2020年、ニュースペーパー
2020年01月01日
ニュースペーパー2020年1月
- 平和に生きる中で平和を勝ち取ろう安保法制違憲訴訟・女の会中野さん・清末さんに聞く
- 安保法制違憲訴訟・東京地裁判決は欠陥裁判
- 「食料・農業・農村基本計画」の改定進む
- INF全廃条約失効とBMD―変貌する安全保障政策
- 2020年NPT再検討会議へ
- 米大統領選挙と核の脅威の削減
- 地球温暖化と気象災害気候危機を回避するために
- 加盟団体の活動から:全水道
- 本の紹介『なぜリベラルは敗け続けるのか』
- 核のキーワード図鑑
- 短信
なぜ山口と秋田にイージス・アショアを配備するのか?
新屋演習場(秋田市)とむつみ演習場(山口県萩市、阿武町)に配備する方針の地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」。山口県と秋田県に弾道ミサイル防衛基地をつくる理由は、北朝鮮からグアム、ハワイの米軍基地へ地球儀の上で線を引いてみると判明します。上の図は、北朝鮮北部慈江道の2017年7月28日「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」発射地点からデジタル地球儀で地上に線を書いたものです。この線の上空を通るような軌道で弾道ミサイルが飛んだ場合、秋田・山口上空では高度数百kmで、イージス・アショアで使われる予定の日米が共同開発する迎撃ミサイルSM-3ブロックIIAでは、ちょうど米国ミサイル防衛庁の想定するイージス弾道ミサイル防衛の範囲にあたります。実際に迎撃できるかは別問題で、「成功した」とする実験も実際のミサイル攻撃の状況とはかけ離れた設定によるものです。「24時間365日、日本全域を守り続けることができる」とする防衛省の主張には何の裏付けもありません。
(画像は防衛省も使うGoogleEarthで作成。関連記事は6ページから掲載)
インタビュー・シリーズ:152
薄っぺらい平和にさようなら 平和に生きる中で平和を勝ち取ろう!
安保法制違憲訴訟・女の会 中野麻美さん・清末愛砂さんに聞く
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なかの まみさん(右)1975年北海道大学法学部卒、1979年弁護士登録(東京弁護士会)、NPO法人派遣労働者ネットワーク理事長、日本労働弁護団常任幹事
きよすえ あいささん(左)1972年山口県生まれ、大阪大学大学院助手、助教、島根大学講師を経て現在、室蘭工業大学大学院准教授。専門は家族法・憲法学
─安保法制違憲訴訟・女の会を提訴したのはどんな理由や契機からでしょうか?
中野:
平和というと抽象的ですが、日常生活の中に貫かれる普遍的価値です。戦後憲法は、人権と平和、民主主義を基本原理として定めましたが、戦前・戦中・戦後と女たちはたたかいの連続でした。戦争は終わっても、戦前からの暴力による支配や差別は生活の中で引き継がれ、女性たちにとって戦争は終わりませんでした。戦争を用意した家父長制や暴力と差別に抗って、自分の人生を切り拓いて、自分たちの平和とか平等を獲得しようとしてきました。安倍政権の集団的自衛権行使を承認する解釈改憲閣議決定や、安保関連法の強行採決は、紛争解決に集団的な武力行使を法的に承認するものなので、こうした法制度が女たちの日常の平穏を脅かすことは間違いありません。それを実感したので怒りを込めて提訴しました。原告の人たちの話をきいていると、たたかいの中で憲法をわがものにし、自由と民主主義のために格闘してきた、培ってきたと痛感させられます。また、訴訟の中では、安倍政権がやろうとすることは、敵国を想定して軍事同盟を強化する「国家安全保障」なんですね。しかし、女性たちが追い求めてきたのは、人間としての平和。従軍慰安婦や沖縄の駐留米軍による性暴力とのたたかいを通じて、アジアと手を結び、人間の安全保障や安全保障におけるジェンダー主流化を国際社会の主流とし、基地はいらない、暴力を根絶するなど安全保障の再定義を試みてきました。ところが、安倍政権は「平和」を軍事化に置き換えて、市民を「だまし討ち」にしようとしました。このことを司法に問いたい、世に問いたいと思いました。
─違憲訴訟の現状と争点は?
中野:
安保法制違憲訴訟・女の会は2017年8月に106人の女性らの原告で提訴、2019年12月までに11回の裁判を重ねています。裁判では、安倍政権が日米軍事同盟を強化して集団的自衛権を行使できるようにするプロセスの問題や危険性を追及し、民主主義や立憲主義、法の支配の原則に反するってことをあきらかにしたいと考えています。そうしたことを通じて原告らの権利侵害が現実にどんなところで顕在化しているかを明らかにしたいと思っています。これ最大の争点です。
他の裁判では、原告らの証人の申請が拒否される事例もありますが、本裁判では申請通り認められています。注目する争点は、内閣法制局の犯罪を暴くことでしてね、私たちは安保法制懇談会の議事録等の各種文書資料などを出すようよう求めています。国側はその必要はないともちろん主張していますが、裁判所が文書提出命令を国に出すかどうか、注目してます。
また、単に戦争のリスクを主張にしているのではなく、民主主義とは、国民代表制とは一体何なのかも問題にしています。当時、安保関連法の採決は圧倒的多数が今採決すべきでないという世論だったわけで、多数決が民主主義だというが、そうではないという点も立証したいと思っています。
─清末さんがこの訴訟に関わった契機は?原告の証言集も出版されているようですが
清末:
「 安倍首相のいう平和は薄っぺらい平和であって、平和とはそんなもんじゃないんだ!平和に生きる中で平和を勝ち取ろうとしてきたんだ。もっと分厚いものなんだ」という原告たちの思いがたたかいの中に見えたんですね。だから、中野さんの要請で証人を引き受けました。
中野:
原告の想いを凝縮した証言集を出版しています。(安保法制違憲訴訟・女の会『 VOICE 平和をつなぐ女たちの証言』生活思想社)戦争を経験した人。戦争を引き継いだ人、死者から戦争や平和を受け継いだ人、被害を受けた人や被害を受け継いだ人など、多様な女性たちです。
清末:
彼女らに共通する点は、家父長制と必死にたたかってきたことであり、女たちの力によって社会を変えることをめざしてきたことにあります。
─清末さんは戦争とジェンダーの関係を日頃から提起さ れていますが
清末:
戦争には女性への暴力がつきもので、これは国境を越えた普遍的なものですね。先日、台湾で開催された「第4回世界女性シェルター会議」(DV被害者やその子どもを保護するシェルターの関係者が世界各地から集う国際会議)に参加したんですが、アフガニスタンの女性がどうしてもふれたいこととして、「アフガニスタンはずっと長い期間戦争や内戦が続いてきた。この戦争の文化こそがジェンダーに基づく暴力を引き起こしてきた。このことを言わないわけにはいかない。」と訴えていました。
中野:
もともと家父長制の起源は軍事にあるといわれていて、軍事というのは女性差別の根源にあって、人類の歴史は戦争を繰り返しながら、実力で女性を虐げてきました。女性はそれに抗いながら平和を作ろうとしてきた、その原点は何なのか。それは他者への思いやりだとか、ケアの考え方であって、それらを日常の中で繰り返して、その実体験に基づいて、その平和というものを体現してきたといえます。
