イラク情勢Watch vol.16 05年10月31日 発行:フォーラム平和・人権・環境 編集:志葉 玲 毎週更新(予定) Topics 1)週間イラク報道Pick up 2)イラク新憲法の承認と、決定的になった宗派・民族間の溝 3)国民投票の不正疑惑 4)劣化ウラン被爆の米兵が来日 1)週間イラク報道Pick up 【05.10.30 ロイター】イラク副大統領の弟が銃撃され死亡 【05.10.30 共同】自衛軍保持の改憲に期待 首相、空自観閲式で訓示 【05.10.29 毎日】<CIA身元漏えい>リビー首席補佐官を起訴 連邦大陪審 【05.10.29 時事】米補佐官、イラク支援継続を強く期待=「陸自派遣延長、主体的に判断」と町村外相 【05.10.26 毎日】<米国>イラク米兵死者2000人 ブッシュ政権に打撃 【05.10.24 毎日】<米州兵>装備率が低下 イラクなどへの大量派遣に伴い 【05.10.24 毎日】自衛隊イラク派遣:「特別手当、新築費用の方が安い」 辻元議員、交野で講演 /大阪 2)イラク新憲法の承認と、決定的になった宗派・民族間の溝 イラクの新憲法案が国民投票の結果、賛成78.59%、反対21.41%という結果で、26日に承認された。投票率は63%だった。これを受けて、今年末12月15日に新憲法に基づく正式政府発足のための選挙が実施されることが確実となった。しかし、「連邦制」に強く反対するスンニ派が不満を残すかたちとなり、むしろ新憲法成立が、イラクをますます混乱させるという見方もできる。 ■宗派・民族による違いが鮮明に 州別の投票結果を分析すると、バスラやナジャフ、カルバラ、ムサンナなどシーア派の多い南部の州では賛成票が95%を超え、北部のクルド人地区であるドホーク、スレイマニヤ、アルビルで賛成が98%を超えた。これに対し、スンニ派が多数を占める4州では、中部のサハラディン州で反対が81.5%、西部のアンバル州では96.95%と、スンニ派の不満が色濃く表れた形だ。 ■「連邦制」をめぐる対立 憲法案の中でも問題となっている「連邦制」は、複数の州が合併し、「独立国並み」の権限を持つ「地方政府」が樹立できるというものだ。世界第二位の埋蔵量と言われるイラクの油田は、北部と南部に集中しており、これらの地域で多数派であるクルド人やシーア派は、憲法案に「連邦制」を盛り込むことを譲らなかった。 それに対して中部・西部のスンニ派が多数を占める地域では、有望な油田がなく、石油貿易の恩恵から排除される恐れがある。クルド人政党や、シーア派政党のSCIRI(イラク・イスラム革命最高評議会)は「自治」を主張するなど、地方政府の樹立に積極的と観られるが、中部・西部のスンニ派にとってそれは容認できないものだ。 ■治安の回復は見込めず 強い不満を抱えるスンニ派を無視して、政治プロセスを進めようとすると、結局治安が悪化し、イラクの安定からは遠ざかる恐れが高い。 今年1月末に実施された国民議会選挙は、「イラク・イスラム法学者協会」などスンニ派の有力組織が「ファルージャへの米軍の総攻撃への抗議」「占領下の選挙は認めない」として、ボイコットを呼びかけてきた。選挙は実施され移行政権が発足したものの、政治プロセスから取り残された形となったスンニ派の不満は増していった。 米政府説明責任局の報告書によると、今年1月の米軍などの多国籍軍やイラク治安機関への攻撃回数は月ごとの統計の中でも過去3番目に多く、その後も月1500〜2000件と攻撃は減る気配はない。 イラクの反米武装勢力、特に中部や西部の地元の人間による武装勢力の支持母体は主にスンニ派だとされ、治安を安定させるには、政治プロセスの中でスンニ派の取り込みが必要、といわれてきた。だが、新憲法承認で、スンニ派の孤立が決定的になったとも言える。したがって、これからのイラクの治安状況は1月末の国民議会選挙と同じ結果になる可能性が高いだろう。 3)国民投票の不正疑惑 新憲法に対する国民投票では、「大きな不正は無かった」と報道されているが、市民の間では、不正の疑問や国民投票の運営体制への不満を訴える声もある。バグダッド在住のイラク人家族による有名なブログ「A Family in Baghdad」の28日の書き込みには、以下のような記述がある。 「いくつかの野党政党は国民投票の投票が多くの違反によってだいなしにされたと主張しています。