2023年、集会等の報告

2023年11月17日

第60回護憲大会・分科会報告

第1分科会「現下の改憲情勢」

講師の飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)は、改憲5会派が主張する憲法改正は「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」の意義を失わせ、歴史の流れに逆行するものであり、市民の幸福と平和が根底から覆される危険性があるため、多くの弁護士や憲法学者が反対している。また、自衛隊明記の改憲論は、「自衛隊を憲法上の組織としてしまえば、その維持のために徴兵制へ道を開くことになる」と警鐘を鳴らしました。

国会議員の任期延長については、「改憲5会派は、自然災害などで任期内に選挙ができない場合等に国会議員の任期延長の憲法改正が必要と主張するが、そもそも野党の国会開催要求を無視してきたのは自公政権であり、憲法54条2項には参議院の緊急集会が規定されており、対応が可能だ」と解説されました。

その他の改憲論の問題点として、1)教育の無償化・充実化は、教育を受ける権利(26条)を政治が実現できていないだけであり、与野党が揃って賛成すれば、すぐにでも実現可能で憲法改正は不要。教育や子どもの貧困対策、医療や福祉にこそ予算を使うべきであり、むしろ25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するため、改憲よりも憲法に適う政治を行うことが求められる」、2)緊急事態条項は、法を無視することをあらかじめ許す法であり極めて危険。9条改正よりもたちが悪い③合区の解消は「参議院の立場を弱くする。衆議院と同じ権限が持てなくなる可能性がある」

改憲手続法の問題点として、テレビCMや広告などへの規制が現行の手続法のままでは、資金を持つ側が自由に広告宣伝できる「金で買われた憲法改正」になりかねないことやネット上で無責任な虚偽情報が拡散される危険性あり、対策を取らなければ「デマから生まれた憲法改正」となりかねないこと、民主主義を根底から覆す危険性あることなどを指摘され、また、安倍元首相と旧統一協会の関係、自民党、維新の会、国民民主党への選挙支援などを例に挙げながら「外国の影響を受けないしくみ」が必要であると訴えられました。

講演の最後に、改憲阻止に向けたとりくみとして、憲法改正や改憲手続法の問題点を周知するとりくみや集会・学習会等の開催、集会やデモなどの大衆行動、そしてSNSを活用しての若年層へのアピールなどをあげられ、「現在、憲法審査会では圧倒的に改憲5会派の発言者が多い。主権者として選挙で適切な民意を示し、憲法審査会内の構成を変えていくことが必要だ」と結ばれました。

講演後、茨城、新潟からの参加者から今後の運動のありかたや、改憲派が描く今後のスケジュール等について質疑が行われ、その後、憲法審査会の傍聴報告を小林さん(自治労)が行い、続いて東京、石川の参加者からとりくみの報告がされました。

最後に司会者が第1分科会のまとめを行い、終了となりました。

第2分科会「軍拡・基地強化」

提起者の東奥日報編集委員の斉藤光政さんから、「新冷戦時代」と呼ばれる今、日本の基地で何が行われているか?について、日本全国、世界各国に自ら足を運び取材し得た情報をもとに、日本の「軍拡・基地強化」の現状を幅広い分野で深く掘り下げられ、熱量の高い報告がされた。

続いて、琉球朝日放送の島袋夏子さんから、ご自身の取材から得られた石垣島や与那国島での自衛隊基地の配備と島民の闘いについて取材映像を交えて報告がされた。

提起者からは冒頭、アメリカ視点では昔も今も、相手がソ連から中国・ロシアに変わっただけで、太平洋の制海権を巡る争いであることに変わりはなく、そのために、かつて「不沈空母」と呼ばれた日本の存在が非常に重要であることについて説明がされた。

国内では、台湾有事をめぐる米・中の緊張関係から、日本の各地で基地機能の強化が進んでいることが報告された。その中で、沖縄の基地問題はメディアを通じて取り上げられているが、青森の基地問題はあまり知られていないことについて報告された。この背景には、これまでの基地を巡る歴史的背景や、基地が地域経済に及ぼす影響が大きい事が関係している。