また、日本の戦後社会は、旧日本軍が戦地で行ってきた女性への暴力を、そのまま引き継いで、家庭での虐待となり、それに抗う女性たちもいた。日本の戦後は、その戦地から引き揚げてきた男性たちによって立身出世主義だったり、自分を押し殺して組織のために尽くす・・といった男性中心の経済社会が築かれ、そして日本型雇用環境へと引き継がれていくんですね。日本の雇用の差別性も戦争によって大きく影響されていると言えますね。そして、戦争から平時へ、平時が戦争の火種を生むという連鎖が繰り返えされる……こんなことが言えるんじゃないでしょうか。
清末:
軍事主義は必ず家父長制を必要としますね。昔はこの秩序から女性を排除してきたけど、今は、それに適応できる女性、高学歴で技術的にも経済的にも国家に貢献できる女性をマッチョ化するかたちで入れ込むようになりました。それがまさしく安倍政権のいう「女性の活躍推進」でしょう。
しかし、戦後の女性たちが求めてきた運動の核になる考え方は、女性たちが単に男性並みに働き活躍するということではなくて、非暴力な社会、憲法24条2項が謳う個人の尊厳をベースにした他人を思いやってケアできる関係をつくりたいということにあると思います。
─お二人は安倍政権をどうみてますか
中野:
安倍首相があるネット番組で「日本国憲法は隷従と圧迫から解放するなんて思ってもいない、みっともない憲法ですよ」って言ったことがあります。憲法への侮辱ですよね。これが首相の本音です。人間や労働を国会や経済の道具としか見ない。動員なんですよ。「一億総活躍」は「一億総動員」ですよ(笑)。サラリーマンは競争と選別の道具にされて活躍。高齢者は筋トレやって低年金で活躍。女性は3人以上子ども産んで低賃金で活躍なんですよ。(笑)安倍政権の政策全てにこれが透けてみえますね。
15年9月に安保関連法を強行採決した後、安倍首相は常任理事国入りを表明したくて国連総会に行きました。女性の参画と保護に関する国別行動計画に関する演説をやったんですが、女性たちが盛り込もうとした、沖縄の米軍基地による性暴力や従軍慰安婦、ヘイトスピーチの問題などをネグレクトした行動計画にして、それを発表しました。また、演説後の記者会見では難民問題への対応への質問に「難民問題を人口問題として申し上げれば」といって武力紛争による人権侵害問題を、人口問題に置き換えて、「少子化のためには、まだまだやることがある」なんてひどい発言をしました。この国の本質を端的に示していますね。
清末:
政権側の人たちには平和と人権は不可分の関係にあるという発想がない。人権とは、それぞれ違う個人を大切にする、尊重するってこと。まさに日本国憲法が保障しようとしてきたものなんです。安倍首相にとっては〈国民〉はあくまでも動員対象にすぎず、私たちは動員される人って発想なんでしょう。自衛官の命が失われても、なんとも思わないかもしれない。2012年の自民党の改憲草案が、憲法13条の「個人の尊重」を「人」に置きかけているように、ひとつの人格を有する個性豊かな個人ではなく「人」と十把ひとからげにしていますね。
中野:
そして「身の丈に合わせて」ってことになんでしょうね(笑)
清末:
日本国憲法は天皇条項等いくつか問題はあります。しかし、その原点のひとつはあの敗戦の廃墟の中から生まれ、二度と侵略戦争はしない、軍国主義にならないという約束をアジア諸国と結ぶという点にあると思います。安倍首相はそれが嫌なんでしょうね。
中野:
たたかってきた人は自らの中にある権力とたたかった人々であるから、危険度ってものを鮮明に自覚するんですよ。たたかわないで最も効率的に権力におもねることを教えられた人たちは、自らの権力とたたかってこなかったので、正常化バイアスやエキスパートエラーが働いて、今でいいってことになってしまう。
清末:
個人の尊厳を守り、尊重することができない社会というのは、先住民とかLGBT等の集団の権利を守ることはできないですね。個人の尊厳を守り、尊重してこそ、集団の尊厳を守り集団を尊重するができるはずですよ。こうした視点が全く欠如しているのが安倍首相であり2012年の自民党の改憲案の中身だと言えますね。
インタビューを終えて
「戦争が終わっても、戦前からの暴力による支配や差別は生活の中で引き継がれ、女性たちにとって戦争は終わりませんでした」「軍事主義は必ず家父長制を必要とする」という二人の言葉から、戦争が差別なしに、人権侵害なしに成立しないことを考える。障がい者が非国民と差別されたこと、差別される側から戦争を考えることの重要性を思う。殴り返すことのできない者たちの幸せは、戦争にないことを思う。私たちは、「女性が輝く社会」の本質を考えなければならない。
(藤本泰成)
安保法制違憲訴訟・東京地裁判決は欠陥裁判
憲法擁護の役割を放棄した「ヒラメ裁判官」たち
飯島 滋明 名古屋学院大学(憲法学・平和学)
(1)「ヒラメ裁判官」による「欠陥商品」
2019年11月7日、安保法制違憲・国賠訴訟で東京地方裁判所は原告の請求を退ける判決を下した(以下、「東京地裁判決」という)。裁判官には「個人の権利・自由の擁護」「憲法擁護」の役割が憲法で課されているために、他の権力に対する身分保障がなされている。身分保障の一つとして、「下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける」(憲法80条2項)と明記されている。他の国家権力から、「報酬」を通じての不当な干渉から裁判官を保護するための規定だが、前澤達朗裁判長、実本滋裁判官、神本博雅裁判官のような「ヒラメ裁判官」たちに「相当額の報酬を受ける」資格はない。
(2)「素人裁判官」による「噴飯判決」
私たち研究者は「素人裁判官」という言い方をすることがあるが、前澤達朗裁判長等による「東京地裁判決」は、まさに「素人裁判官」の「欠陥商品」である。
たとえば「東京地裁判決」は、「少なくとも、集団的自衛権の行使等の対象となるべき特定の事象(米国による戦争等)が現実に発生した段階で、初めて我が国を攻撃対象とする戦争やテロ攻撃の恐れが切迫したか否かを検討しうるものであり、当該事象がいまだ発生していない現段階において、原告らの生命、身体の安全が侵害される具体的危険が生じたものと評価するに足りない」と判示する。「噴飯もの」である。少しでも国際政治等の知識があれば、恥ずかしすぎてこんな判示はできないだろう。安倍自公政権が2015年9月に多くの国民の反対を押し切って強行的に採決した(とされる)安保法制は、世界中での武力行使を自衛隊の任務とする。実際にアメリカの戦争に対して、「集団的自衛権」をはじめとする、日本に無関係の武力行使を自衛隊に実施させれば、日本には「武力攻撃」や「テロ」等の「報復」の危険性が生じる。安保法制は「テロ」や「武力攻撃」を呼び込む危険性をもたらす。そして「集団的自衛権の行使等の対象となるべき特定の事象(米国による戦争等)が現実に発生した段階」で裁判を起こしても、戦争やテロ攻撃の危険性を回避することは極めて困難である。テロ後に裁判を起こしても、被害の回復が不可能な場合も生じよう。だからこそ安保法制の違憲性を「いま」、司法の場でも争う必要がある。前澤裁判官たちは、こんなことすら分からないのだろうか?
