4月, 2024 | 平和フォーラム

2024年04月30日

平和フォーラム第26回総会を開催しました

4月26日、東京・連合会館において、「フォーラム平和・人権・環境第26回総会」を開催し、2024年度の運動方針を討論・決定しました。その際、以下の総会決議を採択しましたので、ここに掲載します。

フォーラム平和・人権・環境 第26回総会決議

ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻は3年目に入りました。ロシア軍の撤退や停戦合意の目途が立たないばかりか、ウクライナ東部地区を中心に攻防はさらに激しさを増しています。双方が戦争の長期化を見据え、依然として状況は緊迫しています。イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への侵攻から半年以上が経過しました。パレスチナ側の死者は既に3万2千人を超え、死者の約4割が幼い子どもたちです。イスラエルはガザ地区への人道支援物資を制限したうえで、物資の配給所や配給を待つ人々への攻撃も絶えることがなく、「飢餓が戦争の武器」となる不条理な状態にパレスチナの人々は置かれています。戦争に対する国際社会の足並みは揃わず、停戦に向けた有効な働きかけもできず、世界は一段と対立と分断の道を進んでいます。

こうした混乱する世界情勢を理由に日本国内では軍備増強が煽られ、財源確保のための大増税路線をひた走っています。今国会においても防衛装備移転三原則の運用指針が改定され、英国、イタリアと国際共同開発中の次期戦闘機の第三国への輸出を可能とすることが閣議決定されました。武器輸出を厳しく制限してきた日本の安全保障政策の大きな転換であり、殺傷武器の輸出は国際紛争を助長しかねず、平和国家の歩みに対する国際的な信頼も失いかねません。

こうした「戦争する国」の総仕上げとばかりに、岸田首相は改憲に向けた意欲を何度も口にし、憲法審査会では改憲そのものが目的化したように、改憲推進会派から改憲が声高に主張されています。自民党派閥の裏金問題は真相が解明されないなか、岸田首相は関係議員を処分しましたが、恣意的な判断に自民党内からも不満が噴出しています。政治への信頼を損ねた自民党に憲法を論じる資格はありません。

日本国憲法は、大きな犠牲を払った悲惨な戦争の反省から、人々の平和と民主主義の願いの下に生まれました。どんな理由があろうとも二度と戦争はしないと誓った憲法第9条は、戦後の混乱と絶望の時代から今日まで、人々に大きな希望と生きる勇気、平和な社会の大切さを示し続けました。基本的人権の尊重、戦争放棄の平和主義、国民主権、これが日本国憲法の最も大切な三原則であり、私たちがこの間、一貫して共有してきた理念です。

安倍晋三元首相は、武力を背景とした国家安全保障戦略を「積極的平和主義」と称しました。こうした武力を背景とした国家安全保障戦略は、とどまることを知らぬ武力強化の応酬につながるばかりか、ひとたび戦争が勃発すれば憎しみと恨みの温床と化す恐れが常に内在します。そのことは現在の世界情勢や過去の歴史を見れば明らかです。日本国憲法の精神は、武力を背景とした」国家安全保障戦略とは対極にあります。混迷する世界情勢の中で、日本国憲法の精神こそ大切であり、こうした精神を現実のものとするべく努力することが重要です。
憲法の解釈を捻じ曲げ、くらしを破壊しながら進められている軍事力の拡大を、なんとしても阻止しなければなりません。私たちが求めているのは、自由で安全なくらしと、すべての人が個人として尊重される社会であり、立憲主義と法の支配により権力者を縛る主権在民の民主主義社会です。

平和フォーラムは、常に一人ひとりの命の尊厳を基本に据えてとりくみを積み重ねてきました。日本国憲法の理念のもと、これまでのとりくみの正しさに胸を張り、これまでの成果を引き継ぎ、私たちが歩んできた道をゆるぎない信念を持って進むことを今総会の参加者で確認し、宣言します。

2024年4月26日
フォーラム平和・人権・環境第26回総会

2024年04月30日

「アル・アクサ―の洪水」作戦から7か月 ~西側諸国の誤算とパレスチナ解放運動・連帯運動の到達点

役重善洋

1.はじめに

昨年10月7日に「アル・アクサ―の洪水」作戦が発動されてから7か月が過ぎた。イスラエルはガザ地区北部から次第に南下し、徹底的な空爆と地上侵攻とを組合わせた「ハマース殲滅作戦」を継続してきた。その間、4万人以上の住民がイスラエル軍によって殺害され、住民230万人のうち200万人以上が避難を余儀なくされ、飢餓の淵に立たされている。そのような中、当初、西側諸国によって表明されたイスラエル軍の作戦への支持の前提となる認識のいくつかはその根拠が崩れてしまったか、あるいは崩れつつある。以下、5つの論点を掲げる。

2.10月7日のイスラエル側の犠牲者1200人は誰によって殺されたのか?

イスラエルはハマース戦闘員によって殺害されたイスラエル人の人数を1200人(当初は1400人)と主張し続け、日本のメディアもそれを事実として報道してきた。しかし、戦闘を生き延びたキブツ住民によって、イスラエル軍はハマースの戦闘員とイスラエル市民と区別することなく攻撃をしていたとの証言が行われたり、アパッチヘリからの無差別爆撃の様子と見られる映像がリークされたりする中で、1200人のうちかなりの部分はイスラエル軍によって殺害された可能性が濃厚となっている。事件直後に報道されたノヴァ音楽祭参加者の乗っていた何百台もの車が破壊された様子は、ハマースの装備によってもたらせるものではないことは素人目にも明らかである。さらに、イスラエルによって主張されてきた、ハマースによる幼児殺害や強姦は、まったくの捏造か、あるいは直接的根拠がまったくないことが分かっている。欧米諸国は10月7日の作戦の直後、ハマースの「テロ行為」を糾弾し、イスラエルの自衛権を擁護するとの立場を一致して明確にしてきたが、その前提となる事実認識が早い段階で大きく揺らいでいた。今のところ、示し合わせたかのように大手メディアはこのことを報じていない。メディアの自己検証能力が試されている。

3.世界で最も道徳的な軍隊?

イスラエルはこれまで西側諸国の政治的・軍事的支援を得るため、自らを民主主義的で道徳的な国家であると宣伝してきた。例えばガラント国防相は、昨年10月13日にテルアビブで行われたオースティン米国防長官との共同記者会見で、「これは、成功した国家としての、民主主義国家としての、また、ユダヤ民族の故郷としてのイスラエルの存在を守るための戦争である。これは、自由、そして我々の共通の価値を守るための戦争である」と述べている。ところが、その後ガザから流れてくる凄惨な映像によって、こうしたプロパガンダに根拠がないことが白日の下に晒されることとなった。

イスラエル兵のモラル崩壊状況も兵士たち自らのSNS投稿によって明らかにされた。商店に陳列されている子供用の人形を破壊する様子、配給用の食料や水に放火する様子、パレスチナ人捕虜にイスラエル国旗を被せ、記念撮影をする様子などが拡散されている。ガザの破壊跡のあちこちに書かれた人種差別的落書きが報道されたため、落書きの消去命令が出されると、「落書きを消すかわりにガザを消去しよう」と書いた落書きと一緒に記念撮影をするイスラエル兵が現れるなど、歴史上のあらゆる侵略軍の例に違わず、軍紀紊乱を正すことができないイスラエル軍の状況が明らかになった。

