憲法審査会レポート、2024年
2024年06月14日
憲法審査会レポート No.42
岸田首相の自民党総裁任期中の改憲は事実上不可能に
今国会は会期延長がないまま、23日に閉会するとみられています。そうなると、日程的には憲法審査会の「定例日」は衆参それぞれ残り1回ですが、19日の党首討論後の不信任案提出も検討されていることから、開催されるかは流動的です。
今国会中に改憲条文案作成が進まなかったことで、このかん岸田首相が掲げてきた「自民党総裁任期中の改憲」それ自体が、現実的には不可能になったわけですが、今後も閉会中審査などを強行してくる可能性も十分ありますので、動向を注意深く監視していく必要があります。
【参考】
(社説)憲法審査会 丁寧な合意形成優先を
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15956355.html
“自民は5月末の衆院憲法審で、賛同する公明党、日本維新の会、国民民主党、無所属議員らの「有志の会」を加えた、「5会派のみで検討したい」と表明した。”
“前身の憲法調査会時代から続いてきた、党派を超えた合意形成の重視という原点をないがしろにするものだ。さすがに、その後、自民内でも慎重論が相次ぎ、反対会派も含めた「全会派の参加」をめざす方向に転じたようだが、「改憲ありき」で突き進めば禍根を残すだけだろう。”
自民、改憲原案の今国会提出見送りへ 首相、総裁任期中の実現を断念
https://mainichi.jp/articles/20240611/k00/00m/010/296000c
“自民の衆院側には会期末ぎりぎりまで改正原案の提出を模索する動きもあるが、厳しい情勢だ。4党1会派で条文を作成する方針を確認した上で、国会閉会後に作業を進める案などが検討されている。”
首相、任期中の改憲を断念 自民原案、今国会の提出見送り
https://www.47news.jp/11049501.html
“原案提出の見送りで国会発議の見通しは立たなくなり、目標達成は断念せざるを得ない状況となった。”
“中谷氏は13日の衆院憲法審で、論点整理を示す見通しだ。「個人的発言」との位置付けにとどめ、改憲原案や要綱案の提出は見送る。”
2024年6月12日(水) 第213回国会(常会)
第5回 参議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=8056
【会議録】
※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)
【マスコミ報道から】
国民投票運動規制で平行線 自民「自由」、立民「支出上限を」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024061200900&g=pol
“参院憲法審査会は12日、憲法改正が発議された際の「国民投票運動」をテーマに討議を行った。自民党は原則として自由とすることを主張。立憲民主党は資金力の差が結果に影響を及ぼさないよう支出上限の設定を求めた。”
【傍聴者の感想】
今日の参議院憲法審査会で印象的だった話は投票率の話でした。国民投票法について、例え実施されたとしても現状の低投票率のなか、果たして「過半数」とみなされてもいいものか、という指摘を沖縄の風、高良鉄美議員がしていました。投票率を50%だと仮定すると、その過半数はもともとの主権者の25%ということになります。
世論調査において、「憲法改正」の必要性を感じている市民は決して多くありません。そのような中で国民投票を強行して実施したところで、投票率が上がることは考えにくいと言えます。そもそも、投票率が高くなるなら良いという問題ではないことは、もちろんのことだとして、議論の観点として、納得する部分がありました。
憲法審査会の意見にもあったように、まずすべきことは政治への期待を回復させることにあるように思います。今の大きな課題である投票率が低いという事実にこそ、各議員は向き合うべきです。政治の信頼回復は喫緊の課題です。
参議院は衆議院と違い、論点の整理であるとか原案のとりまとめであるとかといった話にはなっていません。二院制が確固たるものとして確立されている限り、それぞれの議論がそれぞれに存在することは当たり前のことです。自民党議員からは衆議院から送られてきた場合の審議を速やかに行うべきという発言が相次ぎました。
