1月, 2015 | 平和フォーラム
2015年01月30日
平和軍縮時評2015年1月号 核兵器の人道的影響に関するウィーン会議―強まる「非人道性」からの要請 法的枠組みへの道筋が課題 塚田晋一郎
2014年12月8-9日、オーストリアのウィーンにおいて、「核兵器の人道的影響に関するウィーン会議」が開催された。ウィーン会議では、13年3月のオスロ(ノルウェー)、14年2月のナヤリット(メキシコ)に続き、核兵器使用がもたらす人道的結果の甚大さへの認識が共有されるとともに、ひとたび核兵器が使用されれば、あらゆる手段をもってしても人道的救援は困難であり、その危険性の回避には核兵器廃絶が必要との認識が改めて示された。
2010年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議の最終文書は、初めて「核兵器禁止条約」とともに、核兵器の非人道性に言及し、注目を浴びた。それから5年が経とうとしているが、核保有国による核軍縮は一向に進まず、核兵器のない世界の展望は見えない。
2014年は、NPT第6条(軍縮)の要請である、核兵器のない世界の達成のための「効果的な諸措置」を含む「法的枠組み」(核兵器を禁止・廃棄するための条約等の法的文書や、同様の効果をもたらし得る法的根拠のある何らかの枠組み)の必要性が繰り返し注目された。核兵器のない世界への停滞を前にして、実質的な核軍縮を促進させ、延いては核兵器の全面廃棄を目指そうとする国際的な声が高まってきた。
ウィーン会議は、そのような「法的枠組み」を主として議論する場として設定はされておらず、オスロ及びナヤリットで過去2回開かれたのと同様に、「核兵器使用による人道的影響」を科学的、医学的、人道的観点から検討することを主題とした。しかし、そのような会議の性質はあったものの、会議のまとめである「会議報告及び討議結果の概要」(「会議概要」)は、法的枠組みの必要性にも言及するものとなった。
ウィーン会議の概要
ウィーン会議には、過去最多の158か国政府、国連、赤十字国際委員会などの国際機関及びNGOが参加した。12月6-7日には、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)による「市民社会フォーラム」が開催され、70か国から600人を超える活動家が集まり、会議の前向きな雰囲気作りを行った。
核兵器国からは米英が初参加し、またNPTの枠外の核保有国としてはインドとパキスタンが参加した。米国は11月7日、英国は12月4日に、それぞれウィーン会議への参加を表明していた。核兵器国の参加という点に限っていえば、米英の参加は歓迎すべきものであり、その実現は、主催国オーストリアによる事前交渉や、議題の設定の仕方などの成果であった。
会議では、米英はともに、自国は核軍縮・不拡散に熱心に取り組んでおり、核兵器のない世界を目指すと述べ、そしてそのための唯一の方法は、「ステップ・バイ・ステップ」のアプローチである、と主張した。いずれも、これまで繰り返している主張と変わらない。一方で、「核兵器使用による壊滅的な人道的結果」について様々な議論がなされていることを理解するとの立場を示した。
また、佐野利男ジュネーブ日本政府代表部大使は、8日の第3セッションにおいて、「オスロ会議(及びナヤリット会議)の議長要約に含まれる事実認定は、緊急対応能力について少し悲観的である」とし、核爆発後の人道的援助を「前向きに捉え」て検討すべきであるとの発言を行った。この発言は、「核兵器爆発の危険性を回避するための唯一の保証は核兵器の完全廃棄にほかならない」とウィーン会議の「会議概要」も述べた、非人道性会議のこれまでの一つの到達点を根底から覆しかねないものであり、決して看過できる発言ではない。「唯一の戦争被爆国」であると再三にわたり主張してきた日本政府の代表であるが、これは米国の核抑止力の庇護の下にある「核兵器依存国」としての立場を改めて表明したに等しく、会議の機運に水を差す残念な発言であったと言わざるを得ない。
「会議概要」
前回の非人道性会議である、14年2月のナヤリット会議の「議長要約」も、核兵器禁止のための法的枠組みの必要性に言及していた。しかしその後、春のNPT準備委員会や、秋の国連総会第1委員会を経てもなお、法的枠組みに関する具体的な議論や交渉開始を主導する政府は登場しなかった。
NGO「リーチング・クリティカル・ウィル」のウィーン会議報告によれば、参加国のうち29か国が、法的枠組みの交渉を呼びかけた。閉幕セッションで発表された「会議概要」は、ウィーン会議は「事実情報に基づいた議論を基盤としたものであり」、「核兵器爆発に対する人道的対処の困難さが強調された」、「核兵器爆発の影響は(中略)人類の生存さえ脅かしうる」とした。ここに、会議の趣旨と結論が述べられている。その上で、核軍縮の進め方について、法的枠組みを求める諸国及び、核兵器国の主張を併記した。
法的枠組みを求める諸国
「会議概要」は、NPT第6条の要請である、核兵器廃絶へ向けた「効果的な諸措置」を含む、核兵器禁止の法的枠組みの交渉を開始することへの支持を表明した参加諸国の発言を、以下のように紹介した。
「多くの政府代表からは、核兵器使用の可能性やその破滅的な人道上の結末を含めて核兵器がもたらす危険性に対する認識の拡大により、核軍縮の達成に向けた効果的な措置をすべての国家が追求することへの切迫した必要性が強調されてきたとの見解が示された。
各国政府は、核軍縮の諸課題を前進させるための手段や方法に関してさまざまな見解を述べた。核兵器のない世界に向けた前進を達成するためのさまざまな法的拘束力のある集団的アプローチについての検討がなされた。多くの政府代表は、核兵器使用を阻止する最も効果的な方法が核兵器の完全廃棄であることをあらためて確認した。
核軍縮・不拡散の前進や核兵器のない世界の達成に向けたあらゆる側面において、市民社会や研究者が行ってきた重要な貢献に対し、多くの政府代表からは謝意が示された。こうした目的を追求する上では、多国間かつ包摂的なアプローチが不可欠であることを多くの政府代表が強調した。」
ここでは、市民社会が行ってきた「重要な貢献」への言及が盛り込まれている。核兵器廃絶へ向けた実際的な行動は、核保有国を中心とする諸政府による部分が大きいが、その機運を高めていくためにも私たち市民社会の役割が重要であることが、ウィーン会議においても再確認されたということである。
核兵器保有継続を求める諸国
一方で、「会議概要」は、米英といった核保有国や、日本を含む核依存国などが述べた「ステップ・バイ・ステップ」(漸進的)アプローチが最も効果的であるという発言について、以下のように言及した。
「いくつもの政府代表が、ステップ・バイ・ステップのアプローチこそ核軍縮を達成するための最も効果的かつ具体的な方法であると主張した。これらの政府代表は、とりわけ包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効や、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に言及した。
また、これらの政府代表は、核兵器や核軍縮に関する議論においてはグローバルな安全保障環境が考慮されるべきであると述べた。これに関連して、これらの国々は、さまざまな1か国、2国間、複数国間、多国間の「ビルディング・ブロック」が、核兵器のない世界を支える上で短・中期的に実行可能であるという提案を行った。」
「ステップ・バイ・ステップ」アプローチは、日本政府も従来から繰り返し主張してきたものである。核兵器廃絶のためには、核保有国を含む形で議論がなされ、少しずつ、または、部分的にでも、実行可能な諸措置を進めていくことが最も効果的である、という考え方として主張されている。「ビルディング・ブロック」は、CTBTやFMCTなどの、個別的な条約や、核兵器使用や保有による危険性を低減しうるような諸政策などを、それぞれの「ブロック(積み石)」として捉え、そのブロックを積み上げていくことにより、核兵器のない世界の平和と安全を目指すという考え方である。
これらは核保有国に、自らの核兵器の保有を継続するための口実を与えるものともなり得る考え方であり、実質的な核兵器廃絶へと進み得るものとは言い難い。
いずれにせよ、「核兵器使用による人道的影響」に関するウィーン会議において、このような議論がなされ、「会議概要」に残されたことは、一つの成果であるとは言えるだろう。
「オーストリアの誓約」
ウィーン会議の閉幕セッションでは、「会議概要」の他にもう一つ、重要な文書が発出された。オーストリアが議長国という立場から離れて、核兵器廃絶に向けて熱心に取り組んできた一国家としての立場から発表した、「オーストリアの誓約」という文書である。
「誓約」において、オーストリアは、核軍縮に関するあらゆる議論、義務、誓約について、来年のNPT再検討会議やあらゆる議論の場において提示していくことを「自国の責任」とみなすと誓約した。また、「すべてのNPT加盟国に対し、第6条に基づく既存の義務を早期かつ完全に履行」し、「核兵器の禁止及び廃棄に向けた法的なギャップを埋めるための効果的な諸措置を特定し、追求する」よう求めた。この内容は、ウィーン会議を開催する前に国連第1委員会において、オーストリアが「新アジェンダ連合の提案を支持する」という形ですでに表明していたものである。
また、「誓約」は、「オーストリアは、核兵器保有国に対し、核兵器の運用体制の緩和、配備から非配備への移行、軍事ドクトリンにおける核兵器の役割の低減、すべての種類の核兵器の早急な削減を含む、核兵器爆発の危険性低下に向けた具体的な中間的措置を講じるよう求める」とも述べた。
オーストリアは、核兵器の禁止・廃棄に向けた法的枠組みを、国際的に作っていくことの重要性を訴えつつ、核保有国に対しては、自国のみで実行可能な、(核兵器の禁止・廃棄に向けた)「中間的措置」を講じることを求めた。議長国として会議を取りまとめるのみならず、さらに踏み込んだオーストリアの姿勢は評価したい。
