11月, 2024 | 平和フォーラム

2024年11月30日

原子力空母「ジョージ・ワシントン」の横須賀再配備と日米韓共同訓練

木元茂夫

 11月22日、原子力空母「ジョージ・ワシントン」は、米海軍横須賀基地に再び配備された。2008年から2015年まで、はじめての原子力空母として横須賀に配備され、同型艦の「ロナルド・レーガン」と交替した。同じ空母が2回横須賀に配備されるのは、はじめてのことである。しかし、その性能は前回と同じではない。燃料棒の交換だけではなく、艦載機も一部が更新され、ステルス戦闘機F-35CとオスプレイCMV-22が新たに搭載された。1973年にはじまる米空母の母港配備は、とうとう51年になった。

 ジョージ・ワシントンは、日米韓共同訓練「フリーダム・エッジ」に参加したあと、横須賀に入港してきた。横須賀を中心に急速に進んだ日米韓の軍事協力について考察する。

 また、空母配備の2日前、空母の艦載機が配備されていた厚木基地の第5次爆音訴訟の判決が横浜地裁であった。4次訴訟では東京高裁までが認めていた自衛隊機の飛行差し止めが否定され、騒音地域は縮小され、多くの原告を賠償対象から排除する不当判決だった。合わせてこの判決の概要を紹介したい。

■日米韓共同演習と韓国艦隊の横須賀寄港

 11月に入って、日米韓の軍事行動が相次いだ。昨年8月のキャンプデービット声明以来の既定路線ではあるが、急速に具体化した。7月28日の日米韓防衛相会談共同プレス声明(注1)には、「北朝鮮による最近の核運搬システムの多様化、複数の弾道ミサイルの試験及び発射並びにその他の関連する活動を非難した。閣僚は、朝鮮半島の緊張をエスカレートさせ得る北朝鮮によるその他の挑発的な行動に対する懸念を表明し、北朝鮮に対してそのような行動を直ちに停止するよう強く求めた。さらに閣僚は、南シナ海を含むインド太平洋地域における最近の海空の軍事的活動について評価を共有した」とある。

 また、同声明には、「日米韓3か国安全保障協力枠組みに関する協力覚書に署名し、これが有効となったことを宣言した。当該枠組みは、朝鮮半島、インド太平洋及びそれを超えた地域における平和と安定に寄与するため、高級レベルでの政策協議、情報共有、3か国訓練及び防衛交流協力を含む、防衛当局間の3か国の安全保障協力を制度化するものである」とある。9月10日には日米韓防衛実務者協議(防衛政策局長、米国防副次官代行、国防部政策室長)が開催され、「制度化」の詳細が詰められたようである。

 この合意は11月に相次いで実行された。3日には「九州北西の空域」で、空の日米韓3か国共同演習が実施された。米空軍の爆撃機B-1と日米韓の戦闘機部隊、合計12機が飛行訓練をした(統合幕僚監部11月3日発表、NHKNEWSWEBは、「韓国南部・チェジュ島(済州島)の東側の上空」と報道)。航空自衛隊は福岡県の築城基地配備の戦闘機F-2を出動させた。5日、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は、この共同演習を非難する談話を発表した。

 7日には、韓国海軍最大の艦艇であるドック型揚陸艦「マラド」等3隻が、海自練習艦「はたかぜ」との「親善訓練」を紀伊半島の沖合で行って横須賀に入港した。訓練内容は「戦術運動と通信訓練」と発表された(海上幕僚監部11月7日)。

 中谷防衛相が視察に訪れ、艦長らと交流した。中谷は「海上自衛隊の練習艦の「はたかぜ」、これが、韓国海軍の揚陸艦の「マラド」、また揚陸艦の「チョンジャボン」、そして補給艦の「デチョン」とともに、戦術運動を実施いたしました。海上自衛隊の戦術技量の向上と、韓国海軍との友好親善及び相互理解の増進を図りました。こうした部隊レベルの訓練からですね、様々なレベルの分野において、戦略的な利益を共有する韓国との連携を強化」と発言。韓国艦艇の単独での入港は6年ぶりである(22年に海自主催の国際観艦式に補給艦「昭陽」が来航している。しかし、各国の乗組員が参加した同年11月3日の音楽パレードには参加せず、観艦式のみに参加して帰国した)。

