2月, 2024 | 平和フォーラム
2024年02月29日
安保法制施行と自衛隊の変質 ―日米韓3か国共同演習とインド太平派遣訓練―
湯浅一郎
2016年3月29日、「平和安全法制」と名付けられた安保法制が施行されてから9年目になる。存立危機事態という、ほとんどありうべくもない状況を想定して、憲法9条が現に存在する情勢においても集団的自衛権の行使が可能であるという法律が動き出したのである。これを機に、専守防衛を旨として存在が容認されてきた自衛隊は、行動範囲を一気に拡大し、日米に限定することなく多国間の軍事的な共同演習を日常化する動きが、ほぼ同時に動き出した。未だ実態が見えない面もあるが、ここでは、この間、何が進んできているのかを日米韓3か国共同演習の日常化と、インド太平洋派遣訓練という側面から経過を振り返る。
1.安保法制施行の直後から始まった日米韓3か国共同演習
まず日米韓3か国共同演習実施の経過をたどりたい。日米共同演習は、1978年の旧ガイドライン締結直後から始まっているが、日韓軍事協力は、1980年代までは両国の軍関係者が行き来し、交流行事を定例化するレベルのものであった。1999年以降になると、日本海と日韓の中間水域で捜索救助訓練を2年に1回開催されるようになったが、これは船舶の遭難事故に際し日韓間の共同対処能力を向上させるという人道目的に基づく非軍事的訓練であった(注1)。
変化が起きたのは2016年3月の安保法制施行直後からである。安保法制の施行からわずか3か月後の2016年6月、ハワイ沖で日米韓3か国ミサイル探知・追尾訓練が初めて実施された。さらに同年10月、米韓安全保障協議会で日米韓ミサイル探知・追尾訓練を定例化することに合意した。同訓練は朴槿恵(パク・クネ)政権時代の2016年11月、2017年1月と3月、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の2017年10月と12月に行われている。しかし、2017年までの3か国共同ミサイル探知・追尾訓練では、韓国軍艦艇は韓国側の日本海上で、日米艦艇は日本近海で、それぞれ別々に北朝鮮ミサイルを探知・追尾し、情報だけを共有するというものであった。日米韓の艦艇が一か所に集まることなかったのである。
3か国演習の2つ目の形は対潜戦訓練である。2017年4月3日~5日、九州西方海域で海自護衛艦「さわぎり」が米韓海軍と共同で対潜戦訓練を初めて実施した(注2)。自衛隊は、戦術技量及び日米韓三か国の連携強化を図るとしていた。
その後、対潜戦訓練はしばらくなかったが、状況が大きく変わるのは、2022年5月に韓国の政権が尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権に代わってからである。2022年9月30日、日米韓3か国は、日本海の公海上で潜水艦を探知・追跡する対潜戦訓練を5年ぶりに実施した。訓練は米ロサンゼルス級原潜「アナポリス」を潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した北朝鮮の潜水艦とみなし、これを探知・追跡しながら情報をやり取りする形で行われた。米空母「ロナルド・レーガン」、海上自衛隊の護衛艦「あさひ」(佐世保)、そして韓国の駆逐艦「文武大王」が参加した。さらに2022年10月6日、日本海の公海上で日米韓合同のミサイル防衛(MD)訓練が行われた。3か国共同演習が2週連続で行われたことはかつてなかったことである。
そして、一つの極めつけが核戦力部隊を防護する日米韓初の3か国共同空中演習である。2023年10月22日、九州北西の日韓の防空識別圏が重なりあう空域で、核兵器を搭載できる米軍の戦略爆撃機を日米韓3か国の戦闘機が護衛する共同演習が初めて行われたのである。訓練には、米軍から戦略爆撃機ストラトフォートレスB-52HとF-16戦闘機、韓国軍よりF-15K戦闘機、航空自衛隊よりF-2戦闘機が参加し、米軍のB-52Hを先頭に日米韓の戦闘機が左右に3機ずつ編隊を組み、B-52Hをエスコートした(写真参照)。
