平和軍縮時評、東北アジア平和キャンペーン

2016年02月28日

平和軍縮時評2016年2月号 北朝鮮が相次いで核実験と衛星打ちあげ ファクト整理-核兵器開発の現段階と北朝鮮の意図  田巻一彦

16年1月6日午前、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は「水爆実験」と称する核実験を行った。そして核実験から約1か月がたった2月9日には、地球観測衛星「光明星(クァンミョンソン)4号」を打ち上げ、地球周回軌道に投入するのに成功したと発表した。軌道上を何らかの物体が周回していることは、米国当局によっても確認されているが、打上げが成功だったか失敗だったかを判断する材料はない。
過去の国連安保理決議は、核実験はもちろん、「弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射」をも北朝鮮に禁じている。これは核兵器開発との関係を考慮して導入された特別な禁止事項だ。北朝鮮は国際海事機関(IMO)に衛星打ち上げの事前通告を行ったが、安保理決議違反の非難は免れえない。
北朝鮮が核兵器開発を継続し、試行錯誤を重ねていること、その一局面として1月6日と2月9日の二つの実験があったことは間違いない。2月の衛星打上げは、北朝鮮の主張どおりの宇宙開発と核兵器開発の両方の側面を持つものであろうが、1月の核実験と考え合わせれば、北朝鮮の視線の先に「核ミサイル能力」があることは誰も否定できない。国連安保理は、新たな「非難・制裁決議」を採択しようとしている。新決議は、より厳しい制裁を北朝鮮に課すものとなろう。
ここでは、1月の核実験について、同国の核兵器開発の現段階と、そこに込められた北朝鮮の政治的意図を考えるために、事実関係と専門家の指摘を整理しておこう。

地震観測結果

16年1月7日、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会(ウィーン)※1は、「1月6日の協定世界時1時36分(日本標準時10時36分)、CTBTO検証システムが、北朝鮮(北朝鮮)の核実験によることが確実と思われる地震を検出した」との声明を発した。
地震を最初に観測にしたのは、CTBTOの国際監視制度(IMS)に参加する、27の地震監視観測所であった。最も震源に近い観測所はウォンジュ(原州、韓国)及びウスリスク(ロシア)であり、最も遠方の観測所はラパス(ボリビア)であった。地震規模は当初マグニチュード4.9と推定されたが、その後4.85に修正された。震源は、北朝鮮が過去に核実験を行った北東部の豊渓里(プンゲリ)のごく近くと推定された。地震波形は13年2月12日の核実験(この時CTBTOは地震強度をマグニチュード5.0と確定)と酷似している。1月8日のCTBTO「改訂事象報告(REB)」は次のように結論づけた。

「事象は人工的爆発以外にありえない。しかしこれが核爆発であるか否かは、空中放射能の分析を待たねばならない。」

一方、IMSには加わっていないが実験場所に最も近い中国・牡丹江(ムダンジャン)の米中共同運営の地震観測所の観測結果では、地震強度はマグニチュード5.1※2であった。この強度から推定される核爆発規模は7~16キロトンに相当する。広島に投下された原爆が15キロトン、長崎に投下された原爆の威力が22キロトンとされているので、それらよりは小型の爆弾である。toただし、地震強度からの爆発威力の推定には、さまざまな誤差が入り込むので、この比較はあくまでも参考でしかないことに注意が必要だ。
地震観測結果は、06年10月9日、09年5月25日、13年2月12日の3回に次ぐ4回目の核実験が行われたことを示している。核実験と判断する最終的な決め手となる「空中放射能」は、第1回(06年)の時には実験の約1週間後に検出されたが、第2回(09年)においては1度も検出されず、第3回(13年)では実験後55日後にようやく検出された。今回は2月末現在検出されたとの発表はない。しかし、その他の状況から、これが核実験であったことは間違いない。

