4月, 2021 | 平和フォーラム - パート 2
2021年04月01日
むつ中間貯蔵施設の共用化は絶対許さない!
核の中間貯蔵施設はいらない!下北の会 事務局長 栗橋 伸夫
当会は青森県むつ市に使用済み核燃料の中間貯蔵施設構想が浮上した直後の2000年9月に設立した同施設に反対するむつ市民で構成する団体です。この間、一貫して「中間貯蔵施設」とは名ばかりで実際は永久貯蔵施設になることは必至であるとして施設の建設、操業に反対しています。50年前からの原子力船むつの問題を端を発する下北半島原子力基地化構想の行きつく先としての「核のゴミ捨て場」は断じて許さないとの思いで立ち上げ、はや20年を超えました。
2003年には当時のむつ市民有権者4万人の15%にあたる6千人を超える署名を集めて住民投票条例の制定を求めましたが市議会では否決された経過があります。結局は2005年10月に本施設の立地協定が当むつ市、青森県、東京電力、日本原子力発電の四者で結ばれ今日に至っています。
しかし、ご承知の通り、「高速増殖炉もんじゅ」の廃炉、第2再処理工場計画の消滅、さらには3・11福島原発事故など使用済み核燃料を巡る問題は大きな転換期を迎えています。こうした中、私たちは前提条件が大きく変わっている今日、むつ市に対してあらためて、本施設の稼働について市民へ問うべきだと幾度も申し入れをしています。
関西電力が「核のゴミ」持ち込みを画策
とりわけ2020年は大きな課題が突き付けられた1年でした。3月上旬にはむつ市が住民の意見を求めることもなく「核燃料新税条例」を市議会へ上程、下旬には異例のスピードで成立させました。また、9月には原子力規制委員会が施設の審査合格を示しました。しかも、その際に更田規制委員長は記者会見で協定上の保管期限50年後の搬出先がないことや、キャスクの保安管理の仕組みの不明瞭性などを指摘したうえでの合格という不可解な対応でした。そして、12月にはむつ施設の共同利用構想が大々的に報じられました。
2018年1月には立地協定とは全く関係ない関西電力がむつ施設へ福井県の原発の使用済み核燃料搬入を目論んでいるとの報道があり、私たちは驚きもありましたが一面では「やっぱり」という思いもありました。そして2020年末12月18日には電事連が経産省をともない、この施設の全国電力会社の供用化案なるものを本県、当市へ提案すべく来訪しました。
これに対して地元では「断じて認められない」「何の権限があって協定当事者でもない電事連、経産省が口を挟むのか」との声が、私たち反対住民はもとより、この施設を容認している多くの市議会議員からも大きく上がっています。さらに今月に入り、関電や福井県知事の発言が報じられるに至り、むつ市長もたびたび声明やコメントを発表するなどこうしたやり方に強く憤っています。市当局としても今日まで市民へ説明してきたことが覆されることへの懸念が滲み出ている対応です。まさに一民間企業の都合による自社保身のための姑息な対応に当市が引き合いに出されることは言語道断であり、迷惑千万でしかありません。
また、むつ市長がかなりアクティブに対応しているのに比して青森県知事は傍観するかのような態度でしかありません。本施設の立地協定の一当事者としてこうした態度は許せません。青森県が立地協定に踏み切った背景にある2005年にこの問題に限定して開催された青森県議会議員全員協議会で列席した当時の東電社長兼電事連会長の勝俣恒久氏は、自民党議員の質問に対し『本施設には2社(東電、日本原電)以外の使用済み燃料搬入は絶対にありません。』と明言し、こうしたことが協定締結の遠因となっていることは明白です。こうした点からも県知事としてもっと毅然と対応すべきであったと考えています。
青森県を核のゴミ捨て場にはさせない!