このようにして、ウィーン会議は、核兵器の法的枠組みを含む、現状を打破するための試みに踏み込むことに、一定成功したと言える。
今後、NPT再検討会議とその先に向け、核兵器禁止の法的枠組みの交渉に関する具体的提案を行う有志国が現れるかが鍵となるが、現段階ではその兆しは見えない。
核兵器廃絶を目指す市民社会の要請の説得力を高めることにより、NPT再検討会議に流動化を起こす状況を作り出せるかどうか、そのことが、いま切実に問われている。
2015年01月26日
安倍政権の暴走を止めよう!1.26国会前行動に2500人集まる
安倍政権は昨年末の総選挙での「勝利」を受けて、憲法違反の閣議決定に基づく日米ガイドライン改定や戦争関連法案提出、沖縄・辺野古新基地建設、歴史認識の改ざん、貧困と格差の拡大、原発再稼働、そして憲法改悪などへ突き進もうとしています。
こうした動きを止めようと、通常国会が召集された1月26日の夜に、「安倍政権の暴走に反対する国会前行動」が取り組まれ、市民や労働組合代表など2500人が国会前の路上を埋め尽くしました。
呼び掛け団体の「戦争をさせない1000人委員会」の鎌田慧さん(ルポライター)や、民主党、社民党など野党の代表、日本弁護士連合会や学者グループの代表などが、集団的自衛権の行使容認の閣議決定撤回や、日米ガイドライン改定・戦争関連法案の阻止、沖縄・辺野古新基地建設反対などを訴えました。
参加者は横断幕やプラカードを手に「「戦争反対、9条守れ!」「戦争する国 絶対反対!」「安倍政権の暴走を止めよう!」などと国会議事堂に向けてシュプレヒコールを繰り返しました。
2015年01月25日
1・25 辺野古新基地建設に反対! 国会包囲に7000人
1月25日、沖縄の海の色を象徴した青いものを身につけた人々が、人間の鎖で国会を取り囲みました。政府が沖縄の民意を無視して進める辺野古新基地建設に反対する行動で、市民団体のほか昨年末の衆議院選挙・沖縄選挙区で勝利した4名の国会議員も駆けつけアピールをしました。
2015年01月24日
川内・高浜原発を再稼働させない!東京集会に550人
安倍政権の原発推進政策により、鹿児島・川内原発と福井・高浜原発の再稼働に向けた動きが強くなる中、「さようなら原発」一千万署名市民の会の主催で、1月25日、東京・「豊島公会堂」で、「川内・高浜原発を再稼働させない!東京集会&デモ」が行われ、市民や労働組合代表など550人が参加、現地の報告などを受けて「原発再稼働と安倍政権を止めよう!」などと気勢をあげました。
集会の呼びかけ人を代表し、鎌田慧さん(ルポライター)は「今年の最初の脱原発集会となった。原発とともに、安倍政権は軍事大国化をめざして、武器と原発を輸出しようとしている。再稼働を許さない声を大きくしよう」と呼び掛けました。
また、佐高信さん(評論家)は、前日に行った佐賀県・玄海原発をめぐる「原発なくそう!九州玄海訴訟」での陳述書を読み上げ、「福島原発事故が起きても誰も責任と問われない。原発は無責任体制の上に立っている。原発利権の学者・文化人、タレントも含めて責任を問うべきだ」と力説しました。
川内原発の状況について、「川内原発増設反対鹿児島県共闘会議」の野呂正和事務局長が報告に立ち、「再稼働を目前にしているが、まだ決まったわけではない」とし、避難計画が不十分であること、カルデラと巨大噴火の危険性、無責任県知事や政府の姿勢などの問題を挙げました。さらに「最近になり、再稼働は4月以降とされているが、鹿児島では再稼働に反対する世論が強まっている。周囲の自治体でも反対の決議をしている。1月25日に『ストップ川内原発再稼働!全国集会』を開くなど、闘いを続けていく」と述べ、「命より大事なもんがあってよかですか!」と声をあげました。
次に高浜原発の状況について、「原子力発電に反対する福井県民会議」の宮下正一事務局長が報告。若狭湾の狭い地域に15機もの原発が建てられた異常性を強調しながら、長い期間にわたる反対運動の歴史を紹介し、「この原発から90キロ圏内に関西地区のほとんどが入る。人口が密集している関西地方の皆さんも反対運動に立ち上がってほしい」とし、特の京都と滋賀での闘いとの連携を訴えました。
特別アピールとして、福島原発事故を契機に経済産業省前に設置されている「テントひろば」から、「安倍政権はテントの撤去を目論んでいる。これを許さないため、2月26日には経産省前に結集を」と呼びかけました。
集会後、参加者はデモ行進に移り、池袋駅前の繁華街などを通り、「再稼働を許すな!」「さようなら原発、命が大事!」などとシュプレヒコールを繰り返しました。
2015年01月21日
イスラム国の人質となった2人の解放を求める緊急アピール
イスラム国の人質となった2人の解放を求める緊急アピール
私たちは、米英によるイラク攻撃に反対し、それを支持して攻撃に加担した日本政府に抗議する広範な運動を行ってきた者(people)として、また、現在の安倍政権による『海外で戦争する国づくり』とそのための日米の軍事協力を強める政策に強い反対運動を進めている者(people)として、世界で実現されるべき正義と人道の名において、今回の日本人2人のシリア入国の経緯と立場の評価は留保したうえで、2人の日本人の生命を奪うことなく、無事に解放するよう求めます。そして、日本政府が2人の生命を救うために、最大限の交渉の努力を行うことを要請します。
私たちは一貫して、「集団的自衛権」の行使容認をはじめとした日本を戦争へと引き込む一切の政策に反対するとともに、米国の戦争にグローバルな規模で加担するという危険で、誤った道を進むのではなく、平和憲法の下でこそできる日本の国際協力のあり方を求めて、とりくんできました。私たちがとりくむなかで、航空自衛隊による中東地域での米軍への協力は、日本の憲法に違反するとの判決も出されています。
2人の日本人を拘束した人びとは、日本の民衆のこうした願いと努力を理解し、かけがえのない生命を奪って失望させないよう賢明に対処することを切望します。
フォーラム平和・人権・環境
戦争をさせない1000人委員会
憲法を生かす会
平和を実現するキリスト者ネット
許すな!憲法改悪・市民連絡会
英語版はこちら
2015年01月15日
辺野古新基地建設を許さない!沖縄県議団が東京で報告集会
「止めよう!辺野古新基地建設」─沖縄県議会議員代表団12名が1月15日、県議会で可決された辺野古新基地建設に反対する意見書を持って、米国大使館を含め関係省庁に要請するために上京しました。昨年11月の沖縄県知事選で、翁長雄志さんが仲井眞弘多前知事に10万以上の得票差をつけて当選。このゆるぎない沖縄の民意を携えての要請でしたが、首相官邸や防衛、外務省は誠意ある対応を見せませんでした。
15日夜、連合会館で開催された同議員団の報告集会には、会場をあふれる450名の市民や労働者が参加。知事選に続いての衆議院総選挙においてオール沖縄で闘い勝利した小選挙区選出の全議員、また超党派の国会議員で構成される沖縄等米軍基地問題議員懇談会の近藤昭一会長(衆院議員)らがあいさつ。沖縄からの報告では、12名の県議会の各会派から、仲村みおさん、渡久地修さん、比嘉京子さん、吉田勝廣さんらが、辺野古埋め立ての問題点、沖縄経済の発展を阻害している米軍基地、日米地位協定の不平等性を訴え、オール沖縄がいかにして実現できたかなどの報告がありました。
集会の最後には、県会議員上京団、国会議員、参加者全員が手をつなぎあって、万歳三唱をして幅広いつながりで辺野古新基地建設を阻止する決意を固めあいました。
2015年01月01日
政治の文化-総選挙に「国柄」を見る
総選挙が終わった。マスコミは自民党の大勝と報じているが、改選前の議席を一つ減らしている。しかし、私たちが応援する民主リベラル勢力が勝利したかというとそうではない。「ごまめの歯ぎしり」とか何とか言われそうだから、ここはおとなしくしてる方がいいのか。そうもいくまい。
自民党は、政治資金問題で経産大臣を辞任した候補を公認し、有権者は11万票を与えて当選させた。これを称して「みそぎ」と呼んでいる。政治の世界も神事と一緒で、選挙という川で洗い清めれば済むらしい。「最後は金目でしょ」と発言して、原発事故被災地からきびしい批判を受けた環境大臣も当選した。教育勅語は素晴らしいと礼賛する文科大臣も同様だ。有権者にうちわを配って法務大臣を辞任した候補者も当選、彼女は「人情あふれる下町で政治活動をやってきて良かった」と、当選後に感想を述べている。これが日本の政治の文化なのか。もしかして保守の論客櫻井よしこさんが言うような「国柄」なのかもしれない。日本では、立法の場にいる政治家が法を犯しても、人情あふれる有権者は選挙という川から自ら清水をすくい「みそぎ」をさせて許してくれる。
市民革命で、自らの血を流し権力と闘い権利を獲得した欧米社会ではどうなのだろうか。「みそぎ」などという言葉があるとも思えない。自らの手で権利を獲得し、憲法の言う不断の努力で維持していこうとするなら、他人の不正に目をつぶってはならない。目をつぶった先には、自らの権利侵害が待ち受けている。
安倍首相は、特定秘密保護法制定や集団的自衛権行使容認等の議論では市民の声を無視して、突然、消費税増税先送りの信を問うと総選挙を行った。誰も、消費税先送りには反対しない。そう言いながら総選挙後には、突然憲法改正の議論を推進することを表明した。改正の中身は、2012年4月27日に発表された自民党憲法改正草案に違いない。ならば、総選挙前になぜそのことの信も問うと言わなかったのか。これも「国柄」、政治の文化なのだろうか。
2015年01月01日
ニュースペーパー2015年1月
- インタビュー:特別座談会田中宏さん、渡辺美奈さん、矢野秀喜さんに聞く
- 2015年は重要な課題が山積
- 新基地建設阻止に向けた沖縄県民の闘い
- 食とみどり、水を守る全国集会での討議
- ウィーン会議からNPT再検討会議を臨む
- 福島第一4号機使用済み燃料取り出し完了
- 広島県平和運動センターの取り組み
- 本の紹介「栄光なき凱旋」
- 核のキーワード図鑑
- 2015年前期の主な取り組み
2015年 平和・民主主義・脱原発の旗を!