 13日から15日まで、2回目となる「フリーダム・エッジ」日米韓共同演習が行われた。1回目は今年の6月27日~29日。統合幕僚監部も、米インド太平洋軍司令部も、訓練海空域の発表をしない(統合幕僚監部 11月13日発表)。日本と朝鮮半島の間の、微妙な海空域で訓練しているから明らかにしないということだろうか。

 米インド太平洋軍司令部は共同訓練の目的を、「第5世代戦闘機を洗練されたマルチドメイン防衛インフラストラクチャに統合することで、最先端の防空能力を実証しています。弾道ミサイル防衛、防空、対潜水艦戦、対水上戦、海上阻止、防衛サイバー訓練の複雑な分野に組み込まれることで、両国の軍事力と自衛隊は、あらゆる脅威に対して最高レベルで協力して活動することができるようになった」としている。ドメインとは軍隊の種類のことで、マルチドメインとは自衛隊用語では「複数領域」となり、「陸海空、サイバー、宇宙、電磁波」の部隊を指す。サイバーと電子・電磁波部隊、そして海上のイージス艦に防護された第5世代戦闘機が、防空戦闘を実行するという意味だろうか。

 統合幕僚監部の発表も、ほぼ同様である。

 「フリーダム・ エッジ24-2は、日米韓国防相が7月に署名した日米韓3か国安全保障協力枠組みに関する協力覚書に沿ったものであり」「この演習は、第5世代戦闘機を複数領域における高度な防衛基盤に組み込み、最先端の防空能力を実証するものです」

 参加した艦艇と航空機は下記の通りである(注2)

----------------------------------------------
●日本:護衛艦「はぐろ」(DDG180)、哨戒機P-3、戦闘機F-15、戦闘攻撃機F-2、早期警戒管制機E-767
●韓国:駆逐艦「ソエ・ユ・ソンニョン」(DDG993、漢字表記は、西厓・柳成龍)、「チュンムゴン・イ・スンシン」(DDH975、忠武公・李舜臣)、哨戒機P-3、ステルス戦闘機F-35、戦闘機F-15
●米国:原子力空母「ジョージ・ワシントン」(CVN73)
イージス駆逐艦「ヒギンズ」(DDG76)、「マッキャンベル」(同85)、「デューイ」(同105)、いずれも横須賀配備。
哨戒機P-8、ステルス戦闘機F-35、戦闘攻撃機FA-18、空中給油機KC-135
----------------------------------------------

 「第5世代戦闘機」とはF-35などのステルス戦闘機を指すが、航空自衛隊のF-35Aが参加しなかった理由は何なのか、統幕は何も説明しない。その代わりか早期警戒管制機(AWACS、機種はE-767)を参加させている。高精度なレーダーと解析装置で、相手航空機の位置情報を正確に把握し、日米韓の戦闘機と海上の艦艇にデータリンク等を使用して情報提供する役割を担ったのかも知れない。

 「複合的な弾道ミサイル対処訓練、防空戦闘訓練、対潜戦訓練、対水上戦訓練、海賊対処訓練及びサイバー攻撃対処訓練」とあるが、詳細な説明はない。確かに、米3隻、日1隻、韓1隻の計5隻のイージス艦の弾道ミサイル迎撃能力は相当なものだろう。一方で、米軍イージス艦に搭載された長距離巡航ミサイル・トマホークによる地上攻撃能力は、ステルス戦闘機F-35Cを中核とする空母艦載機の空爆能力とともに、北朝鮮は重大な脅威と受け止めただろう。

 11月23日、北朝鮮の国防省公報室長が談話を発表した(注3)

 「原子力空母ジョージ・ワシントン打撃集団を朝鮮半島周辺の水域に展開した米国は、13日から15日まで日本、韓国と火薬のにおいの濃い多領域合同軍事演習である「フリーダム・エッジ」を繰り広げた。また、18日にはロサンゼルス級攻撃型原潜コロンビアを釜山作戦基地に寄港させて核対決の雰囲気を鼓吹し、21日には戦略偵察機RC135Sを朝鮮東海の上空に飛行させて朝鮮民主主義人民共和国の戦略的縦深に対する露骨な空中偵察行為を働いた。
交戦双方の膨大な武力が高度の警戒態勢にあり、常時、軍事的衝突の可能性が徘徊する朝鮮半島地域で強行されている米国の軍事的挑発行為は、地域情勢を取り返しのつかない破局状況に追い込みかねない発端となる」

