危険なオスプレイの訓練を許すな!
東京・横田基地に配備されている米空軍オスプレイCV-22が、沖縄・嘉手納基地を拠点として定期訓練をすることが、明らかとなりました。CV-22の横田基地配備にあたって、2015年10月に防衛省が公表した「環境レビュー」で、日本国内での訓練区域として、東富士演習場、ホテル地区、三沢対地射爆撃場、沖縄の訓練場をあげていました。今回はじめて、沖縄での訓練で具体的な場所が示されたことになります。
嘉手納基地は、日米合意に反するパラシュート降下訓練、アメリカの州軍機など外来機が相次いで暫定配備され、基地内にある旧海軍駐機場の使用をめぐって日米間で食い違いが出ているなど、課題が山積の状態にあります。加えて、海兵隊のオスプレイMV-22より事故率の高いCV-22の訓練拠点とするのは、米軍基地の拡大強化に他なりません。
安倍政権は、危険なオスプレイの飛行訓練について、米軍の運用には関知せずの態度を改めて、米軍と実質的な協議をするべきです。〈写真は、飛行訓練の増大で爆音被害が続く沖縄・嘉手納基地〉
インタビュー・シリーズ:142
日本の植民地支配の歴史に真摯に向き合うことから
弁護士の内田雅敏さんに聞く
うちだ まさとしさんプロフィール
1945年生。弁護士。『戦争をさせない1000人委員会』事務局長。花岡事件代理人弁護士団(団長故新美隆)、西松安野友好基金運営委員会委員長等を務めた。「戦後が若かった頃に思いを馳せよう」(三一書房)他著書多数。
─徴用工問題は、アジア・太平洋戦争での植民地支配と強制労働に端を発していますが、その経過や強制労働の実態についてお話しください。
アジア・太平洋戦争の長期化の中で、国内の成年男子が兵隊に取られ、労働力不足が深刻になって韓国から強制連行して強制労働させるために日本に連れてきたのです。低めに見積もっても22万人と言われています。しかしそうした韓国からの労働力を移入しても追いつかずさらに不足する。そこで今度は中国の捕虜、それから民間人、これを文字通り拉致する、それが4万人と言われています。規模において全く違い、また韓国の場合は期間が長いです。
─日韓請求権協定の問題点はどのようなことでしょうか。
まず日韓請求権協定は植民地支配の問題に向き合っていないと思います。そのため韓国の判決がいうように、植民地支配による被害の補償は、日韓請求権協定の対象外なのです。だから日韓請求権協定では、徴用工問題は解決していないというのが一点です。
次に、日本政府のこれまでの見解は、外交保護権(個人の請求権を基礎とし外国と交渉する国家の権利)の相互の放棄であって個人の請求権は失われないという見解でした。この外交保護権の放棄という論理がどこからでてきたかということを、しっかり認識しないといけません。この外交保護の放棄論は、日本政府が自国民の在外資産や原爆被害等に対する賠償請求権を放棄したことに対する賠償責任を免れるために言い出したものです。私は日本政府が損害を免れるために作り出した論理(外交保護権の放棄としての請求権放棄)だと思っています。
しかし現在では国家は個人の請求権を放棄できない。個人の請求権は残っているというのが、国際法上の主流になりつつあります。
このように韓国の大法院の判決の論理は、従来の日本政府見解と大差はありません。また、中国人の強制労働に関して日本政府、裁判所が従来言ってきたものと同じなのです。
─具体的な事例として、内田さんが原告代理人を務めた花岡事件について、お聞かせください。
花岡事件は、秋田県大館市の花岡鉱山にあった鹿島組(現鹿島建設)花岡出張所に配置された中国人が、その過酷な労働に対し蜂起するにいたり(1945年6月30日)、憲兵隊、警察により鎮圧、その後の拷問で100人以上が殺された事件です。結局鹿島組花岡出張所では当初配置された986人のうち、敗戦に至るまでの1年未満に418名も死亡したのです。敗戦後、被害者・遺族に対する日本国家・使役企業からの謝罪、賠償は一切なされませんでした。
1972年の日中共同声明で中国側からの賠償請求権は放棄されており、日韓請求権協定と同様「国家間の合意」により解決済みと強弁されてきました。中国人強制連行・強制労働問題に関しては、中国側被害者・遺族およびそれを支える日本側支援者の裁判闘争を含む長年の闘いが行われました。1990年7月5日、生存者・遺族と鹿島建設がなした共同発表、「中国人が花岡鉱山出張所の現場で受難したのは、閣議決定に基づく強制連行・強制労働に起因する歴史的事実であり、鹿島建設株式会社はこれを事実として認め企業としても責任があると認識し、当該中国人生存者及びその遺族に対して深甚な謝罪の意を表明する。」から出発し、困難を乗り越え、2000年に被害者と鹿島建設の和解が成立しました。
1999年9月に和解提案をした東京高裁は、数回にわたり原告、被告双方の意向を打診し、2000年4月21日、鹿島建設が中国人被害者・遺族に金5億円の拠出をし、基金を創設する和解案を提示しました。和解案の提示を受け、原告代理人は生存者、遺族ら関係者に提示された案について説明し、生存者・遺族は和解案を受け入れました。2000年11月29日、中国人強制連行花岡事件の和解が成立しました。和解成立に際して、裁判所が述べた「所感」は聞く者の心を打つ格調の高いものでした「...控訴人らと被控訴人との間の紛争を解決するというに止まらず、日中両国及び両国国民の相互の信頼と発展に寄与するものであると考える」というものです。
─西松建設や三菱マテリアルの和解については、どのような経過だったのでしょうか。
西松建設強制労働事件に関し、控訴審である広島高裁は2004年7月9日、西松組(現西松建設)が広島県安野発電所でさせた強制労働の実態を詳細に認定した上で、中国人被害者・遺族からの請求を認容し、西松建設に被害者らに対し、各金550万円の支払いを命ずる判決を行いました。
最高裁第3小法廷判決は広島高裁が認定した強制労働の実態を認定したうえで、日中共同声明第5項では、「中華人民共和国政府は両国の友好のために日本国への請求権を放棄する」とあり、この第5項で放棄されているから、相手の被告の側から、放棄しているという抗弁がなされた場合には裁判上訴求する権利は失われているとしました。しかし「被害の重大性を考えると、当事者間、国も含まれる、被上告人、および関係者、つまり西松建設及び国は当事者間の自発的な解決によって解決することが望ましい」とする付言がありました。それに基づいて、西松建設との和解がなされています。