防衛省は、その目的を「航空自衛隊の戦術技量の向上並びに米空軍及び韓国空軍との連携の強化」とさらっと言っている(注3)。しかしB-52Hは、米国の核戦力の3本柱の1つである戦略爆撃機の一つで、警戒態勢は低いと推定されるが、同機は87機のうち46機が核搭載可能(注4)である。最大20発の空中発射の核巡航ミサイル(ALCM)を搭載できる。今回の訓練で核弾頭は搭載していないが、B-52Hは有事になれば核ミサイルを搭載できる爆撃機である。空自戦闘機は、その核戦力部隊を防護しているわけで、自衛隊が核戦争を遂行できる部隊の一員となり、その後方支援をしていることになる。これは、日本の安全保障を米国の拡大核抑止に依存するといった次元から、自らが米核戦力と一体となり、その一員となって行動することを示している。この点が、国会や報道でほとんど問題になっていないことは驚くべきことである。しかも、今、後述するようにキャンプ・デービッド声明に基づいて、このような演習が日常的に恒例のものになろうとしているのである。
2.訓練期間が長期化し、派遣部隊・派遣人員が増えるインド太平洋派遣訓練
安保法制が施行されてから、自衛隊が極東という地理的制限を無視し、自衛艦の長期にわたる海外展開が日常的になってきている。その典型が2017年から始まったインド太平洋派遣訓練である。軽空母化された「いずも」型護衛艦を中心として、2か月半にもわたりインド洋から西太平洋に至る広大な海域において、海自艦船が日米共同演習はもちろんのこと、沿岸各国海軍との共同演習を繰り返すことが始まったのである。さらにこの6年間で、派遣期間、参加人員、参加艦艇、訪問国などが拡大している。これは、砲艦外交の定着を狙った危険な動きであり注視せねばならない。
海上自衛隊の平時の演習における海外展開には、従来からリムパック環太平洋合同演習や日米印共同訓練「マラバール」などがあるが、期間、広域性、訪問国数などから「インド太平洋派遣訓練」(IPD)は最大級のものである。とりあえず最新の2023年度(注5)の実態を見ておこう。
目的は、「インド太平洋地域の各国海軍等との共同訓練等を実施し、戦術技量を向上させるとともに、各国海軍等との相互理解の増進、信頼関係の強化及び連携の強化を図り、地 域の平和と安定に寄与する」としている。期間は、2023年4月20日~9月17日にかけて何と151日間にわたり、ほぼ5か月間、演習を行っていた。
派遣部隊は、以下の4つである。
(1)第1水上部隊。護衛艦「いずも」、「さみだれ」、「しらぬい」の約880名。
(2)第2水上部隊。輸送艦「しもきた」の約140名。
(3)第3水上部隊。護衛艦「くまの」の約90名
(4)潜水艦部隊。潜水艦1隻の約80名。
訪問国は、米国、インド、インドネシア、オーストラリア、キリバス、シンガポール、スリランカ、ソロモン諸島、トンガ、パプアニューギニア、パラオ、 フィジー、フィリピン、ニューカレドニア、 ベトナム、マレーシア、モルディブと17か国に及んでいる。この間に(1)国際海洋防衛装備展示会、(2)ランカウイ海事航空展覧会、(3)日米豪韓共同訓練、(4)日印共同訓練(5)米豪主催多国間共同訓練、(6)日米印豪共同訓練(MALABAR)などが行われる。2020年ころまでは、詳細についてHPで公開していたが、2021年頃から詳しいことはほとんど公開されていない。訪問国を並べてみれば、米国が軍事提起に最大の競争相手とみなす中国を包囲する体制の重要な一環として自衛隊が位置付けられていることが浮かび上がる。