 この談話を見てもわかるように、軍事演習の応酬では何も解決しない。それなのに、演習・訓練を「制度化」する道を進んでいる。11月21日には空自航空幕僚長、米空軍参謀総長、韓国空軍参謀総長が初めてのテレビ会談を行い、同日ラオスでは、日米豪比韓5か国防衛相会談が開催された。このはじめての会談について防衛省は、「安全保障環境が大変厳しい中において、日米豪、日米豪比、日米比、日米韓の協力を含む同盟国・同志国の連携は地域の平和と安定にとって不可欠です」と発表した。これでは、北朝鮮は態度を硬化させるだけであろう。

 11月26日に防衛省と意見交換を行った。25年度予算で「地上電波測定装置の換装」に137億円が計上されているが、これは宮古島分屯基地のものかと質問したところ、「背振山分屯基地」のものと回答があった。「宮古島(沖縄県)は中国軍の電波情報の収集、背振山(佐賀県)は朝鮮半島の電波情報の収集と承知しているが、それで間違いないか」と訊ねたが、防衛省の担当者には「知見がありませんのでお答えできません」とかわされてしまった。予算の面でも、朝鮮半島の軍事情報の収集に力が入っているのは確かだ。

 27日には原子力空母エイブラハム・リンカーンが、マレーシアのクアラルンプールを出港した。アジアで作戦行動する空母は、ジョージ・ワシントンだけではない(11月27日NAVY.MIL)。しかし、米国が大規模な軍事力を集結させればさせるほど、緊張は激化するだけだ。

 何よりも重視されるべきは、しっかりとした対話の枠組みを北朝鮮との間で作り上げていくことである。相互の信頼回復、定期的な対話、それなくして何も始まらない。

■第5次厚木基地爆音訴訟に横浜地裁が判決

 1973年に空母が横須賀に配備されて以来、厚木基地は艦載機の拠点となった。これと対抗する最初の爆音訴訟は1976年に提訴された。第5次訴訟は2017年8月4日に、原告6063人で第1次の提訴がなされた。その後、2回の追加提訴が行われ、18年5月1日には原告8879人となった。一方、爆音の元凶であった空母艦載機のうち固定翼機約60機は、18年3月に山口県の岩国基地に移転した。厚木基地には空母とイージス艦に搭載されるヘリコプター部隊約20機あまりが残った。自衛隊は独特の「金属音」を出す哨戒機P-1を増加させ、ヘリコプター、輸送機C-130Rなどを運航している。海自の「航空集団司令部」が厚木基地に置かれているので外来機の飛来も多い。

 国・防衛省は訴訟中に騒音調査を行って、「2020年度分布図」を作成し、横浜地裁に提出してきた。5次訴訟の争点は、①岩国移駐後の騒音をどう評価するのか、②4次訴訟で東京高裁が認め、16年12月に最高裁が認めなかった、夜間・早朝の自衛隊機の飛行差し止めについて、どういう判断が示されるかであった。

 飛行差し止めの判決文を見ていこう。

 「厚木基地周辺における騒音問題は、遅くとも昭和35年頃(1960年)から、主として米海軍の戦闘機によって社会問題化していったものであるところ、自衛隊機の運航は、昭和46年7月頃(1971年)から継続してきたものであり、その被害は、軽視できるものではない

 これに対し、厚木基地における自衛隊機の運航は、我が国の平和と安全、国民の生命、身体、財産等の保護の観点から極めて重要な役割を果たしており、高度の公共性、公益性があるものと認められる

 また、周辺住民に生ずる被害を軽減するため、自衛隊機の運航に係る自主規制や周辺対策事業の実施などの対策措置が講じられている。これらには結果としては実効性の観点から疑問があるものの、自衛隊機の運航の必要性の程度は時々刻々と変化するものである以上、訓練以外の飛行等の多くが自主規制の対象とならず、自主規制においても例外が広く許容される余地があったり、その他の軽減措置が自衛隊機の運航に関わらない防音工事や移転措置等に留まるとしてもやむを得ない側面もある」

