2019年3月アーカイブ

1.トランプ・ミサイル防衛見直しの概要
 19年1月17日、トランプ米大統領は、国防総省において米国のミサイル防衛強化に向けた新戦略「ミサイル防衛見直し(以下、MDR)」を発表した。同種の文書は、オバマ政権期の2010年に初めて策定され、「弾道ミサイル防衛見直し(BMDR)」と呼ばれた。今回は、極超音速兵器や高度な巡航ミサイルなど弾道ミサイルに含まれないものを含む、多様なミサイル脅威に対応する必要性を踏まえ、「弾道(B)」が外れ、「MDR」という名称に変更されている。
 MDRは、2017年12月の「国家安全保障戦略(NSS)」、2018年1月の「国家防衛戦略(NDS)」、そして同年2月の「核態勢見直し(NPR)」と整合するものとして策定が進められ、2018年春頃に公表されると言われていたが、1年近く発表が遅れた。その要因の一つは、特に宇宙配備センサーやブースト段階での迎撃計画など新時代へ向けた途方もない投資を必要とする構想の妥当性の検証に時間がかかったことが推測される。
 まずロシア、中国、北朝鮮、イランの4か国を主な脅威とみなし、現在および将来のミサイル脅威を米本土、及び「海外の米軍、同盟国、協力国」ごとに分析し、現在、及び将来の脅威環境を見直し、ミサイル脅威の多様化とあらたな脅威の出現など環境が大きく変化したとする。北朝鮮への言及が最も多いが、2017年9月の6回目の核実験や、火星15号を含むICBM発射を踏まえて、今や北朝鮮は、米本土を核ミサイル攻撃によって脅かす能力を有すると指摘した。米国政府公式文書において北朝鮮の核ミサイルが米国を攻撃しうると評価したのは初めてである。18年に、米朝首脳会談等により対話と平和への交渉が新たに進んでいることを認めつつも、北朝鮮に対する脅威認識は変化しておらず、米国は警戒を怠ってはならないとしている。
 ロシアは、18年3月のプーチン演説(注1)で示されたように、近年、飛翔速度の非常に速い極超音速巡航ミサイルや極超音速滑空体(HGV)(Hypersonic Glide Vehicle)の開発・配備に力を入れている。中国もHGVの実験を行っていることで、近未来の脅威とした。
 イランは、中東での米国の影響力を、当該地域の覇者になるという自らの目標の前に立ちはだかる最大の障壁と考えており、中東で最大の弾道ミサイル戦力を有しており、米国を威嚇する能力を持った大陸間ミサイルに応用できる技術の開発を続けているとする。
 その上で、これらの脅威に対応するためのミサイル防衛の役割・原則・戦略を位置づけ、現在および近い将来の本土防衛や地域防衛の計画を包括的に検討している。ミサイル防衛の多様な役割として、米本土及び同盟国の保護、攻撃の抑止、同盟国の安全の保証、外交の支えなどを挙げる。ミサイル防衛計画と能力については、本土防衛、地域防衛、さらに巡航ミサイルや極超高速兵器への対応計画を順次、示している。

2 既存のミサイル防衛態勢の強化
 現在、米本土防衛として、北朝鮮や潜在的にはイランの核・ミサイル脅威への対処を念頭に地上ベースのミッドコース防衛(GMD)システムが構築されている。具体的には地上配備迎撃ミサイル(GBI)がフォートグリーリイ(アラスカ)に40基,バンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア)に4基の計44基配備されている。これを踏まえ、本土防衛のGMDとして2023年までにGBIをフォートグリーリイに20基追加配備し、64基までに増強する。またアラスカ、ハワイ、太平洋地域に、新たなミサイルの追跡及び識別センサーを配備する。
 地域防衛では、現在、BMD能力を有するイージス艦は38隻であるが、2023年までにその数を60隻に増やす計画であるとし、その計画はMDR発表後6か月以内に国防長官らに送付される。
 さらに本土防衛と地域防衛を統合することで、早期の警戒やミサイル追跡の態勢を強化し、コストを削減する。例えば、米国が日本に配備しているXバンドレーダーは、早期警戒や北朝鮮から米国や日本に向けて発射されたミサイルの追跡に有効であるとする。
 さらに「同盟国およびパートナー国との協力」を明記し、インド太平洋地域では、日本のミサイル防衛態勢との協力、相互運用性の強化がうたわれている。日本では、「多数の複合的な経空脅威にも同時対処できる能力を強化する」(注2)との観点から、現在、イージス艦6隻を8隻体制に増強し、中期防では2023年までにイージスアショア2基の配備を決めている。これら自衛隊のミサイル防衛態勢と在日米軍のイージス艦やXバンドレーダーとの相互運用の強化を図ることになれば、平時においても集団的自衛権の行使を前提とした態勢が日常化することになる。また米国からのミサイル防衛への予算増や米装備の購入の要求がさらに増えることが想定される。

3 近未来型のミサイル脅威に対する誇大な構想が目白押し
 トランプMDRのもう一つの特徴は、極超音速巡航ミサイルや極超音速滑空体(HGV)などによる新たな攻撃的ミサイルの脅威と不確実性への対応策が多数、構想されていることである。
 ここでは、「宇宙の重要性」が強調されている。「宇宙開発によって、既知・不測双方の脅威に対しより有効で弾力性や順応性のあるミサイル防衛態勢が可能になる。例えば、宇宙センサーは、地球上のどの地点から発射されたミサイルであっても観察・発見・追跡することができる。宇宙センサーは陸上センサーに課せられるような地理的制限に服することなく、ある程度自由に動き回ることができ、きわめて有利なことにミサイルの「誕生から死まで」を追跡することが可能なのだとする。」
 ならず者国家の保有ミサイルが増加するにつれ、迎撃を宇宙から行うことで、攻撃用ミサイルが様々な報復措置を実施する前の、最も脆弱な初期の上昇段階で交戦する機会が生まれるかもしれない。宇宙からの迎撃により、攻撃用ミサイルの迎撃に成功する可能性が全体として高まり、米国の迎撃機(defensive interceptors)の数を求められている通り減らすことができ、攻撃用ミサイルを標的国ではなく攻撃国の領空で破壊できる可能性が生まれる。国防総省は、宇宙ベース防衛の構想や技術に関する短期間の調査を新たに実施し、変化する安全保障環境における宇宙ベース防衛の技術的・戦略的な将来性を査定するとしている。
 極超音速滑空体(HGV)は、弾道ミサイルないしロケットによって打ち上げられたのち、ブースターの燃焼終了直後に切り離され、飛翔体自体の揚力によって大気圏上層で跳躍・滑空を繰り返し、高速で目標に突入する。そのため、高速の巡航ミサイルやHGVは、マッハ5以上の高速で、低空を変則的に飛行するため、地上配備型レーダーをかいくぐることができる。これらに対抗するために、まず複雑なミサイルの脅威を検知、追跡し、効果的に対処できるよう宇宙空間でのセンサー網による監視網の充実をあげる。既に米国は、宇宙配備の赤外線センサー(「宇宙ベース・キルアセスメント(SKA)」と呼ばれる)網を18年末までに軌道上に配置するとしているが、それをも含めた包括的な監視網が想定されている。
 またロケットエンジン分離前のブースト段階での攻撃により破壊させる宇宙配備型の迎撃システムの可能性調査などの必要性を訴えている。ここでは、ステルス戦闘機F35や、レーザー兵器を搭載した無人航空機などが検討対象とされる。宇宙に関わるこれらの計画についても、MDR発表後6か月以内に報告書を出すとしている。

4 中ロの反応と核軍拡競争を激化させる懸念
 米MDRに対し、中ロはすぐに反応した。まずロシア外務省は、「これらの考えを満たすことは、必然的に宇宙での軍拡競争を招くことになり、それは国際的な安全保障と安定性にとって最大の悪影響となるだろう」と述べた。さらに「米国政府に対し、悪名高いレーガンのスターウォーズ計画をより高い技術レベルで再開するこのような無責任な試みを放棄するよう呼びかけた」(注3)。
 また中国外務省の華春栄副報道局長は、2月17日の定例記者会見で「米国は他の国に兵器開発を控えるよう求める一方で、殺傷力の極めて大きな兵器を絶えず強化している。これは米国のダブルスタンダードを示すものだ」と反発した(注4)。
 ところで、米国が新たな脅威とする極超音速の攻撃的ミサイルは、米国も開発を推進している(注5)。それを棚に上げて中ロが開発するものは新たな脅威であるとして、それを超えるミサイル防衛態勢を生み出そうとすることは余りにも一方的である。
 しかも、MDR発表後6か月以内に国防長官らに報告を出すとされた計画は10件に上ることから見ても、構想の多くは、いまだ夢物語の次元で内容に著しい不確実性があると推測できる。膨大な巨額を投資して、残る成果が見えないことになりかねない代物ばかりである。

 米MDRは、トランプ政権のINF離脱などに輪をかける形で、宇宙を始めとした米国とロシア・中国間の際限のない軍備競争をもたらす危険性がある。この問題を考えるにあたり、2002年に米国がABM条約から脱退し、ミサイル防衛(BMD)体制の強化を打ち出したことで、ロシアが、これに対抗して米国のMDを打ち破る兵器の開発に約20年という年月をかけて極超音速兵器の開発などを進めてきた経緯を想起する必要がある。本MDRで米国は、ロシアの動きを理由に宇宙の軍事化などを含むミサイル防衛体制の新たな開発へと向かい、とめどのない核軍拡を引き起こそうとしている。INF条約からの離脱も、上記と同様の新たな軍拡の引き金になりかねない。しかし、今、求められているのは、MD態勢の強化ではなく、軍縮基調を生み出すことである。

注:
1 ピースデポ刊「核兵器・核実験モニター」541号(2018年4月1日)に関連記事。 
2 「防衛計画の大綱」、2018年12月18日。
3 「インターファクス通信」、2019年1月18日。
4 「毎日新聞」2019年1月19日。
5 米軍による極超音速兵器開発の現状を示す一例。
https://breakingdefense.com/2018/08/army-warhead-is-key-to-joint-hypersonics/

5.3rally2019_flyer.png

私たちは、安倍政権下で改憲策動がすすむ情勢を踏まえ、2015年以来、毎年5月3日に「平和といのちと人権を!5.3憲法集会」を開催し、多くのみなさんのご参加をいただいてきました。 今なお続く「2020年改憲」の危機のなか開催される「平和といのちと人権を!5.3憲法集会2019―許すな!安倍改憲発議―」(東京・有明防災公園)へのご支援・ご協力をお願いするとともに、全国各地でのよりいっそうのとりくみを呼びかけます。

→「平和といのちと人権を!5.3憲法集会2019 ウェブサイト

平和といのちと人権を!5.3憲法集会2019 ―許すな!安倍改憲発議―

日時:5月3日(金・休) 場所:有明防災公園(東京臨海広域防災公園)
主催:5.3憲法集会実行委員会
共催:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
安倍9条改憲NO!全国市民アクション