昨年11月には米国務省で武器移転を監督していた幹部職員が、イスラエルへの無批判な軍事援助を批判して辞職したことがマスメディアでも注目された。今年4月には超正統派ユダヤ教徒から構成され、多くの人権侵害事件を引き起こしていることで悪名高い「ネツァ・イェフダ部隊」に対する制裁にブリンケン国務長官が言及するなど、11月の大統領選を控えるバイデン政権は、イスラエル支援の在り方を修正せざるを得ない状況に追いやられている。

4.ガザ武装勢力の実力に関する誤算

イスラエル軍は、10月中旬にガザ地区北部住民に対し「ワディ・ガザ」以南への避難命令を出し、さらに12月、南部の町ハンユニス住民の一部に対しても非難を命じ、ガザ住民の大部分が最南部の町ラファに集中する状況を作り出した。さらにラファに対する侵攻へと突き進みつつある。ラファに残るハマース等抵抗勢力の最後の4つの大隊を解体するためだと説明されているが、そうこうしている間に、抵抗勢力の解体を宣言していたはずのガザ北部でイスラエル軍に対する激しい攻撃が再開されている。戦況はまさにモグラ叩きの様相を呈している。ハマースは、持久戦の用意があると宣言しており、ラファへの軍事侵攻がハマースの全面的解体をもたらす見通しはまったくない。

このような状況を受け、米バイデン政権は、イスラエルに対しラファへの大規模侵攻を止めるよう強く要請し、カタルとエジプトの仲介による停戦交渉の妥結に向け、外交努力を加速している。ネタニヤフ政権に参加する極右政党指導者のベングヴィール国家安全保障相とスモトリッチ財務相は停戦合意するのであれば政権を離脱するとネタニヤフ首相に揺さぶりをかけている。彼らが政権離脱すれば政権が崩壊することは免れ得ず、汚職をめぐる裁判を抱えるネタニヤフ氏の政治生命は断たれる可能性が高い。イスラエル政府は、合理的な政治判断ができる状況にないと言わざるを得ない。

5.アラブ大衆の政治意識に対する過小評価

「アラブの春」以降、中東・アラブ地域における大衆運動は依然として厳しい政治状況下にあり、ガザへの連帯の表明は多くの国――とりわけ親米アラブ諸国――において政治的に危険視され、弾圧対象となっている。エジプトやヨルダンでは、パレスチナ連帯デモは厳しく制限され多くの活動家が逮捕されている。UAEやバーレーン、サウジアラビアでデモを行うことはほぼ不可能でありオンライン上の活動も厳しく監視されている。

一部湾岸産油国を除き中東地域の経済は低迷しており、ガザの人々への連帯は、政権批判に容易に結びつく状況にある。そうした中でアラブ諸国の指導者たちは、政権の道徳的正統性を示すためのポーズとしてイスラエル批判をしながらも、同時に西側からの経済投資を呼び込むための方策として、また反対派から政権を防衛するための軍事・セキュリティ技術を求めて、イスラエルと接近しようとする傾向を示してきた。同時に、中東における米国の軍事的プレゼンスの縮小を受け、中国との外交・経済関係を強化する動きも活発になっている。UAEやサウジアラビアなどにおいては、イランとの関係正常化が進められてきている。このような中東諸国における全方位外交の傾向に対し、イスラエルはイランに対する国際的な制裁が緩和されることについて危機感をもち、4月1日には在シリア・イラン大使館を空爆するなど、挑発行動をエスカレートさせている。

他方、ハマース等パレスチナ抵抗勢力も、アラブ諸国とイスラエルとの関係正常化の動きに強い反発を示してきた。とりわけ、サウジアラビアは、米国の仲介の下、イスラエルとの関係正常化交渉を進めており、2023年9月には交渉妥結の直前とまで言われていた。「アル・アクサ―の洪水」作戦が敢行されたタイミングが、この政治状況と密接にかかわっていることは間違いないだろう。

サウジとイスラエルの関係正常化への動きは、一時中断を余儀なくされたものの、その後も米国は、イスラエルの停戦受入れの条件として追及し続けている。サウジ側は、米・サウジ安全保障協定の締結や平和的核開発の支援を条件として掲げており、大枠での合意はすでになされている。こうした米国の動きにおいて欠落ないし軽視されていると思われているのは以下の点である。

①アラブ諸国の一般大衆におけるイスラエルに対する不信はかつてなく高まっており、イスラエルとの接近はアラブ権威主義体制の基盤を揺るがすリスクを高めるということ。
②イスラエルの政治と社会における民族宗教派(急進的宗教右派)の影響力はますます深まっており、停戦後、安定した政権運営が行われる保証はまったくなく、したがって、①で述べたリスクが減少する見通しもないこと。
③パレスチナ大衆のPLO指導部に対する不信は極めて高く、他方、ハマース等抵抗勢力に対する評価は高まっている。ハマースを合法的にパレスチナ指導部に組み込む以外に、安定したパレスチナの戦後復興は望めないということ。

6.イスラエルの自衛権とは何か?

ハマースの攻撃に関して、「イスラエルの自衛権」という概念がまったく自明ではないことは、ラトガース大学で教鞭を取る国際法の専門家ヌーラ・エラカートなどによって、攻撃直後から正しく指摘されている。つまり、国連憲章で述べられている国家の自衛権は国外勢力に対する自衛権であって、自国の占領地人民の抵抗運動に対して自衛権概念は適用され得ないという議論である。アパルトヘイト時代の南アフリカ白人政権がアフリカ民族会議に対して自衛権を主張し得ず、米国政府が黒人解放運動に対して自衛権を主張し得ないのと同じことである。

「イスラエルの自衛権」を批判するときに、ガザ地区や西岸地区がイスラエルの占領地だということの指摘だけでは十分ではない。ガザ地区の境界は第一次中東戦争においてイスラエルとエジプトとの間で取り決められた暫定的休戦ラインに過ぎない。ガザ住民の大半は現イスラエル領内に帰還する権利を有するパレスチナ難民であり、「アル・アクサ―の洪水」作戦に参加した多くの若者たちは、この帰還権を実力で履行しようとしたに過ぎない。

ところが、「ユダヤ人」に対する強いステレオタイプが残存する欧米社会においては、セルフイメージを投影するかたちでイスラエルをユダヤ人の国民国家だとする認識が浸透しており、その構成員ないし準構成員にパレスチナ人がいるという事実を認めることができず、この問題を民族対立ないし宗教対立というようにしか理解できない状況がある。現在イスラエルが支配する領域のマジョリティはパレスチナ人である。欧米流民主主義の原則に立つならば、「イスラエルの自衛権」にはパレスチナ人の自衛権が含まれてしかるべきであり、その自衛権を徹底的に踏みにじっているのは他ならぬイスラエル政府なのである。

この間、欧米諸国では「川から海までパレスチナを解放しよう」というスローガンがイスラエルの存在を否定しているという理由で反ユダヤ主義に当たるという議論がなされている。英国ではこのスローガンを演説で述べたために労働党議員が議員資格停止の懲罰を受け、米国ではこのスローガンをSNSで流したためにラシーダ・タリーブ下院議員に対して問責決議が可決された。ドイツのベルリン市では「川から海まで」を扇動罪の対象とする決定がなされた。