 妙な判決文である。「対策措置」に「実効性の観点から疑問がある」なら、何をすべきかを裁判所は指摘すべきであろう。それなのに「やむを得ない側面もある」と国・防衛省を擁護するのみである。

 判決文は続く。

 「また、自衛隊機の運航とは直接の関連はないが、原告らの被害の発生に大きく寄与していると考えられる米海軍の空母艦載機の岩国飛行場への移駐が完了しており、これは、騒音を相当程度軽減するものと評価することができる。

 これらの事情を総合考慮すれば、原告らの上記被害の程度を踏まえても、夜間の自衛隊機の運航、訓練のための自衛隊機の運航及び一定の騒音量を超えることになる自衛隊機の運航が将来にわたって行われることが、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとはいえない

 「一定の騒音量を超える」とは何と曖昧な言葉であろうか。どんな騒音を出しても飛行差し止めは出さない、そう言わんばかりの判決である。

 原告・弁護団は控訴を決定した。空母と艦載機の爆音、軍用機の騒音との闘いは、まだ続く。

注:
1 https://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/2024/0728d_usa_kor-j.html
2 統合幕僚監部報道発表資料(2024年11月13日付)
https://www.mod.go.jp/js/pdf/2024/p20241113_01.pdf
3 「朝鮮中央通信」(日本語版)(2024年11月23日付)
http://www.kcna.kp/jp/article/q/43ecc23bc109b102a72cf0b30f08b62d.kcmsf

2024年11月29日

「平壌宣言22周年 ストックホルム合意10周年記念シンポジウム」動画公開のご案内

2024年10月12日、「平壌宣言22周年 ストックホルム合意10周年記念シンポジウム」が開催されました。

シンポジウムでは、朝鮮新報社の金志永編集局長と「インサイダー」編集長で「ザ・ジャーナル」主幹の高野孟さんがそれぞれ講演し、ディスカッションを行いました。

講演の様子を収めましたので、ぜひご覧ください。

 

2024年11月28日

憲法で未来につなぐ平和の想い 第61回護憲大会を岡山県・岡山市で開催

「憲法で未来につなぐ平和の想い 憲法理念の実現をめざす第61回大会」(第61回護憲大会)を11月24・25・26日の三日間にわたり、岡山県・岡山市で開催しました。24日の開会総会・メイン企画には約1300人が参加しました。また、25日は分科会・ひろばやフィールドワーク、そして26日には閉会総会を開催しました。これらの日程のなかで、私たちの生活と権利の根本に存在している憲法の理念をどのように活かし、めざすべき社会を構想していくのか、それぞれ学習と議論を深めながら、引き続き全国各地でのとりくみを強化していくことを確認しました。

24日、オープニングとして岡山を代表する夏祭りである「うらじゃ」の演舞が披露されたのち、開会総会を開催しました。染裕之・実行委員長(平和フォーラム共同代表)から開会あいさつ、鳥越範博・副実行委員長(岡山県平和・人権・環境労組会議議長)が開催地からの歓迎あいさつを行いました。続いて、則松佳子さん(連合副事務局長)、柚木道義さん(立憲民主党岡山県連代表)、大椿ゆうこさん(社会民主党副党首)から連帯あいさつがありました。そして、谷雅志・事務局長が大会基調案を提案し、全体で確認しました。

メイン企画としてシンポジウム「日本国憲法は日本のアイデンティティーか」を行いました。染実行委員長をコーディネーターに、パネリストに飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)、下地茜さん(宮古島市議会議員)、畠山澄子さん(ピースボート共同代表)を迎えた本企画は、沖縄や日本各地、そして世界で実際に活動されている立場からの発言を受けつつ、実質的改憲の進行というべき危機的な現状にありながら、日本国憲法の存在をどう捉え、どう活かすのか。そして憲法破壊や戦争国家に向かう動きにどのように対抗していくのかをともに考える機会となりました。