この付言には系譜があって、最初は原爆症訴訟でした。裁判所としては請求を棄却せざるを得ないが、しかしこの被害はひどい、国はこれに対して対処すべきではないか、戦後十数年たっていて、経済的にはできる力が出てきたのではないか、というようなことを言って、その後被爆者訴訟法ができたのです。
三菱マテリアル社の前身三菱鉱業株式会社は、炭鉱やその下請け事業所に総計3765人を強制連行し、強制労働させました。同社は和解に際し、代表が北京に出向き、「弊社は当時の使用者としての歴史的責任を認め、中国人労働者およびその遺族のみなさまに対し、深甚なる謝罪の意を表する」と述べました。そして被害者遺族に和解金を支給し、「二度と誤りを繰り返さないために」事業所での「受難の碑」建立、追悼事業を約束しました。和解成立後、生存被害者に前期謝罪と和解金が届けられ、中国政府機関の協力を得て被害者・遺族らで構成する基金を設立し、現在和解事業を始動させるべく最後の調整が行われています。
和解は和解の成立で終わるのではなくて、和解の事業を行うことで、和解の中身を深めていくことだと思います。それが和解の成果だと思います。和解成功のためには、加害の事実とその責任を認め謝罪、謝罪の証として和解金の支払い、将来の戒めの為の歴史教育、受難碑の建立、追悼事業などが必要です。
花岡事件の現地、秋田県大館市では毎年6月30日、中国大使館からも参加して、市主催の中国殉難者慰霊式を行っています。また地元支援者により花岡平和記念館が建設されました。
西松建設和解では、西松建設、中国人被害者・遺族および地元支援者らによって、強制労働の現地に「中国人受難者の碑」が建立されました。そこには「安野発電所建設工事で360人の中国人が過酷な労役に従事させられ、原爆による被爆死も含め、29人が異郷で生命を失った...中国人受難者は被害の回復と人間の尊厳の復権を求め...西松建設は、最高裁判決(2007年)の付言をふまえて、中国人受難者の要求と向き合い、企業としての歴史的責任を認識し、新生西松として生まれ変わる姿勢を明確にしたのである」と刻まれています。
やがて「受難の碑」は「友好の碑」になるだろうという受難者家族が語ってくれたことが忘れられません。
─朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の徴用工問題の解決については、いかがお考えですか。
北朝鮮における徴用工の問題はより数が多く、何の協定もなく解決済みとはいえないわけです。当然今解決しようとすれば、植民地支配の問題が避けられない。そのため、改めて北の徴用工問題を介して、南の徴用工問題で日韓請求権協定では抜けていた問題を解決する必要があると思います。同時に当然北朝鮮との関係でも、この問題を織り込んだ植民地時代の清算、克服の問題だと思います。1972年に田中角栄は、周恩来にあった時に「私は長い民間交流のレールの上に乗って、今日ようやく来ることができるようになりました。」と言いました。民間交流をすることは大事で、制裁でその道を閉ざすのは間違いです。
─徴用工問題を通して、日韓友好のためにわれわれに問われているものは何でしょうか。
日韓請求権協定は1965年6月署名、12月発効でしたが、当時大学2年生でこの協定反対のデモに明け暮れていたのですが、当時は植民地支配の問題はまったく抜けていました。ベトナム戦争を背景として、米日韓の反共軍事同盟、これを許せないという運動でした。
今回の大法院判決も含めて、韓国の慰安婦の判決、あるいは靖国神社に関する判決でも、韓国の判決は3.1独立運動、ここから説き起こしています。今年はその3.1独立運動から100年目の節目の年なのですが、韓国の独立、建国の歴史は3.1独立運動から始まるわけです。植民地支配の問題に対して日本のわれわれがいかに向き合うか、これが決定的に大切だと思います。ヨーロッパで植民地支配を解消するにあたって非常に苦労し、たとえばフランスのアルジェリア問題では、ドゴール政権の時、フランスは内戦になりそうだったのです。日本は1945年の敗戦で、一気に植民地を失い、植民地支配解消の苦労はしなかった。それが今出ている慰安婦や徴用工の問題です。これらの問題と真摯に向き合わない限り、日韓の真の友好関係というものは、築きあげることはできないのではないかと思います。
インタビューを終えて
「韓国大法院判決」への日本政府やマスコミの理不尽な非難に対する、明快な反証でした。また和解を実現するための、被害者、支援団体の長期にわたる闘いと、裁判所の付言の役割も知ることができました。東アジアの平和のために、内田弁護士とともに頑張っていこうと、あらためて思います。
(勝島一博)
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安倍政権のアジア戦略と変貌する自衛隊
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成
膨張する中国経済と「一帯一路構想」
急速な経済発展を続ける中国は、絶対的権力を確立したかに見える習近平政権下において、「一帯一路構想」(BRI)と呼ぶ、現代版のシルクロード経済圏構想を進めています。一帯とは、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパへと続く陸のシルクロード。一路とは、中国沿岸部から南シナ海を経由して東南アジア・インド・スリランカからアラビア半島の沿岸部を経てアフリカ諸国に至る海のシルクロードです。中国は、この構想を進めるにあたって、2014年に「シルクロード基金」(SRF)を立ち上げるとともに、歴代日本が総裁職を務める「アジア開発銀行」(ADB)などに対抗し、「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を設立し、アジア・アフリカ諸国のインフラ整備に対する支援を行っています。アフリカ諸国への中国の進出は急激にすすみ、2007年の直接投資額約44億ドルが、2015年には347億ドルに増加しています。2018年9月に開催された「中国アフリカ協力フォーラム」において、習近平国家主席は、600億ドルの経済支援を約束するとともに、「中国の発展の急行列車への乗車を歓迎する」と述べて、BRIへの参加を求めています。アフリカの玄関口に位置するケニアでは、中国の3000億円にも上る融資によって、2017年5月には、首都ナイロビと東部の港を結ぶ鉄道が開通し、この10年間でGDPが倍増するなど、急速な経済発展を遂げています。
対中国を強く意識する「インド太平洋戦略」