突然の衆議院の解散によって、12月14日投開票の第47回総選挙が行われました。選挙の投票率は52・66%と戦後最低となる中、自民、公明の与党に憲法改悪の発議ができる3分の2を超える326議席を獲得させることになりました。今回の総選挙結果を受けて、安倍自公政権は国民の支持を受けたと捻じ曲げ、暴走することが予測されます。彼らの狙いは、日米ガイドラインや戦争関連法の改正、沖縄・辺野古への新基地建設、歴史認識の改ざん、貧困と格差社会の進行、原発再稼働、憲法改悪へと突き進むことです。
そうした情勢の中で2015年を迎えます。私たちは、平和・民主主義・脱原発の旗を明確にし、(1)日米ガイドライン・戦争関連法改定阻止、(2)沖縄・辺野古への米軍新基地建設阻止、(3)原発再稼働を阻止し、エネルギー政策の転換、(4)歴史認識の修正を許さず、過去の清算、日朝国交正常化の実現、(5)貧困と格差社会に対抗すること等をめざし、連帯の輪を拡大して、全国各地において全力でがんばりましょう!(「衆議院総選挙の結果についての平和フォーラムの声明」より)(写真は国会議事堂=12月17日撮影)
インタビュー・シリーズ:97
【特別座談会】戦後70年、わたしたちがすべきこと 田中宏さん、渡辺美奈さん、矢野秀喜さんに聞く
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たなか・ひろしさんのプロフィール
一橋大学名誉教授。アジア人留学生との出会いをきっかけに、在日外国人の人権問題に取り組む。特に在日コリアンの権利や戦後補償問題では、運動の中心的役割を担ってきた。著書に『在日外国人─法の壁,心の溝』(岩波新書)など。
─第二次安倍政権は誕生以来、かつて日本が行った侵略の事実を否定する歴史修正主義的な立場をあからさまにしています。保守系メディアも日本軍「慰安婦」や南京大虐殺はなかったなどの報道を垂れ流し、ヘイトスピーチはやむ気配もありません。このままでは中国や韓国などアジア諸国との関係を悪化させるのみならず、被害者への補償はいつまでたっても実現されません。今回の座談会では改めて歴史認識・戦後責任問題の本質を明らかにし、2015年の戦後70年の節目にあたってわたしたちが何をすべきかについて考えたいと思います。さて、中国の習近平首席と安倍晋三首相との会談が、11月にやっと実現しましたが、どうもすぐに関係改善とはいかないようです。アジア諸国は安倍首相をどうみているのでしょうか。
【田中宏】:二人が会ったという事以上のなにもないと思います。習近平首席の表情は、他の首脳と握手している時とでは全然違うというのがすごく印象に残っている。両国間にどのような問題があるのかといえば、私はやはり歴史認識がキーワードじゃないかなと見ています。安倍さんは一応形では、村山談話をはじめとする従来の日本政府の立場を継承していますと言っているけれども、それは外国との関係で言わざるをえないだけで、本心はスケスケに見えているというのがポイントだという気がしますね。
この間、ちょうど安重根の義挙105周年記念シンポジウムがあって、ソウルに行ってきました。シンポジウムの前日に式典があって、そこに子どもたちが出てきて、安重根を讃える歌を合唱していたのです。あの子たちは、自分の民族が一度は地球上から消されたという想いを込めながら、歌っていたのじゃないかと感じました。中国の場合も、日本と戦うなかで使われていた抗日義勇軍行進曲が、そのあと中華人民共和国の国歌になっている。そういう構造です。
安倍さんとか小泉さんのような政治家には、歴史とどう向き合うのかという点が決定的に欠落していると思います。それを象徴的に表したのが習近平首席の態度ですよ。歴史から何を学ぶか、どう向き合うのかということを、日本が問われています。ヘイトスピーチの問題も、政府が高校無償化から朝鮮学校を外すという政策と裏表の関係にあるということが、あまり自覚されてないという気がしています。
─安倍首相は村山談話に先頭きって反対しました。首相になる前の12年の秋には、米国の地方紙に掲載された「慰安婦」問題の意見広告にも名を連ねました。
【渡辺美奈】:自民党の政権公約集には、戦後補償裁判や「慰安婦」問題で事実に反する不当な主張がなされて日本の名誉が著しく損なわれている、だから研究機関を設置して反論するのだと書かれています。第2次安倍政権発足後の河野談話や村山談話を見直そうという動きには国際的な圧力がかけられてすぐにトーンダウンしましたが、安倍が歴史修正主義者であることは変わらない。「河野談話を踏襲する」とさえ唱えていれば、あとは何をやってもいいという空気のなかで、「強制連行はなかった」「性奴隷はない」「河野談話は政治的文書で事実に基づかない」という印象を与え続け、河野談話を骨抜きにしようとしているのが現状だと思います。
─内田樹さんは、ペリーが浦賀に来てから日本はずっと米国への憧憬で動いてきたと書いています。そしてペリー来航の数年後に福沢諭吉の脱亜論が出てきます。脱亜論が日本人に果たした役割っていうのは大きいですか。
【田中】:やはり大きいんじゃないでしょうか。脱亜論というのは、日本はアジアと縁を切り、欧米と与すべきだという宣言でしょ。一方で、大東亜共栄圏のようにリーダーとしてアジアを率いていくという考えがあり、日本はその二つの間で揺れて来たんだと思います。それが満州事変あたりからだんだんアジアに軸足を置いて欧米を敵視し、戦後は逆に米国様々で来た。経済的にもだんだん力をつけてきた今は、やっぱりアジアにおける自分たちの地位をどう築くかも一方で考えていると思います。
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わたなべ・みなさんのプロフィール
「女たちの戦争と平和資料館」(wam)事務局長。女性の人権や戦時性暴力問題に取り組むNGOのスタッフや運営委員を経て現職に。「慰安婦」問題の解決に向けて、国連の人権機関等へ情報提供を続けている。
ただ以前と現在で全く違うのは、歴史認識の問題です。「大東亜戦争はアジア解放のための戦争だった」などと言っている政治家は、ここが読めてないんですよ。
例えば、第二次大戦で日本がやった特務工作の一つに、イギリス軍内のインド兵に対する工作があります。「われわれはアジアを解放するためにこの戦争をしている。君たちのインドをイギリスの支配から救うために、われわれは戦っているんだ」と。そういう呼びかけをしてイギリス軍の中にいるインド兵を自分たちの配下に置こうとします。ただその時に「日本はアジアを解放すると言うけれど、ならばなぜ朝鮮は独立できないのか。どうして南京でひどいことをするのか」とインド人に聞かれて困ったと回顧しています。
─みんな米国に負けたと思っているわけですよね。そして米国の豊かな生活に衝撃を受け、日本は高度経済成長に突入していく。その中で日本人の歴史認識は非常に歪んだものになったと思うのですが。
【田中】:その通りです。私は敗戦時は小学校三年生、いわゆる「(教科書)墨塗り小国民」ですよ。夏休みが終わって学校にいったら、世の中変わっているわけです。先生がいままで使っていた教科書に間違っていたところがあるから直してくださいっていうんですよ。そのうちに「新しい憲法の話」という副読本が配られて、憲法9条のところには、軍艦や戦車を溶鉱炉に入れると電車などが出てくるという挿絵がありました。そして進駐軍から流れて来るチューインガムを食べるとスーッとハッカの味がして、「これで軍国主義が出ていって民主主義が入ってくるんだ」という感じですよ。これからは米国に学ばなければならないという歴史認識を持ってきましたが、そこにアジアはまったくない。
私は62年からアジアからの留学生と接する仕事に入ったんだけど、63年に伊藤博文の1000円札が出てきたときに、華人系学生から「新しく民主主義になった国がなぜ朝鮮民族の恨みを買って殺された人をわざわざ1000円札にするのか。毎日の生活で紙幣を使う在日朝鮮人にとって残酷なことを、平気でやるんですね」と言われたわけですよ。やや図式的に言うと、米国に学ばなければいけないという形で歴史を考えてきた一方で、アジアに対する視点は全くなかった。この問題はすごく根が深い。全てはそこに行きつくんじゃないかなと思います。
【渡辺】:アジアへの視線、とりわけ植民地支配や侵略戦争に関する認識の希薄さは、「慰安婦」問題の取り組みの中でも感じることがあります。1980年代に日本の男性たちは韓国や台湾、フィリピンにセックスツアーに行っていました。かつて軍事侵略したところに経済侵略し、性侵略もしていると女性たちは批判し、「慰安婦」問題も過去と現在のつながりのなかで捉えられていたと思います。一方、1991年に金学順さんが「慰安婦だ」と名乗り出たころは、冷戦終結後の世界で民族紛争が起こって、そこでの性暴力はテレビでも報道されました。
