イラク情勢Watch vol.12  05年9月30日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)イラクの人権は今〜現地団体から届いた報告書


1)週間イラク報道Pick up

【05.9.30】イラク戦争受け米国民は軍事力行使に懐疑的に=世論調査(ロイター)

【05.929】州評議会前議長に逮捕状=護衛がデモ隊発砲で−サマワ(時事)

【05.9.26】サマワ市街地に砲弾着弾=銃撃戦も、サドル派反発か(時事)

【05.9.25】イラク駐留英軍、来年5月に本格撤退…英紙報じる(読売

【05.9.25】<イラク反戦>ワシントンで10万人デモ 米軍撤退求める(毎日)

【05.9.24】英軍は市街地に入るな−サドル師派(時事)

【05.9.23】<イラク反戦広告>全米15紙に掲載「彼らがウソついた」(毎日)



2)イラクの人権は今〜現地団体から届いた報告書

 本コーナー編集人の志葉の元に、イラク人権監視ネット(MHRI)という20の現地人権団体によるネットワークがまとめた報告書が届いた。これは先月20日で、国連のコフィ・アナン事務総長に宛てたもので、全124ページ。最初の3分の1で、戦争犯罪や子ども達の置かれている状況、女性の状況、医療環境や、刑務所内での虐待・拷問問題など15の項目について書かれており、残り3分の2はこうした人権侵害の被害者の名のリストという構成となっている。

       

 MHRIの代表のMuhamad Al-Darraji氏は、ファルージャに拠点を置く「人権民主主義研究センター」(SCHRD)の代表でもあり、以前も米軍によるファルージャ総攻撃の実態を志葉に伝えた。

 今号のイラク情勢ウォッチでは、MHRIの報告書に書かれている内容を抜粋して紹介する。


■戦争犯罪と人道に対する罪

 ファルージャ総攻撃の実態については、今年2月にSCHRDがまとめた報告書の中に詳しく書かれており(関連情報)、今回のMHRIの報告書でも総攻撃の実態に関しては重複するところが多いが、その後のファルージャの様子などについても触れられている。

・米軍の支配下にあるサジャール地区には、総攻撃の犠牲となった市民の遺体 およそ400体が冷凍保管されており、遺族の元に返還されていない。

・総攻撃によって3万もの建物が破壊され、空き家となった家々も破壊された。

・総攻撃後も住民の苦難の日々は続いている。ファルージャは巨大な監獄と化した。検問所での屈辱的なチェックを受けない限り、約35万の住民はファルージャに入ることすらできない。


■子ども達の状況

・教育環境の悪化が大きな問題となっている。ファルージャでは6つの学校が イラク国家防衛隊と米軍の拠点して接収されたままだ。戦闘が終わって10ヶ月以上経つにも関わらず、子ども達はテントを教室代わりに勉強している。 
注)イラクの夏は大変暑く、テントの中は到底勉強が出来る状況ではない。

・今年6月末くらいから行われているイラク西部での掃討作戦では、多くの都市で学校が破壊された。
  
・両親が米軍やイラク治安当局に拘束された場合、その子どもも、拘束され、刑務所に送られるということもある。アブグレイブ刑務所では、供述書を取るために、子ども達がつれてこられ、両親である被拘束者の前で拷問されるというケースが報告されている。


■保健・医療状況

・ファルージャやラマディ、ハディーサやカイムなどでの軍事作戦では、病院が破壊されたり、施設が軍に接収されるというケースが相次いだ。

・バグダッド近郊のホール・ラジャブ地区では、検問所が設置され、医者や看護士も通行が困難になり、結局病院は閉鎖された。この病院は地域の薬局の役割も果たしていたが、薬が得られないために、多くの患者が命を落とした。

・イラクでは麻薬中毒患者が急増しており、国立薬物規制センターの発表によると、その数は200万人にも達するとも言われる。特にバグダッドやカルバラでの薬物の蔓延が深刻だ。

・水の汚染などにより、がんの罹患率も増加している。特に肝臓がんが増えており、03年以降、1万人以上の人々が肝臓がんを患っている。
 
・医療関係者へのイラク国家防衛隊による暴力事件も起きている。今年7月26日には、同僚が治療の甲斐なく死亡したことの腹いせに、国家防衛隊の隊員達は、病院の集中医療室の機材を破壊し、医療スタッフへ暴行を加えた。