集会成功と新聞広告のためのカンパを募っています(一口1000円、なるべく複数口で)。 ご協力をお願いします。

【郵便振替】 口座記号番号:00160-7-586990/ 加入者名:5・3憲法集会

【銀行振込】 ゆうちょ銀行〇一九(ゼロイチキユウ)店/ 店番019/当座預金/ 口座番号:0586990/ 口座名:5・3憲法集会

 

190326 オスプレイ要請行動.jpg

 平和フォーラムとオスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会は326日、衆議院第2議員会館で第7回目となる外務省、防衛省への要請行動を行いました。

 オスプレイの低空飛行訓練の中止、普天間基地の海兵隊のオスプレイと昨年10月に東京・横田基地に配備された空軍オスプレイの撤去、木更津自衛隊駐屯地でオスプレイの定期機体整備を行わないことや、自衛隊のオスプレイ配備計画を撤回する要請を行ったほか、オスプレイの安全性、飛行訓練など多岐にわたる問題点について問いただしました。

 要請文はこちら(PDF

東京で辺野古への土砂投入に反対する集会

 

190325写真.jpg

辺野古への土砂投入中止を訴える集会が325日、日本教育会館(東京・千代田区)で開催されました。戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会と「止めよう!辺野古埋立て」国会包囲実行委員会の共催です。

国会からは、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、沖縄の風からアピールがあったほか、超党派の議員で構成される沖縄等米軍基地問題議員懇談会の石橋通宏事務局長(参議員・立憲民主党)から国会報告があり、議員懇が精力的にとりくんでいる外務省、防衛省など政府へのヒアリングについて説明がありました。

沖縄からは稲嶺進前名護市長(オール沖縄会議共同代表)が駆けつけ、軟弱地盤や米軍基地の運用基準である高さ制限を超える建造物があることから、新基地建設は困難であることを訴えたほか、工事を強行する安倍政権の姿勢を非難しました。続いて、沖縄県外からの土砂搬入に反対し、署名活動を行っている辺野古土砂搬出全国連絡協議会の顧問である湯浅一郎さんが講演しました。湯浅さんは、安倍政権が認めた軟弱地盤の改良工事について言及し、これまでの計画数量以上に県外からの海砂の投入が危惧されること。この海砂の採取は採取地の自然環境および生態系の破壊につながることを指摘しました。また海砂を沖縄の海に投入することにより、特定外来生物や沖縄には存在しない生物の持込となり、辺野古、大浦湾の豊かな自然環境を後戻りのできない破壊を押し進める危険性を指摘しました。また、本来日本政府は生物多様性基本法、生物多様性国家戦略を策定しており、これに反する行為を安倍政権が進めていることに強く抗議しました。

 集会の最後に平和フォーラムの勝島事務局長が行動提起を行い、525日に全国で大規模な辺野古新基地建設に反対するとりくみを行おうと訴えました。

沖縄だよりNO.82(PDF)

3.21さようなら原発全国集会アピール

 福島第一原発事故から8年が過ぎました。今日、私たちは、原発事故の収束が遙か遠くにあること、事故のもたらした影響はいまだ深刻であり、被災者をはじめ多くの関係者を、深く傷つけていることを知りました。安倍政権は、オリンピックに向けてフクシマを無かったことのように、全ての事実を覆い隠そうとしています。そのことは被災者を切り捨てるものであり断じて許すことはできません。フクシマを忘れ去ることは、第二、第三のフクシマを引き起こすことにつながるものです。
 現在、26基の原発が廃炉決定または予定となっています。原発は今、確実に「廃炉の時代」を迎えています。電力各社は、9基の原発を再稼働させていますが、東海第二原発などをはじめとして再稼働をめぐる状況にはきびしいものがあります。また原発の新増設・リプレースも、脱原発の大きな声の前には困難です。原発や関連施設の老朽化、廃炉作業の遅延、使用済み燃料の最終処分など、困難を伴う様々な問題が山積しています。原子力政策が、今後好転する見込みはありません。原発が動けば動くほど核のごみは増え、原発事故の危険性と背中合わせに暮らさなければなりません。だからこそ原発再稼働よりも廃炉が強く求められていることは明らかなのです。
 原発・核燃料サイクルは、そのリスクやコストを考えると経済的合理性がないことは明確であり、原子力の存立意味そのものが問われています。いまこそ政治の責任において、原発のない社会をどのようにして作りあげていくのかを徹底的に議論すべきです。
 昨年3月9日「原発ゼロ基本法案」は、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、自由党のほか無所属の議員有志によって、衆議院に提出されました。法案は、「すべての原発を速やかに停止し、法施行後5年以内に廃炉を決定する」、「原発の再稼働はせず、新増設・リプレースは認めない」、「使用済み核燃料再処理・核燃料サイクル事業は中止する」、「放射性廃棄物・プルトニウムの管理と処分を徹底する」などを基本とするものです。
 その法案は、提出以降、今日まで衆議院の経済産業委員会で一度も審議がなされないままとなっています。現在、委員会の多数を占める与党などによって、審議が拒否され続けています。7月に衆参同時選挙になれば、衆議院解散でこの法案は、一度も審議されないまま廃案となってしまいます。
 安倍自公政権は、エネルギー基本計画を改訂し、いまだ強引に原子力推進政策を進めていますが、実態は、再稼働、核燃料サイクルは行き詰り、アベノミクスの中心であった原発輸出は、次々と頓挫しています。このような状況を真摯に認め、原発のない社会にむけての議論を開始することが、日本の未来にとっての重要な課題です。「原発ゼロ基本法案」の審議を直ちに開始して、新しい再生可能なエネルギー社会を実現しましょう。私たちは国政の場で、フクシマの課題の解決にむけて、脱原発社会の実現にむけて、真摯な議論がなされることを強く求めます。
 
 2019年3月21日
 さようなら原発全国集会参加者一同
 

さようなら原発全国集会開かれる

3.21集会写真.JPG

3月21日、東京・代々木公園で「さようなら原発全国集会」(主催・「さようなら原発1千万署名」市民の会)が開かれ、全国各地から1万人が参加しました。福島原発事故から8年目を迎え、いまだ多くの難題を抱え、4万人を越える被災者が苦しい避難生活を続ける中で、「フクシマを忘れない」、「脱原発社会の実現」を掲げて、様々な課題が訴えられました。
 主催者を代表して、ルポライターの鎌田慧さんは、「原発は論理的にも倫理的にも破綻している。メリットは何もない。モラルもない。それを支えているのは安倍政権である。この政権を倒すことが必要だ」と訴えました。」同じく呼びかけ人の落合恵子さんからは、「私たちの力で安倍政権にNOの答えを出していきましょう」と熱く語りかけました。
 事故の被災者の人見やよいさんからは、モリタリングポストの撤去やトリチウムの海洋放出の問題が訴えられ、9月に東電刑事告訴裁判の判決が出ることが報告されました。また避難の協同センターの熊谷美彌子さんからは、国や東電から切り捨てられている現状が報告され、だからこそ「原発のない世の中をつくっていきたい」と決意が示されました。
 東京に一番近い(約110キロ)原発・東海第二原発について、地元東海村村議の阿部功志さんから、危険な老朽原発の問題が訴えられ、再稼働を許さいない決意が語られました。また、昨年3月に立憲民主党など野党4党が中心となって国会に提出した「原発ゼロ基本法案」が、原発推進の与党などによって、本来真摯にエネルギー政策が議論されるべきところが棚ざらしになっていると立憲民主党の山崎誠議員から報告されました。そのほか、安倍政権の沖縄での辺野古の埋立て強行や憲法改悪など原発同様、民意を無視した強権政治の傲慢さが訴えられました。
 労働組合若手が中心となって福島・新潟・茨城・東京と「フクシマ連帯キャラバン」が今年も取り組まれ、報告がなされました。
 最後に「集会アピール」(別掲)を採択されました。採択されたアピールは、政府などの関係機関に送ります。
 

3月16日 原発のない福島を!県民集会報告

福島集会写真1ホームページ.JPG  

   3月16日に「原発のない福島を!県民集会」が行われ、1700人参加が参加しました。 
 主催者あいさつに立った角田政志実行委員長から「これまで福島第二原発の廃炉を県民の総意として取り組み、東電は廃炉を表明したが、いまだ具体的な行動が示されていない」ことなどが訴えられました。(下に本文があります)。また、これまで2千人を越える原発事故関連死の実態が報告され、帰還事業が進められる中、インフラの整備が遅れ、高い放射線が残る中で、子供たちが戻ってこない教育現場の現実が報告されました。事故から8年が経ったいまでも被災地は厳しい現実の中に置かれていることが報告されました。
 