私たちの会も多くの仲間と共にこの問題については青森県知事やむつ市長へ申入書を提出しながら、様ざまな機会をとらえて市民へ訴えています。この共用問題は青森県を核のゴミ捨て場にしようとする意図であることはもとより、単に当むつ市だけの問題ではなく全国の老朽化原発の再稼働に道を開き、結果として全国の原発立地地域の住民を一層危険に晒すことに加担することになることを強く訴え、そうした観点からも青森県やむつ市への共用化を認めないよう申し入れています。
今後、地元経済界などが現在、「核燃料新税」の課税方式や税率などで事業者と市当局との交渉が難航していることなどを引き合いに共用化問題を取引材料とすることなどが断じて行われないよう厳しく監視していきます。全国の仲間と共に闘いを強め、協定当事者の東電、日本原電の使用済み核燃料の搬入にも当然、断固として反対していきますが喫緊の課題として、電事連、経産省がこの共用化計画を断念させるために全力を尽くす決意です。(くりはし のぶお)
2021年04月01日
復興・創成期10年で終わらせるわけにはいかない!原発の過酷事故
「10年目の福島で、いま」第4回
福島県平和フォーラム共同代表 角田 政志
10年の節目に、原発事故の原点を見直す
原発事故で最も恐怖と不安を感じたのは、広範囲に及ぶ放射能汚染と放射能被ばくの問題であった。あの時から10年が経過した今、市民は放射能汚染と被ばくにどれほどの恐怖と不安を感じているだろうか。私たちの住む生活圏では除染が行われ、半減期が約2年のセシウム134も10年の間に低減化した。確かに、空間線量は下がり、現在はほとんどのところで0.23μSv/h(年間1mSv)を下回っている。しかし、事故前の環境には戻っておらず、森林除染はいまだに行われていない。林業従事者は、「山の生活、文化を守れない」と訴えている。その声は、どれほど伝わっているだろうか。 放射能汚染と被ばくの恐怖と不安は、時間の経過の中で薄らぎ口に出しにくくなっていることも現実である。一方で国は、一層の原発事故の意図的風化を進めようとしている。除染なしでの帰還困難区域の指定解除の方針を出し、除染で集められた汚染土を減容化し、低濃度の汚染土を公共事業に使う実証実験を進めている。わざわざ汚染土を使う必要などない。中間貯蔵施設は、除染廃棄物を30年間保管し県外での最終処分を行うとなっており、少なくして県外で受け入れしてもらおうとの意図があるのだ。さらに、「トリチウム汚染の海洋放出」についても「全国、全世界の原発からトリチウム水は放出されている。第一原発でも薄めて流せば大丈夫」というのが国と東電の主張である。すべて、国の理屈を優先させ、人々には、原発事故の犠牲の上にさらに事故処理上の犠牲を強いている。
原発事故直後から、「直ちに健康には影響がない」とか放射線被ばくの影響を小さく感じさせようとする動きはあったが、その動きは徐々に強くなっている。それが「リスクコミュニケーション戦略」の強化だ。廃炉作業を最新技術の導入で進めていることをアピールする施設や、復興と未来の展望をテーマとした展示施設などがオープンしている。そして、東京オリンピックの聖火リレーを被災地から始めるのもその戦略の一つだ。安倍前首相の東京オリンピック誘致演説での大嘘、「(福島原発事故の影響については)アンダーコントロール」を今、さまざまな戦略で本当にしようとしている。まさに、新たな「安全神話」が作られてきている。一方では、第一原発の廃炉作業は難題を抱えて進まず、工程表との乖離が鮮明となっている。2021年1月下旬には、2号機・3号機の建屋上部が高濃度に汚染されていることが分かり、今後の作業に大幅な遅れがでる可能性が高まった。常にリスクを負った生活が続くことを忘れてはならない。
原発事故をどう次世代に伝えていくのか
原発事故から10年が過ぎ、福島原発の過酷事故を直接知らない世代が成長している。原発事故によって故郷を奪われたこと、生業の維持継続になみなみならない努力があったこと。放射能汚染と被ばくの問題は今も続いていること。そういったことを伝えていかなければならない。
2018年にロシアとベラルーシのチェルノブイリ原発事故による汚染地域を訪問したとき、それぞれの町で取り組まれている放射線教育を見聞してきた。原発事故や放射能汚染を知らない子どもたちには、歴史的側面からの学びが、学年が進むにつれて主体的な活動として行われていた。学習資料も充実していた。子どもたちが学んだことを家庭で話し、家族みんなが被ばくを避けようと意識を持つことが大切だと教えられた。事故から30年たっても、放射線教育はしっかりと行われている。私たちは、他国の実践に学び、活かしていかなければならない。
日本では、「放射線の安全性」に力点が置かれた2018年改訂版文科省「放射線副読本」が子どもたちに配られている。原発事故を子どもたちに伝え、子どもたちが相互に学びあう放射線教育の資料としては適していない。福島県教職員組合では、副読本の批判検討を進めつつ「資料」としての扱い方を工夫し、教職員の自主編成による放射線教育の推進をめざしている。
私たちが次世代に繋げていかなければならないことはたくさんある。福島での原発事故による被ばくの事実は消せない。これから福島でも「健康手帳」の発行を求める運動を進めていかなければならないと考えている。広島では「黒い雨訴訟」を通して、被爆者手帳の対象範囲拡大を目指している。被爆2世の会は、いつ自分にも原爆症が現れるかわからないと、被爆者手帳の発行を求めて立ち上がっている。私たちも、そういった人たちと連帯し、福島の未来に繋げていきたい。(つのだ まさし)
2021年04月01日
日本の空にオスプレイはいらない!日本の空にオスプレイはいらない!
