6月, 2013 | 平和フォーラム
2013年06月30日
平和軍縮時評6月号 「核兵器のない世界」へ向けた一つのアプローチ:トライデント撤廃を描く、CND報告書 塚田晋一郎
「持てる者」と「持たざる者」
2009年4月、オバマ米大統領がプラハで「核兵器のない世界を目指す」との演説を行ってから、4年以上が経過した。今年6月19日、オバマ大統領はベルリンで行った演説において、戦略核兵器の配備数を1000発程度にまで削減できると表明した。
米ロ間の新START(戦略兵器削減条約)における削減目標である「1550発」から更に進んだ目標を掲げたことは、「前進」であることは間違いない。しかし、「核兵器のない世界」へ向けた道のりを考える時、この程度の「前進」では不十分であることは言うまでもない。
私たちの暮らす国際社会の現実は、残念ながら、「持てる者」と「持たざる者」に二分された世界であるといえるだろう。経済格差、情報格差、権力を持つ者とそうでない者の間に横たわる「命の格差」――。
「グローバリゼーション」が加速度的に波及することで、国際関係および各国内の様々な領域において、その格差は拡大の一途を辿っている。
そして安全保障の側面から平和の問題を考えるとき、その世界的な格差と支配の構造の頂にあるのものが、疑いもなく、核兵器の存在である。「持てる者」はその兵器を手にすることによって、国際社会における力を担保し、また「持たざる者」はその力を手に入れるために、核兵器の保有を追求している。
こうした世界の悪しき価値基準を変えるためには、核兵器を保有することの価値を相対的に下げていくことが重要であることは言うまでもない。そこに必要なのは、核兵器を持たない政策を採る方が、核兵器を持ち続けることよりも、「安全」であり、「安心」でき、延いては「国益に適う」という価値観が、最終的な政策決定者による判断において、一番高い位置に置かれることである。
「核兵器のない世界」へ向けた段階
そのためのいわば「環境整備」として、そして、オバマ大統領が「目指す」とする「核兵器のない世界」を現実的に描いていくためには、少なくとも米ロは保有核兵器の数を、それぞれ数百発まで削減することが必要となろう。その段階に到達して初めて、ほかの核兵器国(英国、フランス、中国)は、初めて「核兵器のない世界」へ向けた交渉のテーブルに着くことになると考えられるからだ。数100発を前提とする、「3ケタの議論」が、早期に開始されるよう、世界の市民は政策決定者における核兵器保有の価値を低減させていくための、あらゆる働きかけを試みなければならない。
また、約100発ずつを保有するインド、パキスタン、イスラエルの核兵器をどうするかを真摯に議論できる機会の到来は、その先になる。さらに、北朝鮮のように新たに保有へと動く国に対して、真の意味で向き合い、共に「核兵器のない世界」を目指すための交渉が可能になるのも、こうした取り組みがあってこそ、であろう。
昨今、国際社会ではようやく「核兵器の人道的影響」が、核軍縮の一つのキーワードとして登場してきた。今年3月、オスロでノルウェー政府主催による国際会議が開催され、来年2月中旬には、第2回会議がメキシコ政府主催によって開催される予定だ。
しかし、ヒロシマ・ナガサキの経験とその継承から、私たちは、たった1発の核兵器の使用がもたらす惨事を知ることができる。その影響は、時間・空間を選別することなく、何世代先にも渡って及び続ける。このことは、私たち日本の人々が思う以上に、世界では未だ共通認識となっておらず、伝え続けていくことが不可欠だ。そうした中、遅まきながらようやく国際社会で注目されてきた、核兵器の「非人道性」に焦点を当てたアプローチは、「核兵器のない世界」へ向けた取り組みとして、欠かすことはできない。
しかしもう一方で、核兵器を削減・撤廃することの政策的合理性を、各国の政策立案者が感じるようなアプローチも取り組まねばならないだろう。「核兵器をなくした方が得だ」という価値判断を、市民のみならず、保有国の政治家や官僚、経済界の人々が持つことが必要となるからだ。
核兵器の廃棄プロセスを描く