基地がある三沢市では、基地がないと生活が成り立たないという市民も多い。そのため反基地運動は政治的に見ても目立たず、選挙の争点にもならないしメディアも報じない。しかし三沢基地は、専守防衛のための基地から、敵基地攻撃能力を持つステルス戦闘機の配備など、先制攻撃を行うための基地に密かに変貌している。

石垣島や与那国島では、中国の太平洋進出を警戒するために自衛隊の基地が移転し、レーダー施設が配備されており、基地で働く自衛隊員には島の出身者もいる。一方で、太平洋戦争時に過酷な生活を強いられた経験を持つ島民もおり、基地配備の賛否について島民が分断される難しい状況に陥っていることが報告された。

斉藤さんの報告の中で、「基地は経済問題である」という現実を取材の中で切実に感じたと話されていた事が印象深い。今や米・中など二国間の争いの裏には、単純な軍事力の力比べだけでなく、互いに牽制し合うことで自国の軍事産業を潤し、また近隣の経済的に貧しい国を巻き込みながら、資金援助と称した「借金」を背負わせ、その代わりに基地造りを突きつけるという、終わりの見えない覇権争いに危機感を感じる。

しかし、基地がある地域の人々を始め、国民が等しく安全で安定した暮らしを送るためには「基地が経済問題である」ことを理由に基地機能強化を黙認せず、武力による脅し合いがこれ以上続くことを許さず、平和的外交を求めるため国民一人一人が自分事として考え、しっかりと「政治問題」として扱い、解決することを求めていかなければならないと感じた。

第3分科会「ジェンダー平等」

1.問題提起「女性支援法制定の意義」戒能民江さん(お茶の水女子大学名誉教授)

2022年5月に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(以下女性支援新法)」が制定された。この法律の経緯の説明をまず受けた。

その後、女性支援新法の目的、理念、課題についての話があった。女性支援新法は、当事者を真ん中におき、意思を尊重したり、最適な支援を包括的に提供したりして進めなければならない。当事者たちは心に大きな傷を負っており、自分の気持ちを言語化できなかったり、友人や家族から孤立してしまっていたりするだけでなく、貧困、虐待、人によっては障害があるケースも少なくない。そのため、民間団体との協働がかかせない。当事者を大切に包括的に支援していくことが今後最も求められることとなる。すでに先進的に進めている自治体もあるので、参考にしながら相談しやすい体制等、基本計画の策定をすすめてほしい。当事者一人ひとりに寄り添い、大事にし、居場所をつくり、相談から生活再建までの支援となるような制度にしていかなければならない。

2.問題提起に対する質疑

問題提起に対する質疑では、「民間団体がないような地域ではどうしていけばいいのか」というような今後の具体的なとりくみに関する質疑が行われた。これに対し戒能さんからは、DV被害者、生活困窮者等への支援をしている既存の団体と連携していくことや国への財政支援の必要性を訴えた。また、参加者でもある議員からは女性支援新法には権利要綱がなく、当事者が権利の主体に離れていないことから不当な扱いを受けた際に苦情が言えないといった課題も指摘された。

3.各地からのとりくみ

各地からの取り組み報告として、開催地である新潟の「I女性会議」からとりくみ報告があった。女性と貧困プロジェクトの活動報告として、新潟県の実態を調査し、改善につなげるため議員と連携をとっていることが報告された。当事者へのアンケートでは、「生活が苦しく、金銭的な支援が欲しい」がトップであり、ほとんどの人に複数の困りごとがあることが明らかになった。当事者の背景を把握していけば、これは社会の仕組みの問題、であり断じて自己責任論で片付く話ではない。活躍する人を増やすより困っている人を減らすがまず大事であると訴えた。

4.討論

討論の中ではこれまでの日本の社会における女性への支援の在り方について、社会が変容していく必要性等が出された。

「売春の防止ではなく、買春を罰則付きの禁止法にすべきである」であるという意見については、売春をする女性の後ろの業者や悪質なホストクラブの存在も関係しており、様々な問題が複雑に絡み合っていることが関連しており、風営法と一緒に考えていく必要性が戒能さんから指摘された。