BRIに対抗し、安倍晋三首相は、2016年8月にケニアで開催されたアフリカ開発会議で「世界に安定、繁栄を与えるのは、自由で開かれた2つの大洋、2つの大陸の結合が生む、偉大な躍動にほかなりません」と述べて、「自由で開かれたインド太平洋戦略」(FOIP)を提起しました。これは、オーストラリア、インド、米国(ハワイ州)の3カ国と日本を結んで、インド洋から西太平洋に至る海洋の共通利益を守るとする「セキュリティダイアモンド構想」(ADSD)と名付けた外交安全保障構想を基盤とする中国への封じ込め政策に他ならないものです。ティラーソン前米国務長官は、2017年10月に戦略国際問題研究所(CSIS)における演説の中で「平和と安保、航行の自由、自由で公開的な社会構造を共有した米国とインドが、インド太平洋の東と西の灯として寄与しなければならない」として、米国のFOIPに対する支持を明らかにしています。
「日米同盟基軸」で孤立する日本外交
BRIとFOIPのどちらにも関係するインドは、一貫して「非同盟」の外交姿勢を貫いてきました。AIIBにも加盟し、中ロが主導する「上海協力機構」(SCO)や新興5カ国(BRICS)による首脳会議にも参加し、どちらか一方に荷担することはあり得ないのではないかと考えます。
また、BRIに対抗し「日米同盟基軸」を外交の唯一の選択肢としている安倍政権は、しかし、中国との関わりを全く無視することはできません。「対中国包囲網」の姿勢だけで、日本経済が回っていくことはあり得ませんし、世界的影響力を薄めつつある米国の下で、孤立する懸念も強まってきます。下表の貿易相手国ランキングを見ても、日本の貿易に関して中国の影響力はきわめて大きく、輸入に関しては、中国が全体の4分の1に達しています。米中が対立を深めていく中にあって、日本の外交政策と経済の基本的状況との矛盾が、最終的に何をもたらすのか全く不透明であり、後述する、安倍政権下での安全保障政策・自衛隊の動向などを考えると、さらに事態は複雑化します。
2017年:日本の貿易相手国ランキング
〔資料〕財務省「貿易統計」よりジェトロ国際経済課作成
中国を意識する自衛隊
BRIをすすめる中国は、アフリカへの進出を強めています。前述した経済援助に加えてアフリカで国連が展開する8ヵ所のPKO全てに中国軍を派遣しています。米国の参加がない中で、中国政府は外交政策上、アフリカをきわめて重要視しています。2017年より中国政府は、ジプチに広大な軍事基地を建設しました。日本の自衛隊は、2009年からソマリア海賊対策を実施し、それを理由に2011年には陸上自衛隊基地を建設しました。海賊対策がほぼ終了した現在も、アフリカ全体への駆けつけ警護の前線基地と位置づけています。ジプチには米軍基地も存在し、アフリカへの覇権をめぐって日米同盟と中国軍の対立の図式が明確になりつつあります。
一方で2018年9月、海上自衛隊は最大級のヘリ空母「かが」を含む護衛艦3隻と潜水艦「くろしお」を南シナ海に派遣し、対潜水艦訓練を目的とした演習を実施しました。南シナ海では、中国が南沙・西沙諸島の環礁を埋め立てて軍事基地化を展開し、フィリピンやベトナムと対立しています。一方、米国や英国も駆逐艦などを派遣し「航行の自由作戦」を展開し中国と対立するきわめて緊迫した海域です。海上自衛隊は、専守防衛の原則を守り、これまでは外国軍との共同訓練を除き、日本周辺での訓練を原則としてきました。今回の海上自衛隊の南シナ海での単独の訓練実施は、極めて異例といえます。
ジプチや南シナ海での自衛隊の動向は、対中国包囲網の形成に日米が共同で動き出した証左であると考えます。これまで専守防衛の下で抑制的に振る舞ってきた自衛隊は、安倍政権下における「日米同盟基軸」の外交的戦略と集団的自衛権行使容認し米艦防護など日米統一軍を志向する安保法制の中で、その内実を大きく変化させています。
新防衛大綱に見える対中国戦略
平和フォーラムとの話し合いで、防衛省はヘリ空母「いずも」の改修とストーブル機(FA35B)搭載の目的を、「頻繁に空母が展開する太平洋側の安全保障の強化」をあげています。どの国の空母か防衛省は明確にしていませんが、中国の海軍の空母であることは間違いありません。このように明らかに中国を仮想敵とする軍事戦略のなかで、今期の防衛大綱と中期防は、明確のその方向性を位置づけています。防衛大綱では「中国は、今世紀中葉までに『世界一流の軍隊』を建設することを目標に、透明性を欠いたまま、高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している」として、尖閣諸島周辺海域や太平洋での活動、南シナ海での動きなどをあげながら、「こうした中国の軍事動向等については、国防政策や軍事力の不透明性とあいまって、我が国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある」と中国の動きを日本の安全保障の脅威として結論づけています。防衛省サイドはヘリ空母「いずも」の改修には消極的との声も聞こえており、中国を意識した防衛大綱は、官邸サイドの意向が強く反映したものと考えられます。
際限のない防衛費増
2019年度の防衛費予算案の総額は、2018年度当初比で1.3%増の5兆2574億円となり、5年連続で過去最高を更新しました。2018年度の補正予算額3177億円を含めると、5兆5751億円となっています。2019年度から2023年度の中期防衛力整備計画全体の予算額においても、過去最大の27兆4700億円に達しています。
いずもの改修とF35B短距離離陸・垂直着陸(STOVL)型ステルス戦闘機の42機の配備、対地・対艦ミサイルJSM(射程距離500km)と搭載するF35Aステルス戦闘機の105機の購入、現行主力機のF15に搭載可能な対地ミサイルJASSM-ER(射程距離900km)の配備、これらは「攻撃型空母は憲法違反」などとしてきた従来の政府見解を逸脱し、専守防衛を旨とする憲法9条の解釈を反故にするものです。また、ロシアが自国の脅威としてその配備に反対している陸上配備型イージス・アショアは、「弾道ミサイル攻撃から国民の生命・財産を24時間365日守り抜くための能力」と防衛省は主張していますが、しかし、攻撃用の巡航ミサイルの発射台にも転用できることを防衛相自身も認めています。安倍政権の下で、前述した自衛隊の活動と同様に、装備の面においても、憲法9条の規定する平和主義の下にあった自衛隊は、大きく変貌するものとなっています。
「積極的平和主義」を改めよ