2018年からの同訓練の経過を表にした(2017年はデータが不明)。2018年頃は、「いずも」型護衛艦を中心とした約800人の護衛艦部隊が約70日にわたり派遣されていた。2020年はコロナ禍で縮小された。その後、2021年から潜水艦1隻が加わり、派遣期間が98日と伸びた。2022年には派遣期間が138日と飛躍的に長期化した。さらに2023年には大型輸送艦も加わり、人員が約1200人に増え、派遣期間は151日と5か月に及んでいる。
近年は、訓練内容に関する具体的なことは公開されていないが、2019年に公表されていたものから以下の3点が特徴として挙げられる。
1.垂直離着陸ステレス戦闘機F35Bを搭載可能に改造し、装備としては空母としての能力を保有している「いずも」型護衛艦が、米原子力空母「ロナルド・レーガン」との南シナ海での共同演習を行っている。インド太平洋海域において、日米の空母打撃群が定常的に合同演習を繰り返し、「米海軍との相互運用の更なる向上を図るとともに、強固な日米同盟を礎に、地域の平和と安定への寄与を図る」としている。
2.日米印比、日仏豪米、日印、日マレーシア、日加、日ベトナム、日ブルネイなど様々なレベルでの多国間の共同訓練を断続的に実施している。
3.ASEAN国防相会議プラス海洋安全保障実動訓練といったASEAN諸国との交流が組み込まれている。
上記の2、3に関して指摘すべき重要なことは、インド太平洋派遣訓練は、総体として、「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」が防衛力強化方針として初めて打ち出した「海外プレゼンスと外交を一体」として推進する考えを具現していることである。大綱は「防衛力が果たすべき役割」の第1項に「積極的な共同訓練・演習や海外における寄港等を通じて平素からプレゼンスを高め、我が国の意思と能力を示すとともに、こうした自衛隊の部隊による活動を含む戦略的なコミュニケーションを外交と一体となって推進する」と述べている。海自のインド太平洋派遣訓練は、平時に遠隔地に艦船を派遣して軍事力のプレゼンスにより影響力を行使しようとしている。これは、まさに砲艦外交の始まりと言える。砲艦外交は専守防衛に反する軍事任務である。
3.背景にある「キャンプ・デービッドの精神」
こうした流れの中で、先に述べた初の日米韓3か国共同空中演習の実施へと至るのであるが、その背景には2023年8月18日、米ワシントン郊外の大統領山荘キャンプ・デービッドで行われた日米韓3か国首脳会談における新たな合意がある。この会談は、軍事、経済など幅広い分野での3か国連携の中長期にわたる基本理念を示す「キャンプ・デービッド原則」に合意し、「日米同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる」ことを確認した。
発表された3文書の一つ、共同声明「キャンプ・デービッドの精神」(注6)には、「米国は、日本及び韓国の防衛に対する米国の拡大抑止のコミットメントは強固であり、米国のあらゆる種類の能力によって裏打ちされていることを断固として明確に再確認する」としたうえで、「日米韓3か国は本日、組織化された能力及び協力を強化するため、毎年、名称を付した、複数領域に及ぶ3か国共同訓練を定期的に実施する意図を有することを発表する」とした。先述した2023年10月22日のB-52Hを護衛する初の日米韓3か国共同空中演習は、キャンプ・デービッドで合意された3か国共同訓練の定期開催を実行に移した最初の大きな踏み出しである。さらに2023年12月19日、日米韓防衛相が発表した共同プレス声明(注7)は「2024年初めから開始される複数年にわたる3か国の訓練計画を策定した」とし、「この計画は、今後、3か国の訓練を定例化し、より体系的かつ効率的にこれを実施することを可能とするものである」としている。これは、先に見た核戦力の中心を担う米戦略爆撃機を防護する3か国共同空中演習のようなものが日常化していくことを意味している。これがどこまでエスカレートしていくのか、極めて重大である。
