憲法審査会レポート、2024年
2024年04月19日
憲法審査会レポート No.35
4月18日、衆議院憲法審査会が開催され、今国会2回目の自由討議が行われました。
参議院憲法審査会については17日、幹事懇談会が開催されましたが開催合意に至らず、再度24日に幹事懇開催の予定です。
【参考】
参院憲法審、「脱牛歩」見通せず 「参院の緊急集会」議論に立民が異論 次回も幹事懇
https://www.sankei.com/article/20240417-MA6J4J2DBNLZJPQCQENNUAKSSM/
“この日は結論が出ず、24日の参院憲法審の定例日は再び幹事懇を開いて議論を続ける。”
“大型連休を踏まえ、佐藤氏は本格的な憲法審を5月8日に開きたい考えだが、合意には至っていない。”
2024年4月18日(木) 第213回国会(常会)
第3回 衆議院憲法審査会
【アーカイブ動画】
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55137
※「はじめから再生」をクリックしてください
【会議録】
※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)
【マスコミ報道から】
自民、早急に改憲案作成 立民拒否「論点は多岐」
https://nordot.app/1153528746306405302
“自民党は緊急事態時の国会議員の任期延長を中心に、早急に改憲条文案の作成作業に入るよう重ねて提案した。立憲民主党は任期延長の問題点を指摘した上で「議論すべき論点は多岐にわたる。現時点では条文の起草には至らない」と拒否。数年単位で憲法全体を見渡した議論が必要だと主張した。”
衆院憲法審査会 憲法改正の条文案の起草めぐり議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240418/k10014425981000.html
“衆議院憲法審査会が開かれ、自民党が大規模災害など緊急事態における国会議員の任期延長などについて速やかに憲法改正の条文案の起草作業に入るべきだと改めて提案したのに対し、立憲民主党は論点は多岐にわたるとして数年単位の議論が必要だと主張しました。”
自民「早急な条文起草を」 緊急事態条項、立民は反論―衆院憲法審査会
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024041800441&g=pol
“自民党の加藤勝信氏は、大規模災害時の国会議員任期延長など「緊急事態条項」を設ける憲法改正について「必要性は共通理解が形成されてきている」と指摘。その上で「早急に条文起草作業に入るべきだ」と述べ、来週にも幹事懇談会を開催するよう求めた。”
改正条文案の「起草委」巡り討議 議論は平行線 衆院憲法審
https://mainichi.jp/articles/20240418/k00/00m/010/235000c
“維新の青柳仁士氏も「起草委員会は、やろうと思えば委員長職権でも開ける。今日にでも条文化作業に入るべきだ」と主張。公明の国重徹氏は「条文案のたたき台の作成を進めるようお願いする」と述べた。自民の中谷元・与党筆頭幹事は毎週火曜に定例の幹事懇を開催したい意向を示した。”
改憲を急かす党派に立民が待った「数年単位かけるべき」 維新「今日にでも条文化作業を」 衆院憲法審査会
https://www.tokyo-np.co.jp/article/322090
“…公明党の国重徹氏も「論点は既に出尽くした感がある」と同調した。”
“…立民の奥野総一郎氏は「任期延長された議員は選挙を経ておらず、民主的正当性に疑問が残る」と問題点を指摘。腰を据えた憲法論議の重要性を強調した。共産党の赤嶺政賢氏は改憲に反対した。”
【傍聴者の感想】
今国会の2回目の実質審議は、課題を定めない自由討議ということで、まずは各会派から1人ずつの発言で始まりました。自民党の加藤委員は、緊急事態条項の議論は相当整理されているとしたうえで、議員任期延長について、起草方法と条文作成を早急に進めるべきと発言しました。
維新の会の青柳委員は、今日にでも条文作成作業に入るべきと述べ、採決の目安を示せ、自民党は保守層を引き付けるために憲法改正を言っているだけではないかなど、憲法審の進め方について自民党を批判しました。国民民主党に対しては、9条改憲にこだわることが議論のまとめを送らせていると意見、また傍聴者から漏れる失笑などに対して、傍聴者だけが民意ではない旨を発言しました。
公明党の国重委員は、任期延長の条文案のたたき台を早期に作成して議論していくべきということを短時間述べたうえで、この間出された同性婚訴訟の判決を踏まえた立法府の役割について、人権を擁護する立場での憲法論を議論すべきということについて持ち時間のほとんどを費やしました。
国民民主党の玉木委員は、仮に憲法に自衛隊を明記したとしても、9条がそのままでは違憲の議論から逃れられない、現状の国際法と国内法を使い分けて自衛隊の性格、行動を説明するやり方は国民にもわからないし自衛隊を不安定な状態に置くものであるから、9条の改憲が必要という自説を展開しました。
有志の会の北神委員は、具体案作りに進むべきとしつつ、例えば参院集会の権限のように現行憲法において解釈に曖昧さが残るものや、オンライン国会の可否などについて明確にし、さらには自衛権の範囲の変化なども含めて改正すべきものは改正すべしという意見を述べました。
これら改憲会派の意見に対して、立憲民主党の奥野委員は、そもそも改憲の理由が不明で、立法事実も国民の要請もなく、改憲のための改憲議論であることを指摘しつつ、一方でインターネット投票や首相の専権とされている解散権の問題、憲法裁判所の設置や自己情報コントロール権、環境権、改憲手続法の付則4条の問題など議論すべきことは他に多くある旨を発言しました。
