イラク情勢Watch vol.13 05年10月9日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)イベント・リポート 「命の水支援プロジェクト報告会」
3)あるイラク人NGO職員の嘆き〜新憲法草案から削除された「人権擁護」〜
4)FRIDAY特集「米軍が黙認する「イラク大虐殺」の衝撃写真」


1)週間イラク報道Pick up

【05.10.8】<ザワヒリ>ザルカウィ容疑者への手紙入手 米主要メディア(毎日)

【05.10.8】「神の声」で開戦決断? 米大統領、証言が波紋(共同)

【05.10.8】イラク国民投票まで1週間 流動化不可避(産経)

【05.10.7】支持率37%、就任以来最低 世論調査で米大統領(共同)

【05.10.5】<イラク>米軍が武装勢力掃討作戦 今年最大規模(毎日)

【05.10.5】来年早期に撤退の見通し=イラク軍養成4月までに
       −サマワ駐留英軍司令官(時事)

【05.10.5】<冬柴公明幹事長>英豪軍撤退ならイラク派遣継続は困難に(毎日)



2)イベント・リポート 「命の水支援プロジェクト報告会」

 10月8日、東京文京区の文京区民センターで、イラク支援関係者のネットワーク「イラク・ホープ・ネットワーク」による「命の水支援プロジェクト報告会」が行われた。今年7月19日、バグダッドの浄水場が何者かに爆破され、さらに発電所も攻撃されたため、バグダッドの市民は深刻な水不足に苦しみ、飲み水すら確保が難しくなった。バグダッド市民からのSOSを受け取った「イラク・ホープ・ネットワーク」は、水を配給するための緊急支援を開始。募金の呼びかけを行い、バグダッド市内に井戸を二つの井戸を堀った。当面必要な資金が確保できたので、9月30日に募金の〆切り、今回の報告会を行う運びとなった。また、報告会の後半ではイラク・ホープ・ネットワークのメンバーによる最近のイラクの状況についての報告も行われた。会場には128人もの人々が集まり、テレビ朝日、TBS、北海道新聞、共同通信などの報道関係者の姿も多かった。

     


■“命の水”支援プロジェクトについて

細井明美さん(RiverbendProject)の発言要旨

・今年7月、浄水場が爆破され、汚い水しか出ないので困っているとバグダッドにいる友人に聞いて、阪神大震災の時に人々がそうしたように、ティッシュとビンやペットボトルを使ったろ過の方法を教えたのです。ところが、発電所もやられて、水自体がほとんど出なくなってしまった。そこで、友人と相談して井戸を掘ろうとしたのです。

・井戸を掘る、ということで問題となったのが、劣化ウランの問題でした。米軍が使用した劣化ウラン弾が地面に埋まっているわけですが、これが地下水を汚染していないかという懸念があったのです。そこで詳しい人たちに聞いたのですが、劣化ウランが地下水脈までにたどり着くには、何十年と長い時間がかかると言うので、一時的につかう井戸なら大丈夫だろう、という結論になったのです。井戸を2ヶ所掘るのに、約110万円かかりました。

  
相澤恭行さん(PEACE ON)の発言要旨

・バグダッド市内の、貧して子どもの多い地区に井戸を掘ることをきめました。深さ18メートルまで掘ると、飲める水が出てきます。日本の井戸とは少し違って細い穴を掘ってパイプを押し込んでいき、ホースをつなぐ。そこから水をガソリンエンジンのポンプでくみ出すという仕掛けです。セキュリティーの問題から民家に掘り、その家の人の好意で地域の人々が自由に出入りして水をくみ出しています。

・井戸は500家族、4000人の人々に水を配給できます。今は水不足は解消されましたが、モーターも小さいのにすれば、さらに4つの井戸が掘れます。今後の水危機に備え、井戸掘りの工事を続けています。
   