こうした動きにもっとも激しく抗議しているのは若い世代のユダヤ人たちである。シオニズムに対して距離を置き、「パレスチナが解放されるまでユダヤ人の解放はない」と主張する彼らは、各国におけるパレスチナ連帯運動を牽引しているといっても過言ではない。「ユダヤ人解放」をイスラエル国家から切り離し、よりインクルーシブで普遍的な文脈から再解釈しようとする彼等のスタンスは、様々な被抑圧者の運動とパレスチナ連帯運動とを結びつける動きにおいて重要なインスピレーションを提供している。国民国家を単位とする第二次世界大戦後の国際秩序認識は、ガザの惨劇を受け、大きく揺らぎつつある。ポスト国民国家の時代における社会連帯のイメージの形成がパレスチナ連帯運動の中でなされつつあると言っても良いだろう。

7.おわりに:日本の課題

10月7日以降、日本においても若い世代によるパレスチナ連帯の声が大きな拡がりを作りつつある。そこでは、旧来の連帯運動の枠を超えて、在日アラブの若者の主体的参加や、撮影禁止ゾーンやUDトーク(自動文字起こしサービス)の導入など、デモをよりインクルーシブにするための新たな運動文化の導入が見られる。

冷戦後、日本外交は対米追従の度合いを深め、また、日本の社会運動・平和運動も一国平和主義的志向が強く、グローバルな運動潮流と十分にシンクロできずにきた面がある。欧米のパレスチナ連帯運動においてアラブ・イスラーム世界にルーツをもつ移民2世・3世の世代が大きな影響を持つようになっていることを考えれば、日本の社会運動の先細り状況を打開する一つの鍵は、民族・世代・障害の有無・性別・SOGI等々、異なる属性のコミュニティに積極的に運動を開き、連帯の視点を広げていくような工夫と発想の転換が必要であるように思う。

ガザで日々殺されている人々、日々死ぬ思いで生きている人々は、決して無駄な犠牲を払っているのではない。彼/彼女らは人類が突き進みつつある文明崩壊プロセスの方向を転換しようとする共同作業を最前線において闘っている人々であり、私たちは、彼/彼女らに生かされつつ、その闘いに創造的に合流していく必要がある。

2024年04月26日

憲法審査会レポート No.36

4月25日、衆議院憲法審査会が開催され、今国会3回目となる自由討議が行われました。
いっぽう、参議院憲法審査会幹事懇談会は24日に開催され、5月8日に自由討議を行うことで合意しました。

【参考:参議院憲法審査会をめぐって】

参院憲法審、5月8日の実質審議開催で合意 参院の緊急集会は合意至らず
https://www.sankei.com/article/20240424-WUS2ZTCD2RNQHGK5BHT5H6QNLQ/
“参院憲法審査会の幹事懇談会が24日開かれ、今国会初の実質的な審議を5月8日に開催することで合意した。「憲法に対する考え方」をテーマに自由討議を実施する。自民党は衆院解散後の緊急時に参院が国会機能を暫定的に代行する第54条「緊急集会」に関して5月15日にも自由討議を行うべきだと提案したが、合意には至らなかった。”

参院憲法審査会、来月8日に初の実質討議 テーマ決めは難航の見込み
https://www.asahi.com/articles/ASS4S2RKJS4SUTFK01SM.html
“…緊急時に国会議員の任期を延長するための改憲原案づくりは、衆院憲法審で焦点となっているが、参院の緊急集会の存在意義にかかわる。そのため、公明の参院側は議論には応じるものの、任期延長のための改憲は不要との立場をとっている。”

2024年4月25日(木) 第213回国会(常会)
第4回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55188
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

自民「広報協議会の議論加速を」 衆院憲法審が自由討議
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024042500468&g=pol
“衆院憲法審査会は25日、今国会3回目となる自由討議を行った。憲法改正の発議があった際に国会に設置する「国民投票広報協議会」に関し、自民党の寺田稔氏は「規定の条文化作業など、権限や役割についての議論を加速させるべきだ」と述べた。”

自民求める改憲原案起草委、設置メド立たず 本気度に疑問の声も
https://www.sankei.com/article/20240425-BU6M3Z4AXNJF5D3OFKMKA3OTSI/
“起草委を巡っては与党筆頭幹事の中谷元氏(自民)が重ねて設置を訴えているが、実現の目途は立っていない。憲法審終了後、中谷氏は記者団に「(立民から)全く答えがないという状況だ」と述べるにとどめた。”

衆院憲法審査会で自由討議 緊急事態での議員の任期延長など
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240425/k10014432901000.html
“立憲民主党の逢坂代表代行は「大規模災害時などに議員の任期を延長すべきだという議論が出ているが非常に安易だ。『何でもいいから憲法を変えればいい』という議論に思われ、まずは災害時などの緊急時に選挙ができるような工夫を最大限行うべきだ」と述べました。”

【傍聴者の感想】

若葉が芽吹く季節、この日も国会見学の子どもたちが大勢いました。国会は国権の最高機関であって国の唯一の立法機関であること、法律の制定や予算の審議・議決、憲法改正の発議などが大きな役割であると学んだことを思い出しながら、今の政治が本当に子どもたちに胸を張れる議論が出来ているのだろうかと、疑問を抱きつつ子どもたちの背中を見送りました。

直近の衆院憲法審査会の議論は、緊急時の対応として緊急事態条項を憲法に創設し、議員任期延長を可能とすることを憲法に明記すべき、議論は出尽くしたとする主張が改憲推進5会派から続いています。この日も日本維新の会の小野委員からは、「お互いの意見が出尽くしたのであれば、採決するのが民主主義ではないか、このままだらだらと進めるのか、自民党の決断を求める」と、改憲を党是とする自民党を煽る発言がされています。

有志の会の北神委員からは「緊急事態が起きてから「想定外でした」ではだめ。国会機能の維持に絞って発議に向けて条文案作りを進めるべき」と意見が出され、自民党の山田委員は「緊急事態について「なぜ?」の段階は過ぎた」といった主張が繰り返されました。

こうした与党や一部野党の主張に対し、立憲民主党の逢坂野党筆頭幹事は、自身の自治体職員時の経験を踏まえながら、「1993年の北海道・奥尻地震の際も、苦労はしたが選挙は実施した。本当に災害時に選挙はできないのか、災害にも強い選挙方法はないのか、そういう議論こそ必要ではないのか」と、改憲推進派の主張に反論しました。

日本における参政権は、憲法第15条において「国民固有の権利である」と定められています。参政権とは国民の権利の一つであり、過去の判例においても「参政権は国民主権に由来し認められる」と判断されています。主権とは「国を統治する権力」のことです。災害時などの緊急時を例に挙げ、憲法の基本的理念の一つである「国民主権」を制限し、国会の権限を強化することは本末転倒の主張で許されるものではありません。さらに逢坂野党筆頭幹事は、度重なる岸田首相の改憲に前のめりの発言は、落ち着いた議論の阻害要因であると批判しました。

この日の議論の特徴として、憲法改正の発議があった際に国会に設置し、国民への広報に関する事務を担う「国民投票広報協議会」に関して意見が出されました。自民党の寺田委員は「既定の条文化作業など、権限や役割についての議論を加速させるべきだ」と主張。公明党の北側幹事も「国民投票は往々にして政権に対する信任投票になりがちで、改憲の内容を国民に支持してもらうためには、発議までに国民に理解してもらう努力が必要で、広報協議会の役割は重要である」と同調しました。

