声明・申し入れ、2008年
2008年03月31日
学習指導要領告示および沖縄戦「集団自決」に関わる裁判の判決に際しての声明
フォーラム平和・人権・環境事務局長 福山真劫
3月28日、文部科学省は幼稚園教育要領および小学校・中学校学習指導要領を告示しました。今回の学習指導要領は、改定案から確定に至る過程で①道徳教育への愛国心の記述追加、②君が代は歌えるよう指導すると加筆、③神話や伝承、信仰などの伝統文化を強調、④国際貢献の文言追加などが行われました。改定案に対するこれまでの取り扱いを大きく逸脱する変更です。この変更について文科省は、「改正教育基本法の趣旨を明確にするもの」であり「修正は中央教育審議会(以下中教審)の答申の枠内で行っており批判を受けるとは考えていない」としています。しかし、中教審が改正教育基本法を基本に3年をかけて議論した答申内容に、土壇場で変更を加え、かつ中教審の審議を経ない方法は、きわめて問題です。変更される内容は、教育現場で特に議論のある部分が多く、愛国心、道徳、君が代、神話・伝承など復古的と思われる部分に集中しています。
パブリックコメントの締め切りから12日しかたたず、またその内容も明らかにしない文科省の姿勢は国民を愚弄しているといっても過言ではないものです。武道の必修化や道徳の強化など慎重意見の多い部分も無視されています。与党内からの意見に対しての修正という、きわめて政治的な構図があるのではないかと疑わざるをえません。このような文科省の姿勢は、国民主権の反するともに、教育の政治的中立性にも大きく反すると考えられます。
学習指導要領の告示と時を同じくして、沖縄戦における集団自決に関しての裁判の判決が大阪地裁で下されました。ノーベル賞作家大江健三郎氏の著書「沖縄ノート」の軍指揮官が「集団自決」を命じたとする記述に関して、沖縄・慶良間諸島の当時の守備隊長らが出版差し止めなどを求めた裁判です。
判決は、この間の沖縄研究の成果や住民証言を踏まえ、歴史事実を科学的に判断し、①貴重な手榴弾が配布されている、②軍の駐屯地以外では「集団自決」は発生していない、③軍指揮官が自決命令を発したことを直ちに真実と断定できないが、その事実について根拠があると評価できるなどとして、「集団自決」には軍が深く関与したと認定しています。この裁判には、一部の学者らが原告支援に回り、これまでの「集団自決」や「日本軍」に関する歴史認識を変えようとしてきました。裁判の中では、住民は自らの意志で国に殉じたとか、命令は助役によるもの、または、年金受給のために軍の命令がねつ造されたなどとの主張が繰り返されましたが、原告側の主張はことごとく退けられました。歴史の事実を曲げることはできません。
文科省は、この裁判を根拠として、2008年度使用の高校歴史教科書の検定に際して「集団自決」に対する軍の命令を否定した「検定意見」を付しました。これに対して沖縄の県民は超党派で集会を行い「検定意見の撤回」を求めました。平和フォーラムも52万を超える署名を集め同様のとりくみを展開しました。文科省は、裁判の結果を真摯に踏まえ「検定意見」を撤回し、沖縄県民に対して謝罪すべきです。
文科省は、教育行政としてまず国民の声を聞かなくてはなりません。子どもたちの顔と向き合わなくてはなりません。そして、教育の現場で日々実践している教員の声を聞かなくてはなりません。今必要なのは、30人学級を基本に豊かな教育を保証する教育条件整備にとりくむことです。教育課題の解決は、愛国心でも道徳でもない、教員と子どもたちが向き合う時間を、ゆとりをつくること、そして、競争に疲れ悲鳴を上げている子どもたちがゆっくりと成長できる場を作ることだと考えます。
平和フォーラムは、文科省が教育行政の基本に立ち返って、山積する教育課題へ真摯にとりくまれることを強く求めます。