作業は既に始まっているが、確認作業に時間がかかり、選挙結果の発表は来年1月にまでずれ込む模様だ。

            
            
選挙当日の投票所の様子


・中間発表ではシーア派会派が優勢

 なお、20日には、選挙結果の中間発表が行われた。イラクを構成する18州の内、10州でシーア派連合の「統一イラク同盟」が首位。イラク北部のニナワ州、西部のアンバル州、中北部のサハラディン州など、スンニ派住民の多い地域では、スンニ派連合の「イラク合意戦線」がトップとなった。クルド人自治区のイラク北部のアルビル州、スレイマニア州、ドホーク州では、クルド人政党「クルド集会」がトップ、と州の中での宗派や民族の人口構成を大きく反映する形となった。また、アラウィ元暫定政権首相率いる世俗派政党で、イラクの宗教国家化に反発する声を集めるとして「台風の目」になると予想された「イラク国民リスト」は伸び悩み、現有40議席を割り込む見込み。
 ただし、移行国民議会選(今年1月)でも、憲法草案国民投票(今年10月)でも、 中間発表から最終結果発表の段階で選挙管理委員会の発表が大きく異なった例もあり中間発表はあまりアテにならない、という見方もある。


・35政党が「不正」に対する非難声明、国民議会ボイコットも

 また、この中間発表に対して、「イラク合意戦線」や「イラク国民リスト」等の35政党が「選挙不正があった」と批難する声明を出した。声明では、「不正」の国際的な調査と再選挙を要求、聞き入れらない場合はこれら35政党が国民議会をボイコットをすることも辞さない、としている。そしてそのことが「暴力と血なまぐさい戦いの連鎖をより深刻化させる」と警告、イラクの分裂にもつながりかねないことを示唆した。



4)イラク選挙監視NGO、総選挙の状況報告

 
イラク全土の投票所に1万4000人以上のオブザーバーを配置した現地選挙監視NGO「イラク選挙情報ネットワーク」(Iraqi EIN)は各地のオブザーバーから寄せられた報告をまとめ、同組織のHP上で発表した。

       

 報告によると、全体として選挙日の治安状況は悪くなかったものの、イラク中北部サハラディン州のアル・アラム地区の投票所(No.443013)では、武装した集団が、開票活動を妨害したことが報告されている。またディヤラ州の投票所で小火器による攻撃があり、ナジャフ州では警察署への攻撃を発端として、警察と投票に来た有権者との間で、銃撃戦が行われたという。


・有権者登録をめぐるトラブル続発

 今回の総選挙で最も多くの問題が見られたのは、有権者登録だった。バグダッド他、いくつかの州で前回有権者登録した人々が登録されないというトラブルが発生した。イラク南東部マイサン州アル・アダル地区では1000名の有権者が登録されなかった。バスラ州のアル・アシャル地区では、自分の名前が登録されていないことに怒った有権者が選挙管理委員会とケンカになるということもあった。


・選管が特定の政党への投票要求も

 他にも、マイサン州の州都アマラでは、投票の秘密が守られなかったり、南部バスラ州では、投票所の管理者が自分の支持政党に投票するよう、有権者に強要したりするなどの問題が発生した。同様の問題は他の南部の州でもみられ、有権者が特定の政党に投票することを求められているケースがいくつも報告されているという。

 有権者が複数回投票したことをうかがわせるケースも報告されている。有権者は投票時、投票したことを示すインクを指につけられるが、これが洗い落とされているというケースが報告されている。また、有権者は投票の際に何の身分証明証も持たず投票できたという。




5)【論説】もはや「復興支援活動」などしていない自衛隊〜イラク派遣延長の愚〜

 
今月8日、小泉首相は同14日に期限切れとなる自衛隊イラク派遣を延長することを発表した。自衛隊イラク派遣延長に対しては、今年10月の毎日新聞の調査で77%、11月の朝日新聞の調査では69%が「反対」と、依然、国民の反対が過半数を占めているなかでの決定だった。 

・ただの「現場確認」が復興支援なのか?

