2024年、集会等の報告
2024年12月03日
第61回護憲大会・分科会報告
第1分科会「非核・安全保障」
冒頭、本分科会講師である畠山澄子さん(ピースボート共同代表)の呼びかけで、アイスブレイク「サイレント」を行いました。参加者が声を出さずに、誕生日順に並びました。その後、誕生日が近い人たちで3人前後のグループをつくり、自己紹介しあいました。和やかな雰囲気で進み、参加者同士のコミュニケーションを図ることができました。
続いて、「次の世代のこととは誰のことをさすのか」をテーマに、グループ別ディスカッションにとりくみました。
・当時を経験した人以外はみんな次の世代である。
・学校で平和教育をしているが、子どもたちや保護者の理解があまりないように感じる。
・何かあれば耳を傾けるが、基本的には関心がない。「8月6日」、「9日」について知らない人も多い。当事者意識にはなりにくい。
・長崎では、資料館に行くことも多く、関心が高い。
・北海道では、原発には意識があるが、核兵器となると意識が下がっているように感じる。
・イベントとしての学習ではなく、普段からの学ぶことが大切。自分たちの未来に関わることだという意識をもって学んでほしい。
・自分が親になったときに、「8月6日」のことを語り継ぐことができるのか。日本人ならもってほしい視点だと思う。広島や長崎は登校日であることから、継承しやすいが、そのような日がない地域では、空気が違う。修学旅行で行くことも減っている。
そのうえで、畠山さんからの「核兵器のない世界のために私たちができること」と題しての講演、質疑応答がありました。
・グローバル学者という表現があった。国際・インターナショナルと言っていたが、グローバルと言われるようになってきた。この差とは何なのか。運動の一つ一つはインターナショナルになるのではないか。
(畠山)インターナショナルは、国家間の枠組みという意味で、使っている。グローバルは、被爆者という視点で考えると、アメリカやインドでも被害者がいる。国家としての枠組みではない場合には、グローバルを使う。国家ではなく、個人という意味合いが強い。経済や市場としての意味合いが強いのも理解はできる。
・労働組合も負け続けているが、続けている。平和運動も組合運動もつながっているように感じた。
(畠山)必ずしも為政者としての立場になる必要はなく、こうなってほしいという思いをもつことはできる。それを政治家と一緒に考えていくことが必要である。私たちが生きていくうえで、どういうことがよくて、どういうことがダメなのかを考え、人生が侵されたということに声をあげることは大事な一歩である。
・国連とは国家の集まりである。また、NGOが必ず発言している。核兵器禁止条約にも市民団体が直接国の集まりに対しても、発言することができ、力関係に変化がみられる。しかし、核兵器を作った国が発言力を高めている面もある。その点はどのように考えるのか。
(畠山)代議制が100%機能しているのであれば、私たちの出番は必要ないのかもしれない。しかし、そのような機能を果たすのは難しい。国の場で漏れてしまう意見を市民の声として、届けることは大切である。
残念ながら、5大国の力は大きいと思う。しかし、核兵器禁止条約の広がりが怖いと思っているのも事実である。フランスは植民地であった国に圧力をかけている。本当に効力がない場合は、このような圧力は必要ない。しかし、核兵器禁止条約に批准した国の力が強まれば、5大国の地位も変わってくるという心配も感じているのではないか。
・トランプ大統領の再選があった。トランプ政権についてはどのように考えているのか。
(畠山)アメリカ政治は専門ではないが、結果はもちろん受け止めるしかない。4年すればひっくり返る可能性がある国である。国際的な枠組みが壊れないような手立てを打っていく必要はある。具体的にいうことはできないが、気候変動などの枠組みから抜けるというようなこともあった。日本にも言えることだが、トランプに入れた人は理解できないというのではなく、理解するために努力する必要もある。何が真実か分からない中で、投票している。分からないというのではなく、お互いが向き合う姿勢が求められる。そのような学生もいるが、対話の場は必要である。トランプ政権は対岸の火事と思うべきではない。
最後に、谷事務局長が以下のようにまとめました。
何ができるのかということを考えながら話を聞いていた。日本被団協のみなさんがノーベル平和賞をとったが、今から何をすべきなのかを考えなければならない。責任は増している。日ごろのみなさんの運動で展開していくため、私たちもみなさんに対してどのような言葉をかけるべきか考えていく。