高遠菜穂子さん(ボランティア)の発言要旨

・支援の輪を日本で広げるため、映像や写真がほしかったのですが、現在のイラクでは映像も撮るのも難しい。撮影中に米軍に射殺されたりすることがありますし、武装勢力も怖い。工事も一部の現地スタッフを除き、極秘で行われました。「日本からの支援」だと公言すると極めて危険だからです。しかし、井戸から水が出て人々がその水を使い始めてから、現地スタッフが「日本からの支援」なのだと、人々に告白したそうです。そうしたら、バグダッドの人々は「日本の人々は近隣諸国の人々よりもイスラム的だ」。これは大変な賛辞なのだそうです(笑)。

・その後、9月上旬にイラク北部のタルアファルが米・イラク軍に包囲攻撃を受け、住民が難民となったので、5000ドル分のペットボトルの水を配布しました。


■イラク情勢について

原文次郎さん(日本国際ボランティアセンター・ヨルダン事務所)の電話中継要旨

・10月15日に予定されている憲法草案の国民投票を成功させるため武装勢力を掃討するという名目で、イラク西部アンバル州での掃討作戦が続いています。8月の時点で難民支援策について国連やNGO関係の会合が開かれ、医療活動が軍に妨害されているという情報もありました。イラク北部のタルアファルへの包囲攻撃では5000人〜1万人が避難。9月15日にほぼ作戦は終了したようですが、街に戻っても8割くらいの家々が破壊されていて、住めない状況。10月に入ってはアンバル州では三つの攻撃がほぼ同時進行に行われています。救急車が攻撃されるなど、医療機関が狙われるという傾向が昨年のファルージャへの攻撃から顕著となっています。4000ドル分の支援をイラク西部カイム近くの病院へ送りましたが、そもそもこうした医療支援が必要無く状況になることが重要です。
 
・憲法案の国民投票が行われるというが、アンバル州では、掃討作戦が続いており投票しようにも投票できない。また、投票には登録が必要なのに、投票所が無かったりします。


相澤さんの発言要旨

・イラク隣国のヨルダンで、現地スタッフと会合を持ちましたが、泊まったホテルはイラク人ばかり。皆、治安状況が悪く、逃げ出してきています。現在、ヨルダンには75〜80万人のイラク人がいるといわれています。治安部隊が住民を拘束し拷問するということが深刻ですが、特にバグダッド南部のドーラ地区ではひどい状況のようです。


高遠さんの発言要旨

・多くのイラク人が国外に逃げている一方で、隣国イランからイラン人がどんどんイラクに入ってきているようです。ヨルダンのホテルで会ったイラク人の人が言っていたのですが、通りの看板も(イランの公用語の)ペルシャ語になっていたりしているそうです。


佐藤真紀さん(JIMネット)の発言要旨

・日本国際ボランティアセンターの職員だった2003年から、イラクのがん・白血病患者への医療支援を続けてきました。白血病患者は抵抗力がないので、きれいな水を飲めないなど衛生状態が悪いと、感染症にかかって死んでしまうということが多い。
 統計では、NGOによる支援活動の成果なのか、2004年の白血病・がんの子ども死亡率が減った。しかし、2005年に入ってイラクの保健省が機能しなくなり、薬がほとんど届かなくなってしまいました。実務よりも、移行政権の中での権力争いの方が優先されているためです。
 現在、妻をがんで亡くしたイラク人男性が、バスラやバグダッドの病院に支援物資を届けたりと、活躍してくれています。やはり人道支援の主役は地元の人間なのだなと思います。



3)あるイラク人NGO職員の嘆き〜新憲法草案から削除された
 「人権擁護」〜


 今月15日にはイラクの新しい憲法草案が国民投票にかけられる。憲法起草にあたって石油利権の扱いや、イスラム国家化、女性の人権などで各派が対立していることは、日本の報道でも伝えられたが、国際条約に準じる人権擁護を謳った条文が削除されたこともまた重大な問題である。

 イラクで活動するNGOの調整委員会であるNCCIの月例報告書では、新憲法草案から「人権擁護」が削除されたことへの、イラク人NGO職員の嘆きが紹介されている。その内容を抄訳した。