2019原発のない福島を!県民大集会 実行委員長挨拶
2019.3.16 福島県教育会館
実行委員長 角田政志

 「2019原発のない福島を!県民大集会」に、県内各地からお集まりの皆さん、全国各地からご参加いただいた皆さん、こんにちは! 実行委員長の角田です。
 福島は、原発事故から9度目の春を迎えています。
 この集会も、8回目を迎えました。本日の要項にも記載していますように、この集会は3つの指標を掲げ、とりわけ、「東京電力福島第二原子力発電所の全基即時廃炉」を県民の総意として行ってきました。
 昨年は、第二原発がある被災地楢葉町で行い、「東電福島第二原発の廃炉を実現しよう」とアピールしました。皆さんから多くの賛同をいただいた、「福島第二原発の廃炉を求める署名」は、2年間で44万筆を超え、東京電力及び経済産業省に提出し、即時全基廃炉を求めてきました。
 そして、昨年6月、東電はやっと「第二原発を廃炉の方向で検討する」ことを明らかにしました。これは、私たちが8年間、この集会を継続し、訴えて続けてきた大きな成果です。さらに、この県民運動に賛同し結集していただいた多くの皆さんの総意の結実です。ここに、御礼を申し上げるとともに、運動の成果を皆さん共に共有したいと思います。
 しかし、東京電力は、肝心の廃炉の時期も工程も示していません。改めて、この集会で、東京電力に「福島第二原発の廃炉」を早急に決定することを強く求めます。
 被災地の復興は進んでいるとはいえ、まだまだ住民の帰還には多くの課題があります。故郷への帰還を待ち続けながらも、その思いが叶わず亡くなられた方も多くいます。原発事故関連死は増え続けています。ここにお集まりの皆さんとともに、冥福をお祈り申し上げたいと思います。
 あの原発事故から8年という時間が経過しました。原発事故後の過酷な状況の記憶と意識の風化は徐々に進んでいます。さらに言えば、国の原子力政策の推進によって、意図的に人々の記憶と意識の風化が進められていることも事実です。
 国の復興支援の打ち切り時期も迫っています。しかし、原発事故の被災者の生活再建の支援は、極めて不十分です。高齢者の要介護認定率も急増しています。原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)の和解案についても、東電側の拒否による打ち切りも増えています。県民運動として、多くの人に知っていただきたい現実と課題がたくさんあります。福島からの発信を続けていかなければならないことがたくさんあります。
 私たちは、今年の県民大集会をどのような集会にするか。そして、今後の県民運動をどう進めていくのかを議論してきました。福島では、原発事故で失われた人々の生活も生業も信頼も回復していません。
 農林水産業にかかわる団体や消費者団体との意見交換を行う中で、今も根強い風評被害に苦しめられている現状と、失われた生業、そして失われた信頼を回復しようと努力する人たちの現状を知りました。
 少し紹介したいと思います。
 県農業協同組合から、米の全袋検査の見直しについて話を聞きました。
 福島産米は、水田の除染など関係者の努力で生産量が徐々に回復しています。しかし、今もなお、福島産米は、弁当やおにぎりなどの業務用米に多く使われる一方で、店頭から一般消費者に行き渡っていない現状にあります。JAからは、「消費者に安心してもらうためには、全袋検査を行い、放射線が検出されないことを明確にすることで、理解してもらうしかない」と言われています。
 このことは、現在各自治体に提起されているモニタリングポストの撤去についても同様で、「数値が見えるから、安心が得られる」という住民の意見と重なります。
 県漁業協同組合からは、トリチウム汚染水の海洋放出について話を聞きました。「トリチウム水の海洋放出は、絶対反対。福島県だけの問題ではなく、全国の問題だ。全漁業者が大変になる。譲れない。」と、強く話されました。また、「沖合、遠洋漁業の水揚げが福島の港だと『福島県産』となり、流通価格が下がりコストがかさむ。従って、積極的に寄港を進められないなどの問題も残っている。今は、試験操業を続けるしかない」と、大変厳しい現状もお聞きしました。
 県旅館ホテル生活衛生同業組合からは、「観光客・旅行客の誘致をずっと行っているが、教育旅行も戻っていない。外国人顧客の誘致も厳しい現状にある。利用客が回復しているのは、資金力のある大型施設のみ。原発事故以降、廃業するところもたくさん出た。風評被害も収まっていないし、風評被害としての損害賠償も認めてもらえない。解決しなければならない課題がたくさん残っている。」と話されました。
 県森林組合からは、「『森林の除染は行わない。』この方針は現在も変わっていない。原発事故で影響があった森林は、およそ18万?。森林除染が行われない中では、作業員の不安は大きい。山がどうなっていくのか、その不安を取り除くことができない。山菜やキノコの生産・販売もできない。椎茸の原木の出荷もできない。山は整備し、管理を続けて行かないと大変なことになる。個人でやろうとしても、広大な森林を整備し管理することはできない。もっと国の補助が必要だ。」と大きな不安と課題をお聞きしました。
 私たちは、原発事故によって引き起こされたこのような現状・現実を受け止め、県民運動として向き合わなければならないと話をしてきました。こういった現状と課題を多くの人と共有することで訴える力は大きくなると考えています。
 今年行うこの県民大集会は、福島で行う集会だからこそ取り上げられる「福島の現実と課題」を発信し、「原発のない福島」を目指していくことを共有する集会にしようと確認してきました。
 そして、これからも、「福島の現状を知ってもらうことに重点を置いて集会を続けたい。」いうことを、呼びかけ人会そして実行委員会で共有しています。
 本日の集会では、県民の訴えとして、「被災地の教育現場」からの訴え、「避難を強いられた被災者」からの訴え、「若者」からの訴え、「消費者団体」の取り組みについて話をしていただきます。
 参加者の皆さん、ぜひ「福島の現状」「福島の思い」「福島の努力」を受け止めていただき、広めていただきたいと思います。
 再びこのような原発事故・過酷災害を起こさせないために、力を合わせて「原発のない福島」「原発のない社会」をつくっていきましょう。
 よろしくお願いします。
 

3.16福島集会アピール


 「原発のない福島を!県民大集会」は、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故の翌年から開催し福島県内はもとより、全国よりたくさんの賛同を得ながらこの県民大集会を継続してくることができました。集会への参加者は、昨年までに5万人を超えこの県民大集会は今回で8回目となりました。
 この集会では、3つの指標を掲げ、とりわけ、東京電力福島第二原子力発電所の全基即時廃炉を県民の総意としてきました。集会と同時に取り組んできた「福島第二原発の廃炉を求める署名」は、多くの賛同を得て43万筆を越え、国と東京電力に提出しました。そして、昨年6月、東京電力は福島第二原発について、「廃炉の方向で検討する」と表明するに至りました。まだ正式決定にまでは至っていないものの、もはや後戻りのできない段階に踏み込んだものと言えます。これは、政治的・経済的・社会的立場の違いを超えた福島県民の総意とそれを後押ししてくださった全国の皆さんの力が、大企業の利益追求を阻んだという画期的な出来事です。同時に、福島県のみならず日本の歴史に大きな転機をもたらすものでもあります。
 この集会の第一目標である県内の原発全基廃炉はおおむね達成されました。しかしながら、集会の掲げる3つの指標のすべてが実現したわけではありません。関連死者数は昨年9月末現在で2,267人にのぼり、依然として増え続けています。ふるさとを奪われ、避難している人は今年2月現在、県内外に約4万2千人もいます。避難指示の解除が進んでも帰還の足取りは重く、とりわけ若い年齢層の急減は地域の再建を著しく困難にしています。農林水産業が受けた打撃は大きく、関係者の努力で回復傾向にはあるものの、生産者は今も根強い風評被害に苦しめられています。放射線被ばくが健康に及ぼす影響についても、県民の不安はなお解消していません。一方、第一原発の現場では廃炉に向けた作業が懸命に行われているものの、使用済み核燃料の取り出しすらスムーズに進んでいません。溜まる一方の汚染水については、トリチウム以外の放射性核種の存在が指摘されたこともあり、海への放出の方針に対し強い不信感と批判が巻き起こっています。また、裁判所における東電幹部の責任追及、および損害賠償をめぐる紛争解決も途上の段階です。
 原発さえなければという思いを今も抱きながら暮らす県民はたくさんいます。さらに、復興が進められる中、様々な選択が迫られる現状のもとで、新たな分断も起きています。簡単に結論を出すことができない問題も多くあります。
 あの原発事故から8年が経過し、全国的には記憶と意識の風化が進んでいます。8回目をむかえた今回の県民集会は、これまでの活動の歴史的な意義を振り返るとともに、県民がこれからも立ち向かっていかねばならない諸課題を確認し、その解決に向けた道筋についてともに考える集会と位置付けて開催しました。被害当事者である福島県民にしかできないような、独自の情報発信をしていくことの重要性は、今後一層増していくと思われますし、そのことが、実際に原発事故を経験した福島県民の使命であり義務でもあります。立場や意見の違いを乗り越え、一致する点で協同するというこの県民集会の基本的精神を堅持しながら、新たな段階にまた一歩ともに踏み出していきましょう。

  2019年3月16日 
                      2019原発のない福島を!県民大集会

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

5次エネルギー基本計画 ファクト・チェック

 

 ーエネルギー政策は事実に基づいて決定されているか?ー

 

日時:2019314日(木)14:0015:30(開場13:30

 

会場:衆議院第二議員会館 第二会議室

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

昨年7月に政府が閣議決定した第5次エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の方向性を示すもので、「エネルギー政策の憲法」とも言える非常に重要なものです。

しかし、その内容は、事実関係も含めて様々な問題があります。

  

そこで、エネルギー基本計画についてファクト・チェックを行い、その結果をまとめたウェブページを公表することといたしました。

 

本ファクト・チェックでは、第5次エネルギー基本計画にある104か所の記述に対して、下記5つの評価をおこない、問題点とその理由を具体的かつ詳細にコメントしています。

  

1)矛盾(エネルギー基本計画の他の箇所あるいは現行のエネルギー・環境政策と矛盾している)

 2)意味不明(文意が不明である)

 3)半分間違い(部分的な情報は正確だが、重要な詳細情報が不足している。または文脈から逸脱して歪曲されている)

 4)ほぼ間違い(若干の正確な情報を含むが、重大な事実を無視して印象操作している)

 5)間違い(不正確な情報である)

  

このイベントでは、本ファクト・チェックの内容や意義、ウェブページの使い方などを解説します。ぜひご参加ください。

  

日 時: 2019314日(木)14:0015:30(開場13:30

 会 場: 衆議院第二議員会館 第二会議室

 主 催: eシフト (脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)

 発 言(予定 ※変更の可能性もあります):

 ・明日香壽川/東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科 教授

 ・桃井貴子/気候ネットワーク東京事務所長

 ・松久保肇/原子力資料情報室事務局長

 ・金生英道/原水爆禁止日本国民会議

 

  

問い合わせ:eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)

 事務局 国際環境NGO FoE Japan

 173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9

 TEL: 03-6909-5983  / FAX: 03-6909-5986

 

◆ eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)

 

 

 

被災65周年3・1ビキニデー全国集会

3.1ビキニ写真.JPG

■被災65周年3・1ビキニデー全国集会
 3月1日、静岡市内の静岡労政会館において、「被災65周年3・1ビキニデー全国集会が」行われました。当日は全国各地から250名が参加し、原水禁運動の契機となったビキニ事件の風化に抗し、核廃絶に向けた想いを新たにしました。
 集会は、川野浩一原水禁議長の挨拶で始まりました。川野議長は、安倍政権の憲法改悪への動き、直前の米朝首脳会談の不調などに対する危機感を訴えました。
 地元静岡県平和・国民運動センターの渡邉敏明会長のあいさつの後、TBS「報道特集」キャスタ―の金平茂紀さんから「日本人と核」をテーマに講演をいただきました。 金平さんは、なぜ米朝首脳会談が共同声明もだせず、不調に終わったのか、長年の海外取材の経験からその舞台裏を解説していただきました。また広島・長崎への原爆投下以降、日本人がどのように核を認識してきたか、「平和利用」の幻想にからめとられていった過程が語られ、それが2011年3月11日の福島第一原発事故につながっていったと話されました。その上で「人類と核が共存できない」と訴えられました。
 その後、静岡の第21代高校生平和大使の取り組み報告や「戦争させない1000人委員会・静岡」からの要請、地元焼津市をはじめ、静岡県、静岡市からのメッセージを紹介し、最後に集会アピールを採択し、ビキニ・デー集会は幕を閉じました。

■久保山愛吉墓前祭
 3月2日、焼津市・弘徳院において「久保山愛吉墓前祭」が行われました。ビキニで被災し、亡くなられた久保山愛吉さんを、参加者約50名が悼みました。
 また、弘徳院本堂に於いて、元焼津市長・清水泰さんが「私の平和への想い」と題して、これまでの核兵器廃絶運動へのかかわりについて、市長時代も含め講話を行いました。
 
 
 

政治に、社会に、優しさと思いやりを!