25日午前は「非核・安全保障」「軍拡・基地強化」「人権課題」「歴史認識」「憲法を学ぶ」の5つの分科会を開催し、それぞれのテーマでの問題提起と質疑応答が行われました→分科会報告はこちら。また、ふたつ(「人権コース」「戦跡コース」)のフィールドワークも行われました。午後は「ひろば」として「映画『日本原 牛と人と大地』上映会」「基地問題交流会」を行いました。

26日の閉会総会では、特別報告として「福島第一原発をめぐる状況」「島根原発再稼働」「沖縄現地からの報告」「水俣病と柏崎刈羽原発再稼働をめぐる県民投票のとりくみ」についてそれぞれ報告されました。その後「遠藤三郎賞」・「平和運動賞」の授賞式を行いました。護憲・平和運動に貢献された個人・団体を表彰する「遠藤三郎賞」は江本秀春さん(北海道)、「八の日・平和を守る女たちの会」(徳島)、「反核9の日座込み」(長崎)に、非核平和条例などの自治体におけるとりくみに対して表彰する「平和運動賞」は静岡県平和・国民運動センターに贈られました。続いて谷事務局長からは3日間全体の内容についてのまとめ報告を行いました。次回の第62回大会開催予定地が神奈川県であることが発表され、神奈川より決意表明がありました。大会アピール案(本記事下部に掲載)が提案され、全体の拍手で確認しました。

総選挙では改憲勢力の3分の2割込みなどの一定の成果はあったものの、憲法をめぐる状況、そして国内外の情勢は決して安心できないどころか、非常に危険な状態にあります。私たちの職場・地域でのとりくみがよりいっそう大切になっていることを認識し、ともにがんばっていくことを呼びかけつつ、平和フォーラムとしても憲法理念に基づいた平和な未来を切り拓くために全力を尽くしていきます。

憲法で未来につなぐ平和の想い
憲法理念の実現をめざす第61回大会アピール

10月27日投開票の第50回衆議院議員選挙で与党が過半数割れし、改憲勢力は3分の2を割り込みました。このことによって、大きく国会内の風景が変化しています。野党に配分される委員長ポストが増えたほか、憲法審査会には立憲民主党・枝野幸男議員が会長に就任しています。

この間、衆参の憲法審査会で改憲発議それ自体を目的化した、「議論」と呼ぶのも憚られるような議論が横行してきました。とりわけ、衆院憲法審査会ではほぼ毎週の定例開催が推し進められる状況が続いてきてきましたが、今回こうした悪弊を絶ち、憲法理念をいかす政治へと転換する第一歩となることを期待します。

岸田前首相が一貫して掲げてきた改憲発議は、自ら政権を投げ出したことで最終的に実現不可能となりました。衆参ともに改憲勢力多数という厳しい状態ではありましたが、ここまで改憲発議を阻んできたことは、国会内外で連携しながら、地域や職場で地道にとりくんできたことの成果として、ともに確認し合いたいと思います。

政権を引き継いだ石破茂・現首相は強固な改憲派として知られており、2012年発表の自民党改憲草案の策定にも深く関与しました。また、2013年には自民党幹事長として、辺野古新基地建設に反対していた沖縄選出の自民党所属議員たちを恫喝し、容認に転じさせた張本人でもあります。

最近では、日米安保条約を相互に防衛義務を負うものに改定する意欲や核共有の議論の必要性を語っています。いっぽうで選択的夫婦別姓制度については容認から慎重姿勢に転じるなど、これまでの「党内野党」的な装いも投げ捨てています。しかし、政権発足からすぐに解散・総選挙という奇策を打ったものの、大きく議席を減らしたことで求心力が低下しています。とくに保守層からの支持を失っているいま、改憲をあらためて強く主張することで支持回復を狙う可能性があり、注意が必要です。

総選挙では一定の成果を得ることができましたが、「日本保守党」などの新しい保守勢力が登場していることに警戒しなくてはなりません。そして東京や兵庫の知事選であらわれたように、インターネットを駆使し、真偽定かならぬ情報をも利用しながら大衆を煽動するような手法が、相当の結果を生み出していることを見るならば、決して安心することはできません。