韓国に尹政権が登場して以降、南北が相互に敵視する状況は悪化するばかりである。ロシアのウクライナ侵攻が続き、ガザではイスラエルによる一方的なジェノサイドが続いている事態の中で、北東アジアにおいて戦火が起こることは考えにくいが、仮に朝鮮戦争が再発した場合、日本はどのようなスタンスをとることになるのであろうか。朝鮮戦争が再び起きた際、日本政府が制限をかけない限り、横須賀の空母打撃群、佐世保の強襲揚陸艦部隊、岩国の戦闘機部隊、そして沖縄の海兵隊などの在日米軍は不可避的に参戦することになる。その時、安保法制に基づいて存立危機事態を口実として、日本の存立が危惧されるという判断をした場合には、自衛隊が、米核戦力を直接防護する部隊として戦争に加わる可能性が出てくる。
しかし、私たちが浮足立つことはない。「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定する日本国憲法第九条は、今も厳然と存在しているのである。しかも自衛隊は、あくまでも専守防衛を旨とする実力組織であって「軍隊」ではない。だからこそ本稿で問題にした3か国共同演習を「空軍演習」と言わず、「空中演習」と呼んでいるのである。自衛隊が、米軍と一体化して、戦争に関わらねばならない必然性はない。今、私たち日本の民衆に求められていることは、インド太平洋の平和と安定のためとか称して日米の軍事一体化を進め、日米韓をはじめとした多国間の軍事連携をなし崩し的に強化していく政府の動きを憲法九条の精神と自衛隊は「軍隊」ではないという事実に基づいて食い止めることである。逆に政府の動きを放置すれば、自衛隊は多国間軍事連携を強化し、安保法制のもとで集団的自衛権行使へと突き進むことになる。さらには、日米韓共同空中演習のように米核戦力部隊との一体化を通じて、自衛隊が核戦力部隊の一翼を担う部隊に化けていくことになりかねない。
(注)
(1)「ハンギョレ新聞」2022年10月12日。
(2)海上自衛隊HP。https://www.mod.go.jp/msdf/release/201704/20170403-02.pdf
(3)航空自衛隊HP。https://www.mod.go.jp/asdf/news/houdou/R5/20231023.pdf
(4)『ピース・アルマナック2023』(2023)。
(5)海上自衛隊HP。https://www.mod.go.jp/msdf/release/202304/20230418.pdf
(6)日米韓首脳共同声明「キャンプ・デービッドの精神」
外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100541771.pdf
(7)防衛省HP。https://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/2023/pdf/1219b_usa_kor-j.pdf
2024年02月24日
ニュースペーパーNews Paper2024.2
2月号もくじ
ニュースペーパーNews Paper2024.2
表紙 最近の活動
*嘲笑や冷笑に屈せず、社会を変えることに躊躇してほしい
フリージャーナリスト安田浩一さんに聞く
*辺野古地盤改良工事の強行、オスプレイの墜落事故
*朝鮮人追悼碑の存続を求めて再び裁判へ
*2023年ピーススクール開催報告と今後の展望
*能登半島地震と志賀原発
*本の紹介「バチカンへの手紙-福島県飯舘村の物語-」
2024年02月14日
「差別を許さない!植民地主義とアイヌ民族 『建国記念の日』を考える集会」を開催
戦前日本で重要な国家的祝日(「四大節」のひとつ)「紀元節」とされた2月11日が、多くの反対の声のなか、1966年に「建国記念の日」として再度祝日化されました(翌1967年から実施)。このような国家主義復活の動きに抗し、「主権在民」など憲法理念の実現をめざす平和フォーラムは、歴史認識や人権課題をテーマとした集会を例年開催してきました。