さらに女性支援の対象について、シングル家庭だけでなく、高齢者や障害のある人等様々な人を対象にしなければならないことについても意見が出された。当事者はギリギリの状態にならないと相談に来ないことが多い。できるだけ相談しやすい環境を整え、当事者と話をしていかないと支援が届かなくなり、当事者には更なる困難が待ち受けてしまう。

福井や長野から現状の報告があったが、全国で連帯し、情報を共有することの有効性や先進的な自治体に学ぶこと議員と連携し、その地域でできることから支援の方法までをしっかり議論してほしいと戒能さんから助言を受けた。法律ができたことを評価し、今後はいかに実効性あるものにしていくかが問題について共有された時間となった。

5.まとめ

今年の第3分科会には参加者、とりわけ男性の出席者が多くなり、少しずつ社会問題として認知されてきたように感じると述べた。

本日の提起や討論を聞いていて、相談員を行政がしっかり育て、コーディネートしていく必要性を感じた。そのためには相談員の賃金や処遇だけでなく、予算の課題もクリアしなければならない。議員と連携するだけでなく、その議員を私たちは支援していかなければならないという役割分担にももっと取り組む必要がある。新法ができても、これら山積している課題をクリアしていくためにもまず大きな社会問題としてとらえ、多くの人が認知する必要があるとして第3分科会をまとめた。

第4分科会「歴史認識」

講師の吉澤文寿さん(新潟国際情報大学教授)は佐渡鉱山における朝鮮人強制連行をめぐる研究経過を説明。十分にまとまった資料がないものの、郷土史家などによって朝鮮人労働者の史実が明らかになりつつあると述べた。しかし、「佐渡金山」の世界遺産登録をめざす動きとともに、強制連行否定論も現れている。吉澤さんは研究者の立場でそれらを否定するとともに、教育行政やメディアの扱いなどの問題点を指摘し「もっと現場に朝鮮人労働者の歴史を学ぶ場を作るべきだ」と語った。

参加者からは「滋賀でも朝鮮人強制連行があった。そうした史実を知れば、今後、朝鮮や中国との向き合い方も変わるのでは」(滋賀)、「長崎の軍艦島のツアーではゼッケンをつけた人を排除している。現地の説明も虚偽のものがある」(長崎)など、各地の動きを踏まえた意見が相次いだ。

もうひとりの講師の西崎雅夫さん(一般社団法人「ほうせんか」理事)は1923年の関東大震災時の、東京を中心とした朝鮮人虐殺事件について、残されている多くの証言や、当時の公的資料、新聞記事などをもとに説明。写真なども含めてその凄惨な実態を語った。そして、自警団だけでなく、警察や軍隊による虐殺も行われてきたとし「加害の歴史は国家によって隠蔽される。公的資料ではわからない。証言が有効」と述べた。さらに虐殺事件を解明しようとしない今の政府や、ヘイトスピーチなどが続く日本の現状も厳しく批判した。

参加者からは「千葉県野田市の旧福田村で朝鮮人と間違われて多くの人が虐殺された。今年、映画化もされ、フィールドワークもやった。今後は行政も巻き込んでいきたい」(千葉)などの報告があった。また「群馬県高崎市の県立公園の朝鮮人追悼碑の強制撤去にみるように、国は強制連行を否定している。誤った情報も多い中で、若い人にどう歴史認識を伝えていくべきか」(長野)といった意見も出された。

西崎さんは「今年は虐殺事件から100年ということで、フィールドワークの参加者も増え、若い人も多くなっている。これを過去の話とせず、現在も続く人の命に関わる問題として捉え、『殺さない、殺されない、殺させない』として、地道に市民運動を続けていくしかない」と話した。

