憲法審査会レポート、2023年

2023年05月26日

憲法審査会レポート No.19

今週は参議院憲法審査会不開催のため、衆議院憲法審査会のみのレポートです。

2023年5月25日(木) 第211回国会(常会)
第12回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54633
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会・発言の要旨(2023年5月18日)※ 自民は国民投票手続き規定の整備、立民はCM規制を主張
https://www.tokyo-np.co.jp/article/252398
※記事タイトルには「(2023年5月18日)」と記載されていますが、25日についての記事です。

自民、国民投票規定整備を 立民、ネットCM規制必要
https://nordot.app/1034300025951715815
“与野党は憲法改正の国民投票に関する課題や手続きを巡り討議。自民党は、改憲発議後に国民への広報事務を担当する「国民投票広報協議会」の規定を速やかに整備すべきだと主張した。立憲民主党は、改憲案の賛否を訴えるインターネットCMの規制を国民投票法に盛り込む必要があると改めて提起した。”

自民、「国民投票協」の準備主張 立民はネット規制訴え―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023052501002&g=pol
“国民投票広報協議会の設置は国民投票法などに規定されている。衆参両院10人ずつの議員で構成され、改憲案に関する放送や新聞での広報に当たるが、委員の選任方法や開催日時決定の手続きなど詳細は定まっていない。”

「国民投票広報協議会」自民が規定整備を提案 衆院憲法審
https://www.sankei.com/article/20230525-W2CTUYDD75LS3M6BSHSN5TZSZ4/
“立民の階猛氏は「国民投票が適正かつ公平に行われるためにネットCM規制を国民投票法に盛り込むことは最優先で行うべき課題だ」と強調した。しかし、立民の提起に関しては「表現の自由を侵害し、憲法違反の恐れがある」(日本維新の会)、「言論空間がゆがめられる危険性がある」(公明)などと懸念の声が相次いだ。”

【傍聴者の感想】

今日の衆議院憲法審査会は数分遅れて開催され、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題でとくに国民投票を中心として討議が行われました。

そのなかで、最後に発言された立憲民主党の本庄知史議員の発言内容に驚かされました。「国民投票法における安全保障」「財政民主主義のあり方」「反撃能力行使の憲法上の課題」について述べられていました。

とくに「財政民主主義のあり方」についてわかりやすくお話しされていて、税金の使い道は国民を代表する国会で決めるという財政民主主義は今や瀕死の状態であると危惧し、集中的に討議すべきであるとのことでした。

傍聴したなかでは与党の発言などにガッカリする場面も多かったですが、最後の最後で傍聴してよかったと思いました。

国会終盤を迎え、憲法審査会でも重要な局面にあると思います。できるだけ多くの皆さんに傍聴に参加していただき、内容を共有することが重要だと感じています。

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

国会議員の任期延長の改憲論と参議院の緊急集会について

ここ数週間、衆議院と参議院の憲法審査会での中心的な論点の一つが「国会議員の任期延長の改憲論」、そして「参議院の緊急集会」です。議論を重ねれば重ねるほど、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会の「改憲5会派」の「ボロ」が出てきます。

改憲5会派は、選挙の実施が困難な場合があると主張します。公明党の北側一雄議員は東日本大震災の際、選挙が8か月できなかった事例に繰り返し言及しています。だとしたら、2023年5月10日の参議院憲法審査会で辻元清美議員が批判したように、なぜ自民党と公明党は東日本大震災の復興さなかに内閣不信任案を出したのでしょうか? 矛盾しすぎです。

70日以上、国会が開けないのは問題だと自民党や公明党、日本維新の会や国民民主党は主張します。そうであれば、5月10日参議院憲法審査会で山本太郎議員が批判するように、なぜコロナ感染拡大で国民が大変な状況にある中、自民党と公明党は70日以上も国会を開かなかったのでしょうか?

「国会の空白期間を心配するなら、百日を超えて国会を放棄し、国民を放置してきた、党利党略、保身のために国会の空白期間を常習的につくりだしてきたことへの反省を述べることから始めなければお話になりません」と山本議員が批判するように、70日以上、国会が開催できないのは問題と主張する資格が自民党や公明党にはありません。日本維新の会や国民民主党も改憲よりも先に、なぜ2017年、2020年、2021年と70日以上も自民党と公明党が国会を開催しなかったのか、そのことを国会法102条の6に基づいて調査することを主張すべきです。

参議院の緊急集会は「二院制の例外」だから問題というのであれば、杉尾秀哉議員や打越さく良議員が指摘するように、「議員任期延長」は「国民主権」の例外、「緊急政令」や「緊急財政処分」を可能にする「緊急事態条項」は「権力分立」や「立憲主義」という、近代法の基本原理の例外であることを問題視する必要があります。