本年は2月12日、東京・連合会館で「差別を許さない!植民地主義とアイヌ民族 『建国記念の日』を考える集会」として開催し、約150人が参加しました。自民党・杉田水脈衆院議員による度重なる差別煽動を、政府・自民党は野放しにしています。インターネットなどでもアイヌ民族への差別が渦巻いている現状を踏まえ、「先住民族アイヌの声実現!実行委員会」代表の多原良子さん、事務局長の出原昌志さんの講演を受けました。
多原良子さんは、自らがアイヌ民族として、そして女性として、マイノリティ女性をとりまく「複合差別」とたたかってきた経緯を語りました。2016年2月には国連女性差別撤廃委員会に民族衣装で出席したことをきっかけに、杉田議員の誹謗中傷のターゲットとされ、SNSなどで658件もの差別投稿が多原さんに集中的に向けられ、人権救済を求めたものの政府・法務省は真摯に対応することがありませんでした。ようやく昨年9月に札幌法務局の「人権侵犯」認定をかちとりましたが、「啓発」を受けたはずの杉田議員はいまなお開き直っています。引き続きがんばる決意などが述べられました。
出原昌志さんからは、アイヌ民族とアイヌモシリ(北海道)と日本国家をめぐる歴史経過を解説。とりわけ近世以降に和人による支配が拡がり、明治維新後も「旧土人」として権利を奪われ差別されてきたこと、そのいっぽうでそれに抗った旭川アイヌや「解平社」のたたかいが紹介されました。現在も差別と貧困が続くなか、自らを「アイヌ」と表明することをためらう傾向が強まっており、早急な法制度の整備が必要だとしました。とりわけ2024年は「アイヌ新法」見直しが行われるため、アイヌ民族と連帯するとりくみへの協力を呼びかけました。
平和フォーラムはこれまでアイヌ民族の権利確立要求や差別を許さないとりくみに協力してきました。さらに「アイヌ政策見直しを求める請願署名」などを大きく展開していきますので、多くの皆さんのご協力をお願いします。
「アイヌ政策見直しを求める請願署名」データはこちら( Word ・ PDF )
2024年02月07日
【平和フォーラム声明】群馬県による朝鮮人慰霊碑の撤去代執行を許さない
平和フォーラムは2月6日付で、以下の声明を発表しましたので、お知らせします。
群馬県による朝鮮人慰霊碑の撤去代執行を許さない
1月29日、群馬県(山本一太知事)は、県立公園群馬の森に設置されていた「記憶 反省 そして友好」と書かれた朝鮮人追悼碑を、最高裁判決に従うとして撤去の強制代執行を行い、碑が掲げていたプレート以外の部分を破壊した。追悼碑の裏面には、「かつてわが国が朝鮮人に対し、多大の損害と苦痛を与えた歴史の事実を深く記憶にとどめ、心から反省し(中略)過去を忘れることなく、未来を見つめ、新しい相互の理解と友好を深めていきたいと考え、ここに労務動員による朝鮮人犠牲者を心から追悼するためにこの碑を建立する」とその理由が書かれていた。この碑は、2004年に県議会が全会一致で設置を決定している。この碑文が歴史的に見て至極まっとうなことは、1995年の村山首相談話など、歴代内閣が公式に維持してきた歴史認識から考えれば明らかだ。平和フォーラムは、県による暴挙が歴史修正主義の跋扈をさらに助長し、ひいては東アジア諸国との関係悪化を招きかねないことに、大きな懸念を抱いている。
差別発言を繰り返してきた自民党の杉田水脈議員は、「嘘のモニュメントは日本に必要ありません」「日本国内にある慰安婦や朝鮮半島出身労働者に関する碑や像もこれに続いてほしいです」と自身のX(旧ツイッター)に投稿した。また、ニュースの投稿欄では「平穏な公園が戻って来るのは嬉しい限りです」「やっと捨てることが出来たようだ!おめでとう~」など差別発言が繰り返されている。県および県知事の行為は、このような歴史修正主義者やレイシストを喜ばせ、市民社会に分断をもたらすもので決して許されない。