国賠判決 入廷行進 (2019年11月7日・東京地裁) |
地裁判決を受けて、報告集会 (2019年11月7日) |
(3)どうすべきか
「東京地裁判決」の裁判官たちは憲法や軍事の専門家などを証人として採用し、その意見を踏まえて判決を下すべきであった。そうすれば、こんな「みっともない判決」を下すことはなかった。証人や原告の意見を聞かない理由は他でもない。安倍自公政権に忖度し、「個人の権利・自由の保障」「憲法擁護」の役割をこれらの裁判官たちが放棄したからである。かつて最高裁判所の長官が「上級審の動向や裁判長の動向ばかりをうかがう『ヒラメ裁判官』がいると言われる。私はそんな人はいないと思うが、少なくとも全く歓迎していない」と指摘した。しかし、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(憲法76条3項)の意義も理解しない、上級審の顔色をうかがうことだけに専心する「ヒラメ裁判官」は存在する。こうした「ヒラメ裁判官」がこの裁判を担当した一因として、安倍自公政権の存在が挙げられる。「最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する」(憲法79条1項)とされている。安倍自公政権が長期化したこともあり、最高裁判所の裁判官たちはすべて安倍自公政権下で任命された。最近も日本弁護士連合会からの推薦という慣行を無視し、安倍自公政権は自己の眼鏡にかなう人物を最高裁判所の判事に据えた。こうした最高裁判所の裁判官たち、そして最高裁事務総局による人事統制の結果として、「ヒラメ裁判官」増殖の危険性がある。「東京地裁判決」に至る過程でも、不自然な裁判長の交代などの事情がうかがわれる。日本の司法に「ヒラメ裁判官」が増えれば、日本社会は「暗黒社会」になる危険性がある。このような暗黒社会をもたらさないためにも、そして日本を戦争やテロなどの惨禍に巻き込む危険性をもたらす「安保法制」を廃止に追い込むためにも、「戦争できる国づくり」に邁進し、「法の支配」を無視し続ける安倍自公政権を一日でも早く退陣に追い込むことが必要である。私たちには「不断の努力」(憲法12条)が求められる。
(いいじましげあき)
「食料・農業・農村基本計画」の改定進む
農政の大胆な転換で自給率の向上を
全日本農民組合連合会 書記長 市村 忠文
農林水産省はいま「食料・農業・農村基本計画」の改定作業を進めています。これは「食料・農業・農村基本法」に基づき、5年ごとに見直すもので、今回が5回目になります。農業政策は、相次ぐ大型の通商協定の発効などで大きな転換期を迎えており、農業再建に向けた抜本的な見直しが求められています。
安倍政権に沿った「農業の成長産業化」路線
農水省は9月6日に食料・農業・農村政策審議会に基本計画の見直しを諮問しました。10年後の2030年を目標にするものです。同審議会は、年明けにも新たな基本計画の骨子案、原案をまとめ、2020年3月に新基本計画を閣議で決定する予定です。
今回の見直し作業は、これまでの基本計画の改定と違い、遅いスタートになりました。2015年度からの現行の計画は、同審議会でほぼ1年間かけて決定していますが、今回の審議期間は、前回の半分しかありません。このため「幅広いテーマを短い日程で、本質の議論ができるのか」との批判もあります。
審議期間が短縮した背景には、すでに農政の路線は決まっているので、長期間の審議は必要ないとの考えがあったと言われています。2016年に、規制改革推進会議や産業競争力会議が深く関与した「農業競争力強化プログラム」に沿って、政府は「農業の成長産業化」路線を推進しています。同プログラムは農政の中長期的方針にもかかわらず、農水省内では検討されず、官邸主導で実施されました。
こうした安倍農政の結果、農業法人化や企業参入など成長産業志向が強まっていますが、小規模経営など多様な家族農家をどう位置づけるのかなどが見えていません。今回の基本計画の見直し審議でも、大規模農業者を多く招いてヒアリングを行っており、同プログラム路線を基本計画にさらに定着させようという狙いがみられます。
かつてない自由化時代と衰弱する日本農業
「強い農林水産業」をめざすという現行の農政は、産業政策だけが強調され、今後の農業・農村の将来像がみえてきません。現実には、日本農業の生産力はますます弱体化しています。現行の計画では2025年度にカロリーベースの食料自給率を45%にする目標を掲げたのに対し、昨年度は過去最低の37%に落ち込みました。作物別にみても、現行基本計画の基準年の2013年に比べて、ジャガイモや野菜、果実、生乳などで生産量が減少、他の多くの作物も目標数量を達成していません。
下落を続けているのは国内農業に構造的問題があるからです。生産基盤を支える農業経営体数は2019年度に119万件で、10年間で3割減少しました。農業従事者は65歳以上が3分の2であり、この人たちが後10年でリタイヤアすると自給率はさらに減少する恐れがあります。農地面積も減少を続け、荒廃農地が見通しを上回って発生しています。基本計画見直しの検討会でも「食料生産を真剣に考えないと、将来、国民が大慌てするようになる」との意見も出ています。
こうした事態の要因の一つに、環太平洋経済連携協定(TPP)など、規模が大きい通商協定が次々と発効していることがあります。すでに、TPPやヨーロッパとの経済連携協定(日欧EPA)により、食肉輸入は過去最大になり、国内生産に影響を与えています。さらに、日米貿易協定が来年1月1日から発効する見通しであり、かつてない自由化時代が到来しています。このような中で、自給率を引き上げることができるのかが問われています。
12月4日に国会で承認された 「日米貿易協定」に反対する院内集会。 ネットなどで知り子ども連れで 駆け付けた母親も多くみられた。 (11月28日・参院議員会館) |
重視すべきは国内生産の強化と農村政策
安倍政権は農政の成果として、農業総産出額や農業所得がここ3年連続で増えていると強調しています。しかし、農業産出額の増加は生産量が減少して単価が上がったためで、決して生産基盤が強くなったのではありません。前述のように、この5年間で生産環境はますます悪化し、国内供給に赤信号が点滅しているのが現状です。