さらに打越さく良議員が指摘するように、国会議員の任期延長も「戦争できる国づくり」の一環になる危険性もあります。

【国会議員から】本庄知史さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

1 国民投票における安全保障

まず、本日の主題である憲法改正国民投票に関し、安全保障との関係について申し述べます。

一昨日の本会議で、防衛財源確保法案が可決されました。本法案の正式名称は「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」です。しかし、それは名ばかりであり、実体は「防衛力の抜本的な強化」にも「必要な財源の確保」にもならない重大な欠陥法案です。にもかかわらず、政府・与党は「防衛費倍増」「GDP比2%」といった数字ありきで、他の政策との優先順位やバランス、財政状況も考慮せず、5年で43兆円もの常軌を逸した予算を注ぎ込もうとしています。

総合的な見地から安全保障上なすべきことは、他にいくらでもあります。その最たるものが、憲法改正国民投票に外国政府や外国資本が介入し、国家・国民の意思決定が支配されることを未然に防ぐための措置です。とりわけ、インターネット、SNS等オンライン広告の規制は極めて重要です。しかし、テレビ・ラジオ・新聞広告と比べても、オンライン広告の規制はほとんど議論がなされていません。

3月の当審査会でも述べましたが、外国勢力によるフェイクニュース、偽情報の流布、巨額の資金を用いた世論操作等も想定されるなか、これらを規制するための国民投票法の改正こそ、今、国会で行うべき安全保障論議です。

2 防衛財源確保法案と財政民主主義

次に、今回の防衛財源確保法案に関連して、財政民主主義について申し述べます。

4月の当審査会でも指摘いたしましたが、憲法が規定する財政民主主義は今、空文化しています。その最たるものが巨額の予備費です。予備費は予算審議の中で具体的な使途が議論されず、事後に形式的な議決がなされるのみで、事実上、政府の自由裁量となっています。
例えば昨年度、2022年度は当初予算と補正予算で合計約12兆円もの予備費が計上され、そのうち4兆円近くが不用額となる見込みです。もはや憲法第87条に規定する「予見し難い予算の不足に充てるため」と言える状況ではありませんが、本年度予算でもまた、5.5兆円もの予備費が計上されています。しかも、その財源は実質的には赤字国債です。

今回の防衛財源確保法案は、この巨額の予備費の不用額が決算剰余金として防衛財源になるという、まるで国家的マネーロンダリングのような仕組みを採用しています。巨額の予備費を計上し、事実上それを別の政策に流用するこの法案は、憲法第83条、第85条に規定する財政民主主義の趣旨に反するものです。また、今後5年間に渡って財源と使途を縛るという点では、憲法第86条、予算単年度主義を有名無実化しかねません。

税金の使い道は国民を代表する国会で決めるという財政民主主義は、今や瀕死の状態です。この認識を当審査会で共有し、財政民主主義のあり方について、集中的に討議すべきです。

3 反撃能力に係る憲法上の論点

最後に、この防衛財源確保法案と表裏一体であるミサイル反撃能力、敵基地攻撃能力について、申し述べます。
本件については、私は3月と4月に二度、取り上げましたが、憲法上の重要な論点を多く含んでいるにもかかわらず、その後も全く議論が深まっていません。

例えば、憲法上保持が許される、「戦力」に当たらない「必要最小限度の実力」としての反撃能力とは、質量ともにどういうものなのか。日米同盟に基づき盾と矛の役割分担があるなかで、「他に適当な手段がない」として憲法上許される反撃能力の行使とはどういう場合なのか。政府は存立危機事態、すなわち「限定的な集団的自衛権」としての反撃能力の行使も可能としていますが、我が国自身が武力攻撃を受けていないなかでの反撃能力の行使が、果たして「限定的な」集団的自衛権の行使と言えるのか。他国の攻撃の「着手」段階での反撃能力行使は先制攻撃に当たらず、国際法に違反しないとも政府は言っていますが、技術的・能力的な可能性はもちろん、そもそも他国の意図や行動を我が国が立証できるのか。

そして、より基本的な問題として、従来想定していた、我が国の領土・領海・領空に対する侵害を物理的に「排除」することを専らとする武力行使と、単なる物理的な「排除」にとどまらず、相手国の領土・領海・領空に対して武力行使することを前提としているミサイル反撃能力は、同じ「必要最小限度の実力」や「専守防衛」といっても、その合憲性の基準や論理構築は自ずと異なるのではないか。

こういった反撃能力の憲法上の論点について、政府は正面から答弁していませんが、私は、相当深い議論が必要であり、それがなければ、国の行く末を誤りかねないと危惧しています。

4 むすび

以上、3点申し述べました。憲法改正国民投票への外国勢力の介入防止、財政民主主義のあり方、そして、反撃能力の憲法上の課題につき、それぞれ本審査会で集中的に討議するよう、会長にお取り計らいをお願いして、私の発言といたします。

(憲法審査会での発言から)

 

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