国民民主党の玉木委員は「今国会の審査会も残り7回である。緊急事態条項に絞って発議に向けた議論を進めるべき。いついかなるときも国会機能を維持することが目的であって、緊急事態条項という名称は国会機能維持条項に変えるべき」と主張。自民党の中谷与党筆頭幹事は「名称変更は検討したい。幹事懇で条文案作成すべきとの意見もある。反対会派にも出席をいただいて熟議を重ねる必要がある」と応じました。

今国会では、次期戦闘機の第三国への輸出を可能とすることが、国会審議も経ずに閣議決定されました。その他にも衆院を通過した「経済安全保障推進法」は、個人のプライバシーといった人権侵害の懸念があります。「地方自治法の一部改正案」は、国と地方自治体の関係を対等とする地方分権に逆行しかねない法案です。数の力で押し切る民意を無視した与党の強行姿勢は容認できません。憲法も法案も腰を落ち着けた丁寧な議論こそ必要だと感じます。

未来を担う子どもたちが、希望に胸を膨らませることができる、そうした社会をつくることは大人たちの責任です。

【国会議員から】牧義夫さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

これまでの憲法審査会の議論が嚙み合っていないと感じています。

改憲を急ぐ皆さんのお話を伺っていると、内容はともかく改憲そのものが目的化しているようにしか聞こえません。改憲の必要性や立法事実に疑問をもつ者の一人として、その理由を述べさせていただきます。

緊急事態条項の創設について、2022年参院選の際のネット投票に関するアンケートで、各党が実現に賛成と回答しており、反対表明はありませんでした。2021年提出のネット投票法案には、国民民主党も日本維新の会も共同提出者になっています。与党が判断すれば、明日からでも実施に向けた具体的な検討に入ることができます。国会審議についても、リモート機能で対応できることはパンデミックの経験を通じて実証済みです。

次に、教育無償化についてです。現行憲法で義務教育無償化は保障されています。そのうえで、高等教育無償化についても国連人権規約(A規約)にある「斬新的無償化」の条項を、長年にわたってわが国は留保してきましたが、2012年、民主党政権によって留保が解除されています。

次に、9条についてです。岸田政権は2022年12月、専守防衛の原則に基づく従来の安保政策を大転換し、新たな防衛三文書を閣議決定しました。防衛費をGDP比2%に倍増し、「敵基地攻撃能力」つまり先制攻撃容認に踏み切りました。この時点で既に現行憲法を逸脱しています。自衛隊の明文化という意見もありますが、世界最大の軍事大国のアメリカにおける軍隊の位置づけを見ると、アメリカ合衆国憲法の第8条(連邦議会の立法権限)の12項に「陸軍の編成(歳出の承認は2年を超えない)」、13項に「海軍の創設と維持」、15項に「反乱鎮圧のための民兵団の召集」がありますが、海兵隊や宇宙軍、サイバー軍などは明記されていません。

防衛力の増強こそが抑止力の強化につながるとの意見もあります。私は現行憲法の9条1項、2項の存在こそが何よりも戦争抑止力になっていると思います。「自らは戦争しない」と謳っている国に対して武力攻撃を仕掛けることは、国際社会の中で相応の避難と制裁を覚悟しなければなりません。今回の敵基地攻撃能力保持で、その抑止力の一部が損なわれることを危惧します。

ロシアによるウクライナ侵攻は、大いに非難されるべきものではありますが、NATOの東側への拡大やウクライナのNATO加盟への意思、つまりロシアに対する挑発が無ければ、或いはロシアを侵攻に至らせなかったことも可能だったとの見方もあります。

以上、立法事実に関して述べさせていただきました。

次に、改憲推進5会派の思惑もそれぞれであることを、先週の審査会での維新委員の発言を聞いて感じました。「予算委員会のときは委員長職権で押し切られ悔しい思いをしたが、当審査会でこそ会長の職権で前に進めてほしい」という旨の意見でしたが、私は責任ある与党が軽々にそうした無責任な挑発には乗らないと信じています。

なぜならば、責任ある与党の皆さんは、現行憲法の成り立ちについて十分に理解し、現実を踏まえ、特に9条についても既に解釈改憲で事足りると考えているのではないかと思われ、岸田総理の発言も自民党支持層に向けての単なるリップサービスだと理解しています。
憲法について深い議論を重ねることは大いに歓迎しますが、かつての「首都機能移転」の時のように、最後に各論に入ったとたん、それぞれの思惑の違いから破たんすることが容易に想像されます。

先ほど「現行憲法の成り立ちについて」と申し上げました。昭和21年に成立した日本国憲法が、GHQから押し付けられたものかそうでないのかの議論をここでするつもりはありませんが、少なくとも占領下で制定された憲法であることは事実です。

本来であれば昭和26年サンフランシスコ平和条約で主権回復したことで、改めて新憲法を制定することもできたかではなくて、敢えて自らの意思で現行憲法を保持することを決めたと解すべきで、それならばポツダム宣言第12項の趣旨にも沿っています。

ここで忘れてならないのは、平和条約と同時にその陰で日米安保条約・行政協定(地位協定)が結ばれたということです。占領が解除されると同時に、アメリカが望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を約束したわけです。

日米安保条約(地位協定)を見直すといった真正面からの議論であれば、「お試し改憲」のような不毛な議論よりも、もっと意味のある議論になると思います。

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改憲をめぐる正念場!
憲法審査会の現状を把握するために、ぜひ本書のご活用をお願いします。
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著者:吉田はるみ(立憲民主党・衆議院議員)
新垣邦男(社会民主党・衆議院議員)
打越さく良(立憲民主党・参議院議員)
杉尾秀哉(立憲民主党・参議院議員)
飯島滋明(名古屋学院大学教授)
編集:フォーラム平和・人権・環境
発売:八月書館
内容:A5判並製・76ページ
定価:本体900円+税

(憲法審査会での発言から)

2024年04月25日

動画「【徹底解説】『戦争する国づくり』の一環 改正地方自治法案」のご紹介

「地方自治法の一部を改正する法律案」(改正地方自治法案)が3月1日閣議決定され、国会に提出されています。「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」に国が地方自治体に指示できるとするものですが、これは憲法の平和主義に基づく「地方自治」の趣旨をねじ曲げるにとどまらず、緊急事態条項導入の改憲を先取りする内容で「戦争する国づくり」につながるものです。

今回、平和フォーラムは憲法学者の飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)のご協力を得て、動画「【徹底解説】『戦争する国づくり』の一環 改正地方自治法案」を作成しました。この法案の問題点がわかりやすく解説されていますので、ぜひご覧ください。また、ご家族・ご友人などにもご紹介いただけますと幸いです。

【徹底解説】「戦争できる国」づくりの一環 改正地方自治法案

2024年04月24日

ニュースペーパーNews Paper 2024.4

8月号もくじ
ニュースペーパーNews Paper2024.4
表紙 最近の活動から
※インタビュー「珠洲になくてよかった」という過去形にしたくない 志賀原発を廃炉に!訴訟原告団 北野進さん
※2024 教科書検定、歴史教科書を考える
※経済安保版・秘密保護法案の問題点
※3.1ビキニ・デー全国集会報告
※国に任せられない緊急事態!