「女性の権利は人権である」というスローガンをうたった1993年の国連人権会議(ウィーン)、そしてアジアで初めて開かれた1995年の国連北京女性会議の頃には、「慰安婦」問題は「戦時性暴力」に位置づけられ、「今も戦争になれば女性が強かんされるのは、過去の戦争での性暴力がきちんと裁かれてこなかったから」という主張が説得力をもって国際社会に受け入れられるようになり、国際刑事裁判所でも戦争犯罪、人道に対する罪として性暴力が位置づけられました。しかし、その過程の中で、日本による朝鮮半島や台湾への植民地支配、アジアへの軍事侵略、さらに戦後に連なる日本のアジアとの関係という視点が切り離されてしまったような感があります。
─「慰安婦」問題に関連して、この間の朝日新聞バッシングについてはどうお考えですか。
【渡辺】:私は朝日新聞の訂正報道とこの間のバッシングで、「証言は信用ならない」という印象を与えたのが最も大きな問題だと思っています。歴史はこれまでも権力者の男性が書いてきました。その「歴史」のなかで、なかったことにされてきた日本軍の性暴力、「慰安婦」制度の実態が、被害者の勇気ある証言で明らかにされ、さらに日本軍が極めて広範囲に、組織的に女性たちを連れてきて管理していたことが、研究者の発掘した文書でも裏付けられた、とても稀な事例だと思います。それをいま被害者の証言も加害者の証言も否定して、文書になければすべてなかったとされようとしている。軍の文書に強制連行せよなんていう命令を書くはずがないし、都合の悪い記録は焼却していたでしょう。全国民がこのような短絡的な主張をこのまま信じていくのだろうかと思うと、恐ろしい感じがします。
戦後70年の時には、どうにか被害者への謝罪や補償を実現するために力を尽くそうとしていたところに、まるで20年前に逆戻りさせられたような感覚です。このままでは「『慰安婦』問題は吉田清治って人がつくった誤報だ」という話になっちゃいそうですよ。被害者も次々と亡くなり、説得力を持って証言してくれる人が少なくなっている中で、日本軍「慰安婦」制度の事実は「やっぱり本当だった」というところまで戻すのはすごく大変。歴史の事実の認知がないところでは謝罪は意味を持ちません。
さらに、マスコミについては、「どう報じたのか」じゃなくて、「なにを報じなかったのか」という問題が発生してきていると思います。NHKも安倍の宣伝機関になっていますよね。今年、オランダの国王が来たときに「過去」に言及しましたが、「雅子フィーバー」にされて報道されなかったし、沖縄での動きも報じない。報道されたものは批判できますが、報道されなかったことは何なのか、感知するのは難しい。これから大変だと思います。
─最近は「売国奴」や「国賊」のように、元々は右翼の人達しか使わないような言葉が、マスコミによってオーソライズされているような気がします。
【渡辺】:「非国民」など国家中心主義的な言葉を投げつけられることが増えたように思います。国会でも、1990年代までは「国益」という言葉はあまり使ってなかったと思います。ところがいまは、領土問題だけではなく、ODA大綱でもなんでも「国益」こそが守るべき最も重要な価値であるかのような認識が急速に広まっているのが怖いですね。
─ドイツの場合、外交的に自分達がどう振る舞わなければいけないのかと考えてきたのに、日本の政治家はそのようには考えてなかったように思います。
【渡辺】:かつて永野法務大臣(当時)が、南京大虐殺はなかったと発言して厳しい批判を浴びて、辞任しました。ところが今は誰でも同じようなこと言っている。公的な立場の人も何を言ってもいい、批判もされなければ処分も受けない。ヨーロッパであれば、歴史を否定したり女性や特定の民族を差別する発言をした人は公的な立場にいられないはずです。石原慎太郎のように何を言っても制裁をうけず公人でいられるのは日本的な特徴だと、国連のロビー活動でも指摘されました。
─経済の方に視点を移すと、2012年には日本からの輸出額は、中国の方が米国より上だったのに、2013年は逆転しています。中国にものが売れなくなっている。そのような中で韓国の大法院(最高裁)が、強制連行の個人賠償を認める判決を出しました。
【矢野秀喜】:韓国の大法院は2012年5月24日、三菱重工と新日鉄が被告になっていた強制連行事件訴訟で、一審、二審の判決を破棄、差し戻しました。なぜかというと、日本の司法の判決の既判力を認めたら、韓国併合や植民地朝鮮に国家総動員法や国民徴用令を適用することも合法と認めることになる。それは大韓民国憲法の核心的価値に反するわけです。そこで原告の請求を棄却した判決を破棄・差し戻し、2013年の7月、差戻し審では原告が勝訴しました。
それに対して日本の企業は危機感を持ち、2013年11月に経済4団体が「良好な日韓経済関係の維持発展のために」という談話で、「このままでは、投資、貿易にも悪影響を及ぼす」「この問題を早期に解決するべきだ」というコメントを出しました。
日韓関係でいうと、貿易は日本がずっと黒字です。なぜかというと、65年の日韓請求権協定で日本が韓国に対していろんな資本財を支援し、そのベースの上に日本が韓国に対し様々な素材をどんどん供給するという構造ができたからです。そんな日韓関係が危うくなったら、日本の経常収支はもっと悪化するので、経済界はずっと危機感を持っています。
ただ、今の日本社会を覆っている空気をみると、もし経済界が「歴史問題が一番のネックだから、なんとか知恵を出して解決すべきだ」と言ったら批判が飛んできます。だから言えない。日中間も同じです。たとえば自動車でいえばトヨタは中国でのシェアをどんどん落としているわけですよ。本当は厳しいんですよ、日本は。そこを解決するということが政権担当者として当然果たすべき役割だと思うけども、そういう発想ができない。これこそ歴史修正主義だと思います。
─戦後補償・植民地支配・侵略戦争に対してどう国家の責任を果たしていくのかが問われていると思います。最後に、戦後70年にあたる2015年、みなさんはどのような取り組みが必要だと考えられますか。
【田中】:須之部量三(1918年~2006年)という外交官だった人が「条約とか協約ということでは(戦争は)一応終わったことになっているけれども、いまとなってみるとやっぱりすっきりしないものがある。やっぱりきちっとしないと国の徳が問われるということを我々は真剣に考える必要がある」と話していました。今の外務省にはそういう想いがない。
また、安倍が国連・常任安保理事国に入りたいという意欲を示したらしいですが、日本がその国連の様々な委員会からどのような勧告を受け批判されているのかということは、ちゃんと紹介されてないと思います。例えば、朝鮮学校の高校無償化除外や自治体の補助金カットの理由について、日本の役人は「拉致問題に進展がない」「朝鮮総連の影響が及んでいる」というのですが、国連では全く相手にされてないわけです。それなのに安倍さんは国連で常任安保理事国入りを主張する。僕はこうした問題について国会でもしっかり追求した方がいいと思っています。
また国連では、人権侵害があった場合に国内的な裁判所で全部やったけれども道が開けない時には国連に審査を求めるという個人通報制度というのがあるんです。これが日本はどの条約に関してもやってないんです。もちろん拘束力はないのですが、しかしこれが実現したら日本としたら困るわけです。無茶苦茶だから。だから僕は思い切って戦後70年にあたって、国連に対する個人通報制度の道を開いていくように取り組むべきだと思います。
【渡辺】:安保理常任理事国入りの話題が出ましたけど、「慰安婦」問題の解決なしに常任理事国に立候補できるとでも思っているのか、と改めてキャンペーンをしなくてはならないと思っています。安倍は今、「慰安婦」問題をなかったことにしながら、「紛争下の性暴力を根絶する先頭に立つ」とふざけたことを今年9月の国連総会でも発言しています。また、2000年に採択された「女性・平和・安全保障」をテーマにした安保理決議1325号というのがあるんですが、決議だけでは実行力がないので各国は具体的な行動計画をつくることになっています。日本政府はずっと見向きもしなかったのが、2013年にいきなり作ると言いだしました。常任理事国への布石だったに違いありません。