国民投票に関わるCM規制等についての意見が今回の主な内容でした。「公平・公正」について各党からさまざまな意見が出ていましたが、主権者に正しい情報が偏りなく届けられることが重要であるとも述べられていました。憲法にかかわらず常日頃からの情報公開について、透明性が求められていることは言うまでもありません。
「どうせ」「またか」とあきらめることなく、政治は私たちのくらしに直結する重要な存在であることを繰り返し訴えていきたいと思います。
なお、今回傍聴していたなかで、改憲派の特定の政党の意見表明に合わせて遅れて入り、終わると出ていった20人を超す男性グループの動きが異様に感じました。特定の政党の発言のみを傍聴し、全員が一矢乱れぬ整列のまま退場する姿は、思わず何事かと目を引く瞬間でした。
【国会議員から】辻元清美さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会幹事)
国民投票法の改正と広報協議会の在り方について、会派を代表して発言をいたします。
私からは、特に令和3年改正附則4条2号の検討条項に規定されております国民投票の公平及び公正を確保するための事項について意見を述べます。
まず、第2号のイのテレビCMとネットCMの制限についてですが、国民投票法は、テレビCMについてのみ勧誘広告の投票日前2週間の禁止の制限を設け、ネットCMについては何ら制限がございません。しかも、私も立法に関わった国民投票法制定からはや17年が経過し、制定当時と比べ、いわゆるネット社会は著しく進歩、進化、拡大しております。
博報堂の研究所の調査、2023年によりますと、1日当たりの接触時間、ネットは、パソコン、タブレット、スマホ合計すると256分、スマホ単独でも152分。テレビの135分をはるかに上回っております。また、電通の調査によると、2023年の広告費も、ネットは3兆3,330億円であり、テレビの1兆7,347億円を上回っております。
このような現状を踏まえますと、国民投票法制定時のテレビCM中心の制度は社会の実情と完全にそごを来しており、ネットCMについてテレビCMと同様に何らかの法規制は必要になると考えます。というのは、テレビは2週間は禁止と決めておりますので、ネットをどうするか、これは検討事項として重要だと思われます。
立憲民主党は、政党等によるネットCMを禁止し、その他のものによるネットCMについてはネット広告事業者にCM掲載基準の策定等の努力義務を課す国民投票法改正案をまとめています。
次に、第2号のハのインターネットの適正な利用の確保についてですが、例えば、ゼレンスキー大統領が市民らに投降を呼びかける内容の偽動画とか、アメリカ国防総省の近くで爆発が起きたかのように見せかけた偽動画とか、岸田総理大臣が卑わいな言葉で語りかけているように見せかける偽動画など、世界でも我が国でもいわゆるフェイクニュースが大変問題になっております。フェイク情報によって国民投票の判断が狂わせられることは決してあってはなりません。ネットの適正利用の確保は喫緊の課題と言えます。
立憲民主党は、ネットで国民投票運動等をする際のメールアドレスの表示義務、広報協議会によるネットの適正利用のためのガイドラインの作成などが必要だと考えております。さらに、フェイクニュース対策として、広報協議会による客観的かつ中立的な情報の積極的な提供、広報協議会とファクトチェック団体との連携、国民投票についてネット検索した際には広報協議会の情報が表示されるようにすることなども積極的に検討するべきです。
次に、第2号ロの資金規制についてです。
ネット社会の進展と弊害などを踏まえて、資金力の多寡による公平性への悪影響を検討し、必要な法的措置を検討する必要があると考えます。
立憲民主党は、国民投票運動等の支出上限の設定、収支報告書の提出などが必要と考えています。立法府として、時代の変化に即して、国民投票の在り方と広報協議会の役割を再検討しなければならない時期に来ていると考えております。
最後に、国民投票法制定時、民放連はテレビCMの自主規制を行うと国会に約束をし、これ、私もこの目の前でそういう発言を聞いております。平成26年の参議院附帯決議第19項もそれを前提とした規定になっています。テレビCMについて、民放連の対応がその後どのような変遷、結論となっているのかについて事務局に説明を求め、国民投票法などの改正なくして改憲発議はあり得ないと申し上げ、私の意見を終わります。