2024年04月22日

動画「【徹底解説】平和・人権・民主主義を揺るがす 経済安保情報保護・活用法案」のご紹介

「経済安保情報保護・活用法案」が4月9日衆議院本会議を通過、17日には参議院本会議で審議入りしました。この法案は特定秘密保護法(2013年)よりさらに秘密とされる範囲や対象、刑罰を拡大するもので、民主主義の土台である「知る権利」を侵害したり、憲法の平和主義を形骸化させるおそれがあります。

今回、平和フォーラムは憲法学者の清水雅彦さん(日本体育大学教授)のご協力を得て、動画「【徹底解説】平和・人権・民主主義を揺るがす 経済安保情報保護・活用法案」を作成しました。この法案の問題点がわかりやすく解説されていますので、ぜひご覧ください。また、ご家族・ご友人などにもご紹介いただけますと幸いです。

【徹底解説】平和・人権・民主主義を揺るがす 経済安保情報保護・活用法案

【参考】清水さん作成レジュメ( PDF )

2024年04月19日

憲法審査会レポート No.35

4月18日、衆議院憲法審査会が開催され、今国会2回目の自由討議が行われました。

参議院憲法審査会については17日、幹事懇談会が開催されましたが開催合意に至らず、再度24日に幹事懇開催の予定です。

【参考】

参院憲法審、「脱牛歩」見通せず 「参院の緊急集会」議論に立民が異論 次回も幹事懇
https://www.sankei.com/article/20240417-MA6J4J2DBNLZJPQCQENNUAKSSM/
“この日は結論が出ず、24日の参院憲法審の定例日は再び幹事懇を開いて議論を続ける。”
“大型連休を踏まえ、佐藤氏は本格的な憲法審を5月8日に開きたい考えだが、合意には至っていない。”

2024年4月18日(木) 第213回国会(常会)
第3回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55137
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【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

自民、早急に改憲案作成 立民拒否「論点は多岐」
https://nordot.app/1153528746306405302
“自民党は緊急事態時の国会議員の任期延長を中心に、早急に改憲条文案の作成作業に入るよう重ねて提案した。立憲民主党は任期延長の問題点を指摘した上で「議論すべき論点は多岐にわたる。現時点では条文の起草には至らない」と拒否。数年単位で憲法全体を見渡した議論が必要だと主張した。”

衆院憲法審査会 憲法改正の条文案の起草めぐり議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240418/k10014425981000.html
“衆議院憲法審査会が開かれ、自民党が大規模災害など緊急事態における国会議員の任期延長などについて速やかに憲法改正の条文案の起草作業に入るべきだと改めて提案したのに対し、立憲民主党は論点は多岐にわたるとして数年単位の議論が必要だと主張しました。”

自民「早急な条文起草を」 緊急事態条項、立民は反論―衆院憲法審査会
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024041800441&g=pol
“自民党の加藤勝信氏は、大規模災害時の国会議員任期延長など「緊急事態条項」を設ける憲法改正について「必要性は共通理解が形成されてきている」と指摘。その上で「早急に条文起草作業に入るべきだ」と述べ、来週にも幹事懇談会を開催するよう求めた。”

改正条文案の「起草委」巡り討議 議論は平行線 衆院憲法審
https://mainichi.jp/articles/20240418/k00/00m/010/235000c
“維新の青柳仁士氏も「起草委員会は、やろうと思えば委員長職権でも開ける。今日にでも条文化作業に入るべきだ」と主張。公明の国重徹氏は「条文案のたたき台の作成を進めるようお願いする」と述べた。自民の中谷元・与党筆頭幹事は毎週火曜に定例の幹事懇を開催したい意向を示した。”

改憲を急かす党派に立民が待った「数年単位かけるべき」 維新「今日にでも条文化作業を」 衆院憲法審査会
https://www.tokyo-np.co.jp/article/322090
“…公明党の国重徹氏も「論点は既に出尽くした感がある」と同調した。”
“…立民の奥野総一郎氏は「任期延長された議員は選挙を経ておらず、民主的正当性に疑問が残る」と問題点を指摘。腰を据えた憲法論議の重要性を強調した。共産党の赤嶺政賢氏は改憲に反対した。”

【傍聴者の感想】

今国会の2回目の実質審議は、課題を定めない自由討議ということで、まずは各会派から1人ずつの発言で始まりました。自民党の加藤委員は、緊急事態条項の議論は相当整理されているとしたうえで、議員任期延長について、起草方法と条文作成を早急に進めるべきと発言しました。

維新の会の青柳委員は、今日にでも条文作成作業に入るべきと述べ、採決の目安を示せ、自民党は保守層を引き付けるために憲法改正を言っているだけではないかなど、憲法審の進め方について自民党を批判しました。国民民主党に対しては、9条改憲にこだわることが議論のまとめを送らせていると意見、また傍聴者から漏れる失笑などに対して、傍聴者だけが民意ではない旨を発言しました。
公明党の国重委員は、任期延長の条文案のたたき台を早期に作成して議論していくべきということを短時間述べたうえで、この間出された同性婚訴訟の判決を踏まえた立法府の役割について、人権を擁護する立場での憲法論を議論すべきということについて持ち時間のほとんどを費やしました。

国民民主党の玉木委員は、仮に憲法に自衛隊を明記したとしても、9条がそのままでは違憲の議論から逃れられない、現状の国際法と国内法を使い分けて自衛隊の性格、行動を説明するやり方は国民にもわからないし自衛隊を不安定な状態に置くものであるから、9条の改憲が必要という自説を展開しました。

有志の会の北神委員は、具体案作りに進むべきとしつつ、例えば参院集会の権限のように現行憲法において解釈に曖昧さが残るものや、オンライン国会の可否などについて明確にし、さらには自衛権の範囲の変化なども含めて改正すべきものは改正すべしという意見を述べました。

これら改憲会派の意見に対して、立憲民主党の奥野委員は、そもそも改憲の理由が不明で、立法事実も国民の要請もなく、改憲のための改憲議論であることを指摘しつつ、一方でインターネット投票や首相の専権とされている解散権の問題、憲法裁判所の設置や自己情報コントロール権、環境権、改憲手続法の付則4条の問題など議論すべきことは他に多くある旨を発言しました。

また共産党の赤嶺委員は、先の日米首脳会談において合意された、米軍・自衛隊の指揮・統制の統合は、日本の戦後の防衛政策を根本から転換するものであり、憲法違反で認められない旨を発言しました。

会派の発言が一巡したのちに、挙手による発言に移りましたが、維新の会の三木委員が、与野党の筆頭幹事で委員会運営を進めることについて、立憲の逢坂幹事は野党の代表とは認められない旨の発言をし、逢坂委員が「失礼だ!」と発言する場面もありました。維新の会、国民民主党は、審議の進め方について自民党あるいは立憲民主党を批判し、自民党、公明党は慎重に一般論や関連課題を黙々と語るという委員会が今回も繰り返されたと言えます。

終盤に、立憲民主党の本庄委員は、①任期延長はそもそも立法事実についての認識が共有されていない、そもそも長期に全国で選挙ができない状態とはどのような状態を想定しているのか、②自衛隊が明記されないとどういう不都合があるのか、③教育の充実は直ちに法律でやればいいのではないか、と中谷幹事に質問をしました。これらの課題に明快な回答はもちろんなく、そういうことも含めて今後議論していきたいという回答は、まさに議論が全く深まることなく改憲のための改憲議論を重ねてきたことの証左ともいえます。
ただ具体的には、起草委員会の設置が提起されており、今後幹事懇談会で検討をしていくということなので、その帰趨について注視をしていきたいと思います。

