声明・申し入れ、2011年、東北アジア平和キャンペーン
2011年08月04日
中学歴史・公民教科書採択にあたっての平和フォーラム声明
2011年8月4日
中学歴史・公民教科書採択にあたっての平和フォーラム声明
フォーラム平和・人権・環境
事務局長 藤本泰成
今年4月に検定合格した「育鵬社」および「自由社」版の中学歴史・公民教科書について、平和フォーラムは、1.過去の日本によるアジア侵略戦争を事実をゆがめてまで肯定していること、2.国家主義的内容が多いこと、3.労働者や障害者、女性など社会的弱者の立場に立った人権的視点が不足していること、4.戦前の家父長的家族観に基づくなど、戦後の日本国憲法が示してきた国民主権・平和主義・人権尊重の社会観にそぐわないことを指摘してきました。また、アジア各国からその内容に不快感が表明され、将来のアジアとの外交政策への懸念も示されています。
平和フォーラムは、このグローバル化の中で国家間の垣根が低くなりつつある世界にあって、将来に向けて重要な役割を演ずるであろう日本の子どもたちが、世界から受け入れられることのない歴史観を学ぶことの「負」の側面を強調してきました。東シナ海、日本海をを挟んで接するアジア諸国は、将来にわたっての政治・経済・文化のパートナーであることは論を待ちません。歴史事実を認めることを自虐的として排除しては、世界には通用しません。今、私たちの社会に求められるのは、事実を認識した上で新しい友好関係をアジア諸国と築き上げることなのです。
新指導要領に基づく中学校用教科書採択にあたって、大阪府東大阪市、神奈川県藤沢市、横浜市、東京都大田区、神奈川県平塚中高一貫校などにおいて「育鵬社」版の歴史や公民教科書の採択が報告されています。これらは、地域社会や教育現場の声を無視した形で、教育委員会や学校長によって決定されています。このこともまた問題であるといわざるを得ません。子どもたちの使用する教科書は、保護者と教員が地域において相互信頼の中で主体的に決定すべきと考えます。平和フォーラムは、このような教科書採択が日本の将来に大きな禍根を残すであろうことに大きな懸念を感じざるを得ません。
教科書から自らに都合の悪い歴史事実を削り、日本人の誇りを取り戻そうとする姑息な手段は、世界に理解されないでしょう。「誇り」とは、社会に生きる一人ひとりが他人に恥じない生き方をしていることで求められるのです。それは、日本人としての誇りではなく、世界に生きているひとりの人間としての誇りなのです。
世界に冠たる技術と能力を持って戦後社会を切り開いてきた私たちが、将来世界で羽ばたくであろう日本の子どもたちに、事実を歪曲するとともに世界に通用しない歴史や封建社会に戻ろうとするかのような社会観を押しつけることがいかに愚かなことかは、火を見るよりも明らかです。戦前より引きずってきたアジア蔑視の世界観を断ち切り、勇気を持って「育鵬社」「自由社」版の教科書を採用しないことを、平和フォーラムは、各教育委員会に強く要請いたします。