 競泳の女子選手、来年の東京オリンピックでメダルが期待される池江璃花子さんが、自身のツイッターで白血病と診断されたことを告白した。「私自身、未だ信じられず、混乱している状況です。ですが、しっかりと治療すれば完治する病気でもあります。」と今の心情を語りながら、最後に「さらに強くなった池江璃花子の姿を見せられるよう頑張っていきたいと思います。」との決意を語っている。記録を次々に塗り替えてきた彼女にとって、ことの衝撃がいかなるものか想像に難くない。白血病を克服してきた多くの人々から、そして仲間から激励の言葉が贈られている。どれだけ励ましになるかと思う。

 一方で、桜田義孝五輪担当大臣の発言が問題となっている。「早く治療に専念して頑張ってもらいたい。」と言いながら、一方で「金メダル候補で、日本が本当に期待している選手ですから、本当にがっかりしています。」と述べた。選手を駒としか見ていないなどとの批判が広がっている。オリンピックは「国威発揚の場」ではない。オリンピック憲章を桜田大臣は読んでいないと答えているが、憲章の精神を理解しているならこのような発言はなかったのか。そのような理解とは別に、他人の病を病とも思わぬ冷酷な感情しか持ち合わせないのか。どちらにしろ、大臣失格、政治家失格と言わざるを得ない。

 これまでも様々な失言があったが、責任をとった閣僚や政治家は皆無、口にした言葉に責任を負うことなく撤回すればいいものと思っている。失言によってどれだけ傷ついた人がいるのだろうか。
安倍首相は、入管法改正の国会議論の中で、技能実習生が69人も亡くなっていたという衝撃的な事実に関して、「存じ上げないので、お答えのしようがない。」と他人事のように答えている。今だけ、金だけ、自分だけ、そして仲間だけの政治が広がって、ひとり一人の命の尊厳がないがしろにされている。

 政治だけではない。私たち自身も自らを考えなければならない。問題の背景は、日本社会の全体の人権意識の希薄さにあるのではないか。相模原障害者施設殺傷事件の時、反貧困ネットワーク副代表で作家の雨宮処凛さんはこう書いた。「軽く扱われているのは障害者の命だけではない。『健常者』だって過労死するまで働かされ、心を病むまでこき使われ、いらなくなったら使い捨てられる。その果てに路上にまで追いやられた人を見る人々の視線は、優しいとは言い難い。」
(藤本泰成)

ニュースペーパー2019年3月


危険なオスプレイの訓練を許すな!
 東京・横田基地に配備されている米空軍オスプレイCV-22が、沖縄・嘉手納基地を拠点として定期訓練をすることが、明らかとなりました。CV-22の横田基地配備にあたって、2015年10月に防衛省が公表した「環境レビュー」で、日本国内での訓練区域として、東富士演習場、ホテル地区、三沢対地射爆撃場、沖縄の訓練場をあげていました。今回はじめて、沖縄での訓練で具体的な場所が示されたことになります。
 嘉手納基地は、日米合意に反するパラシュート降下訓練、アメリカの州軍機など外来機が相次いで暫定配備され、基地内にある旧海軍駐機場の使用をめぐって日米間で食い違いが出ているなど、課題が山積の状態にあります。加えて、海兵隊のオスプレイMV-22より事故率の高いCV-22の訓練拠点とするのは、米軍基地の拡大強化に他なりません。
 安倍政権は、危険なオスプレイの飛行訓練について、米軍の運用には関知せずの態度を改めて、米軍と実質的な協議をするべきです。〈写真は、飛行訓練の増大で爆音被害が続く沖縄・嘉手納基地〉

インタビュー・シリーズ:142
日本の植民地支配の歴史に真摯に向き合うことから
弁護士の内田雅敏さんに聞く


うちだ まさとしさんプロフィール
1945年生。弁護士。『戦争をさせない1000人委員会』事務局長。花岡事件代理人弁護士団(団長故新美隆)、西松安野友好基金運営委員会委員長等を務めた。「戦後が若かった頃に思いを馳せよう」(三一書房)他著書多数。

─徴用工問題は、アジア・太平洋戦争での植民地支配と強制労働に端を発していますが、その経過や強制労働の実態についてお話しください。
 アジア・太平洋戦争の長期化の中で、国内の成年男子が兵隊に取られ、労働力不足が深刻になって韓国から強制連行して強制労働させるために日本に連れてきたのです。低めに見積もっても22万人と言われています。しかしそうした韓国からの労働力を移入しても追いつかずさらに不足する。そこで今度は中国の捕虜、それから民間人、これを文字通り拉致する、それが4万人と言われています。規模において全く違い、また韓国の場合は期間が長いです。

─日韓請求権協定の問題点はどのようなことでしょうか。
 まず日韓請求権協定は植民地支配の問題に向き合っていないと思います。そのため韓国の判決がいうように、植民地支配による被害の補償は、日韓請求権協定の対象外なのです。だから日韓請求権協定では、徴用工問題は解決していないというのが一点です。
 次に、日本政府のこれまでの見解は、外交保護権(個人の請求権を基礎とし外国と交渉する国家の権利)の相互の放棄であって個人の請求権は失われないという見解でした。この外交保護権の放棄という論理がどこからでてきたかということを、しっかり認識しないといけません。この外交保護の放棄論は、日本政府が自国民の在外資産や原爆被害等に対する賠償請求権を放棄したことに対する賠償責任を免れるために言い出したものです。私は日本政府が損害を免れるために作り出した論理(外交保護権の放棄としての請求権放棄)だと思っています。
 しかし現在では国家は個人の請求権を放棄できない。個人の請求権は残っているというのが、国際法上の主流になりつつあります。
 このように韓国の大法院の判決の論理は、従来の日本政府見解と大差はありません。また、中国人の強制労働に関して日本政府、裁判所が従来言ってきたものと同じなのです。

─具体的な事例として、内田さんが原告代理人を務めた花岡事件について、お聞かせください。
 花岡事件は、秋田県大館市の花岡鉱山にあった鹿島組(現鹿島建設)花岡出張所に配置された中国人が、その過酷な労働に対し蜂起するにいたり(1945年6月30日)、憲兵隊、警察により鎮圧、その後の拷問で100人以上が殺された事件です。結局鹿島組花岡出張所では当初配置された986人のうち、敗戦に至るまでの1年未満に418名も死亡したのです。敗戦後、被害者・遺族に対する日本国家・使役企業からの謝罪、賠償は一切なされませんでした。
 1972年の日中共同声明で中国側からの賠償請求権は放棄されており、日韓請求権協定と同様「国家間の合意」により解決済みと強弁されてきました。中国人強制連行・強制労働問題に関しては、中国側被害者・遺族およびそれを支える日本側支援者の裁判闘争を含む長年の闘いが行われました。1990年7月5日、生存者・遺族と鹿島建設がなした共同発表、「中国人が花岡鉱山出張所の現場で受難したのは、閣議決定に基づく強制連行・強制労働に起因する歴史的事実であり、鹿島建設株式会社はこれを事実として認め企業としても責任があると認識し、当該中国人生存者及びその遺族に対して深甚な謝罪の意を表明する。」から出発し、困難を乗り越え、2000年に被害者と鹿島建設の和解が成立しました。
 1999年9月に和解提案をした東京高裁は、数回にわたり原告、被告双方の意向を打診し、2000年4月21日、鹿島建設が中国人被害者・遺族に金5億円の拠出をし、基金を創設する和解案を提示しました。和解案の提示を受け、原告代理人は生存者、遺族ら関係者に提示された案について説明し、生存者・遺族は和解案を受け入れました。2000年11月29日、中国人強制連行花岡事件の和解が成立しました。和解成立に際して、裁判所が述べた「所感」は聞く者の心を打つ格調の高いものでした「...控訴人らと被控訴人との間の紛争を解決するというに止まらず、日中両国及び両国国民の相互の信頼と発展に寄与するものであると考える」というものです。

─西松建設や三菱マテリアルの和解については、どのような経過だったのでしょうか。
 西松建設強制労働事件に関し、控訴審である広島高裁は2004年7月9日、西松組(現西松建設)が広島県安野発電所でさせた強制労働の実態を詳細に認定した上で、中国人被害者・遺族からの請求を認容し、西松建設に被害者らに対し、各金550万円の支払いを命ずる判決を行いました。
 最高裁第3小法廷判決は広島高裁が認定した強制労働の実態を認定したうえで、日中共同声明第5項では、「中華人民共和国政府は両国の友好のために日本国への請求権を放棄する」とあり、この第5項で放棄されているから、相手の被告の側から、放棄しているという抗弁がなされた場合には裁判上訴求する権利は失われているとしました。しかし「被害の重大性を考えると、当事者間、国も含まれる、被上告人、および関係者、つまり西松建設及び国は当事者間の自発的な解決によって解決することが望ましい」とする付言がありました。それに基づいて、西松建設との和解がなされています。
 この付言には系譜があって、最初は原爆症訴訟でした。裁判所としては請求を棄却せざるを得ないが、しかしこの被害はひどい、国はこれに対して対処すべきではないか、戦後十数年たっていて、経済的にはできる力が出てきたのではないか、というようなことを言って、その後被爆者訴訟法ができたのです。
 三菱マテリアル社の前身三菱鉱業株式会社は、炭鉱やその下請け事業所に総計3765人を強制連行し、強制労働させました。同社は和解に際し、代表が北京に出向き、「弊社は当時の使用者としての歴史的責任を認め、中国人労働者およびその遺族のみなさまに対し、深甚なる謝罪の意を表する」と述べました。そして被害者遺族に和解金を支給し、「二度と誤りを繰り返さないために」事業所での「受難の碑」建立、追悼事業を約束しました。和解成立後、生存被害者に前期謝罪と和解金が届けられ、中国政府機関の協力を得て被害者・遺族らで構成する基金を設立し、現在和解事業を始動させるべく最後の調整が行われています。
 和解は和解の成立で終わるのではなくて、和解の事業を行うことで、和解の中身を深めていくことだと思います。それが和解の成果だと思います。和解成功のためには、加害の事実とその責任を認め謝罪、謝罪の証として和解金の支払い、将来の戒めの為の歴史教育、受難碑の建立、追悼事業などが必要です。
 花岡事件の現地、秋田県大館市では毎年6月30日、中国大使館からも参加して、市主催の中国殉難者慰霊式を行っています。また地元支援者により花岡平和記念館が建設されました。
 西松建設和解では、西松建設、中国人被害者・遺族および地元支援者らによって、強制労働の現地に「中国人受難者の碑」が建立されました。そこには「安野発電所建設工事で360人の中国人が過酷な労役に従事させられ、原爆による被爆死も含め、29人が異郷で生命を失った...中国人受難者は被害の回復と人間の尊厳の復権を求め...西松建設は、最高裁判決(2007年)の付言をふまえて、中国人受難者の要求と向き合い、企業としての歴史的責任を認識し、新生西松として生まれ変わる姿勢を明確にしたのである」と刻まれています。
 やがて「受難の碑」は「友好の碑」になるだろうという受難者家族が語ってくれたことが忘れられません。

─朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の徴用工問題の解決については、いかがお考えですか。
 北朝鮮における徴用工の問題はより数が多く、何の協定もなく解決済みとはいえないわけです。当然今解決しようとすれば、植民地支配の問題が避けられない。そのため、改めて北の徴用工問題を介して、南の徴用工問題で日韓請求権協定では抜けていた問題を解決する必要があると思います。同時に当然北朝鮮との関係でも、この問題を織り込んだ植民地時代の清算、克服の問題だと思います。1972年に田中角栄は、周恩来にあった時に「私は長い民間交流のレールの上に乗って、今日ようやく来ることができるようになりました。」と言いました。民間交流をすることは大事で、制裁でその道を閉ざすのは間違いです。