食料・農業・農村基本法は、食の安定供給、自給率向上のために国内生産を確立するとともに、国土や環境の保全など多面的機能を持つ農村の維持・発展を目的に、1999年に制定されました。しかし、現行の競争力強化路線は農村政策・地域政策を軽視して進められています。多様な人々が暮らせる農村のあり方などを考慮しないままに農政を推進すれば、ますます生産力が落ちて、日本農業が縮小再編されることは明らかです。
いま、国内外で自然災害が頻発し、不安定な世界的な食料需給などからも、将来にわたって国民に食料を安定的に供給できるのかが問われています。欧米をはじめ、各国とも食料自給を国政の重要課題にあげ、向上を図っています。食料安全保障の観点からも、基本計画の柱として、国内生産基盤の強化が最優先されるべきです。
(いちむらただふみ)
変貌する自衛隊と安全保障政策
INF全廃条約失効とBMD(弾道ミサイル防衛)をめぐって
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成
(イージスアショア配備計画の 撤廃を求める住民の会のサイトより) むつみ陸上自衛隊演習場から 20km圏内に入る阿武町は町を挙げて イージスアショアの配備に反対している |
問題多いイージス・アショア
2017年12月19日、安倍政権は「地上配備型迎撃ミサイルシステム」(イージス・アショア)の配備を閣議決定しました。防衛省は、イージス護衛艦の8隻体制をめざすとともに、秋田県秋田市新屋演習場および山口県萩市むつみ演習場へイージス・アショアを配備し、弾道ミサイル防衛の(BMD)の強化をめざすとしています。
イージス・アショアの配備に関しては、遮蔽物等の仰角の誤りなど配備地域選定への疑問、電磁波や汚染水などの生活環境への影響など様々な問題点が指摘され、現在再調査を行うこととなっています。秋田県新屋地区および山口県むつみ地区を中心に、配備反対の運動が提起されています。イージスシステムは、レーダー稼働中は水平方向に強い電磁波を発生します。イージス護衛艦では、レーダー稼働中は甲板へ出ることは禁じられていますが、防衛省は230mを離れると人体には影響がないと述べています。導入されるレーダー「SPY-7」はロッキードマーティン社製で、探知距離約500kmとされる「SPY1D(」あたご型イージス護衛艦に搭載されているレーダー)の数倍の能力を持つと同社は説明しています。それだけに電磁波も強力であると思われます。防衛省が発表している緩衝地帯(700m)の確保は、どう考えても十分とは言えません。新屋演習場近辺には、高校や児童相談所、小中学校など教育施設も点在しており、成長期の子どもたちにその影響が懸念されます。現在、唯一地上配備型イージスシステムが稼働しているルーマニアのデベセル基地は、約1000ha、集落まで約4kmあります。新屋演習場は約100ha、集落へは300mとなっています。安全保障の名の下に、個人生活の安全が脅かされる事態を引き起こすことを許してはなりません。
INF全廃条約失効と軍拡競争の再燃
米国は、今年2月2日にロシアとの間で交わしていた「中距離核戦力(INF)全廃条約」からの一方的離脱を表明し、条約は8月2日に失効しました。米国は、条約離脱の理由を、ロシアの「9M729(SSC-8)地上発射型巡航ミサイル」の開発と条約の制約を受けない中国の中距離核戦力の保有としています。INF全廃条約の失効は、核兵器禁止条約が提起する「核なき世界」に逆行し、新たな軍拡競争を呼び込むものとして極めて問題です。ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は「遺憾としか言い様がない事態だ。アメリカは明らかに軍事的緊張をあおる方向に舵を切った」と米国の姿勢を非難しています。9月5日の東方経済フォーラムにおいて、プーチンロシア大統領は地上発射型中距離ミサイルの開発に着手すると表明しました。射程距離2500km程度の中距離ミサイルをロシア国境に配備すると、アイスランド、スペイン、ポルトガルを除く西ヨーロッパのほとんどが射程の中に入ります。INF全廃条約は、1975年旧ソ連の「SS20」の東欧配備に対抗して米国がNATO加盟諸国に「パーシングⅡ」を配備しようとする中で協議が開始され、1987年に米国と旧ソ連の間で結ばれました。条約が定めた1991年までに、米ソ合わせて約2700発もの中距離ミサイルが廃棄されました。以来32年間、米ソ(米露)を中心とした軍拡競争を抑制してきたことは明らかなのです。
INF日本配備
8月3日には、マーク・エスパー米国防長官が、非核弾頭を搭載した中距離ミサイルのアジア太平洋地区への配備に言及しています。沖縄県においては、復帰以前に地対地巡航ミサイル「メースB」8基32台が配備され、核弾頭1300発が貯蔵されていたことを忘れてはなりません。1959年には、核弾頭をつけたミサイルが海上へ誤って発射されたり、1962年のキューバ危機の際には、旧ソ連の極東地域を標的とした沖縄ミサイル部隊に誤って核攻撃命令が下った事件(現場指揮官の判断で回避)が起きています。沖縄復帰時に、メースBを撤去して以来、INF全廃条約の制約もあって、米国は在日米軍基地内における中距離ミサイル配備を行っていません。しかし、中国や朝鮮の軍事的圧力を喧伝し、敵基地先制攻撃のための巡航ミサイル配備を計画している日本政府に、米国による中距離ミサイル配備を拒否できるでしょうか。東京新聞の半田滋記者は、ロシアが極東や北方領土に中距離ミサイルを配備するなら、日本政府は「ノー」とは言わないのではないかと指摘しています。米露がINF条約に復帰するよう、日本政府は外交努力を続けなくてはなりません。このことは、日本のみならずNATO諸国も同様です。
米国のためのミサイル基地
米国は、INF全廃条約の失効した直後の8月18日、サンフランシスコ州のサンニコラス島において、トマホーク型中距離ミサイルの発射実験を行いました。この時に使用された発射台は、Mk-41(マーク・フォーティーワン)垂直ミサイル発射装置でした。この発射装置は迎撃ミサイルSM-3 Block ⅡA にも対応する汎用型のものであり、まさしく秋田市及び萩市に配備予定のイージス・アショアに使用されているものです。防衛省は、イージス・アショア配備に伴う平和フォーラムとの交渉の場で、巡航ミサイルの発射は可能と明言しています。11月19日に行った交渉においては、巡航ミサイルなどの発射には施設の大幅な改修が必要で、現在も将来においても敵基地攻撃のミサイル発射は予定していないと回答しています。しかし、ヘリ搭載型護衛艦「いずも」や「かが」の場合には、中谷防衛大臣など歴代の防衛大臣が常に否定してきたにもかかわらず、大幅な改修を行ってストーブル機(垂直離着陸機)であるF35Bステルス戦闘機の搭載を可能にすることにしています。このような流れを考えると、秋田市、萩市に配備されようとしているイージス・アショアにおいても、巡航ミサイルの発射は予定しないとしながらも、近い将来に迎撃ミサイル基地ではなく、敵基地攻撃を含めた総合的なミサイル基地になることが大いに考えられます。
