8月, 2022 | 平和フォーラム
2022年08月31日
V22 オスプレイ、クラッチの不具合が解決しないままの飛行をしていた ―米空軍は、一旦、CV22全機の飛行停止を決定ー
湯浅一郎
はじめに
2022年8月16日、米空軍特殊作戦司令部(AFSOC)は、エンジンにつながるクラッチの不具合を理由にCV22オスプレイの全52機を飛行停止させた。横田基地配備のCV22オスプレイ6機は直ちに飛行を停止し、自衛隊も様子を見るべく飛行を停止した。ところが海兵隊は、この現象は2010年から把握しており、一定の対処をしているので飛行停止は不要と飛行を続けている。クラッチの構造はV22全体で共通のはずで、海兵隊の対応は全く不当である。折しも2012年10月、12機のMV22オスプレイが普天間基地に配備されてから丸10年が近い今になって、このような問題が露呈したことは極めて重大である。この10年間、クラッチの不具合という基本的問題を抱えたまま、オスプレイは日本列島の空を飛び回っていたことを考えると空恐ろしい。これは、市民の安全をないがしろにする姿勢そのもので到底許せることではない。ここでは問題の所在と今後の課題などを整理しておく。
ブレイキング・デイフェンス(BREAKING DEFENSE)が伝えたこと
8月17日、米軍のオンライン専門誌ブレイキング・デイフェンスは、空軍特殊作戦コマンド(以下AFSOC)がエンジンとプロペラローターをつなぐギアボックス内のクラッチの不具合による事故が多発していることから、CV22オスプレイの全機飛行停止を決定したとの情報を伝えた(注1)。以下、詳しく見ておこう。
AFSOC 司令官のジム・スライフ中将は、過去 6 週間に発生した 2 件を加え2017 年以降合計 4 件の事故が発生したことを受けて、16日に安全のための地上待機措置を命じた。AFSOCは、未知の潜在的に危険なクラッチの問題を含む「安全性事故の増加」の結果として、CV-22オスプレイ52機すべてを無期限に飛行停止させたとしている。
記事によるとAFSOC広報官ベッキー・ハイス中佐は、この問題を「ハード クラッチ エンゲージメント」と表現している。基本的に、CV-22 の 2 つのエンジンの 1 つをプロペラ・ローターに接続するギアボックス内のクラッチが、未知の理由で滑っていると説明した。それが起こると、動力負荷はほぼ瞬時に他のエンジンに転送される。これは、1 つのエンジンが故障してもオスプレイが飛行し続けることを可能にする設計機能である。その後、ほとんどの場合、最初のクラッチが再接続され、動力負荷が元のプロペラ・ローターとエンジンに急速に戻る。
しかし、エンジン全体に急速に動力が移動した結果、パイロットは CV-22 を直ちに着陸させることを余儀なくされるという。そしてパイロットのスキルと技量により、この問題による負傷者や死亡者は出ていないと述べた。そのうえで、「我々の空軍兵の安全は最も重要である。したがってハードクラッチの接続の原因を特定し、リスク管理措置が講じられるまで、CV-22は飛行しない」と彼女は述べた。
多くの場合、事故後にギアボックスとエンジンの両方を交換する必要があり、損害額が 250 万ドルを超えるクラス A の事故に相当する。空軍は、これらをクラスA事故とするとも取れる記述もあるが定かではない。というのは、これまでのクラスA事故に、これらのクラッチ不具合に関わる事故は含まれていない。
「ジョイント プログラム オフィスと協力して、AFSOC は根本原因を正確に特定するのに十分なエンジニアリング データ分析を収集することができなかった。そのため、この問題が「機械的なものか、設計上のものか、ソフトウェアによるものか、またはそれらの組み合わせによるものかは不明である」とも述べている。彼女は、AFSOCのスタッフは「この問題を完全に理解し、壊滅的な結果の可能性を軽減するためのリスク管理手段を開発するために、共同プログラムオフィスおよび業界のパートナーと協力する…目標は、実行可能な長期的な物理的解決策を決定することである」と述べた。ここには、問題の基本的な解決をめざし、それが具体化するまでは、飛行停止を継続するという意思が示されている。
飛行を停止しなかった海兵隊
ところが海兵隊は、2010年の時点でこの現象を把握しており、すでに対処法が確立しているので、飛行を停止する必要はないとして、普天間配備のMV22は飛行を続けている。東京新聞(注2)によると、取材に対し海兵隊は、「2010年にクラッチの不具合を確認し、搭乗員が問題なく飛行できる緊急手順を入隊後と通年の訓練に取り入れた。クラッチの連結保持を早期に認識するための暫定ガイドラインも発行した」と回答している。このガイドラインに現象の詳細と対処法が述べられているということであろう。であれば、海兵隊は、暫定ガイドラインを公開すべきである。
一方、防衛省が提供したCV22オスプレイ6機が配備されている横田基地周辺自治体への説明資料(注3)がある。それによると、「米国防省は、オスプレイにおいてクラッチを原因とする「特有の現象」がまれに発生することを、2010 年の段階で把握している」。「特有の現象」は「ハード・クラッチ・エンゲージメント(HCE)」と言い、「プロペラとそのエンジンをつなぐクラッチが離れ、再結合する際に衝撃が発生する現象」としている。海兵隊は、「この現象の根本的原因については解明されていないが、この現象による深刻なトラブルを起こすことなく、安全に運用できる手順は既に確立されており、各種教育・訓練を通じて乗組員にこれらの手順を習得させることにより、安全に運用できる体制が確保されている」としている。そして、「手順の例」として以下が示されている。
・離陸直後に一定時間ホバリングを行い、クラッチを含む機体の状況を確認した上で飛行に移る。
・万が一飛行中にクラッチに係る現象が生じた場合には、緊急対処手順に従って、バックアップ系統等を活用 し、安全に着陸する。
これらの説明だけでは、飛行のどういう状態において、いかなる現象が起きているのか、今一つわからない。クラッチを使用するということは、何らかの飛行に関わるモードを変更しようとした際に発生する事象なのであろう。そのような操作は、オスプレイ以外の軍用機で通常行うものなのであろうか?