─徴用工問題を通して、日韓友好のためにわれわれに問われているものは何でしょうか。
 日韓請求権協定は1965年6月署名、12月発効でしたが、当時大学2年生でこの協定反対のデモに明け暮れていたのですが、当時は植民地支配の問題はまったく抜けていました。ベトナム戦争を背景として、米日韓の反共軍事同盟、これを許せないという運動でした。
 今回の大法院判決も含めて、韓国の慰安婦の判決、あるいは靖国神社に関する判決でも、韓国の判決は3.1独立運動、ここから説き起こしています。今年はその3.1独立運動から100年目の節目の年なのですが、韓国の独立、建国の歴史は3.1独立運動から始まるわけです。植民地支配の問題に対して日本のわれわれがいかに向き合うか、これが決定的に大切だと思います。ヨーロッパで植民地支配を解消するにあたって非常に苦労し、たとえばフランスのアルジェリア問題では、ドゴール政権の時、フランスは内戦になりそうだったのです。日本は1945年の敗戦で、一気に植民地を失い、植民地支配解消の苦労はしなかった。それが今出ている慰安婦や徴用工の問題です。これらの問題と真摯に向き合わない限り、日韓の真の友好関係というものは、築きあげることはできないのではないかと思います。 

インタビューを終えて
 「韓国大法院判決」への日本政府やマスコミの理不尽な非難に対する、明快な反証でした。また和解を実現するための、被害者、支援団体の長期にわたる闘いと、裁判所の付言の役割も知ることができました。東アジアの平和のために、内田弁護士とともに頑張っていこうと、あらためて思います。
(勝島一博)

このページの先頭へ

安倍政権のアジア戦略と変貌する自衛隊
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成

膨張する中国経済と「一帯一路構想」
 急速な経済発展を続ける中国は、絶対的権力を確立したかに見える習近平政権下において、「一帯一路構想」(BRI)と呼ぶ、現代版のシルクロード経済圏構想を進めています。一帯とは、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパへと続く陸のシルクロード。一路とは、中国沿岸部から南シナ海を経由して東南アジア・インド・スリランカからアラビア半島の沿岸部を経てアフリカ諸国に至る海のシルクロードです。中国は、この構想を進めるにあたって、2014年に「シルクロード基金」(SRF)を立ち上げるとともに、歴代日本が総裁職を務める「アジア開発銀行」(ADB)などに対抗し、「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を設立し、アジア・アフリカ諸国のインフラ整備に対する支援を行っています。アフリカ諸国への中国の進出は急激にすすみ、2007年の直接投資額約44億ドルが、2015年には347億ドルに増加しています。2018年9月に開催された「中国アフリカ協力フォーラム」において、習近平国家主席は、600億ドルの経済支援を約束するとともに、「中国の発展の急行列車への乗車を歓迎する」と述べて、BRIへの参加を求めています。アフリカの玄関口に位置するケニアでは、中国の3000億円にも上る融資によって、2017年5月には、首都ナイロビと東部の港を結ぶ鉄道が開通し、この10年間でGDPが倍増するなど、急速な経済発展を遂げています。

対中国を強く意識する「インド太平洋戦略」
 BRIに対抗し、安倍晋三首相は、2016年8月にケニアで開催されたアフリカ開発会議で「世界に安定、繁栄を与えるのは、自由で開かれた2つの大洋、2つの大陸の結合が生む、偉大な躍動にほかなりません」と述べて、「自由で開かれたインド太平洋戦略」(FOIP)を提起しました。これは、オーストラリア、インド、米国(ハワイ州)の3カ国と日本を結んで、インド洋から西太平洋に至る海洋の共通利益を守るとする「セキュリティダイアモンド構想」(ADSD)と名付けた外交安全保障構想を基盤とする中国への封じ込め政策に他ならないものです。ティラーソン前米国務長官は、2017年10月に戦略国際問題研究所(CSIS)における演説の中で「平和と安保、航行の自由、自由で公開的な社会構造を共有した米国とインドが、インド太平洋の東と西の灯として寄与しなければならない」として、米国のFOIPに対する支持を明らかにしています。


出典:護衛艦 いずも型(海上自衛隊)
http://www.mod.go.jp/msdf/formal/gallery/ships/dd/izumo/183.html
「日米同盟基軸」で孤立する日本外交
 BRIとFOIPのどちらにも関係するインドは、一貫して「非同盟」の外交姿勢を貫いてきました。AIIBにも加盟し、中ロが主導する「上海協力機構」(SCO)や新興5カ国(BRICS)による首脳会議にも参加し、どちらか一方に荷担することはあり得ないのではないかと考えます。
 また、BRIに対抗し「日米同盟基軸」を外交の唯一の選択肢としている安倍政権は、しかし、中国との関わりを全く無視することはできません。「対中国包囲網」の姿勢だけで、日本経済が回っていくことはあり得ませんし、世界的影響力を薄めつつある米国の下で、孤立する懸念も強まってきます。下表の貿易相手国ランキングを見ても、日本の貿易に関して中国の影響力はきわめて大きく、輸入に関しては、中国が全体の4分の1に達しています。米中が対立を深めていく中にあって、日本の外交政策と経済の基本的状況との矛盾が、最終的に何をもたらすのか全く不透明であり、後述する、安倍政権下での安全保障政策・自衛隊の動向などを考えると、さらに事態は複雑化します。

2017年:日本の貿易相手国ランキング
〔資料〕財務省「貿易統計」よりジェトロ国際経済課作成

中国を意識する自衛隊
 BRIをすすめる中国は、アフリカへの進出を強めています。前述した経済援助に加えてアフリカで国連が展開する8ヵ所のPKO全てに中国軍を派遣しています。米国の参加がない中で、中国政府は外交政策上、アフリカをきわめて重要視しています。2017年より中国政府は、ジプチに広大な軍事基地を建設しました。日本の自衛隊は、2009年からソマリア海賊対策を実施し、それを理由に2011年には陸上自衛隊基地を建設しました。海賊対策がほぼ終了した現在も、アフリカ全体への駆けつけ警護の前線基地と位置づけています。ジプチには米軍基地も存在し、アフリカへの覇権をめぐって日米同盟と中国軍の対立の図式が明確になりつつあります。
 一方で2018年9月、海上自衛隊は最大級のヘリ空母「かが」を含む護衛艦3隻と潜水艦「くろしお」を南シナ海に派遣し、対潜水艦訓練を目的とした演習を実施しました。南シナ海では、中国が南沙・西沙諸島の環礁を埋め立てて軍事基地化を展開し、フィリピンやベトナムと対立しています。一方、米国や英国も駆逐艦などを派遣し「航行の自由作戦」を展開し中国と対立するきわめて緊迫した海域です。海上自衛隊は、専守防衛の原則を守り、これまでは外国軍との共同訓練を除き、日本周辺での訓練を原則としてきました。今回の海上自衛隊の南シナ海での単独の訓練実施は、極めて異例といえます。
 ジプチや南シナ海での自衛隊の動向は、対中国包囲網の形成に日米が共同で動き出した証左であると考えます。これまで専守防衛の下で抑制的に振る舞ってきた自衛隊は、安倍政権下における「日米同盟基軸」の外交的戦略と集団的自衛権行使容認し米艦防護など日米統一軍を志向する安保法制の中で、その内実を大きく変化させています。

新防衛大綱に見える対中国戦略
 平和フォーラムとの話し合いで、防衛省はヘリ空母「いずも」の改修とストーブル機(FA35B)搭載の目的を、「頻繁に空母が展開する太平洋側の安全保障の強化」をあげています。どの国の空母か防衛省は明確にしていませんが、中国の海軍の空母であることは間違いありません。このように明らかに中国を仮想敵とする軍事戦略のなかで、今期の防衛大綱と中期防は、明確のその方向性を位置づけています。防衛大綱では「中国は、今世紀中葉までに『世界一流の軍隊』を建設することを目標に、透明性を欠いたまま、高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している」として、尖閣諸島周辺海域や太平洋での活動、南シナ海での動きなどをあげながら、「こうした中国の軍事動向等については、国防政策や軍事力の不透明性とあいまって、我が国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっており、今後も強い関心を持って注視していく必要がある」と中国の動きを日本の安全保障の脅威として結論づけています。防衛省サイドはヘリ空母「いずも」の改修には消極的との声も聞こえており、中国を意識した防衛大綱は、官邸サイドの意向が強く反映したものと考えられます。

際限のない防衛費増
 2019年度の防衛費予算案の総額は、2018年度当初比で1.3%増の5兆2574億円となり、5年連続で過去最高を更新しました。2018年度の補正予算額3177億円を含めると、5兆5751億円となっています。2019年度から2023年度の中期防衛力整備計画全体の予算額においても、過去最大の27兆4700億円に達しています。
 いずもの改修とF35B短距離離陸・垂直着陸(STOVL)型ステルス戦闘機の42機の配備、対地・対艦ミサイルJSM(射程距離500km)と搭載するF35Aステルス戦闘機の105機の購入、現行主力機のF15に搭載可能な対地ミサイルJASSM-ER(射程距離900km)の配備、これらは「攻撃型空母は憲法違反」などとしてきた従来の政府見解を逸脱し、専守防衛を旨とする憲法9条の解釈を反故にするものです。また、ロシアが自国の脅威としてその配備に反対している陸上配備型イージス・アショアは、「弾道ミサイル攻撃から国民の生命・財産を24時間365日守り抜くための能力」と防衛省は主張していますが、しかし、攻撃用の巡航ミサイルの発射台にも転用できることを防衛相自身も認めています。安倍政権の下で、前述した自衛隊の活動と同様に、装備の面においても、憲法9条の規定する平和主義の下にあった自衛隊は、大きく変貌するものとなっています。

「積極的平和主義」を改めよ
 安倍政権は、中国を仮想敵として「専守防衛」の考えを放棄して、「積極的平和主義」に基づく敵地基地攻撃も含めた自衛隊の攻撃力の強化を図っています。装備の多くは米国からの対外有償軍事援助(FMS)によるもので、米国からの軍事装備品の調達の意味は、米国の要求でもある「日米統合軍」の実際の運用に資すると言うことを忘れてはなりません。米国は、第2次大戦後も「世界の警察」を自任しながら、自らの覇権かけて、世界各地で地域紛争に介入し、自ら戦争を起こしてきました。安倍政権の「日米同盟基軸」の姿勢と「積極的平和主義」の考えは、そのような米国の覇権に巻き込まれていくことを確実にするものです。
 一方で、防衛省は、今後20年から30年間米国に払い続ける軍用装備の維持整備費だけでも2兆7000億円を超えるという試算を発表しています。安倍政権下の防衛費が毎年過去最大を更新し、その多くが米国の防衛産業に流れている事実は、「税の使い道」と言う視点からきわめて問題です。2019年2月、財務省は、国債と借入金・政府短期証券を合計した国の借金が、2018年12月末時点で1100兆5266億円となり過去最大を更新したと発表しています。自民党の国防部会は、防衛費のGNP1%枠の拡大も示唆していますが、日本の財政がそのような状況にないことは明らかであり、防衛費によって社会保障が削減されていくことは許すことができません。
 一方で、中国の経済規模は日本の3倍、米国とともに中国との軍拡競争を続けていくことが、日本の将来にとって決してプラスにならないことは明白です。朝鮮民主主義人民共和国や韓国とも対立を深める中にあって、「積極的平和主義」の旗を降ろし、平和主義の憲法理念に基づく安全保障を求めて行くことが重要だと考えます。
(ふじもとやすなり)