安倍政権は、中国を仮想敵として「専守防衛」の考えを放棄して、「積極的平和主義」に基づく敵地基地攻撃も含めた自衛隊の攻撃力の強化を図っています。装備の多くは米国からの対外有償軍事援助(FMS)によるもので、米国からの軍事装備品の調達の意味は、米国の要求でもある「日米統合軍」の実際の運用に資すると言うことを忘れてはなりません。米国は、第2次大戦後も「世界の警察」を自任しながら、自らの覇権かけて、世界各地で地域紛争に介入し、自ら戦争を起こしてきました。安倍政権の「日米同盟基軸」の姿勢と「積極的平和主義」の考えは、そのような米国の覇権に巻き込まれていくことを確実にするものです。
一方で、防衛省は、今後20年から30年間米国に払い続ける軍用装備の維持整備費だけでも2兆7000億円を超えるという試算を発表しています。安倍政権下の防衛費が毎年過去最大を更新し、その多くが米国の防衛産業に流れている事実は、「税の使い道」と言う視点からきわめて問題です。2019年2月、財務省は、国債と借入金・政府短期証券を合計した国の借金が、2018年12月末時点で1100兆5266億円となり過去最大を更新したと発表しています。自民党の国防部会は、防衛費のGNP1%枠の拡大も示唆していますが、日本の財政がそのような状況にないことは明らかであり、防衛費によって社会保障が削減されていくことは許すことができません。
一方で、中国の経済規模は日本の3倍、米国とともに中国との軍拡競争を続けていくことが、日本の将来にとって決してプラスにならないことは明白です。朝鮮民主主義人民共和国や韓国とも対立を深める中にあって、「積極的平和主義」の旗を降ろし、平和主義の憲法理念に基づく安全保障を求めて行くことが重要だと考えます。
(ふじもとやすなり)
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相次いで動き出した巨大な通商協定
正しい情報開示と市民の理解をもとに交渉を
農業に多大な影響 早急に協定見直しを
アメリカを除く11ヶ国による環太平洋経済連携協定(TPP11)は、日本を含む6ヶ国で国内手続きが終了したことから、規定により2018年12月30日に発効しました。続いて、日本とヨーロッパ連合(EU)との経済連携協定(日欧EPA)も、2月1日に発効しました。このように、かつてない巨大な通商協定(メガFTA)が相次いで発効し、農林畜産物では、関税の大幅引き下げや撤廃、輸入割当の拡大などが現実のものとなっています。特に牛肉は、関税が38.5%から27.5%に引き下げられたことから、2019年1月の輸入量は前年同月を6割以上も上回るハイペースで急増しています。
しかし、こうした輸入急増に歯止めを掛けるセーフガード(緊急輸入制限措置)が、機能不全の状態にあります。牛肉のセーフガードの発動基準数量は、輸出大国のアメリカからの輸入量も含めてTPP協定で設定されました。しかし、アメリカが抜けてもその基準数量を変えなかったため、豪州などが相当に輸出を増やしてもセーフガードの発動基準に達しません。その上に、アメリカからも輸入されるので、総量が大幅に増えて、国内畜産業を圧迫することになります。
TPPには、アメリカの復帰が見込まれない場合は、合意内容を見直すという再協議規定があります。アメリカと日本は2国間による貿易協定交渉を開始することになっており、TPPに復帰する可能性はありません。すぐにでも、発動基準数量の見直しに向けて再協議をすべきです。しかし、政府は「見直せば、アメリカがTPPへ復帰する道を閉ざす」(TPP等政府対策本部)として、他国に働きかけようとしません。
「協定が発効しても対策を取るので、国内生産量や生産者の所得への影響は無く、自給率も変わらない」(農水省)としてきた欺瞞性が明らかになっています。38%という世界でも最低水準にある食料自給率は、TPPなどでさらに下がり、「牛肉の影響は酪農にも及び、近い将来、国産の新鮮な牛乳が飲めなくなる」(鈴木宣弘・東大教授)危険性もあります。
多くの市民が参加した通商交渉と グローバリズムを考える集会 (2月8日・参院議員会館)
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TPPを上回る米の要求と日本政府の欺瞞
2018年9月に安倍晋三首相とトランプ米大統領との首脳会談において決められた2国間の貿易交渉は、早ければ2019年1月から始まることも想定されました。しかし、アメリカは当面、中国との貿易協議を優先させる必要があることから、交渉は4月以降になるとの見通しも出ています。4月以降にずれ込めば、TPP11も日欧EPAも年度の規定により、日本は2年目の関税引き下げが適用されます。このため、アメリカの農業団体が、他国よりも日本への輸出条件が不利になるとして、トランプ政権への圧力をさらに強めることも想定されます。
日米2国間交渉について、安倍首相は「アメリカのTPP復帰のため、自由貿易協定(FTA)交渉はしない」として、自動車や農産物などの物品に限った貿易交渉(TAG)だとしています。しかし、アメリカでは2018年12月21日に、通商代表部(USTR)が上下院に示した対日交渉方針では、「物品」はテーマの一つにすぎません。その他「検疫」「サービス貿易」「投資」「知的財産権」「医療品・医療機器」「国有・国営企業」「政府調達」などが並び、TPP協定の全ての内容と重なっています。
これに加えて、TPPにはなかった新たな要求も加えられています。ひとつは、日本の円安誘導操作を規制する為替条項が含まれていることです。日本の自動車輸出に対する揺さぶりと見られます。さらに、日本が中国などの非市場経済国と自由貿易協定交渉に入る場合は、その内容を明らかにする仕組みも求めています。自国を少しでも不利な状態に置かないトランプ政権の姿勢が貫かれています。
こうした交渉方針には米国の業界団体の意向が色濃く反映されています。USTRは公聴会や意見募集を行い、農業団体などの要求を受けています。これに対して、日本の場合は、貿易交渉を規定する法的担保措置もなく、国会答弁と日米首脳の共同声明が政府のホームページに掲載されているだけです。
現在進められているアメリカとEUとの貿易交渉では、EU委員会は、交渉範囲は双方の首脳会談の範囲に限定すること、共同声明から逸脱した場合には交渉から離脱するとしています。そして、農産品は除外する方針で交渉に臨むとしています。情報を開示しないどころか、FTA交渉をTAGと偽ったまま、秘密理に交渉を進めようとする日本政府の姿勢とはまったく異なっています。正しい情報を開示し、市民の理解をもとにした交渉体制をしっかり構築すべきです。
(市村忠文)