とはいえ、「核兵器廃絶」または、ある国における「核兵器撤廃」といっても、実際にそれがどのようなことを意味するのか、実際的にどのようなプロセスをもって実行されるのか、私たちは意外に知らないのではないだろうか。
「核兵器のない世界」は、核兵器に依存し続ける安全保障政策からの転換を図るという政策判断に加え、撤廃のための具体的な方法を描き、それを実行に移さなければ達成されない。そして、“「脱核兵器依存」の政策判断すらまだ遠く先の話であるのに、具体的な議論をしても仕方がない”ということはまったくない。たとえまだ先の将来であっても、「核兵器のない世界」を本気で目指すのであれば、核兵器を「いかになくすか」の具体的プロセスをできるだけ丁寧に描くことが肝要であり、それがあってはじめて、政策立案者たちの間における「核兵器の撤廃は可能だ」という価値観を創り出し、それを拡げていくことも可能となるのであろう。
英CNDの報告書
重要な取り組みの一つとして、英国のCND(核兵器撤廃運動)が作成した報告書を紹介したい。その前段として、この報告書が書かれた背景を記す。
2012年10月15日、英国・スコットランド両首相が合意し、2014年にスコットランドの英国からの独立を問う住民投票の実施が決まった(「平和軍縮時評」2012年12月号)。
スコットランドの政権を担う、スコットランド国民党(SNP)がかねてから独立最大の旗印として掲げているのが、「非核スコットランド」の実現である。
英国が唯一保有する核兵器であるトライデントミサイルおよび潜水艦は、スコットランド領内のクライド海軍基地(クールポートおよびファスレーン)を拠点としている。2014年の住民投票で、仮にスコットランドの英国からの独立が成立すれば、トライデントの現在の配備の在り方の再検討は不可避となる。
下記に訳出した報告書「トライデントを撤廃する:トライデント核兵器システムの退役と解体のための実践的ガイド」は、英国のCNDが、2012年9月に発表したものである。この報告書作成のための調査・研究は、スコットランドCNDのジョン・アインスリー氏が中心となって行われた。
報告書は、英国が保有する約225発の核弾頭すべてを、約4年間をかけて撤廃する工程を、8つの段階で示している。「序」や「結び」にあるとおり、本報告書の目的は、トライデント撤廃がいかに現実的な選択肢であるかを政策立案者たちに提言し、彼らを動かすことにある。
また報告書は、核軍縮(特に核弾頭の解体段階)の「検証」問題にも触れている。英国とノルウェーによる2007~2011年の研究(ピースデポ「核兵器・核実験モニター」第361号)について、「非核兵器国が、核軍縮の検証において重要な役割を担い得るという原則を打ち立てた」と報告書は述べている。
この報告書は、「非核スコットランド」の実現に向けて、どのような手段によって、またいかなる期間で実現するかをできるだけ具体的に、そして分かりやすく、市民に伝えることを目的としている。そして、スコットランドに配備された核兵器は、4年間の作業で撤廃が可能であるとした。「非核スコットランド」というターゲットが、「絵に描いた餅」に終わらぬよう、いかにそれが現実的であり、実現可能なのかを説こうとする真摯な姿勢に賛意を表したい。
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報告書
「トライデントを撤廃する:トライデント核兵器システムの退役と解体のための実践的ガイド 」(抜粋訳)
2012年9月、英CND(核兵器撤廃運動)
【序】
本報告書は、トライデントの撤廃が不可能な課題ではないことを解説し、そしてどのようにしてこのプロセスが達成可能かを、4年間におよぶ8つの具体的段階によって示したものである。(略)
トライデントおよびその更新にかかる支出への反対の声は増大している。2010年戦略防衛・安全保障見直しへの批判もまた強まっている。スコットランド独立問題は、2014年の独立住民投票の結果の如何に関わらず、英国の核兵器計画の未来への疑念を提起するものである。従って、今こそ、政策立案者たちは、実際的措置をもって、軍縮達成のための取り組みを始めるべき時である。