また、ロシア・ウクライナ、そしてイスラエル・パレスチナでの戦争は、いずれも深刻化しています。多くの市民が生命を奪われ、生活基盤を破壊されているなか、私たちをふくむ国際社会は、残念ながらこうした暴虐を止めることができていません。さらに、アメリカ大統領選挙でのトランプ勝利によって、世界情勢はいっそう混沌としています。しかし、こうした状況だからこそ、いまいちど私たちが拠って立つべき生活と権利の源である憲法理念に立ち戻りながら、私たちがめざすべき社会のあり方を、しっかり考え直すことが必要なのではないでしょうか。

私たちはここ岡山県・岡山市で、3日間にわたって開催された「憲法で未来につなぐ平和の想い 憲法理念の実現をめざす第61回大会」のなかで、ともすれば他人事のようにも感じられてしまう憲法という存在が、私たちの生活や権利と分かちがたく結びついていることを再認識しました。

私たちの平和な未来は、この憲法の理念をいかすなかでこそ、展望することができます。そして、私たちの未来を決めるのは、私たち自身です。一人ひとりのいのちと尊厳を軽視し、ないがしろにするような政治潮流に対して、真正面から立ち向かっていきましょう。そのことを確認し、本大会のアピールとします。ともにがんばりましょう。

2024年11月26日
憲法理念の実現をめざす第61回大会

アーカイブ動画

2024年11月23日

ニュースペーパーNews Paper 2024.11

11月号もくじ
ニュースペーパーNews Paper2024.11
表紙 上空から見た志賀原発と能登半島中部
*日米同盟と家父長制-性被害者へのやまない暴力-
 沖縄女性史研究家・ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会共同代表
 宮城晴美さんに聞く
*再審無罪の「ゴール」を、再審法改正の「スタート」へ
*「被爆体験者」は被爆者だ-これ以上、解決に時間をかけることは許されない-
*憲法理念をめざす第61回大会(岡山大会)について
*コラム 平和構築に向けて日本が果たすべき使命
*本の紹介 「人を動かす」D.カーネギー

2024年11月22日

2024ピーススクールを開催しました

2024年10月18日から20日まで、2泊3日の日程で、「平和フォーラム2024ピーススクール」を開催しました。今回、5回目の開催です。
全国各地から22団体30人(通しで27人、うち女性5人、申し込みは18団体から)が参加してくれました。職種や世代が違う4~5人ずつで、6グループを基本の形としました。
残念ながら、当初予定していた政治家と直接対話する講座や国会見学などは変更せざるを得なかったのですが、座学・フィールドワークを組み合わせるという点は変更なく実施できました。(内容は下記表に記載)

 

初日、開校式ののち、緊張をほぐすためのアイスブレイク(自己紹介などのレクリエーション)を行いました。
講演一つ目は、人権課題でした。移住者と連帯するネットワーク・事務局長の山岸素子さんから「外国人移住者との共生」に焦点を当て、移住者がどのような生活を強いられているかということ、法律や制度など、多角的にお話しいただきました。
続いて、岩手大学准教授の本庄未佳さんから「平和主義と立憲主義」を主軸に憲法前文と9条の関係性に触れた憲法の講義が行われました。自身の研究で分かった憲法前文の制定過程などを熱く参加者に伝えました。
夕食交流会では、参加者同士の交流のほか、講義の感想を直接講師に伝えに行く姿なども見られました。

2日目は、「人権問題総論」として、ノンフィクションライターの安田浩一さんから、身近にある人種差別や歴史的な差別による悲劇などを学びました。前夜に取材した選挙中に行われていた差別の現場の様子を例に取り入れるなど、多くの写真を用いて講演していただきました。
続いて、平和フォーラムの染裕之代表より、「新しい戦前を考える」をテーマに労働組合の政治への関わりを歴史的な出来事と絡めながら、「政治課題」の講義が行われました。午後に予定しているフィールドワークの19日行動を主催する総がかり行動実行委員会の結成の経緯などにも触れ、労働者として「平和運動」に関わることについて考えるきっかけなったはずです。
昼食をはさんで、戦争させない1000人委員会事務局長で弁護士の内田雅敏さんから「靖国問題」についての講演をしていただきました。午後のフィールドワークで訪問する「靖国神社」についての事前学習です。「石がなぜこの形なのか」、「どこから持ってこられたものなのか」など、戦時中の歴史を含めた講演となりました。
その後、全員で議員会館前に移動し、総がかり行動実行委員会主催の「19日行動」に参加しました。屋外での行動ということもあり、10月も中旬を過ぎたにも関わらず気温が高かったことは、大変だったかと思います。その後移動して、内田弁護士を案内役に遊就館や靖国神社内を回りました。なんとなく眺めていたら見落としてしまうような標記であったとしても、戦前に何があったかの説明を受けた上で見学すると見え方が大きく変わります。靖国神社内を見学し、ピーススクール会場に戻り、「靖国神社」に関する講演の続きを受け2日目が終了となりました。


