5月, 2020 | 平和フォーラム
2020年05月31日
福島第1原発放射能汚染水の海洋放出を止めよう -廃炉40年計画を見直せ- 湯浅一郎
2011年3月の福島第1原発の大事故から9年強が経つ。事故直後、同原発では水素爆発が断続的に起き、放射能が東日本一帯に拡散した。大量の汚染した冷却水が直接、海に流出し、市民は放射能汚染への恐怖の中で暮らしていた。それから10年もたたない今年、今度は新型コロナウイルス感染という恐怖が世界中で広がり、日本も2か月弱の緊急事態宣言が出され、暮らしそのものが脅かされている。そうした中、政府は、今夏のうちに福島第1原発の放射能汚染水を希釈して海洋へ放出する方針を決めようとしている。
1 放射能汚染水の現状
燃料デブリの再溶融を防ぐための冷却工程は、事故時と何ひとつ変わらない。閉じた細管の中を水を循環させる本来の冷却作業は、3月11日の地震直後に不可能となり、ひたすら水を注入している。この間、東電は、多核種除去設備(以下、ALPS)により汚染水を浄化し、地下水バイパス、凍土壁などにより、山側から入る地下水をできるだけ減らすことで、タンク貯蔵せねばならない汚染水(以下、ALPS処理水)を極力制限してきた。その結果、ALPS処理水は徐々に減少し、2015年、490m3/日、2018年、170 m3/日となった。東電によれば、3月12日時点で、979基のタンクに約119万m3のALPS処理水が貯蔵されている。トリチウムの平均濃度は約73万ベクレル/リットルで、タンクに貯蔵されているトリチウム総量は約860兆ベクレルにのぼる(注1)。そして、手続きや準備に2年は必要なことから、これらのタンク群は2022年夏には一杯になるので、対応策が必要だとしている。
2 初めから海洋放出ありきの「ALPS等処理水小委員会」
この問題で政府が依拠しているのが、経済産業省の「ALPS等処理水の取扱いに関する小委員会」(以下、「委員会」)の最終報告書(2020年2月10日。以下、「報告書」)(注2)である。その主な内容は以下である。
・ALPS処理水の約7割でトリチウム以外にストロンチウム90(Sr90)、ヨウ素129(I129)などが基準を越えて含まれている。これらは再度ALPSですべて処理し、トリチウム以外の核種を完全に除去し、残るのはトリチウムだけにすべきである。
・その上で地層注入、水素放出、地下埋設、水蒸気放出、海洋放出の5つの選択肢を検討した結果、大気への水蒸気放出及び海洋放出が有力で、なかでも世界の原発で実績がある海洋放出が現実的と強調した。
・その上で、風評被害をできるだけ少なくするための工夫が必要である。
報告書の公表以降、海洋放出へ向かう地ならしが急速に進んだ。2月26日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が来日し、記者会見で「汚染水をどう処分するかは日本政府が決めること」としながらも、「トリチウム水は、世界中の原発で日常的に海洋放出しており、希釈して放出すれば影響はごくわずかである」と発言した。さらに4月6日、13日と2回にわたり福島の地元自治体や農林水産業、森林業、旅館業など関係者の「ご意見を伺う場」が持たれ、5月11日には経済関係者を対象に第3回目を行った。合わせて4月6日から6月15日にかけて書面による意見募集も行っている。関係者から丁寧に意見を聞いたという形を作りつつ、時期を見て海洋放出を選択するという既定路線が進んでいる。
ここでは、以下、小委員会「報告書」の問題点を検証する。
3 タンク貯蔵の選択肢は早い段階で排除された
「報告書」の第1の問題は、環境への放出を避けるための努力を相当早い段階で除外したことである。その一つの要因は、福島第1の廃炉と廃止措置のスケジュールの中で終わらせねばならないとの至上命令に縛られていることである。「報告書」13ページには、「大原則として、福島の復興と廃炉を両輪として進めていくことが重要であり、廃止措置が終了する際には、ALPS処理水についても、廃炉作業の一環として処分を終えていることが必要である。したがって、貯蔵継続は廃止措置終了までの期間内で検討することが適当」としている。「30~40年で廃止措置を完了する」とのスケジュールを一方的に決め、汚染水の処理もその時間内で終わらせる。その結果、タンク増設の選択肢を除外することになる。これは本末転倒である。陸上タンク保存を例えば100年やれば、汚染水問題は、相当解決するのであり、それに合わせて廃炉計画を作りなおすべきである。
上記の結果、「報告書」には、タンクの貯蔵能力を飛躍的に高めようとする姿勢が一貫して見られない。「報告書」は、「タンク保管を継続するための敷地外への放射性廃棄物の持ち出しや敷地の拡大は、保管施設を建設する地元自治体等の理解や放射性廃棄物保管施設としての認可取得が必要であり、実施までに相当な調整と時間を要する」などと言い訳がましいことを列挙し、「相当な調整と時間を要する」のでタンク貯蔵は困難であるとする。初めから地上保管を放棄しているのである。
4月6日の「ご意見を伺う会」で、福島県森林組合長は、「事故の影響は今も続いており、新たな放射性物質の放出には反対である」と話した。この原則こそ、最も優先させるべきことである。これと比べ、小委員会に召集された専門家や有識者には、管理できる放射能は環境に放出してはならないとする原則を貫こうとする信念が希薄である。
4.トリチウム水放出の影響が小さい証拠はない
「報告書」は、海洋放出を推奨しているので、ここでは海洋放出につき問題点を検討する。ALPS処理後の汚染水の約72%(注3)で、トリチウム以外にストロンチウム90(Sr90)、セシウム137(Cs137)、ヨウ素129(I129)(半減期1,570万年)、ルテニウム106(Ru106)などが基準を越えている。「報告書」は、最低限、トリチウム以外の核種の除去を必須の作業として求めた。当然の要請であるが、その際も第3者による検証が必要である。