本報告書は、核軍縮を実現するための実際的措置を解説することを意図して作成された。
【核兵器撤廃への工程表】
<出発点>
トライデントは、英国海軍の4隻のバンガード級原子力潜水艦に搭載されている。うち1隻は、常時デボンポートにおいてオーバーホールされている。残る3隻が通常トライデントミサイルと核弾頭を装備しており、うち1隻はパトロール任務に就いている。本研究は、1隻はパトロール中、2隻目は試験航海、3隻目はファスレーンに停泊している状態を出発点とする。
<段階1 ― 潜水艦の作戦配備を終了する>
英国のトライデント潜水艦は、完全武装で約10週間にわたるパトロール任務に就いている。パトロール中の艦は、通常、「数日間」の警告時間で発射できる態勢にある。(略)
最初の措置は、現在の継続的なパトロールを終結させ、トライデント潜水艦の作戦配備を全面的に中止することである。原子力潜水艦は、20ノット以上の速度での長距離航行が可能である。したがって、パトロール中の潜水艦は、約7日の内に、ファスレーンに帰港することが可能である。
<段階2 ― 鍵とトリガーを撤去する>
トライデントミサイルを発射するためには、艦長が鍵を回し、兵器技術者がトリガーを引く。鍵とトリガーは安全のために潜水艦内の離れた場所に置かれている。撤廃のための最初の措置は、鍵とトリガーを特定し、すべての潜水艦から取り外し、陸上の保安施設に保管することである。(略)
<段階3 ― ミサイルを不活性化する>
(略)2010年戦略防衛・安全保障見直しによると、各バンガード級潜水艦は、8基のトライデントミサイルを搭載している。1基のミサイルから発射に必要な誘導システムと飛行制御システムを取り除くのに要する時間は約90分である。8基のミサイルはおそらく1日で不活性化できるであろう。(略)
<段階4 ― 潜水艦から核弾頭を撤去する>
(略)40発すべての弾頭を1隻の潜水艦から撤去するのには、7日から10日を要するだろう。理論的には、1か月以内に、3隻の武装潜水艦から120発の弾頭を撤去することが可能であるが、実際には、これより長期間を要するかもしれない。(略)
<段階5 ― 潜水艦からミサイルを撤去する>
(略)潜水艦は、現在、各8基のミサイルを搭載している。(略)1隻の潜水艦からミサイルを撤去するのに、約1週間かかる。(略)
<段階6 ― 核弾頭を無能力化し、有寿命コンポーネントを撤去する>
トライデント弾頭には、以下の3つの有寿命コンポーネント(LLCs)が含まれている:装甲、信管起爆装置、ガス注入装置および中性子発生装置。これらの部品は、クールポートの再突入体加工施設(RBPB)で定期的に交換されている。これらのLLCsの撤去により、弾頭は無能力化される。(略)
潜水艦に配備されている120発の「作戦使用可能な」弾頭に加えて、さらに約100発の弾頭が、クールポートにある。米国の慣行と同じだとすれば、これらの予備弾頭は、LLCsを備えていないだろう。
クールポートにおいてすべての備蓄弾頭からLLCsを撤去するためには、約1年を要するだろう。
LLCsは弾頭そのものよりも危険性が低く運搬が容易なため、より短期間で撤去、廃棄が可能かもしれない。
<段階7 ― 核弾頭をクライド海軍基地(HMNB)から撤去する>
クライドから核弾頭を物理的に撤去することは、明確で重要な措置となる。
(略)クールポートからバーグフィールド核兵器施設(AWE。訳注:イングランド南部に所在)へのすべての備蓄弾頭の移送には、2年ほど要するであろう。
<段階8 ― 核弾頭を解体する>
英国において唯一、核弾頭(通常爆薬との複合体を含む)を解体できる場所は、バーグフィールドAWEである。そこには現在、4つの組み立て/解体区画が存在している。(略)
バーグフィールドにおけるトライデント弾頭の解体は、以下の段階を含むものとなるだろう:
1.解体のための区画の準備/2.弾頭の点検/3.再突入体カバーの除去/4.起爆ケーブルの切断
5.点火装置および中性子発生装置の撤去(クールポートで撤去されていない場合)
