イラク情勢Watch vol.18 05年11月15日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)イベントリポート:イラク帰還米兵ジェラルド・マシューさん講演
3)ファルージャ総攻撃時に米軍が「化学兵器」を使用?
4)日本国際ボランティアセンターが緊急声明を発表
5)イラク人画家・NPO現地スタッフ日本招聘のためのカンパのお願い


1)週間イラク報道Pick up

【05.11.14 共同】世俗派陣営の得票焦点 イラク総選挙まで1カ月

【05.11.14 毎日】<米世論調査>「ブッシュ大統領は不正直」6割近くに

【05.11.14 時事】サマワで失業者デモ=投石、タイヤ燃やす

【05.11.13 ロイター】イラク駐留軍、06年末までに撤退合意も=タラバニ大統領

【05.11.13 共同】米誌調査でも最低の36% ブッシュ氏支持率

【05.11.12 時事】イラクを突然訪問=「和解」の重要性を強調−国連総長

【05.11.12 朝日】陸自、来年9月までにイラク撤退へ 空自は活動継続




2)イベントリポート:イラク帰還米兵ジェラルド・マシューさん講演

 11月7日、明治学院大学の白金台キャンパスで、自身や娘の健康被害を訴え、米国防省の責任を追及しているイラク帰還米兵のジェラルド・マシューさんが講演した。ICBUW−Japanの主催。

   
   講演するジェラルド・マシューさん(左)とジャニスさん(右)  (C)志葉 玲

ジェラルド・マシューさん発言要旨:

 1980年に外国人として米国に移住した。2000年に米国国籍を取得した。州兵*になったのは、自立するため。大学に入って教育を受けたかった。イラクに入ったのは、2003年4月に召還された。仕事はトラックドライバーで、クウェート・イラク間で前線の兵士達に食料や水などを運んだ。その帰りに、破壊されたイラク側の戦車とか機器を持ち帰る。その頃から、頭が痛いとか顔が腫れるなどの症状が出るようになったが、暑さが厳しいイラクの気候のせいだと思っていた。私だけではなく、同じ仕事をしていた全員がゲリとか症状が出た。

 ドイツにある米軍病院に入院した後。2003年9月に米国に戻ったが、帰国後も症状が改善しないので、イラクの気候のせいではないと気がついた。帰国から4ヶ月間、入院していたが、病名がつかない。頭に針を突き刺されるような激しい偏頭痛がするので、15種類くらいの鎮痛薬を飲んでいた。妻も妊娠したが、胎児の状態で既に娘のビクトリアの右手の指が欠けていることがわかった。

 「ニューヨーク・デイリー・ニュース」紙の記者から、劣化ウラン弾の影響ではないか、といわれ、ドイツの研究者に調べてもらうことになった。それから半年くらい音沙汰なかったが、その時に私の尿から劣化ウランが検出されたと報告された。劣化ウラン弾のことは、それまで全然知らなく、この時から調べ始めた。早速、軍に私の検査結果を聞いたら「君は検査してないよ」と言われた。検体があるはずなのに、軍の医師は黙っている。妻に背を押されて自分や娘の被害について公の場で訴えるようになったが、軍の病院にいた時に見舞いに来てくれた軍の友人達が訪ねてこなくなった。今では、それぞれが国防省に対する訴訟を起こしている8人の帰還兵達が本当の友人なのだと気がついた。

 軍隊にはお世話になったけど、自分の症状や娘のことを考えると怒りがこみ上げる。どんどん体調が悪くなり、来年があるかもわからない。戦闘中の怪我なら、政府から医療費の支援がもらえる。でも、劣化ウラン弾のせいで、数年後ガンになっても、政府からの医療支援はない。 政府は劣化ウラン弾の危険性について米兵達に説明しているといっているが、やはり健康被害のある友人は20年も軍隊にいたベテランだったが、劣化ウランは知らなかったし、説明書きも見たこともないという。