紛争下の性暴力をなくすために日本政府が為し得るもっとも有効な施策は、70年経った今でも軍の犯した性暴力の責任を認めて補償しなくてはならないと自ら示すことです。そのためには真相究明と教育・記憶は重要な要素です。韓国と中国がそれぞれ「慰安婦」制度の事実をユネスコ世界記憶遺産にする方向で取り組んでいますが、政治的ではなく、歴史の事実を残していくために、中国は持っている日本軍の文書を公開してほしいし、韓国は貴重な証言をしっかり記録化してほしい。日本の歴史修正主義に対しては、二度と過ちが繰り返されないように記憶をつないでいく意志が必要です。
日本でも、1993年の河野談話からすでに20年以上経っているのですから、第3次調査をしていいはずです。1980年代からの読売新聞の「慰安婦」報道をwamで検証しましたが、読売でさえ「国会に調査機関をつくれ」という国会議員の声を何度も拾っていました。そうすれば歴史研究者も関与しやすい。最近、河野談話のように政府が歴史の事実を認定するのは、はたして最善の方法なのかと感じています。今年の6月に河野談話以降に研究者や市民が発見した公文書500点以上を提出し、それを内閣官房副長官補佐室が受けとりましたが、それっきりです。実際、彼らに検証する能力はないと思うんですよ。政府に調査や検証を期待すること自体も検討すべきなのかもしれません。
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やの・ひできさんのプロフィール
「日韓つながり直しキャンペーン2015」事務局長。長年にわたって反戦平和活動に取り組む。近年は強制連行や歴史認識などを中心に、新しい日韓関係の構築のための運動を若者とともに行っている。
ソウル市内にある「戦争と女性の人権博物館」。日本社会は 改めて被害者の証言に向き合わなければならない。 |
【矢野】:2014年中に出るかどうかわからないのですが、韓国の大法院判決は、早晩出ます。その時、企業が判決にそのまま粛々と従うか、あるいは拒絶して強制執行になるかわからないけども、賠償を絶対に実行させる、判決に服させる必要がある。これが日韓の外交問題になっては大変だという声は韓国の中にもある、弁護士会の中にすらあるんです。しかし、わたしは、被害者の権利回復については、韓国の大法院が確定した時には、きちんとやるというのは当たり前だと思うので、しっかり実践に移したいと思います。
ちなみに日韓条約を結んだ朴正煕元大統領は旧日本軍の将校で、クーデターで政権とった人です。ですから、その政権の正当性を知らしめるためにも、日本からなにか引き出す必要があったわけです。そういう関係の中でできた日韓条約・協定なんです。しかし今の韓国社会は1987年の民主化以降、自国の政権がやったことについての追及・過去清算をやってきて、その結果として大法院判決を出すところまでは到達しているわけです。ところが日本は、昔は李承晩ラインなどを口実に韓国に対する反感を煽ってきたし、今はヘイトスピーチをまき散らす在特会がいます。
当時は、反共冷戦が最優先されたのではないでしょうか。東京裁判では植民地支配の不法性についてはなにも裁かれてなかったし、サンフランシスコ講和条約でも南北朝鮮や中国は関われなかった。植民地支配そのものに対する賠償はなかった。ところが韓国はいま、そんなことは認めないという風になりつつあるわけです。日本は本当にこのままでいいのか。やはり歴史をきちんと知るという事がないと、認識は変わらない。わたしは若い人の中にそういう事実をきちんと伝えていくのが大事だと思っています。
2015年は重要な課題が山積
平和・民主主義・脱原発に向けて走り出そう
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 福山 真劫
2014年の運動と総選挙の結果
平和フォーラムは、2014年も安倍自公政権の暴走に対抗して、平和・民主主義・脱原発の旗を掲げて、走り続けてきました。組織と運動の強化を基本に、求められている社会的役割を果たすべく、「さようなら原発1000万アクション実行委」「戦争をさせない1000人委員会」などと連帯の輪を大きく拡大して取り組んできました。そうした中で、戦争をさせない1000人委員会の全県への拡大をはじめ、9月4日の「戦争させない・9条壊すな総がかり行動」、同23日の「さようなら原発全国大集会」、11月11日の国会包囲行動など市民運動・大衆運動は大きく高揚してきました。
しかし、12月14日の第47回衆議院総選挙は、投票率が52・66%と戦後最低の中、自民・公明の与党に3分の2を超える326議席を獲得させてしまいました。私たちにとって、極めて深刻な結果です。確かに民主党や社民党、共産党、立憲フォーラム参加議員は善戦しました。しかしこの2年間の安倍の暴走に対する評価としてはきわめて残念な結果です。自公政権を過半数割れ・敗北に追い込む戦略を野党、とりわけ民主党が描くことができなかったことに敗因がつきます。それぞれのところで再出発へ向けての真摯な総括が求められています。
安倍自公政権の狙いは何か
安倍自公政権は今回の選挙結果を受けて、国民の支持を受けたと捻じ曲げ、暴走することが予測されます。彼の狙いは、日米ガイドライン・戦争関連法の改正、沖縄・辺野古への新基地建設、歴史認識の改ざん、貧困と格差社会の進行、原発再稼働、憲法改悪へと突き進むことです。
しかし、これらの個別政策は国民に支持されているわけでなく、強行すれば矛盾が一気に深刻化します。アベノミクスも失敗しており、このまま続ければ貧困と格差、生活破壊がさらに進み、国民の不満も一挙に高まることが予測されます。
こうした事態の中で、安部自公政権はNHKや朝日新聞に対するようにマスコミに介入・懐柔し、権力批判を沈黙させ、また日本会議などの右翼勢力を利用し、ナショナリズムをあおり世論を右傾化させ、それでも対抗する勢力には弾圧による強権政治を推し進めてくることが予測されます。教育へも大幅に介入してくるでしょう。その先に見えてくるのは「ファシズム」です。
私たちの対抗戦略の基本を明確にしよう
そうした情勢の中で2015年を迎えます。安倍自公政権の暴走は、国際的にも支持されず、国内的にも、市民や市民団体、労働団体や平和団体、脱原発や沖縄の反基地運動、野党などの対抗勢力の反撃への闘いを高揚させ、与党内・保守勢力内でも矛盾が生じることは確実です。連帯の輪を大きく拡大して闘えば、安倍の暴走を止め退陣に追い込み、政策転換を勝ち取ることは可能です。平和フォーラムは次の点を踏まえ、全力で取り組みます。
1.めざす目標を明確にすること
平和・民主主義・脱原発の旗を明確することと合わせて、特に(1)日米ガイドライン・戦争関連法改定阻止、(2)沖縄・辺野古への米軍新基地建設阻止、(3)原発再稼働を阻止し、エネルギー政策の転換を勝ち取る、(4)歴史認識の修正を許さず、過去の清算、日朝国交正常化をめざすこと等です。
2、反対運動とともに、政策課題を実現する運動を組み立てること
一般的な反対運動やスローガンだけの運動ではなく、運動の到達点と地域の市民が求めている具体的な政策課題について、私たちの掲げる方針を具体化して取り組むことです。
3、連帯の輪を大きく拡大して、国民的規模の大衆運動を作り上げること
野党や労働団体に従来に増してその役割を果たすよう求めるとともに、「戦争をさせない1000人委員会」「さようなら原発1000万アクション」などの運動をさらに大衆化させることです。とりわけ、1000人委員会は、市町村や地域、職場に組織を作ることや、安倍自公政権を包囲するために、これまでの経過を踏まえながらも幅広い組織との共闘も視野に入れることも含めて、全国で連帯の輪を拡大することです。
4、運動を背景に、統一して自公政権とその支持勢力の中に分断を持ち込むこと
日本会議など極右勢力を中心とする安倍のめざしている「亡国政策」について、疑問視する勢力は確実に存在します。連帯の輪を保守リベラルまでさらに拡大しましょう。
5、立憲フォーラム、自治体議員立憲ネット等と連携すること
民主党、社民党の再生に期待しながら、立憲フォーラムや自治体議員立憲ネットワークなど、基本方針が重なり合う政治集団と連携を強化することです。統一自治体選挙など今後の各種選挙に備えましょう。
6、平和フォーラムの組織と運動を強化すること
2015年は平和・民主主義・脱原発をめざす私たちにとって重要な課題が山積しています。めげている余裕はありません。さあ走り出しましょう。
(ふくやま しんごう)
新基地建設阻止に向けた沖縄県民の闘い
安部政権の暴走を止め、辺野古断念へ
沖縄平和運動センター 事務局長 大城 悟
県知事選挙で示された圧倒的な民意