その上で問題は、残ったトリチウム水の環境影響である。トリチウムは水素の同位元素で、水に紛れて動くので、短時間で体内から出ていく上に、核崩壊の際に放出する電離エネルギーが小さく有害性は小さいとする。小委員会の議論は、トリチウム水の環境影響はわずかで、風評被害だけが問題であるとの論調に終始している。国際放射線防護委員会(ICRP)はトリチウムの線量計数を非常に低くし、人体には影響が少ないとしている。海洋放出の際の規制基準は1リットルあたり6万ベクレル以下で、濃度を薄めて放出すればいい。これは、人体への影響を基に決められており、規制値の濃度のトリチウム水を「0~70歳までの70年間毎日2リットル飲み続けた場合の被ばく線量を平均1ミリシーベルト/年とする」と想定している。
さらに規制基準は、海洋生物や生態系への影響は想定していない。しかし、特にトリチウムが環境や生物の体内の炭素と結合して生じる有機結合型トリチウム(OBT)は、長期にわたり臓器などにとどまり、極めて厄介な挙動をすることが考えられる。近年、海洋に放出された直後の沿岸海域におけるトリチウムの地球化学的挙動の研究が進み、イギリスのセバーン川河口域では、食物連鎖において相当程度の濃縮があるとの研究がある(注4)。またセバーン河口のカーデイフ付近で、1kg当たりタラ3万3000ベクレル、ヒラメ2万3000ベクレル、ムラサキイガイ2万6000ベクレル、ゴカイ1万6000ベクレルなど極めて高濃度のトリチウムが検出されている(注5)。これらは、河口域における食物連鎖に伴う相当な濃縮を示唆しており、規制基準の根拠を揺るがしている。
確かに、IAEAが言うように世界の原子力施設では規制基準以下に薄めての海洋放出が日常化してきた。中でも最も多いラ・アーグ再処理工場(フランス)は年に約1京3700兆ベクレルと原発と比べ桁が3~4も大きい。福島のALPS処理水の約860兆ベクレルの放出など問題ではないとでも言いたげなデータである。
しかし世界の原発で大気や海洋に希釈放出されているからといって、「環境への影響がない」ことが証明されているわけではない。トリチウム放出の多い重水素型原発を多用するカナダでは、子どもの白血病や先天性異常などが問題になっている。1980年代前半、伊方原発(愛媛県)沖の瀬戸内海で大量の魚類斃死が何度か起きたが、伊方原発のトリチウム放出が一要因であることが疑われる。現時点で、これらの症状が原発からのトリチウム放出によると証明することは難しい。他方で、「影響はない」ということが疫学的に十分調査されているわけでもない。しいて言えば、「影響はわからない」というべき状態である。しかし、「影響がわからない」ということは「影響がないこと」ではない。この際、世界規模での原子力施設からの大量のトリチウム放出がもたらす低濃度の長期汚染による海洋生物や生態系への影響に関し世界規模で疫学的研究をするべきである。それをしないでおいて「影響はない」と一方的に決めつけている世界的現状は容認されてはならない。
5 世界三大漁場の海を放射能の毒壺にするな
最後に、「報告書」は、放出される海が世界三大漁場の一つであり、世界的に見ても「生物多様性の観点から重要度の高い海域」に属する希少な海であることを見ていない点を指摘しておきたい。2014年5月、環境省は、生物多様性に関する愛知目標を達成するための基礎資料として「生物多様性の観点から重要度の高い海域」として、270の「沿岸域」、20の「沖合表層域」、31の「沖合海底域」を抽出した(注6)。福島第1原発が面する常磐沖の海は、その典型である。まず「沿岸域」の一つとして、福島第1原発北方の「高瀬川・請戸川河口」は「ウナギ、カワヤツメ等の両側回遊性(海と淡水を往復する)の希少生物が分布している」とされる。さらに福島第1原発の沖合表層域は「本州東方混合水域」の一部である。ここは、「親潮と黒潮の混合する海域であり、暖水・冷水渦を含む複雑なフロント構造が発達」し、「温帯性種と亜寒帯性種とが共存する独特の生物相を形成するとともに高い生物生産を示す海域」であり、「サンマ、サバ類、イワシ類などの浮魚類・イカ類、マグロ類やカツオなど大型回遊魚の索餌・成長海域となっており、大陸棚から大陸棚斜面域にはタラ類、カレイ類などの多様な有用水産資源が生息する」とされる。沖合海底域も「東北沿岸海底谷」とされ、「底性の魚類も多い」。つまり福島沖は、実に南北500㎞、東西200㎞の世界三大漁場の一部であり、沿岸、沖合表層、沖合海底と3次元的な広がりをもって生物多様性から見て極めて重要な海域なのである。小委員会の議論は、この点を全く無視している。今、政府が生物多様性保全を推進する立場に立てば、ALPS処理水の海洋放出はあり得ない選択となるはずである。
汚染水は、国の責任において福島第1原発の中で管理するべきである。その前提は、これ以上、新たに核分裂生成物を生み出さないという原則を政策の基本に据えることである。それは、すなわち、原発再稼働はせず、エネルギー政策から原発を除くことを意味する。まず脱原発をめざす方針をとったうえで、汚染水の処分のありかたを考えるべきである。
なお5月13日、原子力規制員会は、六ケ所再処理工場の安全審査をし、新規制基準に適合しているとして事実上審査書案を了承した。仮に再処理工場が稼働すれば、福島のALPS処理水のトリチウムを少なくとも一桁は上回る量のトリチウムを下北半島の海に放出することになる。この問題は、核燃料サイクルが既に破綻している中で、プルトニウムを取り出す再処理工場を稼働させるという選択はあり得ないことも含めて、福島の汚染水の海洋放出と合わせて食い止めねばならない。