 私や娘のことについての世間の反応は、記事が出た時は反応があったが、それ以降パッタリ。米国のメディアは特に選挙の間は、誰も自分の問題を取り上げようとしなかった。選挙に影響を与え軍の士気が下がるからだろう。それで小さな草の根のNGOを一件一件尋ねて劣化ウランの害を訴えている。

 劣化ウランのせいで病気になっているイラクの子ども達に対しては、とても申し訳なく思っている。自分は直接の戦闘には参加していないけど、軍隊の一員としてイラクに行ったから。自分に出来ることは劣化ウラン弾の危険性を伝えて、同じことを繰り返さないこと。自分の娘の障害で、初めてイラクのことを知った。自分にもし将来があれば、イラクの障害を持った子ども達を抱きしめ、面倒をみてあげたい。


マシューさんのパートナー・ジャニスさんの発言要旨:

 大統領に手紙を送ったら「あなたの夫は劣化ウランに被爆してない安心してほしい」という返事が国防省から来たが、彼らが何がわかるのだろう。当初最も恐れていたのは夫がイラクで殺されること。でも今はゆっくり殺されている。娘もゆっくり殺されている。米国の政府の責任を世界中に伝えて回ると娘に誓った。時々、つらくなってもうこんなことは止めよう、と思う時もある。だけど、娘の姿を見る度に決意を新たにしている。


*州兵とは、通常は別の仕事をしていて、災害時等に治安確保や救助活動をするパートタイムの兵士のこと。しかし、イラク戦争以降、多くの州兵がイラクに送られ戦死していることに加え、ハリケーン「カタリーナ」がニューオリンズを襲った時に州兵が不在だった等、災害時の活動が手薄になっていることで、ブッシュ政権への批判が強まっている。



3)ファルージャ総攻撃時に米軍が「化学兵器」を使用?伊テレビ局制作のドキュメンタリー番組
 
 イタリアの国営放送「RAI」は11月9日に放送された番組「ファルージャ−隠された虐殺」の中で、一年前のファルージャ総攻撃で「化学兵器」を米軍が使用したという衝撃的な映像を公開した。

         
          「RAI」のファルージャ総攻撃についてのページ

 使用されたとされる「化学兵器」は白燐弾。番組ではファルージャ総攻撃に参加した元米兵も

 「弾頭から出る白燐のガスは、雲のように150メートルに渡って広がり、皮膚に触れると、取り返しのつかない被害を与える。肉が骨まで焼け、服の下の皮膚も焼ける。防御マスクも役に立たない。呼吸したら喉と肺に水泡ができて息ができなくなり、体が内側から焼ける」

 とその凄まじい威力と残虐性について証言した。また、ファルージャの人権団体「人権・民主主義研究センター」のモハマッド・タフィク・アルデラジ氏も番組に出演、被害者の悲惨な姿の映像を提供した。

 「RAI」は、そのウェブサイトの中で、「ファルージャ−隠された虐殺」を公開しており、ブロードバンド環境にあれば、誰でも番組を観ることができる。映像はイタリア語版の他、英語版、アラビア語版を観ることができる。

*「ファルージャ−隠された虐殺」英語版(wmv形式、35.9MB)
 非常にショッキングな映像も含むので注意!

番組中のナレーションや証言の日本語訳はこちら↓
Doblog - フットボールは未来の兵器である -より
「燃える雨2(「ファルージャ 隠された大虐殺」日本語訳)」



4)日本国際ボランティアセンターが緊急声明を発表

 イラクの病院への医療支援も行っている日本の海外協力NGOの老舗、
日本国際ボランティアセンター(JVC)は、11日付けで声明を発表し、「治
安回復」の名の下に、米軍等の多国籍軍・イラク国家防衛隊によるイラク
市民への攻撃が行われ、医療支援・人道支援活動が妨げられているとして
これらの状況を改善するよう、緊急の声明を発表した。声明は以下の通り。
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“民間人の保護と人道支援への理解を!”
イラクで引き続き起きている人道危機に対するNGOからのアピール