6.切開および放射線遮蔽体の撤去/7.第1ステージの取り外し/8.第2ステージの取り外し
9.高性能爆薬撤去の準備(第1ステージ)/10.高性能爆薬の撤去(第1ステージ)
11.プルトニウムピットの回収(第1ステージ)/12.第2ステージの解体
(略)WE-177およびシェバリーン弾頭(訳注:これらはトライデント以前に配備されていた)は、1998年および2002年までにそれぞれ解体された。これらの兵器は、年間約20-40発ずつ解体されたことになる。(略)もし、(バーグフィールドの)4つの区画がこれ以上の効率で作業を行えば、おそらく、年間50-60発の弾頭を解体できるであろう。これに基けば、現在の備蓄数225発以下の弾頭は、約4年間で解体できることになる。(略)
【追加的措置】
2つの措置が追加してとられるであろう:
- トライデントミサイルの米国への返却(略)
- バンガード級潜水艦の解体(略)
【検証】(略)
【安全保障、健康と安全】(略)
【結び】
核軍縮は、大多数の英国の政治家によってあり得ない未来として疑われ、放置、忌避されてきた。しかし、戦略的状況の変化に従い、ウエストミンスター(英国議会)の外では民衆による反対が拡大、高揚しており、人々の意思が、最終的には英国の核兵器保有の再考に進みうることを示している。(略)
本報告書は、核軍備撤廃を、核兵器の英国の安全保障上の必要性と核兵器のない将来の実現性を再考する意思を持つ政治家にとって、理に適った、現実的な目標とするためのプロセスへの貢献の一つとして作成された。
(訳:ピースデポ。強調は訳者。)
2013年06月25日
高橋哲哉さん、三宅晶子さん講師に憲法問題連続学習集会第3回開く
2012年12月総選挙は、改憲を掲げる安倍晋三総裁の自民党が294議席、石原慎太郎代表の日本維新の会が54議席をとり、合計で衆議院の3分の2議席を大きく超える結果となりました。7月の参院選で彼らの議席を増大させてしまえば改憲が政治日程に登場することは間違いなく、すでに改憲発議を3分の2から過半数に引き下げる憲法96条改定に、安倍首相は積極姿勢を見せ、「維新」やみんなの党と連携した動きもすすめられています。平和フォーラムは、自民党などの改憲論や衆参憲法審査会の動向に対するとりくみの一環として、毎月1回ペースで著名人の方が憲法に対する思いと考えを語るとともに、憲法学者が改憲論の問題点を指摘する連続学習集会を4月から開始しました。
その第3回目の学習集会が、6月25日、東京・連合会館で120人の参加者のもと、東京大学教授の高橋哲哉さんの「改憲論と日本の思想状況」、千葉大学教授の三宅晶子さんの「教育と改憲論」の2つの講演が行われました。
このうち、高橋さんは、安倍首相の改憲論について「もっとも基本的なレベルで自己矛盾を起こしている」と強調。「戦後レジームからの脱却」と称して戦後の歴史の全否定を叫ぶ一方、戦後憲法の下で形成された自由民主主義体制を守ると主張していることについて「戦後の評価をご都合主義的に使い分けている。ポピュリズムと言っていい」と述べ、首相の考えは歴史認識や歴史観と呼べるようなものではないとしました。また、首相が靖国参拝を正当化するため、米アーリントン墓地で南北戦争の南軍側の死者に弔意を表したとしても奴隷制を肯定するわけではないとの論を展開していることに対し、高橋さんは、靖国神社は過去の侵略戦争を正当化する特定の歴史観にコミットしており、両者を同列視することはできないと批判しました。
三宅さんは冒頭、高橋さんの問題提起を引き継ぎ、歴史教科書の記述を主なターゲットとして進められている教育反動化政策は「国民としての集合的記憶」の書き換えをもくろんでいると強調。さらに、日本は世界的に見て教育支出に占める私費負担が突出して高い一方、一人親世帯の貧困率も50%を上回り、OECD(経済協力開発機構)諸国中ワースト2位となっているとして、「教育が格差の拡大再生産の場となっている。これはそのまま労働の問題となっていく」と指摘。「この状況を道徳でどうやって解消するのか。まったく意味がない」と道徳教育強化論への疑問を明らかにしました。その上で、道徳教育とは周囲の状況が求めているものを察し、肯定して内面化するだけでなく、態度に表すことを要求し、これを評価の対象にするものだとして、第1次安倍政権時の2006年に改悪された新教育基本法が「教育の目標」として「わが国と郷土を愛する」などの「態度を養うこと」を強調していることの意味は、道徳教育の中で具体化されてくると指摘しました。