注
1.東京電力「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書を受けた当社の検討素案について」、2020年3月24日。
2.「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書」、2020年2月10日。
3.注1と同じ。
4.アンドリュー・ターナーら:「河口域におけるトリチウム分布-有機物質の役割」、環境放射能ジャーナル、第100巻、問題10、2009年10月。
5.英国食品基準庁、スコットランド環境保護庁:「食物と環境中の放射能、1999年」、2000年9月。
6 環境省HP「生物多様性の観点から重要度の高い海域」。
2020年05月15日
復帰48年 5・15平和アピール
沖縄が復帰してから48年を迎えた5月15日。沖縄平和運動センターより平和アピールが出されました。
写真は第2回県民大会 1979年5月15日(那覇市与儀公園)
復帰48年 5・15平和アピール
新型コロナウイルス感染症と向き合い、その拡大防止のため生活を犠牲にしながらたたかっている県民の皆さん、全国の皆さん、そして平和を愛するすべての世界の人々に敬意を表します。
今日は43回目の平和行進のスタートを予定していましたが、私たちも新型コロナウイルス感染拡大防止のため、県民や参加者のいのちを優先し、先達が築いてきた平和行進を中止いたしました。同時に5・15平和とくらしを守る県民大会も中止をいたしました。県民大会の平和アピールにかえて、復帰48年目の5・15平和アピールを発信いたします。
復帰48年目の沖縄は、安倍政権による暴政のひとつ、民意無視の辺野古新基地建設が強行されています。戦後75年を経た今日なお、巨大な米軍基地が横たわり、復帰前の米軍支配下と変わらず、陸も海も空も米軍優先がまかり通っています。昼夜問わず耐えがたい爆音が轟き、事件や事故は後を絶ちません。2004年の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故が如実に示したとおり、沖縄にはいまだ憲法など存在しない、行政も立法も司法も、その全権は米軍にあるとでも言わんばかりの米軍の横暴がまかり通り、米軍支配が現在も続いていること、そして日本政府が無力なことをあらためて表しました。
安倍首相は、「日本を取り戻す」とのキャッチコピーとは裏腹に、武器の爆買いにも象徴されるとおり、歴代首相では随一の米国一辺倒です。一方で、日米安保について歴代政権は、民主主義や人権など米国と共通の理念や価値観にたっているとしてきましたが、「米国ファースト」を掲げるトランプ政権の登場で今どうなっているのでしょうか。日米安保は本当に必要なのでしょうか。「核の傘」は必要なのでしょうか。
1972年5月15日、沖縄は日本に復帰をしました。県民の願いであった基地の「即時・無条件・全面返還」は受け入れられず、ときの総理佐藤栄作が約束した「核抜き・本土並み」さえも反故にされたまま5年を迎えた1978年に平和行進はスタートしました。私たちは平和行進で「復帰の内実」を問うてきましたが、その内実は、辺野古への新基地建設や最新兵器を使用した軍事演習、宮古島、石垣島、与那国島にいたる米軍と一体となった自衛隊及び自衛隊基地の増強と、ますます「軍事の島」の要塞化が推し進められています。一方で沖縄の内実を問うことと同時に、本土参加者と共に本土の現実も問うてきました。沖縄から安保がよく見えると表現してきましたが、今では全国で安保がよく見えます。それほど憲法は危機的な状況になっています。
私たちが復帰にめざしたものは、平和憲法下への復帰でした。そこには、基本的人権、国民主権、地方自治、なによりも軍備と戦争放棄が謳われています。今その憲法は、集団的自衛権の行使容認、安保法制、共謀罪など切り裂かれてきました。それでもまだ憲法は生きています。「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう」に、沖縄から為政者に守らせなければなりません。
平和センターが参加をしている広島、長崎を原点とした原水爆禁止国民会議は、かねてより北東アジアの非核化地帯構想及び非核法の制定を提唱しています。かつて核の島とも言われたこの沖縄からその運動を大きくつくっていくことを誓います。5・15平和行進は、九州全県を歩き、そして8月9日に長崎へタスキを渡す「非核平和行進」の出発でもあります。
今日的な人類共通の敵が、新型コロナウイルスなど感染症とするならば、今人類がしなければならないことは、絶対に核軍拡ではありません。それこそグローバリゼーションで立ち向かわなければなりません。核も戦争もない21世紀でなければなりません。
平和行進も昨年まで42回を数え、復帰後世代がその運営を担うようになっています。歩くことで知る沖縄があります。新たな県民運動の展開も期待されます。
復帰48年目に誓います。沖縄をアジアの軍事の要石から平和の要石へかえていくことを。それが県民の長年の希望であります。平和のための万国津梁の架け橋となることを。
2020年5月15日 5・15平和行進実行委員会/沖縄平和運動センター
2020年05月13日
「検察庁法改正案」に対する平和フォーラム事務局長見解
2020年5月13日
「検察庁法改正案」に対する平和フォーラム事務局長見解
フォーラム平和・人権・環境
事務局長 竹内 広人
政府・与党は5月8日、野党の反対を押し切り、衆議院内閣委員会での「検察庁法改正案」審議を強行しました。新型コロナウイルス感染症問題によって、市民のいのちと生活が大きく脅かされるなかにあって、まさに「不要・不急」と言うべき法案を、こうまでしておしすすめなくてはならないのでしょうか。