2019年4月30日~7月10日かけて行われた 「インド太平洋方面 派遣訓練」では、 6月10~12日南シナ海で、ヘリ空母護衛艦いずもが 米海軍原子力空母「ロナルド・レーガン」など 米艦艇と日米共同訓練を行った。 写真奥がいずも、手前がロナルド・レーガン。 (写真は海上自衛隊のウェブサイトより引用) |
MDで問われる日本の主体性
米陸軍は、昨年10月31日に「第38防空砲兵旅団」を現役復帰させて、神奈川県の相模原市の相模原補給敞に司令部を設置しました。同司令部は、青森県車力、京都府経ヶ岬のXバンドレーダー通信所を担当するMD中隊、韓国に設置されている終末高高度ミサイル(THAAD)中隊、沖縄県の嘉手納に展開する陸軍第1防空連隊を指揮・統制下において、ハワイの「第94陸軍防空ミサイル防衛司令部」の指揮下に入るものです。
米国とカナダは、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)を共同で運用し、他国からの核ミサイルや戦略爆撃機による攻撃に備え、24 時間体制で監視に当っています。これはNATOの組織内に位置付けられ、NATO内における安全保障の重要な要素となっています。元陸上自衛隊幹部学校長の樋口譲次日本安全保障戦略研究所上席研究員は、NORADのあり方を参考に「第 38 防空砲兵旅団の日本駐留を機に『日米共同運用調整所』(仮称)を日本国内に開設し共同運営するなど、日米共同対処のためのメカニズムを常設しておくことが是非とも必要である」と指摘しています。MD防衛では、レーダーや米国に依存せざる得ない偵察衛星などからの様々な情報を瞬時に読み取り判断しなくてはなりません。防衛省は、イージス・アショアの運用は、あくまでも日本の主体的・自主的判断で行うとしていますが、MD防衛の即時性と判断力を、そして、米国への大陸間弾道ミサイルを標的としていると噂される防衛の目的を考えると、米国の指揮統制の下で行われる可能性が強いのではないでしょうか。米軍の日米共同委員会の合意を無視する強引な米軍の運用などを考えるとき、果たして日本の主体的・自主的判断が可能となるのかどうか、米国とカナダの間のように考えることは極めて危険だと考えます。軍の指揮権を、韓国同様に日本の自衛隊も米軍に握られるような状況も、遠くない時期に来るのではないでしょうか。
進む日米統合軍構想
2019年に実施された日米を中心にした合同演習は、少なくとも20回を数えます。参加国も、英仏印、カナダ、オーストラリアにニュージーランドと韓国、フィリピンと多岐にわたります。これは、勢いを増す中国を主体とした「一帯一路」政策に対抗する日米のインド・太平洋戦略に基づくものです。海上自衛隊は、ヘリ搭載型護衛艦「かが」を南シナ海に展開し、独自の、また米国や他諸国との合同演習を繰り返しています。インド・太平洋に展開する「航行の自由作戦」で、日米は中心的役割を担っていると考えられます。防衛省の発表では、2018年度の米艦防護の実績は16回で、前年の2回から大きく増加しています。様々な状況から、安倍政権下で安全保障関連法が成立して以来、日本の自衛隊は急速に米軍との一体化を進めています。警察予備隊から保安隊、そして自衛隊と、平和運動はその肥大化していく自衛権の流れに抗して進められてきました。専守防衛との考えやGNP1%枠の制約は、その中で生まれたとも言えるものです。しかし、今や自衛隊は私たちの想像を超えて、「日米統合軍」とも言える存在に変貌しています。米国と歩みを同じくすることは、巨大化する中国そして中国と接近するロシアと米国との対立の中で、地政学的視点からも極めて問題だと思います。軍事的同盟関係を強化し、軍隊の運用そのものを統合し、ひいては米軍の指揮・統制の下に入るとするならば、東アジアにおける日本の独自外交そのものも失われると思います。日米統合軍という構想が、日本の安全保障にとって唯一の選択肢なのでしょうか。私たちは、日本の自衛権そのもののあり方、自衛隊のあり方を含めて、真剣に考えなくてはなりません。
(ふじもとやすなり)
2020年NPT再検討会議へ
今こそ、日本は東北アジア非核兵器地帯を提案すべきだ
湯浅 一郎(ピースデポ共同代表)
2020年NPT再検討会議へ向け厳しい情勢
核拡散防止条約(NPT)発効から半世紀、無期限延長から25年というメモリアルな2020年NPT再検討会議まで約4か月強となる中、核軍縮を巡る情勢は極めて深刻である。米トランプ政権は、「核態勢見直し(NPR)」(2018年)で、低威力の核弾頭や海洋発射の中距離巡航ミサイルなど新型核兵器の開発をうちだした。一方、ロシアは、米国の弾道ミサイル防衛(以下、BMD)に対抗し、米BMD を無意味にする大型ICBM 、核巡航ミサイル、極超音速滑空弾、無人原潜など、新概念の戦略兵器の開発や配備を誇示している。中国は、核戦力は「必要最小限の水準に維持する」としつつも、米BMD への対抗をめざした核兵器の近代化を進め、核弾頭数を増やし続けている。2019年8月、中距離核戦力(INF)全廃条約が失効し、北東アジアや欧州での中距離ミサイル陸上配備の新たな核軍拡競争が始まっている。更に2021年2月に失効する新戦略兵器削減条約(新START)の延長に係る交渉は進みそうもない。
これまでのNPT合意に照らし核兵器国の核政策を検証しよう
このように核軍縮における最大の障害は、米ロがNPTに定められた核軍縮義務に背を向けていることである。米ロのINF開発競争などの核軍拡は、NPT第6条の「核軍備競争の早期の停止」、並びに「核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、・・誠実に交渉を行うことを約束する」などに違反する。2000年NPT合意「核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束を行うこと」(13項目6)にも真っ向から反する行為である。従って、2020年NPT再検討会議では、これを正面から指摘し、米ロが核兵器削減についての協議を直ちに開始するよう強く求めねばならない。その上で、特に米ロには、以下の2点を具体的に求めていくべきである。