2013年06月20日
新規制基準決定に対する共同声明
2013年06月20日
日朝国交正常化連絡会総会・記念講演会開く
日本と東北アジアの平和構築にあたって、世界で唯一、日本が国交を持たない朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との国交正常化と核開発問題の解決は最重要課題です。日朝国交正常化連絡会は、政府・与党への働きかけをはじめ、全国各地の組織も、集会や学習会、訪朝交流などをとりくんできました。
しかし、第1次安倍内閣の打ち出した「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし」の方針に拘束されたまま、政権交代してもまともな交渉も行わず制裁を強めるばかり。安倍内閣が再び登場して関係はさらに悪化し在日朝鮮人の人権侵害は極度に達しています。朝鮮半島の平和を確実なものにするためにも、多くの人たちと手を携えて、日朝国交正常化を求めるとりくみを全国各地ですすめていくことが重要です。
そのため、6月20日、日朝国交正常化連絡会は連合会館で全国総会を開催するとともに、記念講演会を行い、約100人が参加しました。全国総会では、議事に先立ち黙祷を行ないました。1月に逝去された清水澄子共同代表、そして連絡会に継続的に協力していただいた前参議院議員で4月に急逝された今野東衆議院議員に弔意を表しました。総会では中村元気共同代表(福岡県日朝友好協会)の開会のあいさつに続き、福山真劫共同代表(平和フォーラム共同代表)を議長として、議事に入りました。まず、石坂浩一共同代表兼事務局長(立教大学准教授)が「活動報告と運動方針提起案」をもとに、この間の朝鮮半島情勢、1年間の運動のまとめと今後の方向、具体的取組について提起を行ないました。これを受けて、長野、北海道、岩手、新潟、神奈川、静岡、大阪、福岡の参加者からの1年間の活動報告と今後の活動への表明が行なわれました。昨年9月、平壌宣言10周年に際し日朝交渉再開を求める要請を集会で決議し10月に野田首相(当時)に伝達したとりくみのほか、朝鮮学校に対する差別是正問題にも取り組んできたこと。また、朝鮮学校支援のための募金活動(長野)、補助金予算の復活を求める署名運動(神奈川)、日朝友好フェスティバル支援(新潟)などの積極的な活動が紹介されました。福岡からは、今後朝鮮学校に対する無償化措置適用除外をめぐる裁判が始まるので、それに対する支援も積極的に行なうべきだとの意見が提起され、提起に具体的に盛り込まれていなかったので、今後の共通課題として確認しました。民主党政権が日朝問題を前進させることができなかった後を受けて、安倍政権は憲法や歴史認識をはじめ危険な方向へと進もうとしていますが、こうした動きと闘う中で、あらゆる核に反対し日朝国交正常化を前進させていくことをともに確認しました。また、6.15共同宣言実践日本地域委員会が展開している「朝米平和協定締結と北南共同宣言履行のための宣言運動」についての説明も行われました。
つづく、記念講演会ではまず主催者を代表し、伊藤晃二共同代表(日朝長野県民会議会長)があいさつ。日朝両国が国交を正常化することが何よりも大切であり、そのために訪朝団をはじめ民間レベルでの交流を推し進めるとともに、日本の中で世論を形成していくことが必要だと訴えました。そののち、琉球大学の高嶋伸欣名誉教授が「歴史認識とヘイトスピーチ」と題して、日本で昨今問題となっている在日朝鮮人に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)について、東京大学の和田春樹名誉教授(連絡会顧問)が「朝鮮半島情勢と私たちの課題」と題して、日朝関係改善のための課題について、それぞれ講演。また連絡会の石坂浩一共同代表兼事務局長(立教大学准教授)が、連絡会の今後の取り組みについて話しました。