そもそも、この「検察庁法改正案」の主な内容は、検察官の定年を63歳から65歳に延長するだけではなく、内閣や法務大臣の裁量で「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由がある」とされた場合、さらに3年その職に据え置くことができるようにするものです。このことによって内閣による検察人事への介入が大きく強化され、準司法官としての検察の独立性が揺らぐおそれがあります。憲法の基本原則である三権分立を毀損することにつながるこの法改「正」は、けっして許されるものではありません。
この法改「正」強行の背景には、今年1月31日、検察庁法違反を指摘する声を無視して、定年退官予定だった黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決定したことがあると考えます。安倍政権に極めて近いとされる人物を恣意的かつ違法に重要ポストに据え続けることを、事後的に正当化するような法改「正」には一片の正義性もないばかりか、法治国家としての原則を破壊する行為と言わざるを得ません。
こうした動きに対し、多くの市民が反対の声を上げています。外出し集会を行うことが困難ななか、インターネット上、とりわけtwitterのハッシュタグ「 #検察庁法改正案に抗議します 」を活用した抗議の意思表示がのべ数百万にも膨れ上がるなど、これまで日本社会ではみられなかった市民の活動が行われています。この大きなうねりのなかで「戦争をさせない1000人委員会」も参画する「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」は「東京高検黒川検事長の定年延長に関する閣議決定撤回と黒川氏の辞職を求める賛同署名」のオンライン署名を呼びかけ、33万以上(5月13日現在)の賛同を得るなど、抗議の声が大きく拡がっています。
しかし、政府・与党はこうした反対の世論をいっさい顧みることなく、この法案強行の姿勢を取り続けています。今週中にも衆院を通過させることを目論んでいるとも報道されています。このような不誠実を許すことはできません。
私たち平和フォーラムは、何らの緊急性もないだけではなく、上記のような問題性が指摘される「検察庁法改正案」について反対します。また、問題の発端である黒川弘務・東京高検検事長の定年延長の閣議決定の撤回を、あらためて求めます。そしてこの問題を、この間一貫して世論を踏みにじってきた安倍政権の体質に根差したものとして捉え、安倍政権の退陣を実現するため、今後も全力を尽くして取り組みを進めていきます。
以上
参考:オンライン署名は下記のURLから行えます。
【要請】東京高検・検事長黒川弘務氏の違法な定年延長に抗議し辞職を求めます
https://change.org/teinenenchouhanntai
2020年05月13日
辺野古設計概要変更申請の撤回を求め防衛省に申し入れ
辺野古新基地建設にかかわり、政府は沖縄県に対して設計概要変更を4月21日に沖縄県に申請しました。これに対して、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会と「止めよう!辺野古埋め立て」国会包囲実行委員会は5月12日に衆議院第2議員会館会議室で、防衛省に申請の撤回を求め申し入れを行いました。申し入れには、沖縄等米軍基地問題議員懇談会の近藤昭一会長(衆院・立憲民主党)、うりずんの会の赤嶺政賢議員(衆院・共産党)も同席し、政府の姿勢を質しました。
近藤昭一会長は、議員懇談会が政府へのヒアリングを精力的に行っているが、誠意ある回答がないと批判し、さらに今回の沖縄県への申請が、新型コロナウイルス感染症対応で非常事態宣言が出されているこの時期に申請があったことに疑問を投げかけました。赤嶺政賢議員は、環境アセスをやり直すように求めたほか、普天間基地を即時返還し、辺野古移設が唯一であるとする政府の姿勢に抗議しました。続いて、申し入れを行った代表団は、コロナ対策で多忙極める中での申請したこと、90メートルにもなる軟弱地盤が指摘されているにもかかわらず、再調査をしない問題点などについて問い質しました。
これらの疑義に対して防衛省は、大浦湾の軟弱地盤対策は、辺野古新基地建設事業の追加工事として十分に検討し、技術検討委員会及び環境監視等委員会の了解も得られた結果であり問題はないと釈明しました。
「引き続きていねいな説明と、地元の理解を得られるようすすめていく」という防衛省の言葉には、代表団参加者から「追加工事でさらに12年間も危険な普天間基地を放置するのか」、「ていねいな説明をするというのであれば、工事を中止して県と協議せよ」と、辺野古が唯一とする政府の一方的な姿勢を強く批判し、申請を撤回して県と協議を行い、県民に対してもていねいな説明を尽くすことを求めました。
2020年05月08日
自宅から首相官邸や防衛省あてに抗議の意思を示そう!
辺野古新基地建設にかかわり政府は、大浦湾の軟弱地盤対策で工事の設計概要の変更申請を沖縄県に提出しました。平和フォーラムは、政府の申請に対して抗議の声明を発出しています。
そしてオール沖縄会議は、新型コロナウイルス対策等で辺野古工事が停止中となっている一方で、軟弱地盤の工事を進めようとする政府への抗議について、非常事態宣言が出されている「ステイホーム」の環境でも、団体や個人がとりくむことができる、首相官邸や防衛省宛にメール、FAX、手紙などを通して抗議行動をすることがよびかけられています。
2020年05月01日
新型コロナウイルス感染症拡大の、その先を考えて
WE INSIST!