- 新START条約第14条で規定される条約の5年間延長を行う協議を直ちに始めること。
- 中距離核、極超音速兵器を含む戦略核兵器を含む攻撃的兵器全般にわたる協議を行い、核兵器削減の次の段階の目標について合意を目指すこと。
NPT再検討会議第3回準備委員会でのNGOセッション。 政府代 表の席には空席が目立つ。 発言は韓国「参与連帯(PSPD)」のファン・スヨンさん。 (2019年5月1日、ニューヨーク国連本部。撮影: ピースデポ) |
戦争被爆国としての責任放棄を表明した
国連総会日本決議
ここで重要な役割を担うことが期待されるのが、「唯一の戦争被爆国」を自認する日本政府と、NPT第6条の軍縮義務の履行を求め続ける新アジェンダ連合(以下、NAC)の国々である。最新の国連総会の核軍縮決議から、その可能性を占うことができる。
今年の日本決議は、「核兵器のない世界に向けた共同の行動指針と未来志向の対話」と題され、昨年までの「核兵器の完全廃絶に向けた新たな決意の下での団結した行動」から一変した。内容的にも主文が6項目と極端に短縮され、過去の日本決議への言及がほとんどなくなった。
これまで、日本決議は、NPT条約の合意履行を一つひとつ積み重ねることを基本方針としていたが、新決議はその基本を放棄したようにみえる。広島、長崎の被爆という人類史的な経験をもつ日本が、人類に対して負っている核兵器廃絶への責任を放棄しようとしているようにも見える。
これに対し、NAC決議は、NPT第6条義務を履行するよう求める原則を貫いたものとなっている。核兵器国が、「安全保障ドクトリンにおいてますます核兵器を重視していることに…深刻な懸念をもって留意し」(前文第26節)、「新START条約の延長と後継条約に関する交渉の出来るだけ早期の締結」を求める(前文第29節)等としている。
核兵器禁止条約が採択された今、日本に問われているのは、自らの安全保障における核兵器の役割の見直し・低減に着手するか否かである。膠着状態が続き、合意履行の行方は定かではないにしろ、2018年に始まった米朝、南北の首脳外交により朝鮮半島の平和と非核化が外交の現実的な課題となっている。この好機を活かすためにも、今こそ、日本政府は、東北アジア非核兵器地帯の創設を提案すべきである。これは、今年の日本決議からは想像もできない政策であるが、そうであれば、市民社会は、日本政府を後押しする世論を強めねばならない。ピースデポは、20年以上にわたり、「3+3」構想を提案し、努力してきたが、今こそ、自治体や宗教者の取組みを強めるとともに、日韓の市民・労働団体の連携など幅広く取り組んでいかねばならない。鍵は、東北アジア非核兵器地帯で日本が核抑止から抜け出すことである。
(ゆあさいちろう)
米大統領選挙と核の脅威の削減
候補者に核政策表明を求める運動
来年の大統領選挙候補者らに核の脅威削減に向けた政策を明示するよう求める公開書簡が12月5日、ニューハンプシャー州の6紙に掲載されました。書簡の掲載を企画したのは「憂慮する科学者同盟(UCS)」です。同州では、大統領選挙の民主・共和両党の候補者を選ぶ「予備選挙」が来年の2月11日に全国に先駆けて実施されます。厳密には、候補者選びの第一回目は、2月3日のアイオワ州でのものですが、こちらは「党員集会」の形をとるため、「予備選挙」はニューハンプシャー州から始まるとみなされていて、その結果は選挙戦において重要な意味を持ちます。書簡には、州内の市議会議員、教授、教師、医師、活動家など29人が署名しました。
選挙を活用して関心を高め、選挙に影響を与える
UCSは、このキャンペーンの意義を次のように説明しています。「次期大統領は、核の瀬戸際から引き返すために行動するのかどうか。これは、私たちの安全保障、私たちの家族、愛する人々の安全に関するものであり、これ以上重要なことはない。大統領候補が核の脅威を減らすための対策を提示することを私たちは必要としているが、有権者に関心がないと思えば、候補らはこの問題を取り上げないだろう。」
そして、この考えに基づき、2019年3月から10月にかけて5つの州で世論調査を実施しました。質問項目には次の考えに賛同するかどうかというものが含まれていました。1)米国は決して核兵器を先に使ってはならない。2)大統領候補が核問題についての考えを表明することが重要だ。各州でこれらに賛同した回答者の割合は次の通りです。ニューハンプシャー州(73%、84%)、アイオワ州(57%、82%)、ミシガン州(67%、82%)、オハイオ州(65%、84%)、ジョージア州(61%、86%)。公開書簡は、ニューハンプシャー州での調査結果への言及から始まります。このような関心の高い問題だから、態度を明らかにせよと候補らに迫っています。
UCSは、州内での核問題についての関心を高めるために、新聞での論説記事や投書の掲載にも取り組んできています。また、政治問題に関する情報源として定評のある「ニューハンプシャー州公共放送」の番組の合間にUCSの名前が流れるようにするために資金を投入しています。番組のスポンサー団体としてUCSの名前が挙げられた後、「核兵器のリスクを減らすためにニューハンプシャー州と全国で活動している団体です。詳しくはhttps://www.ucsusa.org/nuclear-weaponsをご覧ください」という「宣伝」が続きます。さらに、予備選挙の「選挙戦」に合わせて来年1月にニューハンプシャー州で開かれる大学生大会にも代表を送りこむ計画を立てています。大会は、同地を訪れる選挙スタッフやマス コミ関係者などの話を聞く機会を学生に与えるものですが、UCSとしてワークショップを開いて学生の関心を高めようというわけです。
大統領選挙を活用して、核問題についての関心を高め、同時に、選挙に影響を与えようという戦略。日本とは制度が異なりますが、日本の反核運動にとっても参考になる動きです。
(「核情報」主宰田窪雅文)
大統領選挙立候補者へ
核兵器に関するあなたの立場は?