また、「多くの場合、事故後にギアボックスとエンジンの両方を交換する必要」があるとしているが、なぜエンジンを交換する必要があるのか? また、両者を交換した場合、その後、同じ問題は起きない保証はあるのかなど、不明な点が多い。海兵隊の暫定ガイドラインは、それを知るきっかけになるかもしれない。
それにしても、この問題は、2012年にMV22を普天間基地に配備する際には公表されていない。この情報が日本政府に伝えられていたのかどうかも、現時点では不明である。もしこの事実を隠蔽したまま沖縄に配備したのであれば、沖縄県民を初め日本の市民の生命を軽視していたことにほかならない。
おわりに
V-22 オスプレイは、「米軍初のティルトローター機であり、垂直に離陸してヘリコプターのようにホバリングし、ナセルを回転させて飛行機のように高速で前方に飛行することができる。つまり一つの航空機で回転翼ヘリコプターと固定翼航空機の2つの機能を持つという極めて高い目標を掲げたがゆえに、慢性的な揚力不足という構造的欠陥があり、オートローテーション機能の欠如など多くの問題がある。
沖縄県内では2016年に普天間配備のMV22オスプレイが沖縄県名護市安部の海岸で墜落事故を起している。普天間所属機は17年にオーストラリア沖でも墜落している。このほか最近では、ノルウェーでの 2022 年 3 月の MV-22 墜落事故で 4 人の海兵隊員が死亡し、2022 年 6 月のカリフォルニアでの墜落事故では 5 人が死亡した。
2012年のMV22普天間配備から丸10年を経た今になって、クラッチの不具合という基本問題が、米空軍の発表で判明したことの意味は大きい。海兵隊がしているように、この基本問題を放置したまま、とりあえずの対処法ができているので問題はないとの姿勢を糺していくことが求められる。
注:
1.原文のurlは以下。
https://breakingdefense.com/2022/08/exclusive-air-force-special-operations-command-grounds-cv-22-ospreys-due-to-safety-issue/
2.『東京新聞』2022年8月23日。
3.福生市HP
https://www.city.fussa.tokyo.jp/municipal/yokotabase/new/1014778/1016754.html
追記:
本稿を掲載した直後の9月2日、米空軍は、CV22の飛行再開を指示した。ここでは、その決定内容を補足しておく。防衛省の横田基地周辺自治体への報告(注1)によると、「その後、米空軍特殊作戦コマンドにおいて、各種情報を分析の上、様々な任務におけるCV-22の運用手順の 確認、搭乗員に対する教育・訓練内容の追加、機体点検などを継続的に行うことにより、CV-22の飛行 の安全が確保できることを確認したことから、9月2日(金)(米国時間)、地上待機措置が解除されたものです。」とある。その結果、「米国防省は、オスプレイにおける、クラッチを原因とする「特有の現象」による深刻なトラブルを起こすことなく安全に運用できる手順を既に確立しており、オスプレイの飛行を一律に見合わせるべき機体の安全性に係る技術的課題は存在しないとの立場です」とされた。
まったく釈然としない決定である。防衛省は、「米側の説明には合理性が認められることから、米空軍が今般、CV-22の飛行を再開するとしたことに問題があるとは考えていません」と述べ、米側の説明をうのみにしている。どこに「合理性が認められるのか」全く理解しかねる。当然のごとく、わずか3週間の間に根本的な解決策が判明したというわけではないのである。
9月8日、オスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会とフォーラム平和・人権・環境は連名で防衛省への要請行動を行った(注1)。この問題は、今後もフォローしていく。(2022年9月15日記)
注:
1.要請書のurlは以下。
http://www.peace-forum.com/wpcontent/uploads/2022/09/bfa847d5ddeab0af05b931c186212938-1.pdf
2022年08月24日
ニュースペーパーNews Paper2022.8
8月号もくじ
*「核をなくしたい」願いを広めて、声をあげ続ける
川副忠子さんに聞く
*核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議
*復帰50年沖縄県民の反戦闘争をふりかえる
*植民地主義とアイヌ遺骨問題
2022年08月23日
安倍元首相の「国葬」中止を求めるオンライン賛同署名にご協力ください!