木更津暫定配備の現状と定期機体整備のゆくえ
護憲・原水禁君津、木更津地区実行委員会 原田 義康
2020年7月10日、陸上自衛隊のオスプレイV-22 1号機(機体番号1705)が陸上自衛隊木更津駐屯地(以下木更津基地という)に降り立った。そして16日には2機目(機体番号1701)もやって来た。これは2019年12月に渡辺芳邦木更津市長が5年間という期限を条件に配備に協力することを表明したためだ。その後4ヶ月が経過した11月、両機は基地内ホバリングと基地外への飛行を試みた。しかし1号機は基地外への飛行を行なおうとした際、油圧系統の警告ランプが点灯し、飛行を断念した。防衛省はこの警告ランプ点灯は軽微な「推奨」レベルのものだという。しかしなぜかさらに4ヶ月経過した現在も飛行していない。オスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会(湯浅一郎代表)の防衛省への質問の回答では、定期点検中だという。
住宅密集地上空を飛行する陸自オスプレイ
そして2021年2月に陸自オスプレイの5機が岩国に陸揚げされ、2月24日に3機目(機体番号1704)が木更津基地に飛んできた。このときは晴天にもかかわらず、悪天候時に使用する君津市街地上空から君津市と木更津市境に広がる1万戸あまりの住宅密集地上空を経て基地に着陸する「計器飛行ルート」を飛んできた。さらにこの住宅密集地上空で固定翼から回転翼への飛行モードの転換を行なったと思われる。先の防衛省交渉でもこのことを質したが「パイロットの判断によるもので一概には言えない」という無責任な答えが返ってきた。2021年3月の木更津市議会本会議の一般質問でも田中紀子市議(きさらづ市民ネット)がこの問題を取り上げたが、市当局の回答は「防衛省に確認する」にとどまっている。今後陸自オスプレイがさらに14機木更津基地にやってくるわけで、厳しく監視していかなければならない。
「丁寧な説明」とは裏腹 防衛省の秘密主義
一方、2017年2月に始まった普天間基地の海兵隊オスプレイMV-22の定期機体整備は、当初の5年に一回程度、1機あたり4~5ヶ月で整備し、年5~10機整備するという説明から大きくかけ離れ、4年経過した現在でも3機しか終わっていない。そのため普天間基地のMV-22は配備から7~8年経過しているが、多くが定期整備できていないことになる。このことを防衛省に問うと、「必ずしも5年で整備するものではなく、飛行時間によって行なっている」という新たな答えが返ってきた。それでは整備する基準となる飛行時間は何時間かと質すと「答えられない」という。
また2020年5月に米軍が新たな定期機体整備企業の募集を行なうことが発表された。普天間から1000マイル以内の基地を対象にし、一度に7機整備し、2023年には米海軍オスプレイCMV-22の整備も行なう予定だという。防衛省は引き続き木更津基地で国内企業が行えるよう積極的に動き、木更津基地に新たに格納庫を2棟新設する計画も立てられた。7月には米軍による国際入札が行なわれ、秋には公表すると言っていたにもかかわらず、今日に至っても公表されていない。そのためSUBARUによる定期機体整備は2020年12月までとなっていたが、2021年の6月末まで延長された。
このようにオスプレイを巡る状況は、防衛省の秘密主義が一層顕著になっている。この3月からは陸自オスプレイの教育訓練等も開始されるとのことだが、防衛省は昨年全国から寄せられた34万筆ものオスプレイ暫定配備反対の署名の重みをどう受け止めているのか。そして市民、県民の暮らしと安全を守るべき自治体の対応も、森田県政ではオスプレイについても「他人事」の対応が目立ち、木更津市は防衛省交付金の増額が目的化し、オスプレイに対する対応も前のめりの感が否めない。これら自治体にもしっかりとした対応を求めていかなければならない。そのためにも私たちは「日本の空にオスプレイはいらない」という声と運動を一層強めていく必要がある。(はらだ よしやす)