最終日、平和フォーラムの谷雅志事務局長が、「原水禁課題総論」という括りで、被爆や原発など、原水禁運動がどのような志の元に行われているかを語り、そして、参加者にどのように関わっていきたいかと問いかけました。
その後、ピーススクールの総集編としてディベートを行いました。「安全保障に関する防衛力の強化」「原発推進政策」「労働組合の平和運動」の3テーマを賛成・反対と分け、各グループで議論を交わしました。自分の思いとは違う主張をしなければならない葛藤からか、妙に口調が固くなってしまう参加者の姿もありました。ディベート後の「本心ではなく、苦しかった」という感想がある一方、「今後の交渉の場面で役に立ちそう」という感想もありました。
閉校式は、参加者が輪になって座り、感想を伝え合いました。

2泊3日という日程は、長いようであっという間だったかと思います。多くの講座が詰め込まれ、参加前に「理解できるのか」と不安な気持ちを持っていた参加者からも、終了後には「参加して良かった」と好意的な感想をいただいています。
短い時間では、なかなか砕けた関係になることは難しいかもしれません。厳しくも楽しい時間を共に過ごした仲間だからこその絆ができ、平和運動の場で再開することを期待しています。

2024年11月08日

憲法審査会レポート No.45

衆院憲法審会長に枝野議員が就任の見込み

10月27日投開票の衆議院総選挙で、与党が過半数割れし、また改憲勢力も3分の2を割りました。この結果を受け、与野党の国対間で委員長ポストをめぐる協議が行われていましたが、憲法審査会の会長ポストが立憲民主党に割り当てられ、枝野幸男・衆議院議員が就任する見通しです。

この間行われてきたほぼ毎週の開催をはじめ、改憲発議を目的化した衆院憲法審査会のありさまに一定の歯止めがかかることが期待できますが、石破首相自身は強固な改憲派であり、今後の改憲をめぐる動向に対しては引き続きの警戒と注視が必要です。

(一部修正・追記しました)

【マスコミ報道から】

立民が衆院憲法審査会長ポストを確保
https://nordot.app/1227475408232284609
“衆院各派協議会は、憲法審査会の会長ポストを野党に割り当てることで合意した。立憲民主党が確保する。”

【速報】衆院の憲法審査会長に立憲・枝野幸男元代表が就任へ
https://www.fnn.jp/articles/-/784295
“衆院憲法審査会長は、立憲民主党が務めることになり、立憲は、枝野元代表を充てることを決めた。”

【参考】

改憲勢力が衆院の3分の2割り込み、改憲機運の後退必至…日本国憲法公布78年
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20241103-OYT1T50083/
“…衆院選で自公両党が過半数割れの「少数与党」に陥り、改憲に注力することは難しくなりそうだ。予算案や法案を成立させるためには野党の協力が欠かせず、「綱渡り」の国会運営が続くためだ。自公は議席の減少に伴い、憲法審の委員も少なくなる見通しで、自公主導で改憲議論を推進することも困難となることが予想される。”

憲法改正が「冬の時代」へ 改憲勢力後退、石破茂首相への不信感も根強く
https://www.sankei.com/article/20241028-KOIN6KRSXFKNZBLUPV45ZCUSIM/
“…国民民主の玉木雄一郎代表は28日、記者団に「自民は選挙で『改憲、改憲』と言っているが、本当にやる気があるのかどうか。もっとまじめに憲法改正に向き合っていただきたい」と強調。維新幹部は「自民は単独過半数も失った。寝言にしか聞こえない」と首相を突き放した。”

TOPに戻る