平和フォーラムが参加する「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」は、安倍元首相の「国葬」中止を求めるオンライン賛同署名を呼びかけていますので、ここにご案内します。ご協力・ご紹介をお願いします。
「安倍元首相の『国葬』中止を求めます」
こちらから署名できます→ https://www.change.org/kokusouhantai
7月22日の閣議で政府は、故安倍晋三氏の「国葬」を9月27日に行うことを決定しましたが、これには、多くの皆さんが疑問と反対の声をあげています。
報道各社の世論調査でも、「国葬反対」(47.3%、時事通信社8月)、国葬を行うことを「評価しない」(50%、NHK8月)など、「反対」、「評価しない」が多数です。
このような世論には理由があります。1)個人の葬儀を国が行う根拠法が存在しないこと、2)特定の個人の葬儀費用を税金で執行することが、法の下の平等、、思想や良心、信教、表現の自由、財政民主主義を定めた憲法に反すること、3)安倍氏の政治的な業績に対する評価は定まっておらず、むしろ「モリカケ・サクラ疑惑」など行政の私物化や、国会軽視、官僚統制のあり方などに厳しい批判があること、などの点が主なものです。「国葬」が日本国憲法の諸原則と相いれないという指摘も各方面から行われています。
くわえて、連日報道される旧統一教会と政治との癒着の中心に安倍氏が存在していたことは、同氏の評価をさらに厳しいものにしています。
7月12日に行われた安倍氏の家族葬にあたって、全国でいくつかの教育委員会が弔意を示す半旗の掲揚を学校に求めたと報じられています。この事態は国葬にあたり、行政や学校などをつうじて市民に弔意が強要され、基本的人権が侵害されるおそれをいだかせます。
岸田首相は、記者会見などで「世界各国がさまざまな形で弔意を示し、我が国としても弔意を国全体として示すことが適切」などと述べていますが、葬儀の政治利用といえる理由を市民が受け入れていないことは、先の世論調査結果でも明らかです。
むしろ、国会開催を求める野党の要求に背をむけ、説明責任を果たそうともしない姿勢は厳しく批判されるべきです。
すでに多くの市民、団体が「国葬反対」、「国葬中止」の声をあげ、行動に立ちあがっています。私たちは、これらの市民の声と運動に連帯し、より多くの皆さまの声をみえる形にするために、このアピールへの賛同署名をよびかけます。
9月27日の「国葬」中止の一点で、賛同いただける皆さまのご協力をお願いします。
【呼びかけ】
飯島滋明(名古屋学院大学教授)
石村修(専修大学名誉教授)
稲正樹(元・国際基督教大学教授)
上野千鶴子(東京大学名誉教授)
内田樹(神戸女学院大学名誉教授)
落合恵子(作家)
鎌田慧(ルポライター)
清末愛砂(室蘭工業大学大学院教授)
五野井郁夫(高千穂大学教授)
斎藤美奈子(文芸評論家)
佐高信(評論家)
澤地久枝(作家)
島薗進(東京大学名誉教授)
清水雅彦(日本体育大学教授)
田中優子(法政大学名誉教授・前総長)
中島岳志(東京工業大学教授)
永山茂樹(東海大学教授)
※アイウエオ順
こちらから署名ができます→「安倍元首相の『国葬』中止を求めます」
https://www.change.org/kokusouhantai
2022年08月19日
「戦後77年 戦争犠牲者追悼、平和を誓う8.15集会」を開催
戦後77年となる8月15日、平和フォーラムは千鳥ヶ淵戦没者墓苑において「戦争犠牲者追悼、平和を誓う8.15集会」を開催し、約150人の参加がありました。新型コロナウィルス感染症が終息していないことから、本年もこの間と同様規模を縮小、感染症対策を実施しながらの集会となりました。
正午に黙とうを行い、平和フォーラムから勝島一博・共同代表がすべての戦争犠牲者への誓いの言葉を読み上げました。引き続いて、立憲民主党の近藤昭一・衆議院議員、社会民主党の福島瑞穂・参議院議員、立憲フォーラム副代表の阿部知子・衆議院議員、戦争をさせない1000人委員会の内田雅敏・事務局長が追悼の言葉を述べました。その後、参加者がそれぞれ墓前に献花を行いました。
すべての戦争犠牲者を追悼し、不戦の誓いをあらたにするとともに、いまなお解決していない戦争被害に対する謝罪や賠償などの問題の解決に向け、平和フォーラムとして今後もとりくみをすすめていきます。