11月16日の県知事選挙で翁雄志前那覇市長が、現職の仲井眞弘多知事に約10万票という大差で圧勝した。選挙は現職候補を含め4人が立候補したが、翁長新知事が総投票者数の過半数を超える51.23%を獲得する大勝だ。翁長知事は稲嶺進名護市長と連帯して、あらゆる手段を行使し、辺野古新基地建設を断固阻止すると力強く訴えた。
自らの公約を放り投げて県民を裏切り、辺野古の埋め立てを承認した仲井眞前知事に対し、県民が改めてNOという強烈なメッセージを突き付けた。これ以上の過重な基地の押し付けは認めない。これ以上の不条理は決して許さない県民の意思を示した。民主主義国家を標榜するなら、安倍晋三政権は今回の県知事選挙の結果を軽くみてはならない。「基地の整理縮小や負担軽減」という口先だけの言葉はもはや沖縄には通用しない。日米両政府は、辺野古新基地建設を即刻断念すべきである。
政府・沖縄防衛局の露骨な姿勢
選挙期間中は、辺野古の海も静かになった。政府は知事選挙への影響を懸念し、すべての作業を中断させた。しかし、現職の仲井眞前知事の劣勢の情報が伝わると、政府は知事選の結果に関わらず「辺野古移設は粛々と進める」と結果が出る前から明言していた。その言葉のとおり、沖縄防衛局は選挙2日後の18日の深夜に大型トレーラー11台で大量の資材をキュンプ・シュワブに運び入れ、翌19日にはゴムボートを多数出動させ、浮桟橋の再設置やオイルフェンスの張り出しなど海上での作業を開始した。これまでに何度もとってきた卑怯な手段だ。
安倍政権は11月21日に衆議院を解散した。大義なき解散であり、自身の政権の延命を狙った解散だ。そして、もう一つが沖縄県知事選で示した県民の民意をリセットするためだ。沖縄への構造的差別を強行する意図は明らかであり、政府の傲慢なやり方は認められない。他方沖縄では、総選挙と併せて注目されていたのが県知事選挙で惨敗した仲井眞前知事の動きだ。12月9日までの任期中に辺野古埋め立ての変更申請の判断をするか県民の最大の関心が集まった。沖縄防衛局は9月3日、昨年承認を受けた本申請の工法の変更4件を県に提出している。その中の1件は美謝川の水路の変更であったが、稲嶺名護市長の協力が得られないことから、11月27日に取り下げた。残りの3件については県の審査が続き沖縄防衛局とのやり取りが終盤をむかえていた。
沖縄防衛局は、翁長知事や稲嶺市長が辺野古新基地建設に反対していることから、「仲井眞前知事が任期中に承認しやすいよう、進められるものから進める」と述べ、承認しやすい環境をつくったと明かした。政府・沖縄防衛局の露骨なやり方に県民は唖然とした。
2200人で県庁を包囲し抗議(12月4日・那覇市) |
許されない仲井眞前知事の変節
そうしたなか、仲井眞前知事は知事選後に初めて県庁に登庁した11月18日、県幹部との会議で自身の県政は「レームダック(死に体)の状況にある」と発言、辺野古埋め立ての変更申請等の重要案件は次期翁長知事へ委ねる意向を示していた。また、翁長知事も自身に委ねるべきだと述べていた。知事選で圧倒的な民意が示されたのだから当然のことである。しかし、仲井眞知事は、11月28日に安倍首相や菅官房長官との退任前の会談後、態度を変え、残りの任期がわずか5日に迫った12月5日に変更申請3件のうち2件を承認した。県民の民意は辺野新基地建設反対であり、今回の変更承認に県民のただ一人も理解できる人はいない。
最後まで県民の誇りと尊厳を踏みにじる仲井眞前知事は到底許せるものではなく、県政史上最大の汚点を残した。12月9日仲井眞前知事の退任の日、反対する市民が県庁へ押しかけるなか、まともな離任式もできず庁舎を後にした。
政府の圧力に決して屈しない
12月14日の投開票で衆議院総選挙が行われたが、沖縄では最大の争点は辺野古問題である。辺野古の闘いは始まったばかりだ。私たち県民は改めて県知事選挙で示した、辺野古新基地建設に反対するオール沖縄の民意を示さなくてはならない。
政府の圧力に決して屈しない「うまんちゅ(万人)の心」を示さなくてはならない。沖縄の未来のため。これまでも全国から多くの支援をいただいた。心から感謝を申し上げ、そして、決してそのことを無駄にしないことを改めて強く決意したい。
(おおしろさとる)
食とみどり、水を守る全国集会で食・農林業・環境問題を討議
地域と暮らしを軸とした運動をどう作り出すか
11月28日~29日に東京・日本教育会館で開催された「第46回食とみどり、水を守る全国集会」(全都道府県から500人参加)は、「当たり前に生きたい!むらでもまちでも」をスローガンに、安倍政権が進める食料・農林業・環境政策に抗し、地域と暮らしを軸とした運動をどう作り出すかを主題に議論が交わされました。また、衆議院の解散・総選挙の事態に対して、主催者あいさつに立った石原富雄実行委員長(全農林委員長)は、安倍政権の大義なき衆院解散・総選挙を批判し、「今回の総選挙は食・みどり・水に関わる取り組みにとっても大きな転機になる。持続可能な循環型社会を実現し、農林水産業の再生を図るためにも奮闘しよう」と訴え、「衆議院総選挙の勝利をめざす特別決議」も行いました。
グローバル化に対抗する地域の営み
第1日目の「地域の営みが変える未来」をテーマにしたシンポジウムでは、山形県長井市で農業を営み、地域の資源循環の運動を推進し、現在は置賜地域での「自給圏構想」を提唱している菅野芳秀さんが、環太平洋経済連携協定(TPP)などに対抗した地域の生産者と消費者の関係や教育、産業の連関作りを提起しました。
また、太田区議会議員時代から、子育て、介護、環境、まちづくりなどに取り組み、現在、市民政策アナリストとして特に国家戦略特区問題に取り組む奈須りえさんは、「戦略特区とは、企業のためにルール無き無法地帯を作るもの。自治体の権限も奪われてしまう。市民が作り上げる新たな公共が必要だ」と語りました。
こうした現場からの意見を受け、農林中金総合研究所常務などを務め、全国の農業・地域問題を調査・政策提言している農的社会デザイン研究所代表の蔦谷栄一さんが「グローバル化に対抗するのは地域の営みだ。生命を核とした自立・共生・あらたな協同をめざす関係性の紡ぎ直しを」と呼び掛けました。
これらは、集会の全体基調である(1)大震災・原発事故を契機として政治・経済・社会構造の見直しを図る、(2)食・みどり・水、農林漁業を基軸に、地域からいのちと暮らしを守る運動を拡大する、(3)地域資源を活用した食・エネルギー自給、市場経済優先から循環型社会への転換をめざす運動の意義を裏付ける討議となりました。
「食料・農業・農村対策」の分科会では 農政のあり方をめぐって激しい議論が交わされた (11月29日・日本教育会館) |
安倍農政は現場を踏まえない財界の言いなり
2日目は4つの分科会がもたれ、主要課題の問題点と運動が議論されました。「食の安心・安全・安定をめぐって」は、昨年から進められている新たな食品表示法に基づく表示基準について、食の安全・監視市民委員会の神山美智子代表は「食品安全行政は消費者の方向を見ておらず、例えば、栄養成分表示は事業者が実行可能なものが優先されている。消費者の権利と役割を拡大するため、おかしいことは行政や事業者を追求することが大切だ」と訴えました。
また、地域の中で農や食を守る具体的な取り組みとして、地産地消の学校給食が進められており、佐賀県武雄市での、市内全職員で取り組む給食の時間や学校・地域・行政が連携した食育の推進に取り組んできた実例が報告されました。
食料・農業・農村政策については、農村部の人口減少や高齢化が進行し、農業生産維持が困難となる地域が増加する中、「産業政策と地域政策を車の両輪として、『攻めの農林水産業』を展開する」と、農水省大臣官房政策課長が説明しました。これに対し、東京農業大学の谷口信和教授は「実態や現場感覚を踏まえない財界の言いなり農政だ。このような政策は変えるべき」と厳しく反論し、参加者からも今年の米価の暴落対策を求める意見も出され、「農政には持続性・安定性が不可欠だが、今の農政は、農水省主導から官邸、財界による農政へシフトし、過去の農政の検証抜きの思いつきの提案が羅列されている」(谷口教授)などと、農政運動が重要な段階にあることが強調されました。
一方、水・森林を中心とした環境問題では、健全な水循環を構築するために2014年3月に成立した「水循環基本法」などの新たな動きも踏まえ、「自治体で始まった水保全の動き」について水ジャーナリストの橋本淳司さんが、「水田を復活し地下水涵養、間伐材利用による林業育成と水源地保全など、政策連携による地域の特徴を踏まえた施策の具体化が重要」と指摘されました。さらに、「水循環基本法」に対する今後の運動や、地域での新たな木材活用の試みなども討論されました。