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あまりに酷い、被爆体験者訴訟・福岡高裁判決
被爆体験者協議会相談役 平野伸人
逆転敗訴・高いハードルを課す
2018年12月10日、長崎の爆心地から12kmの被爆未指定地域で被爆した161人の所謂「被爆体験者」が被爆者健康手帳の交付を求めた第2陣訴訟の控訴審判決で、福岡高等裁判所は、これまで原告の内10人を被爆者と認めた長崎地裁判決を取り消し、全員敗訴の判決を下しました。一審の長崎地裁判決では、原告のうち原爆投下時に旧矢上村(現在は長﨑市)と旧戸石村(現在は長﨑市)の一部地域にいた10人を被爆者と認定し、長﨑市や長崎県に被爆者健康手帳の交付を命じました。しかし、控訴審判決では、年間100ミリシーベルト以下の被曝では健康被害が生じないという信じがたい判決でした。原告らは唖然とする一方、支援者からは法廷に怒号が飛びました。
そもそも、被爆者は健康被害によって被爆者になるのではありません。被爆地は旧長崎市という行政区域で決められました。原爆の放射線の広がり方に、行政区域の境目など関係がないはずです。川一つ、道路一つで被爆者と認められ「被爆者健康手帳」を取得した人、取得できなくて苦しんでいる人が未だに存在しています。行政区域という非科学的根拠で被爆地を決めておきながら、判決では年間100ミリシーベルトという高い被曝線量の立証を求めています。何という酷い判決でしょうか。何としても被爆者を増やさないという国の意図だけが見えると同時に、国の主張には逆らわないという司法の堕落を見たような後味の悪い判決でした。長崎地裁の一審判決では、原告の内10人という限られた認定とはいえ未指定地区で被爆者と認められたのですから大きな進展と言えます。事実、政治解決への道が開かれたかに見えました。わたしたちも原告も上京し、厚労省や国会議員に働きかけをしました。しかし、長崎市や長崎県は、無情の控訴をおこないました。一部勝訴とはいえ画期的な判断の成果を無にし、政治解決への道が見えたのに、かすかな光をも閉ざす暴挙でした。「市民とともに歩む」がウリの田上市長は「関係機関と協力しながら被爆体験者への支援の充実に努めていく」とのコメントを発表しました。国からの圧力が合ったとはいえ、無慈悲な控訴をおこなっていてよく言えたものです。
1957年に決まった被爆地が南北に細長く、いびつなのは旧長崎市の行政区域で決められてから、指定地域の外側で原爆にあった人々から、被爆地の是正を求める声が上がり、長﨑市も長崎県も官民一体となった運動をおこなった結果、2002年に12km圏の地域を対象とする「被爆体験者事業」がおこなわれるようになりました。しかし、援護については「放射線の影響による病気はない」として、精神疾患とそれに伴う合併症に限られました。被爆者援護法による援護とは大きな差があります。そのため、根本解決を求める人々が集団提訴したのです。
しかし、国の言いなりになる裁判所の姿や、三権分立が全く機能していない様を目の当たりにして、怒りを通り越して悲しくさえなりました。被爆から73年が経過しても、未だに、爆心地から半径12kmでありながら場所によって被爆者と被爆体験者に分けられている状況が続いています。「被爆体験者」は高齢化し、今なお放射線後障害に苦しんでいます。原爆被爆の被害実相はこれまで考えられた以上に大きく、特に黒い雨や粉塵汚染、放射線微粒子等による放射線内部被曝の被害は深刻です。
今回の福岡高裁の判決は、このような原爆被爆の実態を無視した酷い判決としか言いようがありません。現在の「被爆地」と定められているなかの被爆者にこのような高い線量の被曝の立証は求められていないのです。そもそも、被爆者の認定において被曝線量が求められることはありません。なぜ、被爆体験者だけにこのように高いハードルを課さなければならないのでしょう。
この裁判の判決は、福島原発事故のヒバクシャ援護の指針となるべきものでした。これ以上、被爆者を増やさない。被爆者が死に絶えるのを待っているという「55年基本墾答申」(原爆被爆者対策基本問題懇談会が1980年12月に発表、国家補償を否定した)の精神が垣間見えます。このような国の姿勢に逆らえない長崎市や長﨑県の姿勢も情けないとしか言いようがありません。高齢化する被爆体験者を励ますのも辛いのですが、原告団は「負けてなるか」と全員が上告しました。
わたしたち支援者も来るべき最高裁のたたかいに向けて、歩みを止めることはできません。きっと、この不合理を解消してみせると決意新たです。
(ひらののぶと)
原爆被爆地域図(地名は原爆投下時のもの)
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企業の存続すら危うくなる原発輸出
原子力資料情報室 事務局長 松久保 肇
日本の原発輸出が苦戦している。日本経済新聞は2018年12月4日、以前から苦戦が伝えられ、三菱重工が進めてきたトルコへの原発輸出案件について、「建設断念へ」と報じた。三菱重工が黒海沿岸の風光明媚なシノップに4基の112万kW級ATMEA-1(仏フラマトム(旧アレヴァ)との合弁企業アトメアが開発した加圧水型軽水炉)原発建設を受注したのは2013年のことだった。当時、この原発建設計画の受注を日・韓・中・カナダが争ったが、政府の支援を受けた三菱重工らの企業連合が受注することとなった。
政府の支援がなければ原発事業は進まない
しかし、受注当時2兆円と見込んだ建設費は、昨年4月時点で5兆円近くに高騰、三菱重工と事業推進や資金需要に対応するため提携していた伊藤忠商事は事業計画から離脱していた。電力の買取価格は日・トルコ政府間で締結した政府間協定により、20年間10.80~10.83セント/kWh(燃料費除く)に据え置かれた。運転費や維持管理費を考えれば、コスト回収が困難なことは明らかだった。各種報道によれば、三菱重工側はトルコ政府に対して、買取価格の引き上げなどの支援を要請していたが、トルコ政府側はコスト見直しなどを要請。結果、三菱重工は採算性が見込めないと判断したようだ。
2018年12月12日、三菱重工の宮永俊一社長はメディアとのインタビューで、シノップ案件の現状について、「経済合理性の範囲内での対応はいつでもできる」、「まず政府間(での協議)があって、政府間で何かあれば、われわれに問い合わせがあり、お答えするということになる」、もはや現段階は「私どもが判断できる範囲ではないと思う」と答えている。