このページの先頭へ

相次いで動き出した巨大な通商協定
正しい情報開示と市民の理解をもとに交渉を

農業に多大な影響 早急に協定見直しを
 アメリカを除く11ヶ国による環太平洋経済連携協定(TPP11)は、日本を含む6ヶ国で国内手続きが終了したことから、規定により2018年12月30日に発効しました。続いて、日本とヨーロッパ連合(EU)との経済連携協定(日欧EPA)も、2月1日に発効しました。このように、かつてない巨大な通商協定(メガFTA)が相次いで発効し、農林畜産物では、関税の大幅引き下げや撤廃、輸入割当の拡大などが現実のものとなっています。特に牛肉は、関税が38.5%から27.5%に引き下げられたことから、2019年1月の輸入量は前年同月を6割以上も上回るハイペースで急増しています。
 しかし、こうした輸入急増に歯止めを掛けるセーフガード(緊急輸入制限措置)が、機能不全の状態にあります。牛肉のセーフガードの発動基準数量は、輸出大国のアメリカからの輸入量も含めてTPP協定で設定されました。しかし、アメリカが抜けてもその基準数量を変えなかったため、豪州などが相当に輸出を増やしてもセーフガードの発動基準に達しません。その上に、アメリカからも輸入されるので、総量が大幅に増えて、国内畜産業を圧迫することになります。
 TPPには、アメリカの復帰が見込まれない場合は、合意内容を見直すという再協議規定があります。アメリカと日本は2国間による貿易協定交渉を開始することになっており、TPPに復帰する可能性はありません。すぐにでも、発動基準数量の見直しに向けて再協議をすべきです。しかし、政府は「見直せば、アメリカがTPPへ復帰する道を閉ざす」(TPP等政府対策本部)として、他国に働きかけようとしません。
 「協定が発効しても対策を取るので、国内生産量や生産者の所得への影響は無く、自給率も変わらない」(農水省)としてきた欺瞞性が明らかになっています。38%という世界でも最低水準にある食料自給率は、TPPなどでさらに下がり、「牛肉の影響は酪農にも及び、近い将来、国産の新鮮な牛乳が飲めなくなる」(鈴木宣弘・東大教授)危険性もあります。


多くの市民が参加した通商交渉と
グローバリズムを考える集会
(2月8日・参院議員会館)
TPPを上回る米の要求と日本政府の欺瞞
 2018年9月に安倍晋三首相とトランプ米大統領との首脳会談において決められた2国間の貿易交渉は、早ければ2019年1月から始まることも想定されました。しかし、アメリカは当面、中国との貿易協議を優先させる必要があることから、交渉は4月以降になるとの見通しも出ています。4月以降にずれ込めば、TPP11も日欧EPAも年度の規定により、日本は2年目の関税引き下げが適用されます。このため、アメリカの農業団体が、他国よりも日本への輸出条件が不利になるとして、トランプ政権への圧力をさらに強めることも想定されます。
 日米2国間交渉について、安倍首相は「アメリカのTPP復帰のため、自由貿易協定(FTA)交渉はしない」として、自動車や農産物などの物品に限った貿易交渉(TAG)だとしています。しかし、アメリカでは2018年12月21日に、通商代表部(USTR)が上下院に示した対日交渉方針では、「物品」はテーマの一つにすぎません。その他「検疫」「サービス貿易」「投資」「知的財産権」「医療品・医療機器」「国有・国営企業」「政府調達」などが並び、TPP協定の全ての内容と重なっています。
 これに加えて、TPPにはなかった新たな要求も加えられています。ひとつは、日本の円安誘導操作を規制する為替条項が含まれていることです。日本の自動車輸出に対する揺さぶりと見られます。さらに、日本が中国などの非市場経済国と自由貿易協定交渉に入る場合は、その内容を明らかにする仕組みも求めています。自国を少しでも不利な状態に置かないトランプ政権の姿勢が貫かれています。
 こうした交渉方針には米国の業界団体の意向が色濃く反映されています。USTRは公聴会や意見募集を行い、農業団体などの要求を受けています。これに対して、日本の場合は、貿易交渉を規定する法的担保措置もなく、国会答弁と日米首脳の共同声明が政府のホームページに掲載されているだけです。
 現在進められているアメリカとEUとの貿易交渉では、EU委員会は、交渉範囲は双方の首脳会談の範囲に限定すること、共同声明から逸脱した場合には交渉から離脱するとしています。そして、農産品は除外する方針で交渉に臨むとしています。情報を開示しないどころか、FTA交渉をTAGと偽ったまま、秘密理に交渉を進めようとする日本政府の姿勢とはまったく異なっています。正しい情報を開示し、市民の理解をもとにした交渉体制をしっかり構築すべきです。
(市村忠文)

このページの先頭へ

あまりに酷い、被爆体験者訴訟・福岡高裁判決
被爆体験者協議会相談役 平野伸人

逆転敗訴・高いハードルを課す
 2018年12月10日、長崎の爆心地から12kmの被爆未指定地域で被爆した161人の所謂「被爆体験者」が被爆者健康手帳の交付を求めた第2陣訴訟の控訴審判決で、福岡高等裁判所は、これまで原告の内10人を被爆者と認めた長崎地裁判決を取り消し、全員敗訴の判決を下しました。一審の長崎地裁判決では、原告のうち原爆投下時に旧矢上村(現在は長﨑市)と旧戸石村(現在は長﨑市)の一部地域にいた10人を被爆者と認定し、長﨑市や長崎県に被爆者健康手帳の交付を命じました。しかし、控訴審判決では、年間100ミリシーベルト以下の被曝では健康被害が生じないという信じがたい判決でした。原告らは唖然とする一方、支援者からは法廷に怒号が飛びました。
 そもそも、被爆者は健康被害によって被爆者になるのではありません。被爆地は旧長崎市という行政区域で決められました。原爆の放射線の広がり方に、行政区域の境目など関係がないはずです。川一つ、道路一つで被爆者と認められ「被爆者健康手帳」を取得した人、取得できなくて苦しんでいる人が未だに存在しています。行政区域という非科学的根拠で被爆地を決めておきながら、判決では年間100ミリシーベルトという高い被曝線量の立証を求めています。何という酷い判決でしょうか。何としても被爆者を増やさないという国の意図だけが見えると同時に、国の主張には逆らわないという司法の堕落を見たような後味の悪い判決でした。長崎地裁の一審判決では、原告の内10人という限られた認定とはいえ未指定地区で被爆者と認められたのですから大きな進展と言えます。事実、政治解決への道が開かれたかに見えました。わたしたちも原告も上京し、厚労省や国会議員に働きかけをしました。しかし、長崎市や長崎県は、無情の控訴をおこないました。一部勝訴とはいえ画期的な判断の成果を無にし、政治解決への道が見えたのに、かすかな光をも閉ざす暴挙でした。「市民とともに歩む」がウリの田上市長は「関係機関と協力しながら被爆体験者への支援の充実に努めていく」とのコメントを発表しました。国からの圧力が合ったとはいえ、無慈悲な控訴をおこなっていてよく言えたものです。
 1957年に決まった被爆地が南北に細長く、いびつなのは旧長崎市の行政区域で決められてから、指定地域の外側で原爆にあった人々から、被爆地の是正を求める声が上がり、長﨑市も長崎県も官民一体となった運動をおこなった結果、2002年に12km圏の地域を対象とする「被爆体験者事業」がおこなわれるようになりました。しかし、援護については「放射線の影響による病気はない」として、精神疾患とそれに伴う合併症に限られました。被爆者援護法による援護とは大きな差があります。そのため、根本解決を求める人々が集団提訴したのです。
 しかし、国の言いなりになる裁判所の姿や、三権分立が全く機能していない様を目の当たりにして、怒りを通り越して悲しくさえなりました。被爆から73年が経過しても、未だに、爆心地から半径12kmでありながら場所によって被爆者と被爆体験者に分けられている状況が続いています。「被爆体験者」は高齢化し、今なお放射線後障害に苦しんでいます。原爆被爆の被害実相はこれまで考えられた以上に大きく、特に黒い雨や粉塵汚染、放射線微粒子等による放射線内部被曝の被害は深刻です。
 今回の福岡高裁の判決は、このような原爆被爆の実態を無視した酷い判決としか言いようがありません。現在の「被爆地」と定められているなかの被爆者にこのような高い線量の被曝の立証は求められていないのです。そもそも、被爆者の認定において被曝線量が求められることはありません。なぜ、被爆体験者だけにこのように高いハードルを課さなければならないのでしょう。
 この裁判の判決は、福島原発事故のヒバクシャ援護の指針となるべきものでした。これ以上、被爆者を増やさない。被爆者が死に絶えるのを待っているという「55年基本墾答申」(原爆被爆者対策基本問題懇談会が1980年12月に発表、国家補償を否定した)の精神が垣間見えます。このような国の姿勢に逆らえない長崎市や長﨑県の姿勢も情けないとしか言いようがありません。高齢化する被爆体験者を励ますのも辛いのですが、原告団は「負けてなるか」と全員が上告しました。
 わたしたち支援者も来るべき最高裁のたたかいに向けて、歩みを止めることはできません。きっと、この不合理を解消してみせると決意新たです。
(ひらののぶと)


原爆被爆地域図(地名は原爆投下時のもの)

このページの先頭へ

企業の存続すら危うくなる原発輸出
原子力資料情報室 事務局長 松久保 肇

 日本の原発輸出が苦戦している。日本経済新聞は2018年12月4日、以前から苦戦が伝えられ、三菱重工が進めてきたトルコへの原発輸出案件について、「建設断念へ」と報じた。三菱重工が黒海沿岸の風光明媚なシノップに4基の112万kW級ATMEA-1(仏フラマトム(旧アレヴァ)との合弁企業アトメアが開発した加圧水型軽水炉)原発建設を受注したのは2013年のことだった。当時、この原発建設計画の受注を日・韓・中・カナダが争ったが、政府の支援を受けた三菱重工らの企業連合が受注することとなった。