慰霊碑撤去に至る発端は、植民地時代における朝鮮半島出身者の強制連行はなかったとして、全国各地の朝鮮人慰霊碑の撤去を迫る「日本女性の会・そよ風」が、2014年に群馬県へ提出した追悼碑撤去の請願だ。自民党議員を中心として県議会が請願採択した直後に、県は追悼碑設置期間の延長不許可を決めた。県の短慮が問題を大きくした。市民らで構成する「追悼碑を守る会」は、地裁に不許可の取り消しを求めて提訴、一審は「不許可は裁量権の逸脱」として原告勝訴の判決を言い渡したが、控訴審は「強制連行の事実を訴えたい」などの追悼集会での発言内容が「追悼碑の中立性を失する」などの理由をつけて県の不許可を認める逆転判決を出し、最高裁は2022年上告棄却として控訴審判決が確定した。歴史に光をあてようとしなかった司法判断も糾弾されるべきである。
戦後50年の節目に出された村山首相談話には、「私は、我が国の侵略行為や植民地支配などが多くの人々に耐え難い苦しみと悲しみをもたらしたことに対し、深い反省の気持ちに立って、不戦の決意の下、世界平和の創造に向かって力を尽くしていくことが、これからの日本の歩むべき進路であると考えます」と書かれている。これは、広くアジア諸国へ発出されたもので、日本社会の世界への約束であり、私たちは決して忘れてはならない。
昨年10月、ユン・ドクミン(尹徳敏)駐日韓国大使は、兵庫県相生市を訪れ、戦時中同市の造船所に朝鮮半島から連行され死亡した人々を慰霊する「韓国朝鮮人無縁仏之碑」に献花し「慰霊碑への関心を持ち続けて欲しい」と呼びかけた。日本全国に少なくとも150カ所以上の朝鮮人関連追悼碑があるといわれている。多くの碑が、在日同胞と地元市民によって設置されたものだ。全国の慰霊碑が、心ない人々の讒言によって撤去されることのないよう、私たちはユン大使の言葉に耳を傾けなくてはならない。
平和フォーラムは、歴史修正主義、レイシズムを許さず、歴史の真実に向き合い、アジア諸国との新しい友好の関係を築くよう今後もとりくんでいく。
2024年2月6日
フォーラム平和・人権・環境
代表 藤本泰成
2024年02月02日
憲法審査会レポート No.30
第213回通常国会 憲法審査会をめぐる動向について
1月26日から、通常国会が開催されています。
昨年から浮上した自民党の裏金問題は、その全容は自民党の事実究明への非協力的態度もありいまだ不明ですが、発端の安倍派に限っても所属議員95人(ほぼ全員!)に対して5年間で計6億7654万円が流れていたと報道されており、規模の大きさがうかがえます。
日ごろ「愛国心」「道徳」を振りかざしてきた人たちが、その実まるごと腐敗していたことは、うすうすわかっていたとは言え、しかしここまでひどいものなのかとあきれるばかりです。そしてこんな人たちが徒党を組んで憲法に手を付けようとしてきた事実を思い起こし、心底嫌悪感を覚えます。
普通に考えれば、自らを恥じ、改憲を云々する資格などないことを自覚するところですが、1月31日の施政方針演説で、岸田首相は次のように述べています。「衆・参両院の憲法審査会において、活発な議論をいただいたことを歓迎します。国民の皆様に御判断をいただくためにも、国会の発議に向け、これまで以上に積極的な議論が行われることを期待します。また、あえて自民党総裁として申し上げれば、自分の総裁任期中に改正を実現したいとの思いに変わりはなく、議論を前進させるべく、最大限努力したいと考えています。今年は、条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速してまいります」。恥を知らねば恥かかず、とはこのことでしょうか。
さらに恥知らずなことに、辻元清美議員の指摘によれば参議院憲法審査会の自民党の委員21人中に安倍派13人、さらにそのうち11人が「裏金議員」と報道されている人物だそうです。こんなメンバーで憲法を議論しようなどというのは、悪い冗談でしかありません。