自衛のための水爆実験-北朝鮮の発表

1月6日、北朝鮮政府は次のような声明※3(朝鮮民主主義人民共和国政府声明「水爆実験に成功したことを証す」)を発表した。

「(前略)朝鮮労働党の戦略的決断に従い、主体(チュチェ)105年(2016 年)の水曜日10 時にDPRK(朝鮮民主義人民共和国)で初の水爆実験が成功裏に行われた。我々が生来持つ叡智、技術及び努力によって実施されたこの実験を通じて、DPRKは新たに開発された実験用水爆の技術仕様が正確であることを完全に立証し、より小型の水爆の威力を科学的に証明した」。この実験は「米国主導の敵対勢力による核脅威と脅迫から国家の主権と民族の生存に関わる権利を固として守り、朝鮮半島の平和と地域の安全を確保するためにDPRK がとった自衛的措置」であり、「DPRKは、朝鮮半島の平和と地域の安全保障を米国の凶悪な核戦争シナリオから守るために、あらゆる努力を尽くしている真の平和愛好国家である」。

さらに「声明」は続ける。

「米国が我が国に対する卑劣な敵視政策を撤回しない限り、核開発の停止や核の解体を北朝鮮 の側から行うことはあり得ない」。

「水爆」は誇張と専門家

この、「水爆実験」という北朝鮮の主張は強く疑問視されている。「水爆」は、原爆の爆発(第1段階)によって、重水素と3重水素の核融合反応(第2段階)を起こす「2段階熱核爆弾」であり、原爆の数百から数千倍の爆発力を持つ。地震波の観測結果などを考えれば北朝鮮の主張は極めて疑わしいと多くの専門家が指摘している。
牡丹江で検出された地震の強度・マグニチュード5.1とそこから推定される爆発威力は、前回核実験(13年2月)とほぼ同じであり、「水爆」とは考えられない。爆発したのが「ブースト型原爆」である可能性もあるが確証はない※4。「ブースト型原爆」とは少量の核融合物質によって爆発力を増強された原爆であり、原爆の小型化には有用だといわれている。北朝鮮が最近試みているSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)実験との関係を指摘する専門家もいる※5
いずれにしても、北朝鮮が核兵器能力向上の試行錯誤を継続しており、その一局面として1月6日の実験が行われたことは確実と思われる。

前回「衛星打上げ」以来の経過

末尾に、前回の衛星打上げ(12年12月)から今回(16年2月)北朝鮮の核・ミサイルを巡る年表をまとめた。
13年2月12日、北朝鮮が核実験を行ったことに対して、国連安保理は3月7日、非難・制裁強化決議を採択した。北朝鮮は3月9日「外務省報道官声明」で、同決議は「我々を武装解除させようとするもの」だと反発した。同年3月1日には米韓合同演習「フォウル・イーグル」が開始され(4月23日まで継続)、3月9日には同じく「キー・リゾルブ」(3月21日まで)が開始されるという中での応酬であった。そして、13年4月1日、北朝鮮は「核兵器国地位確立法」を公布する。
14年にも2つの米韓合同演習が行われた(2月24日開始)。この期間中に北朝鮮は、ノドン・ミサイルを発射(3月26日)するとともに、「新たな形態における核実験」を示唆(3月30日)した。
15年1月9日、北朝鮮は「米韓が合同演習を中止すれば、核実験を凍結する」と提案。この提案を米国は黙殺、米韓合同演習は前年と変わらず実施された。1月22日、オバマ米大統領が、インタビュー(14年11月の映画会社へのサイバー攻撃が主題)で北朝鮮を「世界で最も孤立した冷酷非情な独裁国家」と呼んだことに、北朝鮮は2月4日「米国の敵視政策に強力な反撃を行う」、「米国との交渉はもう必要ない」と非難した。
15年8月20日には南北が軍事境界線をはさんで砲撃を応酬するという事態が発生した(伏線には8月5日の地雷爆発事件があった)。9月14日、25日には、北朝鮮当局者から人工衛星発射と4回目の核実験を示唆する発言がなされた。そして12月10日には、「水爆を爆発させる能力がある」との金正恩第1書記の言葉が報じられた。そして、16年1月6日の核実験、2月9日の衛星打上げへ。
16年には朝鮮労働党大会が36年ぶりに開催される。今回の核実験には、歴史の節目をとらえた国威発揚という側面もあると思われる。