新型コロナウイルス感染症拡大(コロナ禍)が止まらない。これを書いている4月11日現在で、クルーズ船を含んで全国の感染者は7635人、亡くなった方は144人となった。11日だけで全国の新規感染者は743人と、これまでの最多を更新している。4月7日には、新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が、1都1府5県に出されたが、東京都の感染者は、4月4日に116人と初めて3桁になると11日には197人と増加の一途をたどり、今のところ緊急事態宣言の効果は感じられない。ライブハウス・カラオケやクラブなどに通うことを市民に自粛するように要請し、施設には営業自粛を求める、がしかし、安倍首相は、国会質疑や記者会見で「営業補償は行わない」ことを表明している。安倍政権は市民の自覚を求めるだけで、営業補償による休業要請を出すことはない。これで、コロナ禍に立ち向かうことができるのか。「緊急事態宣言」が医療関係者などからの強い要請によって発令されたが、緊密に議論していたであろう国と東京都の間で、営業自粛要請施設の範囲で意見が対立した。また、家族が発症しウイルスの陽性反応が出ていても、家族は症状がなければ自宅での待機が要請されるだけで、ウイルス検査を実施しない。したがって、その家族と接触している人、例えば同じ事務所で仕事をしていた人は、全く埒外に置かれている。検査を奨励し、陽性であればその人の行動をネットにあげ、接触などが心配な人には検査を実施するという韓国の対策とは全く異なっている。コロナ禍がこのまま終息してくれれば幸いだが、1918年にパンデミックを起こし、世界で4000万人が亡くなったとされるスペイン風邪は、第一波、第二波、第三波と翌年まで続いた。第二波が一番犠牲者を出したと言われている。コロナ禍もそうならないとは限らない。
安倍首相は、衆議院運営委員会で答弁に立ち、「新型コロナウイルス感染症への対応も踏まえつつ、国会の憲法審査会の場で、与野党の枠を超えた活発な議論を期待したい」と述べた。伊吹文明元衆議院議長は「緊急事態の一つの例。憲法改正の大きな実験台だと考えた方がいい」との見解を明らかにしている。政治学者で、安倍首相も教えた成蹊大学の加藤節名誉教授は、「緊急事態を口実に、国家権力が国民の権力を恣意的に奪い、乱用した例は数え切れない。負の歴史、とりわけ近代史に学ばなければ『ナチの時代』の再来と懸念される」と毎日新聞紙上で述べている。コロナ禍を利用した憲法改正論議は許されない。
市民運動の一部は、新型インフルエンザ対策特別措置法や緊急事態宣言に反対して、議員会館前などの集会を呼びかけている。5月3日の憲法集会も、中止か開催かをめぐって様々な議論があった。特措法にも賛成できないし、安倍政権に対峙して毎年開催してきた憲法集会を中止することには、忸怩たる思いが私にもある。しかし、緊急事態宣言に制約される以前に、私たち自身が主体的にコロナ禍に対応していくことが重要ではないのか。「強制力をともなわない緊急事態宣言では、コロナに勝つことができなかった。多くの人々が、コロナ禍のリスクを断つ行動を取らなかった。だからコロナ対策には強制力が必要だ」私たちは、そのような理屈をつくらせてはならない。冷静に、私たちがコロナ禍に対応することが求められる。そのことが、安倍政権につけいる隙を与えない。私たちがしっかりと主張できる状況をつくらなくてはならない。しかし、そのような意見を聞いたことはない。もしも、集会参加者から感染者を出した場合のことを、そのことの先を考えた意見を聞いたことがない。そして、コロナ禍の先を考えた議論を聞いたことがない。
「サピエンス全史」の著者、ユヴァル・ノア・ハラリは、3月20日の英経済誌「FINANCIAL TIMES」に寄稿して、コロナウイルス後の世界に言及している。ハラリは、私たちは重要なふたつの選択を迫られているという。ひとつは、全体主義的監視か市民の権利の拡大かということ、もうひとつはナショナリズムに基づく孤立かグローバルな団結かということ。答えは明らかではないか。市民の権利の拡大とグローバルな団結。このことなくして人類の未来はないと、良心に訴えれば誰しもがそう思うに違いない。ハラリもその選択を望んでいる。
成熟した賢明な市民社会のありようが、まさしく緊急事態への対応をつくりあげるに違いない。そして、医療の充実や経済保障の体制をつくりあげるに違いない。そして、成熟した賢明な市民社会は、全体主義的監視とナショナリズム、国家の孤立化を排除する。強制力のともなわない対応の中で、コロナ禍に打ち勝つことの重要性を、私たちはもっと考えなくてはならない。(藤本 泰成)
2020年05月01日
沖縄平和行進とは? その歴史と意味を振り返る
沖縄平和運動センター事務局長 岸本 喬
1978年5月、5・15平和行進が歩き出しました。復帰-日本への返還から5年を経ても変わらぬ「基地の島、沖縄」の内実を問うために。
1972年5月15日、沖縄は日本になりました。では沖縄人が日本人になったのか?については、今回与えられたテーマではないので機会があれば一石を投じてみたいと思います。
さて、若い方々は本文中の用語等「?」については紙面の都合上ご自分でググってくださいね。