原発輸出の失敗は三菱重工だけではない。2019年1月17日、日立は取締役会で、同社が進めてきた英国への原発輸出案件を凍結し、これまで投じてきた費用から約3000億円を減損処理することを決定した。同社は2018年12月時点で英政府に対して「民間の投資対象としてはもう限界だ」と伝え、日英両政府の支援をもとめていた。しかし、2019年1月10日、日英首脳会談後の記者会見でメイ英首相は「企業の商業的な判断となる」とコメントし、追加支援には慎重な姿勢を示していた。
トルコへの原発輸出に反対する学習会 (2018年9月・連合会館)
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どこが巨額の費用を負担するのか
日立は東京電力福島第一原発事故後の2012年、原発事業会社ホライゾン・ニュークリアパワーを買収し、100%子会社とした。同社は、英国で2か所、それぞれ2~3基の原発を建設する計画を進めてきた。とくに、ウィルヴァ・ニューウィッド原発建設計画(135万kW級の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)、2基、総事業費3兆円)は、建設に向けた各種手続きが最終段階にきていた。
この計画では3兆円もの巨額の費用をだれが負担するかについて、様々な出資計画が検討された。また、日立は当初より、ホライゾン社の持ち分比率を50%以下にできないと計画を進められないとしていた。だが多くの会社の名が挙がったものの、終に出資先は現れなかった。さらに、発電した電力の買取価格(FIT-CFD/差額決済型固定価格買取制度:一定期間、基準価格と電力市場で売電した価格の差額が支払われる制度によるもの)も日立が期待したほどの価格とはならなかった。
原発企業の相次ぐ事業撤退
日本の原発輸出の失敗は、トルコや英国だけではない。2000年代に入り国内での原発新設が頭打ちになる中で、経産省と原発メーカーは海外市場に希望を見出した。これまで売り込んだ先は両国のほか、ベトナム、フィンランド、アラブ首長国連邦、ヨルダン、リトアニア、ブルガリアなど多岐に上るが、いずれも失敗に終わった。唯一受注できたのは米国での原発建設だった。しかし、東芝の子会社で米原子炉メーカー大手のウェスティングハウスが2008年に受注したこの4基の原発建設案件では、工期遅延などにより、巨額の損失が発生していた。東芝は、2017年、9656億円の赤字を計上するなど、一時倒産の危機に追い込まれた。結果、東芝は2006年に54億ドルで買収したウェスティングハウスを1ドルで売却し、海外の原発事業からの撤退を決めた。
原発建設は、巨額の初期投資と長期的な投資回収が必要になるため、事業者は大きな事業リスクを抱え込む。原発輸出はこうしたリスクに加えて国家間協定などを必要とするため、政府の関与も必要になる。原発メーカーは事業部門の生き残りのために原発輸出に打って出た挙句、企業自体の生き残りも危うくなるようなリスクを抱えた。そのうえ、国が関与するため、自社のみの判断では、その投資からの撤退が困難になるという、本末転倒な状況に陥る。三菱重工の宮永社長のコメントは、原発輸出の危険性を端的に示すものである。
(まつくぼはじめ)
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日本の再処理政策を支持した米駐日大使
日本での議論の欠如を反映?
ワシントンD.C.の米国非営利団体「国家安全保障アーカイブ(NSA)」が2月12日、レーガン政権の初期の2年間(1981-82年)において日本のプルトニウム政策に関連した議論がどのようになされたかを示す文書類を公開しました。その中に1981年1月26日に、カーター政権が任命し、レーガン政権でも続投が決まったマイク・マンスフィールド駐日大使がレーガン大統領とアレクサンダー・ヘイグ国務長官に宛てたものがあります。大使は、オイルショックのような「石油供給停止に対する脆弱性を持つとの日本の認識」を尊重し、東海パイロット再処理工場の運転と六ヶ所再処理工場の建設を認めるべきだと述べています。
大使の主張がどの程度の影響をレーガン政権に与えたかは分かりませんが、1987年にまとまった新日米原子力協力協定は、日本による再処理を事前に認める「包括的事前同意」を与えるものとなりました。1968年の元の日米協定では、米国起源の使用済み燃料の日本国内での再処理と外国への輸送は個別に米国が同意することが必要とされていました。
元々、米国は、早期にウランが枯渇するとの想定に基づき、使用済み燃料から再処理でプルトニウムを取り出し、それを燃やしながら燃やした以上のプルトニウムを生み出す高速増殖炉の開発を推進していました。ところが、インドが1974年に、米国の協力の下に推進された高速増殖炉計画で分離されたプルトニウムを使って最初の核実験を行います。77年に登場したカーター政権で実施された再処理政策見直しの中で、ウラン枯渇想定の間違いが指摘され、政策が変更されます。
1970年代の予測:ウラン枯渇⇒高速増殖炉が支配的に
右の図にあるように、1974年の米原子力委員会(AEC)の予測では、2010年には米国だけで原子力発電容量が100万キロワット級原発2300基分となり、高速増殖炉がその3分の2を占めるというものでした。2018年現在の米国の原子力発電容量は100基分、高速増殖炉はゼロというのが現実です。
カーター政権は、東海再処理工場の運転を開始しようとしていた日本にも計画放棄を呼びかけます。日本側はこれに猛反発します。1977年3月16日の衆議院予算委員会で宇野宗佑科学技術庁長官は再処理を「民族の死活問題」と呼び、米国が主張している再処理の「3年間凍結」は、「1990年代の実用化を目指して」いる高速増殖炉の予定を狂わせ「将来への死活問題である」と述べています。この時、日本の政策を尊重するよう訴えたのが就任したばかりのマンスフィールド駐日大使でした。
大使の2本の電文
マンスフィード駐日大使からサイラス・バンス国務長官に宛てた1977年7月12日付けの電文は次のように始めています。
「私はこのポストについてから数週間にしかならないが、貴方に直接のメッセージを送るに足る一つの政治的問題が米日間にあることはいまや明らかだ。つまり、両政府の前にある核燃料再処理問題だ。この問題を解決しようとの試みは、極めて重要な局面に達していると私は考える。今後とられる行動は、妥協──核不拡散面での懸念とエネルギー需要のバランスをとり、再処理問題が両国の全体的な関係という文脈において対処されることを保証する妥協──を至急成立させなければ、両国の将来の関係に重大な悪影響をもたらしうる」
大使が1981年1月26日にレーガン政権に宛てて送った電文は次のように述べています。