2021年04月01日
憲法改正手続法改正案の問題点
日本体育大学教授(憲法学) 清水雅彦
憲法改正手続法とはそもそも何か
「日本国憲法の改正手続に関する法律」のことを、マスコミや時に運動体なども「国民投票法」と表現しているが、この略称は正確ではない。なぜなら、法律の正式名称のどこにも「国民投票」という文言がないし、確かに大部分は憲法改正に際しての国民投票に関する規定から構成されているが、それ以外の規定もあるからである。略すなら、「憲法改正手続法」や「改憲手続法」であろう。本稿では「憲法改正手続法」と表現する。ちなみに、「憲法改正」のことを「憲法改定」と表現する人もいるが、これは法律用語ではない。
この法律は、第1次安倍政権の2007年に制定された。憲法96条に憲法改正に際しての国民投票のことが書かれていながら、これに関する具体的な法律がないので制定の必要がある、というのが安倍政権の説明であった。しかし、憲法改正が差し迫っていなかったので、特に問題はなかったのである。この法案の議論は、1997年に憲法調査推進議員連盟(改憲議連。自民党・公明党だけでなく、民主党国会議員も多数含まれていた)が結成され、2001年に改憲議連が「日本国憲法改正国民投票法案」を発表したように、改憲派が改憲に向けたムード作りのために展開した側面が大きい。
憲法改正手続法改正案とは何か
昨年11月26日開催の衆議院憲法審査会で、与党など提出の憲法改正手続法改正案についての審議が始まり、採決が持ち越された。これは2016年に改正された公職選挙法の7項目(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所への同伴)に揃えて憲法改正手続法も改正しようとするものである。これを立憲野党が法案提出から8国会をまたいで抵抗してきた。なぜこれほどまでに抵抗してきたのか。
まず、7項目は2016年の改正公職選挙法の内容であり、2019年の改正公職選挙法の内容は反映しておらず、この間、議論されてきた郵便投票の対象拡大は入っていない。また、7項目の中には、期日前投票時間の短縮や繰延投票期日の短縮といった投票環境の後退を招くものも含まれており、仮に通常の選挙で許されることがあったとしても、憲法改正に際しての国民投票では同一に扱えないからである。
そもそも憲法改正手続法に問題がある
改憲問題について、一部運動体などには「国民投票で否決すればいい」という主張があるが、それは問題である。なぜなら、憲法改正手続法自体に問題があるからである。具体的には、公務員・教員の地位を利用した運動規制(従来の労働・人権・憲法運動を先導してきた公務員・教員に対する規制となる)、投票14日前からの勧誘広告放送の制限(それ以前は財界等資金力のある改憲勢力が自由に宣伝でき、資金力のない市民・市民団体などは意見表明の点で不公平になる)、罰則規定(投票干渉罪・投票の自由妨害罪・買収罪・利害誘導罪は労働組合や市民運動などの弾圧に利用されかねない)、会派の所属議員数に比例した国民投票広報協議会(憲法改正は賛成か反対かの二者択一の問題なのに、国会の多数派である改憲派に有利な形で広報資料などが作成される危険性がある)、短い周知期間(憲法改正の発議後60~180日としているが、60日は短い)などである。