 ただし、自衛隊のサマワでの活動の実態はもはや「復興支援活動」と言えるものではなく、自衛隊が駐留する意味は、少なくとも「イラク復興」においてはない。昨年夏の現地取材で確認したことだが、学校等の公共施設の修復作業を実際に行っているのは外務省によって事業を委託された現地業者、つまりイラク人労働者であり、自衛隊員は時折現場を訪れて「確認」するだけであった。今月初め筆者は、サマワ在住のイラク人である友人に聞いてみたが、自衛隊の「復興支援活動」の内容は現在も以前と同様であるらしい。陸上自衛隊のHPを見てみても、最近の活動は「ネイサー中学校完成点検(11月29日)」「ワルカ浄水場施工状況確認(11月26日)」「ルメイサ市内路竣工状況確認(11月23日)」…とあり、やはり主だった「活動」は確認作業のようである。

  

 だが、委託事業の進捗の確認だけならば、数人のイラク人スタッフを雇い、パソコンやデジカメ、ビデオカメラでも持たせてやれば、充分事足りる。何も649億円*もかけて約550人の自衛隊員をサマワに常駐させている理由は全くないのである。確認以外では自衛隊の医務官がイラク人医師を指導することもあるが、本当にイラク人医師を指導・教育するのであれば、日本もしくは中東の中では医療が発達しているイラク隣国のヨルダンで研修させるべきだろうし、実際、外務省もそうした事業を行っている。そして、現在、サマワの水・電気の配給は深刻な滞りに対しても自衛隊は何も出来ていない。水道の水は1日に1時間しか出ず、2〜3日断水することもしばしばである。電気も1日に2〜3時間来る程度で、やはり2〜3日停電することが頻繁にあるという。そのため住民の不満は極度に高まっている。

*02年末からの派遣準備から2005年度の予算合計。今回の派遣延長に伴い、来年3月までの現地滞在費として、さらに86億円の支出が決まっている。


・「復興支援活動は自衛隊でなければできない」のウソ

 小泉首相は「復興支援活動は自衛隊でなければできない」というようなことを繰り返し発言しているが、それは事実とは大きく異なる。今年10月27日付けの外務省発表によれば、同省は対イラク支援として国際機関を通じた支援を約1億100万ドル分、NGO/NPOを通じた支援を約2900万ドル分、実施あるいは計画している。自衛隊がカバーしているのはサマワだけであるが、国際機関やNGOの活動範囲はイラク中部や北部にも及んでいる。また、サマワを含めイラク全域で、外務省からイラクの電力省、保健省等に約8億9900万ドルへ直接支援を実施或いは予定している。これだけ巨額の支援をおこなっているのに、小泉首相は「自衛隊のみがイラク復興に貢献」しているかのよう主張をしており、マスコミもそうした詭弁を批判せず、むしろ追従するかのような報道も少なくない。


・自衛隊イラク派遣のデメリット

 そして、デメリットの部分としては、やはり「日本はなぜアメリカの言うなりになるのか」というイラク人の苛立ちや不信感を招くことだ。自衛隊イラク派遣に関して、サマワでは好意的な声が以前程ではないにしても多いのだが、特に米軍による激しい攻撃を受けてきたイラク中部・西部では、武装勢力はもちろん、一般市民の住民も、自衛隊の派遣当初から批判が噴出しており、自衛隊派遣がイラクで日本人がターゲットとされる最大の理由であることは間違いない。深刻なのは、問題はイラクにとどまらず、他のイスラム圏の国々でも、日本に対する不信や憤りが見られることだ。昨年5月末に起きたサウジアラビアでの外国人襲撃事件では、後に日本もターゲットとされていたことが判明した。自衛隊派遣延長に伴い、イラク以外の地域でも日本人に対する攻撃が行われる可能性は今後もあるだろう。


・税金の無駄、リスク増大派遣延長の愚

 このように、自衛隊が行っている活動は「復興支援」というには、あまりにお粗末なものであり、コストパフォーマンスは最悪である。その上、元々親日的だったイラクやその他のイスラム圏の国々で反日感情を高めている等、派遣のデメリットも非常に大きい。あまりにあっさりと派遣延長を決めた小泉首相だが、その判断はお世辞にも賢明だとは言いがたい。



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