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 「全ての個人はこの憲法の趣旨と規定に反しない限り、イラクの締結した国際人権上の条約及び規約に言及された権利を享受する権利を有する」
                                  ―イラク憲法草案第44条

 この条文を読んだ時、あなたは理想主義的だと思うでしょうし、疑問に思うことでしょう。
「将来、政府はこの条文を尊重するのか」「国際社会がこの条文の違反を防ぐために何ができるのか?」「どうやって人々に彼ら自身を人権を理解してもらうのか?」

 しかし、憲法草案にこの44条が見つからないとしたら、どうしますか?

 憲法草案は、どんな細かい部分であれ、国際社会によって、綿密にモニターされ、完璧に議論されたはずでしょう。

 憲法起草プロセスは国連によって調停されたのです!

 あなたは強い違和感を感じるでしょう。44条の重要さとこれが失われることで何が起きるのか、我々は声を上げなくてはいけません。ところが、国連は44条を抜いた憲法案を成立させ、(市民に配るため)印刷しているのです。

 人権擁護の条文が以前の憲法案にはあったと気づいたら、あなたは、どうします?そして、それが“民主主義の宣教師達”である様々な政治勢力の、憲法起草をめぐる議論の中で話題とされなかったら?一夜にして、44条が憲法草案から取り除かれることが決められたとしたら?

 「人権擁護の条文は削除されました」なんて、私は理解できません。

 何故?誰が?どのように?

 それは草案から取り除かれた唯一の条文でした。残念なことに国際社会や国連の承認で。
 
 メディア関係者は、削除された44条について知りませんし、よりセンセーショナルな物語と政権の移行にのみ関心があるのです。
 
 国連の面々は?彼らに聞けばこう答えるでしょう。「悲しいことじゃないですか。我々は援助のためにいるのであって、草案の成立を妨げることはできません」「私達は強い圧力を受けていました。草案の成立直前に我々が会ったとあなたも知る者*から」。

 人権団体はどうでしょう。唯一、アムネスティ・インターナショナルが批判の声明を出しているだけです。

 私が参加しているイラクで活動するNGOのコミュニティーさえ、彼らが出来る以上のことをしなかった。毎日止むことの無い人権侵害を目撃し、不満や絶望を感じている彼らでさえ。
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*訳注)憲法草案の成立は先月18日。14日にブッシュ米大統領は同14日に、国連総会特別首脳会合で演説し、憲法案をめぐる10月の国民投票や年内の正統政府樹立に向けた協力を要請した。 



4)FRIDAY特集「米軍が黙認する「イラク大虐殺」の衝撃写真」

6日に発売したFRIDAYに本コーナー編集者の志葉が担当した記事が掲載(92〜93ページ)されている。
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FRIDAY 2005.10.21号

  「殴打、電気ショック、ドリル痕・・・それでも
 自衛隊はサマワ駐留を続けるのか?凄惨! 
 米軍が黙認する『イラク大虐殺』の衝撃写真」

 取材・文:志葉 玲
 Photo:イサム・ラシード、相澤恭行




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 バグダッドにいる志葉の友人も、彼の知人や友人の約半数が治安部隊に殺されてしまったそうで、正に今のイラクの状況は無茶苦茶だ。しかも、治安部隊はイスラム・シーア派で固められ、主にスンニ派の住民を攻撃している。元々、イラク においてシーア派もスンニ派も「悪いのはサダム。政府と一般市民は別」と、互いに結婚したりするなど、仲良くやってきたのだが、現在では一部のスンニ・シーア両派が憎しみあうという状況も生まれつつあるそうだ。

 このような状況を招いたのは、やはり米国で、バドル軍団などのシーア派民兵を訓練して、スンニ派の多い地域での軍事作戦に参加させたり、イスラム指導者の拘束・拷問/暗殺を行わせている。

 日本ではタテマエだけの「民主化」が進んでいるかのような報道がほとんどだが、是非、今のイラクの現実を見ていただければ幸いである。



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