ウィーン会議から2015年NPT再検討会議を臨む
―核兵器禁止の法的枠組みへの具体的前進が必要
NPO法人ピースデポ 事務局長代行 塚田晋一郎
「核の非人道性」で3回目の国際会議─ウィーンで開催
2014年12月8~9日、オーストリアのウィーンにおいて、第3回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」が開催された。核の非人道性会議は、2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議において、初めて会議の最終文書に「核兵器の非人道性」への言及がなされたことを受け、核兵器廃絶に熱心な有志国が主導して開催されてきたものである。13年3月にノルウェーのオスロで初めての会議が、14年2月にメキシコのナヤリットで第2回が、それぞれ開催国政府の主催で開かれてきた。
ナヤリット会議の「議長要約」は、「ポイント・オブ・ノー・リターン」(引き返し不可能地点)という言葉を用い、この会議の議論を経て、核兵器禁止条約などといった、核兵器を禁止するための法的拘束力をもった実質的な枠組みの必要性を強調した。
しかしその後、4~5月のNPT再検討会議準備委員会や、国連総会第1委員会などを経てもなお、核兵器禁止の法的枠組みに関する具体的な議論や交渉開始を主導する政府は登場していない。このままでは、これまでのNPT再検討会議において繰り返されてきた核兵器国と非核兵器国の対立構造が継続され、結局、実質的に意義のある核兵器廃絶に向けた前進がなされない状態が続くことが危惧されていた。そのような状況の中、ウィーン会議は開催された。
核兵器の人道的影響に関する国際会議(出典:pressenza) |
米英が初参加したことの意義
米政府は、11月7日、国務省報道官のプレス・リリースで、ウィーン会議への参加を表明した。過去2回の会議では、核保有国による参加はなかった。さらに会議直前の12月4日、イギリスの在ウィーン国連代表部は、同国の会議への参加を発表した。米国が今回、参加へと転じたことに合わせた決定である。
核兵器国の参加という点に限っていえば、今回の米英の姿勢は歓迎すべきものであり、主催国オーストリアによる交渉の成果であろう。しかし、両国は参加表明の際から「この会議は核軍縮を議論する場としては適切ではない」との考えを明言し、実際にウィーン会議においても、最終的には核兵器のない世界へと向かうべきであるが、しばらくは核兵器保有継続が国防・安全保障の観点から必要不可欠であるとの従来の立場を繰り返した。ウィーン会議には、過去最多の158ヵ国政府が参加した。米英の他、NPTの枠外の核保有国からはインドとパキスタンが参加した。さらに、国際赤十字委員会、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)なども参加した。
会議のプログラム(http://bit.ly/HINW_14)は以下の通りであった。
オープニングセレモニー:セバスチャン・クルツ・オーストリア外相、アンゲラ・ケイン国連軍縮局上級代表、赤十字国際委員会(ICRC)総裁、被爆者代表らのスピーチ
セッション1:核兵器爆発の影響、核実験の影響
セッション2:意図的または偶発的核兵器使用のリスク制御
セッション3:核兵器使用やその他の事態に関するシナリオ、課題、及び能力
セッション4:国際規範及び核兵器使用の人道的影響に関する概要
国際NGO「リーチング・クリティカル・ウィル」の会議報告(http://bit.ly/RCW_rep)によると、参加国のうち29ヵ国が核兵器禁止のための法的拘束力を持った枠組みの交渉を呼びかけた。会議の閉幕前に発表された「議長要約」でもそのことが強調された。また、議長要約は、NPT(第6条の「軍縮」)の要請でもある、核兵器廃絶へ向けた効果的措置としての核兵器禁止の新たな法的枠組みの交渉を開始することへの支持を表明した参加諸国の視点を反映したものとなっている。
さらに、主催国オーストリアは、「オーストリアの誓約」を発表し、オスロ、ナヤリット、ウィーンでのこれまでの成果を踏まえ、核軍縮に関するあらゆる議論、義務、誓約について、来年のNPT再検討会議やあらゆる議論の場において提示していくことを自国の責任とみなし、誓約すると表明した。
いずれにしても、半年後に迫るNPT再検討会議(4月27日~於・国連本部)に向け、有志国や市民社会が、今後いかに核兵器禁止の法的枠組みに関する議論を前進させることができるかが重要である。とりわけ「唯一の戦争被爆国」としての立場を標榜する日本政府においては、核兵器の非人道性の議論などを通じて、国際社会を主導する責任がある。
私たちピースデポは、来年のNPT再検討会議においても、国連本部内で東北アジア非核兵器地帯条約構想に関するNGOフォーラムを開催予定である。世界の志ある政府やNGOが様々なアプローチを模索しながら、来年のNPT再検討会議をより意義のあるものにしていかねばならない。
(つかだしんいちろう)
福島第一4号機使用済み燃料取り出し完了
計画の狂いは規制委のせい?
福島第一原子力発電所4号機の使用済み燃料1331体の貯蔵プールからの取り出しが11月5日終了し、同プールに置かれていた新燃料204体のうち12月15日現在残っている26体の取り出しも2014年中に終了の予定となっています。事故当時取り出したばかりで発熱量の大きな使用済み燃料も入っていて大きな問題となった4号機が片付いて一安心ですが、次の3号機の取り出し作業に必要な空冷式金属製乾式貯蔵容器の調達の遅れが原子力規制委員会の許可手続きのせいであるかの説明を東電がして更田豊志委員をいらだたせています。
不適合品のため移動計画を変更
福島第一原発には、次の三つの種類の使用済み燃料(及び新燃料)貯蔵施設がありました(括弧内は事故当時の保管量)。(1)原子炉建屋の高い所にあるプール(事故を起こした4基合計約3000体、うち約1500体が4号機)(2)共用プール(約6400体:余裕は約400体分)③乾式貯蔵施設(空冷式金属容器9基に約400体)。計画はこうです。①の使用済み燃料(及び新燃料)を順次受け入れるために、(2)に収容されている使用済み燃料の約半分を金属容器(キャスク)に入れて、高台に新しく設けた仮保管エリアに置く。(3)にあった貯蔵専用キャスク9基はそのまま同エリアに。この9基と(3)に元々追加で収容するはずだった貯蔵専用キャスク11基合わせて20基、それに、青森県むつ市の中間貯蔵施設(RSF)に入れるはずだった輸送・貯蔵兼用キャスクのうち30基、全部で50基を使用。兼用容器の内分けはキャスクA22基、キャスクB8基。同エリアにはさらに15基分のスペース。最終的には、5及び6号機の燃料も共用プールに移す。(これまで、貯蔵専用11基とキャスクB8基で約1000体を共用プールから仮保管エリアに移動。この19基と(3)にあった9基、合計28基が並んでいる)。
ところが、キャスクAは「材料規格不適合品であり、使用を断念」「使用材料の課題及び溶接継手形状の課題を抱えているため製造を中断」したため(東電)、4号機の新燃料を受け入れるスペースを共用プールで確保することができず、新燃料180体が共用プールではなく6号機のプールに移されることになりました。この変更理由を東電は6月18日の記者会見で「一部のキャスクに係る許認可手続きの長期化により」と説明しました。翌19日の東電との面談のまとめにおいて規制委は「許認可手続きの長期化ではなく、使用材料や溶接継手形状といった課題について事業者において検討が行われていることが原因と承知しているため、今後とも適切な説明をすること」と述べています。国内製造能力を持たないキャスクAの納入会社が外国の製造会社に発注するという状況で日本の規制基準を考慮し損ねたことが原因なのに規制委の怠慢が原因であるかのような説明をされては困るということでしょう。記者会見に関する記事には、次のようにあります。「容器の安全性に関する原子力規制庁の認可取得に時間がかかっており、共用プールから燃料を動かせない状況で、東電は『認可取得までの想定が甘かった』としている」(「福島民友」6月18日)。
3号機用の調達も遅れる