【国会議員から】本庄知史さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

基本的な考え方

もとより、憲法は第96条で改正について規定しています。憲法自身がその改正を所与の前提としている以上、国会で議論を尽くし、必要があれば、改正を発議することは当然のことです。この点においては、改憲派も護憲派も、与党も野党も関係ありません。問題はその中身です。その上で、本題に入ります。

自民党・中谷筆頭幹事「議論の到達点」について

先週、4月11日の本審査会で、自民党の中谷筆頭幹事より、「これまでの議論の到達点」として3点、「緊急事態条項、特に国会機能維持」「憲法における自衛隊の明記」、そして「教育の充実」について言及がありました。

私は前回総選挙より2年半、本審査会での議論に参加してきましたが、中谷筆頭幹事が挙げた3点について、意見を申し述べたいと思います。

第一に国会機能維持、そのための議員任期の延長について、確かに議論は盛んですが、肝心の立法事実について、認識が共有されているとは思えません。そこで確認しますが、中谷筆頭幹事は、衆議院総選挙や参議院選挙の実施が「全国の広範な地域で困難」であり、かつ、それが「相当程度長期間に及ぶ場合」と述べておられますが、それは一体どういう状況でしょうか。

例えば、2011年に発生した東日本大震災では、直後の首長・地方議員選挙が数か月延期されたものの、それは東北地方の被災3県内に限られた措置でした。

1995年の阪神淡路大震災でも、直後の首長・地方議員選挙が延期されましたが、延期は40日余りで、かつ兵庫県、神戸市など4つの被災自治体に過ぎません。

さらに1923年、首都直下型の関東大震災、このときは明治憲法下の緊急勅令により、府県議会議員の任期が延長されましたが、これも東京府、神奈川県、埼玉県など一部被災地に留まっています。

また、いずれの大震災でも国会機能は維持されており、震災後の国会議員の選挙も期日通り実施されています。こういった過去の事例も踏まえた上で、日本全国で長期間選挙が実施できない状況、国会機能が維持できない状況とは一体いかなる場合なのか、中谷筆頭幹事から具体的にご説明いただきたいと思います。

第二に、憲法における自衛隊の明記ですが、これも立法事実が示されていません。私が昨年11月に本審査会で申し述べたように、現在自衛隊が憲法に明記されていないことによる法的・政策的支障は具体的に見当たらず、また、違憲論争に終止符を打つためであれば、それは、仮に自衛隊を明記しても、行使する自衛権の内容などをめぐって、合憲の自衛隊か違憲の自衛隊かといった議論は今後も続き、改正の意味を成しません。

第三に、教育の充実に至っては、無償化も含め、憲法問題ですらありません。教育を受ける権利を定めた憲法第26条が、義務教育以外の教育の充実や無償化を禁じたものでないことは文言上明らかです。むしろ、意欲と能力がありながら、経済的な理由で義務教育以上の教育を受けられない子どもたちは、第26条が規定する「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」を侵害されていると解すことさえできます。いたずらに憲法問題として議論する時間と労力があれば、速やかに法律と予算で対応すべきです。

以上のとおり、中谷筆頭幹事が「到達点」とされている3点は、憲法改正や条文化作業はおろか、改正を必要とする立法事実すらはっきりしないものです。憲法改正を主張される方々のご高説を伺っていると、何とかもっともらしい改正の理由を見つけようと、さながら「改憲の青い鳥」を探すがごとくですが、そのために本審査会を毎週開催する意味がどれほどあるのか、甚だ疑問です。

合憲性・違憲性を問われている立法こそ積極的に議論を

それでもなお、「開催することに意義がある」とすれば、それは、現行憲法の遵守状況、とりわけ、合憲性・違憲性が問われている立法について、本審査会で積極的に議論することであると考えます。

例えば、先ほど國重委員も取り上げた同性婚の他、昨年10月に最高裁が違憲判決を下した、手術要件を伴う戸籍上の性別変更、あるいは「国会で議論し、判断すべき事柄」として、最高裁から国会にボールが投げられたまま、長年放置されている選択的夫婦別姓などが挙げられます。

こういった現実的な憲法課題について積極的に議論し、国会における立法をリードしていくことも、本審査会の重要な役割であるということを申し上げ、私の発言といたします。

(憲法審査会での発言から)

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編集:フォーラム平和・人権・環境
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2024年04月16日

「武力で平和はつくれない!とりもどそう憲法いかす政治を 2024 憲法大集会」開催のご案内

私たちは、改憲策動がすすむ情勢を踏まえ、2015年以来、毎年5月3日に「平和といのちと人権を!5.3憲法集会」を開催し、多くのみなさんのご参加をいただいてきました。

平和フォーラムが賛同・参加する「平和といのちと人権を!5.3憲法集会実行委員会」が、5月3日、東京・有明防災公園で「武力で平和はつくれない!とりもどそう憲法いかす政治を 2024 憲法大集会」を開催しますので、ご案内します。なお、詳細については公式サイトをご覧ください。

>>武力で平和はつくれない!とりもどそう憲法いかす政治を 2024 憲法大集会サイトへ<<


武力で平和はつくれない!とりもどそう憲法いかす政治を 2024 憲法大集会

日時:5月3日(金・休) 11時~ ※メインステージ13時開始

場所:東京・有明防災公園(東京臨海広域防災公園・東京都江東区有明 3-8-35)
※りんかい線「国際展示場駅」より徒歩 4分/ゆりかもめ「有明駅」より徒歩2分

私たちは
・改憲発議を許さず、憲法をいかし、平和・いのち・くらし・人権を守ります。
・パレスチナ即時停戦とウクライナからの撤退、憲法9条をいかした平和外交を求めます。
・敵基地攻撃能力の保有と南西諸島へのミサイル基地配備の撤回を求めます。
・平和主義をつらぬき、武器輸出の解禁撤回を求めます。
・沖縄の民意と地方自治を踏みにじる辺野古基地の代執行と建設中止を求めます。
・原発推進政策の撤回を求め、再生可能エネルギーヘの転換を求めます。
・ジェンダー平等、個人の尊厳を大切にする社会をめざします。
これら実現のため共同の輪をひろげ、金権腐敗、憲法無視の自民党政治を終わらせ、安心してくらせる社会をめざします。

【イベントスケジュール】

11:00~12:30 サブステージ

12:30~ オープニング

13:00~ メインステージ

主催者あいさつ
国会議員あいさつ
メインスピーチ:
伊藤真さん(伊藤塾塾長・弁護士)/猿田佐世さん(新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士)
市民連合あいさつ
リレートーク:
①地震と原発(武藤類子さん)②難民問題(山岸素子さん)③沖縄課題(高里鈴代さん)④核兵器課題(大内由紀子さん)⑤パレスチナ問題(猫塚義夫さん)
行動提起
エンディング 「HEIWAの鐘」合唱