「石油供給停止に対する脆弱性を持つとする日本の認識は、これまでにも増して日本の国内及び外交政策のあらゆる面に影を投げかけるようになりそうだ。...我が国のエネルギー政策の相当の変更を意味することになるだろうが、日本の苦痛の種となっているもので我々が出来るだけ早く除去すべきものがあると私は考える。何かというと、干渉されることなく、使用済み燃料の再処理のために東海村パイロット再処理工場を運転し、この目的のためにさらに大きな工場を建設したいという日本政府の希望だ。原子力を平和目的のためだけに使うという長年の日本のコミットメント、それに、我が国の核不拡散の取り組みの支持を考慮すれば、この点に関する日本の希望にもっと前向きに対応しない理由はないと私は考える。」
このような大使の判断をもたらした日本側の主張を現在の状況と比べて見ると、米国側は現実離れした日本の夢物語につき合わされたと言わざるを得ません。日本国内での議論が不十分だったことが判断に影響を与えた可能性があります。日本は、六ヶ所再処理工場を2021年に完成させようとしています。今こそ、上記のような歴史について振り返り、再処理政策について議論すべき時です。
(「核情報」主宰田窪雅文)
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《投稿コーナー》
まさに「戦争前夜」当たり前の組合活動に対し警察権力が大弾圧
小谷野 毅(全日本建設運輸連帯労働組合 書記長)
かつてない労働組合弾圧事件がおきている。その標的にされているのは私たち全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)の関西地区生コン支部である。
権力弾圧は2018年8月にはじまり、滋賀県警や大阪府警が仕立て上げた6つの「事件」で、半年間でのべ55人の組合役員や組合員が逮捕され、2019年2月10日現在のべ21人が起訴されるという異常な事態となっている。カルロス・ゴーンの2カ月超の勾留が国際問題化しているが、関西生コン支部委員長らの勾留期間はすでに6カ月を超え、接見禁止もつづいている。
組合脱退を働きかける家族へのいやがらせも露骨だ。滋賀県警の捜査員は留守宅の家族に、「組合を辞めて会社も変わった方がいい」「職場の人や弁護士は警察を悪く言うだけだから、こうして話していることもふくめて連絡は取らない方がいい」などと圧力をかけている。
大阪府警前での抗議行動には支援者も駆けつける
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組合活動に共謀罪をあたかも適用
「事件」とされたのは、第1に2017年12月のストライキ闘争(平和フォーラム機関紙839号参照)で、これが「威力業務妨害」とされている。第2は建設現場でゼネコンによる建設現場の違法行為を告発した組合活動で、建設業法で定められた専任の管理技術者(いわゆる有資格者による現場監督)がいない、バンパーのないダンプカーが出入りしているなど、ずさんな現場管理の改善を申し入れ、ビラまきをした活動(法令順守=コンプライアンス活動)が「恐喝未遂」とされた。
ストライキを威力業務妨害事件に仕立て上げた事件では、2018年9月、現場にいた組合役員や組合員が2度にわたりのべ24人も逮捕された。のちに大半の組合員が起訴されずに釈放されるのだが、それは大量逮捕の目的が組合に打撃を与え、組合員を動揺させることにあったことを物語っている。
さらに異様なのは、その2カ月後、ストライキの現場にはいなかった支部委員長ら組合幹部が逮捕されたことだ。組合の会議でストライキの目的や計画を話し合ったことそのものが威力業務妨害罪に問われているのである。
第2の建設現場の違法行為告発は、組合の日常的な「コンプライアンス(法令遵守)活動」を「恐喝未遂」事件にしている。安値で工事を受注したゼネコンは、安全対策や粉塵、騒音、汚水処理など公害対策についてしばしば手抜きをする。品質不良のおそれがあることを承知で安売り生コンを使うのもそうした手抜き体質の一部だ。今回事件とされた大手ゼネコン・フジタの滋賀県の現場でも見事にそれが現れていた。組合がそれら法違反を是正することを申し入れたり、ビラをまいたことが事件とされているのである。しかも、2018年8月に支部委員長ら幹部を逮捕し、すでに裁判もはじまっているのに、滋賀県警は2019年2月、あらたに現場のビラまきに参加した組合員を恐喝未遂の「実行部隊」と称して16人を逮捕した。警察は今後も「コンプライアンス活動を現場ごとに事件にする」「組合をつぶすまでやる」などとうそぶいている。
権力の暴走を許さない運動の展開を
端的にいえば、「ストしたら逮捕」「ビラをまいたら逮捕」・・・関西地区生コン支部を見せしめにしつつ、そんな時代がはじまったということではないだろうか。担当弁護団は一連の不当捜査を指して「共謀罪のリハーサル弾圧」だと警鐘を鳴らし、宮里邦雄弁護士(元日本労働弁護団会長)は「平成労働運動史上で最大の弾圧事件であり、きわめて悪質かつ政治的」と強く批判している。
憲法28条は労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権の労働三権を保障している。そして労働組合の正当な組合活動を刑事罰の対象とはしないとの刑事免責が、労働組合法1条2項が定めているのは周知のとおりだが、安倍内閣の政治姿勢を後ろ盾とした警察が、労働基本権など完全に無視した組合つぶし攻撃をほしいままにしているのが現在の事態だ。
ここで食い止めるべく、不当弾圧に抗議し、長期勾留中止と即時釈放などを要求する署名活動(平和フォーラムなどよびかけ)やカンパ活動にぜひともご協力をお願いします。
(こやのたけし)
権力弾圧事件一覧
逮捕者数は延べ人数。このうち9人が複数の事件で再逮捕。湖東協組事件、大津協組事件では事業者も計7人逮捕されている。
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加盟団体の活動から(第13回)
放送における「公共の福祉」を考える活動
日本放送労働組合 中央執行委員長 中村 正敏
憲法改正の議論が活発になる中、同時に気になる動きは、放送法の改正です。今次通常国会のなかで放送法の改正が上程されることになっています。主として、NHKのインターネットにおける常時同時配信などがテーマになるとされていますが、2018年、放送法第4条を廃止するという政府サイドの意向が報道されるなど、デジタルメディアが発達しさまざまな言論が飛び交う状況のもと、放送のあり方、それを規定する放送法にもさまざまな視点からの意見が寄せられる時代になりました。