政府支持の民兵達が有権者を脅したり、選挙箱を没収したり、或いは憲法草案に賛成することを強要したり。多くの地域で、憲法承認の投票結果を作り出そうという動きがありました…」。 やはり有名なイラク人によるブログ「秘密を教えて(Tell Me a Secret )」でも、「キルクークの警察は、ほとんどの政党の代表や投票センターの役人に対する逮捕状を出していたが、これは明らかに選挙のプロセスに違反している。クルディスタンからキルクークに大量に人を輸送して投票させたとか、南部からバグダードに人を運んで投票させたとかいう話もある」との記述があった。 イラクの選挙監視NGO「イラク選挙情報ネットワーク」(EIN)はイラク全域で1万人の協力者を得て、国民投票を監視していたが、同ネットワークのホームページには、今回の投票での問題点について声明がアップされている。その内容は以下のようなものだった。 ・有権者名前のアルファベット順ではなく、食料配給カードを元にして登録が行われたため、有権者登録の混乱が生じ、有権者登録が出来なかった人々がいた。 EINは、選挙管理にあたるイラク独立選挙委員会に有権者登録の問題を指摘したが、いくつかの地域では改善がみられなかった。 ・多くの有権者が、家族に代わって投票していて、投票所の管理員もそれを容認していた。 ・投票は午後5時までに行われるはずだったのだが、いくつもの投票所で、時間 よりも早く、投票所が閉鎖されてしまった。例えば、バグダッドのHatem Aitayee学校では、午後3時45分に投票所が閉められ、北部の都市アルビルの投票所 でも「全ての投票が終わった」として、午後4時に投票所は閉められた。 ・治安上の問題も多くあった。ファルージャのMulabasa村では、投票所前のパトカーが爆発。バクバの投票所では、不発の迫撃砲弾を発見した多国籍軍とイラ ク軍が、道路を封鎖してしまった。また他の地域でも武装勢力が投票所を爆破するとして、投票に来た有権者や選挙管理員を追い出したケースや、投票所が銃撃されたケース、選挙管理員とイラク治安部隊が乱闘になったケースも報告された。 4)劣化ウラン被爆の米兵が来日 ウラン兵器の廃絶を訴える国際ネットワークのICBUW・日本支部が呼びかけで、劣化ウラン弾で被爆したイラク戦争帰還兵、ジェラルド・マシューさんが11月2日、来日する。来日情報中のスケジュールは、劣化ウラン廃絶ブログにて随時アップされる予定だ。 以下、ICBUW-Japanによる告知文の転載。 ---------------------------------- 11月上旬、イラク戦争帰還兵ジェラルド・マシュー夫妻を日本に招聘 ICBUW-Japanでは、今年の「ウラン兵器禁止を求める国際共同行動デー」の取り組みとして、11月上旬、アメリカよりイラク戦争帰還兵ジェラルド・マシュー夫妻を日本に招聘することになりました。詳細は下記をご覧ください。また、招聘に関するご支援もお願い申し上げます。 兵士として、親として劣化ウラン被害を訴える! ―イラク戦争帰還兵ジェラルド・マシュー夫妻緊急招聘― ICBUW-Japan 「ウラン兵器禁止を求める国際共同行動デー2005」 嘉指信雄、ICBUWアジア太平洋地域コーディネータ 振津かつみ、ICBUW評議員 皆さま 昨年より、ICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)では、11月6日を「ウラン兵器禁止を求める国際行動デー」として設定し、世界各地での取り組みを呼びかけています。(これは、国連総会により、毎年11月6日が「戦争と武力紛争における環境破壊を防止する国際デー」とされていることを踏まえて設定されたものです。) 昨年は第一回目でしたが、日本各地でも実に様々な取り組みが行われました。今年も、各地ですでに様々な計画が立てられているようですが、私たちは、劣化ウラン被害に苦しむイラク戦争帰還兵を、11月上旬、アメリカから日本に招聘するため、準備に取り組んでおります。 緊急招聘の目的 今回、来日を承諾してくれたジェラルド・マシューさんは、イラク戦争終結後、派遣されたイラクで体調不良となり帰国。その後生まれた娘のビクトリアちゃんの右手が不完全だったため、マシューさんが尿検査を受けたところ、劣化ウランが検出されました。