高嶋名誉教授は、在特会に象徴される排外主義的な動きのこれまでにない公然化、ヘイトスピーチに見られる論理矛盾と破たん、ヘイトスピーチの台頭を許してしまう結果を招いた日本のマスコミの問題点などを指摘。新大久保などで休日の白昼に行われているヘイトスピーチデモについて、表現の自由などではないれっきとした脅迫行為だと断じたうえで、「大半の参加者は冷静な判断のもとに行っているわけではない」とし、その根本には「社会の閉塞感に対する若者たちの苛立ち」があり、社会での存在感を得ようとする若者たちのエネルギーの受け皿を作ることが必要だと話しました。また政治家たちが日本軍性奴隷問題などについて「日本の一部でしか通じない歴史認識」(高嶋教授)を振りかざしていることに警鐘を鳴らしながら、植民地下で行われた犯罪が「非人道的な罪」なのだという本質についてマスメディアがしっかりと語っていないと非難。高嶋教授は、歪んだ歴史認識とヘイトスピーチは対を成すものであり、解決の筋道をつけるためにも「歴史の事実を知ること」がもっとも大切であり、日本で歴史教育がしっかりと行われなければならないと話しました。
和田名誉教授は、2002年の日朝平壌宣言にもかかわらず日朝関係の前進を押しとどめてきたのは第1次安倍内閣(2006年)の対北朝鮮圧迫政策にほかならず、以降、民主党を経て再度自民党が政権与党となり、第2次安倍内閣が誕生したが、朝鮮に対する圧力を優先する政策は変化していないと指摘。朝鮮との交渉再開のためには、安倍政権が拉致問題解決の3つのポイント(全員帰国、真相究明、実行者引渡)を見直さない限り前進はない、日本社会に対朝鮮政策の転換を促すために、世論を変えていくことが重要だと力説しました。
石坂共同代表は日朝国交正常化連絡会の今後の具体的な取り組みについて、1.日朝平壌宣言発表日(9月17日)を前後して国交正常化を求める集会の開催、2.日本政府に植民地支配への反省と謝罪の態度表明を要求、3.「高校無償化」制度適用をはじめとした朝鮮学校への差別是正などを求めていくと話しました。
最後に、東北アジアの平和を実現するために、安倍政権が圧力を基本とした対朝鮮政策を見直し、日朝国交正常化のための交渉を再開すよう求めるアピールが、拍手のもと採択され、日程を終了しました。
2013年06月20日
日朝国交正常化連絡会全国総会・記念講演会集会アピール-東北アジアの非核化と日朝国交正常化をあらためて訴えます
2012年は日朝平壌宣言10周年の年であり、また朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)にとっては、故金日成主席生誕100周年の年でもありました。しかし、北朝鮮をめぐる情勢は改善されず、2013年2月12日には北朝鮮が第3回核実験を行なうに至りました。さらに、3月から4月にかけて行われた米韓合同軍事演習を通じ、朝鮮半島の緊張は非常に高まりました。
私たちはすべての国の核に反対する立場から、北朝鮮の核実験に抗議するとともに、それに対して制裁や圧力を要求するのではなく、対話による解決を求めると同時に、東北アジアの緊張関係を解くための市民の連帯を模索したいと思います。
4月以降、状況は転換の兆しを見せており、崔竜海朝鮮人民軍総政治局長の訪中、まだ対話に入れていないものの南北対話に向けた協議、北朝鮮の対米提案など、前向きな動きが続いています。
私たちは2002年の日朝平壌宣言の精神に立ち返り、東北アジアの平和を実現するために日朝国交正常化をあらためてめざしていきたいと思います。同時に、日本の安倍政権に対し、圧迫を基本とした対北朝鮮政策を見直し、また憲法を変えたり過去の戦争に対する謝罪や反省を覆すような姿勢をとったりすることで周辺国の不信を高めるような政策をあらためて、日朝間の懸案を着実に解決するため日朝交渉を再開するよう求めます。