現行放送法は、憲法と密接に関係しています。戦後の占領下、周波数や放送内容について主権がないなか、GHQのもとで設計されたこと。制定以来、何度か見直しの機運があったにもかかわらず、結果として日本社会はこの放送体制と理念を選択してきた、ということなど、憲法が歩んできた歴史と似ているともいえます。そして戦後日本社会のなかで、放送でいえば公共放送と民間放送という世界的に見ても特異な二元体制を構築する根拠となってきました。
理念的にいえば、憲法における「公共の福祉」という概念が、放送法の根幹をなしています。特に、放送法4条の番組編集準則は、1条の「公共の福祉に適合するよう規律」という観点をより番組編集の実際に近づけて導き出されるものです。そして放送局には、公共の福祉に適合するような事業運営が可能になるように、免許や財源など安定性が求められている制度になっています。
新聞やラジオ、そしてテレビと、マスメディアが続々と誕生する中で、戦後日本はいずれも「公共の福祉」という観念を取り込んできました。どの新聞社も、もちろん社論や社是はあるけれども、取材情報のウラをとる、といったことをいわば職業倫理として、「公共の福祉」につながるように育んできたわけです。
もし憲法における「公共の福祉」という文言が変われば、現在の放送法も抜本的にかわることになります。どういう放送法になるのか、想像もつきません。現状を見れば、「公共の福祉」という規律とは無縁の、インターネットからの情報が氾濫するようになり、社会的にもかなりの影響力を持つようになってきています。
問われているのはもちろん、放送だけではありません。人がパブリックな場に出るときに、他人に影響力を持ちたいという願望は、確度が低く、角度がついた、過激な表現に頼る言説を生み出しがちです。そうではない情報をどう提供していくのか。それが思想や立場の違いとは関係なく、等しく今の社会に求められている『公共性』です。このことは、戦争の時代、大衆社会と戦時政権との関係の中で、大衆社会の中で公共性を構築し得なかった反省でもあります。
単にファクトかどうか、というだけでなく、確度は高いのか、表現は過激に、表現の適切さを失ってインフレにならず、的確なものなのかどうか。視聴者や読者がそれらを通じて適切に判断をすることができるものなのか。そうしたことはとりわけ、放送にとっては重要であり、日々、さまざまな会議のなかでこの課題を検討する活動を継続しています。
(なかむらまさとし)
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〔本の紹介〕
『左派ポピュリズムのために』
シャンタル・ムフ著、山本圭、塩田潤訳/明石書店刊
ドナルド・トランプが大統領に選出され、イギリスの国民投票では排外主義主導のEU離脱派が勝利する等、現在ポピュリズムは右翼、極右を想起させる言葉となっています。しかし他方ではスペインの「ポデモス」やフランスの「黄色いベスト」等の左派ポピュリストとでも言うべき運動が、政治に決定的というべき影響を与えており、イギリス労働党のコービン党首の下での復調、アメリカでのバーニー・サンダースの大統領予備選での大健闘も同様の動きの結果といわれます。
こうした状況を受け、環境保護を強め、また性差別やレイシズムに対抗する多様な要求を、「等価性の連鎖」で結びつけて闘い取る中で、ヘゲモニーを確立する「左派ポピュリズム」の戦略が提言されています。
序論、結論の他、「1ポピュリスト・モーメント」、「2サッチャリズムの教訓」、「3民主主義を根源化すること」、「4人民の構築」の4つの章から成り立っています。1では2008年のリーマンショックとその後の経済危機により、新自由主義への信頼は大きく揺らぎ、「ポピュリズム・モーメント」というべき大衆運動が状況を左右する時期が到来したと主張されています。2では70年代社会民主主義福祉国家の危機から、市場原理主義、民営化、競争強化等新自由主義のヘゲモニーが確立し、経済的リベラリズム優先で政治的リベラリズム軽視、「代替案はない」と批判が抑制される状況が生まれたプロセスが描かれます。そのヘゲモニー交代を領導した敵方の主役サッチャーの動きを追い、左派の失敗を見ていきます。3では現存の自由民主主義体制の撤廃ではなく、新自由主義が抑えていた人民主権と平等を実行することで改革を進めるべきだと力説されます。4では多様な人民が「等価性の連鎖」を闘うことで構築され、「少数派支配」との分岐を明確にして、新自由主義に代わるヘゲモニーを右派と対抗して確立すべきと訴えています。
シャンタル・ムフは政治思想を専門にし、この本のように政治運動についても積極的に発言する、イギリスの大学で教鞭を取る、ベルギー人政治学者です。1980年代サッチャー首相の時代から、社会運動の政治戦略に取り組んでいます。新自由主義に代わる政治を考える時、ぜひ読まれるべき1冊です。
(菊地敬嗣)
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核のキーワード図鑑
最敬礼 原発・軍事 国のため
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2019原発のない福島を!県民大集会
日時:3月16日(土)13:00~15:40
場所:福島県教育会館
主催:原発のない福島を!県民大集会実行委員会
安倍9条改憲を許さない、安倍内閣の退陣を要求する3・19行動
日時:3月19日(火)18:30~20:00
場所:衆議院第2議員会館前
主催:安倍9条改憲NO!全国市民アクション実行委員会 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
3・21さようなら原発全国集会
日時:3月21日(木祝)12:30~/15:10~デモ
場所:渋谷区「代々木公園B地区」(地下鉄 代々木公園/明治神宮前、JR 原宿 下車)
内容:発言とデモ行進
主催:「さようなら原発」一千万署名市民の会
協力:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
さようなら原発講演集会
日時:3月30日(土)14:00~16:30 場所:千代田区「全電通会館」( 地下鉄 新御茶ノ水/淡路町/小川町、JR 御茶ノ水 下車)
内容:講演 「福島事故8周年、脱原発社会がはじまった」
講師 小出裕章さん
主催:「さようなら原発」一千万署名市民の会