2022年、集会等の報告
2022年11月16日
第59回護憲大会・分科会報告
第1分科会「現下の改憲情勢」
飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)による講演が行われ、初めての参加者も多かったことから分かりやすく、憲法とは何かということから始まりました。憲法とは、政治家に「こういうことを行う。こういうことをしてはダメ」という、権力者を縛るものである。法律は、国民を縛るものである、という分かりやすい説明がされました。その上で、
・憲法審査会は第208回通常国会で衆議院16回、参議院で7回開催され、改憲発議に向けての足固めだと思われ、改憲推進の政党から「十分な議論が尽くされた」との発言がされている。また、憲法第56条1項「両議員は各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ議事を開き議決することは出来ない」という国会への「出席」について、例外的に「オンライン出席」を認める憲法解釈をとりまとめた。これは改憲条文案の採択の先例となる運用につながる。
・改憲項目の「国会議員の任期延長」は自民・公明・維新・国民で意見一致し、「緊急事態条項」は、自民・維新・国民でほぼ意見が一致している。先ずは国会議員の任期延長について憲法改正を行うことも想定できるが、その場合の国民投票に係る費用は、総務省の試算で850億円となっている。
・改憲4党は、選挙をしないで議員という地位に居座りたいために、緊急事態を口実にしているのではないか。
・緊急事態条項とは、法を守らなくて良いということを許可することであり、1961年フランスで緊急事態条項を発令したら、48人が警察官に殺害された。憲法に書くということは、お墨付きを与えることである。
・憲法9条に自衛隊を明記すれば、「憲法上の組織である自衛隊の維持は政府の憲法上の責務であり、そのための徴兵制を実施する」との政府の主張が憲法的に問題ないとされる危険性もある。
・旧統一教会と自民党の関係、そして改憲に与える影響も危惧されている。旧統一教会と自民党の関係を解明することも必要である。
などと解説されました。
その後、岐阜、福井から、自民党や日本会議など改憲勢力の地域での動きや、憲法学習会のとりくみ報告や組織への展開が必要という報告がされました。埼玉の金子さんからは、改憲に向けて旧・統一教会の介入があることの報告がされました。
質疑応答では、各地でも護憲の運動展開を強めようと考えているが、市民への浸透・拡大が進まない。フォーラムから発信なりして欲しいという要望がありました。
勝島・平和フォーラム共同代表からは、現下の情勢に危惧している。今臨時国会から来年の通常国会に向けてとりくみを継続しながら、中央地方で情報の共有化を進めたい。もっとリアルに憲法審査会などの情勢を伝えるために、「憲法審査会リポート」をはじめとした情報発信、国会議員からのコメントを紹介するようなとりくみもすすめたいとの回答がありました。
最後に、運営委員のまとめで分科会を終了しました。
第2分科会「軍拡・基地強化」
「台湾有事」が懸念されるなか、中国に対する軍事的対抗力強化が進められおり、防衛費は際限なく拡大されようとしています。敵基地攻撃能力の保有を見据えた、防衛3文書の改訂が目論まれており、南西諸島のへの自衛隊配備強化の実態なども踏まえて議論しました。
防衛ジャーナリストの半田滋さんからは、ロシア軍のウクライナ侵攻前にアメリカによるNATO拡大の提案がロシアを刺激したように、アメリカ主導による中国包囲網が台湾有事に繋がりかねないこと、アメリカとの軍事一体化とともに日中関係が悪化してきた経緯について説明がありました。