政府の支援がなければ原発事業は進まない
 しかし、受注当時2兆円と見込んだ建設費は、昨年4月時点で5兆円近くに高騰、三菱重工と事業推進や資金需要に対応するため提携していた伊藤忠商事は事業計画から離脱していた。電力の買取価格は日・トルコ政府間で締結した政府間協定により、20年間10.80~10.83セント/kWh(燃料費除く)に据え置かれた。運転費や維持管理費を考えれば、コスト回収が困難なことは明らかだった。各種報道によれば、三菱重工側はトルコ政府に対して、買取価格の引き上げなどの支援を要請していたが、トルコ政府側はコスト見直しなどを要請。結果、三菱重工は採算性が見込めないと判断したようだ。
 2018年12月12日、三菱重工の宮永俊一社長はメディアとのインタビューで、シノップ案件の現状について、「経済合理性の範囲内での対応はいつでもできる」、「まず政府間(での協議)があって、政府間で何かあれば、われわれに問い合わせがあり、お答えするということになる」、もはや現段階は「私どもが判断できる範囲ではないと思う」と答えている。
 原発輸出の失敗は三菱重工だけではない。2019年1月17日、日立は取締役会で、同社が進めてきた英国への原発輸出案件を凍結し、これまで投じてきた費用から約3000億円を減損処理することを決定した。同社は2018年12月時点で英政府に対して「民間の投資対象としてはもう限界だ」と伝え、日英両政府の支援をもとめていた。しかし、2019年1月10日、日英首脳会談後の記者会見でメイ英首相は「企業の商業的な判断となる」とコメントし、追加支援には慎重な姿勢を示していた。


トルコへの原発輸出に反対する学習会
(2018年9月・連合会館)
どこが巨額の費用を負担するのか
 日立は東京電力福島第一原発事故後の2012年、原発事業会社ホライゾン・ニュークリアパワーを買収し、100%子会社とした。同社は、英国で2か所、それぞれ2~3基の原発を建設する計画を進めてきた。とくに、ウィルヴァ・ニューウィッド原発建設計画(135万kW級の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)、2基、総事業費3兆円)は、建設に向けた各種手続きが最終段階にきていた。
 この計画では3兆円もの巨額の費用をだれが負担するかについて、様々な出資計画が検討された。また、日立は当初より、ホライゾン社の持ち分比率を50%以下にできないと計画を進められないとしていた。だが多くの会社の名が挙がったものの、終に出資先は現れなかった。さらに、発電した電力の買取価格(FIT-CFD/差額決済型固定価格買取制度:一定期間、基準価格と電力市場で売電した価格の差額が支払われる制度によるもの)も日立が期待したほどの価格とはならなかった。

原発企業の相次ぐ事業撤退
 日本の原発輸出の失敗は、トルコや英国だけではない。2000年代に入り国内での原発新設が頭打ちになる中で、経産省と原発メーカーは海外市場に希望を見出した。これまで売り込んだ先は両国のほか、ベトナム、フィンランド、アラブ首長国連邦、ヨルダン、リトアニア、ブルガリアなど多岐に上るが、いずれも失敗に終わった。唯一受注できたのは米国での原発建設だった。しかし、東芝の子会社で米原子炉メーカー大手のウェスティングハウスが2008年に受注したこの4基の原発建設案件では、工期遅延などにより、巨額の損失が発生していた。東芝は、2017年、9656億円の赤字を計上するなど、一時倒産の危機に追い込まれた。結果、東芝は2006年に54億ドルで買収したウェスティングハウスを1ドルで売却し、海外の原発事業からの撤退を決めた。
 原発建設は、巨額の初期投資と長期的な投資回収が必要になるため、事業者は大きな事業リスクを抱え込む。原発輸出はこうしたリスクに加えて国家間協定などを必要とするため、政府の関与も必要になる。原発メーカーは事業部門の生き残りのために原発輸出に打って出た挙句、企業自体の生き残りも危うくなるようなリスクを抱えた。そのうえ、国が関与するため、自社のみの判断では、その投資からの撤退が困難になるという、本末転倒な状況に陥る。三菱重工の宮永社長のコメントは、原発輸出の危険性を端的に示すものである。
(まつくぼはじめ)

このページの先頭へ

日本の再処理政策を支持した米駐日大使
日本での議論の欠如を反映?

 ワシントンD.C.の米国非営利団体「国家安全保障アーカイブ(NSA)」が2月12日、レーガン政権の初期の2年間(1981-82年)において日本のプルトニウム政策に関連した議論がどのようになされたかを示す文書類を公開しました。その中に1981年1月26日に、カーター政権が任命し、レーガン政権でも続投が決まったマイク・マンスフィールド駐日大使がレーガン大統領とアレクサンダー・ヘイグ国務長官に宛てたものがあります。大使は、オイルショックのような「石油供給停止に対する脆弱性を持つとの日本の認識」を尊重し、東海パイロット再処理工場の運転と六ヶ所再処理工場の建設を認めるべきだと述べています。
 大使の主張がどの程度の影響をレーガン政権に与えたかは分かりませんが、1987年にまとまった新日米原子力協力協定は、日本による再処理を事前に認める「包括的事前同意」を与えるものとなりました。1968年の元の日米協定では、米国起源の使用済み燃料の日本国内での再処理と外国への輸送は個別に米国が同意することが必要とされていました。
 元々、米国は、早期にウランが枯渇するとの想定に基づき、使用済み燃料から再処理でプルトニウムを取り出し、それを燃やしながら燃やした以上のプルトニウムを生み出す高速増殖炉の開発を推進していました。ところが、インドが1974年に、米国の協力の下に推進された高速増殖炉計画で分離されたプルトニウムを使って最初の核実験を行います。77年に登場したカーター政権で実施された再処理政策見直しの中で、ウラン枯渇想定の間違いが指摘され、政策が変更されます。


1970年代の予測:ウラン枯渇⇒高速増殖炉が支配的に
 右の図にあるように、1974年の米原子力委員会(AEC)の予測では、2010年には米国だけで原子力発電容量が100万キロワット級原発2300基分となり、高速増殖炉がその3分の2を占めるというものでした。2018年現在の米国の原子力発電容量は100基分、高速増殖炉はゼロというのが現実です。
 カーター政権は、東海再処理工場の運転を開始しようとしていた日本にも計画放棄を呼びかけます。日本側はこれに猛反発します。1977年3月16日の衆議院予算委員会で宇野宗佑科学技術庁長官は再処理を「民族の死活問題」と呼び、米国が主張している再処理の「3年間凍結」は、「1990年代の実用化を目指して」いる高速増殖炉の予定を狂わせ「将来への死活問題である」と述べています。この時、日本の政策を尊重するよう訴えたのが就任したばかりのマンスフィールド駐日大使でした。

大使の2本の電文
 マンスフィード駐日大使からサイラス・バンス国務長官に宛てた1977年7月12日付けの電文は次のように始めています。
 「私はこのポストについてから数週間にしかならないが、貴方に直接のメッセージを送るに足る一つの政治的問題が米日間にあることはいまや明らかだ。つまり、両政府の前にある核燃料再処理問題だ。この問題を解決しようとの試みは、極めて重要な局面に達していると私は考える。今後とられる行動は、妥協──核不拡散面での懸念とエネルギー需要のバランスをとり、再処理問題が両国の全体的な関係という文脈において対処されることを保証する妥協──を至急成立させなければ、両国の将来の関係に重大な悪影響をもたらしうる」
 大使が1981年1月26日にレーガン政権に宛てて送った電文は次のように述べています。
 「石油供給停止に対する脆弱性を持つとする日本の認識は、これまでにも増して日本の国内及び外交政策のあらゆる面に影を投げかけるようになりそうだ。...我が国のエネルギー政策の相当の変更を意味することになるだろうが、日本の苦痛の種となっているもので我々が出来るだけ早く除去すべきものがあると私は考える。何かというと、干渉されることなく、使用済み燃料の再処理のために東海村パイロット再処理工場を運転し、この目的のためにさらに大きな工場を建設したいという日本政府の希望だ。原子力を平和目的のためだけに使うという長年の日本のコミットメント、それに、我が国の核不拡散の取り組みの支持を考慮すれば、この点に関する日本の希望にもっと前向きに対応しない理由はないと私は考える。」
 このような大使の判断をもたらした日本側の主張を現在の状況と比べて見ると、米国側は現実離れした日本の夢物語につき合わされたと言わざるを得ません。日本国内での議論が不十分だったことが判断に影響を与えた可能性があります。日本は、六ヶ所再処理工場を2021年に完成させようとしています。今こそ、上記のような歴史について振り返り、再処理政策について議論すべき時です。
(「核情報」主宰田窪雅文)

このページの先頭へ

《投稿コーナー》
まさに「戦争前夜」当たり前の組合活動に対し警察権力が大弾圧
小谷野 毅(全日本建設運輸連帯労働組合 書記長)

 かつてない労働組合弾圧事件がおきている。その標的にされているのは私たち全日建(全日本建設運輸連帯労働組合)の関西地区生コン支部である。
 権力弾圧は2018年8月にはじまり、滋賀県警や大阪府警が仕立て上げた6つの「事件」で、半年間でのべ55人の組合役員や組合員が逮捕され、2019年2月10日現在のべ21人が起訴されるという異常な事態となっている。カルロス・ゴーンの2カ月超の勾留が国際問題化しているが、関西生コン支部委員長らの勾留期間はすでに6カ月を超え、接見禁止もつづいている。
 組合脱退を働きかける家族へのいやがらせも露骨だ。滋賀県警の捜査員は留守宅の家族に、「組合を辞めて会社も変わった方がいい」「職場の人や弁護士は警察を悪く言うだけだから、こうして話していることもふくめて連絡は取らない方がいい」などと圧力をかけている。


大阪府警前での抗議行動には支援者も駆けつける
組合活動に共謀罪をあたかも適用
 「事件」とされたのは、第1に2017年12月のストライキ闘争(平和フォーラム機関紙839号参照)で、これが「威力業務妨害」とされている。第2は建設現場でゼネコンによる建設現場の違法行為を告発した組合活動で、建設業法で定められた専任の管理技術者(いわゆる有資格者による現場監督)がいない、バンパーのないダンプカーが出入りしているなど、ずさんな現場管理の改善を申し入れ、ビラまきをした活動(法令順守=コンプライアンス活動)が「恐喝未遂」とされた。
 ストライキを威力業務妨害事件に仕立て上げた事件では、2018年9月、現場にいた組合役員や組合員が2度にわたりのべ24人も逮捕された。のちに大半の組合員が起訴されずに釈放されるのだが、それは大量逮捕の目的が組合に打撃を与え、組合員を動揺させることにあったことを物語っている。
 さらに異様なのは、その2カ月後、ストライキの現場にはいなかった支部委員長ら組合幹部が逮捕されたことだ。組合の会議でストライキの目的や計画を話し合ったことそのものが威力業務妨害罪に問われているのである。
 第2の建設現場の違法行為告発は、組合の日常的な「コンプライアンス(法令遵守)活動」を「恐喝未遂」事件にしている。安値で工事を受注したゼネコンは、安全対策や粉塵、騒音、汚水処理など公害対策についてしばしば手抜きをする。品質不良のおそれがあることを承知で安売り生コンを使うのもそうした手抜き体質の一部だ。今回事件とされた大手ゼネコン・フジタの滋賀県の現場でも見事にそれが現れていた。組合がそれら法違反を是正することを申し入れたり、ビラをまいたことが事件とされているのである。しかも、2018年8月に支部委員長ら幹部を逮捕し、すでに裁判もはじまっているのに、滋賀県警は2019年2月、あらたに現場のビラまきに参加した組合員を恐喝未遂の「実行部隊」と称して16人を逮捕した。警察は今後も「コンプライアンス活動を現場ごとに事件にする」「組合をつぶすまでやる」などとうそぶいている。