当たり前を変えていくのは私たちの力である。長い時間をかけて、とりくみをすすめていく必要がある。憲法にも書かれている。私の未来をどう選択すべきなのかを憲法理念のもとに考え、行動していく。今日はまず事実を知る。事実を知ることは想像力を高めることにつながる。今後の展開をみなさんとともに、模索していきたい。
第2分科会「軍拡・基地強化」
米兵による性被害当事者であり、米兵犯罪対策の活動をされているキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんから日米地位協定の改定の必要性について提起を受けました。
ジェーンさんはオーストラリア出身で1980年代から日本を拠点に40年以上活動されており、モデルや歌手としてテレビに出演されていたこともある方です。ジェーンさんは2002年に神奈川県横須賀市で米兵から性的暴行を受けた上、警察から屈辱的な取り調べを受けPTSDを発症されました。その後、民事訴訟で勝訴したものの、加害者の米兵は2002年に帰国し所在不明となり賠償金は支払われませんでした。
しかし、ジェーンさんは泣き寝入りすることなく、加害者の元米兵を自力で見つけ出し、米国で訴訟を起こし勝訴しました。ジェーンさんは「日本では性犯罪を起こした米兵が刑事でも民事でも責任を取らずに済まされているケースが多いために事件が繰り返されている。日米地位協定には日本法令の『尊重』と規定されているが、米兵による性犯罪を防ぐためにはこれを『順守』とし、日本においては日本の法を守らせ、犯罪が起こったときには日本の法で裁けるようにしないといけない。加害者が守られる今の地位協定はおかしい」と訴えました。
続いて名古屋学院大学教授の飯島滋明さんから、日米地位協定の問題点と、裁判権放棄密約についての解説がありました。
地位協定により、米兵等について日本側の捜査・取調べ・公判等の刑事裁判権は著しく制限されていることに加えて、「裁判権放棄密約」があることから、米兵による性犯罪の多くが不起訴となっているという問題提起がされました。「裁判権放棄密約」とは1953年に日米間で交わされた「日本にとって著しく重要と考えられる事件以外については第1次裁判権を行使つもりがない」という密約です。解説の最後に飯島教授は、国を守るのであれば、憲法改正ではなく、一度も改定されていない日米地位協定を改定すべきだと訴えました。
参加者からは「地位協定の問題は米軍基地があるところではリアルなものとしてとらえられるが、基地がないところでは問題としてとらえられていない。どのように連帯していくかが課題」「基地がないところにおいては防衛費、税金の使い方といったことから問題をとらえることで日本全体の問題として基地問題に取り組めるのではないか」といった意見が出されました。
ジェーンさんは最後に、「自身の被害の体験を話すのは今でもPTSDの発作がでるほどつらいことだが、自身の経験を伝えることで、より多くの人が社会の問題としてとらえ、そしてみんなで声をあげることができれば、日米地位協定を必ず変えられると信じて活動している」と話されました。
ジェーンさんは米兵を憎んではいない、憎いのは犯罪だと話されました。つまり差別と偏見になってはいけないということだと思います。対等な関係でありたいということだと思います。そういった意味でも不平等な日米地位協定は改定が必要なのだと感じました。
第3分科会「人権課題」
師岡康子さん(弁護士)から、「包括的反差別法制定に向けて~人種差別撤廃を中心に」と題しての講演、問題提起を受けました。
日本における差別として国籍民族差別が現在もあり、日本で同じように生活している外国籍住民はマイノリティであり、マジョリティとの生活の違いから差別を受けている現状があります。日本で生活する外国籍住民は、住民として納税義務などを果たしているにもかかわらず、地方参政権を認められていないことや、改正入管法からもわかるように国の政策自体が日本で生活する外国人を認めておらず、共に暮らすではなく管理していると言う日本の現実があります。そのため、職が限定されたり、高校無償化の対象外など、何世代に渡り日本で生活していても不平等な対応となっており声をあげることも難しい状況です。自分の本来の名前を隠して日本名で生活することを選択する人もいるなど、アイデンティティが問われています。
日本国憲法第14条は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と差別が禁止されているにもかかわらず、差別は無くなっていません。また、日本には国際人権基準である差別禁止法や国内人権機関、個人通報制度が無く、国際的にも遅れている状況です。