14:30〜16:30 パレード開始・クロージング

(パレードと並行して開催)憲法集会第10回記念「青空トーク」:
第1回集会の登壇者(武藤類子さん・高里鈴代さん)と大学生のトーク

主催:平和といのちと人権を!5.3憲法集会実行委員会

2024年04月12日

憲法審査会レポート No.34

4月10日、参議院憲法審査会が開催され、幹事選任の手続きのみ行われました。また、11日には衆議院憲法審査会で自由討議が行われました。

2024年4月10日(水) 第213回国会(常会)
第1回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7868

【会議録】

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【マスコミ報道から】

参院憲法審、今国会で初開催 幹事を選任、進め方協議へ
https://mainichi.jp/articles/20240410/k00/00m/010/235000c
“参院憲法審査会が10日、今国会で初めて開かれ、幹事選任の事務手続きを実施した。終了後に与野党の筆頭幹事が会談し、17日に幹事懇談会を開く方向で調整することを確認した。”

参院憲法審が初開催
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024041000532&g=pol
“幹事の選任のみで、約2分で散会となった。審査会後、与野党の筆頭幹事が協議し、17日に幹事懇談会を開いてその後の日程や議題を話し合うことで合意した。”

辻元清美氏が筆頭幹事…野党「護憲シフト」 参院憲法審の実質審議は見通せず
https://www.sankei.com/article/20240410-724GSCP2R5KSPIL27UP3UD76JY/
“衆院憲法審に比べて議論の遅れが指摘されている中、参院立憲民主党は「護憲シフト」を押し出している。参院公明党も憲法改正には慎重な立場との見方が根強く、活性化は困難との空気が漂っている。”

2024年4月11日(木) 第213回国会(常会)
第2回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=55137
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【会議録】

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【マスコミ報道から】

緊急事態条項で起草委 自民提案、立民は難色―衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024041100894&g=pol
“衆院憲法審査会は11日、今国会初の自由討議を行った。大規模災害時の国会議員任期延長など「緊急事態条項」を創設する憲法改正に関し、自民党は条文案の起草委員会を立ち上げるよう主張。立憲民主党は難色を示した。”

衆院憲法審 自民「国会機能維持の条文起草作業を」、立憲「不見識」
https://www.asahi.com/articles/ASS4C319JS4CUTFK002M.html
“衆院憲法審査会が11日に開かれ、今の国会で実質的な討議が初めて行われた。憲法改正に向けた原案づくりに自民、公明両党と、日本維新の会、国民民主党が前向きな考えを示した一方で、立憲民主党と共産党は改めて反対を主張。先行きは見通せない。”

「裏金問題解決できないのに改憲を論ずる正当性なし」衆・憲法審で立憲が批判
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000344701.html
“自民党 中谷元衆院議員
「幅広い会派間で憲法改正原案作成の協議を行う環境を早期に整備することを提案を致します」”
“立憲民主党 逢坂誠二衆院議員
「裏金問題の解決もできず、自浄作用のない自民党が憲法改正を論ずることに正当性があるのでしょうか」”

改憲案の起草委設置を自民が提案 立民反発 募る維新や国民民主の不満 衆院憲法審
https://www.sankei.com/article/20240411-U7R636PVGVOV5FMJC447GPSJNY/
“「幅広い会派間で憲法改正原案作成の協議を行う環境を早期に整備することを提案する」。中谷氏は衆院憲法審で、幹事懇談会を念頭に置いた起草委設置を提起した。憲法への自衛隊明記に関しても条文化を進めたいとの意向を表明。”

国と自治体が上下関係…「自治権の保障が壊れる」 政府が目指す「地方自治法改正」、衆院憲法審で異論
https://www.tokyo-np.co.jp/article/320695
“立憲民主党の近藤昭一衆院議員は11日、衆院憲法審査会の自由討議で、政府が今国会成立を目指す地方自治法改正案への懸念を示した。「強大な政府の権限をより強大にし、政府と地方自治体の関係に上下関係を持ち込むことになるのではないか」と述べた。”

【傍聴者の感想】

きょうの憲法審査会では、まず自民党の中谷筆頭幹事が「緊急時の国会機能の維持について、いつでも条文起草作業に入れるところまで議論が進んでいる」と述べました。馬場代表はじめ日本維新の会の幹事は、立憲民主党と日本共産党に対して「憲法改正のブレーキとなっている」と批判すると同時に、自民党に対しても「立民とのなれあい」をやめ、改正原案の合意に向けた動きを促していました。さらに、自民党の中谷筆頭幹事が緊急事態条項の起草委員会の創設に言及したことを「評価」し、スケジュールの提示と具体的な条文案を「テーブルに乗せる」ことを求めていました。ほかにも、維新の会や国民民主党からは、岸田首相の施政方針演説における「任期中=9月」という発言を言質とし、その具体化を求める発言が相次ぎました。

改憲政党の前のめりな姿勢に対し、野党筆頭幹事の逢坂衆議院議員は「憲法改正の主体は主権者である国民だが、それがゆらいでいる」と、憲法を変えることそのものが自己目的化している問題を指摘していました。共産党の赤嶺幹事も「国民の側から改憲を求める声はない」と訴えていました。

大規模災害の発生時の国会議員の任期、選挙の実施をめぐり、東日本大震災当時の自治体議員選挙について言及がありました。国会議員の任期については憲法で定められていることから、東日本大震災の発生後の2011年11月に当時の野田首相から特例法による国政選挙の延期、国会議員の任期の延長はできないという答弁が示されています。ここが改憲派の憲法改正の必要論の根拠の一つとなっていると思われます。

これを聞き、私自身は1995年1月に発生した阪神淡路大震災を思い出しました。同年4月に予定されていた統一自治体選挙のうち、兵庫県議選、神戸市議選、芦屋市議選、芦屋市長選、西宮市議選は特例法が成立し、4月から6月へと延期されました。1999年の選挙の投票期日は4月へ戻されましたが、当該自治体の議員の任期は後年にあらためて特例法で調整した経緯があります。私が関わった兵庫県議選を思い出すと、被災地で有権者の投票の権利をどう保障するかが大きな課題だったように記憶しています。候補・選対では、倒壊・焼失した自宅から避難した支持者の消息がつかめませんでした。これを有権者の側から見れば、震災発生から6カ月が経っても雇用や住宅をめぐって生活が困難な状態のままに置かれ、もとの生活が取り戻せていなかったということです。

東日本大震災や能登半島沖地震などその後の大規模災害では、人員削減により各自治体の行政機能が劣化している状況が指摘されています。インフラの再建の遅れも大きな問題です。政治に求められるのは議員の任期や選挙の期日をめぐる議論ではなく、大規模災害の発生時に行政が地域の復旧・復興に向けて確実に機能し、被災者の暮らしがいちはやく安定し、再建される社会をつくることです。

また、大規模な地震をはじめ災害の発生そのものは避けることはできませんが、戦争は平和運動の強化によって避けることができます。有事を口実にした改憲に向けた動きを許さない運動が求められている、ということが立憲野党の幹事から「主権者たる国民」への提起だったように思います。

【国会議員から】近藤昭一さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

4月11日、衆議院憲法審査会で私は以下の趣旨の発言をしました。

1.地方自治法改正案が閣議決定され、3月1日、国会に提出されました。

この法案については、総務委員会でしっかり議論されるものと思いますが、私は、憲法92条に定めた地方自治権の保障の観点から、国会法102条の6に規定されている審査会の目的のうち「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行うこと」に関連した問題と考え、発言します。

