声明・申し入れ、2009年
2009年12月22日
ICNND報告「核の脅威を断つために」に対する原水禁事務局長見解
原水爆禁止日本国民会議事務局長 藤本泰成
日豪両政府のイニシャティブによる「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の報告書が15日発表されました。最も非人道的な兵器、核兵器の無い世界を実現するための道筋を示すとともに、今すぐにもとるべき政策が盛り込まれ、原文は300頁にもおよぶものです。「核拡散の脅威と危険から現状維持は選択肢とならない。核兵器による交戦がないという奇跡に近い状況が永遠に続くはずがない。」との現状認識については、原水爆禁止日本国民会議(以下原水禁)も共有するものであり、その問題認識は重要です。「既存の核保有国に加え、1990年代にはインドとパキスタンが新たに核武装し、認めないが核武装国と認定されるイスラエル、さらに21世紀に入って2度の核実験を行った北朝鮮、おそらく核兵器製造能力を有するイランなど、核の増大が続き、平和利用の名の下に行われる核燃料再処理、ウラン濃縮の拡大なども加えて新たな核拡散の時代に突入した。核によるテロも現実の脅威となりつつある。」との指摘も、私たちは厳重に受け止めなくてはなりません。
原水禁は、このICNND最終報告書の現状認識を、世界各国がきちんと共有化すべきと考えます。
ICNND最終報告書は、2012年までの短期行動計画として、米・露の核兵器削減を基本にして、すべての核武装国が「核兵器の唯一の目的は核に対する抑止のみ」であると宣言するさらに、NPTを遵守する核を持たない国に対して、核兵器を使用しないという「消極的安全保証」を、法的効力を持って与えることをあげています。原水禁は、これを大いに歓迎します。
しかしながら、核兵器の「先制不使用宣言」と核兵器を2000発にする「最小化地点」を2025年までとする行動計画は、2020年までに核廃絶を求めて行動する平和市長会議の主張や、これまで核廃絶を求めて取り組みを進めてきた原水禁や市民社会の期待からは大きく離れています。しかし、報告書の副題ともなっている、「実践的な計画」として、現実性を重視した計画というならば、これより遅れる事は許されません。この計画を前倒しし、核廃絶への動きをさらに加速して行かねばなりません。川口、エバンズ両議長とも、現実政治の動きを加速する必要を明言し、2010年2月までにまとめられるとされる米国の核態勢見直し(NPR)に、「核兵器の唯一の目的は核に対する抑止のみ」との考え方が盛り込まれるようフォローアップすることが重要であるとしています。
米国の核廃絶の見直しに関しては、米国との安全保障条約の下にある日本の姿勢が重要だといえます。米国の関係者は、米国の核態勢を維持していこうとする勢力から、「日本が、戦術核トマホークの廃棄や先制不使用宣言に反対している。核保有国に転ずる可能性もある。」などと指摘され、米国の核廃絶の流れの抵抗勢力とされています。核廃絶を訴え、非核三原則を国是とする被爆国日本が、米国の核廃絶への動きの牽制役に回るなどと言うことは、本末転倒といえます。日本政府の核廃絶への強いメッセージが、世界を動かしていく重要な要素であると言えます。日米の両新政権が、強力なリーダーシップを取ることを求めてやみません。
本報告書は、2010年NPT再検討会議の優先事項として、中東地域における「非大量破壊兵器地帯構想」の前進に触れていますが、日本の新政権が構想する、東北アジアにおける「非核地帯構想」には触れられていません。北朝鮮の核実験や米・中・露の核保有国が政策的に接近する東北アジアにおいての「非核地帯構想」は、世界の核廃絶に向けて重要であると考えます。
また、兵器としての核廃絶を求めるものの、民生用原子力に関しては管理強化の姿勢はあるものの、大量の核分裂性物質(プルトニウムなど)を生成する核燃料サイクルシステムに関して肯定する姿勢は、「核と人間は共存できない」と主張してきた原水禁としては見逃すことは出来ません。核廃絶の問題は、エネルギー政策そのものと密接に関連するものと捉えられます。
本報告書は、「核の脅威を絶つ」ことがテーマではありますが、核兵器の開発と核抑止との考えが「威嚇と対立」の国際関係の中で成立してきたことを考えるならば、世界が「対話と協調、相互互恵」の関係に移行していくことが重要であり、そのための努力がどのように展開されるべきかに関して、積極的に言及するべきではなかったかと考えます。
2020年までに核廃絶を目指す私たちにとって、本報告書のプロセスを大幅に書き換える必用があります。日本政府は、これら重要な提言を見送ること無く、さらに現実的な政策で国際的にリードするよう政治的イニシャティブを発揮しなければなりません。