[より詳しくは、この「支援呼びかけ文」最後の補足説明・参考資料を参照ください] ご存知のように、劣化ウラン問題に関しては、アメリカ政府も日本政府も、その危険性を否定し続けてきています。しかしながら、アメリカでは、昨年4月、イラク帰還兵数名から劣化ウランが検出され、「ニューヨーク・デイリー・ニュース」誌がスクープ記事を掲載しています。(詳しくは、「アメリカの戦争と日本の有事法制に反対する署名事務局」ホームページを参照下さい。) 現在、彼らは、アメリカ国防総省に対し補償を求める裁判を準備中とのことです。 また、この7月には、イラク帰還兵に劣化ウラン検査を受ける権利を認める法案がルイジアナ州やコネチカット州で成立しています。(「NO DU ヒロシマ・プロジェクト」ホームページ 参照) アメリカで起きつつあるこうした動きは、イラクに自衛隊を派遣している日本にとっても無視できない、決定的意味をもつはずです。ご存知のとおり、自衛隊が駐屯しているサマワでもウラン兵器が使用されたことが明らかになっています。しかし、マスメディアでは、今のところ本格的に取り上げられる気配が全くありませんし、政府は、12月中旬期限切れとなる自衛隊のイラク派遣延長に向けた態勢をすでに取りつつあります。 こうした状況を変えるためにも、アメリカでのこうした動きに直接関わっている当事者に日本に来て、劣化ウラン被害について訴えてもらうことは、非常に意義あることと思います。 賛同・支援のお願い 今回、ジェラルド・マシューさんは、仕事を休んで、また体調の悪さから同伴者の必要もあり、妻のジャニスさんとともに来日することを快諾してくださいました。言うまでもなく、日本に来てまで劣化ウラン被害を訴えることは、マシュー夫妻にとっては、きわめて甚大なリスクをはらむことです。 マシュー夫妻の勇気に応えるためにも、できるだけ多くの方に彼らの話を直接聞いてもらい、マスコミにも広く取り上げてもらいたいと思います。 現在のところ、11月2日(水)から9日(水)までの約一週間の滞在中に、広島、大阪、東京で集会・記者会見など開催できたらと思っております。(現在の暫定案では、2日(水)に関空着、翌3日(木)広島、5日(土)大阪、6日(日)以降、東京、9日に成田発です。できるだけ多くの都市を回ってほしいとは思いますが、マシューさんのお仕事の都合に加え芳しくない体調もあり、1週間の滞在、3ヵ所ぐらいでの集会開催が精一杯かと思われますので、ご理解ください。) こうした講演ツアーの実施には、国際・国内交通費に加えて、宿泊費、会場費など、かなりの費用が必要となります。広く賛同カンパ・協力をお願いする次第です。すでにICBUWに賛同してくださっているかどうかは問わず、また、個人としてでも、団体としても構いませんので、ご支援をお願いいたします! 今回、集会が予定されている広島、大阪、東京以外の地域の方々からもご支援いただけましたら幸いです。 恐縮ではございますが、賛同金(個人:一口1000円/団体:一口3000円、多数口の賛同カンパ大歓迎)をお願いし、できるだけ多くの人々・グループの力を合わせた取り組みとして、ぜひ成功させたいと願っております。 振り込み先 郵便振込口座名:「ICBUW・国際キャンペーン」 口座番号:01310−0−83069[なお、備考欄に、「2005年共同行動カンパ」と明記ください。また、賛同リストへのお名前の掲載を望まれない方は、「名前掲載希望せず」とお書きください。] 突然の提案で申し訳ありませんが、ご賛同いただけましたら、できるだけ早くその旨、下記のいずれかにお知らせいただけませんでしょうか。 嘉指信雄/メール:horizons@cc22.ne.jp 振津かつみ/メール:f-katsumi@titan.ocn.ne.jp (なお、嘉指は、10月12日から18日まで、会議参加のため海外に出かけますので、この間、広島集会関連の問い合わせは、森滝春子:haruko-m@f3.dion.ne.jpまでお願いいたします。) マシュー御夫妻を緊急招聘する意義をご理解いただき、ご賛同・ご支援の程、何卒宜しくお願いいたします! なお、ICBUWでは、「国際平和ビューロー(IPB)」などと協力し、11月9日にジュネーヴで、ウラン兵器禁止に向け、ウラン兵器の健康・環境影響、国際違法性と禁止条約、被害者補償などについてのワークショップを開催し、国連やWHO、UNEPをはじめとする国際機関への働きかけを行います。