戦後27年間の米軍占領と復帰闘争
1945年6月23日の慰霊の日が沖縄戦終結と一般には認識されていますが、実際の降伏調印式は同年9月7日に現米軍嘉手納基地内で行われました。以来、1952年4月28日のサンフランシスコ講和条約第3条による「沖縄切り捨て」を経て復帰まで、米国の軍事植民地と形容されてもおかしくない占領政策、軍人(中将クラス)が就任する高等弁務官がおかれ、行政・立法・司法の3権をすべて掌握された期間が27年間続きました。特に象徴的なのは、第3代高等弁務官キャラウェイは「沖縄住民による自治は神話にすぎない」と住民自治をすべて否定した政策をとりました。
本土で60年安保闘争が燃え上がるときを同じくして、1960年4月28日、「沖縄県祖国復帰協議会」が結成され、自治権と人権のたたかいとして、また沖縄における組織的なたたかいが形成されていきます。それでも人権蹂躙の銃剣を向けた米軍に対し、戦争放棄と基本的人権、国民主権の平和憲法への復帰を求めて、沖縄大衆のたたかいが沸き起こっていきました。復帰運動とは、憲法のない時代に憲法前文が謳う「平和的生存権」を自らたたかいとる運動と言われています。
一方、60年代、ベトナム戦争が激化する中、沖縄基地を「自由使用」する米軍は、嘉手納基地を拠点にB52による北爆などを行い、殺人的爆音をまき散らし、またある意味では戦争犠牲となっている米兵によるレイプ、殺人など凶悪犯罪をはじめ事件、事故が横行していきます。それらに屈せず、権利を守るたたかいは続けられます。
復帰運動は、本土との連帯した全国的な運動に拡がり、国際的な運動へと発展していきます。「27年間の心血を注いだ復帰闘争は、県民の要求をすり替えた欺瞞的返還であり、結果的には新たな琉球処分であるが、歴史の発展法則から一定の評価をしなければならない。(仲宗根悟復帰協事務局長・故人)」として、「欺瞞的返還であるが、県民の主体的闘いによって国民運動、国際連帯運動にまで発展させ勝ち取った初歩的勝利である。」「沖縄闘争とは、究極において人間解放の闘いに結びつく極めて高次元の政治課題であり、全国的な闘いに、更に継承・発展させなければならない。」などと復帰協は総括しています。
第2回平和行進 西コース出発式 名護市役所旧庁舎(現・市博物館)1979年5月
復帰の内実を問う平和行進
「(前略)…1972年5月15日 沖縄の祖国復帰は実現した しかし県民の平和への願いは叶えられず 日米国家権力の恣意のまま 軍事強化に逆用された しかるが故に この碑は…(中略)闘いをふり返り 大衆が信じ合い 自らの力を確かめ合い 決意を新たにし合うためにこそあり…(後略)」。辺戸の岬に建つ復帰闘争碑文にはこう謳われています。
戦後50年平和大行動として実施 北部東コース1995年5月
今年復帰48年を迎えます。基本的人権は保障されているでしょうか。主権は私たちにあるでしょうか。軍隊は、戦力は、戦争はなくなっているでしょうか。殺人的爆音、レイプ、殺人、事件事故の数々、米軍占領下から変わったでしょうか。復帰に際し日本政府は「核抜き本土並み」と宣言したがそれは果たされているでしょうか(注.沖縄側は「即時・無条件・全面返還」)。そう問い続けながら42回、基地の島、核の島沖縄において平和行進を歩いてきました。沖縄の内実の問いかけは、全国の問いかけでもあります。「沖縄から安保がよく見える」とよく使われます。2020年の今、全国で安保がよく見えています。今年は残念ながら中止となりましたが、来年5月ぜひ沖縄に足を運んでください。
連帯し、憲法を、民主主義を私たちにとり戻しましょう。(きしもと たかし)
2020年05月01日
辺野古新基地建設反対運動の現状と課題
沖縄平和運動センター議長 山城 博治
不要不急の辺野古工事は即時中止を
新型コロナウイルスの猛威が世界を覆っている。沖縄も例外ではない。3月いっぱい比較的抑えられているかに見えた感染者は4月に入ると急激に増えだし、ついに三桁に迫る勢いになった。このままいくと4月中には沖縄全県下に拡散していく情勢だ。政府は4月7日、緊急事態宣言を発し大都市圏では不要不急の外出自粛が徹底されるようになった。本来この感染拡大を受けて、「不要不急」の外出自粛を言うのなら、当然辺野古の埋め立て工事を中止し、工事用ゲートに流れ込む人々の動きを抑えなければならない。しかし安倍首相や閣僚からは「辺野古新基地建設は米国との公約。粛々と進めさせてもらう」のみ。1日千台を超える土砂搬送のダンプトラックが行き交い、それに抗識する市民が連日各ゲートに押しかけ、その行動を規制しようとする県警機動隊や防衛局雇用の警備員またそれを指揮する防衛局職員など毎日数百人が工事用ゲートに集まる。即座に工事の中止を決定し、まさに、「不要不急」の集まりを解消すべきである。しかし政府は動かない。あからさまな二重基準に怒りが沸き立つ。
大浦湾をのぞむ瀬嵩海岸で行われた平和行進出発式 2015年5月15日
設計概要の変更申請間近に 新基地建設新たな局面へ
2018年12月、辺野古海域側の埋め立てが開始され、上述したように何が何でもの工事強行が続けられている。これまであらゆる機会で示された“新基地NO”の県民意思は一切顧みられなかった。その政府がさらに強行策に打って出る動きを強めている。沖縄県政に対する新基地建設設計概要の変更申請が今月中にも行われると地元紙は報じている。