また、2007年に制定された際には参議院で18項目もの附帯決議が、2014年の一部改正の際には衆議院で7項目、参議院で20項目もの附帯決議がなされた。そうであるなら、憲法改正手続法改正案の議論をするといった場合、まずは法そのものにある問題点や附帯決議の項目について審議すべきである。先に公職選挙法並びの7項目の改正ではない。
狙いは改憲
そして、立憲野党が特に憲法改正手続法改正案の審議に抵抗するのは、法案可決後に自民党が改憲そのものの議論をしようとしているからである。安倍政権は、2018年3月に自衛隊の存在を明記する憲法9条改正案など4項目の改憲条文案をまとめている。昨年の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、緊急事態条項の改憲の必要性も自民党から出てきた。自民党はとにかくどこからでも改憲の議論を始め、改憲をしたいのである。
しかし、このコロナ禍、急いで改憲の必要があるのであろうか。今、集中して取り組むべきことは、新型コロナ対策である。仮に憲法審査会で議論するとしても、憲法審査会は「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行[う]」組織でもあるのだから、憲法の観点から新型インフルエンザ等対策特別措置法や戦争法などについて議論すべきだ。国民民主党は憲法審査会での憲法論議に前向きで、立憲民主党の中には改憲議連に名を連ねていた議員がいるが、対応を誤ってはいけない。(しみずまさひこ)
2021年04月01日
宝の海を壊さないで 辺野古・大浦湾のたぐいまれな自然環境
インタビュー・シリーズ:164
日本自然保護協会 安部真理子さんに聞く
あべ まりこさんプロフィール
日本自然保護協会 保護・研究部 保護部門 主任
環境NGOに勤務後、オーストラリアの大学院で海洋生物学を専攻した。サンゴが研究テーマ。JICA研修コーディネーターなどを経て現職。沖縄をはじめ日本の沿岸域問題を担当している。写真は名護市東江にて
─沖縄の琉球弧の、琉球列島の自然の特長を、解説していただけますか。
日本列島は北には流氷があり、南にはサンゴ礁とひじょうに豊かな生物多様性を持つ場所です。なかでも沖縄には豊かなサンゴ礁が広がっています。沖縄本島の場合、西海岸は、大きな道路も通って結構開発が進んでいますが、東海岸はまだ手付かずの自然の残っている場所が多いのです。奄美、沖縄のサンゴ礁全体を見た場合、辺野古大浦湾ほどの深さを持つところは数えるほどで、規模が大きいのはここだけだと、地理学者は言っています。サンゴ礁の多くは浅瀬ですが、この場所のサンゴ礁は深さがあり、それがほかにはない生物多様性の豊かさを支えています。深いということは人力で掘らなくてもいいこと意味するので、そのため軍事基地建設に適しているとして、古くから目を付けられてきました。
─新基地建設ということで、埋め立てに大量の土砂を使うということですが、問題はないのでしょうか。
去年の4月に出された設計変更申請書を見ても、県外からの搬入をあきらめていません。その上で沖縄県内からも、宮古島、南大東島、石垣島を新たな土砂調達予定地としています。外来種対策とコロナ対策は似ていて、どんなに気を付けても、搬入時に入ってきてしまうのです。コロナよりは少し大きくても、アリなどが入っていると、駆除に苦労します。だから人や物を異なる生態系を有するところからなるべく動かさないというのが、一番の外来種対策です。しかし県内の土砂なら良いかというと、例えば沖縄本島と八重山は全く違う自然環境を持っています。県境は人間の都合で作られています。異なる島は異なる進化をとげており、島が違えば生態系はかなり違っています。ヤンバルクイナは沖縄島にしか生息せず、イリオモテヤマネコは西表島にだけ生息している、というほど島による自然は異なるのです。つまり異なる自然を持つ場所からの物資の異動は、外来種問題を起こすことになります。