北朝鮮から和解提案も

北朝鮮が核実験を正当化する論理は、一連の公式声明で繰り返されたように、米韓合同演習に象徴される「米国の敵対行為」に対する「自衛行為」だというものである。一方で、北朝鮮の側からは「和解」に向けた発言や声明も、しばしばなされてきた。
14年6月30日、北朝鮮は韓国に対して、「『7.4共同声明』を想起して、互いに敵対行動や誹謗中傷を止めよう」と呼びかけた。14年の国連総会では、15年ぶりに総会議場に登壇した北朝鮮代表の李外相が、「米国の敵対行動が完全に止まれば、核問題は解決する」と演説した(14年9月27日)。また、15年1月9日には、前記のように米韓合同演習中止を条件に核実験凍結もありうると提案している。そして15年10月1日の国連総会で、李外相は、「米国が朝鮮戦争休戦協定を平和協定に変えることに同意すれば、建設的な対話をする用意がある」と演説した。
このような発言から、北朝鮮は米国を和平協議の場に引き出すために「核実験と核兵器」というカードを切っているように思われる。狙いは自国の体制への脅威を除去することにある。北朝鮮のこのような意図に着目するならば、「非難と制裁」は、新たな「挑発」を呼ぶという悪循環を招きつづけるだろう。「平和協定」を入口として「北東アジア非核兵器地帯」を目標に据えた外交交渉※6が必要である。何年にも及ぶ忍耐が求められるとしても。

注(※)

  1. www.ctbto.org/
  2. ジェフリー・パーク「北朝鮮からの地震波は2013年核実験が再現されたことを示唆」、「核技術者技報」(BoAS、電子版。英文)、16年1月7日。
  3. 1月6日「朝鮮中央通信」(英語版)。
  4. 2と同じ。
  5. チャールス・D・ファーガソン「北朝鮮の4回目の核実験は何を意味するのか」全米科学者連盟(FAS)「戦略安全保障ブログ」(英文)、16年1月8日。
  6. 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)刊「提言 北東アジア非核兵器地帯設立への包括的アプローチ」、第1章「北東アジアにおける核兵器依存の現状」。

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<年表>北朝鮮の核とミサイル(2012年~16年)

2012年

●12月22日 北朝鮮、人工衛星を発射。

2013年

●  1月22日 国連安保理、12年12月12日の北朝鮮の衛星発射に対する非難決議採択(決議2087)。
●  2月12日 北朝鮮が3回目の核実験。「以前より小型で軽量、より威力の強い原爆」(北朝鮮)。
●  3月  1日 米韓合同軍事演習「フォウル・イーグル」開始(4月30日まで)。
●  3月  7日 国連安保理が核実験非難決議(決議2094)。
●  3月  9日 北朝鮮外務省報道官声明、決議2094 は米国に操られた策動と非難。
●  3月11日 米韓合同演習「キー・リゾルブ」開始(3月21日まで)。
●  4月  1日 北朝鮮が「核兵器国地位確立法」を制定・公布。核兵器は「米国の敵視政策と核脅威に対する止むを得ざる正当な防衛手段」とし、非核国への消極的安全保証、先制不使用などを規定。
●  4月23日 包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会の2つの放射性核種監視観測所(日本、ロシア)が大気からキセノンを検出。2月12日の核実験によって放出されたと結論。
●  9月20日 IAEA年次総会、北朝鮮にNPTとIAEA保障措置協定の全面遵守を求める決議を採択。
●10月  7日 北朝鮮、国連総会で2月の核実験は「自主権を守るための完全な主権行使」と演説。

2014年

●  2月24日 米韓、合同軍事演習「キー・リソルブ」(3月6日まで)及び「フォウル・イーグル」(4月18日まで)を開始。
●  3月31日 韓国国防省、北朝鮮が北方限界線(NLL)付近で約500発の砲撃訓練を行い、うち約100発が韓国側に落下したと発表。
●  8月18日 米韓合同演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」開始(8月29日まで)。
●  9月27日 北朝鮮外相、15年ぶりに国連総会で演説。「米国が敵視政策を完全に止め、我々の自主権と生存権に対する脅威が除去されれば、核問題は解決する」。
●11月28日 北朝鮮祖国平和統一委員会、金第1書記を揶揄した米映画「ザ・インタビュー」を「極悪な挑発行為」と非難。
●12月17日 米捜査当局、「ザ・インタビュー」製作会社への11月のサイバー攻撃は北朝鮮によるものと断定。
●12月29日 日米韓が北朝鮮の核・ミサイルに関する秘密情報の共有の合意文書に署名。日韓に軍事情報包括保護協定(GSOMIA)がないため米国を介して署名。