2005年11月11日 
日本国際ボランティアセンター(JVC)     

12月15日に予定されているイラク国民議会選挙を前に、治安の安定を図ると称し、多国籍軍とイラク政府軍は、主にシリア国境を越えてイラク国内に影響を及ぼす外国人武装勢力の拠点だとして、イラク西部のアンバール州ユーフラテス河流域、特にシリア国境地域での掃討作戦を強化しています。折りしも、この時期は6,000名以上の犠牲者を出したと伝えられるファルージャ包囲作戦の開始からちょうど1年に当たります。この軍事作戦の際にも、翌年1月末の暫定国民議会選挙を控えて治安の安定が目的であるとされていました。

以前より引き続くこの攻撃に加えて、11月5日〜8日には掃討作戦「鋼鉄のカーテン(Steel Curtain)」が展開され、カイム市郊外のフサイバ地区を中心とした地域が激しい攻撃にさらされました。作戦は終了し、主要な戦闘が終了しても、武力衝突は今も続いています。現地の協力者を通じた報告によると、10月30日時点でカイム近郊に避難していた避難民は7,000家族を越えています。しかし、軍事作戦の結果、避難先の地域に向かう補給路の橋が破壊され、緊急人道支援物資の輸送が困難となったこともあり、避難先で生活物資の不足に困った人々が帰還を始めたと伝えられていました。この後、31日には作戦の本格化に先行してカイム近郊に空爆が加えられ、民間人の死傷者が出たと伝えられています。

 JVCでは昨年のファルージャ包囲作戦の際にも市外への避難民に対して食糧や医薬品を配布するなどの支援を行いましたが、今年もイラク西部地域で紛争の激化に伴う危機に際して人道的支援を必要とする人々の要請に応え、医薬品を配布するなどの緊急支援を9月より実施しています。

 これまでにもこのような武力衝突の局面で、一般市民が必要な医療サービスを受けられない事態が生じています。つまり、地元の医療機関に攻撃が加えられて、設備が破壊されるなどして傷病者の治療に支障を来たす 軍事作戦上の必要性を理由として、被害者を搬送するための救急車両の通行が妨げられる 被害者の救援に向かう赤新月社やNGOの人道支援スタッフの現地への立ち入りが妨げられる などです。しかし、戦闘中であっても医療を確保することは国際法によって保証されており、それが守られないのは国際的な人道原則に違反しています。

 この人道的危機に対して、イラクで人道支援活動に従事するNGOの協議体であるNCCI(イラクにおけるNGO調整委員会)は11月8日に声明を発表し、これ以上、武力衝突に伴う犠牲者を増やさないよう関係者に適切な対応を取ることを求めています(声明の和訳を下部に掲載します)。

 これに対し、NCCI参加団体でもあるJVCは国際法の遵守と医療などの人道支援活動を確実にするために、イラク政府当局、多国籍軍はもとより敵対する武装勢力も含め関係者に適切な対応を取ることを求めます。

イラクにおける人権と国際人道法の違反
イラクにおけるNGO調整委員会(NCCI)
プレスリリース(2005年11月8日)
NGOは以下の状況を憂慮しています。

イラク社会を分裂させる重大な緊張状態
イラク法および国際法の重大な違反
イラク法および国際法の違反に際して訴える療法の欠如
民間人と支援スタッフの保護の欠如

NGOは以下を求めます。

 すべての当事者に対し完全なる人権と国際人道法の尊重を義務付ける新たな国連安全保障理事会議決議。紛争に関係するすべての勢力が紛争の民間人に与える影響を最小に留めるための努力を行うべきである。
 イラク市民と支援スタッフは彼らが享受すべき法による保護と現場での暴力的な現実との大きなギャップに直面しています。 彼らは日常的に違反に直面しています。たとえば、誘拐、殺害、恣意的な拘禁、援助輸送団への攻撃や軍と民間の人々や標的を区別する原則が尊重されないなどのことです。犠牲者には、乱用を訴える療法が全くありません。

