イラク情勢Watch vol.2 05年7月5日 発行:フォーラム平和・人権・環境 編集:志葉 玲 バックナンバー Special analysis by Rei Shiva 完全に行き詰った自衛隊イラク派遣 先月24日、宿営地からサマワ中心部に向かっていた自衛隊の車両が路肩爆弾で攻撃された事件は政府関係者に大きな衝撃を与えた。爆発の規模自体は大きくないため、本格的な攻撃かは疑問視される。だが、それまでのロケット弾撃ち込みに比べ、より明確に自衛隊をターゲットにした攻撃であり、これまでにない強い敵意を感じさせるものである。 最近、サマワでは日の丸が焼かれたり、自衛隊員への投石が行われるなどの、反日感情の高まりが見られる。つい昨日も宿営地周辺で爆発音が聞かれた。 これは、小泉政権の対米追従政策だけでなく、そもそも復興事業には向かない自衛隊を現地に送り、いたずらに期待を煽ってきたツケでもある。 自衛隊の活動を伝えるFUJI NEWSが破られていた。2004年7月サマワにて筆者撮影。 ■打ち砕かれた「自衛隊員は自分で身を守れる」という幻想 今回の攻撃は、「自衛隊員は自分で身を守れる」という幻想を完全に打ち砕いた。自衛隊は事前に事件の起きた道路をチェックしていたが、路肩爆弾を発見することは出来なかった。路肩爆弾は地中に埋められるため発見は極めて難しい。米軍にとっても路肩爆弾は最大の脅威の一つなのだ。今回、自衛隊に対して使用された爆弾はTNT火薬が使われていたが、もし米軍車両に対して多用される榴弾が使われていたら、自衛隊の車両はメチャクチャに破壊され、乗員は間違いなく死傷していただろう。 自衛隊の宿営地は、街の中心から5キロほど離れた荒地のなかにある。宿営地周辺は見晴らしの良い場所で、自衛隊側が目視で周囲の状況を確認するには好都合だが、それは裏を返せば、周囲から見られているということだ。しかも自衛隊の車両が通るルートはかなり限定される。もし、自衛隊への攻撃が本格化しようとしているのであれば、今後犠牲者を出さずに活動を続けるのは、極めて難しいと言える。 ■攻撃の犯人は? この間、人質を取り首を切り落とすなど、イラクで特に過激な行動に出ている勢力は、イラク近隣の国々から来た極端な反米・イスラム原理主義者による外国人武装集団や、これらと結びついた一部の最も過激なイラク人武装集団であるとされている。ただ、今回の路肩爆弾による攻撃は、恐らく前述したような「超過激派」武装集団によるものではない。昨年末イラク北部のモスルでの米軍基地内の自爆攻撃を行ったアンサール・スンナ軍のように、「超過激派」武装集団による攻撃は非常に計画的で、最大限の被害を出すこと目的としており、使用する火器や爆弾も強力だ。もし「超過激派」武装集団の作戦ならば、より殺傷力の高い攻撃で、確実に自衛隊員を殺していただろう。したがって、今回の事件も、昨年から頻発している自衛隊宿営地へのロケット砲攻撃も、恐らく地元の人間によるものである可能性が高い。現地にいる私の情報提供者も、「サマワの人々は皆この事件について知らないと言っているが、恐らく自衛隊に対して反感を持つ人間の行動だと思う」と地元の人間の犯行であることを示唆している。 ■サマワの人々の反応 サマワにいる情報提供者によると、サマワの人々の反応は以下のようなものだった。 「多くの人達は今回の事件を犯罪的なものと受け止めている。何故なら、自衛隊は他の国々の軍隊と違い、イラクの人々に対して敬意をはらっている特別な軍隊だからだ。ただ、中には自衛隊の駐留を歓迎しない人々もいるし、今回の事件を喜んでいる人々すらいる。それは自衛隊がサマワで様々なプロジェクトを行うと言っていながら、実際は何もしていないからだ」 自衛隊は、治安維持や武装勢力掃討のような作戦には従事せず、多くの友好的なセレモニーを企画・参加しているため、上記引用のように、「自衛隊は他の軍隊とは違うのでは」と考えるイラク人もサマワ周辺では多い。しかし、必ずしも同情的な意見ばかりではなかったようだ。この間、ずっと「助けに来ているはずなのに自衛隊は何をやっているのだ」というサマワ住民の間に不満はくすぶり続けてきた。 ■「自衛隊にだまされた」 6割を超える失業率や水や電力の配給の滞りという問題に対して自衛隊がまったく努力をしてこなかったわけではないものの、人口30〜40万人のサマワで自衛隊がやってきたことは、「焼け石に水」だったと言える。