罰則規定が盛り込まれた先進的条例である、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が制定された川崎市では、ヘイトスピーチやヘイトデモが無くなり成果が出ています。他方で、川崎市でヘイトスピーチを繰り返し行っていた人たちが今度は、埼玉県の川口や蕨市でクルド人に対してヘイトスピーチを行っている状況です。
国際基準に合致した差別禁止規定が盛り込まれた人種差別撤廃法の実現にむけ取り組む必要があり、外国人人権法連絡会が作成したモデル案が紹介され、各地方からも声をあげることが重要であることも示されました。
参加者からは活発な質疑や討論が行われ包括的反差別法の必要性や複合差別や人権課題について共有されました。先進的事例を取り入れ、各地でできることを広げていくこと、議員への働きかけなどはマジョリティが取り組むべきであり、各自治体で条例制定を進め国を動かし法制定へとつなげることが重要です。
最後に講師から、人種差別撤廃条約に日本は加入している以上、条約を守らなければならないこと。また、知らないから行う無意識の差別があり、学習や教育の必要性が高まっており、教育現場での取り組みが重要になること。これらの課題を解決するために、各自治体での人種差別撤廃にむけて条例制定の取り組みを進めましょう。とお話し頂きました。
第4分科会「歴史認識」
弁護士の内田雅敏さんが問題提起として、「靖國問題」と題して講演しました。靖國神社を巡る誤解を解くとして、戦没者追悼式に対して批判があるのではなく、批判の焦点は、靖國神社という場所での追悼にあり、靖國神社が持つ「大東亜戦争史観」や「アジア植民地解放史観」といった聖戦史観が、追悼の場所としてふさわしくないなどと話された他、戦後、靖國神社は国家機関から宗教法人に転じたにも関わらず、戦没者の魂を独占し続けること、特攻や戦後の戦死者への扱いも遺族や国際社会からの反発を招いていることなど、歴史や宗教、政治など様々な視点から、靖國神社の問題を指摘しました。
次に、関東大震災朝鮮人虐殺犠牲者追悼と責任追及の実行委員会の藤本泰成さんが、「関東大震災の朝鮮人虐殺について」と題して報告しました。1923年に発生した関東大震災と同時に起こった朝鮮人虐殺について、軍隊・警察が中心となって、朝鮮人が火をつけた、井戸に毒を投げた等、流言がばらまかれたことにより、虐殺が起こった。虐殺の本質は、「朝鮮人への迫害」だと指摘した。また、虐殺が起こったにも関わらず、それを認めない日本政府や東京都知事の対応を批判しました。
質疑では5人の参加者が、「東京裁判における天皇の戦争責任について」、「史実を捏造されないためには」、「政党が偏見・差別をなくしていけるのか」など質問。講師から、「東京裁判の問題は色々あるが、最高責任者の1人である天皇が訴追されなかったということは一番大きな問題」「自国の歴史を権力者側がどう書くか。見る側によって歴史は変わる。向こうとこちらでお互い話し合いながら作り上げることが大事」、「個別に議員はいる。そうした議員を大切にし、私たちからコミットしていかなければならない」などと回答がありました。
まとめとして、藤本さんからは、「アメリカが世界の中で、特にこの東アジアで何をしてきたかしっかり見つめ直す。そして、単に批判するだけではなく、アジアの平和のために何が必要なのか。この日本における差別という、この植民地主義というものを払拭していって、そしてアジアの中でもっときちんと対話をして、色々なことができる社会を作らないといけない」などと述べました。
内田さんからは、「日本はかなり問題があるけれど、中国の今の独裁体制にも問題がある。それはそれで批判していかなくてはいけない。中国に『以民促官(いみんそくかん)』という言葉がある。民をもって官を促し、政治を変える。日中共同声明では、4つのことを約束した。それを活用せずに、ミサイルがとか、一戦交える覚悟だとか、それは外交でも何でもない」などと述べました。
第5分科会「憲法を学ぶ」
本分科会への参加者は、護憲大会に初めて参加したという方が多数を占めていました。本分科会の趣旨を全体で共有し、憲法の基本をみんなで学ぶ場にしていきたいという、分科会の方向性をまず確認しました。
その後、日本体育大学教授の清水雅彦さんに、「憲法の基本を学ぶ」の演題で講演をいただきました。
講演の概要は以下の通りです。
公務員や教員は試験で憲法を学ぶが、その他の民間のかたは憲法を学ぶ機会が少ない。条文の丸暗記で教育ができたと思うのは間違いで、憲法をどう解釈していくのかが大切である。