また共産党の赤嶺委員は、先の日米首脳会談において合意された、米軍・自衛隊の指揮・統制の統合は、日本の戦後の防衛政策を根本から転換するものであり、憲法違反で認められない旨を発言しました。
会派の発言が一巡したのちに、挙手による発言に移りましたが、維新の会の三木委員が、与野党の筆頭幹事で委員会運営を進めることについて、立憲の逢坂幹事は野党の代表とは認められない旨の発言をし、逢坂委員が「失礼だ!」と発言する場面もありました。維新の会、国民民主党は、審議の進め方について自民党あるいは立憲民主党を批判し、自民党、公明党は慎重に一般論や関連課題を黙々と語るという委員会が今回も繰り返されたと言えます。
終盤に、立憲民主党の本庄委員は、①任期延長はそもそも立法事実についての認識が共有されていない、そもそも長期に全国で選挙ができない状態とはどのような状態を想定しているのか、②自衛隊が明記されないとどういう不都合があるのか、③教育の充実は直ちに法律でやればいいのではないか、と中谷幹事に質問をしました。これらの課題に明快な回答はもちろんなく、そういうことも含めて今後議論していきたいという回答は、まさに議論が全く深まることなく改憲のための改憲議論を重ねてきたことの証左ともいえます。
ただ具体的には、起草委員会の設置が提起されており、今後幹事懇談会で検討をしていくということなので、その帰趨について注視をしていきたいと思います。
【国会議員から】本庄知史さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)
もとより、憲法は第96条で改正について規定しています。憲法自身がその改正を所与の前提としている以上、国会で議論を尽くし、必要があれば、改正を発議することは当然のことです。この点においては、改憲派も護憲派も、与党も野党も関係ありません。問題はその中身です。その上で、本題に入ります。
自民党・中谷筆頭幹事「議論の到達点」について
先週、4月11日の本審査会で、自民党の中谷筆頭幹事より、「これまでの議論の到達点」として3点、「緊急事態条項、特に国会機能維持」「憲法における自衛隊の明記」、そして「教育の充実」について言及がありました。
私は前回総選挙より2年半、本審査会での議論に参加してきましたが、中谷筆頭幹事が挙げた3点について、意見を申し述べたいと思います。
第一に国会機能維持、そのための議員任期の延長について、確かに議論は盛んですが、肝心の立法事実について、認識が共有されているとは思えません。そこで確認しますが、中谷筆頭幹事は、衆議院総選挙や参議院選挙の実施が「全国の広範な地域で困難」であり、かつ、それが「相当程度長期間に及ぶ場合」と述べておられますが、それは一体どういう状況でしょうか。
例えば、2011年に発生した東日本大震災では、直後の首長・地方議員選挙が数か月延期されたものの、それは東北地方の被災3県内に限られた措置でした。
1995年の阪神淡路大震災でも、直後の首長・地方議員選挙が延期されましたが、延期は40日余りで、かつ兵庫県、神戸市など4つの被災自治体に過ぎません。
さらに1923年、首都直下型の関東大震災、このときは明治憲法下の緊急勅令により、府県議会議員の任期が延長されましたが、これも東京府、神奈川県、埼玉県など一部被災地に留まっています。
また、いずれの大震災でも国会機能は維持されており、震災後の国会議員の選挙も期日通り実施されています。こういった過去の事例も踏まえた上で、日本全国で長期間選挙が実施できない状況、国会機能が維持できない状況とは一体いかなる場合なのか、中谷筆頭幹事から具体的にご説明いただきたいと思います。
第二に、憲法における自衛隊の明記ですが、これも立法事実が示されていません。私が昨年11月に本審査会で申し述べたように、現在自衛隊が憲法に明記されていないことによる法的・政策的支障は具体的に見当たらず、また、違憲論争に終止符を打つためであれば、それは、仮に自衛隊を明記しても、行使する自衛権の内容などをめぐって、合憲の自衛隊か違憲の自衛隊かといった議論は今後も続き、改正の意味を成しません。
第三に、教育の充実に至っては、無償化も含め、憲法問題ですらありません。教育を受ける権利を定めた憲法第26条が、義務教育以外の教育の充実や無償化を禁じたものでないことは文言上明らかです。むしろ、意欲と能力がありながら、経済的な理由で義務教育以上の教育を受けられない子どもたちは、第26条が規定する「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」を侵害されていると解すことさえできます。いたずらに憲法問題として議論する時間と労力があれば、速やかに法律と予算で対応すべきです。
以上のとおり、中谷筆頭幹事が「到達点」とされている3点は、憲法改正や条文化作業はおろか、改正を必要とする立法事実すらはっきりしないものです。憲法改正を主張される方々のご高説を伺っていると、何とかもっともらしい改正の理由を見つけようと、さながら「改憲の青い鳥」を探すがごとくですが、そのために本審査会を毎週開催する意味がどれほどあるのか、甚だ疑問です。
合憲性・違憲性を問われている立法こそ積極的に議論を
それでもなお、「開催することに意義がある」とすれば、それは、現行憲法の遵守状況、とりわけ、合憲性・違憲性が問われている立法について、本審査会で積極的に議論することであると考えます。
例えば、先ほど國重委員も取り上げた同性婚の他、昨年10月に最高裁が違憲判決を下した、手術要件を伴う戸籍上の性別変更、あるいは「国会で議論し、判断すべき事柄」として、最高裁から国会にボールが投げられたまま、長年放置されている選択的夫婦別姓などが挙げられます。
こういった現実的な憲法課題について積極的に議論し、国会における立法をリードしていくことも、本審査会の重要な役割であるということを申し上げ、私の発言といたします。
(憲法審査会での発言から)
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