吉澤さんは「研究者として史実をしっかり研究し、目に見える形で伝えていきたい。また、死刑制度も含め、殺してもいい人間がいるのかと問いたい」と強調した。

最後に「ウソやデマを放置すれば戦争につながる。人権意識をもっと高め、ネット情報に惑わされず、歴史的事実をきちんと伝えていこう」とまとめを行った。

第5分科会「憲法を学ぶ」

講師の清水雅彦さん(日本体育大学教授)から、日本国憲法の条文に対する現在の憲法解釈問題や日本社会の現実について触れられ、特徴的には、1)天皇制の皇位については、憲法2条で世襲制とされていることに対し、国民主権や民主主義、平等の例外となっており、天皇は国民の投票で決められず、国民自らも天皇になれないことなどから憲法に反すること、2)国旗国歌法について、「君が代」は天皇制のもとでの反映を意味し、歌詞の意味を教えずに歌わせていること、また「日の丸」について侵略戦争のシンボルを戦後も使っていること、3)元号について、天皇が時間支配するために作られたものであり、また国際化で元号の西暦換算が面倒になってきている現代において、鉄道会社や銀行でさえ西暦使用になっているにもかかわらず役場が使っていること、4)祝日について、年間16日のうち9日が天皇に関する祝日であり、その意味をわからず、国民が喜んで休んでいること―に対して、本来は国民で議論して設定していくべきものと断じました。

憲法9条については、政府の解釈では戦争放棄の一方で自衛力保持を認めており、それを理由に戦争できてしまい、さらには9条改悪により戦力の保持が正当化されようとしていること、また積極的平和主義として、戦争をはじめ貧困や飢餓、抑圧、疎外、差別のない状態をめざすことが書かれている憲法前文を、自民党が削除しようとしていると訴えられました。

第13条の幸福追求権に関して、プライバシー権の保障も含まれると考えられることに対し、現実は共通番号制度などプライバシー侵害するような法律がいくつも作られていること、第14条の法の下の平等では、性差別をなくし家制度の解体をめざして作られた一方で、差別はなくなっておらず国民全体の意識がまだ低い状態であり、未亡人、主人、父兄、嫁、奥さんなど、家制度の名残の言葉遣いが根強く残っていることが紹介されました。

第25条の生存権について、コロナ禍を引き合いに「自治体合理化として、保健所がかつてより約半減させられてきたなか、コロナ禍では、まずは保健所が初動対応すべきところ、対応しきれなかったから自宅待機となったが、これは医療放棄。例えば、大阪市は1か所しか保健所がない。大阪府でみても東京より人口密度が低いにも関わらずコロナ死亡者が多かった。これは大阪人の体が弱いのではなく、保健所で対応しきれなかったから。残念ながら有権者が自治体合理化を加速させた維新を選んだ結果」であると強調しました。

このほか、統治規定に関して、国会を軽視するかのように首相の独走が続いていること、また国寄りの判決を出し続ける司法において、最高裁判官を投票で決められる画期的な制度があるにも関わらず、約1%しか「×」が入っていないことに対し、国民の無関心さが、今の政治や裁判の結果に反映されている結果だと切り捨てました。

清水さんは最後に、「まずは自分たちが憲法で何が保障されているのかを知り、それを行使していくことが大事。下の世代は上の世代を見ている。現役世代が権利行使していかないと社会は変わっていかない」と締めくくりました。

その後の質疑では、自治体や教育現場の参加者から多く課題等が出され、共通して労働組合の組織率が低く、組合として憲法理念を拡げる場が少ないこと、また教育現場の仲間からは、指導要領や保護者の存在などから中立的にしか教えられない悩みが出されました。これに対して清水教授は、「職場で組合員を増やす。非組合員でも参加して意見交換できる場を増やしてほしい。地域単位で学習会や意見交換会できる場を作ってほしい。今の若い人は環境問題や性的マイノリティの問題等についても好意的に受け入れるタイプが増えてきており、そうした接点を作ってもらって学習会等をやるのが良い。そのうえで声をあげれば変えられた事例はいくつもあり、政権交代につなげていく必要がある」とまとめました。

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