(加賀谷ちひろ・参院憲法審事務局長)
平成30年9月に民放連が量的自主規制はしない旨を表明し、その後、先ほど御説明申し上げました配付資料の22ページ、23ページに掲載の考え方等が公表されました。
令和4年4月の衆議院憲法審査会においては、参考人の民放連専務理事より、自主規制について、量を全く考慮しないわけではなく、あらゆることを総合判断する旨の答弁がされております。
(憲法審査会での発言から)
2024年6月13日(木) 第213回国会(常会)
第10回 衆議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55299
※「はじめから再生」をクリックしてください
【会議録】
※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)
【マスコミ報道から】
自民、改憲の論点整理提示 緊急事態時に国会議員任期延長
https://www.47news.jp/11053217.html
“自民党の中谷元氏は13日の衆院憲法審査会で、緊急事態時の国会議員任期延長に関する論点整理を提示した。改憲条文案作成の土台との位置付け。立憲民主党が条文化に反対していることを踏まえ「個人的メモ」にとどめた。”
衆院憲法審査会 自民 緊急事態での議員任期延長で条文案作成を
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240613/k10014479771000.html
“中谷氏は「今後、これをもとに条文化を進めたい。審査会で憲法改正の原案を作り国会に提出して3分の2以上の賛成をもらう必要がある」と述べ、各党に協力を呼びかけました。”
“その上で、今月23日の会期末で今の国会が閉会したあとも閉会中審査を行うべきだという考えを示しました。”
衆院憲法審、自民が国会機能維持の論点整理を発表
https://www.sankei.com/article/20240613-WTQ632ZY7JIARMOIH6XLYBVX4A/
“自民党は13日の衆院憲法審査会で、選挙困難時に国会議員の任期延長を可能にする憲法改正案の「たたき台」となる論点整理を提示した。必要性を共有する公明党や日本維新の会、国民民主党など5党派で調整した上で取りまとめられた。今国会の会期末が23日に迫っており、憲法改正の機運を盛り上げる狙いがある。”
【傍聴者の感想】
冒頭、この間の討論を踏まえた「中谷の個人的メモ」なるコピーが配布されました。そこには、「選挙困難事態」として「自然災害」「感染症まん延」「武力攻撃」「テロ・内乱」に加えて「その他これらに匹敵する事態」が挙げられています。
これらの想定はいずれも「ためにする」ものです。まず、「自然災害」については、そもそも合理化で自治体や企業の体力がそがれて大規模災害に対応できなくなっている状況が問題です。被災した鉄道の線路が何年も放置されたり、道路・水道・電力といったインフラの復旧が進まなかったり、あるいは劣悪な環境の避難所での長期間の生活に象徴される日本の災害行政の後進性や無策を放置したままでは、いくら大規模災害時に「国会機能が維持」されたとしても、復旧・復興に何らかの役割を果たせるはずがありません。そもそも福島では原発事故の発生から13年が経っても多くの人々が避難生活の継続を強いられています。原発が動き続けている限りは大規模災害時の被害は大きくなり、そして長期化するばかりです。国会議員の任期延長の前に脱原発が必要です。
「感染症まん延」についても、2020年以降の3年間の政府による「コロナ対策」が適切、適当だったのかの検証がないままになっています。国会議員の任期を云々する前に、子どもたちの「休校」や、「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」が本当に感染防止に適当だったのか、社会や生活への影響はどうだったのかなど、振り返るべき点があるはずです。
「武力攻撃」は、今回の討論で共産党の赤嶺議員が指摘していたように平和的な外交で回避すべきものです。「武力攻撃」を受けるような事態を招いた国会議員の任期の延長など市民にとっては悪夢そのものです。さっさと退任・引退してもらうしかありません。日本が「テロ」の標的になるような事態についての国会議員の責任についても同様でしょう。