最近のニューハンプシャー大学の世論調査によると、州内の成人の80%以上が、支持政党に関わりなく、2020年の大統領選挙候補が核兵器についての見解を論じることが非常に、または、いささか重要だと考えている。
下に署名した私たちは、これに同意し、2020年大統領選挙の候補に対し、核兵器のリスクの削減を最重要課題とし、そのための計画を明らかにするよう要請する。今日、地球上に約9000発の核兵器が残っており、その90%以上を米ロが保有している。これらの兵器のほとんどは、第二次世界大戦の終わりに米国が日本に投下し、数十万人を殺傷した原爆よりずっと大きな威力を持っている。核兵器の使用は、それが世界にどこにおけるものであれ、人道・環境・経済の面で壊滅的被害をもたらし、地球上のすべての人々に影響を及ぼしうる。
現在:
- 米国は、核戦争を始めるオプションを維持している。
- 米国の大統領は、これまでの大統領と同じく、米国の核兵器を使う唯一の権限を持っている。
- 米国は、何百発もの核兵器を一触即発の警戒状態に置いていて、攻撃を受けているとの誤警報に反応して間違って発射してしまうリスクが高まっている。
これらの方針は、冷戦時代からの残滓であり、米国民の安全を必要以上に低めるものである。候補者らは、国民に対し、これらの危険性を減らすために米国の政策をどう変えていくのかについて明らかにすべきである。
さらに、米国は、複数の軍備管理の取り決めから脱退しており、もう一つの取り決めからの脱退の下準備をしている可能性がある。そして、向こう数十年で1兆ドルをかけて保有核兵器すべてを改良型にすることを計画している。これらは、間違った方向へ向けた措置である。
人類は、その存続を脅かす脅威に直面している──気候変動と核戦争である。今こそ、大胆な行動と米国の指導力発揮の時である。解決を将来の世代に委ねることはできない。
私たちの子供や孫は、あなたに期待している。
《投稿コーナー》
地球温暖化と気象災害
~気候危機を回避するために~
気候ネットワーク東京事務所長 桃井 貴子
地球は、水と大気につつまれた、生命が命を育む美しい星です。大気は、主に窒素約8割と酸素約2割で構成されていますが、その中に温室効果ガスであるCO2がわずか約0.03%あることによって、地球の平均気温は約15℃に保たれています。もし大気中にCO2がなければ地球の平均気温は33℃も下がり、マイナス18℃という極寒の世界となるため、今のように多様な生物が存在する星ではなかったでしょう。そして、今、この絶妙な大気構成のバランスが大きく壊されようとしています。
人間活動によるCO2の増加が地球温暖化の主因
地球温暖化は、CO2の大気中の濃度が増えることによって起きています。その主要な原因は、地中に埋蔵する石炭、石油、天然ガスなど化石燃料を掘り起こし、燃やしてきた人間活動です。現代の人間社会では、発電所や工場、自動車や船舶・飛行機など、あらゆるところで化石燃料エネルギーを利用してきました。その結果、産業革命以前には280ppm(0.028%)だったCO2濃度は急速に増え、2018年は407.8ppm(0.04%超)になりました(2019年11月世界気象機関発表)。そしてこの間、地球の平均気温は約1度以上上昇していると報告されています。安全な気候を保つためには、CO2濃度を350ppm以下におさえるべきだという科学者もいますが、そのレベルを超え、400ppm超となった現状のレベルは、人類が自ら撒いた種で未だかつて経験をしたことがない非常に危険な水域へと突入したことを意味します。
温暖化で生態系に壊滅的な影響が
「地球温暖化」というと、気温が暖かくなって良いのではないか、と思う方もいるかもしれません。しかし、コトはそんなに単純な話ではありません。多くの生物にとって、温度が平均で1℃上がるというのは非常に大きな変化です。例えば、海のサンゴは平均水温が1℃あがると白化し、死滅します。現在、世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフを含め、世界各地のサンゴ礁で広範囲に渡って白化現象が確認されており、サンゴ礁を住処とする多様な海の生物が消えています。そして、たった1℃の平均気温の上昇の中で、北極海の海氷はかつてないスピードで溶け、シロクマを頂点とする北極域の生態系は大きく崩れつつあります。また陸上の氷河の融解は海面上昇を引き起こし、砂浜や海抜の低い土地は水没の危機に陥っています。陸上、海洋の多様な生態系が壊滅的な影響を受け始めているのです。
また、集中豪雨や干ばつといった気象の極端現象も地球温暖化によって起きるとされています。日本の直近の出来事でいうと、2019年の秋、巨大台風の上陸が続き、千葉県での暴風被害に加え、関東甲信越や東北地方の広範囲に渡って河川の堤防決壊や越水が起き、大規模な水害に見舞われました。これまでの台風は、太平洋の赤道近くで発達し、北上するにつれて勢力を弱めながら日本に上陸するパターンが多かったのですが、最近は地球温暖化の影響で日本近海の海水温が高くなっているため、高い海水温度によって台風が日本近海で発生し勢力を強めて日本に上陸しているのです。こうしたことからも、今、この地球で起きていることは、単に温暖化というより、様々な生命に壊滅的な影響を及ぼす「気候危機」ととらえる方が現実的です。そしてこの先、これまで以上に気候変動リスクはますます悪化します。
化石燃料を使い続ければ、今よりも大気中のCO2濃度は高くなり、地球の気温を上げていきます。産業革命前に比べて、地球の平均気温は約1℃上昇しましたが、危険な気候を回避するためには、気温上昇を1.5℃程度に抑えなければなりません。2016年に採択された「パリ協定」でも地球の気温上昇を「産業革命前に比べて2℃を十分に下回り、1.5℃に抑えるように努力する」ことが目標とされています。しかし、各国が掲げる削減目標では「パリ協定」の目標には遠く及ばず、今のようにCO2の排出が続けば、早ければ2030年には1.5℃上昇すると科学者は警鐘を鳴らしています。気温を1.5℃の上昇に抑えるためには、世界全体の温室効果ガスの排出量を早期に減少に転じさせ、2030年には2010年比で45%削減、2050年にはほぼ排出をゼロにする必要があるのです。
今やるべきことは「脱炭素化社会」の実現