権力の暴走を許さない運動の展開を
 端的にいえば、「ストしたら逮捕」「ビラをまいたら逮捕」・・・関西地区生コン支部を見せしめにしつつ、そんな時代がはじまったということではないだろうか。担当弁護団は一連の不当捜査を指して「共謀罪のリハーサル弾圧」だと警鐘を鳴らし、宮里邦雄弁護士(元日本労働弁護団会長)は「平成労働運動史上で最大の弾圧事件であり、きわめて悪質かつ政治的」と強く批判している。
 憲法28条は労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権の労働三権を保障している。そして労働組合の正当な組合活動を刑事罰の対象とはしないとの刑事免責が、労働組合法1条2項が定めているのは周知のとおりだが、安倍内閣の政治姿勢を後ろ盾とした警察が、労働基本権など完全に無視した組合つぶし攻撃をほしいままにしているのが現在の事態だ。
 ここで食い止めるべく、不当弾圧に抗議し、長期勾留中止と即時釈放などを要求する署名活動(平和フォーラムなどよびかけ)やカンパ活動にぜひともご協力をお願いします。
(こやのたけし)

権力弾圧事件一覧

逮捕者数は延べ人数。このうち9人が複数の事件で再逮捕。湖東協組事件、大津協組事件では事業者も計7人逮捕されている。

このページの先頭へ

加盟団体の活動から(第13回)
放送における「公共の福祉」を考える活動
日本放送労働組合 中央執行委員長 中村 正敏

 憲法改正の議論が活発になる中、同時に気になる動きは、放送法の改正です。今次通常国会のなかで放送法の改正が上程されることになっています。主として、NHKのインターネットにおける常時同時配信などがテーマになるとされていますが、2018年、放送法第4条を廃止するという政府サイドの意向が報道されるなど、デジタルメディアが発達しさまざまな言論が飛び交う状況のもと、放送のあり方、それを規定する放送法にもさまざまな視点からの意見が寄せられる時代になりました。
 現行放送法は、憲法と密接に関係しています。戦後の占領下、周波数や放送内容について主権がないなか、GHQのもとで設計されたこと。制定以来、何度か見直しの機運があったにもかかわらず、結果として日本社会はこの放送体制と理念を選択してきた、ということなど、憲法が歩んできた歴史と似ているともいえます。そして戦後日本社会のなかで、放送でいえば公共放送と民間放送という世界的に見ても特異な二元体制を構築する根拠となってきました。
 理念的にいえば、憲法における「公共の福祉」という概念が、放送法の根幹をなしています。特に、放送法4条の番組編集準則は、1条の「公共の福祉に適合するよう規律」という観点をより番組編集の実際に近づけて導き出されるものです。そして放送局には、公共の福祉に適合するような事業運営が可能になるように、免許や財源など安定性が求められている制度になっています。
 新聞やラジオ、そしてテレビと、マスメディアが続々と誕生する中で、戦後日本はいずれも「公共の福祉」という観念を取り込んできました。どの新聞社も、もちろん社論や社是はあるけれども、取材情報のウラをとる、といったことをいわば職業倫理として、「公共の福祉」につながるように育んできたわけです。
 もし憲法における「公共の福祉」という文言が変われば、現在の放送法も抜本的にかわることになります。どういう放送法になるのか、想像もつきません。現状を見れば、「公共の福祉」という規律とは無縁の、インターネットからの情報が氾濫するようになり、社会的にもかなりの影響力を持つようになってきています。
 問われているのはもちろん、放送だけではありません。人がパブリックな場に出るときに、他人に影響力を持ちたいという願望は、確度が低く、角度がついた、過激な表現に頼る言説を生み出しがちです。そうではない情報をどう提供していくのか。それが思想や立場の違いとは関係なく、等しく今の社会に求められている『公共性』です。このことは、戦争の時代、大衆社会と戦時政権との関係の中で、大衆社会の中で公共性を構築し得なかった反省でもあります。
 単にファクトかどうか、というだけでなく、確度は高いのか、表現は過激に、表現の適切さを失ってインフレにならず、的確なものなのかどうか。視聴者や読者がそれらを通じて適切に判断をすることができるものなのか。そうしたことはとりわけ、放送にとっては重要であり、日々、さまざまな会議のなかでこの課題を検討する活動を継続しています。
(なかむらまさとし)

このページの先頭へ

〔本の紹介〕
『左派ポピュリズムのために』
シャンタル・ムフ著、山本圭、塩田潤訳/明石書店刊

 ドナルド・トランプが大統領に選出され、イギリスの国民投票では排外主義主導のEU離脱派が勝利する等、現在ポピュリズムは右翼、極右を想起させる言葉となっています。しかし他方ではスペインの「ポデモス」やフランスの「黄色いベスト」等の左派ポピュリストとでも言うべき運動が、政治に決定的というべき影響を与えており、イギリス労働党のコービン党首の下での復調、アメリカでのバーニー・サンダースの大統領予備選での大健闘も同様の動きの結果といわれます。
 こうした状況を受け、環境保護を強め、また性差別やレイシズムに対抗する多様な要求を、「等価性の連鎖」で結びつけて闘い取る中で、ヘゲモニーを確立する「左派ポピュリズム」の戦略が提言されています。
 序論、結論の他、「1ポピュリスト・モーメント」、「2サッチャリズムの教訓」、「3民主主義を根源化すること」、「4人民の構築」の4つの章から成り立っています。1では2008年のリーマンショックとその後の経済危機により、新自由主義への信頼は大きく揺らぎ、「ポピュリズム・モーメント」というべき大衆運動が状況を左右する時期が到来したと主張されています。2では70年代社会民主主義福祉国家の危機から、市場原理主義、民営化、競争強化等新自由主義のヘゲモニーが確立し、経済的リベラリズム優先で政治的リベラリズム軽視、「代替案はない」と批判が抑制される状況が生まれたプロセスが描かれます。そのヘゲモニー交代を領導した敵方の主役サッチャーの動きを追い、左派の失敗を見ていきます。3では現存の自由民主主義体制の撤廃ではなく、新自由主義が抑えていた人民主権と平等を実行することで改革を進めるべきだと力説されます。4では多様な人民が「等価性の連鎖」を闘うことで構築され、「少数派支配」との分岐を明確にして、新自由主義に代わるヘゲモニーを右派と対抗して確立すべきと訴えています。
 シャンタル・ムフは政治思想を専門にし、この本のように政治運動についても積極的に発言する、イギリスの大学で教鞭を取る、ベルギー人政治学者です。1980年代サッチャー首相の時代から、社会運動の政治戦略に取り組んでいます。新自由主義に代わる政治を考える時、ぜひ読まれるべき1冊です。
(菊地敬嗣)

このページの先頭へ

核のキーワード図鑑


最敬礼 原発・軍事 国のため

このページの先頭へ

2019原発のない福島を!県民大集会
日時:3月16日(土)13:00~15:40
場所:福島県教育会館
主催:原発のない福島を!県民大集会実行委員会

安倍9条改憲を許さない、安倍内閣の退陣を要求する3・19行動
日時:3月19日(火)18:30~20:00
場所:衆議院第2議員会館前
主催:安倍9条改憲NO!全国市民アクション実行委員会 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会

3・21さようなら原発全国集会
日時:3月21日(木祝)12:30~/15:10~デモ
場所:渋谷区「代々木公園B地区」(地下鉄 代々木公園/明治神宮前、JR 原宿 下車)
内容:発言とデモ行進
主催:「さようなら原発」一千万署名市民の会
協力:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会

さようなら原発講演集会
日時:3月30日(土)14:00~16:30 場所:千代田区「全電通会館」( 地下鉄 新御茶ノ水/淡路町/小川町、JR 御茶ノ水 下車)
内容:講演 「福島事故8周年、脱原発社会がはじまった」
講師 小出裕章さん
主催:「さようなら原発」一千万署名市民の会

  マーシャル諸島・ビキニ環礁で第五福竜丸が被災し、また多くの島民や漁船が被災してから65年目を迎えました。被災し亡くなった第五福竜丸の久保山愛吉さんの「被爆者は私を最後にして欲しい」との強い反核・平和の願いにもかかわらず、世界には、15000発近くの核兵器が存在し、人類の生存そのものを脅かし続けています。世界では、平和を求める市民社会の声がありながら、しかし、テロや紛争が際限なく続き不安定な中にあります。
 2017年7月には、被爆者が求め続けた核兵器禁止条約が国連で採択され、初めて核兵器の全面禁止が、国際社会に問われています。現在、条約の発効に向けて、世界各国で署名・批准がすすめられています。朝鮮半島をめぐる非核化を中心とした平和と安定を求める動きも活発化してきました。南北、米朝の首脳会談が開かれ、2月27日から28日にかけても、ベトナムにおいて、第2回目の米朝首脳会談が開催されました。今回は合意文書を交わすには至りませんでしたが、今後も対話と協調を軸にした協議が進むことに強く期待したいとおもいます。朝鮮半島の非核化の進行は、私たちが提唱してきた「東北アジア非核地帯構想」の実現を促し、平和に向けて大きな前進を勝ち取るものと期待されます。
 一方、唯一の戦争被爆国である日本の安倍政権は、INF(中距離核戦力廃止条約)から離脱し、実戦で使える小型核の開発や新たな艦載用の巡航ミサイルの開発などを盛り込んだ核態勢の見直しをすすめるトランプ政権を支持し、世界の非核兵器保有国の動きに背を向けています。核兵器禁止条約を否定し、米国の核の傘の下、核抑止力による安全保障に頼る日本政府の姿勢は、被爆国にあるまじきものです。
 安倍政権は、国会での多数を背景に、憲法改悪に向けた動きを加速させています。また、県民投票によって辺野古新基地建設を拒否する沖縄の民意を踏みにじり、いまも辺野古を埋立ています。オスプレイの配備や空母の建造、イージス・アショアや巡航ミサイルの導入など専守防衛を逸脱し、米軍と一体となった海外展開へむけて動きだしています。原発問題でも、脱原発を選択する世論の圧倒的意思を無視して、原発再稼働を強行しています。ここでも民意や現実を無視する強権政治を進めています。安倍政権の暴走をこれ以上許してはなりません。
 私たちは、平和と民主主義の最大の危機に直面しています。今年は原水禁運動にとって正念場です。私たちの運動の真価が問われる重要な局面を迎え、これまで原水禁運動が進めてきた反核・平和、脱原発・フクシマ連帯、ヒバクシャへの援護・連帯を前進させ、安倍政権の危険な動きに抗する理念と運動の強化が求められています。
 「核と人類は共存出来ない」とする原水禁の理念を踏まえ、運動をより一層強めていきましょう。
 2019年3月1日
 被災65周年3・1ビキニデー集会

月別 アーカイブ

Powered by Movable Type 4.23-ja

このアーカイブについて

このページには、2019年3月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2019年2月です。

次のアーカイブは2019年4月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。