2015年

●  1月  9日 北朝鮮、米韓が15年春に予定の合同軍事演習を中止すれば核実験を凍結するとの提案を米国に伝達。米国は応じず。
●  1月22日 オバマ米大統領、インタビューで北朝鮮を「世界で最も孤立した冷酷非情な独裁国家」と呼び、新たな制裁を示唆。
●  2月  4日 北朝鮮国防委員会、1月22日のオバマ発言をとりあげ、敵視政策に「強力に反撃」、「米国との交渉はもう必要ない」と宣言。
●  3月  2日 米韓、合同軍事演習「キー・リソルブ」(3月13日まで)及び「フォウル・イーグル」を(4月24日まで)を開始。
●  3月  3日 李北朝鮮外相、ジュネーブ軍縮会議(CD)で「我々は米国を抑止し、必要であれば先制打撃を加えることができる」と演説。
●  3月25日 米国家情報長官、下院軍事小委員会で北朝鮮は米本土攻撃可能な大陸間弾道弾(ICBM)を配備可能な状態との見解示す。
●  5月  9日 朝鮮中央通信、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の水中発射実験に成功と発表。実験の日付は不詳。
●  5月20日 北朝鮮国防委員会、核兵器が小型化、多様化の段階に達していると声明。
●  5月25日 北朝鮮、米韓合同演習を議題として扱うことを要求する書簡を、国連安保理議長に送付。
●  7月15日 韓国国会国防委員長、中国は北朝鮮に核の傘を提供することを検討する見返りに、北朝鮮の核放棄を促すべきだと述べる。
●  8月  5日 軍事境界線の韓国側で地雷が爆発。韓国は北が設置と非難したが、後に実は韓国が設置したことが判明。
●  8月16日 米韓合同演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」開始(8月28日まで)。
●  8月20日 韓国と北朝鮮、軍事境界線を挟んで砲撃の応酬。北朝鮮は準戦時状態の最後通告。
●  9月14日 北朝鮮国家宇宙開発局、近く「人工衛星」打ち上げを行うことを示唆。
●  9月15日 朝鮮原子力研究院長、ウラン濃縮、黒鉛減速炉を含む寧辺のすべての施設が正常稼働しているとし、米の敵視政策が続けば、いつでも核で対処する用意があると述べる。
●10月  1日 李北朝鮮外相、国連総会演説で、米国が朝鮮戦争休戦協定を平和協定に変えることに同意するならば、建設的な対話をする用意があると述べる。
●10月13日 北朝鮮代表、国連総会第1委員会で、核兵器は自衛のためであると主張、非核国や非核地帯には攻撃も威嚇もしないと表明。
●10月15日 国際宇宙航行連盟(IAF)、北朝鮮国家宇宙開発局(NADA)の加盟申請をいったん承認するも翌日に却下。
●10月16日 オバマ・朴槿恵(パク・クネ)会談。北朝鮮の核・ミサイルの脅威に一致協力して対処することを確認。
●11月28日 北朝鮮、潜水艦からのSLBM 発射テストを実施するも失敗。
●12月10日 金第1書記、北朝鮮は「独自の原爆と水爆を爆発させる能力をもつ核兵器国」と発言。
●12月12日 北朝鮮モランボン(牡丹峰)楽団の中国公演が突然中止に。12月10日の金第1書記の「水爆発言」に中国が不快を示し、中国に北朝鮮が反発した結果との憶測も。
●12月21日 北朝鮮、潜水艦からのSLBM発射テストを実施するも失敗。

2016年

●  1月  6日 北朝鮮、4回目の核実験。
●  2月  9日 北朝鮮、地球観測衛星を打ち上げ。

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