それどころか、逆に反発を買うケースもあった。道路や学校修復で、自衛隊の委託した地元業者が労働者を雇い雇用を生んだものの、一部の部族が優先的に仕事を得るなど、仕事を得られなかった人々の間では不平等感が広まった。そもそも、自衛隊にとって、災害地での緊急支援等はともかく、地域の復興事業は本業ではなく、「人道復興支援のための派遣」は、最初から無理のあるものだった。だが、サマワでは「自衛隊がくれば何でも変わる」と最初の期待があまりに大きすぎたし、自衛隊の方も地元メディアに盛んに出演し活動をアピールするなど、期待を煽ってきたところがないでもない。それ故に「自衛隊にだまされた」と感じている住民も少なくないのである。 ■自衛隊は米軍基地を建造している??? サマワでの対日感情の悪化に関しては、既に今年初頭に情報提供者から気になる情報が入っていた。情報提供者によると、「自衛隊は米軍に協力するために来ているのでは」という疑念を持つ人々も少なくないのだと言う。 「自衛隊は嫌いだ」。失業中のSさん(33)は断言する。「何故なら、イラク人を助けるためではなく、占領を支援するために来ているからだ」。行政関係の仕事をしているMさん(30)も「自衛隊にはイラクから出て行ってもらいたい。日本人はヒロシマ、ナガサキで何があったのか思い出すべきだ」と憤る。Mさんは「我々は自衛隊が巨大な空軍基地を米軍のために作っていることも知っている」とも言う。空自が米軍の物資や兵士を輸送していることは確かだが、陸自が米軍への支援活動をしているという事実は私も助手も確認していない。だが、事実と異なる噂話であれ、イラクでは住民同士の井戸端会議での情報が信頼されるだけに、危険な兆候だ。 こうした不信感を招いている原因はやはり自衛隊の支援活動の遅れにあるようだ。「なぜ、宿営地が何度も攻撃を受けていると思う?それは自衛隊が約束だけして実際は何もしない嘘つきだからだ」と失業中のAさん(52)は言う。「水道や電気の復旧、失業対策の大型事業などを期待しているのに、未だに行われていない。もし占領支援のために来ているのでなければ何をしに来ているのか」(Aさん)。 ■米軍と同じ失敗を繰り返すな 今回の攻撃に関して、真相の解明は必要だが、サマワ治安当局があせって荒っぽいことをすれば、逆効果になりかねない恐れがある。今回の事件後、サマワのイラク警察は、主にサドル派の多い地域で一斉捜索を行い、50人以上もの人々を拘束したが、はたしてどの程度捜査した上での拘束だったのか。迅速な対応をしているという日本政府へのポーズなのだろうが、拘束された人々が事件に関与していなかった場合、人々の怒りがサマワ治安当局だけでなく自衛隊にも向けられる恐れがある。身柄拘束に伴い、拷問や虐待などの人権問題が発生することも考えられるが、アブグレイブ刑務所等での虐待が発覚した後、イラク人の間で反米感情が爆発的に高まったことをサマワ治安当局と日本政府は忘れるべきではない。 ■自衛隊派遣の費用対効果を検し、撤退を決断せよ 自衛隊イラク派遣の費用(リスク)対効果は国会においても、メディアにおいても、もっと検証されるべきである。自衛隊のイラク派遣費用(空自・海自も含む)は2003〜2005年度の合計で何と、649億円にものぼる*とのことだが、それに見合うだけの成果を出しているとは言いがたいだろう。まして、万が一自衛官が殺害されるようなことがあれば、もはや救いようがないとしか言えない。 そもそも、イラクをはじめ中東諸国は世界でも最も対日感情が良好だった地域であった。しかし、小泉政権のイラク戦争支持、自衛隊イラク派遣が「日本は米国の犬」というイメージを中東の人々に広めてしまい、軽蔑や敵意を招いた。イラクでの日本人が拘束されるだけではなく、昨年5月末のサウジアラビアでの外国人襲撃事件で日本人もターゲットにされていたなど、日本が原油輸入の8割以上を依存する中東地域で、日本人が危害を加えられるリスクが高まっている。 ブッシュ政権はさらなる自衛隊の派遣期限の延長を求めているが、小泉政権はこれ以上、国民の財産と安全を犠牲にするべきではない。 *World Peace Now の調べによる。同ネットワークのメンバーが国会議員の協力を得て防衛庁に問い合わせた。 ● 第1号 2005年06月29日 |