また、3号機の使用済み燃料のスペースを共用プールを作る目的でキャスクBを9基追加製造して使うこととしました。これは、上記8基と同じ仕様で、元々むつ市のRSFに使用済み燃料を輸送・貯蔵するためのものです。RSFでの使用を前提とすると、基準地震動などに関して行われるRSFの審査を待たなければならなくなります。それで、「新規制基準等の審査の関係がございまして、製造中検査については現在できない状態」なので、ひとまず3基についてのみ、福島原発での貯蔵用として審査をするよう要請した(10月31日特定原子力施設監視・評価検討会での説明)」と東電は言います。
これに対し規制委の更田委員は、製造中検査が現在できない状態といっても、「福島第一原子力発電所専用にしてしまったら、それは関係なくなるんじゃないですか……RFSの審査を待つというような馬鹿な真似はやらないでいただきたいし、私たちとしても、規制上、その規制がリスクを下げることの障害には絶対にならないというのは、これはもう規制委員会の発足意義でありますから。あたかも、検査を待たなきゃならないと言われると困ってしまうわけで、将来、RFSを持ってきたいという意図があるんだったら別ですけれども、まずは、とにかく福島第一原子力発電所で必要なキャスクを調達するということに全精力を注いでいただきたいと思います」。
安全性のため乾式貯蔵への移行を提唱する規制委
田中俊一委員長は就任直後から乾式貯蔵への早期移行の必要を唱えています。10月29日の規制委臨時会議では更田委員が九州電力に対し、次のように述べています。加圧水型(PWR)の場合は「使用済燃料プールが比較的低い位置にあるとは言うものの、ああいった形で使用済燃料プールの貯蔵量を増やしていくよりは、乾式のキャスクに入れて、それこそ、その辺に転がしておくというと言葉は悪いですけれども、その方がまだ更に安全性は高いのではないか」。続けて田中委員長も福島の教訓を強調します。「4号機にあった千数百体はほぼ下に下ろすことができた(が)一時は大変なパニック状態」。乾式キャスクは「建物は壊れたけれども、中の燃料も容器も健全であった」「落下試験とか、火災試験とか、いろいろなことに耐えられるように、非常に頑丈にできている」「国際的に見ても、一定程度冷却が進んだものはプールから出して、乾式容器に入れてサイト内に貯蔵する方が……一般化」「積極的に、安全確保とセキュリティの面から、是非取り組んでいただきたい」「規制という段階では」ないが「是非福島第一原子力発電所の事故の教訓も踏まえ……社長のイニシアチブでやっていただければありがたいと思います」。
(田窪雅文:「核情報」主宰)
各地からのメッセージ
被爆地ヒロシマから平和・核廃絶を発信 広島県平和運動センター
事務局長 藤本 講治
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広島県平和運動センターは、ナショナルセンター「連合」に引き継げなかった旧「総評」の平和運動を継承する組織として設立。現在26労組、約25,600余名の労働者が結集し、「平和・人権・環境」を守る運動を展開しています。また、平和運動センターが構成団体となっている「原水爆禁止広島県協議会」「憲法を守る広島県民会議」「部落解放広島県共闘会議」「食・緑・水・環境を守る広島県民会議」の組織の軸を担っています。
主な取り組みは、護憲運動では「12.8不戦の誓い!ヒロシマ集会」「紀元節復活反対!平和・民主主義・人権を守る2.11ヒロシマ集会」「輝け9条・活かそう憲法5.3ヒロシマ集会」を開催し、平和憲法を守り、憲法理念の実現をめざす取り組みを行っています。とりわけ、この一年は「戦争をさせないヒロシマ1000人委員会」運動に総力を上げ、県内15地区労や市民運動と連携しながらの街頭署名行動や、10月4日には、作家の大江健三郎さんを招いて「戦争をさせないヒロシマ集会」を開催しました。
原水禁運動では、原水爆禁止世界大会広島大会の開催、核実験抗議の座り込み、核兵器廃絶1000万署名や高校生平和大使の支援など被爆地ヒロシマから核廃絶・脱原発の運動を発信しています。11月15~17日には、福島県平和フォーラムの協力をいただき、福島原発被災地フィールドワーク(飯館村・南相馬市・浪江町)を実施。被災地の厳しい現実を目のあたりにして、福島に連帯してヒロシマの使命として原水禁運動を強化しなければならないことを改めて感じました。(写真)
解放共闘では、毎年、部落問題の学習・フィールドワークを開催しています。また、長年の課題であります連合広島の県共闘会議への参画が間近になるなど、人権確立の取り組みを粘り強く取り組んでいます。
食・みどり・水・環境を守る運動では、アジア・アフリカ支援米運動や野外体験活動のほか、11月24日に「TPP問題を考える講演会」(講師:山田正彦元農水大臣)を開催しました。
安倍自公政権の憲法改悪、原発の再稼働が現実のものとなった今、平和・護憲の「砦」としてこれからも組織と運動の強化、地区労運動の活性化に力を注いでいきたいと考えています。
(ふじもとこうじ)
〔本の紹介〕
真保裕一著「栄光なき凱旋」
文藝春秋文庫
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敗戦70年を前に、あらためて戦争について考える小説を紹介します。これまで戦争を直接体験した世代の作家が実体験を基に描いた小説は数多く出されていますが、近年、戦争を経験したことがない世代の作家が描く作品も多く見られるようになってきました。その中で問われるのが作家の立ち位置と想像力だと思います。
ここに紹介する「栄光なき凱旋」は、戦争の持つ矛盾や理不尽さなど戦争の持つ本質にある面で迫ろうとしているように感じます。綿密な取材と作者の構想力が、1400ページを超える長編(文庫では上・中・下の3巻)にもかかわらず、迫力をもって迫ってきます。
物語の主人公は3人の日系アメリカ人の若者で、彼らを取り巻く国家や民族、家族、友情、そして差別など様々な側面が戦争によってクローズアップされ、それぞれの立ち位置が問われ、その中で苦悩する物語です。真珠湾攻撃で始まる物語は、アメリカに移民した日系人にとってどのような意味をもっていたのでしょうか。特にハワイには当時10万にものぼる日系人が暮らしており、その地で戦火の火ぶたを切ったことは、彼らの存在を日本は切り捨てたことであり、アメリカ全土に散らばる日系人を切り捨てたことになりました。そのことにより日系人に多くの受難がもたらされました。
そもそも移民そのものが、当時の日本の棄民政策の一端であり、開戦によってまた再び棄民として切り捨てたことになります。日系移民は当時、社会的な身分も不安定な中に置かれ、差別や偏見の中にありました。それが開戦によって祖国日本からも裏切られ、より一層厳しい状況におかれました。アメリカと日本の国家の狭間の中で苦悩し、アメリカ人たる存在を証明するために、日系人部隊としてより危険な戦場での闘いを余儀なくされたり、語学兵となってその能力を活かして祖国を敗北に追い込むために日本軍と対峙し、同胞同士の闘いの真っただ中に入っていきます。
戦争はアメリカに勝利をもたらしましたが、日系人にとって苦い勝利であり、戦後も続く厳しいアメリカ社会との戦いの通過点でもあったのだと思います。戦時下に苦悩する日系人の視点から描かれ、日本との戦争とは何だったのかを考えさせます。
(井上年弘)
核のキーワード図鑑
格差の拡大の究極こそ戦争 |
《2015年前期の主な取り組み》
「戦争をさせない」「脱原発」で行動
平和フォーラム・原水禁は、「戦争をさせない1000人委員会」「さようなら原発1000万人アクション」の運動を基本に、安倍政権の改憲議論に草の根から対抗する運動をめざします。2015年前期を中心に次のように当面する主な取り組みを予定してします。(諸事情で変更もあります)
1.「戦争をさせない1000人委員会」を基本とした取り組み
(1)新たな「戦争をさせない全国署名」の展開
(2)通常国会の開会日(1月26日予定)に、集団的自衛権行使容認反対集会(18:30~・国会議員会館前)
(3)5月3日の憲法記念日に、様々な団体・課題を結集した大集会開催
2.「さようなら原発1000万人アクション」を基本とした取り組み
(1)川内・高浜原発を再稼働させない!東京集会(1月24日18:00~・豊島公会堂)
(2)NONUKESDAY(3月8日・日比谷野外音楽堂)
(3)原発のない福島を!福島県民大集会(3月14日・福島市あずま総合体育館)
(4)フクシマを忘れない!さようなら原発大講演会(3月28日19:00~・新宿文化センター)
3.その他の主な取り組み
(1)核不拡散条約(NPT)再検討会議への行動(4月21日~29日・ニューヨーク他)
(2)「戦後70年─新しい東アジアへの一歩へ!市民連帯」の運動