2.そもそも、日本国憲法に、大日本帝国憲法に定めのなかった地方自治の制度の規定を設けこれを保障した意義は、第一に、中央政府から独立した地方公共団体が地方の事務を処理することによって強大な中央政府の権限を抑制すること、第二に、地域の特性に応じて処理されるべき事務は、そこに居住し、生活する住民の意思に基づいて決定し、住民の権利を保障することと言われています。前者が地方自治の分権的側面を示す団体自治であり、後者が地方自治の民主主義的側面を示す住民自治です。

こうした意義をよりよく果たしていくために重要なことは、強大な中央政府と地方自治体が対等平等な関係に立つことです。

ところが、今回の地方自治法の改正案は、強大な中央政府の権限をより強大にし、中央政府と地方自治体との関係に「上下関係」を持ち込むことになるのではないかという危惧を抱かざるを得ません。

3.具体的に地方自治法改正案の条文を見ていきます。

改正の中心は、「第14章 国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例」を新設することです。

252条の26の3から252条の6の10までですが、いずれも「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」に適用されます。

災害や感染症に限らず「その他」にも適用されるので、適用される事由は無制限です。戦争や内乱なども含まれるでしょう。また、被害の程度が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」というのは、一般抽象的で恣意的運用の可能性が大です。しかも、その「おそれ」がある場合、つまり現実の被害が生じていなくても適用され、運用の恣意性は無制限に膨らむのではないでしょうか。

こうした恣意的運用の危険が大きい「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」に生じる法律効果は、国が地方公共団体に対し、「必要な措置を講ずるよう指示ができる」(252条の26の4、5)というものです。この必要な措置の「指示」にも限定・制約がありません。

しかも、以上の第14章の規定は現行法の特則として新設されるので、新設される「指示」(ただし、法定受託事務に限られる、245の7)への地方公共団体の義務違反に基づいて代執行(245の8)のできる範囲も大きく広がるのではないでしょうか。

4.以上みてきたように、地方自治法改正案は、適用事由、要件、国に与える権限、いずれについても具体的客観的な制約がなく、地方自治体に対する国の指示権限を無制限に認めるもので、国と地方自治体の関係を大きく変容させ、憲法92条の地方自治権の保障を壊しかねない重大な問題を孕んでいます。また、立憲主義の見地からも到底容認できません。

玉城沖縄県知事は、代執行の濫発を招くのではないかとの懸念を示し、元鳥取県知事の片山善博氏は、時代を逆行させるものと断じ、日本弁護士連合会は、地方自治法改正案の原案となった答申に反対する立場から意見書を提出し、国の指示権を認める法改正案文の削除等を求める会長声明を発表しています。

憲法92条「地方自治の本旨」の原点に立ち返った真摯な調査と検討が必要です。

【国会議員から】逢坂誠二さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

日本国憲法といえども、決してすり減ることのない不磨の大典ではないと考えております。したがいまして、一字一句変えてはならないというものではありません。社会の変化に応じて不断の見直しを行うことが求められていると考えております。

ただ、その見直しを行う主体、これは憲法で命令される側の国会ではなく、主権者である国民自身です。ここに立憲政治の核心があると考えています。

ところが、最近の憲法議論を見ていると、この立憲政治の核心が揺らいでいると感じております。

一月三十日、岸田総理は施政方針演説で次のように述べました。総裁任期中に改正を実現したいとの思いに変わりはなく、議論を前進させるべく最大限努力をしたいと考えています。今年は、条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速してまいります。

本来まないたの上のコイである公権力の側の総理自身が、期限を区切った上で条文案の具体化と議論を加速することに言及したことに、私は大変驚きました。

三月三日の衆議院予算委員会で、この総理発言に対する私の質問に、岸田総理は次のように答弁しました。昨年十二月、自民党総裁として、衆参の憲法審査会の幹事など関係者に対して、国会の発議に向けて、各党と共有できるようなたたき台、案について是非議論を進めてもらいたい、党総裁としてはそういった要請をした。国会において条文案の具体化を加速していくためにも、我々自民党として、そういった議論をリードするべく、まずは自らの考え方を整理し、その議論に臨んでいかなければならない。

私は、岸田総理のこうした姿勢や答弁に触れ、憲法を変えること自体が目的化していると危惧しております。これは極めて危ういことであり、こんなことをすれば憲法の価値を毀損させてしまいます。

立憲主義を深化させる観点から憲法議論を真面目にひたむきに行うことは、憲法の役割、その意義を常に確認する観点からも極めて大切なことです。しかし、とにかく憲法を変えたい、どこか変えやすいところから取りあえず変える、こうしたことが目的化する議論は不見識です。特に、数の力でその議論を押し切る姿勢は慎まねばなりません。

さて、自民党の裏金問題、そのお金の使い道も含め、全容は全く明らかになっておりません。法律を犯しているかもしれない議員を多く抱える自民党及びその総裁が、国会議員を縛るともいうべき憲法改正を声高に叫ぶ節度のなさに驚きを禁じ得ません。裏金問題の解決もできず、自浄作用のない自民党が憲法改正を論ずることに正当性があるのでしょうか。一刻も早く裏金問題にけりをつけていただくことを強く要請します。

私は、本来の当事者である国民自身の議論を喚起することこそが重要であり、そのための素材を提供するという謙虚な姿勢で憲法議論に臨みたいと思っています。

次に、立憲民主党の綱領の話をさせていただきます。

「私たちは、立憲主義を深化させる観点から未来志向の憲法議論を真摯に行います。」。これは立憲民主党の綱領の一文です。綱領の素案は私が書きましたが、この一文も私が書いたものです。

立憲主義とは、権力者、国会議員、公務員、裁判官などの権力濫用を抑えるために憲法を制定するという考え方です。立憲主義を深化させるとは、権力者の権力の濫用を抑制する方向で考えを深めることです。

次に、未来志向。この言葉は難しいのですが、幾つかの思いを込めています。未来志向といえば、過去を一切不問に付すかのように聞こえるかもしれませんが、もちろんそうではありません。日本国憲法の国民主権、基本的人権、平和主義、この三大原則を守ることは当然です。日本国憲法の平和主義は、さきの戦争への反省に基づいて基本原則として採用されたものです。三大原則を守るということは、過去への反省を前提にした未来志向であることは言うまでもありません。

また、日本国憲法の成り立ちについていろいろな御意見があることは十分承知しております。一方、今の日本国憲法は、施行後七十年以上が経過し、この憲法の下で日本の様々な営みが行われてきたのは厳然たる事実です。その事実を消し去ることはできません。したがって、成り立ち云々に言及してはならないとは考えておりませんが、殊更強調するのは意味を成さないとも言えます。

未来は、過去の積み重ねと今の延長線上にあり、時代や社会は動いています。過去を踏まえた上で、時代の変化などに合わせて憲法をよりよくするために、変えるべきところがあれば積極的に対応する、これが私の思う未来志向の憲法議論です。

私は、立法事実の存在と国民の納得があれば、いずれかの日には憲法改正をすべき時期を迎えると思っています。しかし、その際には、多くの国民が納得する結果となるように私たちは努める必要があると考えます。よもや、国民の対立をあおり、国民が分断されるようなことはしてはなりません。憲法に関する議論を落ち着いて進めたいと思います。

(憲法審査会での発言から)

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