18世紀のフランスをはじめとして近代市民革命が起こった。近代市民革命前までは暴力・神話(天皇は神の子であるなど神話をつくって人を支配した)によって「人が支配」していた。革命後、国家がおこなってきた悪事を防ぐために「憲法」をつくり、「法の支配」となった。
「日本国憲法」を見てみると、国家の統治規定(天皇・戦争の放棄・国会・内閣・地方自治法など)と人権規定(国民の権利及び義務)がある。人権規定が多い印象があるかもしれないが、実際は大部分が統治規定である。人権を守るために統治規定がある。国は国家権力制限規範として戦争・軍隊に対する重みを感じるべきである。
憲法第81条の違憲審査制は、多数派が間違ったら裁判所が是正するためのものである。日本ではなかなか裁判所が違憲審査を出さない。内閣が最高裁の裁判官の人事権を握っているため、長期政権が続くと裁判所も与党よりになる。この違憲審査制が機能していないのは裁判官だけでなく、最高裁の人事権が内閣にあることも考えて選挙にいっているかという国民の責任も大きい。
また、日本国憲法はどのような憲法なのかということにも言及されました。
形式的には戦前の大日本帝国憲法の改正憲法であるが、実質的には新憲法である。戦争に負けたことによって、市民革命などを経ず、近代憲法(18世紀市民革命語の自由権保障)と現代憲法(20世紀以降の社会権保障)の特徴を持つ憲法を手にすることができたのが日本。しかしながら、日本国憲法は、天皇制という封建制の遺物を残した資本主義憲法であるという課題ももっている。
君が代の「細石」の意味を理解しているか。君が代の歌詞の意味を正確に教えないのが問題。子どもに歌詞の意味を教えた上で、判断させるようにすべきである。元号についても、大化から令和まで、その意味を理解しているか。元号を発案した中国も現在は元号を使用していない。国際化の現状、元号は不便なので西暦を使用すべきである。
人権については、高校生の校則問題にもふれ、学生服・セーラー服は軍服からきていることを知った上で、なぜ制服をなぜ着ないといけないのかということ疑問をもつことも大切である。また、メタボ規制によって一律の基準で健康を押し付け、個人の健康問題に介入することにも疑問を感じる。
労働者の権利は組合組織率の低下によって政策に反映されなくなっている。日本は有給休暇の取得率が低い。正規労働者の労働時間も欧米に比べて大幅に多い。日本は労働組合の組織率が低いため労働者の意見を政策に反映できていなが、欧米は労働組合の意見を反映した政党が政権を取ることで、労働者の意見を政策に反映できている。
改憲の動きについても、明文改憲はとまっていても、防衛費の増額等の実質改憲が進む危険性があることには注意が必要である。
労働者に支えられた政党が政権をとっている欧米をモデルにし、労働組合の強化と労働組合が政党を支え、労働者の声を届けることが大切である。労働組合での憲法学習をこれから広げていくべきであるとまとめられた。
休憩時間を挟んで、質疑・応答・討論に入りました。参加者から積極的に発言があり、活発な議論が展開されました。
天皇制・日の丸・君が代問題については、地道な草の根運動を続けていくことの大切さと、現行制度に対して疑問をもつことの重要性も確認されました。
憲法と地方自治の関係についても議論が展開された。戦前は地方自治が認められていなかったが、戦後、反省をもとに憲法で地方自治が認められるようになった。沖縄の民意は基地移設反対なのだから、国も尊重していくべきとの指摘がありました。
元号の使用について、西暦も宗教の関係があって現場では疑問に思うところがあるとの発言がありました。清水さんから、西暦はキリスト教と結びついているので相応しいとは思わないが、元号は日本でしか通用しないのでふさわしくない。世界で通用する暦という意味で西暦を使用していくべきとの回答がありました。
現地に行って本物に出会い、本質を学ぶことや本を読むことを敬遠する人が増えており、「HOW TO」をもとめる現状への懸念についても発言がありました。
清水さんからは、私たちが忖度せず進んでいく姿を次の世代に見せていくべきであり、コスパ・タイパを重視する現代社会において、新聞をはじめとする活字を読んでない人が多くなっている。活字を読んでいない人は表現ができない。活字を読むという文化を広げ、表現できる人材を育てていってほしいとの発言がありました。
本分科会参加者には労働組合関係者が多いと思われますが、「憲法学習」を労働組合でしていく必要性を改めて考えさせられました。私たちが憲法を生かすことができていない今、改めて憲法を学び、生かしていくためのとりくみが必要があります。なぜ、どうしてを考えることの大切さに立ち返り、自分自身で知ること・学ぶこと、草の根運動に生かしていきたいと、運営委員がまとめて締めくくりました。