またあわせて「ウラン兵器禁止国際署名」の国連軍縮委員会事務局への提出を行うべく準備を進めております。(これら国際的な取組みについては、追って、別途、ご報告させて頂きます。) [補足説明―― すでにメーリングリストでお知らせしておりますが、この五月、ニューヨークでは、NPT再検討会議に関連して劣化ウラン問題関連のワークショップ・集会が幾つか開かれました。そうした場でマシューさんは、「劣化ウラン問題については全く知らされていなかった。病気に苦しむ帰還兵に対する政府の態度も全く誠実でない。裏切られた気持ちだ」と、怒りを込めて語っていました。(マシューさんは、他の帰還兵とともに、娘のビクトリアちゃんに対する補償も含めて、アメリカ国防省に対し補償を求める訴えを出しています。) また、二度ほど直接お会いする機会のあった妻のジャニスさんも、「私たちの訴えを嘘だと言ってほしくありません。私たちの闘いは、娘のビクトリアが大きくなって、『ママ、もういいのよ』と言ってくれるまで続けるつもりです」と話されていました。今回、マシュー夫妻は、ビクトリアちゃんはベイビーシッターを頼んでニューヨークに置いてこられますが、写真やビデオなどを持参して訴えたい、と伝えてきています。 確かに、湾岸戦争とイラク戦争で大量に投下された劣化ウラン兵器の最大の被害者は、イラクの人々、イラクの子どもたちですが、マシュー夫妻も、劣化ウラン被害者であることに変わりはなく、その訴えは、とても力強く、心打たれるものです。ぜひ、日本の人たちにも直接聞いていただきたく思います。 参考資料―― 「ニューヨーク・デイリー・ニュース」誌(2004年9月29日付)が、「戦争の最も小さな犠牲者」と題された記事を掲載していますが、下記は、その日本語訳の抜粋です。(「暗いニュースリンク」より転載。なお、「奇形」の表現が使われておりますが、これは医学用語として理解し、訳文そのままとしておきますので、ご了承ください。) 「03年9月初旬、陸軍州兵のジェラルド・ダレン・マシューは、突然の体調不良によりイラクから帰還を許されました。 マシューの顔面の半分は毎朝腫れるようになり、偏頭痛に襲われ、目は霞み、意識がはっきりせず、排尿の度に焼けるような痛みを感じるようになったのです。帰還してまもなく、マシューの妻ジャニスが妊娠し、今年6月29日、女の子を出産しました。女の子ビクトリアちゃんは指が三本欠けており、右手はほとんど失われていたのです。マシューと彼の妻は、娘の衝撃的な奇形と父親の症状、そして従軍経験の間に何か関係があるのではと考えました。夫妻の家系には先天的欠損症の記録はなかったからです。夫妻はイラクで生まれた奇形児の写真を見て、状況が不気味なほど似通っているということに気づいたのです。6月に、マシューはデイリーニュース紙に連絡をよこし、研究所での独自の尿検査の手配を依頼しました。独自検査の結果、マシューの尿から劣化ウランの放射線が確認されました。放射線に被曝することと、被曝した両親から生まれた子供の奇形には、多くの研究により関連性が認められています。 ニューヨークのハーレムから出征したマシューは、イラクでは第719輸送部隊のトラック運転手でした。彼の部隊はクウェートの陸軍基地からバクダッドの最前線まで補給品を運んでいました。マシューの話によれば、被弾した戦車や破壊された車両の部品をトラックの荷台に乗せてクウェートまで運ぶこともあったということです。」 Let’s Ban Uranium Weapons! Save Children! Save the Earth! (ウラン兵器禁止を! 子どもたちを、地球を救おう!) ------------------------------------------- ●バックナンバー 第15号 2005年10月24日 第14号 2005年10月15日 第13号 2005年10月09日 第12号 2005年09月30日 第11号 2005年09月21日 第10号 2005年09月12日 第09号 2005年08月30日 第08号 2005年08月22日 第07号 2005年08月14日 第06号 2005年08月05日 第05号 2005年07月30日 第04号 2005年07月22日 第03号 2005年07月12日 第02号 2005年07月05日 第01号 2005年06月29日 |