「内乱」を「選挙困難事態」の口実にするのは、そもそも国会議員が自国民を信頼していないことの表れだと感じます。もし「内乱」が実際に起きたとしても、それは逆に市民による政治への極度の不信の延長線上にあるはずですから、こちらもとっとと国会議員など退任すべきであり、任期の延長など不要です。さっさと選挙を実施すべきです。
【国会議員から】逢坂誠二さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)
先週、憲法五十三条に関し発言がありました。憲法五十三条には、いつまでに臨時国会を召集しなければならないのかの期限の定めがありません。我々は、この期限は法律で定めることができるとの認識の下、臨時国会の召集期限を定める国会法の改正案を、日本維新の会など五党一会派共同で衆議院に提出をしました。
一方、この期限の定めについては、先週、玉木委員が指摘されましたとおり、憲法で定めるべきとの考えもあります。この指摘も踏まえ、法律でよいのか、憲法でよいのか、この点について、今後更に議論を深めたいと考えております。
次に、国民投票に関し、憲法審査会事務局にお尋ねします。
国民投票法に関連し、今後、法律、規程の制定、改正など、どのような法整備が必要となるのか、お知らせいただきたいと思います。
(橘幸信・衆院法制局長)
国民投票実施のための法整備としては、まず挙げられるのは、令和三年の国民投票法改正案、いわゆる七項目案の改正法附則四条に規定されております二つの事項、すなわち、一つ、投票環境整備に関する事項と、二つ、国民投票の公平公正の確保に関する事項、これらについて検討し、その結果、法整備が必要と判断された場合には、そのための措置を講ずることが想定されております。
もう一つ、国民投票実施のために最低限必要な法整備としては、憲法改正の発議がなされた場合に国会に設置される国民投票広報協議会に関する諸規程の整備が挙げられます。
国民投票法において具体的に明示されている規程としては、広報協議会とその事務局の組織に関する広報協議会規程と事務局規程、そして広報協議会が行う放送CMや新聞広告等に関する広報実施規程、この三つのものがあります。
なお、これらの規程の整備に併せて、その事務局職員を国会職員に追加するための国会職員法や国会職員育児休業法などの法律改正も必要となるかと存じます。
これらの法改正や規程の整備、これは、衆議院の憲法審査会のみで議論し決定するものではなく、別の場での議論や決定が必要なものがあるというふうに承知をしておりますが、これらの法改正や規程の整備に関し必要な手続とはどのようなものか、事務局としての見解をお示しください。
(橘法制局長)
まず、国民投票法や国会職員法等といった法律の改正につきましては、通常の議員立法の立案、審議手続と変わるところはございません。その法案の所管については、国会法第百二条の六の規定によりまして、国民投票法改正案は憲法審査会、本審査会の所管となりますが、国会職員法等の改正案につきましては議院運営委員会との御協議が必要となるかと存じます。
次に、広報協議会に関する諸規程につきましては、両院の議長が協議して定める、いわゆる両院議長協議決定と呼ばれる法形式で定めることとされております。これは、原則として、両院の議長がそれぞれの議院運営委員会又はその理事会に諮って定めることとされているものでございます。したがいまして、これらの規程の制定に当たっては、衆参の憲法審査会の間での御協議、そしてそれぞれの議院運営委員会との調整、これが必要となってくるものと思料いたします。
なお、この両院議長協議決定は、通常の法律案の制定手続とは異なり、衆議院と参議院が先議、後議の関係に立つものではございません。それぞれの議院で同一の案文を決定し、それを両院議長が決裁するという手続になってくる点にも御留意が必要かと存じます。
それでは次に、常々私が指摘しております災害に強い選挙の確立については総務大臣や政治改革特別委員長に、また、あらゆる場面における国会機能の維持強化については議院運営委員長に、これらの検討について憲法審査会としてお願いすべきではないかと考えております。今後、これらの点に関しても議論を深めてまいりたいと思います。
(憲法審査会での発言から)