■女性への暴力     

 アブグレイブ刑務所やブーカ刑務所などでの、女性の被拘束者に対するレイプが頻発している。多くの被害女性達は、刑務所から解放された後に精神的苦痛により自殺したという。 

・多くの囚人達が、イラク国家防衛隊の兵士達は女性達を裸にした上、男性達と同じ房の中に入れたので、女性達がレイプされたと証言している。

・ある女性は、アブグレイブ刑務所に入れられた際、米兵達によって17回もレイプされたという。彼女はその後出所したが、精神的にも身体的にも衰弱し、死亡した。

・別の女性は、2003年12月、米軍兵士達が家に突入してきた際に、米軍 兵士らが、彼女の夫を見つけることが出来なかったので代りに拘束され、アブグレイブ刑務所へと送られた。夫は妻が拘束されたことを知 り、自ら出頭したが、米軍兵士達は、女性を夫の目の前で3回レイプした。女性は2004年の5月に釈放されたが、その後自殺した。

・ある女性はアブグレイブ刑務所から解放された後、彼女の兄弟によって「一族の名誉を守る」ために殺害された。

注)アラブ・イスラム社会では、女性が親の意思に背いて自分で結婚したり相手を選んだり不倫したり、夫と離婚しようとした場合、父親や兄弟、夫などが女性を殺し、「一族の名誉を守るためにやった」と主張する「名誉殺人」という風習があり、レイプの被害者も殺されることがある。

・2004年の9月、ファルージャでは、149人の女性がその名誉を傷つけられ殺害された。犠牲者の遺体の大半はサジャール地区の集団墓地に埋葬されたが、米軍は犠牲者の遺族が遺体を引き取ることを許していない。MHRIは、遺体引き取りの禁止処置を、「米軍がスキャンダルを恐れてやっているもの」として批難している。


■刑務所内での拷問・非人道的行為

 イラク国内にある米軍キャンプで囚われている被拘束者の数は28万人を上回る(報告書原文ママ)とされる。彼らは拷問を受け、してもいなかった罪についての自白を強要される。
        
          バグダッドの情報提供者から送られてきた、拷問被害者の画像。

・ワイヤーでの鞭打ち、下腹部を蹴る、長時間の間苦しい体勢のまま鎖 で吊るされる、タバコの火を押し付ける、電気ショック(特に性器に対して)を加える、体にドリルで穴をあけて酸を流し込むなどの拷問が行われている。

・米軍は、Al-Maseeb 発電所、Al-Karkh浄水場など、いくつもの重要な公共施設を刑務所や基地として使うため占拠している。

・イラク司法省はナシリアとスレイマニアに、国際基準にそった刑務 所を建設すると表明。それぞれ4000人、2800人を収容できるものとしている。米国も、イラクでの刑務所建設に2億ドルの支援を行う予定。

・米軍の医療チームは死亡した被拘束者の体から内臓を摘出し、それは組織的に売買されている(原文ママ)。


■マイノリティーの状況

・少数派、特にキリスト教徒とアラブ系少数民族のいくつかはクルド人民兵に迫害されている。イラク中北部のキルクークでは、街から立ち去るよう脅迫されている。

・今年7月17日、イラク国家防衛隊は、イラク北部モスルで少数民族トルクメン人による政党「トルクメン戦線」の本部を焼き払った。
 

■宗派・民族による差別

・特定の宗教や民族による政党のメンバーが省庁のトップになった場合、 元のスタッフや幹部は職場を追放され、その政党に関係する者だけが新たなスタッフとして配属される。

・電力省では、移行政権がスタートしシーア派の大臣が任命されると、スンニ派の幹部3人が更迭され、シーア派のスタッフが後任を任された。

・同様のことは他の省でも行われた。ジャブル内相は内務省の人事で 彼が所属する政党であるSCIRI(イラク・イスラム革命最高評議会)の関係者を優遇し、同党の民兵組織バドル旅団を治安部隊に登用している。

・治安部隊による住民の逮捕は主にスンニ派の多い地域で行われている。



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