日本においては、かつては憲法で保有できないとされていたミサイルや攻撃空母も防衛力の強化として保有されるようになっています。また、「隣国が怖いから」と敵基地攻撃能力の保持することや安全を求めた防衛力の強化が他国の疑いを強め、地域が不安定化する「安全保障のジレンマ」に陥ろうとしていると提起されました。台湾に米軍が実際に介入するとなれば、日本も安保関連法で規定される在立危機事態となり、在日米軍基地だけではなく、一体となって行動する自衛隊やその基地、さらには原発等の施設も標的になっても不思議ではないと述べられました。
会場からは「中国にとって台湾進攻という経済的に不合理な判断はあり得るのか」という質問に対して、半田さんはロシアのウクライナ進攻を例にあげ、「合理的な判断で戦争が起きるとは限らない」とし、この緊張は継続するとしました。
鹿児島や沖縄からの報告では、奄美において基地施設が拡大し、ミサイル配備がされるだけでなく、弾薬庫が市民の居住地に近くに設置されていることが報告されました。沖縄からは嘉手納基地において日夜問わず飛行訓練が行われ、爆音被害がすさまじく、沖縄の基地負担軽減は全く行われていないことだけでなく、普天間基地のオスプレイの配備が増強されていること等の報告がされました。
この他、会場や半田さんから防衛費の増額により自衛隊の人的不足を招き、徴兵制へすすまないかという懸念、南西諸島に軍備を配備しすぎることが中国への過剰な挑発になりかねないこと、今後沖縄をはじめ基地施設の近くで重要土地利用規制法が適用され、逮捕者まで出る事態になるのではないかという不安、南西諸島のミサイル配備は反撃能力の保有のみならず中国本土を狙えるものであることなど、多くの意見が出されました。
分科会のまとめとして、半田さんからは私たちのネットワークを駆使し、全国の自衛隊、米軍の動きに注視し、そこから日米の動きを読み解くことの必要性を指摘されました。米中の覇権争いに巻き込まれず、また、台湾有事等の対策のための防衛費増額の流れに対抗するためにも、外交努力によって平和な世界にしていく大きなうねりを作り出さなければならないことを確認し、分科会を終えました。
第3分科会「ジェンダー平等」
斉藤正美さん(富山大学非常勤講師)から「なぜ右派は『家族』を狙うのか〜統一協会問題から読み解く」をテーマに、問題提起がありました。
2000年代のバックラッシュについては、産経新聞や世界日報、正論などの右派メディアは大々的にに報道し、自民党と宗教右派とが連携して性教育や男女共同参画を攻撃した。旧統一教会の信徒が2000年代後半地方の男女共同参画推進員に応募し、統一教会による「家族重視」も視点や条例の「性的指向にかかわらず」という文言が同性愛、両性愛の権利擁護として入ることに危機感を持ち、新市長に働きかけ「性的指向」の文言が外された経緯が報告されました。
宗教右派と自民党の連携を旧統一教会と自民党議員の政策協定(「推薦確認書」)から紹介されました。①憲法改正、安全保障体制の強化、②家庭教育支援法及び青少年健全育成基本法の制定、③『LGBT』問題、同性婚合法化の慎重な扱い、④国内外の共産主義勢力、文化共産主義勢力の攻撃を阻止
狙いは、憲法24条と13条の改悪。自民党の改憲草案(2012年)で、個人よりも家族を重視し、家族の助け合い(=自助)を義務化、13条で「個人」を削除し、24条で新たに「家族の尊重」規定を創設。個人主義や夫婦別姓、ジェンダーフリー、同性婚、LGBTなどを否定し、そういった人たちの権利や人権を侵害している、と解説。最後に、「家族」の価値に注意を払い、警戒し、「家族の価値」を法制度化する動きのに警戒しながら憲法9条と24条をセットで考え、対策をとる必要がある、と述べられました。
続いて実行委員から90年代前半に旧統一協会が作成した性教育を攻撃したビデオの内容を紹介したのち、質疑応答が行われました。
・憲法24条「婚姻は、両性の合意のみ」の両性とは、人によって捉え方が違うもの。
・憲法改悪運動は、草の根的に行われていて決して侮れることはできない。
・核家族、女性、働き方改革、従軍慰安婦、親学、中絶などの問題において、右派は、考え方は、内部で一致するが現場ではぶつかるのでは?