大量の土砂を取ることは、その場所の自然を大幅に改変することにつながります。これまでも建材として石灰岩や土砂は使われてはきましたが、分量が少ないので、大きな影響にはなりませんでしたが、今回の計画はとても多いので、特に島という脆弱な自然環境には大きな影響が及ぶこととなると思います。また今回の計画では沖縄島内からも採取が予定されています。同じ島からの採取ならば外来種問題は起こらないという認識かと思いますが、沖縄島の北部のみが世界自然遺産の対象となったことからもわかるように、北部と南部は自然環境が異なります。さらに沖縄島の南部では沖縄戦の犠牲者の遺骨が混じっているということなど、別の問題もあると思います。
マングースという大きな動物でさえ、駆除しきれないのです。奄美ではやっと駆除できましたが、何十年もかかった大変な駆除でしたし、沖縄本島では未だ達成できていません。哺乳類でさえ苦労するのです。虫とか植物の種を完全に駆除することは困難であると考えます。
─海洋汚染はどうなのでしょうか。
水質が悪くなることはあると思います。2018年の埋め立て承認撤回の折に臨時制限区域に入れるときが2か月ほどあったので、辺野古シュワブ前の海草藻場に潜ってみたところ、まず第一に護岸が海草の上におかれているので護岸建設により海草が死んでいることがわかりました。事業者は直接改変する場所にしか影響は及ばないと言いますが、護岸付近にある海草も砂をかぶっていました。つまり工事の影響は周辺海域にすでに及んでいるということになります。行政の設けている水質汚濁の基準は甘いのでそれに従って工事を進めていくと、多くの生き物が死んでしまうことになってしまいます。
─ジュゴンはどうなっていますか
沖縄島の周辺に少なくとも3頭のジュゴンが来ていました(個体A、B、C)。しかし西海岸にいた個体Bが、工事の直接のせいではないのですが、死んでしまいました。あとの2頭は東海岸に棲んでいたのですが、最近確認されていません。 もともと奄美大島以南には広く分布していたのです。しかし急速に個体数が減って、奄美大島や八重山でも長く見られなくなっていました。しかしながらここ数年に八重山、宮古島あたりから目撃情報があがってくるようになり、環境省も調査を行っています。そのようななか、最近になって辺野古の工事現場付近でジュゴンらしき鳴き声が数か月で合計200回以上記録されているということがわかりました。ただそれが本当にジュゴンの声なのかは不明です。防衛省はデータを公開しない意向です。早く公開して、日本の専門家がわからないなら、世界の専門家に聞いていただいて、ジュゴンであるなら保護しないといけないと思います。
個体Bの死亡後に、IUCN(国際自然保護連合)という世界最大の自然保護団体が、南西諸島のジュゴンが置かれた状況を再度検討しました。日本の南西海域のジュゴンは、危機的な状況にあることがわかったのです。レッドリストは危機的状況にある生き物のリストですが、沖縄のジュゴンについては大変な状況にあるからと1ランク上げられてしまいました。
沖縄に生息するジュゴンは、北限のジュゴンです。もともとはフィリピンから沖縄に来たかもしれませんが、それでも長い間別々にいると、別の遺伝子型を持つグループということになるので、大事にしていかなければいけないのです。
─サンゴを移植して、保護・培養される可能性についてはいかがお考えですか?