ところが日本は今、「パリ協定」に逆行していると世界から大きな批判を浴びています。石炭火力発電所を推進しているからです。まず、東南アジアをはじめ、海外での石炭火力発電所の建設に多額の投融資を行っていること、さらに、日本国内で2012年以降50基もの石炭火力新設計画が浮上し、そのうちの30基以上が稼働もしくは建設工事をはじめ2020年以降に多数の新規計画が稼働することです。削減目標を高くかかげなおし、大幅削減が求められているところを、逆にCO2の排出を減らすどころか、これから増やそうとしているのです。
今やるべきことは化石燃料の使用を止め、人間活動によるCO2の排出を止めること。つまり「脱炭素社会」をつくることが鍵です。化石エネルギーの代替は、省エネと再エネがあります。気候危機を回避、人類が生存できる環境を残すために、私たちに残された時間がわずかしかないことを心に留め、エネルギー大転換を実現することが私たち世代の責任です。
(ももいたかこ)
加盟団体の活動から(第23回)
全水道の取り組み 全日本水道労働組合
水の未来を考える学習会 |
全水道は、1951年11月17日に結成された組合です。この半世紀にわたり、全水道には水道・下水道・ガス事業等に携わる地方公営企業、民間企業に働く労働者が集い組合員やその家族の生活や権利の維持・向上をはじめ、平和と民主主義、水環境を中心とした環境問題に取り組んできました。
現在、全国に8ブロックの地方本部を置き全国121の単位組合で構成して日々活動をしています。
水は大気、海、陸地をめぐります。森に涵養され、地表と地下を潤し多様な生態を維持しています。いま、わたしたちのまわりにある水は、やがては生まれくる子どもたちに欠かせない「生命の水」となります。水は、地球のいのちの記憶であり共有する財産です。
全水道は、水環境、水行政、水事業を統括する理念法として「水基本法」を制定すべきだと考えています。水基本法の理念は、第1に「水は共有の財産」とすること、第2に地域を水共同域として水環境の広域的な管理を確立することです。
いま、日本の水行政は省ごとに縦割り管轄されているため、水に係る施策は結果として個別の対症療法にとどまっています。
水基本法は、水循環の考え方に基づいて分立状態にある水関連施策の一元化を促すものです。
水が循環する星、それが地球です。しかし、人口の世界的な急増と水需要の増加は、いま、水の汚染と水不足を加速し、水をめぐる不平等さが拡大されつつあると言われています。
一方で日本は、人口減少が進む中、自然災害頻発と地震に対する耐震化など事業の基盤強化が問われています。
「生命の水」をめぐる問題は、新自由主義を標榜する流れに飲み込まれ、水道の商品化や世界的な格差の拡大によって安全な水へのアクセスができない人口は8~10数億人といわれ、健康不安や命の危機に直面しています。
全水道は、今後も「生命の水」の水道、「環境衛生での健康の維持」下水道、「公害防止」のガス事業を維持・発展させ、社会の中でさらに合意され機能する労働組合を確立すべく日々の運動を取り組んでいきます。
〔本の紹介〕
『なぜリベラルは敗け続けるのか』
岡田憲治著 集英社インターナショナル 2019年
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読み終えた直後、すぐさま読み返した。読書好きな方だが、こんなことはめったにない。それほど、気になる著書だった。安倍政権によって民主主義が危機だ。それは私達が負け続けた結果だ。ではなぜ負け続けているのか?その理由と、その上で今後どうすればいいのか著書は提起している。著者は出版にあたって多くの友人を失うことを覚悟したという。著者は読者や友人・知人らの反感・反発は必至と判断している。それ程インパクトのある内容だ。
左翼陣営の多くが、明らかな敗北でも敗北と認めない。成果を過度に強調し、敗北を認めないからこそ、敗北から学ぶことが少ない。そして改善や進歩が少ないのでまた、敗北を繰り返す。そして、敗北になれきってしまい。敗北への悔しさも希薄。そしてまた、敗北を重ねていく。これが戦後左翼の歴史ではないか・・・。これは、私の見解であり、この著書にはこんな表現はどこにも表れない。なぜ、リベラルは負け続けるのか、著者は、大人になりきれず子どもだから。善悪の二分化したがる。政治がなんだか全く分かっていないから、などと続く。
では、この著書が、なぜ友を失うことにつながるのか。実は、左派陣営の多くは批判を嫌悪する。厳しい総括、自己点検・自己反省を嫌がる。頑強な自己正当化という文化がいきわたっているところに、内側から、こんなところが問題なんだよ!と批判が出るのは、不快、嫌悪でしかないのだろう。
この10年間の国政選挙の結果を分析すると、民主党の政権奪取が2009年、その後の衆参選挙では左派陣営は7連敗している。この連敗記録が7という表記はなぜか誰も使わない。野党共闘成立でも、16年参院選以降3連敗。しかも大相撲に例えれば5勝10敗程度での三場所連続大幅負け越しである。三場所連続負け越しなら、横綱なら引退、大関なら大関陥落である。なぜ連敗は続くのか、この国の主権者として冷静に分析し自分なりの見解を持たなければならない。次の世代への飛躍のためにも、左翼陣営は再生が必要だと私は痛感している。再生には自己点検・自己反省が不可欠だ。この著書はその出発の契機となるかもしれない。
(富永誠治)
核のキーワード図鑑
武器に封じこめられ地球に終末の時 |
安倍改憲発議を許さない!
2020年の年明け、いよいよ、平和憲法を守るため、私たちは、安倍政権との戦後最大のたたかいを迎えます。
市民と立憲野党が連携し、安倍改憲発議を許さず、行われるであろう衆議院選挙に勝利し、安倍政権を退陣に追い込む年にしましょう!
安倍9条改憲を許さない、安倍内閣の退陣を要求する1・19行動
日時:1月19日(日)14:00~15:30
場所:衆議院第二議員会館前
主催:安倍9条改憲NO!全国市民アクション実行委員会戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
通常国会開会日行動(仮称・予定)
日時:通常国会開会日の12:00~13:00
場所:衆議院第二議員会館前
主催:安倍9条改憲NO!全国市民アクション実行委員会戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会