いっぽう、昨年の衆議院憲法審査会のなかで持ち出されてきた、国会議員の任期延長などに関する具体的な改憲条文案作成のための作業部会設置については、改憲会派内でも議論がまとまっていないことを踏まえればそもそも検討に値しませんし、早急な災害対策と政治腐敗究明が第一に問われる状況にあって優先してとりくむべき事項だとも思われませんが、公明党の北側一雄副代表は記者会見で、あらためて前向きな態度を示しています。
私たちとしては、残念ながらいまなお危険な改憲情勢の只中にあることを確認するとともに、今後の国会内外の動きにいっそう注視していきます。
なお、今年度予算が成立するまでは、衆参ともに憲法審査会が開かれないことが通例ですので、2月中は開催がないものと思われますが、2022年のように維新・国民など改憲会派の後押しに勢いづいて衆議院で早期開催が行われたこともあり、注意が必要です。
改憲をめぐってのなんらかの動きがあり次第、本「憲法審査会レポート」の発行も適宜行っていく予定です。ぜひ引き続きのご注目とご活用をお願いします。
【参考】
第二百十三回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2024/0130shiseihoshin.html
岸田首相、改憲に強い決意 「総裁任期中に実現」 国会演説で初めて言及
https://www.sankei.com/article/20240130-CWPLNTP6K5IGHN5KXIIQGIIZMA/
“改憲の国民投票には国会発議から周知期間として60~180日間を要する。1期目の任期中の改憲を実現するには、今国会がラストチャンスだ。一方、当面は最優先の課題として、政治への信頼回復が首相の前途に立ちはだかる。政治資金規正法の改正など政治改革がおざなりであれば、一部野党が改憲議論を拒む口実に使いかねない。”
憲法改正、岸田首相が笛吹けど踊らず 質問は維新・馬場代表と国民・玉木代表だけ
https://www.sankei.com/article/20240201-GXMFURN5VNPFXP6ZGSRDNOI6KQ/
“岸田文雄首相(自民党総裁)は施政方針演説で9月までの総裁任期中の憲法改正に意欲を示したが、1日までに衆参両院の代表質問で触れたのは日本維新の会と国民民主党だけだった。自民派閥の政治資金パーティー収入不記載事件に関心が集まり、改憲は「笛吹けど踊らず」の状況だ。”
公明、改憲条文案を検討 緊急事態時の国会議員の任期延長
https://mainichi.jp/articles/20240131/k00/00m/010/153000c
“公明党の北側一雄副代表は31日の記者会見で、緊急事態時の国会議員任期延長を巡り、憲法改正に向けた条文案の検討を進める考えを示した。”
立憲・泉氏「汚れた手で憲法を触るな」 与野党が首相演説を批判
https://www.asahi.com/articles/ASS1Z6VXSS1ZUTFK00P.html
“岸田文雄首相が30日に衆参両院で行った施政方針演説に対し、与野党からは「やる気があるのか」「説得力がない」といった批判が相次いだ。自民党派閥の裏金問題の実態解明には言及がなく、焦点の政治改革も「肩透かし」の内容だったためだ。”
辻元議員が激怒「丸川珠代議員に、山谷えり子議員…
自民党の憲法審査会21人中11人が『裏金議員』!」裏金総額はなんと5000万円
https://jisin.jp/domestic/2289772/
“《今日届いた参議院憲法審査会のメンバー表で驚いた。自民党21名中、安倍派13名、報道によればうち11名が「裏金議員」。しかも差し替えた幹事が二人とも該当とは!2403万円の山谷議員、700万円の丸川議員ら11名で計五千万以上。「裏金」を作った議員に憲法審査会の資格なし。変えない限り議論はできない》”