 国連安全保障理事会は現在イラクで起きている紛争を「国内の武力紛争」として特徴付けています。なぜなら国連決議.1483、1500、1546、および1557が紛争後という状況下でのイラクの主権と領土の保全を承認しているからです。

 法的に主権国家であるイラクはすべての人権侵害を食い止める試みを行う責任があります。

これらの苦難に直面し、イラクで活動するNGOは以下の通り求めます。

・イラク当局に対して
NGOの存在、役割、不偏性を認め、NGOの活動の場を保証すること。政府はNGOの規制と活動の促進をすべきであるが、コントロールしようとしないこと。

・多国籍軍に対して
NGOの存在を認め、軍事作戦中も脆弱な人々に対するNGOのアクセスを促進すること。

・武装集団に対して
NGOの役割と不偏性を理解し、事態に介入するための人道的な中立なスペースを尊重すること

国際的なドナー(資金提供者)に対して
イラク復興にNGOの存在が効果的であることとNGOの役割を認めること。イラク復興資金の一部でもNGOを通して回るようなルートを再開すること。
(訳:JVCイラク現地調整員 原文次郎)
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5)イラク人画家・NPO現地スタッフ日本招聘のためのカンパのお願い

 本コーナー編集人の志葉より個人的なお願いです。NPO法人PEACE ON の招きでイラク人画家ハニ・デラ・アリ氏(画像下)やPEACE ON現地スタッフであるサラマッド&アマラ夫妻が来日することは、本コーナーでも紹介しましたが(15号参照)、招聘のための資金への賛同金が目標額の80万円の内、まだ34万円程しか集まっていないとのことです。日本にイラクの芸術家がやって来ること自体が非常に珍しいことですし、サラマッド・アマラ夫妻からはマスコミでは伝えられない生の現地情報が聞けるかと思います。つきましては、もしよろしければ、是非とも賛同金へのご協力をお願い致します。

 以下、PEACE ONのHPより。転載歓迎。
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〜イラク 混沌からの光〜 イラク人画家&PEACE ON現地職員来日決定!

あの戦争から2年半、いまだに混沌とするイラクから、戦渦に呑まれながらも今日も独自の表現を追求し芸術による抵抗を続けるイラク人若手画家、ハニ・デラ・アリ氏の来日が決定しました。また、イラク支援&文化交流NGO「PEACE ON」の立ち上げから共に活動を続け、命がけで日本との友情の絆を繋ぎとめてきたイラク人現地職員も来日します。
 メソポタミア文明の時代から、悠久の歴史が育んだ豊かな文化が煌くイラクから、そして中東における芸術の中心地であった都バグダードからの希望の光。知られていないイラクの現代アートに直に触れ、伝えられないイラクの現実に耳を傾け、絶望的な状況の中でも活動を続ける彼らの巨大な意志の力を感じてください。

ハニ・デラ・アリ個展のほかアートライブや講演など、すでに東京、埼玉、北海道でイベント決定。最新情報は、LAN TO IRAQおよびスケジュールを随時ご確認ください。

○● 賛同のお願い ○●
3人の日本招へい企画を成功させるため、多くの方の賛同をお願いします。
 賛同金 個人一口1000円〜 団体一口3000円〜
 賛同金振込先 郵便振替 00160−2−647637 口座名 PEACE ON *備考欄に「イラク人来日企画賛同」とご記入ください。
 *これまでにお寄せいただいた賛同金明細
→11月11日現在\364,000(目標金額\800,000)! 皆様のご協力をお待ちしています。

案内(PDF)がダウンロードできます。両面印刷をしてお配りください。
招聘総合チラシ(PDF) 10/25最新版
11月26日アートライブ!チラシ(PDF) 10/28UP
11月27日大講演会!チラシ(PDF) 10/25UP
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転載ここまで。

 以下、ハニさんの作品の一部。画像はLAN TO IRAQから借用。


           『混沌からの光1』


           『ヒロシマ・ナガサキの叫び』


            『作品5』





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