・国や地方で女性議員が少ない、変革するには、沢山の女性議員が必要。
・パートナーシップ制度を巡って、自民党議員が少子化の原因と発言、しかもLGBT達の人へ差別発言を行った。自民党の憲法改悪において、特に9条と24条を改悪は、人権侵害。
・教員だが性教育への攻撃に危機感を覚えた。家族の形についても問題提起があったが、子どもにトラブルがあった時、解決を家庭に求めてしまう時がある。2000年代に、学校で男女混合名簿の取り組みがあり、当時は導入に向け大変な苦労があった。連合での活動で、男女平等参画には、女性だからではなくあなただから参加するでなければならない。
・この間の衆参議員選挙では性的少数者の当事者が声を上げた。結果には繋がらなかったが、政治を変えていくには必要。斉藤先生の意見やエールを伺いたい。
といった質問や意見が出されました。
斉藤先生からは、
・両性とは個人であり、男女だけではない、同性婚が認められるべき。
・右派の草の根運動は、女性を見下していることを批判した、リベラル派もやるべき。自民党や右派は、戦前回帰路線ではなく、新自由主義など巧妙に利用し、核家族、女性、働き方改革、従軍慰安婦、親学、中絶などを改悪しようとしている。
・憲法改悪案は、個人の人権を侵害しており、1人の人としての権利を尊重する人権教育が重要だ。
・当事者が政治家となり、活動する事が他の当事者へう勇気を与える。女性やマイノリティが政治の場にいないと変わらない。護憲大会でも59回目でジェンダー平等をメインテーマにした分科会が開催されるのが初めてということに象徴されている。組織が力を入れて環境づくりを行う事が大事と応答されました。
最後に運営委員からまとめの挨拶で締めくくり、分科会を終了しました。
第4分科会「憲法を学ぶ」
衆参両院ともに改憲勢力が3分の2を超え、改憲発議も近いのではないかという情勢の中、改めて自民党の憲法改正の内容、問題点、その背景などを明らかにし、今後の運動課題を確認しようと分科会がもたれました。
はじめに、清水雅彦さん(日本体育大学教授)から「改憲勢力は憲法の何を『目の敵』にしているか」と題し、提起を受けました。清水さんはまず、2012年の自民党の憲法改正草案の内容と問題点をあげ、「近代」という価値観を否定した前文や、天皇の元首化、自衛権の明記と国防軍規定、人権の制約など、現行憲法との違いを説明しました。
その上で「「個人よりも国家を優先し、家族重視という復古主義改憲であるとともに、競争と格差容認の新自由主義的考えも挿入していることを見逃してはならない」と指摘。「ただし、この形のまま全面改憲案を提出するのは難しいことから、2018年の4項目の改憲案となった。しかし、自民党がめざす最終目標は12年の改憲案だ」と強調しました。
次にその4項目の「緊急事態条項」「9条への自衛隊明記」「参院の合区解消」「教育の充実」について、それぞれの内容と問題点が提起されました。これらは、現行憲法の規定と矛盾するものであったり、さらに憲法を活かすようにすべきもので、「改憲の必要性はない」と明言しました。
清水さんは、こうした改憲論議の背景にある旧統一教会や右派勢力の主張、さらに維新の会や国民民主党の改憲案にも言及。最後に今後の課題として「改憲発議をさせないよう、国民投票で相手に負けを意識させ断念させる運動をつくる。そのため、各地で労組と市民と野党の共闘を作り、来年の統一地方選挙を闘い、今後の衆院選挙で政権を取る運動が必要」と呼びかけました。
提起を受け、参加者からは「9条以外の改憲論は受け入れられやすい。どう訴えればいいか」「野党や労組の共闘と共産党との関係をどう考えるべきか」「朝鮮や中国の動向が伝えられる中で軍備強化反対は言いづらい」「4項目改憲ということで我々の運動も切迫感がなくなっている」など、活動を進める上での問題点が出されました。
また、「全日建で労働権を無視する不当弾圧を受けている。支援をお願いしたい」「教諭の経験からも日本の教育費が低すぎる」との訴えも出されなど、9名から発言があった。
最後に「改憲論の真の狙い、最終的な目標をしっかり見定め、地域や職場、組合などの場できちんと伝え、声を上げ、改憲勢力の『目の敵』になろう」などのまとめを確認しました。