- 制裁一辺倒の対北朝鮮政策を見直し、信頼と友好を基本に日朝国交正常化をめざすよう日本政府に要求していきましょう。そのために、まずは2002年の日朝平壌宣言の精神に立ち戻ることを求め、9月17日を前後して日朝国交正常化をめざす集会を行なうことを呼びかけます。同時に、政府や与野党に日朝交渉早期再開を働きかけていきましょう。
- 核のない東北アジアを作るために、非核化の重要性を訴えていきましょう。また、北朝鮮の核保有に反対しつつ、核保有を生み出すに至った朝鮮半島、東北アジアの緊張を緩和するために、各国の市民と協力し、これからなすべき行動について意見交換をしつつ、平和と信頼への世論を盛り上げていきましょう。
- 日朝国交正常化の基本姿勢を確認するためにも、植民地支配に対する日本の反省と謝罪を表明する日本政府の南北朝鮮に対する態度表明を要求していきましょう。国会決議や首相談話、南北朝鮮との共同宣言など、信頼構築のための道筋や方法について問題提起をしつつ、国際的協力を通じて議論を広げていきましょう。
- 朝鮮残留日本人の遺骨収集、追悼事業支援とともに、在朝被爆者、日本軍「慰安婦」、戦時強制連行被害者に対する日本政府の支援や個別的補償がなされるよう、日本政府に働きかけていきましょう。
- メディアの北朝鮮報道は、今日に至るまで公正なものではありません。北朝鮮へのバッシングを批判し、メディアが建設的な報道や問題提起をするよう、働きかけていきましょう。
- 日本政府が朝鮮学校への無償化を適用するとともに、在日朝鮮人を敵視し差別する態度を改め、地方自治体も朝鮮学校への支援削減や打ち切りを撤回し、日本社会が国際的規範にのっとり在日朝鮮人の基本権尊重をはかるよう、訴えていきましょう。
2013年06月18日
高市早苗自民党政調会長の発言に対する抗議声明
2013年06月12日
日本原燃による六ヶ所再処理工場運転開始計画及びフランスからのMOX燃料輸送計画についての申し入れ 2
2013年06月02日
ビデオ報告 2013.6.2「つながろうフクシマ!さようなら原発集会」・パレード・国会包囲行動
2013年06月01日
政治家の妄言とヘイトスピーチ
安倍晋三首相、自民党の高市早苗政調会長、そして橋下徹日本維新の会共同代表、政治家の妄言が続いている。この人たちは、過去の侵略戦争と植民地支配の加害を否定し、日本の行為を正当化しようとすることでその思想を共有している。だからこそ、表現の違いはあるにせよ「従軍慰安婦」とされた女性たちの心を土足で踏みにじる。今の日本の政治家には、基本的人権を本当の意味で理解している者はいないのか。靖国への参拝を見ていると、政治家の右傾化は目を覆うものがある。
沖縄の猛反対を押し切って、国民不在の「主権回復の日」の祝典を安倍首相は強行した。「天皇陛下万歳」の合唱が何度も何度もテレビで流れた。横に立っていた天皇の顔を見ながら、震撼とした思いが全身を駆け巡った。この国はどこに向かおうとしているのか。
戦時中、父である昭和天皇を見てきた今の天皇に、この光景がどう映ったのだろうか。戦争犯罪を問われた者の合祀が行われて以降、靖国参拝を拒絶した父の昭和天皇はどう見るだろうか。政治的発言をしない天皇でさえ、日の丸・君が代では強制にならないようにと発言している。その言葉の一つに、天皇の思いを感じるのは私だけではないだろう。
東京の新大久保駅周辺で、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などの団体が「朝鮮人を殺せ」などと連呼するヘイトスピーチ(憎悪表現)を繰り返している。参議院法務委員会で、谷垣禎一法相は「憂慮に堪えない。品格ある国家という方向に真っ向から反する」と語った。その通りであるが、しかし、前述の安倍首相などの発言は、品格ある国家の政治家の発言と言えるものだろうか。理解できない。もし谷垣法相がそう考えるなら勇気を持って閣内で安倍首相発言を批判しなくてはならない。
政治家の妄言が、日本の右傾化を増長させている。日本の厳しい社会、特に若者が置かれている状況を理解はできるが、少数の弱者を痛めつけることで自らを慰撫してはならない。政治家にも、国民にも、それぞれの立場を理解する想像力が欲しい。