辺野古新基地建設工事が開始された2014年に政府が発注した6件の護岸・岸壁工事を3月末で打ち切る、大きな問題が明るみに出た。政府はこの間市民団体から明らかにされ、2018年8月の沖縄県の埋め立て承認撤回の有力な根拠ともなった90mに及ぶ深海の存在とそこに60mの層で堆積する「マヨネーズ」状の軟弱地盤の存在を無視してきた。「海底の地盤改良で対応できる」と開き直り、また70m以上の深い海での改良工事の経験がこれまで皆無でかつ現在の土木技術では対応が不可能だという識者の指摘に「改良に用いる砂杭が70m以上に及ばなくても問題はない」と強弁するだけでなく、「70m地点から下の地盤は近隣の調査済みポイントから類推するに硬質な地盤である」、よって問題はないと驚くべき詭弁を弄してきた。しかし表向きの言い訳とは裏腹に、2014年に発注された護岸工事が着手されることなく契約更新で先送りされ続けたものの、ついにここにきて工事中止を表明せざるを得なくなった。
県民のたたかい、そして全国の支援がついに政府を大浦湾工事の中止に追い込んだと喜びたい。普通ならここで勝負ありのはずだ。工事は中止され計画は白紙撤回されるべきである。しかし政府はここに至ってもなお工事をあきらめるのではなく、むしろ工事中止を正式表明したのは、沖縄県に埋め立てに関する設計概要の変更申請を行うために踏まなければならない手統きであったにすぎないこと、さらにこの県政に対する変更申請が4月中にも行われるだろうということが報道で明らかになった。
沖縄県政そして県民のたたかい
辺野古新基地建設に関する政府の杜撰な計画は、単に大浦湾側の深海と軟弱地盤問題だけでなく、その他に5000年の際月が織りなしたといわれる巨大なサンゴ群落の移植問題、さらに埋め立て土砂2000万立米の8割近くを全国から調達搬入するはずの計画を、全て県内調達にするとんでもないそれ自体の自然破壊・環境破壊の問題、あるいは埋め立て予定地のど真ん中に注ぐ美謝川(びじゃがわ)の水路変更問題等、工事を継続するために立ちはだかる諸課題は山の如し。どう越えるのか。沖縄県玉城デニー県政は簡単には政府の要請に応じない。また県民が許さない。しかしここはあからさまな沖縄差別を意に介さない安倍内閣。その奇策はすでに示されている。政府の変更申請に応じない県政の判断を違法として訴訟に持ち込むだろう。先に「国の関与」訴訟で最高裁は県に敗訴を言い渡した。まさに国家権力、三権が一体となって襲い掛かる構図だ。全国の皆さん注視してください。追い込まれているのは政府です。県民は政府の圧政を許さず闘ってまいります。全国連帯で辺野古新基地建設を断念させましょう!(やましろ ひろじ)
2020年05月01日
軍事化が進む南西諸島
これは離島<尖閣>防衛ではない!真のねらいはどこにあるのか?
前田 哲男(ジャーナリスト)
よみがえる過去
4月の沖縄は悲しい思い出をよみがえらせる。75年まえ、そこに吹いていたのは「うりずん=若夏」到来を告げるやさしい風でなく、住民が「鉄の暴風」とよんだ砲爆撃の嵐だった。6月末までつづく島、海、空をめぐるたたかいで15万人の県民がいのちを落とし、また、数おおくの特攻機が空に散り、「戦艦大和」も、ここ南西諸島の海に沈んだ。その「沖縄戦」の末に、日中全面戦争にはじまる「アジア太平洋戦争」は終幕したのである。鹿児島~奄美~沖縄にかけてのびる海と島が、無謀な戦争の最終目撃者、そして軍国日本最後の墓碑となった。
その南西諸島に、ふたたび軍靴の音がきこえる。防衛省により「南西地域の防衛力強化」として推進される、島々をつなぐ〈洋上防壁〉設置構想がそれだ。
2020年4月5日、南西諸島南部に位置する沖縄県宮古島でミサイル部隊の編制完結式がおこなわれた。6日付『琉球新報』の記事をみてみよう。
「陸上自衛隊第15旅団は5日、宮古島市上野野原で宮古島駐屯地の編制完結行事を開いた。新型コロナウイルスが全国で感染拡大する現状を受け、市や宮古島医師会が式典延期を要請する中で強行した。駐屯地正門前では市民が配備中止などを求め、抗議した。市民は『宮古島に戦争の危機を引き寄せる軍事要塞化に断固反対する』などとした抗議文書を隊員に手渡した」。
新型コロナの猛威も、自衛隊の基地新設計画にはなんら影響をもたらさなかったらしい。
新部隊について、自衛隊準機関紙『朝雲』(4月2日付)は、以下のようにつたえている。
「南西諸島の防衛強化のため昨年3月に新設された沖縄・宮古島駐屯地には、26日付で中距離地対空ミサイル(中SAM)部隊の7高射特科群の本部と346高射中隊などの隊員約180人が長崎県の竹松駐屯地から移駐した。また、地対艦ミサイル(SSM)を装備する5地対艦ミサイル連隊(健軍)の隷下部隊として302地対艦ミサイル中隊(約60人)が新編され、宮古島駐屯地に配置された」。
だが、宮古島基地は、南西諸島防衛構想のごく一部にすぎない。
ミサイル基地化される島々
「南西諸島」とはどこか? それは薩南諸島と琉球諸島を総称した名称だ。薩南諸島は、鹿児島県の種子島、屋久島、奄美諸島などからなり、琉球諸島には、沖縄諸島(沖縄本島など)、先島諸島(宮古島、下地島など)、八重山諸島(石垣島、与那国島など)がぞくする。鹿児島と那覇間は直線距離で682キロ、那覇と宮古島間300キロ、石垣島間は469キロ。さらに西側にある与那国島までいれると「南西諸島」全長は1200キロ以上、本州の長さに匹敵する。