サンゴは漁業調整規則の対象なので、県知事の許可が必要です。サンゴの移植には問題があり、サンゴの移植技術が確立されていません。サンゴ礁学会が2008年に出したガイドラインでも、大規模な公共事業工事の保全措置としてはふさわしくない、つまり開発の免罪符として使われることへの注意が書かれています。それから工事と並行して移植を行うことは、あってはならないのです。新しい環境になじむということは、ストレスがかかり、余計なエネルギーもいることです。ただでさえ工事を行って環境が悪くなっている中、移植すれば成功率をわざわざ下げているようなものです。環境影響評価図書には、環境保全措置としてサンゴは移植して保護しますということが書いてあります。その後に環境監視等委員会の先生方が検討して、たとえば水深20メートルより浅い場所に限定するとか、ある程度まとまった規模のサンゴしか移植対象としないとか、塊状ハマサンゴは長さ1メートル以上のものしか救わないなど、科学的根拠がないルールを作ってしまいました。20メートルより下に結構サンゴは生きているのに、それが移植対象外になるということではこの海域の生物多様性を保全したことにはなりません。 あまり注目されていませんが、底生生物のカニとか海藻とか貝類などの底生生物に関する環境保全措置は移動です。つまり、生物を捕まえて他の所に置くことを環境保全措置と呼んでいるのです。移動後の追跡調査もきちんと行われていません。防衛省は生態系保全を考慮していません。
─辺野古周辺に生きている小さな生物一杯いると思いますが、辺野古でしか、大浦湾でしか、ここでしか見られないというのが、結構あるのですか。
5334種の生物が確認されていて、その中で262種類が絶滅危惧種として知られています。環境アセスが終わった後に、新種、日本初記録種、貴重種などが確認されています。甲殻類や貝類は新発見が多く、どの分野の先生方も、もっと調査をする時間があれば必ず新しい科学的に重要な発見があったと言っています。このように可能性を秘めた場所なのです。水中30メートルに住んでいるコモチハナガササンゴの群集などは、他の海でもいるのですがこれだけの規模を有する例は珍しいと、論文が出されています。 政府の環境監視等委員会の議事録を読むと、匿名でしか言えない発言が多いです。たとえばサンゴの移植などについても、「移植してしまえばよい」というとても専門家の意見とは言えない発言が多くあります。たとえばこれから産卵を控えたサンゴでも、工事を急ぐために産卵期でも移植させてしまうなど、わざわざ移植成功率を下げるような発言をしています。
海中の騒音ですが、海の中では音は陸上と違った伝わり方をするのです。有名なところでは、クジラが水中でコミュニケーションを取るということがあります。辺野古で大きな音を出す工事を続けていると、クジラやジュゴンやイルカに影響が及ぶ可能性があります。
移植や移動は一見生物を保全しているように見えますが、生態系を構成しているパーツを動かしても元のようにはなりません。どんな自然でも、偶然が偶然に折り重なった長い期間があって、いまの生物多様性の豊かさがあります。たまたま流れ着いたサンゴや海草が広がり、そこを足場に特定の生物が棲みこみ、元とは異なる場所にしていく。このようなことの繰り返しの結果、現在の辺野古・大浦湾の生物や地形の多様性があります。このプロセスをもう一度人為的に再現することはできません。偶然の積み重ねというのは、一回しかできないことなので、一度壊したら元には戻らないのです。
私たちも生物多様性の一員です。そのバランスを保っているというのは本当に大切で、今ある自然を守っていくことが必要です。
2021年04月01日
ニュースペーパー News Paper 2021.4
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4月号もくじ
- 辺野古・大浦湾のたぐいまれな自然環境─日本自然保護協会 安部真理子さんに聞く
- 憲法改正手続法改正案の問題点
- オスプレイ木更津暫定配備の現状と機体整備
- 復興・創成期10年で終わらせるわけにはいかない
- むつ中間貯蔵施設の共用化は絶対許さない!
- 「高校生平和大使に至る道」
- 五輪の強行を前にして思う
桜が咲いています。
並木のつづく河川敷で、愛でるいとまもなく、無主物に汚染された下草刈りが続けられていました。
あの時、すでに溶融し、厚い壁を突き破っていたのにもかかわらず、事態の様相は明らかにされず、内部を冷やすために必死の注水や窒素瓦斯の注入が進められていました。
この国の政府が国際原子力事象評価尺度で最高位になることを公表した時、かの地は桜の開花日となっていました。
私たちは、終末の恐怖から計画停電の不満へ、漠たる不安の中でも、口鼻を覆うこともせずに街中を歩き、通勤の電車に揺られている日常がありました。空間線量を、セシウム、ストロンチウム、×××ウムを気にしながらも。
私たちは決意を固めました。そして全国各地で街頭示威行動が巻き起こり、若い世代も多くが声をあげはじめていきました。
そしてあの時から10年。コロナ、クラスター、パンデミック。春の訪れがいつになく早いにもかかわらず、愛でるゆとりもなく、無主物の本来の持ち主たちへささやかな声があげ続けられています。(写真下は3月5日、さようなら原発第3次署名提出)