その海を、対艦・対空ミサイルの連鎖によって閉ざそうとするのが「南西諸島防衛構想」なのである。掲載図を参照しつつ防衛省の意図を把握しておく。
2019年3月、奄美大島と宮古島に新部隊が発足した。『朝雲』3月28日付の記事。
「陸上自衛隊は南西諸島への新たな駐・分屯地の開設など、3月26日付で大規模な部隊新・改変を行った。『創隊以来の大改革』と位置付ける組織改革の一環で、島嶼防衛態勢を強化するため、鹿児島・奄美大島に奄美駐屯地と瀬戸内分屯地を、沖縄・宮古島に宮古島駐屯地をそれぞれ開庁、警備隊などを配置した」
記事はつづけて、「奄美警備隊」(奄美駐屯地と瀬戸内分屯地)が、地対艦ミサイル部隊と中距離地対空ミサイル部隊により編制、また「宮古島警備隊」は将来800人規模に増員、新型対艦ミサイルを装備するとつたえ、岩屋防衛大臣(当時)の「これで南西諸島の守りの空白地帯が埋まる」との談話を紹介している。「創隊以来の大改革」という形容に注目しよう。
くわえて、種子島そばの馬毛島には米軍艦載機の陸上発着訓練場設置に向けた交渉が進行中で、実現すると空自F-35も滑走路を使うことになる。また、石垣島にも地対艦・地対空ミサイル部隊の設置が予定される。さらに、台湾と指呼の間にある最西端の与那国島には2016年以降、「沿岸監視隊」が活動中だ。おなじ年、沖縄本島の空自F-15戦闘機部隊も「第9航空団」に増勢され、40機1500人体制になった。これが「南西諸島防衛構想」の全容だ。
南西諸島防衛構想の配置図
狙いは中国艦隊封じこめ
こうみていくと、南西諸島ぞいに、奄美大島から沖縄本島~石垣島~宮古島~与那国島をむすぶ長大な自衛隊基地ネットワークが形成中、とわかる。ミサイル重点にしめされているように、目的が(中国海軍を想定した)「通峡阻止」――平時・監視、有事・阻止――にあることは明白だ。同時に、たんなる離島守備隊にとどまらず、縦深性をもつ攻勢的意図もうかがえる。背後にある米軍グアム基地防衛を目的とした〈前衛基地〉が任務のひとつに秘められているのだろう。
その象徴といえるのが長崎県佐世保市に2018年開隊した「水陸機動団」である。〈日本版海兵隊〉を自称するこの部隊は、沖縄米海兵隊と同一装備(水陸両用戦闘車、エアクッション型揚陸艇)をもち、輸送機オスプレイを〈足〉とする〈殴りこみ部隊〉だ。陸自オスプレイは、将来、佐賀空港(新設・佐賀駐屯地)に配備される計画なので、水陸機動団は、佐賀空港を足場に南西諸島まで一気に進出可能な〈長い足〉をもつこととなる。
したがって、南西諸島に新設された部隊は、たんなる「離島防衛」任務にとどまらず、西、南九州の自衛隊基地と連動、沖縄米軍とも策応する〈攻撃部隊〉としての役割をになえる。そこから判断しても、南西諸島への新部隊設置は、「中国の脅威」に正面から対峙する自衛隊の新配置といえ、かつて、「北―ソ連の脅威」に置かれていた戦略重心が「南―中国」へと転換したことを実態としてしめした布陣、とみなせる。「辺野古新基地」の運用構想もまた、こうした大きな流れと軌を一にした、自衛隊・米軍の共同作戦基盤として想定されているにちがいない。
これらの新部隊配置と攻撃的装備を、もはや「専守防衛」の枠内で理解することはできない。〈尖閣諸島防衛〉にしては大がかりに過ぎる。また、中国に対抗する軍事力展開であるのはたしかだとしても、真のねらいが〈離島=尖閣防衛〉を超えたところにあると判断せざるをえない。真の意図をとく鍵は、安倍政権がおこなった「集団的自衛権の行使容認」と、それを自衛隊の任務と行動に反映させた「戦争法=安保法制」にもとめるべきだろう。
「戦争法」の廃案こそ
「冷戦」の時期(それはソ連が日米共通の想定敵国であったころだが)、安保協力の方向は、日本列島が「三海峡」(対馬・津軽・宗谷)によってソ連極東部を扼する位置にあった地理的条件に立ち、ソ連太平洋艦隊の外洋進出を阻止、日本海に封じこめる「三海峡封鎖」作戦にあった。その1980年代〈海洋封鎖の試み〉の焼き直しが、いま、南西諸島において、こんどは中国海軍に向けて拡大再生産されようとしているのである。戦争法で「米艦防護」や「領域横断」作戦が容認されたことにより、自衛隊の攻勢的作戦に道がひらかれた。
南西諸島の西側には、東シナ海と南シナ海をへだてて、中国の港湾都市(同時に海軍拠点でもある)上海、青島、大連、寧波などが所在する。中国の海運と海軍(および航空機)は、南西諸島の公海水道を抜けずに太平洋に出ることはできない。それを〈ミサイルのバリケード〉によって管制しようとするのが「南西諸島防衛構想」のねらいなのである。
島々のあいだにひろがる海は、本来、国連海洋法条約により「国際海峡・水道」として開放されすべての船に通過・通航権がみとめられる自由な海だ。古くは「遣唐使・南路」でもあった。
であれば、復活しつつある〈海を鎖す〉――「インド太平洋戦略」に向かって突きだされる〈槍〉のくわだて――に対抗する東アジア平和構築の構想が、護憲の側からこそ提起されなければならない。
(まえだ てつお)